C1-7

 

 

「婦人用補整下着」商品形態・損害賠償請求事件: 大阪地裁平成6(ワ)9932号.平成11年3月18日判決(棄却)

〔キーワード〕 
商品の形態、模倣、営業上の利益、一般の不法行為、営業上の利益を侵害する積極的意図、過失

 

〔判示・認定事項〕 

  1. 特別法たる不正競争防止法に基づく差止めや損害賠償が認められない場合であっても、一般の不法行為に基づく損害賠償が認められることはあり得るところである。しかし、自由競争を基本とする社会にあって、一定の行為を不正競争行為として事業者間の公正な競争を確保することが不正競争防止法の趣旨であるところ、新法の施行前に他人の商品の形態を模倣した商品の販売等をする行為の場合にあっては、先行商品の完全な模倣品を、先行商品の販売と競合する販売形態で廉価に販売し、あるいは先行商品の販売者との契約に基づき模倣商品や類似商品の販売をしてはならない義務を負う者が、契約上の義務に違反して模倣商品を販売する行為に、そのような事情を知りながら積極的に加担するなど、著しく不公正な営業活動と評価されるような場合であって初めて、一般の不法行為を構成することがあり得るものというべきである。
  2. 被告ら商品が原告商品の形態を模倣したものであるか否かは、形態上の相違点をその共通点との関係でいかに評価するかによって、結論を異にすることになるが、仮に被告ら商品の形態が原告商品の形態を模倣したものであるとしても、被告らに事情に基づく故意又は過失がなければ、被告らの不法行為責任を肯定することはできない。
  3. 補整下着に限らず、製品の開発や改良のために他社製品を購入し、場合によっては解体する等して研究し、それを参考としてより優れた商品を開発していくこと自体は、特段不公正な競争手段でもなく、補整下着の業界においてもよく採られる開発手法であると認められるから、被告らは原告商品をあくまで叩き台として発注を受けたにすぎないこと、商標自体は格別周知とはいえなかったことを併せ考えれば、被告らが元見本たる原告商品にどのような商標が付されていたのかについて特段の関心を払っていなかったというのも自然なことであり、被告らが、自分たちが形態模倣品を製造しようとしているとの認識を有していたとは認め難い。
  4. 被告らはいずれもAF社を源として順次被告ら商品の製造の発注を受けたもので、その契約の本旨は、発注者たるAF社の意向どおりの物を製造し、納品することにあって、発注者の意向に背けば契約違反の責任を問われる危険を常に負担している状況にある。しかも、被告らは、元見本たる原告商品を叩き台として被告ら商品の製造に関わっていたのであり、仮に被告ら商品が原告商品の形態模倣品であるとしても、それはその後のAF社の指示よって模倣の要素を強められていったからであり、当初の被告らの認識とは外れて行ったものであるといえる。
  5. このような被告らの置かれた立場や状況を勘案すれば、AF社が被告ら商品を販売したことについて、AF社自身は、原告との間の代理店基本契約に基づく義務に違反したものとして、原告に対する損害賠償責任を免れないと評価できるとしても、被告らについては、新不正競争防止法の施行前に被告ら商品の販売等に関与したものであって、AF社の行為に関わった態様においても、著しく不公正な営業活動であったとまではいえないから、被告らには不法行為責任を認めることはできない。

 

〔事  実〕

 

 原告(AJ社)は、婦人用下着の企画、製造、販売及び輸出入を主たる業とする株式会社で、平成4年4月1日から、別紙物件目録(一)の1ないし7記載の補整下着(以下、順に「原告商品 1」等といい、総称するときは「原告商品」という。)に「マリアマリアン」のブランド名を付して販売している。
 被告(R社)は平成6年3月から同年8月の間、別紙物件目録(二)の1ないし7記載の補整下着(以下、順に「被告ら商品 1」等といい、総称するときは「被告ら商品」という。)を製造し、被告(D社)に販売し、被告D社は被告ら商品を被告(B社)に販売し、被告B社は被告ら商品を訴外T社を通じて訴外AF社に販売した。AF社は、平成6年5月から、被告ら商品に「ルネローラン」のブランド名を付して販売を開始した。AF社は、原告商品についての九州地区による販売代理店でもあった。これに対し、原告は、被告ら商品は原告商品を完全に模倣したもので、元注文主であるAF社の行為は、原告との間の代理店基本契約に反する著しく不公正な行為で、原告に対する債務不履行又は不法行為を構成し、被告らには、被告ら商品の製造販売を行いAF社の行為に加担したことにつき故意過失があるから、原告が被った損害を賠償する義務があると主張し、民法709条に基づく損害賠償の支払いを請求した。被告らへの損害賠償の請求額は、各自8,000万円であった。

〔争  点〕

1 被告ら商品は、原告商品の形態を模倣したものであるか。
2 被告R社は、被告ら商品の製造、販売に加担したことにつき故意又は過失があるか。
3 被告D社は、被告ら商品の製造、販売に加担したことにつき故意又は過失があるか。
4 被告B社は、被告ら商品の製造、販売に加担したことにつき故意又は過失があるか。
5 被告らが、原告に対し損害賠償義務を負う場合に支払うべき金銭の額。

 

〔判  断〕

 

一1 本件は、被告らが、原告商品の形態を模倣した被告ら商品の製造販売に加担し、それにより原告の営業上の利益を侵害したとして、原告が被告らに対し、不法行為に基づいて損害賠償を請求している事案であるが、各被告が、どのように被告ら商品の製造販売に関与したかについては、被告B社はAF社から、被告D社は同B社から、被告R社は同D社からそれぞれ被告ら商品製造の注文を受けたのであり、被告ら商品の最終的な注文主(元注文主)が、原告の九州地区における販売代理店であったAF社であり、被告ら商品を消費者に販売したのもAF社であることについては当事者間に争いはない。
 不正競争防止法(平成5年法律第47号)は、先行する他人の商品の形態を模倣した商品を販売等してその営業上の利益を侵害する行為を新たに不正競争行為とし(同法2条1項3号)、差止め及び損害賠償の対象とした(同法3条、4条)が、同時に、同法の施行(平成6年5月1日)前に開始された同法2条1項3号に該当する行為については、同法に基づく差止めや損害賠償の対象とはならないものとしている(同法附則3条2号)。もとより、特別法たる不正競争防止法に基づく差止や損害賠償が認められない場合であっても、一般の不法行為に基づく損害賠償が認められることはあり得るところであるが、自由競争を基本とする社会にあって、一定の行為を不正競争行為として事業者間の公正な競争を確保することが不正競争防止法の趣旨であり、その同法が右のような規定を置いていることを勘案すれば、同法の施行前に他人の商品の形態を模倣した商品の販売等をする行為の場合にあっては、先行商品の完全な模倣品を、先行商品の販売と競合する販売形態で廉価に販売し、あるいは先行商品の販売者との契約に基づき模倣商品や類似商品の販売をしてはならない義務を負う者が契約上の義務に違反して模倣商品を販売する行為に、そのような事情を知りながら積極的に加担するなど、著しく不公正な営業活動と評価されるような場合であって初めて、一般の不法行為を構成することがあり得るものというべきである。
2 ところで、〈証拠〉及び弁論の全趣旨によれば、原告商品と被告ら商品とを対比すると、基本的な形状及び模様がそれぞれ酷似していることに加え、1.色彩がシルバーグレーであること、2.身生地に品番24880の綿混トリスキン(商品1・2・5・6)又はパワーネット(商品3・4・7)を使用していること、3.広幅レースを用い、その辺に細幅レースを飾り付けていること等の点において形態が共通しているが、他面、(a)原告商品1・2・3はいずれもフロントレースがカップ下部から始まっているのに対し、被告ら商品1・2・3ではカップ脇から始まっていること、(b)被告ら商品5・6及び原告商品5・6はいずれも前面上縁から股下に向けてV型にレース部分が配されているところ、原告商品5・6のレース部分に比較して被告ら商品5・6のレース部分がやや大きいこと、(c)被告ら商品7及び原告商品7はいずれも前面全体にV型に幅広のレースが配されているところ、原告商品7のレース部分は被告ら商品7のレース部分に比較してやや大きいこと等の点において形態が相違していることが認められる。このような相違点の存在からすれば、被告ら商品の形態が原告商品の形態と全く同一とまでいうことはできない。したがって、被告ら商品が原告商品の形態を模倣したものであるか否か(争点1)は、右のような形態上の相違点をその共通点との関係でいかに評価するかによって、結論を異にすることになる。
 しかし、仮に被告ら商品の形態が原告商品の形態を模倣したものであるとしても、被告らに右1でいうような事情に基づく故意又は過失がなければ、なお被告らの不法行為責任を肯定することはできない(争点2、3、4)。そこで、争点1を判断するに先んじて、争点2、3、4について判断する。
二 各項掲記の証拠のほか、〈証拠〉、〈証人〉の各証言、被告 B社代表者MH本人尋問の結果(いずれも後記認定に反する部分を除く。)によれば、次の事実を認めることができる。
1 原告は、原告商品の販売に先立ち、平成4年3月25日、AF社(但し、同会社は当時設立手続中であったため、設立後同会社の代表取締役になるUSが代表者をしていたM社の名義を使用)との間で、代理店基本契約を締結した〈証拠〉。同契約においては、原告がM社(実質的にはAF社)は、「マリアマリアン」ブランドの原告商品を継続的に売買し、M社は原告商品を誠意をもって販売することを約束し、著しく名誉、信用を失墜させる行為をしないことを誓約する旨の条項が定められていた。
2(一) 平成5年7月ころ、被告B社の代表者MHは、被告B社の商 品を売り込むため、KMと一緒にAF社を訪問し、被告B社の取り扱っている商品の説明をした。MHは、当時AF社が原告の販売代理店であることを知らなかった。その後、MHは、再度AF社を訪問し、その際被告ら商品の製造の注文を受け、元見本として原告商品を受け取った。
(二) そして、被告B社は、被告ら商品の製造を、従前から補整下着の製造を請け負っていた被告D社に下請けに出した。また、被告D社は、以前から取引のあった被告R社に被告ら商品の製造加工を委託した。なお、これら被告B社から被告R社まで被告ら商品の製造が下請けされていく過程においては、元見本となった原告商品が順次引き渡されただけで、型紙(パターン)の交付はされなかった。
(三) 同月30日、被告B社は、被告D社に対し、生産する品目(生産アイテム)、生産するサイズの範囲(サイズレンジ)、月平均生産枚数などの大枠及び生産スケジュールの指示をした。
3(一) 被告D社は、被告B社からの話を受けて、MT社やU等に対して、身生地の引き合いを出した。被告D社では、一連の交渉は、I社から出向して専務取締役の地位にあったKが担当した。
(二) 同年7月29日、MT社は、被告D社の右引き合いに対し、トリスキンのうち、品番23800、同23480、同24600、同24680についてその使用糸種及びデニール、混率、単価を記載した見積書を提出した〈証拠〉。右品番にかかるトリスキンは、いずれも綿混でないナイロントリスキンであった。
(三) 被告D社では、このようにして身生地の調達を進めていたが、被告B社から、綿混トリスキンを調達するよう指示がなされた。
(四) そこで、同年8月初め、被告D社は、I社を通じて、MT社に綿混トリスキンの引き合いをした。この際、MT社は原告商品に使用しているのと同一の品番24880の綿混トリスキンについて、その品番を指定して引き合いを受けたが、右品番の綿混トリスキンはMT社と原告及びO社(原告商品の製造会社)が共同で開発したもので、無店舗販売の補整下着業界の同業他社には供給しない旨を原告との間で約束していたことから、右引き合いの最終製品が補整下着(無店舗)か、有店舗(デパート、スーパー等)用か確認できなかった
ことから引き合いに応じなかった〈証拠〉。
(五) 他方、同年8月5日、Uは、被告D社からの前記(一)の引き合いに対し、トリスキンのうち、品番22024、同4025、同45280、同4791につき、単価のほか、糸使い、ゲージ、規格、物性、パワー等の記載された品質・性能表を添付して回答した〈証拠〉。
4(一) 同年8月5日、被告D社は、被告R社に対し、「先日送らせて頂いたB社様の新企画の見本の件ですが、パターン作成の際、下記の点を加えて下さい。」で始まる文書を送付した 
〈証拠〉。
(二) 同月20日、被告D社は、被告R社に対し「MOE企画9/6納期でお願いしているFirst Sample下記明細でお願いします。」で始まる文書を送付した〈証拠〉。このMOEとはこの当時のAF社の社名(M社)であるが〈証拠〉、サンプルの明細としては、MT社とF社から取り寄せた両素材についてサンプルを作成するよう指示されている。
(三) 同月31日、被告D社と被告R社は、委託加工契約を締結し、委託加工契約書に調印した〈証拠〉。
(四) 同年9月1日、被告R社は、被告D社に対し、MT社のトリスキン及びF社のトリスキンタイプの双方について、用尺見積を提出した。
(五) 同月7日、被告D社は、被告R社に対し、「B社サンプルの件、下記の通りお願いします。」で始まる文書を送付した〈証拠〉。そこでは、MOE企画のサンプルは、ボディスーツとブラジャーを各一点ずつ、生地はナイロントリスキンを使用すること等が指示されている。また、同時に被告B社にサンプルを作成する企画として、MOE企画のほかにピンク企画も指示がなされている。ピンク企画とは、MOE企画と並行的に開発が進められた企画であるが、MOE企画のパターンを流用し、F社の生地を使用すること等の指示がなされており、MOE企画の色違いともいえる企画であった。
5(一) 同月16日、被告D社は、AF社のUS及びSとはじめて会い、その上で、作成されたサンプルを基に被告B社と打ち合わせを行った。その際、被告D社は、元見本からの変更箇所、MT社のトリスキンを使用すること、色彩、64ゲージの生地を8反ほど準備するようにとの指示を受けた。
(二) また、同日、被告D社は、右の打ち合わせ結果に基づき、被告R社に対し、「B社様、“MOE企画”のアイテムに関してのパターン修正箇所を御連絡致します。」で始まる文書を送付した〈証拠〉。そこでは、7種類の商品について詳細な修正指示が記されているが、ウエストニッパーについては「山をもう少し付ける(元見本通りにする。)」、ボディースーツについては「クロッチ部分を上に上げる。元見本より下になっている。」との指示もあった。
(三) 同月21日、被告D社は、被告R社に対し「先日送って頂いたPINK企画のサンプルありがとうございました。各アイテムごとに修整が有りますので、御連絡致します。」で始まる文書を送付した〈証拠〉。ここでは、ピンク企画の7種類の商品について細かな修整指示がなされているほか、「先にMOE企画の修正を報告致しましたが、MOEの方は身生地の手配に時間が掛るので、PINK企画の方を先にお願いします。身生地は何とか10/末を目標に調整しています。」と記載されている。
6 同年10月ころ、被告D社は、AA社に、綿混トリスキンの入手を依頼した。そして、MT社は、AA社から、品番24880のトリスキンにつき品番指定で引き合いを受け、店販用であるとの確認をとった上で、同年12月に生機(染色前の状態)で出荷
した〈証拠〉。
7 同年10月14日、被告D社は、被告B社と打ち合わせを行い、各品目(各アイテム)の生産数量、レースや付属品についての指示を受けた。
8(一) 同年11月11日、被告D社は、AF社のUS及びSも交えて被告B社と打ち合わせをし、提出した各品目(アイテム)の見本の修正箇所の指示を受けた。
(二) 同日、被告D社は、右指示を受けて被告R社に対し、「“MOE企画”の第2回修整です。各アイテムの修整箇所、下記の通りです。」で始まる文書を送付し、被告B社からの指示を伝えた〈証拠〉。右文書では、各商品について細かな指示がなされているが、原告商品の形態に近づける内容の指示がある上、最後には、「全て作成したサンプルとMOEの見本サンプルを送りますので、見本サンプルと比べて修正箇所を確認して下さい。」「トリスキン:パワーネットは11/15に出荷可能です。修整後のサンプルは何日上りが可能でしょうか?」と記載されている。
9 同年12月頃、AF社は、第1回の注文として、上代ベースで約5億円の発注をした〈証拠〉。
10(一) 同年12月21日、被告D社は、被告B社のMHとともにAF社に出向いたところ、11月に受けた指示(前記8)に基づき修正して提出した見本について、再度修正の指示を受けた。
(二) 同月22日、被告D社は、右再度の修正指示に基づき、被告R社に対し、「B社向け“MOE企画”ですが、またしても修正になってしまいました、各アイテム別修正事項は別紙 6枚のとおりです。S/GはOKでした。」で始まる文書を送付して、指示の内容を伝えた〈証拠〉。この内容も6枚の用紙にわたって詳細な指示がなされているものであった。
11 平成6年1月7日、被告D社は、被告R社に対し「〈MOE企画〉B.S.シュパーのFrontレース位置」のコメントと商品の部分をコピーして「エッジレース」との書き込みのある文書を送付した〈証拠〉。
12(一) 同年1月25日、被告R社のFM及びMは、AF社の仮事務所に赴き、サンプルを試着したモデルからその意見を聞くとともに、AF社から更なる修正の指示を受けた〈証拠〉。
(二) 同年2月、MT社がAA社に出荷した品番24880のトリスキンが、被告D社を通じて被告R社に納入された〈証拠〉。
(三) 同月3日、被告D社は、AF社からの更なる修正指示に基 づき作製した見本を被告B社に提出した。
(四) 同月10日、被告D社は、被告B社から右見本についてカップ容量の変更の指示を受け、被告R社に指示の内容を伝えた。
(五) 同月19日、被告R社は、右指示に基づいて作製した見本を被告B社に提出した。
13 同月28日、被告D社は、被告B社と交渉し、納入価格を決定して、正式に契約を締結した。
14(一) 同年3月31日、被告D社は、被告R社に対し、セールス用のサンプルをAF社に直送するように指示した。
(二) 同年4月1日、被告D社は、被告R社に対し、モデル着用のサンプルをAF社に直送するよう指示した。
(三) 同月26日、被告D社は、被告B社から初回分の出荷を指示され、同月28日、AF社に直送した。以後、第1回の発注分については、何度かに分けて納品された。
(四) 被告ら商品は、同年5月ころから、販売が開始された。
15(一) 同年6月23日、AF社のUS、S、AF社の関連会社から2名、被告D社のS及び被告B社のFMの計6名が被告R社を訪問した。被告ら商品のカップの容積が足りないというクレームの原因究明のため、フィッティングしてポラロイドカメラで写真を撮るとともに、セールスサンプル及び生産サンプルを分解した〈証拠〉。
(二) 同月30日、被告R社は、被告D社に対し、この分解に基づく見解を報告した〈証拠〉。
16(一) 同年6月ころ、原告からI社に対し、被告ら商品の件で警告書が送られた。
(二) 同年7月1日、原告及びO社は、I社の仲介の下、被告D社に対し、第1回発注分に係る被告ら商品のうち、被告D社が在庫として抱えている分(売価として約3000万円相当)を出荷しないよう要請し、被告D社は、O社の依頼を受け、被告ら商品を問題が解決するまで出荷しない旨の文章を書いた〈証拠〉。
(三) また、I社は、被告D社が抱える在庫を引き取り、O社に販売するかたちで仲介を試みたが、被告B社及び被告D社の了解が得られなかった〈証拠〉。
(四) その後、被告D社は、被告B社に対し、その在庫に係る被 告ら商品を出荷した。
(五) AF社からは、同年6月又は7月ころ、被告B社に被告ら商品の第2回発注がなされたが、被告B社及び被告D社は、その要請に応えることはなかった。
三 右認定の事実を前提に、被告らの不法行為責任の有無について検討する。
1 まず、被告らがAF社から被告ら商品の発注を受けた際に、元見本たる原告商品に基づいてどのような発注を受けたのかについて検討するに、前記認定の事実によれば、原告が原告商品の形態上の重要な特徴であると主張する身生地の点については、被告らが、当初から原告商品に使用されているMT社の綿混トリスキンを被告ら商品の身生地として念頭に置いていたわけではなく、むしろ、被告D社が当初に引き合いに出したのは、
綿混でないナイロントリスキンであったことが認められる。また前記認定の事実によれば、被告ら商品は、前記二のとおり、平成5年9月16日、同年11月11日、同年12月21日、平成6年1月25日、同年2月10日の5回にわたる修正を経て最終的に現在の形態、身生地、色彩になったこと、右修正は被告B社を通じAF社が被告D社、同R社に指示したものであること、右修正指示は被告ら商品の形態がより原告商品の形態に近づく内容の詳細
なものであったこと、被告らはいずれも指示どおりに見本を修正したことが認められる。
 これらの事実からすれば、被告らは、元見本を叩き台として補整下着を製造することの注文を受けたのであって、元見本と同一のものを製造することの注文を受けたのではないと推認することができる。そして、被告らは、AF社の指示に従って被告ら商品の製作に当たったのであって、被告ら商品には被告らの考えや意見はほとんど取り入れられていないというべきである。
2 次に、被告らが当初に有していた認識について検討するに、確かに被告らには元見本として原告商品が提供されていたことは前記認定事実のとおりであり、右提供された原告商品には「マリアマリアン」のプリントネームが付いていたものと推認される。しかし、本件において、そのことを被告らが明確に認識していたか否かは明らかではない。また、補整下着に限らず、製品の開発や改良のために他社製品を購入し、場合によっては解体する等して研究し、それを参考としてより優れた商品を開発していくこと自体は、特段不公正な競争手段でもなく、前記証人らの証言からすれば、補整下着の業界においてもよく採られる開発手法であると認められる。このような状況を前提として、前記のとおり被告らは原告商標をあくまで叩き台として発注を受けたにすぎないこと、マリアマリアンという商標自体は格別周知とはいえなかったこと(前記各証人らの証言)を併せ考えれば、被告らが元見本たる原告商品にどのような商標が付されていたのかについて特段の関心を払っていなかったというのも自然なことであり、被告らが、自分たちが形態模倣品を製造しようとしているとの認識を有していたとは認め難い。
3 以上からすれば、当初から被告らに、形態模倣品を製造して、原告の営業上の利益を侵害する積極的意図があったといえないばかりか、右の事情を知りつつあえて被告ら商品の製造に関与したということもできない。ところで、原告は、元見本として原告商品が提供されて、右提供された原告商品には「マリアマリアン」のプリントネームが付いており、元注文主であるAF社以外の者の商品であることを知ることは容易であったから原告(注・被告の誤まりと思われる。)には過失があると主張するが、2で述べたことからすれば、仮に元見本の製造販売者と元注文主とが同一ではないことが判明したからといって、製造の注文を受けること自体が違法となるとまではいえない。また、原告は、旧商品のモデルチェンジであれば当然型紙が存在するにもかかわらず、これを確認していないとか、「廃番になった」との言を安易に信じたという点も挙げて被告らには過失があったと主張するが、型紙自体にはその保存期間が法定されているわけではないこと、旧商品といっても何年前のものか明らかでなく、古いものであれば型紙自体を廃棄していたとしてもさほど不自然でないことを考慮すると、旧商品のモデルチェンジであれば当然型紙が存在するにもかかわらず、これを確認していないことや、「廃番になった」との言を信じたことをもって直ちに過失があるということは困難である。よって、原告の主張はいずれも採用できない。
4 もっとも、仮に被告ら商品が原告商品の形態を模倣したものであるといえるとすると、被告らは、その形態を原告商品の形態に近づけることを内容とする修正指示を受けているのであるから、元見本を現物として渡されている以上、修正を進める過程において、修正指示に従えば形態模倣品を製造することになることは認識し得たはずであるとも考えられる。
 しかし、被告らはいずれもAF社を源として順次被告ら商品の製造の発注を受けたものであり、その契約の本旨は、発注者たるAF社の意向どおりの物を製造し、納品することにあって、発注者の意向に背けば契約違反の責任を問われる危険を常に負担している状況にある。しかも、前記認定のとおり、被告らは、元見本たる原告商品を叩き台として補整下着を製造するものとして被告ら商品の製造に関わって行ったのであり、仮に被告ら商品が原告商品の形態模倣品であるとしても、それはその後のAF社の指示よって模倣の要素を強められていったからであって、当初の被告らの認識とは外れて行ったものであるといえる。
 このような被告らの置かれた立場や状況を勘案すれば、AF社が被告ら商品を販売したことについて、AF社自身は、原告との間の代理店基本契約に基づく義務に違反したものとして、原告に対する損害賠償責任を免れないものと評価できるとしても、前記認定によれば、被告らについては、不正競争防止法(平成5年法律第47号)の施行前に被告ら商品の販売等に関与したものであって(前記二14(三))、AF社の右行為に関わった態様においても、著しく不公正な営業活動であったとまではいえない。
5 以上を総合すると、本件において、被告らにそれぞれ不法行為責任を認めることはできない。

〔研  究〕

1. この事件は、現行不正競争防止法の施行日(平成6年5月1日)前に開始され、施行日に継続していた2条1項3号に該当する不正競争行為ではあったが、同法附則3条によって適用できないものとされたことから、原告は、被告の行為を民法709条に該当する不法行為を構成すると主張した。
 これについて裁判所は、前記のような不正競争行為に対して民法709条の適用もあり得ることを肯認した。しかし、この規定が適用されるためには、被告らに故意又は過失が存在することが必要であった。
 この判決は元注文主の訴外AF社(被告となっていない。)→被告B社→被告D社→被告R社に遡る商品注文のルートにおいて、最初にA社からあくまでも原告製品を叩き台(参考品)として被告らに補整下着の製造注文を受けたのであって、原告製品と同一形態のものを製造する注文を受けたのではないと推認した。
 しかし、被告らは試作品をAF社に提出しても何回か修正指示を受けたことから、次第に元見本である原告製品の形態に近づいて来たのであるが、発注者の意向どおりの製品を納品しなければ契約違反となる危険を常にもっていたことから、結果として原告製品の形態を模倣することになったようである。しかし、これは被告らの当初の認識から外れたことであり、本意ではなかったことを裁判所は認定した。したがって、被告らには過失が認められないから、民法709条の損害賠償責任を問うことはできないと判断した。
 判決はむしろ、原告に対する訴外AF社の契約違反行為を指摘し、AF社にはそれによる損害賠償責任があると評価した。
2. 商品の注文形態が複雑であっても、模倣品の製造に関与する者に故意又は過失がなければ、不法行為が成立しないことを示した例であるが、不競法は平成6年5月1日施行後にあっては、同法2条1項3号の適用に故意過失は不要であるのみならず、模倣される商品形態の周知性や混同性も問われない。
 しかし、新商品形態の創作開発に要した投資金の回収のための期間として、他人による商品形態の模倣からの保護期間が最初販売から3年間で終了するということは、政策的なものとしては、いかにもおそまつである。意匠法による意匠権の保護期間(登録日から15年間)との関係を考慮しなければならないが、最低でも5年間の保護はあってもよいと思う。この保護期間の問題は、模倣常習者の横行を禁止するためにも重要である。
 また、新商品形態を創作開発した者は、発売前に意匠登録出願を特許庁にしておくことが必要である。

[牛木理一]