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「タクシー用表示灯」商品形態・損害賠償請求事件:東京地裁平成8年(ワ)23131号平成10年11月26日判決(棄却)〔民46部〕

〔キーワード〕 
不競法2条1項3号、商品の形態、他業者の同種商品と識別し得る特徴、長期間の継続的独占的使用、短期間で強力な宣伝、商品の出所表示機能、商品形態の周知性

 

〔判示・認定事項〕 

  1. 商品の形態は、一次的には商品本来の効用の発揮や美観の向上等のために選択されるもので、商品が出所を表示することを目的として選択されるものではない。しかし、特定の商品形態が他の業者の同種商品と識別し得る特徴を有し、かつ、その商品形態が、長期間継続的かつ独占的に使用され、または短期間でも強力な宣伝が行われたような場合には、結果として、商品の形態が商品の出所表示の機能を有するに至り、商品表示としての形態が周知性を獲得することがあり得る。
  2. 原告製品には、その発売以来、同一の形態または類似した形態を有する競業他社の同種商品が存在し、相当数の販売が継続されてきたから、原告製品はその形態において、他の業者の同種商品と識別し得る明瞭な特徴を有するということはできず、また原告がその形態を長期間独占的に使用してきたともいえない。
  3. 原告による原告製品の宣伝・広告の内容は、一部の商品カタログで表紙の写真として使われた例があるものの、その大部分は商品カタログや業界紙の広告中に多数の同種商品の一つとして掲載された程度にすぎず、特に原告製品の形態を際立たせる強力な宣伝がなされたこともない。
  4. 他人の製品とほぼ同一の形態を有する製品を製造・販売する行為が、不競法上の不正競争に該当しない場合でも、それが経済取引における自由競争として許される範囲を著しく逸脱し、これにより他人の営業上の利益を侵害するときは、例外的に民法709条に規定する不法行為を構成することも、あり得ないわけではない。

 

〔事  実〕

 

 原告(T社)は、各種タクシー用表示灯の製造、販売を業とする会社で、昭和38年頃から、物件目録(A)記載のタクシー用表示灯(以下、原告製品という。)を製造し、これに納入先のタクシー会社の名称やマークを付して販売している。
 被告(S社)は、タクシー用品の製造、販売を業とする会社で、平成7年5月頃から、物件目録(イ)記載のタクシー用表示灯(以下、被告製品という。)を製造し、これに納入先のタクシー会社の名称やマークを付して販売している。

〔争  点〕

1. 不競法2条1項1号の不正競争の成否
  1. 原告製品の形態の周知商品表示性
  2. 原告製品と被告製品との混同のおそれ
2. 形態模倣による不法行為の成否
3. 原告の損害額

 

〔判  断〕

 

一 争点1(一)(原告製品の形態の周知商品表示性)について
1 商品の形態は、第一次的には商品本来の効用の発揮や美観の向上等のために選択されるものであり、商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが、特定の商品形態が他の業者の同種商品と識別しうる特徴を有し、かつ、右商品形態が、長期間継続的かつ独占的に使用され、又は短期間でも強力な宣伝が行われたような場合には、結果として、商品の形態が商品の出所表示の機能を有するに至り、商品表示としての形態が周知性を獲得することがあり得るというべきである。
 そこで、原告が主張する原告製品の形態が、右のような周知な商品表示としての機能を獲得しているか否かについて検討する。
2 各文末に掲げる各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。
(一) 原告製品のような形状の球型表示灯は、昭和38年ころ、東京の大手4社のタクシー会社(日本交通株式会社、国際自動車株式会社、帝都自動車交通株式会社及び大和自動車交通株式会社)の統一的な表示灯デザインとして開発され、当時2社あったタクシー用表示灯の製造業者のうち、原告が日本交通株式会社及び帝都自動車交通株式会社に対して、H社が国際自動車株式会社及び大和自動車交通株式会社に対して、それぞれ右球型表示灯を製造して販売するようになった〈証拠〉。その後、昭和40年代ころには、右H社が廃業するに至り、タクシー用表示灯の製造業者は原告のみとなった〈証拠〉。
(二) 他方、被告は、昭和40年ころから、原告から仕入れたタクシー用表示灯を販売していたが、同45年ころから、自らタクシー用表示灯を製造して販売するようになり、同46年頃からは、物件目録(B)記載の形状の球型表示灯(以下「球型表示灯B 」という。)を東京の大手4社のうちの大和自動車交通株式会社に販売するようになった〈証拠〉。
(三) 原告は、原告製品を、昭和38年ころに発売して以来、東京の大手4社のうちの日本交通株式会社、国際自動車株式会社及び帝都自動車交通株式会社をはじめ全国各地のタクシー業者に販売しており、現在では、全国283社合計8200台程度のタクシーに表示灯として装着されるに至っている。原告製品は、現在、200種程度ある原告のタクシー用表示灯の中で年間販売数が全体の5パーセントを占め、30年間連続して出荷数が上位から3ないし4番目以内に入る売れ筋商品である〈証拠〉。
 また、原告製品は、昭和40年ころから最近に至るまで、各年度の原告の商品カタログに、他の多数のタクシー用表示灯とともに写真付きで掲載され〈証拠〉、昭和50年ころから最近に至るまで、タクシー業界の業界紙である「東京交通新聞」に、他の多数のタクシー用表示灯とともにイラスト付きの広告が頻繁に掲載されている〈証拠〉。
(四) 他方、被告は、球型表示灯Bを、昭和46年ころに発売して以来、東京の大手4社のうちの大和自動車交通株式会社をはじめとするタクシー業者に販売するとともに、球型表示灯Bを被告の商品カタログに写真付きで掲載してきた〈証拠〉。被告による球型表示灯Bの販売先、販売数については、これを正確に認定する証拠はないものの、右のとおり東京大手4社の一つである大和自動車交通株式会社に継続的に納入されていることのほか、同じく東京の大手4社の一つである国際自動車株式会社にも納入されていた時期があったこと〈証拠〉、原告側の調査でも少なくとも全国各地の6社のタクシー会社に販売された実績があること〈証拠〉などに照らし、相当数の販売実績がある ことがうかがわれる(なお、この点原告側の推定によれば、現在被告の球型表示灯Bを装着しているタクシーの台数は1000台位であるとされており〈証拠〉、原告製品を装着しているタクシーの台数が8200台程度であることと比較しても、市場において無視できない数の販売実績があることがうかがわれる。)
(五) この間、昭和52年10月21日には、原告を債権者、被告を債務者とする当庁昭和51年(ヨ)第2535号仮処分申立事件において、原告・被告間に和解が成立しているところ、そのなかでは、1.被告は、原告に対し、原告の登録第255705号の意匠権の存続期間中(すなわち、昭和56年1月10日まで。〈証拠〉)、原告製品のような形状(球型、台部上縁が弧状のもの)の製品を製造・販売しない旨、2.原告は、被告に対し、日本交通株式会社及び帝都自動車交通株式会社が使用する製品を除き、被告が、球型表示灯Bのような形状(球型、台部上縁が水平のもの)の製品を製造・販売することにつき異議を述べない旨の合意がなされている〈証拠〉。
3 以上の経過事実によれば、原告は、原告製品を昭和38年ころから現在に至るまで自己の主力商品の一つとして継続的に販売するとともに、カタログや業界紙を通じて宣伝・広告を行ってきたことが一応認められる。しかし、他方において、原告製品の発売当初である昭和38年ころから、原告のほか、競合業者であるH社も(即ち、我が国におけるタクシー用表示灯の全製造業者が)同様の球型表示灯を製造・販売していたものであり、その後、H社が廃業してからは、原告のみが製造、販売することとなったものの、昭和46年ころからは、被告が、原告製品と形態において明らかに類似する球型表示灯Bを製造、販売するようになり、原告も被告による右球型表示灯Bの製造・販売を昭和52年に成立した訴訟上の和解においてこれを容認し、その後も被告は相当数の球型表示灯Bの製造・販売を継続してきたものである。このように、原告製品には、その発売以来、同一の形態又は明らかに類似した形態を有する競業他社の同種商品が存在し、相当数の販売が継続されてきたのであるから、原告製品は、その形態において、他の業者の同種商品と識別し得る明瞭な特徴を有するということはできず、また、原告が右形態を長期間独占的に使用してきたともいえない。しかも、原告による原告製品の宣伝・広告の内容は、一部の商品カタログで表紙の写真として使われた例があるものの、その大部分は商品カタログや業界紙の広告中において多数の同種商品の一つとして掲載されたという程度のものにすぎず、特に原告
製品の形態を際立たせる強力な宣伝がなされたということもない。
 そうすると、原告製品の形態については、その発売以来現在に至るまで、前記のような意味における商品の出所表示としての機能を有するに至ったことを認めることはできないというべきである。
 なお、原告製品と被告の球型表示灯Bとでは、台座部分の上縁部の形状について、原告製品では球形の表示灯本体部の弧状と同一の弧状に湾曲しているのに対し、球型表示灯Bでは水平になっており、右部分において原告製品の形態は、球型表示灯Bにない特徴を備えており、商品表示性を認め得るとの反論も考えられなくはない。しかし、タクシー用表示灯は、そこに記載された名称やマークとともに、それぞれ独自の全体形状によって、各タクシーが所属するタクシー会社等を識別する標識となるものであるから、原告製品や球型表示灯Bのようなタクシー用表示灯において取引者・需要者の注意をひく部分は、本体部分及び台座部分から成る全体的な形状であるというべきであり、台座の一部分にすぎない上縁部の形状のごときは、格別観者の注意をひかない瑣末な構成部分というべきであるから、右部分の形状の独自性のみをもって、原告製品の形態につき、商品表示となり得る特徴を備えていると認めることはできない。
 右によれば、不正競争防止法2条1項1号に基づく原告の差止請求及び損害賠償請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。
二 争点2(形状模倣による不法行為の成否)について
 他人の製品とほぼ同一の形態を有する製品を製造・販売する行為が不正競争防止法上の不正競争に該当しない場合であっても、それが経済取引における自由競争として許される範囲を著しく逸脱し、これにより他人の営業上の利益を侵害するときには、例外的に民法709条に規定する不法行為を構成することも、あり得ないわけではない。
 そこで検討するに、前記一で認定したとおり、原告製品については、その発売当初である昭和38年ころからHも(すなわち、我が国におけるタクシー用表示灯の全製造業者が)同様の球型表示灯を製造・販売していたほか、昭和46年ころからは被告が球型表示灯Bを継続的に製造・販売していたものであり、昭和52年の原告・被告間の訴訟上の和解においては、原告も被告の球型表示灯Bの製造・販売を容認する旨の合意をしているところ、原告製品と球型表示灯Bとは、台座部分の上縁部の形状が異なる以外はほぼ同一の形態である(台座上縁部の形状は、前記一3で説示したとおりタクシー用表示灯において、観者の注意をひかない瑣末な構成部分にすぎない。)。そうすると、右のような経緯に照らせば、その後の平成7年5月に至って被告が被告製品を製造・販売した行為をもって、経 済取引における自由競争として許される範囲を著しく逸脱したものとは認めることができない。
 したがって、形態模倣を理由として不法行為に基く損害賠償を求める原告の請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。

〔研  究〕

1.不正競争行為となる第1類型(2条1項1号)の適用については、新法になっても旧法時と変わらない厳しい条件を原告に課している。この不正競争の認定には、その商品形態が、第1に需要者間に広く認識されていること(周知性の具備)が必要であり、第2に他人の商品と混同を生ずることが必要である。
 第3類型(2条1項3号)は、このような厳しい条件に到底耐えられない商品形態をその同一性の範囲で、最初販売日から3年間だけ保護することにした新規定であった。しかし、これだけの保護では不十分であることは施行当時からいわれている。(注)
2.本件は第1類型による保護を求めた事案であったが、次のような障害事実があったことから、請求棄却となった。
1. 原告製品はすでに昭和38年頃から販売しており、被告は昭和40年頃には原告から製品を仕入れて販売していたし、昭和46年頃からは自らも製造して販売するようになった。
2. 原告は、被告に対し昭和52年に訴訟を起したが、これは裁判上の和解により被告の製造販売を原告は容認した事実があり、現在に至っていることから、原告製品の形態は、他人の同種商品と識別できる明瞭な特徴を有するものとはいえないし、原告が同形態を長期間独占的に使用してきたともいえないものとなっていた。このような事実関係を考えると、原告製品の形態は、その発売以来の一時的には商品の出所表示機能を有していた時もあったようであるが、被告の製造販売に対する差止め請求のタイミングを失ったばかりでなく、一ど裁判上の和解をしていたこともあって、現在は、商品の出所表示機能を発揮するには至っていないと認定されたことは、やむを得ないことである。
3.この判決は、不競法2条1項1号の適用を否認された不正競争の場合にあっても、経済取引における自由競争として許される範囲を著しく逸脱し、他人の営業上の利益を侵害するときは、例外的に民法709条の不法行為を構成することもあり得ると判示したことは、注目される。こんごの事案いかんによっては、民法709条への道が開かれていることを示唆するものであり、特に第3類型の不正競争行為であって最初販売後3年間を経過した商品形態の模倣の場合には、十分考える余地がありそうな示唆である。

(注)牛木理一「新不正競争防止法と意匠の保護−意匠法への挑戦−」パテント1993年 Vol.46 No.6 p.29実際の経験として、不競法2条1項3号の適用をもって仮処分申請したところ、審尋中に発売から3年間を経過したことから、2条1項1号に請求原因を変更せざるをなくなったことがある。しかし、周知性と混同性の事実を十分に証明することができなかったため、申請却下の決定がなされたのである。その原因の一つには、債権者からの訴訟提起がおくれたこともあろうが、3年間という時間は業界人にとってはきわめて早く経過し てしまうようである。流行に左右されない創作性の高いデザインに注目する模倣常習者は、3年位の時間はじっと待っている。意匠登録制度もあるが、これには新規性の壁があるから、意匠法4条1項の適用を受けることができないデザインにとっては、不競法しか残されていないのである。
 第3類型の裁判例としては、「ドラゴンソード」と称するキーホルダー事件において、東京地裁が1996年12月25日に出した最初の適用判決がある。(「日経デザイン」1997年3月号98頁)しかし、その後、この一審判決は東京高裁において逆転した。その理由は、両デザインには類似性は認められても、同一性は認められなかったからである。

[牛木理一]