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「床下換気口」商品形態・差止等請求事件:新潟地裁三条支部平成6年(ワ)101号平成9年3月21日判決(認容)〔日経デザイン1997年6月号92頁〕

〔キーワード〕 
不競法1条1項1号、通常有する形態、周知の形態、混同、差止請求、廃棄請求、損害賠償請求、不競法5条、弁護士等の費用

 

〔判示・認定事項〕 

  1. 材質・形態を総合的に検討して原告商品と酷似する材質・形態を有する商品はK社の製作に係るものであるが、これを原告商品と比較すると、通孔の数、裏面に張られた網の溶接方法、表面仕上げの方法等に差異があるほか、K社作成の商品には原告商品のようなブロンズ色のものは存在しないことが認められるから、原告商品が床下通風孔器材において通常有する形態のものであると断ずることはできない。
  2. 原告商品は、その宣伝と販売個数により、遅くとも平成4年10月頃までには、問屋、建築業者、基礎屋の間において、原告のステンレス製の金網張設の「床下換気孔」として周知されたものと認められる。
  3. 被告商品は原告商品に極めて酷似しており、そのため原告商品の商品表示として誤認混同が生じていると認められているところ、被告商品は被告代表者が原告商品を参考に製造したものであること、その際、原告商品については実用新案権及び意匠権等の存否について調査したものの、右登録がないことから被告代表者において類似商品の製造が許されるものと即断して原告商品よりも安価で販売する目的で製造を開始したこと、当初被告は、被告商品の写真ではなく原告商品の写真を雑誌に掲載して販売を試みたこと、被告の右行為に対する原告の警告にもかかわらず、その後も被告商品の製造販売を続けたことの各事実が認められ、これらの事実に照らせば、被告商品の製造販売は不正競争防止法1条1項1号に該当することは明らかである。
  4. 被告の行為は、不正競争防止法2条1項1号に規定された不正競争行為に該当するところ、これにより原告が営業上の利益を侵害されることは明らかであるから、原告が被告に対し、右行為の差止を求める請求には理由があり、また、右行為の停止または予防に必要な行為として、その製造の差止めを求める請求には理由がある。
     また、被告商品及び半製品並びにその製造に供した金型及び右各商品の宣伝、広告、説明用パンフレット類の廃棄は、侵害の停止または予防に必要な行為に該当することは明らかであるから、右廃棄を求める請求も理由がある。
  5. 被告は、原告商品に酷似する被告商品を安価に販売する目的で製造することを企画し、販売当初からの原告の警告にもかかわらず、前記不正競争行為である被告商品の製造販売を続けてきたものであって、この点につき被告には重大な過失があるといわざるを得ない。したがって、被告には被告の不正競争行為によって原告が被った損害を賠償すべき義務がある。
  6. 原告が主張するように、不正競争防止法第5条の規定に よって、被告の得た利益が原告の損害と推定すべきであるところ、その場合の被告の得た利益は、これが損害の填補であることに鑑みれば、被告の得た利益については純利益をもって論ずるのが相当である。しかし本件は、被告提出の資料によってはその純利益を算定することは困難であることから、原告が原告商品の販売によって得る純利益を基礎として算定することの可否について検討するに、証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告商品も被告商品も同一の材質を使用した商品であること、その加工の工程もほぼ同一であると認められること、販売先も建築資材等の問屋であって共通すること等の事実を斟酌すれば、結局本件における被告の得た純利益については、原告が原告商品の販売によって得る純利益を基礎として算定せざるを得ない。
  7. 原告の主張する弁護士費用等の費用については、不正競争防止法が損害額の推定規定をおいた趣旨に鑑み、右推定を受ける損害の額に含まれると解するのが相当である。

 

〔事  実〕

 

 原告(U社)は、昭和60年6月頃から、別紙原告商品(1)ないし(8)を「床下換気孔」と命名して製造、販売していたところ、従前床下用換気口及びこれに類する製品は一切製造していなかった被告(S社)が、平成5年5月頃から、別紙イ号物件ないしチ号物件にかかる形態の被告商品の製造を開始し、「床下換気孔」と命名して販売した。原告商品と被告商品の形態は、全くといっていいほど同一である。
 そこで、原告は、被告商品は原告商品の商品表示と同一若しくは類似するから、両者の製品の誤認混同が継続すれば、原告の営業上の利益が著しく害されるとして、不競法2条1項1号、3条に基づき、その製造、販売等の差止め並びに被告商品・半製品及び製造に供した金型等の廃棄を、同法4条に基づき損害の賠償を、それぞれ請求した。

〔争  点〕

1. 原告商品は、その形態が、原告の商品を表示するものとして需要者間に広く認識されているか。また、被告商品は、原告商品と混同されて販売されているか。
2.原告の損害の有無と額。

 

〔判  断〕

 

一 争点1について
1 まず、原告商品が床下換気口用器材が通常有する形態のものであるか否かについて検討するに、証拠によれば、床下換気口用器材については、その形状、大きさ、通孔の形態、数、スライドの有無及び開閉の態様、材質等に種々の組み合わせがあることが認
められる。したがって、原告商品の特徴とされる点につき、その材質、通孔の形態及び数、大きさ、色等その構成要素とされる形状・形態を個々の要素に分解して検討することは相当ではない。けだし、個々の要素が一般的に使用されているものであっても、その組み合わせ如何によってはその商品の形態が不正競争防止法2条1項1号に言う商品表 
示に該当することが考えられるからである。
2 前記各証拠によれば、材質・形態を総合的に検討して原告商品と酷似する材質・形態を有する商品はK社の製作に係るものであるが、これを原告商品と比較すると、通孔の数、裏面に張られた網の溶接方法、表面仕上げの方法等に差異があるほか、K社作成の商品には原告商品のようなブロンズ色のものは存在しないことが認められるから、原告商品が床下通風孔器材において通常有する形態のものであると断ずることはできない。
3 証拠によれば、原告は、昭和60年6月から原告商品の販売を始めたが、当初は売上が伸びなかったこと、そのため原告の営業マンが問屋及び建築業者等を戸別に訪問して営業活動をする一方、同伴販売、景品付き販売などの販売活動を行うなどして原告商品の宣伝に努めたこと、その結果、昭和60年10月末までに5万7218個を販売したのを皮切りに、次年度以降平成6年10月末までの毎決算期ごとに8万8118個、16万0462個、24万5402個、27万8793個、33万1048個、38万0902個、55万4192個、71万9391個とその販売数を伸ばしてきたこと、平成5年度の販売個数はわが国の床下換気口用器材の需要の1割に達すると推認されること、原告商品の販売先も東京都、大阪府、神奈川県、愛知県、宮城県、新潟県等の広範囲の80社を越える取引先に及んでいること等の事実が認められ、これらの事実に照らせば、原告商品は、その宣伝と販売個数により、遅くとも平成4年10月ころまでには問屋、建築 業者、基礎屋の間において、原告のステンレス製の金網張設の「床下換気孔」として周知されたものと認めることができる。したがって、この点に関する原告の主張は理由がある。
 この点につき、前記証拠によれば、K社作成の床下換気口用器材が原告商品と酷似している事実が認められるが、証拠及び弁論の全趣旨によれば、その販売開始時期は昭和61年11月20日であり、販売数も原告商品の1割にも満たず、一般に流通している事実も認められないから、原告商品と酷似している右K社作成の床下換気口用器材が存在する一事をもって、原告商品の商品表示の周知性が否定されることはない。したがって、この点に関する被告の主張は理由がない。
4 前記前提事実及び争いのない事実並びに証拠によれば、被告商品は原告商品に極めて酷似しており、そのため原告商品の商品表示として誤認混同が生じていると認められるところ、被告商品は被告代表者が原告商品を参考に製造したものであること、その際、原告商品については実用新案権及び意匠権等の存否について調査したものの、右登録がないことから被告代表者において類似商品の製造が許されるものと即断して原告商品よりも安価で販売する目的で製造を開始したこと、当初被告は、被告商品の写真ではなく原告商品の写真を雑誌に掲載して販売を試みたこと、被告の右行為に対する原告の警告にもかかわらず、その後も被告商品の製造販売を続けたことの各事実が認められ、これらの事実に照らせば、被告商品の製造販売は不正競争防止法2条1項1号に該当することは明らかである。したがって、この点に関する原告の主張は理由がある。
二 差止め請求、廃棄請求、損害賠償請求の責任原因
 前記のとおり、被告の行為は、不正競争防止法2条1項1号に規定された不正競争行為に該当するところ、これにより原告が営業上の利益を侵害されることは明らかであるから、原告が被告に対し、右行為の差止を求める請求には理由があり、また、右行為の停止または予防に必要な行為として、その製造の差止を求める請求には理由がある。
 また、被告商品及び半製品並びにその製造に供した金型及び右各商品の宣伝、広告、説明用パンフレット類の廃棄は、侵害の停止または予防に必要な行為に該当することは明らかであるから、右廃棄を求める請求もまた理由がある。
 そして、前記認定事実によれば、被告は原告商品に酷似する被告商品を安価に販売する目的で製造することを企図し、販売当初からの原告の警告にもかかわらず、前記不正競争行為である被告商品の製造販売を続けてきたものであって、この点につき被告には重大な過失があるといわざるを得ない。したがって、被告には被告の不正競争行為によって原告が被った損害を賠償すべき義務がある。
三 争点2について
1 証拠によれば、被告商品の価格が原告商品の価格を下回っていたこと、原告は、平成5年5月1日から原告商品の価格を甲第9号証の4記載の価格に改訂したことの各事実が認められるところ、原告は、右値下げ分は被告の不正競争による原告に生じた損害である旨主張する。しかし、証拠によれば、原告商品と酷似している前記K社の商品の価格が原告商品の価格を下回っている事実が認められる他、一般に商品の価格はその時々の経済事情や当該商品の製造及び販売数量、すなわち供給量並びに需要量、さらには当該商品の陳腐化等の事情により影響を受けることは否定できないところ、右事実に照らせば、原告が原告商品の値下げを行った背景には被告の不正競争行為があった点は否めないが、右K社の商品の価格や原告商品の価格の改定時には原告商品が開発されてから既に8年以上経過していること及び値下げ後の原告商品の販売 による利益はあることをも併せ考えると、原告商品の値下げが被告の不正競争行為に全面的に起因していると認めることはできない。したがってこの点に関する原告の主張は理由がない。
2 ところで、被告は、原告の申立てによる証拠保全の手続(平成6年(モ)第119号)において、被告商品の製造、販売に関する総勘 定元帳等の帳簿類を提出せず、第14回口頭弁論期日において商品別売上日報等を提出したのみである。しかし、仕入れや販売管理費に関する信頼すべき資料がないことから、これらの資料のみによっては被告商品の販売による正確な利益を算出することは困難であるといわざるを得ない。
 また、原告商品の販売減による損害について、床下換気口用器材の需要の一割の販売が見込めたはずであるとする原告の主張は、原告商品のシェア自体に変遷があることに照らし、不確実であって採用することができない。
3 そこで、原告が主張するように、不正競争防止法第5条の規定によって、被告の得た利益が原告の損害と推定すべきである。ところで、その場合の被告の得た利益について検討するに、これが損害の填補であることに鑑みれば、被告の得た利益については純利益をもって論ずるのが相当である。しかし、本件については、前述したように、被告提出の資料によってはその純利益を算定することは困難であることから、原告が原告商品の販売によって得る純利益を基礎として算定することの可否について検討するに、証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告商品も被告商品も同一の材質を使用した商品であること、その加工の工程もほぼ同一であると認められること、販売先も建築資材等の問屋であって共通すること等の事情を斟酌すれば、結局本件における被告の得た純利益については、原告が原告商品の販売によっての得る純利益を基礎として算定せざるを得ない。
 そして、争いのない事実及び証拠によれば、原告商品の販売により原告が得た純利益の額は、原告商品1個につきおよそ105円と認められる(原告商品1個の価格については、被告以外の他社との競合等もあって適正な価格に改訂されたものと認めるのが相当であるから、改定後の価額を基準とすべきである)ところ、証拠によれば、被告が平成5年から平成7年までに販売した被告商品の個数は少なくとも12万3471個と認められるから、被告の得た利益は1296万4455円であると推定される。したがって、不正競争防止法5条1項により、原告は右と同額の損害を受けたものと推認される。(なお、原告の主張する弁護士費用等の費用については、不正競争防止法が損害額の推定規定をおいた趣旨に鑑み、右推定を受ける損害の額に含まれると解するのが相当である。)
4 よって、原告の損害賠償に関する請求は、被告の不正競争行為による損害賠償金として金1296万4455円及びこれに対する不正競争行為の後である平成6年10月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。
四 したがって、本件請求は、被告商品の製造、販売等の差止め並びに被告商品・半製品及びその製造に供した金型及び右各商品の宣伝、広告、説明用パンフレット類の廃棄並びに被告の不正競争行為による損害賠償金として金1296万4455円及びこれに対する不正競争行為の後である平成6年10月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容する。

〔研  究〕

1. この事件は、筆者が輔佐人として担当した事案である。
 原告は、今回保護の対象とした原告商品1について、意匠登録出願をしたところ、この意匠は、原告みずからが以前に出願していた登録意匠を構成する一部品の意匠と類似するとして拒絶査定された経緯があったから、原告商品1自体は意匠権による保護は
できなかった。
 しかし、被告商品が市場に出廻った頃には、すでに原告商品は市場において周知性を獲得していたのであった。被告商品は正に原告商品に意匠権が取得されていないことを奇貨とし、製造販売禁止の警告を無視しつづけたことを裁判所は重大な過失と認定し
たが、事実は正に故意であった。
2. 被告の商品形態は原告の商品形態のデッドコピーであったから、その発売から3年以内であれば、不競法2条1項3号の適用が可能であったはずであるが、長い時間の経過があったことから、2条1項1号の適用に依るしかなかった。しかし、1号類型の不正競争行為
が認定されるためには、周知性と需要者の混同という要件の成立を立証しなければならないから、原告に課せられた労力は大きかった。
 しかし、本件においては、2条1項1号の規定する要件は全部立証されたから、原告は勝訴することができたが、本件に対処した被告の態度は終始悪意に満ちていた。
 判決は、原告の差止め請求、廃棄請求、損害賠償請求を全面的に認めた。のみならず、判決は、被告の行為が2条1項1号に規定する不正競争行為に該当する以上、この行為の停止又は予防に必要な行為として、その製造の差止めを求める請求には理由がある
と解した。
3. 損害賠償額の算定については、被告は原告申立てによる証拠保金手続において関係帳簿類を提出せず、終結間際の口頭弁論期日に商品別売上日報等を提出しただけであったことから、被告の商品販売による正確な利益の計算は困難であるとし、裁判所は、不競法5条の規定により、被告の得た利益が原告の損害と推定すべきであると考え、被告の得た利益とは、「損害の補填であることに鑑みれば」、被告の得た純利益をもって論ずるのが相当とした。しかし、前記被告提出の資料では純利益の算定は困難であることから、裁判所は、原告が原告商品の販売によって得る純利益を基礎として算定したが、これは各種事情を考慮すれば、やむを得なかったであろう。その結果、被告の得た利益は、販売個数に原告の純利益額の1個105円を乗じて算定した金額とされたのである。
 また、原告は、原告が弁護士及び弁理士に支払った費用についても加算請求したが、裁判所は、これは、推定を受ける前記損害額に含まれると解した。しかし、このような考え方は、特に被告の行為を故意に近い重大な過失と認定した裁判所の考え方からすれば、不可解なことである。
4. なお、本事件判決によって周知性が認定された原告の商品形態は、B意匠審決取消訴訟B2−3床下通風口事件(東京高裁平11.10.26判)において、意匠方3条2項を適用するに当たっての有効な証拠となることになったので、参照されたい。

[牛木理一]