C1-33

 

「胃潰瘍治療剤カプセル」商品形態・差止等請求事件:東京地裁平17()5650平成1813146判決(請求棄却)

〔キーワード〕
商品等表示性,配色の新規性・特異性,使用の継続性,売上高,商品選択の効能,出所表示機能

〔事  実〕
 本件は,PTPシートにカプセルが装填された形態の胃潰瘍治療剤を販売する原告が,原告商品と同一の有効成分を含有し,同様の形態を有する胃潰瘍治療剤を製造及び販売する被告らに対し,被告商品のPTPシート及びカプセルの配色が原告商品と類似し,混同のおそれがあるとして,不正競争防止法2条1項1号及び同法3条各項に基づき,被告商品の製造及び販売の停止並びに廃棄を求めるとともに,同法4条,5条2項及び民法719条1項に基づき,被告らの不正競争行為により原告の被った損害の賠償(遅延損害金については,不法行為の後である訴状送達の日の翌日から年5分の割合による。)を求めた事案である。
(1) 原告商品及び被告商品
 原告(エーザイ株式会社)は,昭和59年12月6日から,テプレノンを有効成分として含有する胃潰瘍治療剤(販売名「セルベックスカプセル50r」。以下「原告商品」という。)を販売している。
 被告CHOは,テプレノンを有効成分として含有する胃潰瘍治療剤(販売名「セルパスカプセル」。以下「被告商品」という。)を製造して,被告メルクに販売している。被告メルクは,被告商品を医療機関及び調剤薬局に販売している。
 原告商品及び被告商品は,患者への販売には医師の処方せんを必要とする,いわゆる医療用医薬品である。
(2) 原告商品と被告商品の配色の共通性
 原告商品と被告商品は,@銀色地に青色の文字等のデザインを付したPTPシートに,A緑色及び白色の2色からなるカプセルが装填された形態である(上記のPTPシート及びカプセルの配色を「本件配色」という。)という点において共通する。
 なお,被告らは,平成17年7月より,被告商品のPTPシートを金色地に,文字色を緑色に変更して製造販売している(検乙4)。
3)本件の争点は、次のとおり。
  
(1) 本件配色が原告商品の商品等表示に該当するか。
  
(2) 本件配色が原告商品の商品等表示として周知性を有するか。
  
(3) 原告商品と被告商品との間に商品等表示の類似性があるか。
  
(4) 原告商品と被告商品との間に混同のおそれがあるか。
  
(5) 原告の被った損害の額
  
(6) 原告の被告らに対する権利主張は権利濫用に当たるか。

〔判  断〕
1 争点1(本件配色が原告商品の商品等表示に該当するか)について
(1) 配色の商品等表示性について
ア 不正競争防止法2条1項1号が他人の周知商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用することを不正競争行為と定めた趣旨は,同使用行為により周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止し,周知な商品等表示が有する営業上の信用を保護することにある。
 医薬品としてのカプセル及びその容器又は包装としてのPTPシートは,同法2条1項1号にいう「商品の容器若しくは包装その他の商品・・・を表示するもの」として同号にいう「商品等表示」に当たり得るといえるものの,極めてありふれた形状又は色彩の商品それ自体又は容器若しくは包装については出所表示機能があるということができず,これらが同号にいう「商品等表示」に当たらないことは明らかであり,同号にいう「商品等表示」に当たるといえるためには,出所表示機能を備えた形状又は色彩の「商品の容器若しくは包装その他の商品・・・を表示するもの」であることが必要である。
イ 原告商品の医薬品としてのカプセルの形状自体及びその容器又は包装としてのPTPシートの形状自体は,医療用医薬品においてごくありふれた形状であって何ら特徴的なものではないことは明らかであり,原告が本件において原告商品の商品等表示であると主張する要素(本件配色)は,カプセルが緑色と白色の2色からなること及びPTPシートが銀色地に青色の文字等が付されていること(文字等の内容や配置は問わない。)である。そこで,そもそもこのような単純な色彩の組合せ(本件配色)についても商品等表示と認めることができるかを判断する。
ウ 一般論としては,単純な配色であっても,それが特定の商品と密接に結合し,その配色を施された商品を見たり,その配色の商品である旨を耳にすれば,それだけで特定の者の商品であると判断されるようになった場合には,当該商品に施された配色が,出所表示機能を取得し,その商品の商品等表示になっているということができるのであるから,商品の配色に商品等表示性を認めることができる場合があること自体は否定できない。
 しかしながら,色彩は,古来存在し,何人も自由に選択して使用することができるものであって,単一の色彩を使用した場合はもちろん,ある色彩と別の色彩とを単純に組み合わせて同時に使用したという程度の単純な配色であれば,そのこと自体には特段の創作性や特異性が認められるものではないから,それによって出所表示機能が生じ得る場合というのは,極めて限定されると考えられる。
 また,仮に,単純な配色が出所表示機能を持つようになったと思われる場合であっても,色彩はもともと自由に使用できるものである以上,色彩の自由な使用を阻害するような商品等表示の保護は,公益的見地からみて容易に認容できるものではない。こうした点からすれば,単純な配色が不正競争防止法において保護すべき出所表示機能を取得したということができるかどうかの判断に当たっては,その配色を商品等表示として保護することが,上記の色彩使用の自由を阻害することにならないかどうかという点も含めて慎重に検討されなければならないというべきである。
 さらに,商標法においては,色彩は,文字,図形,記号等と結合して商標となるとされていること(商標法2条1項)との比較からすると,文字,図形,記号等と結合することのない商品の単純な配色を不正競争防止法において商品等表示として保護することが,商標法における保護との均衡を失するものとならないかどうかという点も考慮に入れる必要があると考えられる。
エ 以上からすると,単純な配色が特定の商品に関する商品等表示として不正競争防止法上保護されるかどうかについては,@当該配色をその商品に使用することの新規性又は特異性,A当該配色とそれが施された商品との結びつきの強さ及び当該配色の使用の継続性,B当該配色の使用に関する広告宣伝とその浸透度及び当該商品の売上げ,C取引者や需要者である消費者が商品を識別,選択する際に当該配色が果たす役割の大きさ等を十分検討した上で決せられなくてはならない(大阪高判平成9年3月27日知的裁集29巻1号368頁参照)。
(2) 本件配色の商品等表示性について
ア 本件配色の新規性又は特異性
 原告は,胃潰瘍治療剤においては,本件配色を施したカプセル及びPTPシートの組合せは,原告商品の販売開始以前には存在しなかったこと等を強調する。
 しかしながら,医療機関及び調剤薬局においては,胃潰瘍治療剤だけではなく,多種多量の医療用医薬品を同時に取り扱うのが通常であることは公知の事実といってよいから,このような医療用医薬品の取引の実情に鑑みれば,医療用医薬品(少なくともカプセル剤)全体の中で,本件配色が新規性又は特異性を有するものであるかどうかを判断するのが適切である。
 この点,カプセルが緑色と白色の2色からなること及びPTPシートが銀色地に青色の文字等が付されていることを特徴とする医療用医薬品としては,原告商品の販売開始以前に,「セファレキシン・C『トーワ』」が昭和51年9月から販売されている(検乙7,乙8)。
 また,カプセル剤の配色についてだけみるならば,緑色と白色の2色からなるカプセル剤には,「インスミン15」(検乙8,乙9),「セブンイー・P」(検乙9,乙10),「シンクルカプセル」(検乙10,乙11)等があり,これらの医療用医薬品は,いずれも原告商品の販売開始以前に販売されているものである。
 さらに,銀色地に青色の文字等が付されたPTPシートを使用する医療用医薬品には,「アシノンカプセル150」(検乙3,乙5),「アテミノンカプセル150r」(検乙6,乙7)がある。
 これらの事実に鑑みると,カプセルに緑色と白色の2色を使用し,カプセルを装填するPTPシートに銀色地に青色の文字等を配するという原告商品の本件配色は,医療用医薬品(少なくともカプセル剤)全体の中でみれば,原告商品の販売開始当時において新規性を有するものであったとは認め難いし,特異性を有するものであるとも認め難いというべきである。
イ 本件配色と原告商品との結びつきの強さ及び本件配色の使用の継続性
 証拠(甲3の1から4,甲5から7)によれば,原告は,昭和59年12月の販売開始以来,一貫して原告商品について本件配色を使用してきたことを認めることができる。
 ただし,原告は,テプレノンを有効成分として含有する胃潰瘍治療剤として,原告商品である「セルベックスカプセル50r」のほかに「セルベックス細粒10%」という細粒剤を販売しており(甲1,乙4),原告が医師・薬剤師等に向けて作成したリーフレット(甲4の1から3)においても,「セルベックス」の名称でカプセル剤である原告商品とほぼ白色の上記細粒剤の両方を表示している。原告が,原告商品と同一の有効成分を含有し,同一の効能・効果を有する医療用医薬品を,「セルベックス」という共通の名称を付した上で,原告商品と同時並行的に販売してきたとの事実は,本件配色と原告商品との結びつきを弱める方向に働くものであるということができる。
ウ 本件配色の使用に関する広告宣伝とその浸透度及び原告商品の売上げ
a) 証拠(甲2,甲3の1から4,甲4の1から3)によれば,原告は,継続的に多数のMRを雇用し,医師・薬剤師等に対して,原告商品の写真が掲載されたパンフレットやチラシの配布等を行って広告宣伝を行ってきたことが認められる。また,原告は,自社のホームページ上においても,製品情報として,医療用医薬品製品一覧の中において原告商品の写真を掲載して原告商品を紹介している(甲15)。
 さらに,証拠(甲13,16)によれば,原告商品の年間売上高は平成2年以降は毎年数百億円規模になっており,平成12年から平成16年までの5年間にわたり,「セルベックス」の年間処方ランキングは,A2B抗潰瘍剤において第1位を維持し続けていることが認められる。前記のとおり,「セルベックス」には原告商品のほかに細粒剤があるので,この処方ランキングは,原告商品のみの処方を反映したものであるとはいえないものの,このような売上実績及び処方実績は,原告商品の広告宣伝が相当程度医師・薬剤師等に浸透していることを示唆しているということができる。
b) もっとも,原告商品のパンフレットやチラシは,本件配色をもって原告商品の識別のポイントとすべきことをアピールする内容のものではないし,前記のような売上実績及び処方実績も,医師・薬剤師等が原告商品の効能・効果を評価した結果であるということはできても,医師・薬剤師等が原告商品を本件配色により識別していることを示唆するものということはできない。
 また,原告商品の最終需要者である消費者(患者)に対する広告宣伝は,前記ホームページ以外に行われていると認めるに足りる証拠はない上,前記ホームページについても,「セルベックスカプセル50r」という販売名から原告商品の写真にたどり着くことはあっても,原告商品の写真から逆に「セルベックスカプセル50r」という販売名や商品説明にたどり着くことはできない構造になっているから,これを閲覧する者に対して,本件配色をもって原告商品の識別のポイントとすべきことをアピールする内容のものにはなっていない。
エ 原告商品の識別,選択の動機
a) 証拠(甲5,甲7,甲17)によれば,近年,医師・薬剤師等を対象として処方薬を写真で紹介する専門書や,消費者(患者)を対象として処方薬を写真等から検索できるようにして紹介する書籍が発行されていることが認められる。
 こうした書籍の存在に鑑みれば,取引者たる医療機関及び調剤薬局の医師・薬剤師等又は最終需要者たる消費者(患者)が,原告商品を本件配色を一つの手がかりとして識別することがあり得るということができる。
b) しかしながら,専門家である医師・薬剤師等にとっては,一見すると外観的特徴の似通った医療用医薬品が複数存在することは,むしろ周知の事実であるというべきである。また,厚生省医薬安全局長名で各都道府県知事宛に発された「医療事故を防止するための医薬品の表示事項及び販売名の取扱いについて」と題する通達(平成12年9月19日医薬発第935号。乙3)においても,「医薬品の誤投与を防止するためには,調剤時,投薬時及び患者の服用時に容易に本来投与すべき医薬品が確認できるよう,PTPシートに販売名,規格等が記載されていることが重要である」との認識が示されていることからも明らかなように,医師は,「セルベックスカプセル50r」とか,「セルパスカプセル」というように,処方せんに販売名を記載して医療用医薬品を処方するのが通常であり,処方せんに本件配色を記載してこれを処方するものではないし,薬剤師もこのような医師の処方せんに基づき医療用医薬品を選択するものであり,本件配色によってこれを選択するものではない。
 これらの事情に鑑みると,少なくとも専門家である医師・薬剤師等においては,販売名等を確認せずに本件配色のみによって原告商品を識別するということは到底想定し難いことというべきである。
c) 他方,消費者(患者)においては,専門家である医師・薬剤師等とは異なり,多種多量の医療用医薬品を常時取り扱うことはないから,販売名等を確認せずに本件配色のみによって原告商品を識別するということも考えられる。
 しかし,原告商品のような医療用医薬品は,本来その効能・効果によって患者の症状に最も適したものが医師により処方され,それを患者が受け入れているのであって,患者にとっても配色その他の商品のデザインが医療用医薬品の選択の動機となることは通常考え難いところである。
オ 総括
 前記アからエまでにおいて検討したところを総合考慮すれば,本件配色は,原告商品の販売名等の表示とは別に,独立して原告の商品であるとの出所表示機能を取得するに至っていると認めることはできず,本件配色が原告商品の商品等表示となっているということはできない。
2 結論
 以上によれば,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

 

〔論  説〕
1
ここに紹介する「胃潰瘍治療剤カプセル」をめぐる4つの事件判決のうち、この部の判決がもっとも簡潔な理由内容となっているから、問題点がよくわかる。
 判決は、比較的単純な配色が特定の商品に関する商品等表示として不競法上保護されるか否かについて、4つの要件を問題とした大阪高裁平成9年3月27日判決を引用したが、この事案は濃紺色で統一された家電製品の保護が問題となった「
it's」事件である。

  @配色の新規性又は特異性
  A配色と商品との結びつきの強さと配色使用の継続性
  B広告宣伝と浸透度と商品の売上げ額
  C配色が果す役割の大きさ
 原告は、昭和59年12月の販売開始以来、一貫して当該商品に本件配色を使用してきた継続性の存在は認められた。

2.
問題は、需要者の定義について、この判決は専門書籍は医師や薬剤師のみでなく消費者(患者)も読んでいるから、原告商品を本件配色を一つの手がかりとして識別することがあり得ると解していることである。
 しかし、医師が処方箋に記載するのは商品名であって配色ではないし、薬剤師もこの処方箋によって医薬品を選択するのであるから、販売名を確認せずに本件配色のみによって原告商品を識別することはないと認定したことは、それが事実である以上、妥当である。
 したがって、本件配色が独立して原告商品の出所表示機能を取得するに至っているとは認められないから、本件配色に商品等表示性を認めなかったのは妥当であろう。

 

 

〔牛木理一〕