C1-32

 

「胃潰瘍治療剤カプセル」商品形態・差止等請求事件:東京地裁平17()5651平成18118日民29判決(請求棄却)

〔キーワード〕
特許権存続期間満了後の商品形態,商品等表示性,出所表示機能,特別顕著性,周知性,需要者(医師・薬剤師),患者

〔事  実〕
1.本件は,販売名を「セルベックスカプセル50r」とし,テプレノンを有効成分として含有する胃潰瘍治療剤(以下「原告商品」という。)を製造販売する原告(エーザイ株式会社)が,販売名を「エクペックカプセル」とし,テプレノンを有効成分として含有する胃潰瘍治療剤(以下「被告商品」という。)を製造販売する被告(東和薬品株式会社)に対し,原告商品のPTPシート及びカプセルの配色が原告の商品等表示として周知であり,上記配色と類似した配色を有する被告商品を製造販売することは不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当するとして,同号及び同法3条に基づき,被告商品の製造販売の差止め及び被告商品の廃棄を求め,同号及び同法4条に基づき,不正競争行為による損害の賠償を求めた事案である。
2.原告商品の形態等
 原告は,昭和59年10月23日,原告商品の製造承認を受け,同年12月6日,原告商品の販売を開始した。
 原告商品は,別紙原告標章目録2記載の剤型のカプセル(以下「原告カプセル」という。)が,同目録1記載のPTPシート(以下「原告PTPシート」という。)に装填された形態で販売されている。原告カプセルは,緑色及び白色の2色からなるカプセルであり,原告PTPシートは,銀色地に青色の文字等を付したPTPシートである(以下,原告PTPシート及び原告カプセルの配色を「原告配色」という。)。
 原告商品は,胃潰瘍治療剤である。
 胃潰瘍は,一般的に再発する可能性が高いため,胃潰瘍を完全に治療するためには,胃潰瘍治療剤を長期にわたって反復継続して服用しなければならない。したがって,胃潰瘍患者にとって,胃潰瘍治療剤は,治療期間中,欠かさず服用するものとなっている。
 原告商品は,医療用医薬品である。
 医療用医薬品は,医師が作成した処方せんに基づき薬剤師が調剤することにより,患者に交付されるものである。患者は,自ら医療用医薬品を積極的に選別するものではない。
3.被告商品の形態等
被告は,平成10年8月から,被告商品の製造及び販売を行っている。
 被告商品は,別紙被告標章目録2記載の剤型のカプセル(以下「被告カプセル」という。)が,同目録1記載のPTPシート(以下「被告PTPシート」という。)に装填された形態で製造され,販売されている(以下被告PTPシート及び被告カプセルの配色を「被告配色」という。)。
 被告PTPシートの表面の最上部には,被告商品の販売名である「エクペック」が,他の表示と比較して注意を惹き付ける程度に大きく表示されている。その下部は,各段被告カプセル2錠ずつ5段から構成されており,表面には,「
Tw 403」という商品コードが表示されるとともに,有効成分の含有量を示す「50r」の文字が四角い枠に囲まれて表示されている。
 被告カプセルには,「
Tw 403」という記号が表示されている。
4.被告商品の売上げ
 被告は,平成10年8月から被告商品を販売しているところ,平成14年3月から本件訴訟の提起の日である平成17年3月24日までの被告商品の売上金額は,249万9000円を下らない。
5.後発品
 被告商品は,一般的に後発品と称される医薬品である。後発品とは,原告商品のような承認医薬品(以下「先発品」という。)の特許権の存続期間満了後に,先発品と成分や規格等が同一であるとして,臨床試験(いわゆる治験)などを省略して承認される医薬品であり,先発品のように費用,期間,労力をかけて研究開発をする必要がなく,先発品と成分や効能・効果が同じであることから,医師等(医師,看護師,薬剤師その他の医療従事者をいう。以下同じ。)に対し,先発品と同じ効能・効果であると説明することで,当該医薬品についての情報が伝達できるため,先発品のように多くのMR(医薬品の適正な使用に資するために,医師等の訪問等を通じて,安全管理情報を収集し,あるいは,提供することを主な業務とする者をいう。以下同じ。)を置く必要がない。
 このように,後発品は,開発費用がかからず,多くのMRを置く必要がなく,さらに,開発に向けた投資リスクも負担しないため,非常に低価格で販売することができる。一般に,被告のような後発品の製造又は販売を行う業者(以下「後発品製造販売業者」という。)は,低価格を武器にして,医療機関に対し,先発品から後発品への切り替えを働きかけている。
6.医師等は,多種多様な薬剤を日々相当数扱わなければならないため,取扱いの便宜上,医療機関及び薬局に保管されている同種,同薬効の薬剤は,隣同士の棚や同一カテゴリーの棚に置かれていることが通常である。
7.被告をはじめ,多数の後発品製造販売業者は,PTPシートが銀色地と青色の文字等の組合せを有し,カプセルが緑色と白色の配色を有する製品を,7年以上販売している。
8.本件訴訟提起までの経緯
原告は,被告に対し,本件訴訟提起前に,平成17年3月2日付けで,被告商品の製造販売が不正競争防止法に違反する行為であるとして,被告商品の製造販売を中止するよう通知した。
 これに対し,被告は,平成17年3月14日付けで,原告商品と被告商品が誤認されることはないとして,原告が求めた被告商品の製造販売の中止には応じられない旨の回答をし,原告の上記通知後も,被告商品の製造販売を行っている。
9.本件の争点は、次のとおり。
 (1) 不正競争防止法2条1項1号該当性
  ア 原告配色の商品等表示性及び周知性
  イ 原告配色と被告配色との類似性
  ウ 混同のおそれ
 (2) 原告による本件請求は,権利失効の原則により許されず,又は権利の濫用に当たるか。
 (3) 損害の発生の有無及びその額

 

〔判  断〕
1 争点(1)ア(原告配色の商品等表示性及び周知性)について
(1) 商品等表示性
 まず,商品等表示該当性の要件及び原告商品の需要者について検討した上で,原告配色が原告商品の商品等表示に該当するか否かについて検討する。
ア 商品等表示該当性の要件
 不正競争防止法2条1項1号は,他人の周知な商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用することをもって不正競争行為と定めたものであるところ,その趣旨は,周知な商品等表示の有する出所表示機能を保護するため,周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止することにより,事業者間の公正な競争秩序を維持することにある。そして,同号所定の「商品等表示」とは,「人の業務に係る氏名,商号,商標,標章,商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」をいう。
 商品の形態(商品の配色は,商品の形態の一要素である。)は,商号,商標等と異なり,本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないが,例外的に,商品等表示として特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。そして,このように商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し,不正競争防止法2条1項1号所定の「商品等表示」に該当する場合というためには,@商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,A特定の事業者による長期間の独占的な使用,又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により,需要者において,その形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知となっていること(周知性)を要するものと解するのが相当である。商品の包装の配色も,本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではない点で,商品の形態と同様であり,同号の「商品等表示」に該当するか否かについても,商品の形態と同様に考えるべきである。
 また,自己の商品の形態が同号所定の「商品等表示」に該当すると主張して,これに類似の商品等表示を使用する者に対してその差止め及び損害賠償を請求する場合には,差止請求については現在(事実審の口頭弁論終結時),損害賠償の請求については損害賠償請求の対象とされている類似の商品等表示の使用等をした各時点において,当該形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして,需要者の間で周知性を備えていることを要し,かつ,これをもって足りるというべきである(最高裁昭和61年
()第30号,第31号同63年7月19日第三小法廷判決・民集42巻6号489頁参照)。
 そして,上記「需要者」は,当該商品についてのすべての取引段階における取引者を含むものであるが,当該商品の選択をすることができない者は含まないものというべきである。なぜなら,不正競争防止法2条1項1号の趣旨は,上記のとおり,周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止することにより,事業者間の公正な競争秩序を維持することにあるところ,ある商品の形態が当該商品の選択をすることができない者の間で出所表示機能を有したとしても,顧客の獲得には直接結び付かないからである。
イ 原告商品の「需要者」
 原告商品が医療用医薬品であること,医療用医薬品は,医師が作成した処方せんに基づき薬剤師が調剤することにより,患者に交付されるものであること,患者が自ら医療用医薬品を積極的に選別するものではないことは,上記第2の1(2)エのとおりである。
 すなわち,患者に交付すべき医療用医薬品の選択は,医師の処方行為の一部を構成するものであり,医師が処方せんの作成に当たって一般名を付した場合であって,当該一般名に該当する医療用医薬品が複数あるときに限り,その複数の医療用医薬品のうちどの医療用医薬品を調剤するかが薬剤師の調剤行為の一部を構成するものである。仮に,医療用医薬品の選択についての患者の意見又は感想や,処方されていた医療用医薬品が薬効等を同じくする他の医療用医薬品に変更された場合に,外観の相違などによって患者が抱くかもしれない不安感などに配慮して,医療用医薬品の選択が行われることがあるとしても,その選択を行うのは医師又は薬剤師であり,医師又は薬剤師は,その専門的な知識及び経験に基づいて医療用医薬品の選択を行うものであることに変わりはない。
 したがって,原告商品についての上記アにいう「需要者」は,医師等であり,患者は「需要者」に該当するものとは認められない(仮に,商標に関する事案においては,医療用医薬品の「需要者」に患者が含まれると解する余地があるとしても,上記の不正競争防止法2条1項1号の趣旨にかんがみれば,この解釈が上記判断を左右するものではない。)。
ウ 原告配色の特別顕著性の有無
() 「同種商品」
原告配色が不正競争防止法2条1項1号所定の「商品等表示」に該当するためには,上記アのとおり,原告配色が客観的に他の同種商品の配色とは異なる顕著な特徴を有していること(特別顕著性)が必要であるところ,ここでの「同種商品」とは,以下のとおり,医療用医薬品全体をいうものと解すべきである。
 すなわち,医師等は,日常的に数多くの患者に接し,様々な薬剤を処方・使用しているところ,医師等が日常的に接する患者は,胃潰瘍に限らず多種多様な疾病に罹患し,あるいは,受傷しているのであり,1人の患者が複数の疾病に罹患していることも少なくない。また,処方せんにより医療用医薬品の調剤を行う調剤薬局においては,複数の医師からの処方せんに対応するため,非常に多くの種類の医薬品を取り扱うものであり,調剤薬局が日常的に取り扱う医療用医薬品も,胃潰瘍治療剤に限らず,多種多様である上,複数の種類の医療用医薬品が処方された患者に対し,処方に係る複数種類の医療用医薬品を調剤する場合も多い。
 このように,医師等が,日常的に,胃潰瘍治療剤に限らず,多種多様な医療用医薬品を取り扱っていることからすれば,医療機関等が医療用医薬品をその種類や薬効に応じて配列しているとしても,原告商品についての「同種商品」は,医療用医薬品全体をいうものと解すべきである。
 上記の説示に照らして,「同種商品」は胃潰瘍治療剤に限定されるとの原告の主張を採用できないことは明らかである。
() 他の同種商品とは異なる顕著な特徴の有無
 そこで,原告配色が,原告商品の同種商品である医療用医薬品の配色とは異なる顕著な特徴を有するといえるか否かについて検討する。
a 原告が原告商品(検乙1)の特徴であると主張する原告配色は,PTPシートが銀色地に青色の文字等を付したものであること並びにカプセルが緑色及び白色の2色からなることである。
b 証拠(検乙2ないし8)及び弁論の全趣旨並びに前記前提となる事実によれば,次の各事実が認められる。
(a)ゼリア新薬工業株式会社の胃潰瘍治療剤「アシノンカプセル150」(検乙3)は,灰白色地に青色の文字等が記載されたPTPシートと,淡い緑色及び白色の2色からなるカプセルとで構成されている。「アシノンカプセル150」は,平成2年9月に販売が開始された。
(b)
住友製薬株式会社の胃潰瘍治療剤「ゲファニールカプセル50」(検乙4)は,銀色地に緑色の文字等が記載されたPTPシートと,淡い緑色及び白色の2色からなるカプセルとで構成されている。「ゲファニールカプセル50」は,昭和45年8月に販売が開始された。
(c) 科研製薬株式会社の消化酵素製剤「セブンイー・P」(検乙5)は,銀色地に緑色の文字が記載されたPTPシートと,濃い緑色及び白色の2色からなるカプセルとで構成されている。「セブンイー・P」は,昭和59年6月に販売が開始された。
(d) 被告の抗生物質「セファレキシン・C『トーワ』」(検乙6)は,銀色地に青色の文字等が記載されたPTPシートと,濃い緑色及び白色の2色からなるカプセルとで構成されている。「セファレキシン・C『トーワ』」は,昭和51年9月に販売が開始された。
(e) 日医工株式会社の抗生物質「セファレキシンカプセル『日医工』」(検乙7)は,銀色地に緑色の文字等が記載されたPTPシートと,緑色及び白色の2色からなるカプセルとで構成されている。「セファレキシンカプセル『日医工』」は,昭和53年4月に販売が開始された。
(f)塩野義製薬株式会社の抗生物質「ケフレックスカプセル」(検乙8)は,灰白色地に緑色の文字等が記載されたPTPシートと,緑色及び白色の2色からなるカプセルとで構成されている。「ケフレックスカプセル」は,昭和45年5月に販売が開始された。
(g)被告商品(検乙2)は,銀色地に青色の文字等が記載されたPTPシートと,緑色及び白色の2色からなるカプセルとで構成されている。被告商品は,平成10年8月に販売が開始された。
(h)被告商品以外にも,多数の後発品製造販売業者が,平成10年ころから,銀色地に青色の文字等を記載したPTPシートと,緑色と白色の2色からなるカプセルとで構成する医療用医薬品を販売している。
c 上記b認定の事実によれば,損害賠償請求の対象とされている行為の時点である平成14年3月から平成17年3月24日までの間において,PTPシートの素地の色を銀色とすること,PTPシートに記載する文字の色を青色とすること,カプセルを緑色と白色の2色からなるものとすることは,いずれも,医療用医薬品における特徴的な配色であるとはいえず,これらを単純に組み合わせた原告配色も,客観的に他の同種商品の配色とは異なる顕著な特徴を有しているとは認められない。そして,この判断は,本件訴訟の口頭弁論終結日である同年12月7日においても,同様であり,被告商品をはじめとする後発品を除外して検討したとしても,その結論が左右されるものではない。
d 原告は,上記「アシノンカプセル150」及び「ゲファニールカプセル50」の配色は,原告配色と明らかに異なる旨主張する。
 しかし,「アシノンカプセル150」(検乙3)の配色と原告配色とを比較すると,その相違点は,@「アシノンカプセル150」のPTPシートの素地の色が灰白色であるのに対して原告配色は銀色であること,A「アシノンカプセル150」のカプセルの配色が淡い緑色及び白色の2色であるのに対し,原告配色は緑色及び白色の2色であること,の2点であり,「アシノンカプセル150」との比較において,原告配色が特徴的であるといえるほどの相違はない。
 また,「ゲファニールカプセル50」(検乙4)の配色と原告配色とを比較すると,その相違点は,@「ゲファニールカプセル50」のPTPシートの文字の色が緑色であるのに対して原告配色は青色であること,A「ゲファニールカプセル50」のカプセルの配色が淡い緑色及び白色の2色であるのに対し,原告配色は緑色及び白色の2色であること,の2点であり,「ゲファニールカプセル50」との比較においても,原告配色が特徴的であるといえるほどの相違はない。
e 原告は,上記「セブンイー・P」,「セファレキシン・C『トーワ』」,「セファレキシンカプセル『日医工』」及び「ケフレックスカプセル」は胃潰瘍治療剤ではないから,原告配色の独自性を判断するに当たって考慮する必要はないと主張するが,上記
()のとおり,原告商品の商品等表示性の有無を判断するに当たっての基準となる「同種商品」は,医療用医薬品全体であるから,原告の上記主張は,採用することができない。
f また,原告は,胃潰瘍治療剤においては,原告商品の販売開始時(昭和59年12月)以前及び原告商品販売開始後,後発品の販売が開始された平成9年ころまでの約13年間,原告配色に類似した配色は用いられておらず,胃潰瘍治療剤において,原告配色は特別顕著性を獲得していた旨主張する。
 しかし,原告配色の商品等表示性が認められるために必要とされる特別顕著性の比較対象である同種商品は,前記
()のとおり,医療用医薬品と解すべきであるし,仮に,同種商品が,医療用医薬品ではなく,胃潰瘍治療剤に限定されると解するとしても,上記()b認定の事実によれば,原告配色は,損害賠償請求の対象とされている行為の時点である平成14年3月から平成17年3月24日までの間においても,また,口頭弁論終結日である同年12月7日においても,客観的に他の胃潰瘍治療剤の配色と異なる顕著な特徴を有しているとは認められない。
 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
g さらに,原告は,原告商品の胃潰瘍治療剤におけるシェアは圧倒的であるから,原告商品と同様の特徴を有する複数の後発品が販売されたとしても,原告配色の自他商品識別力は依然として高いものである旨主張する。
 しかし,上記
()b認定のとおり,多数の後発品製造販売業者が,平成10年ころから,銀色地に青色の文字等を付したPTPシートと,緑色と白色の2色からなるカプセルとを有する医療用医薬品を販売しているのであるから,損害賠償請求の対象とされている行為の開始の時である平成14年3月には,既に3年以上の期間,銀色地に青色の文字等を付したPTPシートと,緑色と白色の2色からなるカプセルとを有する多数の医療用医薬品が販売されていたものと認められる。
 そうすると,仮に,原告配色が,平成10年以前において,客観的に,他の同種商品の配色とは異なる顕著な特徴を有しており,原告が主張するように,原告商品の胃潰瘍治療剤におけるシェアが圧倒的であるとしても,原告商品と同様の,銀色地に青色の文字等を付したPTPシートと,緑色と白色の2色からなるカプセルとを有する医療用医薬品の種類及びそれらが販売された期間を考慮すれば,原告配色は,特別顕著性を喪失したものというべきであり,原告の上記主張は採用することができない。
() したがって,原告配色が客観的に他の同種商品の配色とは異なる顕著な特徴を有しているとは認められない。
エ 原告配色の周知性の有無
 証拠(甲15)及び弁論の全趣旨によれば,原告商品は,全国の医療機関で処方された全医薬品の中で,平成13年には処方ランキングの2位を占め,現在においても,同ランキングの4位に位置していること,A2B抗潰瘍治療剤における処方ランキングにおいて,平成12年から平成16年までの間,1位を維持していることがそれぞれ推測され,医療機関において,原告商品が広範に使用されてきたものと認められる。
 しかし,上記認定事実は,原告配色が,原告商品の出所である原告を表示するものとしての周知性を備えていたことを裏付けるものではない。なぜなら,原告商品をはじめとする医療用医薬品は,一般消費財と異なり,医師や薬剤師といった専門的な知識を有する者が,その薬効に応じて選択する商品であり,商品の選択に際し,一般消費財において,商品の形状や配色が需要者の着目の対象となる程度に比して,医療用医薬品において,商品の形状や配色が需要者の着目の対象となる程度は,著しく低いといえるからである。証拠(甲16)によれば,平成14年9月以前には,国内の医学専門書で,医療用医薬品を写真で紹介することに主眼を置いたものはなかったことが認められ,このことも,医療用医薬品が,一般的にその形状や配色が需要者の着目の対象となることが少ない商品であることを示すものといえる。
 そうすると,上記のような原告商品の使用実績が認められるとしても,それによって原告配色が原告商品の出所である原告を表示するものとして周知になったとはいえず,しかも,原告配色に特徴があるとして社会的に注目された,あるいは,原告商品の特徴は原告配色にあるとして強力な宣伝がされた,といった特段の事情も認められないのであるから,原告配色が,特定の事業者の出所を表示するものとして周知性を備えていたということはできない。
 なお,原告は,高齢者が,PTPシート自体の色,PTPシートに記載された文字の色やカプセルの色によって医薬品を識別することが多いと主張する。
 上記主張は,患者が「需要者」に含まれることを前提とするものと解されるところ,この前提が誤りであることは,前記イに説示したとおりである。また,仮に,患者が「需要者」に含まれるものと解したとしても,高齢者をはじめとする患者全般が医療用医薬品の配色に着目するのは,通常,自らが誤って当該医薬品と他の医薬品とを混同して服用するのを防止することを意図しているのであって,患者全般が,医療用医薬品の配色を特定の事業者の出所を表示するものと理解する場合が多いとは到底認められない。
 したがって,原告の上記主張を採用する余地はない。
オ 以上によれば,原告配色は,損害賠償請求の対象とされている行為の時点である平成14年3月から平成17年3月24日までの間においても,口頭弁論終結日である同年12月7日においても,客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているとはいえず,特定の事業者の出所を表示するものとして周知性を備えていたということもできない。
 したがって,原告配色は,不正競争防止法2条1項1号所定の「商品等表示」には該当しない。
(2) 小括
 以上のとおりであるから,その余の点を判断するまでもなく,被告の行為は,不正競争防止法2条1項1号に該当しない。
2 結論
 以上によれば,原告の請求は,その余の点を判断するまでもなく,いずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。

〔論  説〕
1.この判決でもっとも注目される点は、「需要者」の定義である。
 判決は、原告商品の需要者は「医師等」に特定し、患者は該当しないと説示した。判決は、商標法にいう需要者と対比し、商標事案では患者も含まれると解する余地があるとしても、不競法では2条1項1号の趣旨からはその余地はないと解したが、妥当である。
 本件の不競法の保護対象は商品形態であり、その配色構成がどうなっているかの知識は患者にとってはなくてよいのであり、患者にとって関心があることは医薬品の効能である。
2.判決は、原告の商品形態について見ると、同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているとはいえないから、特定事業者の出所を表示するものとして周知性を具備していたともいえないと認定したことは、被告から実証された多くの証拠によって裏付けられている以上、妥当であろう。

 

 

〔牛木理一〕