C2-1

 

 

JACCSドメインネーム事件:富山地裁平成10年(ワ)323号平成12年12月6日判決(認容)〔控訴中〕

〔キーワード〕 
ドメインネーム、商品等表示、営業表示の著名性、登録先願主義

 

〔事  実〕

 

本件は、インターネット上で「http://www.jaccs.co.jp」というドメイン名を使用し、かつ、開設するホームページにおいて 「JACCS」の表示を用いて営業活動をする被告(N社)に対し、 「JACCS」という営業表示を有する原告(J社)が、被告による 右ドメイン名の使用及びホームページ上での「JACCS」の表示の 使用は、不正競争行為(不競法2条1項1号、2号)に当たると主張して、右ドメイン名の使用の差止め及びホームページ上の営業活動における右表示の使用の差止めを求めた事案である。
〔争  点〕
1 本件ドメイン名の使用が、不競法2条1項1号及び2号の「商品等表示」の「使用」に当たるか否か。
2 同法2条1項2号のその他の要件に該当するか否か。
(一) 原告の営業表示の著名性
(二) 本件ドメイン名と原告の営業表示との同一又は類似性
3 同法2条1項1号のその他の要件に該当するか否か。
4 本件ドメイン名の使用差止めの適否、本件請求は権利濫用か否。
5 ホームページ上の「JACCS」の表示の使用差止めの適否

 

〔判  断〕

 

一 争点1(本件ドメイン名の使用が不競法2条1項1号及び2号の 「商品等表示」の「使用」に当たるか否か)について
1 ドメイン名は、争いのない事実等2のとおり、特定のホームページ等に到達するためコンピューターに入力する記号であり、登録申請者は、アルファベットや数字といった限られた範囲の記号を選択して申請し、既に同一のドメイン名が存在しない限り、登録申請者のドメイン名として登録されるものであり、ドメイン名が、登録者の名称等登録者と結びつく何らかの意味のある文字列であることは予定されていない。
 しかし、ドメイン名が、常に登録者と結びつきのない無意味な文字列である訳ではなく、むしろ、登録者は、ドメイン名で使える文字を組み合せて、可能な限り、自己の名称等を示す文字列や登録者と結びつきのある言葉を示す文字列をドメイン名として登録している場合が多い。そして、インターネットを利用する者においても、ドメイン名に使用できる文字列が限定されていることやドメイン名の登録につき先願制が採られていることなどから、ドメイン名が必ずしも登録者の名称等を示しているとは限らないことを認識しながらも、ドメイン名が特定の固有名詞と同一の文字列である場合などには、当該固有名詞の主体がドメイン名の登録者であると考えるのが一般である。
 そして、このように、ドメイン名がその登録者を識別する機能を有する場合があることからすれば、ドメイン名の登録者がその開設するホームページにおいて商品の販売や役務の提供をするときには、ドメイン名が、当該ホームページにおいて表れる商品や役務の出所を識別する機能をも具備する場合があると解するのが相当であり、ドメイン名の使用が商品や役務の出所を識別する機能を有するか否か、すなわち不競法2条1項1号、 2号所定の「商品等表示」の「使用」に当たるか否かは、当該 ドメイン名の文字列が有する意味(一般のインターネット利用者が通常そこから読みとるであろう意味)と当該ドメイン名により到達するホームページの表示内容を総合して判断するのが相当である。
2 そこで、本件で、被告による本件ドメイン名の使用が「商品等表示」の「使用」に当たるか否かを検討するに、被告は、本件ドメイン名の登録を受けた後、別紙ホームページ画面(1)記 載のホームページを開設し、右画面には、「ようこそJACCSの ホームページへ」というタイトルの下に、「取扱い商品」、 「デジタルツーカー携帯電話」及び「NIPPON KAISYO,INC.」のリンク先が表示されており、右リンク先の画面において、簡易組立トイレや携帯電話の販売広告がされていた。右ホームページの表示内容(リンク先も含む。)は、携帯電話等の商品の販売伝をするものであり、右ホームページの画面には大きく 「JACCS」と表示されていて、ホームページの開設主体である ことを示しており、ドメイン名も「jaccs」で、「JACCS」のアルファベットが小文字になっているにすぎないことからすれば、この場合の本件ドメイン名は、右ホームページ中の「JACCS 」の表示と共に、ホームページ中に表示され た商品の販売宣伝の出所を識別する機能を有しており、「商品等表示」の「使用」と認めるのが相当である。
二 争点2(不正競争防止法2条1項2号のその他の要件該当性)について
1 原告の営業表示の著名性
証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
原告は、割賦購入あっせん等を主たる事業とする株式会社であり、平成10年7月1日時点で、全国に124の支社・支店・営業所を有していた。かつての商号は「北日本信用販売株式会社」であったが、昭和51年4月、「株式会社ジャックス」に商号変更したものである。「ジャックス」は、「JAPAN CONSUMERS CREDIT SERVICE」からとったもので、英文では「JACCS CO.,LTD.」と表記することとした。同じころ、本件商標を社名変更案内に表示したのを初めとして、現在に至るまで、原告の発行するクレジットカード、新聞広告・パンフレット・テレビコマーシャル及び原告従業員の名刺等には必ず本件商標を表示してきた。また、原告の発行するクレジットカードには「JACCS CARD」と表示されている。原告は、昭和51年11月に東京証券取引所二部市場へ上場し、昭和53年9月には、同一部市場に指定替えとなった。また、同じころから現在に至るまで、全国ネットのテレビコマーシャルを放映し、一般消費者に対し、その営業の宣伝を行ってきた。右テレビコマーシャルにおいては、最後に、本件商標が表示されるとともに、「ジャックス」又は 「ジャックスカード」という音声が流れるものであった。そして、本件商標は、「J」、「A」、「C」、「C」、「S」を図案化したものであるが、「JACCS」というアルファベットを示すものであることは一見してわかるものであり、これを「ジャックス」と称呼することも、一般消費者に認識されていた。原告は、本件商標につき、平成9年ころ、指定役務を「36 債務の保証、金銭債権の取得及び譲渡、クレジットカード利用者に代わってする支払代金の精算、資金の貸付、割賦販売利用者に代わってする支払代金の精算、生命保険契約の締結の媒介、損害保険契約の締結の代理、集金代行」として、商標登録を受けている。また、原告は、平成六年には、別紙商標2記載の登録商標につき、指定役務を「35 広告用具の貸与、タイプライター・複写機及びワードプロセッサの貸与」、「38 電話機・ファクシミリその他の通信機器の貸与」、「42 電子計算機のプログラム設計・作成または保守、電子計算機の貸与」として、それぞれ商標登録を受けている。
 以上の事実によれば、遅くとも、被告が本件ドメイン名を使用した平成10年までには、「JACCS」という表示は、原告の営業表示として著名となっていたものと認められる。
2 本件ドメイン名と原告の営業表示との同一又は類似性
 本件ドメイン名は、「http://www.jaccs.co.jp」であるが、前記のとおり、「http://www.」の部分は通信手段を示し、「co.jp」は、当該ドメインがJPNIC管理のものでかつ登録者が会社であることを示すにすぎず、多くのドメイン名に共通のものであり、商品又は役務の出所を表示する機能はなく要部とはいえず、本件ドメイン名と原告の営業表示が同一又は類似であるかどうかの判断は、要部である第三レベルドメインである「jaccs」を対象として行うべきである。
 そこで、「JACCS」と「jaccs」とを対比すると、アルファベットが大文字か小文字かの違いがあるほかは、同一である。そして、実際上、小文字のアルファベットで構成されているドメイン名がほとんどであることに照らせば、大文字か小文字かの外観の違いは重要ではないというべきである。
 したがって、原告の営業表示と本件ドメイン名は類似する。
3 以上より、本件における、被告の本件ドメイン名の使用は、不競法2条1項2号の不正競争行為に該当する。
三 争点4(本件ドメイン名の使用差止めの適否、本件請求は権利濫用か否か)について
1 本件では、被告による本件ドメイン名の登録及び使用をめぐり、次のような事情が認められる。
(一) 被告は、平成10年7月中旬ころ、原告代表者及び原告の取締役らに対し、被告が本件ドメイン名を登録した旨及び「御社が将来的に損失を被る恐れ有りとお考えの節は、譲渡又はレンタルそのものに応じる形もあろうかと思います。」などと記載した書面を送付したほか、原告が本件訴訟を提起した平成10年11月27日までの間に、「ドメインの重大性にお気付きの役員もおられることを思い、端株を持つ者として心強くも感じられます。」などと記載した書面や、「御社にとりましては、ネット上は不自然でみっともない形になっておる」、「このままの状態を放置すれば、世間の物笑いの種とも成りかねません。」などと記載した書面を送付しており、原告に対し、本件ドメイン名の対価として金銭を要求していたものと認められる。
(二) 被告は、約10社の賛同を得て企業家支援集団を結成し、これを「japan associated cozy cradle society」と名付け、その略称として本件ドメイン名を登録した旨主張しているが、「cozy cradle」(ここちよい揺りかご)と他の単語との結びつきはあまりに唐突であって、右名称自体が不自然である上、被告の開設した当初のホームページの内容(争いのない事実等4(一)、別紙ホームページ画面(1))では、右名称の企業家支援集団が当該ホームページを開設している趣旨は全く表れておらず、むしろ、「JACCS」のみが強調されたかたちになっている。また、弁論の全趣旨によれば、被告がホームページの内容を変更して「JACCS」の表示の下に「ジェイエイシーシーエス」のふりがなを記載したり(争いのない事実等4(二)、別紙ホームページ画面(2))、「JACCS」が右名称の企業家支援集団の略称を表すことを記載した(争いのない事実等4(三)、別紙ホームページ画面(3))のは、本件訴訟提起後であることが認められる。このようなことからすれば、被告による本件ドメイン名の登録は、偶然ではなく、原告の営業表示である「JACCS」と同一であることを認識しつ つ行われたと認められる。そして、本件ドメイン名の登録後間もなく、前記(一)のとおり、原告に対し、本件ドメイン名に関して金銭を要求していることからすれば、被告は、当初より、原告から金銭を取得する目的で本件ドメイン名を登録したものと推認せざるを得ない。
2 本件における右のような事情及び被告が本件ドメイン名の使用が不正競争行為に当たることを争っていることに照らせば、被告は、本件ドメイン名の使用を今後も継続するおそれがあるというべきであり、原告の営業表示と混同されたり、原告の営業表示の価値が毀損される可能性があり、したがって、原告の営業上の利益が侵害されるおそれがあると認められる。
よって、被告による本件ドメイン名の使用を差し止めるべきである。
3 権利濫用について
 被告は、完全な先願主義が採られているドメイン名の登録について先願申請の努力をしなかった原告が、自己の営業表示の著名性等を理由に、先願登録した被告の本件ドメイン名の使用を差し止めるのは権利の濫用である旨主張する。
この点、前記のとおり、JPNIC管理のcoドメインについては 完全な先願主義が採られているが、そのことと、本件ドメイン名の使用が不正競争防止法に触れ裁判所により差し止められるか否かとは別個の問題であり、JPNICにおいても、ドメイン名 の使用の差止めを命ずる確定判決等の提出があればドメイン名の登録を取り消すことができるとしていること(「ドメイン名登録等に関する規則」30条(3))をも考慮すると、ドメイン名 の登録が先願主義であることをもって、ドメイン名の使用の差止め請求を阻止することはできないというべきである。そして、原告が先願申請の努力をしていないという点についても、本件における被告のドメイン名の登録・使用をめぐる事情(前記1認定の事情)に照らせば、右の点は権利濫用と評価される事情とは言えない。
また、被告は、原告は「jaccscard.co」ドメインを使用してインターネットでの活動をしており、本件ドメイン名を使用できなくても不都合はない旨主張するが、本件で、原告が被告に対し本件ドメイン名の使用の差止めを求めるのは、原告が本件ドメイン名を使用できないことを理由とするものではなく、被告による本件ドメイン名の使用が原告に対する不正競争行為に当たること(原告の「JACCS」という営業表示の価値の毀損等 )を理由とするものであるから、原告が「jaccscard.co」ドメインを登録・使用しているからといって、本件ドメイン名の使用差止めを求める必要性がないということにはならない。  以上によれば、本件ドメイン名の使用差止めを求めることは権利濫用には当たらない。
四 争点5(ホームページ上の「JACCS」の表示の使用差止めの適否)について
1 前記のとおり、原告の営業表示「JACCS」は著名であり、右営業表示と、争いのない事実等4(一)(別紙ホームページ画面 (1))のホームページに表れた「JACCS」の表示とは同一であると認められる。なお、被告は、被告のホームページ上の表示と本件商標とを対比して種々主張しているが、対比すべきは原告の「JACCS」という営業表示(本件商標の字体や色に限定されない。)であるから、右主張は採用できない。
そして、ホームページ上の営業活動に「JACCS」の表示を使用することが「商品等表示」の「使用」に当たることは明らかであるから、被告が右ホームページ上で「JACCS」の表示を使用した行為は、不競法2条1項2号の不正競争行為に該当する。
2 前記三1記載の事情に照らせば、被告が、ホームページにおける営業活動に「JACCS」の表示を再び使用するおそれもあるから、前記三2と同様に、原告の営業上の利益が侵害されるおそれがあると認められる。
 したがって、被告がホームページによる営業活動に「JACCS」の表示を使用することを差し止めるべきである。
〔研  究〕
1. 判決は、被告が、原告の著名な標章「JACCS」を無断で自社のドメインネームとして登録し使用している行為は、不競法2条1項2号に規定する不正競争行為と認定して、「JACCS」の表示の使用禁止と登録ドメイン名「http://www.jaccs.co.jp」の使用禁止を命令したが、妥当である。
 けだし、被告のドメイン名の登録は、同名のものをすでに原告が商号と商標(サービスマーク)において使用していることを、被告は承知していたにもかかわらず行ったという「悪意の登録」であったし、被告は登録後間もなく、原告に対し、本件ドメイン名について金銭的要求をしている事実のあることは、当初より原告から金銭を取得する目的で登録していたものと推認されたとしても、肯認できるからである。
2. ドメインネームの登録を民間団体に一任していたところに問題があったといえるから、これを特許庁における登録に集中させることによって、悪意の登録を阻止することができ、その登録申請に対して拒絶又は無効にすることが容易にできるようになるといえる。したがって、商標法の若干の改正が近い将来必要である。

[牛木理一]