C1-29

                                     
ブラジャー」商品形態・差止等請求事件:大阪地裁平16(ワ)10351平成17年9月8日(21民)判決<棄却>  →C1−39参照

〔キーワード〕
同種商品が通常有する形態,商品の形態,特許公報記載の図面,実質的同一性,商品形態の模倣,商品形態の質感・光沢

〔事  実〕
1 本件は,米国企業が製造販売するブラジャーの日本国内における独占的販売権者である原告が,同じくブラジャーを輸入し,販売する被告に対し,@原告のブラジャーの形態は原告の出所を表示する商品表示として周知性を有するところ,被告のブラジャーの形態は原告のブラジャーの形態と類似し,原告の商品と混同を生じさせるおそれがある(不競法2条1項1号),A原告のブラジャーの形態は原告の出所を表示する商品表示として著名性を有するところ,被告のブラジャーの形態は原告のブラジャーの形態と類似している(同2号),B被告のブラジャーの形態は原告のブラジャーの形態を模倣したものである(同3号)と主張して,(ア)同法3条1項に基づき被告のブラジャーの輸入・販売の差止め,(イ)同法3条2項に基づき被告のブラジャーの廃棄,(ウ)同法4条に基づき被告のブラジャーの販売によって平成16年5月1日から同年7月31日までの間に原告が被った3億円の損害の賠償及びこれに対する同年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。
2 前提事実
(1) 原告ゴールドフラッグ株式会社は,平成15年1月30日,米国カリフォルニア州法人の「Bragel International Inc.」(以下「ブラジェル社」という。)との間で,同社の開発,販売に係るブラジャー(商品名:NuBra。以下「原告商品」という。)について,原告を日本国内における独占的販売権者とする旨の契約を締結し,以後,同商品の輸入及び販売を開始した。
 原告商品の形態は,別紙「原告商品目録(原告)」添付写真のとおりである。
(2) 被告株式会社ピーチ・ジョンは,平成16年5月1日以降,「Hello Sticky」という商品名のブラジャー(以下「被告商品」という。)を輸入・販売している。
 被告商品の形態は,別紙イ号物件目録添付写真のとおりである。
 本件の争点は次のとおり。
(1) 不正競争防止法2条1項1号関係
ア 原告商品の形態は周知な商品表示か。
イ 被告商品は原告商品との混同を生じさせるおそれがあるか。
ウ 原告は「不正競争によって営業上の利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある者」(同法3条),不正競争によって営業上の利益を侵害された「他人」(同法4条)に該当し,差止請求,廃棄請求及び損害賠償請求をなし得る地位にあるか。
(2) 不正競争防止法2条1項2号関係
ア 原告商品の形態は著名な商品表示か。
イ 原告は「不正競争によって営業上の利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある者」(同法3条),不正競争によって営業上の利益を侵害された「他人」(同法4条)に該当し,差止請求,廃棄請求及び損害賠償請求をなし得る地位にあるか。
(3) 不正競争防止法2条1項3号関係
ア 原告商品の形態は同種の商品が通常有する形態か。
イ 被告商品の形態は原告商品の形態を模倣したものか。
ウ 原告は「不正競争によって営業上の利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある者」(同法3条),不正競争によって営業上の利益を侵害された「他人」(同法4条)に該当し,差止請求,廃棄請求及び損害賠償請求をなし得る地位にあるか。
(4) 損害額

〔判  断〕

1 不正競争防止法2条1項3号の主張について
(1) 争点(3)ア(通常有する形態)について
ア 検甲1号証によれば,原告商品の形態は次のとおりであると認められる。
(ア) 基本的形態
a 独立した左右2個のカップから成るブラジャーである。
b 肩ひも,横ベルト等の身体に装着する部材がない。
c 2個のカップの相対する部分に両カップを連結するフロントホックが設けられている。
d 左右2個のカップは,前面視(別紙「原告商品目録(原告)」添付写真の第2図及び第3図)でいずれも略半円形をしている。
(イ) 具体的形態
a 全体に肉厚で,ブヨブヨしていて,すぐに形が崩れる軟らかい質感を有している。
b カップは,表面及び裏面とも全体に肌色のシリコンを薄いビニールで包んだような半透明上の膜で覆われ,周辺部ほど肌色が薄くなり,表面には細かな皺が寄る。
c カップの裏面は,粘着層に由来する光沢がある。
イ 原告商品が市場で販売されるより前に,次のブラジャーが市場で販売されていたことは,当事者間に争いがない。
(ア) 商品名「MAGICUPS」(検乙1)
(イ) 商品名「Swivelift」(検乙2)
(ウ) 商品名「STAYKUPS」(検乙3)
(エ) 商品名「The Clearly Natural」(検乙7)
(オ) 商品名「Extreme Plunge」(検乙8)
ウ 原告商品の基本的形態とこれら従来商品の基本的形態とを比較検討すると次のとおりである。
(ア) 「MAGICUPS」は,原告商品の基本的形態のうちのa及びbを備えている点で共通するが,同cを備えておらず,同dについてはカップの形状が異なる上,カップの周縁部にカップ裏面を身体とテープで接着させるための平坦部が設けられている点で異なる。
(イ) 「Swivelift」も「MAGICUPS」と同様である。
(ウ) 「STAYKUPS」は,原告商品の基本的形態のうちのa,b及びcを備えているが,同dについてはカップの形状が異なる上,カップの周縁部にカップ裏面を身体とテープで接着させるための平坦部が設けられている点で異なる。
(エ) 「The Clearly Natural」は,そもそも左右のカップが一体となっていて,原告商品の基本的形態のうちのa,cを具備しない。また,肩ひもは具備しないが,カップ横から脇にかけて伸ばされた部分を具備しており,この部分の裏面を身体とテープで接着させる構造になっていることから同bと異なる。なおカップ自体の形状は同dと共通している。
(オ) 「Extreme Plunge」も,「The Clearly Natural」と同様である。
エ このように,原告商品の基本的形態の各構成要素はいずれも従来商品の中に見られるものであるが,従来商品は,いずれも原告商品の基本的形態の構成要素の一部を具備するにとどまり,原告商品の基本的形態の構成要素の全てを具備したものは存しない。したがって,原告商品の形態上の特徴は,まず,その基本的形態において,従来商品では一部ずつ採用されていた個々の構成要素を1個の商品形態の中に併せて採用した点にあるといえる。
 しかし同時に,原告商品の前記具体的形態も,カップ表面が布地様で,レースや柄模様で装飾的な形態を追求する一般的なブラジャー(前掲の各検乙号証のブラジャーは,いずれもカップ表面が布地様であるし,乙1の各号,乙12の2ないし7及び9に見られるブラジャーは装飾を凝らしている。)とは対極に位置し,被告が主張するように人間のコラーゲン質を想起させるようなブヨブヨした生々しい質感を有する点で例を見ないものであり,やはり原告商品の形態の大きな特徴をなすものであるというべきである。
 なおこの点について原告は,カップ裏面に粘着層を備えていることを原告商品の形態上の特徴であると主張する。確かに,原告商品がその基本的形態において,肩ひも及び横ベルトを備えないのみならず,周縁部に平坦部を設けないカップ形状を採用することができたのは,原告商品を身体表面に装着させる手段としてカップ裏面に粘着層を備えたことによるところが大きいと認められる。しかし,不正競争防止法2条1項3号にいう「商品の形態」とは,商品の外観の態様をいい,商品の外観として視覚的に感得されるものであることを要するところ,カップの裏面に粘着層を備えていることは,原告商品の物理的又は技術的な構造を成すものではあるが,粘着層の有無自体は看者によって視覚的に感得されるものではないから,それ自体を原告商品の形態の一要素として把握することはできない。もっとも,粘着層の存在が商品の視覚的外観に何らかの形で発現している場合には,その発現した態様を商品形態の一要素として把握し得ることは当然であり,原告商品の場合には,粘着層に由来する光沢があること(前記認定に係る原告商品の具体的形態c)として把握することができる。
オ このように原告商品の形態は,その基本的形態及び具体的形態ともに特徴があるから,これが「同種の商品が通常有する形態」であるとはいえない。
 なお被告は,前記従来商品の他に,種々の特許公報に記載されたブラジャーの形態を指摘する。しかし,不正競争防止法2条1項3号は,先行者が資金や労力を投下して開発・商品化した新たな商品の形態について,後行者がこれを模倣して先行者の開発成果にただ乗りするのを防止する趣旨に出るものであるから,「同種の商品が通常有する形態」であるか否かは,実際に商品化されたものに基づいて判断すべきであり,単に特許公報に図面が記載されているだけでは足りないというべきである。
 また,被告は,原告商品の形態は「ストラップレス・バックレス・ブラジャー」なるタイプのブラジャーにおいて,その機能及び効用を実現するために必然的に選択される形態であると主張する。しかし,被告が「ストラップレス・バックレス・ブラジャー」なるタイプのブラジャーであると主張する前記従来商品の商品形態と原告の商品形態とが,基本的形態及び具体的形態のいずれにおいても相違していることは先に述べたとおりであるから,原告商品の形態が,同種の商品の機能及び効用を実現するために必然的に選択される形態であるとはいえず,この意味で「同種の商品が通常有する形態」であるともいえない。
(2) 争点(3)イ(模倣性)について
ア 検甲2号証によれば,被告商品の形態は,次のとおりであると認められる。
(ア) 基本的形態
a 独立した左右2個のカップから成るブラジャーである。
b 肩ひも,横ベルト等の身体に装着する部材が全くない。
c 2個のカップの相対する部分に両カップを連結するフロントホックが設けられている。
d 左右2個のカップは,前面視(別紙「イ号物件目録」添付写真の第2図及び第3図)でいずれも略半円形をしている。
(イ) 具体的形態
a 全体に張りのある平滑で硬めの質感を有している。
b カップは,肌色で,全体に卓球のラケット面のようなラバー製品を思わせる艶がある。
c カップの裏面は,粘着層に由来する光沢がある。
イ 不正競争防止法2条1項3号にいう「模倣」とは,当該他人の商品形態に依拠して,これと形態が同一であるか実質的に同一といえるほどに酷似した形態の商品を作り出すことを意味し,商品形態が実質的に同一であるといえるためには,商品の基本的形態のみならず具体的形態においても実質的に同一であることが必要である。
 そこで,先に認定した原告商品の形態と被告商品の形態とを比較すると,両者は,基本的形態とカップの裏面の具体的形態において共通するが,カップの質感や艶といった具体的形態において相違がある。そして,先に争点(3)アについて述べたとおり,原告商品の形態の特徴は,その基本的形態において,従来商品では一部ずつ採用されていた個々の構成要素を1個の商品形態の中に併せて採用した点にあるのみならず,その具体的形態において,カップ表面が布地様で,レースや柄模様で装飾的な形態を追求する一般的なブラジャーとは対極的に,人間のコラーゲン質を想起させるようなブヨブヨした生々しい質感を有する点にもあるところ,被告商品は,その具体的形態に起因して,原告商品のようなブヨブヨした生々しさを感じさせず,ラバー製品のような艶のある硬い質感を感じさせる点で形態的印象を異にしている。
 また,弁論の全趣旨によれば,このような質感の相違は,いずれも材質等を工夫することにより,@原告商品では重量が165gである(乙9の1)のに対して,被告商品では重量を99gと軽量化したこと(乙9の2)や,A実際に装着した際の乳房の形状を補正する機能の点において,原告商品ではカップが軟らかいために形が崩れてしまうのに対し,被告商品ではカップを硬くして形が崩れることなく保持される(乙8の7)ようにしたことに由来するものであると認められる。上記@,Aの相違点は,いずれもブラジャーの機能上重要なものといえるから,上記材質等の工夫により質感の相違をもたらしたことが無用な形態上の改変であるということはできない。
 そうすると,原告商品と被告商品の各具体的形態における前記相違は,その基本的形態が同一であることを考慮しても,この相違が微細な差異にすぎないとはいい難く,両商品の形態が実質的に同一であるとまではいえない。
ウ したがって,原告の不正競争防止法2条1項3号に基づく主張は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。


2 不正競争防止法2条1項1号の主張について
(1) 争点(1)ア(周知商品表示性)について
ア 後掲証拠によれば,平成15年における原告商品の新聞及び雑誌での紹介について,次の事実が認められる。
(ア) 原告商品は,我が国においては,平成15年2月ないし3月ころから販売されたが,同年の「女性セブン」6月12日号において,「噂のブラで谷間作ってみました」との見出しの下,3頁にわたって原告商品を紹介する記事が掲載された。そこでは,「どんなにセクシーな服を着ても絶対に見えず,しっかり谷間をメイクする”究極のブラ”として,主婦,OLから銀座のホステスまで,世の女性に話題沸騰中の”ヌーブラ”」と記載され,原告の代表取締役の「現在は月に5万個売れています」との発言が掲載された。(甲3の1)
(イ) 雑誌「Caz」6月23日号において,原告商品は,1頁の中に,他の8種類の商品と共に紹介された。(甲3の2)
(ウ) 雑誌「DIME」7月3日号において,「真夏のオンナは磨き込んだ”背中”が眩い」との見出しの下,他の7種類の商品ないしサービスと共に原告商品が紹介された。(甲3の3)
(エ) 雑誌「bea's up」7月号において,6個のプレゼント商品の一つとして掲載された。(甲3の4)
(オ) 雑誌「MISS」7月号において,「肌見せNG立ち直りGOODS」として,他の3種類の商品と共に紹介された。(甲3の5)
(カ) 8月12日の毎日新聞夕刊(大阪本社版)1面の「'03夏写 かんさい経済」欄において,原告商品が紹介され,「この夏の大ヒットは,米国生まれの『ヌーブラ』」,「輸入代理店の『ゴールドフラッグ』(東大阪市)は,『3月の輸入開始以来,全国で売り切れ続出』。高島屋大阪店では,7月末までの4カ月で3250個が売れた。今は予約販売。類似品も出回るほどの人気だ。」との記載がある。(甲3の6)
(キ) 雑誌「AERA」8月18−25日号において,「人気爆発 予約もしてくれません ヌーブラどこにもなし」との見出しの下,原告商品の関する1頁の記事が掲載された。そこでは,「あまりの人気にどこでも品切れ。まるっきり手に入らないブラジャーがある。その名は『ヌーブラ』。今年2月の発売以来,10万本以上売れた。」との記載がある。(甲3の7)
(ク) 9月24日の「繊研新聞」において,2003年春夏百貨店レディスバイヤーズ賞の話題賞に原告商品が選ばれて掲載された。(甲3の8)
(ケ) 雑誌「日経トレンディ」10月号において,原告商品が,他の3種類の女性向け商品と共に紹介された。(甲3の9)
(コ) 雑誌「DIME」10月2日号において,原告商品が,他の6種類の女性向け商品と共に紹介された。そこでは,「『ヌーブラ』は,…アメリカでの製造が追いつかず,都内大手百貨店では,約1000人が予約待ちとなる騒ぎとなった。いずれの高級品にも,今はより低価格な類似品が現われている。しかし,それを寄せつけないだけの高機能が支持され,ヒットを続けている。」との記載があり,また平成15年2月を100とした原告商品の月別売上個数比が,3月は200,4月は500,5月ないし8月は2000となることが記載されている。(甲3の10)
(サ) 雑誌「Can Cam」12月号において,原告商品が,他の6種類の女性向け商品と共に紹介された。そこでは,半年で10万枚の大ヒットと記載されている。(甲3の11)
(シ) 雑誌「日経トレンディ」12月号において,原告商品が「Best 30 for 2003」の17位として紹介された。そこでは,「ユニークなブラジャーとしてテレビ番組が報じたところ,あっという間にヒット。8月までに10万本以上が売れた。」「ピーク時には百貨店で購入の予約待ちをする客が1000人に及び,多数の類似品が出回った。」との記載がある。(甲3の12)
(ス) 12月4日の「日経流通新聞」において,原告商品が「2003年ヒット商品番付」の東前頭6枚目に位置付けられて紹介された。(甲3の13)
(セ) 雑誌「TOKYO 1週間」12月23日号において,「流行りモノ グッズ部門」の1位として,原告商品が紹介された。そこでは,「現在までの販売数は21万個。」との記載がある。(甲3の14)
(ソ) 雑誌「日経ビジネス」12月15日号において,「あなたの知らないヒット商品」の4位として原告商品が紹介された。そこでは,「今春登場し,国内では正規輸入品…だけで21万個,並行輸入品や類似商品も合わせると50万個以上が売れたと見られる。」との記載がある。(甲3の15)
(タ) 雑誌「女性セブン」12月18日号において,他の商品と共に原告商品が紹介された。(甲3の16)
イ 検甲第3号証によれば,原告商品は,次のとおりテレビ番組で紹介されたことが認められる。
(ア) 平成15年3月6日放送の「ベストタイム」(TBS)
(イ) 同年4月3日放送の「あさリラ!」(読売テレビ)
(ウ) 同年9月14日放送の「大阪ほんわかテレビ」(読売テレビ)
 また,(エ)同年9月4日放送の「痛快!エブリディ」(関西テレビ)では,話題のシリコンブラジャーが安価だというので購入したところ,品質の悪い商品だったという一般消費者からの苦情が紹介されている。
ウ 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告商品の類似品として,次のものが存在したことが認められる。
(ア) 原告商品の形態とよく類似する「Fancy Bra」が,平成15年8月ころの時点で販売されていた。(乙10の各号,乙15の各号)
(イ) 原告商品の形態とよく類似する「Pas Bra」が,平成15年夏ころの時点で販売されていた。(乙17の各号)
(ウ) 被告は,平成15年7月ころ,台湾で販売されている「Skin Bra」という商品の取扱いを打診された。同商品の形態は原告商品とよく類似している。(乙16の各号)
エ 以上の認定事実に基づき判断する。
(ア) 商品の形態も,それが他の同種の商品と識別し得る顕著な特徴を有するものである場合には,商品の出所を表示する商品表示として機能し得るものであり,原告商品には,先に争点(3)アで述べた形態的特徴があるから,その商品形態は,商品表示として機能し得る適格を有するものであるといえる。
 そして,原告商品は,平成15年2月又は3月の日本国内での販売開始後,テレビ番組で紹介され,特に夏物衣料の販売が始まる同年5月ころからヒット商品となり,6月以降は何度も雑誌に取り上げられ,同年8月ころには製造が追いつかず,大手百貨店では予約待ちの状態となったことからすると,原告商品は短期間に集中的に需要者の間に浸透していったものといえる。
 これらからすると,原告商品の形態が原告の周知な商品表示となったとの原告の主張にも首肯し得るところがある。
(イ) しかし他方,原告商品が話題になるに伴い,早くも平成15年6月ころから原告商品と形態がよく似た類似品が販売されるようになり,8月に入ると,このような類似品が出回っていることも新聞で記載されるようになったこと(前記ア(カ))からして,類似品の数も増大したものと推認される。また,同時に並行輸入品も出回るようになり,平成15年末時点では,原告を通した原告商品の売上げが約21万個であるのに対し,類似品と並行輸入品を合わせた売上げが約29万個と(前記ア(ソ)),類似品と並行輸入品の売上量が原告を通じた原告商品の売上量を上回る事態となっている。
 そして,これらの類似品の形態は,前記「Fancy Bra」や「Pas Bra」,そして被告が取扱いの打診を受けた「Skin Bra」の各形態に照らして,原告商品とよく似ており,商品形態のみでは容易に識別することができないものであったと推認される。
 また,並行輸入品については,その流通に原告は介在していないから,これが原告の商品であるとはいえず,この商品形態が原告の出所を表示するものとはいえないところ,並行輸入品の商品形態は,当然ながら原告商品のものと同一である。
 このように,原告商品が日本で販売され,話題になっていったころから,類似品が出回り始め,原告商品の最盛期となった平成15年夏の時点では類似品も増加し,並行輸入品も出回るようになり,同年末の時点ではそれらの売上量の方が原告商品の売上量を上回る状態であったことからすると,原告商品の形態は,原告の出所を示す商品表示としての周知性を獲得するより前に,多数の類似品及び並行輸入品が出回ったことにより,商品形態のみで原告の出所を識別するだけの周知性を獲得するには至らなかったと認めるのが相当である。
 先に認定した雑誌の記事の中には,平成15年10月の時点で,原告商品は,低価格の類似品が出回る中でもそれを寄せ付けないだけの高機能が支持されてヒットを続けているとの記載がある(前記ア(コ))が,この記載は,類似する形態の商品の間でも原告商品は品質面で消費者から支持されているということを示すにとどまり,商品形態自体によって原告の出所が識別されていることを裏付けるものとはいえない。
 また,テレビ番組において,一般消費者から,話題のシリコン製ブラジャーが安価だというので購入したところ品質が悪かったという苦情が寄せられたことがある(前記イ(ウ))が,多数の類似品及び並行輸入品の存在を前提とすれば,このような例があるからといって,原告商品の商品形態が原告の出所を識別するだけの周知性を獲得するに至らなかったという前記認定は左右されない。
(ウ) したがって,原告商品の商品形態が,原告の出所を表示する周知な商品表示であるとは認められない。
オ 以上より,原告の不正競争防止法2条1項1号に基づく主張は,その余について判断するまでもなく理由がない。

3 不正競争防止法2条1項2号に基づく主張について
 先に2で認定,説示したところからすると,原告商品の商品形態が原告の出所を表示する著名な商品表示であるとは到底認められないから,原告の不正競争防止法2条1項2号に基づく主張は,その余について判断するまでもなく理由がない。

〔論  説〕
 裁判所は、前記争点の順序ではなく、不競法2条1項3号→同条項1号→同条項2号の順番変更して判断している。それは、この方が事案としては判断し易いと考えたからであろう。
1.3号型について
1.1「通常有する形態」とは何か
(1)3号は、他人の商品の形態が「通常有する形態」であるときは、たとえ模倣されたとしても侵害の対象とはならないと規定するところ、ここにいう「通常有する形態」とは何を意味するかについて、裁判所は、被告が提出した5つの公知意匠の形態を引用している。
 しかし、当該商品が「通常有する形態」とは、本件でいえば、文字どおりブラジャーという物品が基本的に固有する形態を意味するから、当該物品に関する公知的形態とは区別できる概念であるはずである。即ち、被告が検証物として提出し、判決が引用したような商品の公知的形態は、当該商品が「通常有する形態」とはその範疇が違うものと考えるべきである。
 この辺の区別は、登録意匠に係る形態の構造を考える場合と同じであり、不競法とはいえ3号型にあっても、ある程度創作性のある商品形態の模倣に対する保護と考えて間違いないのだから、「通常有する形態」の法概念を、事実上の「公知的形態」と同列に考えたこの判決の考え方はおかしい。もう少し熟考すべきであったと思う。
 これに対し裁判所は、被告が証拠として提出したいくつかの特許公報中に記載されたブラジャーの形態に対し、「同種の商品が通常有する形態であるか否かは、実際に商品化されたものに基いて判断すべきであり、単に特許公報に図面が記載されているだけでは足りないというべきである。」と説示している点は、注目すべきである。この説示は、意匠法3条1項の1号と2号の規定上の差異を意識しているような解釈であり、1号の事実上公知の意匠と2号の刊行物等公知の意匠とを区別し、後者の公知的形態は該当しなくても、前者の公知的形態は「通常有する形態」と該当すると解している。
 しかし,私の考え方から見れば、この裁判所の考え方はやはり誤りであり、事実上公知の形態のレベルのものである限り、「同種の商品が通常有する形態」とはなり得ないと解すべきである。せめて立証が不要な「事実上周知の形態」のレベルのものと認定できる形態であってもらいたいのである。
 なお、意匠権侵害の場合に私がいつも説明する登録意匠のピラミッド形の構造図を、「意匠権侵害−理論と実際」25頁(経済産業調査会2003)において見ていただければ、私の上記の説明は一目瞭然で理解できるはずである。
 この図の最頂部にある「創作的形態」とは、正に不競法が保護すべき「先行者が資金や労力を投下して開発した新たな商品の形態」といわれるものであり、「原告商品の形態の大きな特徴をなす」といわれるものである。
 さらに、本件の判決が説示している違いの問題は、意匠法3条2項の解釈に対し、裁判所がきわめて重大なヒントを与えている。それは、意匠審査の実務において、審査官が不用意に適用している3条2項には、3条1項2号にいう刊行物公知の意匠は除外されているから、創作容易の判断基準として刊行物公知の意匠を拒絶引用に使うことは誤りだ、という私の立法当時からの主張を裏付けることである。
(2)本件判決は、原告商品の形態上の特徴について、「まず、その基本的形態において、従来商品では一部ずつ採用されていた個々の構成要素を1個の商品形態の中に併せて採用した点にあるといえる。」と認定し、「原告商品の前記具体的形態も、カップ表面が布地様で、レースや柄模様で装飾的な形態を追求する一般的なブラジャーとは対極に位置し、被告が主張するように人間のコラーゲン質を想起させるようなブヨブヨした生々しい質感を有する点で例を見ないものである」と認定する。
 また原告は、カップ裏面に粘着層を備えていることを商品形態上の特徴とすると主張したのに対し、判決は、「原告商品がその基本的形態において、肩ひも及び横ベルトを備えないのみならず、周縁部に平坦部を設けないカップ形状を採用することができたのは、原告商品を身体表面に装着させる手段としてカップ裏面に粘着層を備えたことによるところが大きいと認められる。しかし、不競法2条1項3号にいう「商品の形態」とは、商品の外観の態様をいい、商品の外観として視覚的に感得されるものであることを要するところ、カップの裏面に粘着層を備えていることは、原告商品の物理的又は技術的な構造を成すものではあるが、粘着層の有無自体は看者によって視覚的に感得されるものではないから、それ自体を原告商品の形態の一要素として把握することはできない。」と説示しつつ、「もっとも、粘着層の存在が商品の視覚的外観に何らかの形で発現している場合には、その発現した態様を商品形態の一要素として把握し得ることは当然であり、原告商品の場合には、粘着層に由来する光沢があることとして把握することができる。」と認定する。


1.2「模倣性」について
 判決は、両商品形態を対比して、「基本的形態とカップ裏面の具体的形態において共通するが、カップの質感や艶といった具体的形態において相違がある。」と認定した。そして、形態的印象を異にしているから、基本的形態が同一であっても、具体的形態は相違するから、両商品の形態は実質的に同一であるとは断定できないとしたことは妥当である。

2.1号型について
 裁判所は、原告商品の形態が周知な商品表示となったことについての原告の主張は、証拠の裏付けからある程度認めたが、原告商品が話題となった直後から、早くも類似品が出回ったり、並行輸入品も出回ったことから、商品形態のみから、原告の出所を識別することができるだけの周知性を獲得するには至らなかったと認定した。また裁判所は、雑誌の記事の中には、低価格の類似品が出回る中で原告商品には、それを寄せ付けないだけの高機能が支持されてヒットを続けていると記載されていても、商品形態自体によって原告の出所が識別されていることを裏付けるものとはいえないと認定したが、いずれも厳しすぎるように見える。けだし、模倣品となるものは、商品形態だけは実質的に同一であっても、その中味としての高機能の付与はなく、低価格でも販売できるのであり、それによって、先行者が資金や労力を投下して研究開発に只乗りすること許す結果になるからである。
 しかし、証拠によって商品形態が類似以上に実質的同一性が把握でき、かつ競業者としての被告との間で商品出所を識別するだけの周知性を原告の商品形態自体が獲得するに至っているならば、全体の状況から商品の混同を生じさせていることを推認できたはずである。

3.2号型について
 裁判所は、前記1号型に対する認定、説示から、原告の商品形態が原告の出所を表示する著名な商品表示であるとは到底認められないと判断したが、短期間のうちに著名性の要件を獲得することは通常の商品形態の場合にあっては、極めて困難なことである。

 

〔牛木理一〕