C2-7


 
ヴォーグ標章事件:東京地裁平15(ワ)27434・平成16年7月2日判(認)
〔キーワード〕 
マンションの名称、商品等表示、周知性、著名標章、損害額

 
〔事  実〕

 
1.(1) 原告アドバンス・マガジン・パブリッシャーズ・インコーポレーテッド(以下「原告アドバンスマガジン」という。)は、米国ニューヨーク州法に基づいて設立された法人で、ファッション雑誌「VOGUE」を発刊している。
 原告有限会社日経コンデナスト(以下「原告日経コンデナスト」という。)は、平成11年から、日本において、上記「VOGUE」誌の日本版である「VOGUE NIPPON」誌を発刊している。
 被告株式会社プロパストは、不動産の売買・賃貸・仲介・管理・鑑定評価及び不動産の企画・設計・調査測量等を業務とする株式会社である。
(2) 被告は、東京都港区に別紙物件目録記載の建物(以下「本件マンション」という。)の建築を企画し、平成14年7月上旬、本件マンションの名称を「ラ ヴォーグ南青山」と決定し、同年9月2日、建築に着工し、同月14日から本件マンションの分譲を開始した。被告は、これに伴い、同日から本件マンションの近辺に存在する「カプリース青山」というビル(以下「カプリース青山」という。)にモデルルームを設置するとともに、販売のための宣伝広告活動も開始した。

2. 本件は,原告らが,別紙原告標章目録記載の各標章(以下,各標章をそれぞれに付された番号に従って「原告標章1」などといい,各標章を併せて「原告標章」という。)を原告らの周知又は著名商品等表示であると主張し,被告が原告標章と類似する被告標章を使用する行為は,不正競争防止法2条1項1号又は同2号に該当すると主張して,同法3条,4条に基づき,被告標章の使用差止め及び損害賠償を請求する事案である。

3.争点
 (1) 被告の行為は、不正競争防止法2条1項1号に該当するか。
  ア 原告らは、商品等表示の主体ということができるか。
  イ 原告標章に周知性が認められるか。
  ウ 被告標章は、被告の商品等表示ということができるか。
  エ 原告標章と被告標章は類似しているか。
  オ 被告の行為は、需要者に混同を生じさせるか。
 (2) 被告の行為は、不正競争防止法2条1項2号に該当するか。
  ア 原告らは、商品等表示の主体ということができるか。
  イ 原告標章に著名性が認められるか。
  ウ 被告標章は、被告の商品等表示ということができるか。
  エ 原告標章と被告標章は類似しているか。
  オ 原告標章がウィークマークであることを理由として、不正競争防止法2条1項2号の適用が否定されるか。
 (3) 損害の発生の有無及びその額

〔主  文〕
1 被告は、建物及びその営業上の施設又は活動に、別紙被告標章目録(1)ないし(11)記載の各標章を使用してはならない。
2 被告は、別紙被告標章目録(1)ないし(11)記載の各標章を定価表、取引書類、その他の印刷物並びに看板、のぼり、チラシ、新聞広告等の広告物に使用してはならない。
3 被告は、原告らそれぞれに対し、金4750万円及びこれに対する平成15年12月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告らのその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は、これを5分し、その1を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
6 この判決は、第3項に限り、仮に執行することができる。
 

 
〔判   断〕

 
1 争点(1)ア(商品等表示の主体)について
 (1) 証拠によれば、以下の事実が認められる。
  ア 原告アドバンスマガジンは、ファッション雑誌「VOGUE」を発行しているが、関連会社を通じて、イギリス、イタリア、フランス、ドイツ、オーストラリア、ブラジル、シンガポール、韓国、スペイン、アメリカなどの各国で、「VOGUE」誌各国版を発行させている。我が国においては、昭和24年ころから米国版の「VOGUE」誌が販売されているが、平成11年に原告日経コンデナストが日本版の「VOGUE NIPPON」誌を創刊した。
  イ 原告アドバンスマガジンは、各国における原告標章及びその関連標章を自ら又は関連会社を通じて管理しているところ、我が国において、原告標章1について第26類(印刷物)に商標登録し、原告標章2について第26類(雑誌その他本類に属する商品)に商標登録していたが、これらの商標権を関連会社のCNAP社に移転し、CNAP社は平成10年から原告日経コンデナストに専用使用権を設定している。
  ウ 「VOGUE NIPPON」誌では、基本的には原告標章3が表題等に使用されているが、「VOGUE」誌の日本版であることから、原告日経コンデナスト主催のVOGUE写真展においては、原告標章1も使用されていた。
 (2) 不正競争防止法2条1項1号所定の他人には、特定の表示に関する商品化契約によって結束した同表示の使用許諾者、使用権者及び再使用権者のグループのように、同表示の持つ出所識別機能、品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的のもとに結束しているものと評価することのできるようなグループも含まれるものと解するのが相当である(最高裁昭和56年(オ)第1166号同59年5月29日第三小法廷判決・民集38巻7号920頁)。
 上記(1)認定のとおり、原告アドバンスマガジンが発行する「VOGUE」誌をもとに各国版が発行されていること、原告アドバンスマガジンは、各国における原告標章及びその関連標章を自ら又は関連会社を通じて管理していること、我が国における原告標章の商標権者であるCNAP社も、原告アドバンスマガジンの関連会社であり、「VOGUE NIPPON」誌を発行する原告日経コンデナストは、CNAP社から上記商標権について専用使用権の設定を受けていること等からすると、原告アドバンスマガジンと原告日経コンデナストを含む「VOGUE」誌各国版の発行者及びCNAP社とは、「VOGUE」誌の発行によって原告標章1の持つ出所表示機能、品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的のもとに結束した企業グループであるということができる。
 実際、原告日経コンデナストが使用する原告標章3は、原告標章1の「O」の文字の中に小さく「NIPPON」を標記したものであり、この表示は「VOGUE」誌の日本版であることを示したにすぎないから、外観、称呼及び観念のいずれにおいても、原告標章1と類似するものである。また、原告標章2は、原告標章1を日本語読みにしただけであり、また、「VOGUE NIPPON」は我が国においては単に「VOGUE」「ヴォーグ」と呼ばれることも多いから、原告日経コンデナストも、原告標章3のみならず、原告標章1及び2を使用することもあり得る。
 したがって、原告らは、「VOGUE」誌の発行によって結束した企業グループに属しているから、原告らは、いずれも原告標章1ないし3の商品等表示の主体であると認められる。
 (3) 被告は、原告アドバンスマガジンが、平成11年以降日本国内において英語版「VOGUE」誌を発行していないと主張するが、証拠によれば、平成11年以降も販売されている。
 また、被告は、原告アドバンスマガジンの商品等表示が原告標章1であり、原告日経コンデナストの商品等表示が原告標章3であると主張するが、上記のとおり、「VOGUE」誌の日本版であるという「VOGUE NIPPON」誌の位置付けに鑑みれば、原告標章の使用態様は、そのように明確に分けられるものではなく、原告標章のいずれもが原告ら「VOGUE」誌の発行によって結束した企業グループの商品等表示であるというべきである。
 したがって、被告の上記主張は、いずれも採用することができない。

2 争点(1)イ(原告標章の周知性)について
 (1) 証拠によれば、以下の事実が認められる。
  ア 「VOGUE」誌は、1892年にアメリカ合衆国において創刊されたファッション雑誌であり、1909年からは原告アドバンスマガジンの前身である米国法人コンデ・ナスト・パブリケーションズ・インコーポレーテッド(以下「コンデナスト社」という。)から発行され、また、1988年からは原告アドバンスマガジンを存続会社とする合併により、原告アドバンスマガジンから発行され、現在まで創刊以来100年以上発行され続けている。
 原告アドバンスマガジンは、関連会社を通じて、イギリス、イタリア、フランス、ドイツ、オーストラリア、ブラジル、シンガポール、韓国、スペイン、アメリカなどの各国で、「VOGUE」誌各国版を発行させている。
 我が国においては、昭和24年ころから米国版の「VOGUE」誌が販売されていたが、平成11年に原告日経コンデナストが日本版の「VOGUE NIPPON」誌を創刊した。
 イ 昭和24年に、「VOGUE」誌が日本に10年ぶりに入荷したことが新聞に報道されたことに加え、昭和42年には、「VOGUE」誌が日本で取材したことにつき新聞や週刊誌で報道され、「VOGUE」誌は「世界的なハイファッション誌」、「世界の流行をリードする雑誌」、「世界の流行を左右するといわれる服飾雑誌の権威」などと紹介されている。昭和52年には、パリ・ヴォーグ誌の美容担当編集長が来日し、女性週刊誌や新聞にインタビューが掲載された。昭和55年には、日本においてヴォーグ60年展が開催され、新聞に広告や記事が掲載され、ファッション雑誌等で特集記事が掲載された。その他にも、現在まで、「VOGUE NIPPON」誌の創刊や様々な「VOGUE」誌に関する話題が週刊誌や新聞等に掲載されている。
 また、多くの百科事典、アメリカ文化事典、現代用語の基礎知識、イミダス、英和辞典、服飾事典、ファッション辞典、アパレル用語事典などには、「vogue」という言葉について、婦人服飾流行雑誌、アメリカのファッション雑誌、最も知られた流行服飾雑誌、代表的なファッション雑誌、ファッション誌の代名詞等と紹介されている。昭和59年発行の「アメリカ情報コレクション」には、「日本の女性でVogueという雑誌の名前を知らない人はまずいないだろう。これほど知名度の高い外国の女性誌はほかにないといえる。」とある。昭和60年発行の「気になるアメリカ雑誌」には、「『世界第一のファッション誌』と『タイム』に呼ばれた雑誌、それが『ヴォーグ』である。」と紹介されている。他にも、各種のファッション関係の書籍に、「VOGUE」誌が登場する。
 ウ 「VOGUE」誌は、高級でハイセンスなファッション雑誌のイメージがあり、それは「VOGUE NIPPON」誌も同様である。したがって、原告らは、一流企業や有名ブランドを主たる広告主にしている。
 「VOGUE NIPPON」誌が、高級でハイセンスな読者を対象としており、ブランドイメージを守るため、広告を厳しく選別していることなどは、新聞や雑誌記事にも掲載されている。その結果、アンケート調査では、一般読者によって、「VOGUE NIPPON」誌は、日本で発行されている雑誌の中でも高級感のある、都会的な、センスのあるというようなイメージが持たれている。
 東京商工会議所、在日本フランス商業会議所、在日ドイツ商工会議所、在日イタリア商工会議所、ルイ・ヴィトン、クリスチャン・ディオール、ジバンシィ、ピエール・カルダン、シャネル、ヴァレンティノといった有名ブランドを有する会社の外、航空会社、出版社、書店、デパート、繊維会社等が、原告標章1の周知性及び著名性を証明書という形にして提出しているが、その証明書提出者は、様々な業界にわたっている。
 エ 原告アドバンスマガジンは、我が国において、原告標章1及び2について商標登録していたが、これらの商標権を関連会社のCNAP社に移転し、CNAP社は、平成10年から原告日経コンデナストに専用使用権を設定している。CNAP社は、原告標章1に関して平成2年5月28日以降24件の防護標章登録を受け、平成12年以降は、上記各防護標章の更新登録が行われている。また、CNAP社は、原告標章2に関して平成14年2月22日以降9件の防護標章登録を有している。
 なお、商標法64条では、登録商標が「需要者の間に広く認識されている場合」を防護商標登録の要件としているが、特許庁の商標審査基準では、「著名の程度に至った場合」をいうとされている。
 オ 昭和59年ころから、原告アドバンスマガジン及びその前身のコンデナスト社又は商標権者であるCNAP社は、原告標章に類似する標章に対し、訴訟提起あるいは特許庁に対する異議申立て又は無効審判請求をするなどして、原告標章の希釈化を防止する努力をしてきた。訴訟においては、原告標章の著名性又は周知性が認められ、類似する標章の使用差止め等の請求が認容された判決も言い渡されている。また、特許庁においても、原告標章との類似商標が商標法4条1項15号の「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当するとして拒絶された例も多数みられる。
 カ アメリカ合衆国における「VOGUE」誌の最近における発行部数は、1号当たりの平均が約110万部ないし125万部であり、「VOGUE NIPPON」誌の発行部数は、約9万部であって、15か国版の合計部数は約266万4000部である。
 キ その後も、平成14年10月にシャネル銀座ビルでVOGUE写真展が開催されたが、このときの加盟企業は、世界的に有名なブランドばかりであり、新聞や雑誌にも記事や広告が掲載された。平成15年には、丸の内ファッションストリートウィークのイベントが開催され、原告日経コンデナストは、東京丸の内ビルディングにおいて、「VOGUE NIPPON」誌のファッション写真を巨大なパネルにして展示するなどしてイベントに参加した。また、平成15年6月の紀伊國屋書店洋書ベストセラーでは、米国版「VOGUE」誌は、6位になっている。最近のイメージアンケート調査でも、一般読者によって、「VOGUE NIPPON」誌は、日本で発行されている雑誌の中でも高級感のある、都会的な、センスのあるというようなイメージが持たれている。
 (2) 上記(1)アないしカ認定の事実、すなわち「VOGUE」誌は、アメリカ合衆国において100年以上にわたり販売され続けており、世界各国版が発行されて、アメリカ合衆国をはじめとして世界的に知られたファッション雑誌であること、我が国においても、昭和24年ころから「VOGUE」誌が50年以上にわたり販売され、各種事典にも紹介され、新聞・週刊誌等にも広告や各種記事が掲載されていること、我が国において「VOGUE」誌は、高級志向のファッション誌として、世界的に有名な各種ブランドの広告提供を受け、一般読者にも高級イメージのファッション雑誌として認識されていること、原告ら「VOGUE」誌の発行によって結束した企業グループに属するCNAP社は、原告標章1及び2の商標登録をし、防護標章登録も受けていること、原告らが原告標章1及び2につき、希釈化を防止するため、様々な法的手段を執ってきたこと等に鑑みると、原告標章1及び2は、遅くとも被告標章が使用された平成14年9月までには、「需要者の間に広く認識されているもの」として、周知性を獲得したものと認められる。また、原告標章3は、原告標章1の「O」の中に小さく「NIPPON」と記載されており、外観上原告標章1とほとんど変わらないから、明らかに「VOGUE」誌の日本版を表すものとして、又は原告標章1と同視されて、遅くとも被告標章が使用された平成14年9月までには、「需要者の間に広く認識されているもの」として、周知性を獲得したものと認められる。
 さらに、上記(1)キ認定の事実に照らし、原告標章は、その後現在に至るまで周知性を維持し続けているものということができる。
 (3) 被告は、「VOGUE」誌及び「VOGUE NIPPON」誌の発行部数が少ないと主張する。しかし、上記(1)カ認定の発行部数が必ずしも少ないというわけではない。また、発行部数は、周知性を認定する一事情にすぎず、前記認定の「VOGUE」誌の評判に鑑みれば、「需要者の間に広く認識されている」との認定を左右するものではない。
 また、被告は、我が国又はアメリカ合衆国において、「VOGUE」を含む商標が他社により併存登録されている旨主張する。しかし、これらの事情は、原告標章との類似性又は混同のおそれの有無を検討する場合に問題となっても、原告標章が需要者の間に広く認識されているかどうかとは直接関係しない。
 (4) 以上のとおり、原告標章は、遅くとも平成14年9月までに原告ら「VOGUE」誌の発行によって結束した企業グループの商品等表示として需要者の間に広く認識され、その後現在に至るまで周知性を維持し続けていることが認められる。

 3 争点(1)ウ(被告の商品等表示)について
 被告は、マンションの名称が商品等表示に該当しない旨主張する。
 不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」とは、人の業務にかかる氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。ここにいう「商品」は、競争が行われることを前提としていることから、市場における流通が予定され、それ自体に表示を使用してその出所が識別される性質を備えている、主として動産をいうものである。もっとも、不動産であっても、大量生産ないし大量供給が行われるマンション等の建築物は、実際に本件マンションも投資目的での購入を勧誘しているように、一般に市場における流通が予定されており、マンション自体に表示を使用してその出所が識別される性質を備えている。よって、マンションは、商取引の目的となって市場における流通が予定され、それ自体に表示を使用してその出所が識別される性質を備えている物として、不正競争防止法2条1項1号にいう「商品」に該当するものと解される。
 また、被告は、平成15年5月30日、「ラ・ヴォーグ南青山」につき第36類(建物の売買、建物の売買の代理又は媒介等)を指定役務として商標登録を受けている。被告は、他のマンションの名称についても商標登録を受け、また、大手の不動産業者がマンションの名称を同様に商標登録していることからしても、マンションの名称が商品等表示に該当しないとする理由はない。
 したがって、マンションの名称も商品等表示に該当し、マンションの名称として使用されている被告標章は、いずれも商品等表示に該当する。

 4 争点(1)エ(類似性)について
 (1) 原告標章の構成
 原告標章1の構成は、別紙原告標章目録1記載のとおり、欧文字で「VOGUE」と横書きで表記したものであり、「ヴォーグ」との称呼が生じ、「VOGUE」誌又は英語、フランス語で「流行、はやり」という観念を生ずる。
 原告標章2の構成は、別紙原告標章目録2記載のとおり、片仮名文字で「ヴォーグ」と横書きで表記したものであり、「ヴォーグ」との称呼が生じ、「VOGUE」誌又は英語、フランス語における「vogue」として、「流行、はやり」という観念を生ずる。
 原告標章3の構成は、別紙原告標章目録3記載のとおり、欧文字で「VOGUE」と横書きで表記したものの「O」の文字の中に更に欧文字で「NIPPON」と小さく横書きしたものである。「NIPPON」の部分は、我が国の国名を表示したものであり、外観は「VOGUE」の文字が大きく顕著であるので、同標章からは、「ヴォーグ」又は「ヴォーグニッポン」との称呼が生じ、「ヴォーグ誌の日本版」又は英語、フランス語で「流行、はやり」という観念を生ずる。
 (2) 被告標章の構成
  ア 被告標章1ないし3及び5ないし7について
 上記各被告標章は、中央より右に大きく横書きで「Vogue」の欧文字を表示し、中央より左に「La」の欧文字と「a」全体を覆いつつ上下に大きく広がる湖様の図形、及びその右下に「MinamiAoyama」の欧文字を「Vogue」の表示部分の10分の1程度の大きさで横書きで付記してなる標章である。
  イ 被告標章4について
 被告標章4は、左側に小さく被告標章1と同一の標章を配し、その右横に片仮名及び漢字で「ラ ヴォーグ南青山」と横書きで大書された標章を配してなる標章である。
  ウ 被告標章8及び9について
 被告標章8は横書きで、被告標章9は縦書きで、いずれもゴシック体の同じ大きさの片仮名及び漢字で「ラ ヴォーグ南青山」と表示してなる標章である。
  エ 被告標章10及び11について
 被告標章10は、同じ大きさの欧文字で「LaVogue MinamiAoyama」と横一列に表示してなる標章である。
 被告標章11は、同じ大きさの欧文字で「LaVogue」と「MinamiAoyama」の語を上下二段に横書きしてなる標章である。
 (3) 被告標章1ないし3及び5ないし7について
  ア 上記(2)のとおり、被告標章1ないし3及び5ないし7は、いずれも「La Vogue」と「MinamiAoyama」が二段に表記されていることからすると、上記被告標章は、「La Vogue」と「MinamiAoyama」の語句が結合してできた表示であって、全体として強い一体性を有しているとはいえない。そして、被告標章1ないし3及び5ないし7においては、「MinamiAoyama」の部分は「La Vogue」の部分に比べて、約10分の1程度の著しく小さい文字で表記されていること、「MinamiAoyama」の部分は、本件のマンションの所在地である南青山という地名を示したものと考えられることからすると、上記被告標章のうち特に自他識別機能を発揮する部分は、「La Vogue」の部分であるということができる。
 この点について、被告は、被告標章は、居住用マンションの名称であるから、その立地条件は購入者の最も注目するところであり、「南青山」が地名であるからといって自他商品の識別機能がないことにはならないと主張する。しかし、上記のとおり、被告標章1ないし3及び5ないし7においては、「MinamiAoyama」の部分が極めて小さくしか表記されておらず、注意して見ないとわからないほどであるから、被告の上記主張は、採用することができない。
  イ また、被告標章1ないし3及び5ないし7の「La Vogue」のうち、「La」は、フランス語の定冠詞であって、この標章に接する取引者、需要者は、それ自体識別標識としての機能を備えない「La」の部分に対して、識別標識として顕著な部分が後半の「Vogue」の文字にあるものと把握して、単に「ヴォーグ」と称呼して取引にあたることも少なくないものと推認される。さらに、被告標章1ないし3及び5ないし7においては、外観構成上、湖様の図形が「a」の文字全体を覆い、「a」の部分が地色と同色になっており、「a」の部分は地に沈んでしまうため、「Vogue」の部分が一層独立して看取されやすい。
  ウ さらに、前記第4の2で認定したとおり、原告標章「VOGUE」がファッション雑誌「VOGUE」の題号として、需要者の間に広く認識されていることからすると、被告標章においても「Vogue」の部分は、強い識別力を持つものと認められる。
  エ 以上のとおりであるから、被告標章1ないし3及び5ないし7に接する需要者の注意を特に強く引くのは「Vogue」の部分であり、同標章からは、「ヴォーグ」の称呼も生じ、「VOGUE」誌の観念も生じ得るものである。よって、同標章と原告標章とは、称呼及び観念において同一であり、両者は類似していると認められる。
 (4) 被告標章4について
 上記(2)のとおり、被告標章4は、左側に小さく被告標章1と同一の標章を配し、その右横に片仮名及び漢字で「ラ ヴォーグ南青山」と横書きで大書された標章を配してなる標章である。「ラ ヴォーグ」のうち「ラ」の部分はスペースを空けて記載され、わずか一文字である上、フランス語の定冠詞にすぎないし、「南青山」の部分が本件マンションの所在地を示すもので自他識別機能が弱いから、被告標章4に接する需要者の注意を特に強く引くのは「ヴォーグ」の部分であり、同標章からは、「ヴォーグ」の称呼も生じ、「VOGUE」誌の観念も生じ得る。よって、同標章と原告標章とは、称呼及び観念において同一であり、両者は類似していると認められる。
 (5) 被告標章8及び9について
 上記(2)のとおり、被告標章8は横書きで、被告標章9は縦書きで、いずれもゴシック体の同じ大きさの片仮名及び漢字で「ラ ヴォーグ南青山」と表示してなる標章である。「ラ ヴォーグ」のうち「ラ」の部分はスペースを空けて記載され、わずか一文字である上、フランス語の定冠詞にすぎないし、「南青山」が本件マンションの所在地を示すもので自他識別機能が弱いから、被告標章8及び9に接する需要者の注意を特に強く引くのは「ヴォーグ」の部分であり、同標章からは、「ヴォーグ」の称呼も生じ、「VOGUE」誌の観念も生じ得る。よって、同標章と原告標章とは、称呼及び観念において同一であり、両者は類似していると認められる。
 (6) 被告標章10及び11について
 上記(2)のとおり、被告標章10においては「LaVogue」と「MinamiAoyama」の間にスペースがあり、被告標章11も、「LaVogue」と「MinamiAoyama」とが二段に表記されているから、「MinamiAoyama」の部分と「LaVogue」の部分とを別々に認識することができる。そして、「LaVogue」のうち「La」はフランス語の定冠詞であるから、被告標章10及び11に接する需要者の注意を特に強く引くのは「Vogue」の部分であり、同標章からは、「ヴォーグ」の称呼も生じ、「VOGUE」誌の観念も生じ得る。よって、同標章と原告標章とは、称呼及び観念において同一であり、両者は類似していると認められる。
 (7) 以上のとおり、原告標章と被告標章は類似している。

 5 争点(1)オ(混同のおそれの有無)について
 (1) 証拠に弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
  ア 「VOGUE NIPPON」誌においては、セレブリティについての特集が何度も組まれ、ファッション性の高い写真の使用が特徴となっている。セレブリティ又はセレブとは、有名人という意味であるが、我が国では「有名人でゴージャスな人」の意味で使用され、ファッション雑誌においては、有名人の高級で洗練されたファッショナブルな面が強調されている。
 また、「VOGUE NIPPON」誌は、そのプロモーション用パンフレットにおいて、高級でファッショナブルなイメージの広告を提案しており、一流企業、有名ブランドを広告主にしている。平成14年に銀座においてVOGUE写真展が開催されたときの加盟企業は、有名ブランドを有する企業ばかりであり、平成15年には、丸の内ファッションストリートウィークのイベントが開催されたが、ファッションイメージアップのため「VOGUE NIPPON」誌が指名された。
 「VOGUE NIPPON」誌が、高級でハイセンスな読者を対象としており、ブランドイメージを守るため、広告を厳しく選別していることなどは、新聞や雑誌記事にも掲載されている。その結果、アンケート調査では、一般読者によって、「VOGUE NIPPON」誌は、日本で発行されている雑誌の中でも高級感のある、都会的な、センスのあるというようなイメージが持たれている。原告らの取引先が原告標章1の周知性及び著名性を証明書という形にして提出しているが、その証明書提出者は、ルイ・ヴィトン、クリスチャン・ディオール、ジバンシィ、ピエール・カルダン、シャネル、ヴァレンティノといった有名ブランドを有する会社が多く名前を連ねている。
 また、ファッション関係の書籍などでは、「VOGUE」誌について、「世界第一のファッション誌」とか、「エレガントなファッションと最新のアートや文芸作家の読物を含めた高級誌」などと紹介するものもある。
  イ 原告アドバンスマガジンのイタリアの関連会社エディツィオーニ・コンデナスト社は、住空間のファッション雑誌「CASAVOGUE」を出版している。「VOGUE NIPPON」誌においては、ファッショナブルな建築関係の特集も行っている。このほか、「CasaBRUTUS」誌が、建築とファッションの関係について特集している。また、「日経アーキテクチュア」でも、デザイナーズマンションが話題となっており、デザイナーズアパートが主流になってきたという新聞記事や週刊誌記事がある。
 デザイナーズマンションとは、首都圏で生まれた個性的な間取りやデザインのマンションのことで、この言葉が登場した当初は賃貸用マンションが中心であったが、その後短期間で状況が変わり、分譲マンションでもデザイナーズを名乗る商品が次々に登場している。若手のデザイナーを起用し、都市性を楽しむ住人にオフィス、住居の機能を提供するものであり、従来の家族構成や間取りにとらわれないデザインが受けているといわれている。その結果、デザイナーの名前がブランド化し、賃料も高く、高級感やファッション性が打ち出されてきているといえる。
 したがって、最近はファッションと建築は無関係ではなく、デザイナーズマンションというブランドやファッション性を重視したマンションが求められる傾向になってきた。
  ウ 本件マンションは、13階建てで、1LDKが3700万円台から(2階以上)、2LDKが6100万円台から(10階以上)、メゾネットが1億900万円台(12、13階)となっている高級マンションである。本件マンションのパンフレットは、ファッションショーにおけるモデルの写真が使われ、「for AOYAMA CELEBRITY」といった語が使用され、ファッション雑誌のような体裁になっている。広告にも「南青山のデザイナーズマンション」と銘打たれ、様々な機能的設備が全て標準装備であることをアピールしている。また、被告は、本件マンションの工事現場の看板にも、ファッションショーのモデルの写真を使用していた。
  エ 原告アドバンスマガジン又はCNAP社は、原告標章1について、商品の区分として第26類(印刷物)に商標登録し、第4類、9類、11類、16類、17類、20ないし25類、27ないし30類、35類、36類、38類、39類、41類、42類に関して24件の防護標章登録を受けている(甲6)。また、原告標章2について、商品の区分として第26類(雑誌その他本類に属する商品)に商標登録し、第3類、9類、14類、18類、20類、21類、24類、25類、28類に関して9件の防護標章登録を受けている。
  オ 他社の「ヴォーグ」又は「VOGUE」ないしこれらに類する標章の使用状況は、次のとおりである。
  (ア) 株式会社日本ヴォーグ社は、ヴォーグ学園という編み物の学校を経営し、「株式会社日本ヴォーグ社」という商標を第26類に、「ヴォーグヤーン」、「VOGUE YARN」及び「ヴォーグ」という商標を第15類に登録している。ただし、雑誌に使用されていた「日本ヴォーグ社の編み物ヴォーグ」という商標については無効審決がされ、昭和62年9月20日からは、雑誌の題号が「機械編ZAZA」に変更された。
 「ゾンボーグ」という商標は、第28類に登録されており、CNAP社が無効審判を請求し、特許庁が請求不成立の審決をしたため、CNAP社が同審決の取消請求訴訟を提起したが、原告標章とは混同を生じないとしてCNAP社が敗訴した。
 他にも、「VOGUE」という商標が第22類、27類、30類に登録され、「RANGE ROVER VOGUE」という商標が第12類に、「ボーグ」が第20類に、「ボーグ VORG」が第1類に、「Vogue Star」が第16類に、「VOGUE STAR ボオグスター」が第17類に、「ラボーグ」が第29類及び32類に、「ラヴオーグ」が第43類に登録されている。第27類に登録された「VOGUE」という商標は、原告アドバンスマガジンの前身であるコンデナスト社が登録異議の申立てをしたが、混同のおそれが否定されて異議が棄却され、拒絶査定は取り消され、審判で登録された。また、第27類に登録された「Vogue」に図形が付された商標と「RANGE ROVER VOGUE」という商標は現在も使用されている。さらに、第22類の蓄音機のレコード盤を指定商品として「VOGUE」という商標が登録されており、現在もCDに同商標が付されて日本国内で販売されている。
 他に、原告アドバンスマガジン又はその関連会社が無効審判を請求したにもかかわらず、混同を生ずるおそれが認められず、最終的に登録になった商標として、「ヴォーグヤーン/エクトリー」、「DIAVOGUE」、「マイヴォーグ」(ただし、商標法50条1項により取り消された。)、「FEMMIOVOGUE」があり、「コインボーグ」、「アニマルボーグ」、「スポーツボーグ」という商標については、コンデナスト社が異議申立てをしたが、いずれも退けられて登録された。
  (イ) 被告は、「ラ・ヴォーグ南青山」を第36類(建物の売買、建物の売買の代理又は媒介等)で商標登録している。ただし、CNAP社が無効審判を請求している。
 原告アドバンスマガジンは、第26類において、登録商標「L'UOMO VOGUE」及び「CASAVOGUE/カサヴォーグ」の譲渡を受けて商標権者となり、また、「MEN IN VOGUE/メンインヴォーグ」を独立商標として登録している。
  (ウ) その外にも、「ヴォーグ」を含む名称を有する事業者は日本に多数存在している。CDアルバム、自動二輪車、賃貸マンション、ビルの名称などにも使用されている。
  (エ) 逆に、昭和59年ころから、原告アドバンスマガジン及びその関連会社は、原告標章に類似する標章に対し、訴訟提起あるいは特許庁に対する異議申立て又は無効審判請求をするなどしており、訴訟においては、原告標章の著名、周知性を認め、請求を認容した判決も言い渡されている。また、特許庁においても、原告標章との類似商標が商標法4条1項15号の「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当するとして拒絶された例も相当数みられる。
  (オ) なお、アメリカ合衆国又はフランスにおいては、商標「VOGUE」又は「La Vogue」を含む「VOGUE」の文字が表記された商標が多数登録されている。このうち、国際分類第16類の「Vogue/Knitting」、「VOGUE/HOMMES/international mode」、「TEEN VOGUE」、同第16類、18類及び25類の「VOGUE」は、原告アドバンスマガジン又はその関連会社が登録したものである。
 (2) 不正競争防止法2条1項1号における「混同」を生ぜしめる行為には、周知の他人の商品表示又は営業表示と同一又は類似のものを使用する者が、自己と上記他人とを同一の商品主体又は営業主体と誤信させる行為のみならず、自己と上記他人との間に同一の商品化事業を営むグループに属する関係が存するものと誤信させる行為をも包含し、混同を生ぜしめる行為というためには両者間に競争関係があることを要しないと解するのが相当である(最高裁昭和56年(オ)第1166号同59年5月29日第三小法廷判決・民集38巻7号920頁)。
 そして、このような混同を生ぜしめる行為といえるかどうかは、他人の商品等表示と自己の使用表示との類似性の程度、他人の商品等表示の周知著名性及び独創性の程度や、自己の表示の使用商品等と他人の業務に係る商品等との間の関連性の程度、取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、上記自己の表示の使用商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断すべきである。
 (3) これを本件について見ると、次のとおりである。
  ア 原告らの商品等表示である原告標章と被告標章は、前記第4の4で認定したとおり、類似している。被告標章は、その構成の一部に原告標章と同一の「VOGUE」、「ヴォーグ」という文字を明確に区別して認識できる態様で含む構成をとった結合標章であり、その他の部分は、定冠詞又は所在地を表す地名を付したものにすぎない。また、被告標章は、全体として1個不可分の既成の概念を示すものとはいえない。
  イ 原告標章は、前記第4の2で認定したとおり、原告らの発行する雑誌の記号を示すものとして、需要者に広く認識されていると認められ、この周知性の程度は極めて高いものである。
 もっとも、「VOGUE」は、「流行、はやり」を意味するフランス語に由来する英語の普通名詞であるから、造語による標章に比して、独創性の程度は必ずしも高くないと言わざるを得ない。上記(1)オ(オ)のとおり、アメリカ合衆国やフランスにおいて、「VOGUE」を含む商標が多数登録されている事実は、「VOGUE」という語が同国において普通名詞であることによる独創性の程度の低さに原因があるものと推認される。
 しかし、我が国においては、「VOGUE」という語は決して通常一般的に使用される語ではないこと、上記(1)オ(ア)(イ)(エ)のとおり、原告アドバンスマガジン及びその関連会社が法的手段を通じて、原告標章の希釈化防止を図る努力をしていること、上記(1)エのとおり、原告アドバンスマガジン及びその関連会社が原告標章について多数の防護標章登録を受けることにより原告標章の希釈化防止を図っていること、及び原告標章の極めて高い周知性からすると、上記(1)オ(ア)(イ)(ウ)で認定した他社による「VOGUE」標章の使用という事実にもかかわらず、原告標章の自他識別機能は、決して低いものとはいえないということができる。
  ウ 原告らの業務に係る商品は、ファッション雑誌「VOGUE」誌又は「VOGUE NIPPON」誌であり、被告が被告標章を使用する対象商品は本件マンションであって、両者の商品自体は類似するものとはいえない。しかしながら、上記(1)アで認定したとおり、「VOGUE」誌又は「VOGUE NIPPON」誌が高級なブランドイメージや都会的なファッションセンスのイメージを前面に押し出していること、上記(1)イで認定したとおり、近年デザイナーズマンションという高級で都会的でファッション性のあるマンションがもてはやされ、ファッション雑誌と建築が無縁ではなくなってきており、実際に「VOGUE NIPPON」誌で建築を扱ったこともあったことに加え、上記(1)ウで認定したとおり、被告が本件マンションをデザイナーズマンションと銘打ち、その高級感やファッション性を売り物にしていたことからすれば、両者の商品の間には、関連性が認められ、需要者についても共通する場合があるというべきである。そして、被告は、本件マンションを、まさに「VOGUE」誌及び「VOGUE NIPPON」誌が長年にわたり積み上げてきた高級でファッショナブルなイメージと同じイメージで販売していたものであるから、その関連性は相当程度存在するといえる。
 (4) 以上の諸事情、すなわち、原告標章の独創性は、アメリカ合衆国及びフランスにおいて普通名詞であったことから同国においては高くはないが、我が国においては、一般的に使用される語ではないこと、原告標章が長年にわたって使用され、周知性が極めて高いこと、原告標章が被告標章と称呼及び観念において同一であって、両標章が類似すること、両標章の使用される商品の間に関連性が認められ、需要者が共通し、本件マンションが「VOGUE」誌及び「VOGUE NIPPON」誌の高級でファッショナブルなイメージと同じイメージで販売されていること等を総合的に考慮すれば、被告標章は、これに接した需要者に対し、原告標章を連想させ、原告らと同一の商品化事業を営むグループに属する関係又は原告らから使用許諾を受けている関係が存するものと誤信させるものと認められる。
 (5) 被告は、第36類を指定役務として、「ラ・ヴォーグ南青山」について商標登録を受けている旨主張する。被告標章の使用行為が登録商標の使用であるとしても、上記商標登録については、現に無効審判が請求されている上、これを南青山に所在する建物の販売に使用するときは、上記商標の使用が原告らと広義の混同を生じさせるおそれがあるものといわざるを得ない。
 また、被告は、「vogue」と同一あるいは類似する商標が数多く登録されていることは、それぞれの指定商品及び指定役務において、原告標章と混同を生ずるものではないことを示唆するものである旨主張する。しかしながら、「vogue」を普通名詞とするアメリカ合衆国やフランスにおいて類似の商標が登録されているとしても、そのことは我が国における混同惹起の有無とは直接関係がないし、我が国における商標登録についても、原告らにおいて除斥期間の経過等の理由により無効審判を請求できなかったものも存在する。また、上記(1)オに認定した登録例についても、類似性が認められないものや、取引の実情を具体的に認定することが困難な審査の段階で登録が認められたものも存在する。そして、混同のおそれの有無は、取引の実情に照らして判断されるべきであることは前記のとおりであるから、他の指定商品及び指定役務において、「vogue」を含む商標が登録されているとしても、本件において混同の生ずるおそれがあるとした前記判断を覆すに足りない。

 6 争点(3)(損害)について
 (1) 被告は、被告標章を本件マンションの販売のために使用しているから、不正競争防止法5条2項1号に定める行為に対し通常受けるべき金銭の額は、本件マンションの売上高を基準にして算定されるべきである。
 本件マンションの総売上高は、25億4500万円であるところ、原告らは、この総売上高の10%が原告らの使用料相当損害額であると主張する。しかしながら、本件の対象商品は敷地権付きマンションであり、上記価格には、本件マンションの建物部分のみならず、敷地権についての価格も含まれ、建物部分の価格(建築費、設計料等)の総額は、9億5000万円である。
 また、マンションの取引においては、まず立地条件、建築内容及び価格等が購入に当たって検討する重要事項であって、マンションの名称はイメージとして多少の効果は否定し得ないものの、取引の際に大きな影響を与えるものとはいえない。したがって、本件においては、被告が原告らの商品等表示である原告標章に類似した被告標章を使用したことによって得られる利益ないし寄与割合は、必ずしも大きくないと解される。
 (2) 以上の諸事情を考慮し、本件マンションの建物部分の価格の総額9億5000万円の5%である4750万円をもって原告らの使用料相当損害額と認める。
 なお、原告らは、原告らの損害賠償請求権は、不可分債権又は連帯債権であると主張する。前記のとおり、原告らは、それぞれが「VOGUE」誌の発行によって結束した企業グループに属する者として原告標章を自己の商品等表示として使用しているのであって、原告標章を共有しているわけではなく、共有持分も観念できないことからすると、原告らは、いずれも単独で本件における被告の侵害行為により発生した損害全額について賠償を求めることができる。したがって、本件における原告らの不正競争防止法4条に基づく損害賠償請求権は、連帯債権であると解するのが相当である。

 7 結論
 以上の次第で、被告の行為は、不正競争防止法2条1項1号に該当し、これにより原告らの営業上の利益を侵害するものである。よって、その余の点につき判断するまでもなく、原告らの請求のうち、被告標章の使用差止め及び4750万円の損害賠償を請求する限度で理由があるからこれを認容し、その余は棄却することとし、訴訟費用に関する仮執行宣言については、相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。
〔論  説〕
 本件において裁判所は、不競法2条1項1号を適用したが、その根拠として旧法1条1項1号に規定する「商品等表示の主体」を広義に解した最高裁判所の昭和59年5月29日判決を引用した。
 しかし、これは旧法時代の広義解釈としては妥当なものと評価されていたが、この判例が根拠となって、現行法の改正時に2条1項1号のほかに同条項2号が新設されている以上は、本事件に対する適用規定は、原告が選択的に主張していた1号ではなく、2号とすることが妥当というべきであろう。
 2号であれば、商品等表示自体が著名なものでさえあれば、混同の結果は不要であるから、立証はきわめて容易になる。
 この判決に対しては控訴されたと聞いているが、適用規定の変更もあり得るかも知れない。しかし、最大の争点は損害額の算定であろう。

[牛木理一]