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カバン類事件:大阪地裁平成12年(ワ)8380号平成13年2月27日判決(棄却)

〔キーワード〕 
下げ札(タグ)、原産地誤認表示、品質誤認表示

 
〔事  実〕

 
 原告(L社)と被告(Y社)は、ともに各種バッグ・カバン・袋物の製造,輸入,販売を業とする会社である。
 被告は、別紙物件目録(一)記載の商品(以下、「被告商品1」と いう。)を販売するに当たり、別紙表示(5)記載の表示(以下「被告表示5」という。)、及び同表示をその一部に含む別紙表示目録(1)記載の表示(以下「被告表示1」という。)を付している。
 この事件は、被告が使用していた下げ札の表示がカバン等の外側と内側とで別異であったため、商品の原産地に誤認を与えるとともに品質の誤認を与えるおそれがあるかどうかが争われた事案である。
〈本件において、被告商品は1乃至4があり、被告表示もそれぞれ別々であったが、ここで紹介するものは、前記した被告商品1の一部と被告表示1の一件に限ることにした。〉
〔争  点〕
1 不競法2条1項12号の該当性
2 損害の額

 
〔判  断〕

 
1 争点1(不正競争防止法2条1項12号該当性)について
(1) 被告商品1について
ア 被告表示1は原産地誤認表示に該当するか。
 被告商品1には被告表示1が付されており、当該表示には、「LOS ANGELES CA.」という記載があるので、当該記載のみに着目すれ ば、被告商品1の需要者は、被告商品1の原産地を米国の(カリフォルニア州)ロサンゼルスと認識するおそれがあるといえる。
 しかし、ある表示が、不正競争防止法2条1項12号にいう原産地を誤認させるような表示に当たるかどうかを判断するに当たっては、当該表示のみに着目するのではなく、当該表示が付された商品全体を観察し、商品の需要者が、当該表示を商品の原産地表示と認識し、真の原産地と異なる地域を原産地と認識するおそれがあるかどうかを検討する必要があるというべきである。
 以上の観点から、被告商品1について検討するに、証拠と弁論の全趣旨によれば、1.被告表示1は、被告商品1に付けられている下げ札の表面であるが、そこには、上から順に、「bitch」というブランドロゴ、2人の人間のシルエットの 図柄(bitchのシンボルマークと考えられる)、「bitch skateboards」というブランド名の表示、「LOS ANGELES CA.」、「THIS PRODUCT IS MADE THROUGH AN AGREEMENT WITH BITCH SKATEBOARDS.」という英語の文章が記載されていることが認められること、2.下げ札の裏面には、小さいながらも「LICENCED BY CROWN F.G.CO.,LTD」 、「DISTRIBUTED BY YUBISHA SANGYO CO,.LTD」、「THIS PRODUCT IS MADE THROUGH AN AGREEMENT WITH BITCH SKATEBOARDS.」「TEL.(06)6458-3174」と記載されていることが認められる。
 以上の被告商品1に付された下げ札の記載からすれば、被告表示1のうち「LOS ANGELES CA.」という記載は、本来的には「bitch skateboards」というブランド主体の所在地を表示するものであるということができる。そして、今日において、カバン等の衣料品関連業界において、ブランド主体の所在地とその商品の原産地とが異なることは往々にしてあるところ、上記のように、被告商品1の下げ札表面及び裏面には、被告商品1がライセンス商品であることを示す比較的簡単で短い英語の記載があることが認められる。したがって、被告商品1の需要者は、被告商品1に付された下げ札の記載から、被告商品1が、「LOS ANGELES CA.」に所在する「bitch skateboards」自身が製造したものではないと理解するものと考えられる。
 また、被告商品1の内側に、「MADE IN CHINA」と記載されたタ グが付されていることについては、当事者間に争いがないところ、これは、被告商品1の原産地が中国であることを直接的に記載した表示であると認められる。もっとも、この表示は、被告商品1の内側に付されているもので、上記下げ札と比較して見にくい位置に付されていることは否定できない。しかし、証拠(検乙5ないし7)によれば、かばんの原産地をその内側のタグに記載した商品は、市場に複数存在することが認められ、一般的にも、衣料品関連商品において、原産地を外観から見えない商品の裏側や内側に記載することは、よく見られることである。そして、かばんを購入しようとする需要者は、かばんという物の性質上、かばんの外観のみならず、その内側の構造にも注目するものと考えられ、そうであれば、被告商品1の需要者は、被告商品1を購入するに当たって、その内側に付された上記タグの記載を見ることになるものと考えられる。
 以上の事実からすると、被告商品1の需要者は、被告商品1を購入するに当たって、通常、被告表示1が表示された下げ札全体と被告商品1の内側に付された上記タグを見るであろうから、当該商品の原産地を、中国であると認識する蓋然性が高く、少なくとも、被告表示1の「LOS ANGELES CA.」という記載から、被告商品1の原 産地を米国の(カリフォルニア州)ロサンゼルスと認識するおそれがあるとは認められないというべきである。
 したがって、原告の被告表示1が原産地誤認表示に該当するとの主張は認めることができない。
 なお、原告は、被告が、被告商品1の内側に付された上記タグの存在をもって、被告表示1が原産地誤認表示に該当しないと主張することは、禁反言の法理に反すると主張する。しかし、被告の同主張は、異なる商品についての法的評価に属する主張であるから、原告の主張は失当である。
イ 被告表示5は品質誤認表示に該当するか。
 被告表示5は、「THIS PRODUCT IS MADE THROUGH AN AGREEMENT WITH BITCH SKATEBOARDS.」であり、被告商品1が「BITCH SKATEBOARDS」の同意のもと製造されていることを表示している。
 ところで、今日において、商品のブランド主体ないし管理者が、商標の経済的利用態様の一つとして、一定の条件の下、商標のライセンシーに、当該商標を付した商品のデザイン等の開発自体を委ねることは、よく行われているところである。
 そうすると、単にブランド主体の許可のもと製造されていることを表示しているにすぎない被告表示5に接した需要者が、その記載から、直ちに被告商品1は、そのブランド主体である「BITCH SKATEBOARDS」自身が開発した商品であると認識するおそれがあるとは 認められない。
 したがって、被告表示5が品質誤認表示に該当するとの原告の主張は、その前提を欠き、失当である。
(2) 被告商品2について
ア 被告表示2は原産地誤認表示に該当するか
 証拠と弁論の全趣旨によれば、1.被告表示2は、被告商品2に付けられている下げ札の表面であるが、そこには、上から順に、イギリスの国旗、ブランド名である「KANGOL」、「ENGLAND」と記載されていることが認められること、2.商品の 下げ札裏面には、小さいながらも、「この商品は、イギリス、カンゴール社との提携により製造したものです。」という日本語の記載と、「DISTRIBUTED BY CROWN F.G.CO.,LTD.」、「COOPERATED WITH YUBISHA SANGYO CO,.LTD.」という英語の記載があることことが認められる。
 以上の下げ札の記載からすれば、被告商品2は、「KANGOLE」とは 別の者によって製造されたと認識できるのであって、本来的には、ブランド主体である「KANGOLE」の所在地を示す記載にすぎない、被 告表示2のイギリスの国旗や「ENGLAND」という記載から、被告商 品2の需要者が、被告商品2の原産地を英国と認識するおそれがあるとは認められないというべきである。
 したがって、原告の被告表示2が原産地誤認表示に該当するとの主張は認めることができない。
 なお、被告商品2の内側には、「MADE IN CHINA」と記載された タグが付されていることについては、当事者間に争いがないが、同タグは、被告商品2の内側ひだに折りたたまれており、実際には、「MADE IN CHI」までしか見えないから、それ自体が被告商品2の 真正な原産地を表示するものということはできない。しかし、被告商品2に付されている下げ札自体の記載から、被告表示2が原産地表示と認識されるおそれがあるといえないことは、上記記載のとおりであるから、被告商品2の内側に付された上記タグについての評価は、被告表示2が原産地誤認表示に該当しないとの判断を左右しない。
イ 被告表示6は品質誤認表示に該当するか
 被告表示6は、「Kangol is the registered trademark of Kangol Ltd.」「この製品は、イギリス、カンゴール社との提携により 製造したものです。」という記載であって、前者は、「Kangol」がカンゴール社の登録商標であることを示す記載にすぎず、後者も、被告商品2が、ブランド主体であるカンゴール社との提携の下に製造されていることを表示しているにすぎない。そうすると、被告表示5について判示したのと同様、被告表示6に接した需要者が、その記載から、直ちに被告商品2はカンゴール社が開発したものと認識するおそれがあるとは認められない。
 したがって、被告表示6が品質誤認表示に該当するとの原告の主張は、その前提を欠き、失当である。
(3) 被告商品3について
 証拠と弁論の全趣旨によれば、1.被告表示3は、被告商品3に付けられた下げ札の表面の一部であるが、その下げ札の表面には、上から順に、リスの図柄(ブランドのシンボルマークと考えられる。)、ブランド名である「CHOOP」、「Haight Street San Francisco U.S.A.」と記載されていること、2.商品の下げ 札裏面には、小さいながらも、「LICENCED BY CROWN F.G.CO.,LTD.」、「DISTRIBUTED BY YUBISHA SANGYO CO,.LTD.」、「TEL.(06)6458-3174」と記載されていることが認められる。そして、被告商品 3の内側に、「MADE IN CHINA」と記載されたタグが付されている ことについては、当事者間に争いがない。
 そうすると、被告商品1について判示したのと同様、被告商品3の需要者は、被告商品3を購入するに当たって、通常、被告表示3が表示された下げ札全体と被告商品3の内側に付された上記タグを見るであろうから、当該商品の原産地を中国であると認識する蓋然性が高く、少なくとも、被告表示3の記載から、被告商品3の原産地を米国のサンフランシスコと認識するおそれがあるとは認められないというべきである。
 したがって、原告の被告表示3が原産地誤認表示に該当するとの主張は認めることができない。
(4) 被告商品4について
 証拠と弁論の全趣旨によれば、1.被告表示4は、被告商品4に付けられた下げ札の表面であるが、そこには、上から順に、ブランド名である「E.G.SMITH」、「NEW YORK」と記載さ れていること、2.商品の下げ札裏面には、小さいながらも、「LICENCED BY CROWN F.G.CO.,LTD.」、「DISTRIBUTED BY YUBISHA SANGYO CO,.LTD.」、「TEL.(06)6458-3174」と記載されていることが認 められる。そして、被告商品4の内側に、「MADE IN CHINA」と記 載されたタグが付されていることについては、当事者間に争いがない。
 そうすると、被告商品1について判示したのと同様、被告商品4の需要者は、被告商品4を購入するに当たって、通常、被告表示4が表示された下げ札全体と被告商品4の内側に付された上記タグを見るであろうから、当該商品の原産地を、中国であると認識する蓋然性が高く、少なくとも、被告表示4の記載から、被告商品4の原産地をニューヨークと認識するおそれがあるとは認められないというべきである。
 したがって、原告の被告表示4が原産地誤認表示に該当するとの主張は認めることができない。
〔研  究〕
1. わが国市場に販売されている商品には、本件に類するような商標(ブランド)表示や原産地表示によって、消費者を困惑させるようなものが少なからずある。
 通常の消費者は、棚に並んでいるバッグやカバンに付けられている下げ札をまず見て、そこに印刷されているブランドとメーカー名と原産地などを知る。それを手に取り、内部を開いて見て構造についてもチェックするかも知れないが、そこに別の下げ札があってもあえて見ないことも多い。もしメーカーやディラーが当該商品は米国製ではなく中国製であるというのであれば、そのような下げ札は、顧客の目に付き易い外側に出しておき、原産地は中国であることを一目瞭然に知る手段を採るのが普通である。したがって、本件の場合にあっては、メーカーもディラーも、顧客に原産地の誤認を与えることを意識していたと疑われても仕方あるまい。
 したがって、需要者は、商品を購入するに当たって、通常、商品の内側に付されたタグを見て、そのタグの記載から原産地を中国と認識する蓋然性が高く、外部に付されたタグの記載から米国カリフォルニア州ロサンゼルスと認識するおそれはないと、裁判所が判断したことは、いかがなものかと思う。
2. 同判決は、判断の前提として、カバン等の業界では、ブランド主体の所在地と商品の原産地とが異なることは往々にしてあるといい、ライセンス商品であることを示す英語が記載されているから、「LOS ANGELES CA.」に所在する「bitch skateboards」自身が製造したものではないと理解すると認定したが、このような理解は通常の日本人の知識に基づくものとは思われない。(裁判官のレベルに基づくものかも知れない。)したがって、このような事実を裏付けるためには、被告は消費者からアンケートをとり、それを証拠とすべきであろう。
 メーカーもディラーも、消費者が一見して原産地を誤認するおそれのある下げ札の表示を避けるように指導するのは、消費者団体や公取委の任務というべきであろうが、裁判所にあっても、消費者が一見騙されそうな下げ札の表示に対しては厳しく説示すべきであろう。
3. 本件において、表示目録(2)には「ENGLAND」、同(3)には「San Francisco U.S.A.」、同(4)には「NEW YORK」との外国名や地名が明確に表示されているし、表示目録(5)の表示は英語であり、通常 の日本人ならあえて確認しようとはしない意味不明のものであることを考えれば、この判決の結論は妥当とは思われない。

[牛木理一]