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装飾用街路灯デザイン図事件: 大阪地裁平成11(ワ)2377号.平成12年6月6日判決(棄却)

〔キーワード〕 
美術の著作物、デザイン図、設計図、複製権、翻案権、不法行為

 

〔判示・認定事項〕 

〈著作権侵害の有無について〉
  1. 本件デザイン図そのものは、全体としては本件街路灯を街路に配置した完成予想図であり、構図や色彩等の絵画的な表現形式の点において、「思想又は感情を創作的に表現したもの」と評価することができ、「美術の範囲に属するもの」というべきであるから、美術の著作物に当たるものと認められる。そして、本件デザイン図自体の著作物性を右のように把握する場合には、その複製又は翻案とは、その絵画的な表現形式での創作性を有形的に再製することを意味することになる。
  2. 本件設計図は本件街路灯についての技術的な設計図にすぎず、これが本件デザイン図の絵画的な表現形式の創作性を有形的に再製したものとはおよそ認められない。したがって、被告による本件設計図の作成が本件デザイン図の複製権又は翻案権を侵害するものとはいえない。
    また、本件街路灯を製作、設置する行為は、本件デザイン図の絵画的な表現形式の創作性を有形的に再製する行為とはおよそいえないから、右行為が本件デザイン図の複製権又は翻案権を侵害するともいえない。
  3. 「物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起させるもの」は「意匠」として、意匠法による保護の対象とされており(意匠法2条1項)、美術の著作物と意匠とは、視覚による美感にかかわるものである点で共通している。
  4. 意匠法の保護の対象となるものを広く著作権法でも保護の対象とする場合には、意匠法が産業政策的観点から登録主義を採用し、特有の権利保護期間を設定したことを空洞化することにつながるから、両者の保護対象について何らかの調整が必要となる。
  5. ある創作的表現が、実用品の産業上の利用を離れ、独立して美的鑑賞の対象となり得るといえるためには、少なくとも、実用目的のために美の表現において実質的制約を受けたものであってはならないと解される。
    しかるところ、本件デザイン図の街路灯のデザインは、街路灯のデザインという実用目的のために美の表現において実質的制約を受けたものであると認められる。
  6. 本件デザイン図に描かれた街路灯のデザインは、実用品の産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となり得るものとはいえず、著作物であるとはいえない。著作物性の有無を判断するに当たっては、その表現を創作する過程の努力は必ずしも重視されるべきではない。

〈不法行為について〉

  1. 本件工事は、被告が発注者となる公共事業として行われたものであるから、発注者たる被告は、入札又は随意契約の方法によって、工事請負業者を適宜選定することができるのであり、本件工事を原告に請け負わせることを被告に義務づける特段の事情のない限り、被告が原告以外の業者に本件工事を請け負わせたからといって、原告の利益を違法に侵害したとはいえない。
  2. 原告と被告との間に生じた事情から、被告において、本件工事の施工業者として原告が当然に選定されるとの合理的な期待を原告に抱かせて、それゆえに原告においてそのための準備行為をなさしめたような場合には、そのような期待を裏切る被告の行為について違法と評価される場合もあり得ると考えられる。しかし、前記認定事実によれば、本件においては、原告は本件工事を受注することを希望し、町会連合会もそれを強く希望して被告に要望をしていたものの、被告において右要望に肯定的な態度を示すことはなく、かえって本件工事は指名競争入札になるので、指名資格がないと受注はできない旨を告げいていたのであるから、原告の抱いた期待は一方的なものにすぎなかったというべきである。

  3. 具体的な事情いかんによっては他人が作成したデザインを利用する行為が違法と評価される場合もあり得るが、本件で被告は、自己が行う本件街路灯の設置に当たって、地元民である町会連合会から寄せられた要望を尊重して最終的なデザインを作成したものであって、原告は町会連合会からデザイン作成を依頼されたにすぎないものであるから、このようにして被告が町会連合会から要望されたデザイン案に基づいて本件街路灯を設計し、指名競争入札に基づいて原告以外の業者に工事を請け負わせた行為は、原告が作成した本件デザイン図中の街路灯のデザインを不当に利用した違法な行為ということはできない。

 

〔事  実〕

 

1. 原告(S電器近畿販売株式会社)は、照明器具の卸販売、電器工事等を目的とする会社である。被告(大阪市)は建設局が主管となり、平成9年12月19日以降、大阪市浪速区恵美須町の「公園本通商店街」等(通称「新世界」界隈)において、装飾街路灯(以下、「本件街路灯」という。)の設置工事(以下、「本件工事」という。)を実施した。
2. 原告は、新世界町会連合会(以下「町会連合会」という。)から、公園本通商店街に設置されていた街路灯を新しいデザインに一新したい旨の依頼を受け、平成5年ないし6年ころ、別紙添付の装飾街路灯のデザイン図(甲1。以下「本件デザイン図」という。なお、別紙はサイズを縮小したものである。)を、ヨシノデザイン設計事務所に依頼して作成した。
3. 町会連合会は、被告に対し、被告が本件工事を実施するに当たり、新たに設置する街路灯のデザインを本件デザイン図のものとするよう要望し、併せてデザイン図の作成者である原告に本件工事を請け負わせるよう要望した。
4. 被告は、本件工事を実施するに当たって設計図(乙4。以下「本件設計図」という。)を作成し、平成9年11月28日に指名競争入札を行い、落札者である摂津電機工業株式会社との間で工事請負契約を締結して本件工事を行わせた。
〔争点〕
1. 著作権侵害について
(一) 本件デザイン図は著作物か。
(二) 原告は本件デザイン図の著作権者か。
(三) 被告による本件設計図の作成及び本件街路灯の製作、設置が、原告の本件デザイン図に関する複製権又は翻案権を侵害する行為か。
2. 不法行為について
被告の行為は、原告の法的利益を侵害する違法な行為か。
3. 被告の故意又は過失の有無
4. 損害及び因果関係
〔判  断〕
一被告による著作権侵害の有無について(争点1(一)(三))
1本件デザイン図全体の著作物性及び被告による複製権等侵害性について
本件デザイン図は別紙添付図面のとおりのものであるところ、本件デザイン図そのものは、全体としては本件街路灯を街路に配置した完成予想図であり、構図や色彩等の絵画的な表現形式の点において、「思想又は感情を創作的に表現したもの」と評価することができ、「美術の範囲に属するもの」というべきであるから、美術の著作物に当たるものと認められる。そして、本件デザイン図自体の著作物性を右のように把握する場合には、その複製又は翻案とは、その絵画的な表現形式での創作性を有形的に再製することを意味することになる。
この観点から、まず本件設計図が本件デザイン図を複製又は翻案したものであるかを検討すると、本件設計図は本件街路灯についての技術的な設計図にすぎず、これが本件デザイン図の絵画的な表現形式の創作性を有形的に再製したものとはおよそ認められない。したがって、被告による本件設計図の作成が本件デザイン図の複製権又は翻案権を侵害するものとはいえない。
また、本件街路灯を製作、設置する行為は、本件デザイン図の絵画的な表現形式の創作性を有形的に再製する行為とはおよそいえないから、右行為が本件デザイン図の複製権又は翻案権を侵害するともいえない。
2本件デザイン図中の街路灯のデザイン部分の著作物性及び被告による複製権等侵害性について次に、本件デザイン図に描かれている街路灯のデザイン(図案)が、美術の著作物として著作物性を有するかを検討する(当事者の主張も、主として、本件デザイン図に表現された街路灯のデザインについて著作物性の有無を論じているものと解される。)。著作権法は、著作物の定義として、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(著作権法2条1項1号)としているが、美術の著作物については、「絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物」を掲げる(10条1項4号)とともに、「『美術の著作物』には、美術工芸品を含むものとする。」と規定する(同条2項)にとどまり、「美術の著作物」がどの範囲のものを含むのか、街路灯のような実用品に関するデザインがこれに含まれるのかについては具体的に明らかにするところがない。
ところで、「物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起させるもの」は「意匠」として、意匠法による保護の対象とされており(意匠法2条1項)、美術の著作物と意匠とは、視覚による美感にかかわるものである点で共通している。しかし、意匠として保護されるためには、出願、審査を経た上で登録を受ける必要があり(意匠法6条、16条、20 条1項)、権利保護期間も設定の登録の日から15年とされている(同法21条)のに対し、著作権法による保護を受けるためには、特段の審査や登録を要せず、また権利保護期間も原則として著作者の死後50年間の長期に及ぶ(著作権法51条)という大きな相違がある。そして、このような相違は、意匠法が、「意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もって産業の発達に寄与すること」を目的とし(意匠法1条)、そのために工業上利用することができる意匠であることを要求する(同法3条1項)というように、専ら工業製品について産業の発達に寄与するという観点から制度が組み立てられているのに対し、著作権法は、「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作権者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与すること」を目的とする(著作権法1条)というように、専ら文化的所産について文化の発展に寄与するという観点から制度が組立てられているという差異に基づくものと解される。したがって、意匠法の保護の対象となるものを広く著作権法でも保護の対象とする場合には、意匠法が産業政策的観点から登録主義を採用し、特有の権利保護期間を設定したことを空洞化することにつながるから、両者の保護対象について何らかの調整が必要となる。
そこでこの点について、現行の著作権法の制定経過をみると、著作権制度審議会が、昭和41年4月20日、文部大臣に提出した著作権改正に関する答申では次のように述べられている。「1応用美術について、著作権法による保護を図るとともに現行の意匠法等工業所有権制度との調整措置を積極的に講ずる方法としては、次のように措置することが適当と考えられる。
(一) 保護の対象
 1.実用品自体である作品については美術工芸品に限定する。
 2.図案その他量産品のひな型または実用品の模様として用いられることを目的とするものについては、それ自体が美術の著作物であり得るものを対象とする。
(二) 意匠法、商標法との間の調整措置
 図案等の産業上の利用を目的として創作された美術の著作物は、いったんそれが権利者によりまたは権利者の許諾を得て産業上利用されたときは、それ以後の産業上の利用の関係は、もっぱら意匠法等によって規制されるものとする。
 2上記の調整措置を円滑に講ずることが困難な場合には、今回の著作権制度の改正においては以下によることとし、著作権制度および工業所有権制度を通じての図案等のより効果的な保護の措置を、将来の課題として考究すべきものと考える。
(一) 美術工芸品を保護することを明らかにする。
(二) 図案その他量産品のひな型または実用品の模様として用いられることを目的とするものについては、著作権法においては特段の措置は講ぜず、原則として意匠法等工業所有権制度による保護に委ねるものとする。ただし、それが純粋美術としての性質をも有するものであるときは、美術の著作物として取り扱われるものとする。
(三) ポスター等として作成され、またはポスター等に利用された絵画、写真等については、著作物あるいは著作物の複製として取り扱うこととする。」
 右答申のうち、1は第一次案、2は第二次案であるが、現行著作権法は、第一次案を採用せず、第二次案に基づいて立法されたものと解されている。そうすると、実用に供する物品に応用することを目的とする美術(いわゆる応用美術)について、広く一般に美術の著作物として著作権の保護を与える解釈をとることは相当ではないが、実用品に関する創作的表現であっても、客観的に見て純粋美術(専ら鑑賞を目的とする美術)としての性質も有すると評価し得るもの、すなわち、実用品の産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となり得るものについては、美術の著作物として、著作権の保護を与えるのが相当であり、著作権法が美術工芸品を美術の著作物に含める旨を規定したのも、この趣旨に出るものであると解される。
 そして、ある創作的表現が、実用品の産業上の利用を離れ、独立して美的鑑賞の対象となり得るといえるためには、少なくとも、実用目的のために美の表現において実質的制約を受けたものであってはならないと解される。
 しかるところ、本件デザイン図に描かれた街路灯は、それが実用品のデザインであることはいうまでもなく、しかもそれは、実際に新世界界隈に設置する街路灯のデザインとして、専ら街路灯という物品の性質を考慮した上で、その産業上の利用目的にふさわしいものとして作成されたものであることは原告の主張からしても明らかなものである。そして、原告代表者の供述によれば、本件デザイン図に描かれた街路灯のデザインは、実際に街路灯の製造を行うS電器産業株式会社が揃えている灯具やアームの規格品のデザインを適宜選択して組み合わせて作成されたものであることが認められるのであるから、本件デザイン図の街路灯のデザインは、街路灯のデザインという実用目的のために美の表現において実質的制約を受けたものであると認められる。
 また、確かに本件デザイン図に描かれた街路灯のデザインは、従前新世界界隈に設置されていたものとは異なり、レトロなデザインとしてまとまりのある美感を有するものであるが、レトロなデザインの装飾街路灯という点では、各社から種々のデザインのものが多数販売され、意匠登録を受けているものもあり(いずれも、原告の関連会社であるS電器産業株式会社が意匠権者である。)、実際に大阪市やその近郊では随所に同様の創作街路灯が設置されているのであって、街路灯においてレトロなデザインというのは、一つの確立した産業デザインの類型であるということができる。それにもかかわらず、本件デザイン図に描かれた街路灯のデザインが、産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となり得るためには、他の同種の街路灯のデザインとは、その美的表象の点で、隔絶しているといえる程度に質的に異なるものでなければならないと解される。しかしながら、本件デザイン図に描かれた街路灯のデザインの美的表象は、同種の街路灯のデザインと対比しても、美的鑑賞性の点で大きな差はなく、これらの街路灯と同じく、産業デザインの一種としてとらえるのが相当であって、他の装飾街路灯のデザインと隔絶しているといえる程度に質的に異なると見ることはできない。
 以上のことからすると、本件デザイン図に描かれた街路灯のデザインは、実用品の産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となり得るものとはいえず、著作物であるとはいえない。
 この点について原告は、本件デザイン図は町会連合会との長期にわたる協議を経て、新世界界隈のシンボルとして人々の美的感覚に訴えるデザインとして原告によって創作されたもので、著作物性を有すると主張するが、著作物性の有無を判断するに当たっては、その表現を創作する過程の努力は必ずしも重視されるべきではないから、原告の主張は採用できない。
 3したがって、著作権侵害に関する原告の主張は、その余の点について検討するまでもなく理由がない。

二不法行為に基づく請求について(争点2)
1事実経過
証拠によれば、次の事実が認められる。
(一) 本件で問題となった公園本通商店街界隈には、原告が昭和53年ころに街路灯の設置を担当し、以後その保守、点検及び補修等を行ってきたが、平成元年ころ、町会連合会では、商店街の活性化のために装飾街路灯を改修し、新たなデザインのものを設置することの検討を始めた。
(二) 町会連合会では、平成3年ころから、原告も交えて新たな街路灯のデザインを検討していたが、平成4、5年ころになって、被告の補助金を利用して設置工事を行うことができそうだということになり、正式に原告に新たな街路灯のデザインを依頼した。町会連合会が新たな街路灯のデザインを原告に依頼したのは、原告が従前の街路灯の設置を担当し、その保守、点検等に細かく対応していたことから、町会連合会が希望したことによるものであった。
(三) 原告は右依頼に応じて、平成5年ころにヨシノデザイン設計事務所に依頼して本件デザイン画を作成し、その後も異なるデザインを作成した上で、シミュレーション画を作成するなどして町会連合会と打ち合わせを重ねたが、結局、町会連合会では平成6年ころに本件デザイン図の案に決定し、同年6月15日に原告から見積書が提出された。
(四) 他方被告では、平成5年2月ころに町会連合会から本件街路灯の設置の要望を受けた後、本件街路灯の設置工事を被告の公共事業として行う方向で検討を進めいていたところ、平成6年3月ころ、町会連合会会長のY(以下「Y」という。)から本件街路灯のデザイン案として本件デザイン図の提出がなされた(なお、時期は定かでないが、見積書も被告に渡された。)。
これに対し、被告では、本件街路灯の設置工事を被告の公共事業として行う方向を固めていたことから、実際に設置する街路灯のデザインは、町会連合会の要望をなるべく取り入れつつも、被告が行う公共事業の規格に合致するデザインとする必要があった。そこで被告の技術試験所において本件デザイン図の検討を行ったところ、被告の規格ではグローブはガラス製でなければならないが、本件デザイン図のような複雑な曲線のグローブをガラス製にしようとすると制作費が高額になることから、本件デザイン図そのままの街路灯を設置することはできないということになり、被告において新たに本件街路灯の設計図
及びデザイン図を作成した。
(五) この後、町会連合会と被告の間では、街路灯のデザイン、地元の負担金や街路灯の設置基数等について何度も話し合いがもたれ、これに原告代表者が出席することもあり、矢本からは被告担当者に対し、本件街路灯の設置工事を原告にやらせて欲しいとの申入れを行っていたが、被告担当者は、本件工事を公共事業として行う以上、指名業者による入札によることになるとして、肯定的な回答をしなかった(なお、本件街路灯のデザインについて、原告と被告担当者とが直接に協議を行ったことを認めるに足りる証拠はない。)。
(六) こうして何度も協議がもたれた後、平成8年7月21日に被告による地元説明会が開催され、これには地元住民、被告担当者のほかに原告も出席したが、ここで被告は、周辺整備計画全体についての説明を行うとともに、本件街路灯の設置工事についても被告が作成したデザイン図に基づいて説明を行った。
(七) その後も被告と町会連合会との間では協議がもたれ、その間、原告代表者及びYも被告担当者に対し、本件工事を原告で請け負わせて欲しい旨の申入れをしていたが、被告担当者からは指名競争入札によるため指名資格のない原告が受注することはできない旨の返答がなされた。そのため、原告代表者は、被告担当者に対し、別の指名業者(旭隆電機工業)を使って入札に参加する方法を要望し、町会連合会の役員もその方法を希望したが、確答はなかった。また、町会連合会では、原告代表者に対し、随意契約による方法も提案していた。
(八) そして、平成9年9月2日に街路灯の設置位置について現場立ち会いが行われ、そこでも町会連合会から街路灯のデザインをもっとレトロなものに修正して欲しいとの要望があったことから、それを踏まえてグローブのカーブにより丸みを持たせるデザイン修正を行い、同年10月7日に町会連合会から最終的な承諾を得た。
そして、同年11月28日に指名競争入札が行われ、摂津電機工業株式会社が入札し、被告は同社との間で工事請負契約を締結して本件街路灯工事を行った。
(九) なお、証人Iは、被告は本件街路灯を独自にデザインしたものであり、本件デザイン図はその参考資料にすぎないと証言する。そのいわんとするところは必ずしも明確ではないが、本件街路灯と本件デザイン図に描かれた街路灯とは、種々の点で形態を異にしていることが認められる。しかし、いずれも斜めに三段に連ねられた3個のすずらん型の灯具の各上部を、支柱から階段状に三段に張り出したアーム(各段のアームの間は半円状に連結されている)が側方から支え、最下段のアームと支柱の間に4分の1円状の装飾具が3本施されているといった特徴を兼ね備えており、この形態は他の装飾街路灯には見られない点であることからすれば、本件デザイン図なしに被告が本件街路灯のデザインを全く独自に作成したものとは考え難い。そして、被告は町会連合会から本件デザイン図を受け取っており、実際に設置する街路灯のデザインは町会連合会の要望をなるべく取り入れるようにしていたことを併せ考えると、本件街路灯のデザインは、被告において、本件デザイン図を基に、それに修正を加える形で作成したものと推認される。
また、証人Iは、本件デザイン図を原告が作成したことは平成9年8月7日の打ち合わせの時点まで知らなかった旨証言する。しかし、町会連合会側は、本件デザイン図及び見積書を被告担当者に渡すとともに、本件街路灯の設置工事を原告に行わせることを強く希望していたのであるから、早い時期からその旨を被告担当者に申し入れていたと推認するのが相当であり、また、町会連合会がそのような申入れを行う際に、そのような申入れを行う理由として本件デザイン図を作成したのが原告である旨を告げないとはおよそ考えられない。したがって、町会連合会は、被告担当者に対し、本件デザイン図を渡すのと同じくらいの時期から本件デザイン図を作成したのが原告である旨を伝えていたものと推認される。
他方、被告が本件デザイン図から街路灯のデザインを変更することについて、原告代表者本人は何も聞いていないと供述し、甲17中にもこれに沿う記述があるが、被告は地元である町会連合会の意向を尊重する方向で考えていたのであり、最終段階である平成9年9月に至ってもなお町会連合会の意向を汲んで設計修正を行っているのであるから、被告が本件デザイン図のデザインをそのまま採用できないことについては、少なくとも町会連合会には伝えていたものと推認するのが相当である。
2以上に基づいて検討する。
(一) まず原告は、被告が他の業者に本件工事を請け負わせたことによって、本件デザイン図に基づき装飾街路灯を製作してこれを設置することにより得られた営業上の利益を侵害されたと主張する。
しかし、本件工事は、被告が発注者となる公共事業として行われたものであるから、発注者たる被告は、入札又は随意契約の方法によって、工事請負業者を適宜選定することができるのであり、本件工事を原告に請け負わせることを被告に義務づける特段の事情のない限り、被告が原告以外の業者に本件工事を請け負わせたからといって、原告の利益を違法に侵害したとはいえない。
特に、本件で原告は専ら町会連合会からの依頼に基づき、町会連合会との間で協議を行って本件デザイン図を作成したものである。そして、本件工事は被告が主体となって行う公共事業であり、町会連合会も地元住民として被告に対して要望を述べ得る立場を有するにとどまる。そうすると、原告は、町会連合会が地元住民として被告に対して街路灯のデザインの要望を述べるに当たって、その案の作成を町会連合会から依頼された者であるにとどまるのであるから、町会連合会から街路灯のデザインの要望を受けた被告が、町会連合会の依頼先であるにすぎない原告を、本件デザイン図の作成者であるというだけで工事業者として選定・発注しなければならない義務を負うことはないというべきである。
この点について原告代表者は、本件デザイン図を作成したのは原告であるから、原告以外の者が本件デザイン図に基づいて街路灯設置を行うことはできないはずであると供述する。しかし、仮に本件デザイン図中の街路灯のデザインに何らかの原告の独占権が認められる場合であっても、そのことと本件工事の受注とは別問題であり、本件デザイン図を作成したのが原告であるから、当然原告が本件工事を受注できてしかるべきであるということにはならない。
もっとも、これらの事情の下であっても、原告と被告との間に生じた事情から、被告において、本件工事の施工業者として原告が当然に選定されるとの合理的な期待を原告に抱かせて、それゆえに原告においてそのための準備行為をなさしめたような場合には、そのような期待を裏切る被告の行為について違法と評価される場合もあり得ると考えられる。しかし、前記認定事実によれば、本件においては、原告は本件工事を受注することを希望し、町会連合会もそれを強く希望して被告に要望をしていたものの、被告において右要望に肯定的な態度を示すことはなく、かえって本件工事は指名競争入札になるので指名資格がないと受注はできない旨を告げいていたのであるから、原告の抱いた期待は一方的なものにすぎなかったというべきである。
(二) また原告は、被告が本件街路灯を設置したことにより、本件デザイン図において表象される本件デザインについて不当に模倣されない利益を侵害されたと主張する。
しかし、本件デザイン図に描かれた装飾街路灯のデザインに著作物性が認められないことは前記のとおりであり、また、右デザインについて原告が意匠権を有しているわけでもないから、被告が右デザインに基づいて街路灯を作成したからといって 、直ちに違法となるわけではない。
もっとも、このような場合であっても、具体的な事情いかんによっては他人が作成したデザインを利用する行為が違法と評価される場合もあり得るが、本件で被告は、自己が行う本件街路灯の設置に当たって、地元民である町会連合会から寄せられた要望を尊重して最終的なデザインを作成したものであって、原告は町会連合会からデザイン作成を依頼されたにすぎないものであるから、このようにして被告が町会連合会から要望されたデザイン案に基づいて本件街路灯を設計し、指名競争入札に基づいて原告以外の業者に工事を請け負わせた行為が、原告が作成した本件デザイン図中の街路灯のデザインを不当に利用した違法な行為ということはできない。
この点について原告は、不正競争防止法2条1項3号において他人の商品の形態を模倣した商品を販売等する行為が不正競争行為とされていることを主張するが、同条項は、他人が費用や労力を投入して作り上げた商品形態を実質的に同一といえる程度に模倣して競業を行う行為を公正な取引秩序に反する行為として規制の対象とするものであり、本件とは局面を異にするというべきである。
(三) また原告は、被告の行為によって、「新世界、通天閣前の装飾街路灯でおなじみのSです」という企業イメージによる営業活動を行う利益を侵害されたと主張する。
しかし、原告がこのような企業イメージによる営業活動を行うことができるのは、単に従前の街路灯の設置を原告が請け負い、その保守等を行ってきたことの反射的利益にすぎず、被告との関係で法的に保護される利益であるとはいえない。
(四) したがって、被告が本件工事を原告以外の者に請け負わせたことによって原告の利益を不当に侵害したとする原告の主張はいずれも理由がない。
〔研  究〕
1. 原告が主張し、裁判所が否認した著作権侵害問題について考えてみる。
 原告は、本件街路灯について最初に作成した本件デザイン図は美術の著作物であると主張したことについて、その限りでは裁判所も著作権の存在を認めたが、本件デザイン図に基いて作成した本件設計図については、デザイン図の絵画的表現形式の創作性を、有形的に再製したものではないから、複製又は翻案にはあたらないと判断した。
 また、本件デザイン図に基いて本件街路灯を製作する行為も、本件デザイン図の絵画的表現形式の創作性を、有形的に再製する行為とはいえないから、複製又は翻案にはあたらないと判断した。
 しかし、このような著作権法の「複製」又は「翻案」についての解釈は誤まりといわねばならない。
2.わが国の著作権法によれば、「複製」とは、「印刷、写真その他の方法により、有形的に再製することをいう」(著2条1項15号柱書)と規定し、「翻案」とは、「著作者は、その著作物を翻訳し、変形し、その他翻案する権利を専有する」(著27条)と規定し、このような翻案物は、「二次的著作物」(著2条1項11号)といわれるもので、「著作物を変形しその他翻案することにより創作した著作物」である。
 したがって、「複製物」にあっては、デザイン図中の街路灯の絵を立体的に「再製」したものも含まれると解するのが通説であり、その典型的な事例はマンガキャラクターの絵に基いて製作されたぬいぐるみ等の人形の場合である。
 また、「翻案物」にあっては、デザイン図の中の街路灯の絵を立体的に「変形」したものも、その変形行為に創作性が認められるならば、二次的著作物と解することができるのであり、その典型的事例には、やはりマンガキャラクターがぬいぐるみに変形されたとして著作権侵害が認容された「たいやきくん事件」(東京地判昭和52年3月30日)がある。
 もし、本判決のような理由づけであれば、マンガキャラクターの絵を立体的に商品化したような場合は、著作権侵害は成立しないことになるだろう。

[牛木理一]