C1-28

 

「ノーワックス」商品形態・差止等請求事件:東京地裁平14()15939平成16915日判〈一認〉知財高裁平17()10029控訴.平17()10034附帯控訴平成17810日判〈原判決,控訴人の敗訴部分取消,被控訴人の上記取消に係る部分の請求棄却,同人の附帯控訴棄却〉(上告中)

 

〔キーワード〕

品質誤認表示,誤認の評価,誇大広告,虚偽表示

〔事  実〕

 原告(株式会社ウイルソン)は、自動車用ワックスの製造、販売等を業とする株式会社であるが、被告(中央自動車工業株式会社)の販売する自動車用コーティング剤「CPCペイントシーラント」(以下「被告商品」という。)の広告及び取引書類において記載されている、別紙表示目録A及び別紙表示目録B記載の各表示(以下「本件各表示」と総称する。)は、被告商品の品質及び内容を誤認させるものであるから、本件各表示を広告等に記載する被告の行為は、不正競争防止法2条1項13号の不正競争行為に該当するとして、被告に対し、「請求」欄記載の各請求をした。

 争点は、次のとおり。

(1)本件各表示は、被告商品の品質及び内容を誤認させる表示といえるか。

(2)原告の損害はいくらか。

(3)被告に故意又は過失があるか。

(4)被告商品の販売等を差止める必要性があるか。

(5)謝罪広告の必要性があるか。

 まず原判決は、本件各表示のうち原判決別紙表示目録A記載3,4及び7の各表示並びに同目録B記載2,4ないし6,8及び9の各表示は、被告商品の品質や内容を誤認させるおそれがある表示であるとして、被控訴人の請求のうち、上記各表示を被告商品の広告又は取引書類について記載することの差止め、現在ウェブページに存在する同目録B記載5の表示の削除及び損害賠償請求の一部(1000万円及びこれに対する平成14年8月1日から年5分の割合による遅延損害金)の支払の限度で、これを認容し、その余の請求を棄却した。
 そこで、これを不服とする控訴人が敗訴部分について控訴するとともに、被控訴人が損害賠償の棄却部分について附帯控訴したものである(したがって、本件各表示のうち原判決が認容しなかった各表示の記載の差止め及び削除、カタログの廃棄、被告商品の譲渡等の差止め及び謝罪広告の記載の各請求は、当審における審理の対象となっていない。

〔東京地裁の判断〕

1 争点(1)について(本件各表示は,被告商品の品質及び内容を誤認させる表示といえるか。)

(1) 本件各表示の意味
 弁論の全趣旨によれば,本件各表示は,被告商品の需要者又は取引者である一般消費者,自動車ディーラー又は自動車修理業者に対し,被告商品について,新車購入時の施工により,@自動車の塗装面にテフロン被膜が形成されること,A5年間,新車時の塗装の輝きが維持されるものであることを示した表示であると理解される。
 そして,この理解を前提として,原告は,上記@,Aの点において,被告商品の品質及び内容を誤認させるものであると主張するので,この点について検討する。
(2) テフロン被膜の形成に関する表示について
ア 原告は,テフロンは,その性質上,成形加工や溶解するには,少なくとも摂氏250度以上の高温条件が必要であるのに対して,被告商品の施工方法は,室温での塗布,拭上げを中心とする単純なものであり,これによってテフロン被膜が形成されることはないことを根拠として,被告各表示は,品質及び内容の誤認させる表示である旨主張する。
 証拠(乙1ないし3)によれば,@テフロンは,デュポン社が製造する特定のフッ素化合物の登録商標の総称であり,デュポン社は,その製造する複数種類のフッ素化合物について,テフロンのほかに,ゾニール,テフゼルといった登録商標を付した商品を使用していること(乙2),A日本においては,デュポン社の合弁会社である三井・デュポンフロロケミカル株式会社が取り扱うテフロンは,いずれも高温での加工処理を必要とするものであること(甲6,48),Bしかし,デュポン社の製造するフッ素化合物の中には,常温での加工処理が可能なものが存在すること(乙1)が認められる。そして,C被告商品に含まれているテフロンの組成は,輸入元のCPC Co.Ltd.の営業秘密に係るもので明らかにされていないが,上記ゾニールを含むと推認され(乙3),これらの事実経緯に照らすならば,被告商品には,常温処理が可能な種類のテフロンが用いられているものと認められる。
 そうすると,被告商品が,常温の下において施工されるとの事実から直ちに,被告商品において,テフロン被膜の形成が不可能であるとの結論を導くことはできない。したがって,被告商品の通常の施工によるテフロン被膜の形成が不可能であることを根拠として,被告商品の品質及び内容を誤認させる表示を使用したとの原告の主張は採用できない。
イ 原告は,被告商品中のテフロン素材の含有量は,全体の約0.5重量パーセントにすぎず,テフロン自体は微粒子状のまま溶剤と溶解されていない状態にあるので,塗装面と緊密に結合したテフロン被膜が形成されることはなく,被告各表示は,品質及び内容を誤認させる表示である旨主張する。
 この点に関する各証拠を検討する。
() 甲5,46
 甲5及び46は,被告商品中の組成を分析した報告書であり,被告商品中のフッ素樹脂は,全体の約0.5重量パーセントであると記載されている。
 しかし,同分析は,フッ素の定量を行った上,被告商品に含まれているテフロンがTFE樹脂であることを前提として,フッ素樹脂量を算定している(甲5及び46の3頁注4,甲6,48の2頁テフロンTFEの構造式)。 しかし,前記アのとおり,被告商品には常温処理が可能な種類のテフロンが使用され,常温処理ができないテフロンであるTFE樹脂(甲6,48)は用いられていないと認められるから,原告のした前記算定はその前提に誤りがある。したがって,被告商品中のフッ素樹脂が全体の約0.5重量パーセントであると認めることはできない。
() 甲51
 甲51には,被告商品の自動車塗装面への塗布直後に表面に浮き出る白い粉状固形物(拭取り作業によって採取されたもの,甲50)に含まれるフッ素量を分析した結果,3重量パーセントであること,それを特定のフッ素樹脂(PTFE)にあてはめて計算すると当該固定物全体の3.9パーセントであると記載されている。そして,原告は,この結果と,甲46による各成分の組成割合とをあわせて計算すると,被告商品の乾燥固形物中にはフッ素樹脂が4.5パーセント含まれることとなり,そのうち大部分である3.9パーセントが塗布後の拭取り作業により剥落し,自動車塗装面には極めて微量のフッ素樹脂しか残らないと主張する。
 しかし,この定量分析結果は目安である旨示されていること(甲51の2頁),ここでのフッ素樹脂の分析は,被告商品に使用されている常温処理が可能なテフロンとは異なる,常温処理ができないフッ素樹脂(TFE樹脂,甲6,48)を前提として換算されている点で誤りがある。したがって,拭取り後に自動車塗装面には,極めて微量のフッ素樹脂しか残らないと認定することはできない。
() 甲53
 甲53は,自動車の塗装板相当の試験片に被告商品を塗布し,種々の条件を設定して実施して得られた塗装面のフッ素について,X線光電子分光法(XPS/ESCA,以下「XPS法」という。)により分析した報告書である。同報告書には,被告商品塗布直後の試料A,被告商品塗布後屋外に10日放置し,水洗いした試料B,被告商品塗布後屋外に10日放置して水洗いし,被告商品用のメンテナンスクリーナー(以下「本件メンテナンスクリーナー」という。)をかけて拭き取った試料Cについて分析した結果として,試料A及びBには微量のフッ素が検出されたが,試料Cからはフッ素が検出されなかったことが記載されている。そして,原告は,この結果により,被告商品塗布後,最初のメンテナンスクリーナーによる拭取り作業を行った時点で,既に塗装面からフッ素樹脂が剥落しているのであり,もともと被告商品によりテフロン被膜が形成されていないことを示していると主張する。
 しかし,甲53で用いられた試料Cと同様の試料について,メンテナンスクリーナーを除去して測定し,フッ素が検出されたとの結果(乙6)も存在することに照らすならば,XPS法は,固体の表面から数ナノメートルの深さ領域に関する元素等の分析に用いられるものである(甲56の1,乙7)から,メンテナンスクリーナーが塗布された場合,同クリーナーによって形成される膜厚の存在が,その下部に存在するフッ素の検出を困難にしていると推測される。したがって,甲53を基礎として,原告の前記主張を採用することはできない。
() 甲59ないし82,85ないし88
a 甲59ないし82は,JIS準拠自動車塗装試験片について,種々の条件(@被告商品施工の有無,Aメンテナンスクリーナー施工の有無,Bジエチルエーテルでの拭取り作業又は浸漬,スポンジやブラシでの水又はシャンプー洗いの時間や回数の差異)を設定して実施し(甲58),それらにより得られた23種類の試料について,XPS法による分析及び電子線マイクロアナライザー(EPMA,以下「EPMA法」という。)による元素マッピング分析を行い,試料表面の元素を測定したものである。また,甲85ないし88は,被告商品を施工し,10日後にメンテナンスクリーナーをかけた新車(甲83,84)について,相当期間経過後に,その屋根及びボンネットの切断片を試料として,上記と同様の分析を行ったものである。これらの分析では,フッ素について,別紙「分析結果一覧表」記載のとおり,フッ素量は,メンテナンスクリーナーを施工する前と比較すると,メンテナンスクリーナーや洗浄等の実施後に,相当量が減少するとの結果が示されている。
b しかし,以下のとおりの理由から,これらの分析結果によっても,種々の設定条件を実施した後,自動車塗装面に存在するフッ素は,極めて微量であって,大半は失われると認定することはできない。
 まず,EPMA法による元素マッピング分析は,試料表面の元素の分布密度や表面形態を測定するには適しても,定量評価としては疑問が残るといえる(乙30)。そして,XPS法による測定でフッ素が検出されている試料についても,フッ素が検出されない結果を示している等の点に照らすならば,EPMA法による測定をもって,フッ素の残留量あるいはテフロン被膜の形成の有無を論ずることは相当ではない。
 また,XPS法では,メンテナンスクリーナーの存在により,その下のフッ素の検出は困難となることから,上記各分析においては,ジエチルエーテルによるメンテナンスクリーナーの除去を行った後のフッ素を検出している。しかし,メンテナンスクリーナーの厚みがどの程度のものか明らかではなく,ジエチルエーテルでの拭取り作業後も,メンテナンスクリーナーが十分に除去されずに残ったり,逆に,メンテナンスクリーナーとともにフッ素の含まれている層も一部除去される可能性もある。さらに,蒸留ジエチルエーテルに浸漬する方法は,フッ素そのものを溶かすことはないが,フッ素と結合した結合剤を溶解させることが指摘されている(乙7)点を考慮すると,上記各分析結果が,フッ素残留量を正確に示すものであるということはできない。
 さらに,スポンジやブラシを用いた洗浄は,1分間に60往復の作業を1回ないし2回行うというものであるが,被告商品施工後の洗車については,ブラシの使用を避けて,やわらかいスポンジや合成セームの使用,洗車後の拭取りも合成セーム等の使用が推奨されている点を考慮すると(甲3,乙44),上記分析における洗浄方法は,フッ素含有量を測定する方法として適切なものであるとはいえない。
 なお,実車の屋根及びボンネットの切断片を試料とする分析では,EPMA法による元素マッピング分析について,前記指摘した問題点があり,XPS法による分析については,メンテナンスクリーナーの存在によるフッ素検出の問題点があるので,いずれも,フッ素含有量の測定として適切なものであるとはいえない。
() 甲94,100,101
 甲94,100及び101は,被告商品及びメンテナンスクリーナーの施工後,スポンジによるシャンプー洗い(1分間60往復)を3回繰り返す作業を行った試料(JIS準拠自動車塗装試験片及び実際の車両の切断片)について,さらにジエチルエーテルによる拭取り作業をするものとしないものとで,塗装面のフッ素量をXPS法により分析したものである。原告は,この結果により,クリーナーによる拭取りや洗浄を繰り返すことで,塗装面のフッ素量は除去されてしまう旨主張する。
 しかし,前記のとおり,上記分析で実施されている洗浄方法については問題点があるので,塗装面のフッ素含有量の測定方法として適切なものであるとはいえない。
() 小括
 前記各証拠によっても,自動車塗装面のテフロン被膜形成がされないとの原告の主張を認めることはできず,他に,これを認めるに足りる証拠はない。よって,被告商品は,テフロン被膜を形成する効果を有しないと認めることはできない。
(3) 施工後,新車時の塗装の輝きが5年間維持できるとの表示について
ア 被告商品には新車時の塗装の光沢度を5年間維持するとの効果がないか否かについて,以下検討する(なお,原告は,被告商品を施工した場合の接触角についても主張するが,接触角は,輝きの程度を測る光沢度に一義的な関係を有するものではないので,検討しない。)。
() 甲95ないし97,103ないし119
 甲95ないし97,103ないし119は,試験片に被告商品の施工の有無等の条件を変えて作成した試料について,JIS耐候性試験(JIS K2396のキセノンアーク灯式耐候性試験)を1050時間まで実施した際の光沢度等を調査した結果が示されている。これによると,キセノンアーク灯照射150時間経過ごとの光沢度の推移,あるいは,1050時間経過後の光沢度について,被告商品及びメンテナンスクリーナーを実施した試料の数値は,比較対照のために作成した試料(被告商品の前処理剤のみ施工したもの,被告商品の前処理剤及びメンテナンスクリーナーのみを施工したもの)の数値とそれほどの差異は見られず,いずれも,当初の光沢度の数値の2分の1以下に低下している。そして,上記の耐候性試験では,150時間の照射は耐候性期間1か月と換算される旨設定されている(甲93)から,1050時間の経過は,耐候性期間7か月に相当するので,おおむね7か月後には,当初の光沢度の数値の半分程度に低下していると解される。そうすると,被告商品には,新車時の塗装の光沢度が5年間維持する効果はないと考えるのが自然である。
 これに対して,被告は,上記調査では,被告商品塗布後に軽く拭く作業が含まれているが,乾くまでに拭き取ることは被告商品の施工手順として適切な方法ではなく,このような手順で作成された試料による分析結果には,被告商品の効果が正しく示されているとはいえないから,信頼性が乏しい旨主張する。しかし,上記試料作成において用いられた方法は,JIS耐候性試験(JIS K 2396)の試験片調整方法に従ったものであること(甲93の8頁),軽く拭くという作業は,拭き取る作業とは異なり,コーティング剤を塗り広げる効果を有するともいえること,被告商品を製造するCPC社が提供する耐候性試験結果においても,被告商品を振りかけた後柔らかい布でならすとの作業手順が採用されていること(乙8)から,この点をもって,前記調査結果の信用性を否定することはできない。
() 甲120ないし123,126ないし129,132
 甲120ないし123,126ないし129,132は,甲95ないし97,103ないし119で用いられたものと同様の試料を用いて,耐候性試験(ASTM G−53耐候性試験)を行い,1000時間まで実施した際の光沢度等を調査した結果である。これによると,照射1000時間経過後の光沢度について,被告商品及びメンテナンスクリーナーを実施した試料の数値は,比較対照のために作成した試料(被告商品を施工しなかったもの,被告商品のメンテナンスクリーナーのみを施工したもの,被告商品を施工してメンテナンスクリーナーを施工しなかったもの)の数値とほとんど差異がなく,いずれも,当初の光沢度の数値の2分の1以下に低下している。この結果と,大西洋岸中部地域気候においては,照射時間200時間が1年間に相当するとの報告(乙12)とを併せて考慮すると,被告商品に新車時の塗装の光沢度を5年間維持するとの効果は認められない。
 被告は,上記調査結果に対し,
()記載と同様,試料作成の問題から正確性に疑問がある旨の主張をするが,前記のとおり,被告の主張を採用することはできない。
() 乙8,9
 乙8,9は,昭和55年及び平成14年に実施された,被告商品の耐候性試験(ASTM G−53)の光沢度調査結果である。これによると,照射1000時間経過後でも,被告商品を施工した試料では,光沢度の低下が10パーセント程度に収まることが示されている。
 しかし,乙8及び9で示されているデータは,被告が,従前使用していた被告商品のパンフレット(甲17)に記載したデータとの関連が不明である点に疑問が残り,また,光沢度10パーセントの低下をもって当初の輝きを維持しているとする点でも疑問が残る。
 この点,被告は,光沢度の低下が10パーセント以内であることは,自動車用つや出しコーティング剤のJIS規格において同範囲内を異常なしとしている(甲93の11頁)ことからも,許容範囲であると主張する。
 しかし,以下の理由から,被告の主張を採用することはできない。
 まず,自動車用つや出しコーティング剤のJIS規格(JIS K 2396)(甲93)は,自動車用つや出しコーティング剤としての品質を保持できる許容限度を示したものであるから,同規格に示す許容限度が,新車時の塗装面の輝きを維持することを意味するものとはいえない。また,前記JIS規格で示される光沢度の基準は,自動車用つや出しコーティング剤そのものの光沢度に関するものであるのに対し,被告商品については,施工がされることによって塗装面を保護し,もって光沢度を維持する商品である点で異なるから,前記JIS規格で示される光沢度低下の許容範囲を被告商品に当てはめることは相当ではない。
() 乙27
 乙27は,被告商品の耐候性試験の結果であり,被告商品の施工によって光沢度は,当初96パーセントであったものが,1000時間経過後も87パーセントであることを示している。
 しかし,乙27は,作成者,作成年月日も不明であって,その信頼性には疑問が残り,採用の限りではない。
() 小括
 以上の検討によれば,被告商品には,新車時の塗装の光沢度を5年間維持する効果はないと認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
(4) 本件各表示中の品質及び内容を誤認させる表示について
 そこで,本件各表示それぞれについて,新車時の塗装面の光沢が5年間維持されることを示す表示といえるか否かを検討する。
ア 表示目録Aについて
() 3の表示は,5年間という具体的な期間を示し,その間光沢度を維持することを示すものであり,4の表示は,新車時の塗装面の光沢度を5年間維持することを端的に示すものであり,7の表示は,5年間という具体的な期間を示し,その間光沢度を維持することを示すものであるから,いずれも,被告商品の品質や内容を誤認させるおそれがある表示と認められる。
() これに対して,表示目録Aのうち,他の表示は,いずれも,被告商品の品質や内容を誤認させるおそれがある表示とは認められない。
 すなわち,1の表示は,被告商品が新車の輝きを長期間保つことを示すものと解されるが,長期間という表現からはその期間が一義的に導き出されるものではないこと,2の表示は,ワックスをかけなくても塗装面の輝きが維持されるとの内容を示したものであり,光沢度を維持する効果を強調した表現にすぎないこと,5の表示は,テフロン被膜の形成という被告商品の内容を端的に示したものであること,6の表示は,テフロン被膜の形成をフライパンの表面に例えて表現したものであること,8の表示は,光沢度を維持する効果を強調した表現であること等から,いずれも,被告商品の品質や内容を誤認させるものとはいえない。
イ 表示目録Bについて
() 2の表示は,被告商品の耐久性(ここでの耐久性は,被告商品の内容である光沢度の維持を示しているものと解される。)が5年間維持されることを示すものであり,4,5,6,8及び9の各表示は,被告商品の施工により,新車時の塗装面の光沢が5年間維持されることを示すものであるから,いずれも,被告商品の品質や内容を誤認させるおそれがある表示と認められる。
() これに対して,表示目録B中の他の表示は,被告商品の品質や内容を誤認させるおそれがある表示とは認められない。
 すなわち,1,3の各表示は,光沢度を維持する効果を強調した表現であり,「驚く程」,「長期間」という表現から特定の期間が導き出されるものではないこと,7,10の各表示は,光沢度を維持する効果を強調した表現であること等から,いずれも,被告商品の品質や内容を誤認させるものとはいえない。
ウ まとめ
 以上のとおり,表示目録A記載3,4及び7の各表示並びに表示目録B記載2,4ないし6,8及び9の各表示は,被告商品の品質や内容を誤認させるおそれがある表示であると認められ,これらの表示を広告や取引書類に使用することは,不正競争防止法2条1項13号に規定する不正競争行為(以下「本件不正競争行為」という場合がある。)に当たる。
2 争点
(2)及び(3)について(原告の損害及び被告の過失の有無)
(1) 原告の受けた損害額
 そこで,原告の受けた損害額について検討する。
 被告商品は,主として新車購入時にコーティング施工をすることにより,塗装面を保護し,光沢を維持させる効果を有するコーティング剤であり,原告商品も,洗車後に塗布することにより,車の塗装面に光沢を与える効果を有する自動車用ワックスであるから,両商品は,市場において競合するといえる。
 そして,本件不正競争行為に係る各表示は,5年間という具体的な期間を示し,その間光沢度を維持させる表記がされ,被告商品の品質や内容を,消費者をして誤認させるおそれがある表示であるから,これらの表示を信じた消費者が被告商品を選択し,これにより,原告商品の購入を差し控えるという関係が成り立ち得る。原告の営業と被告の営業との間には,被告が受けた利益を原告の損害額と推定することを規定した不正競争防止法5条2項の適用を肯定するに足りる相互の関係が存在するということができる。
 この点について,被告は,原告の売上の推移,自動車用品全体の販売数量の減少,被告商品であるコーティング剤と原告商品である自動車ワックスの違いなどから,不正競争防止法5条2項の適用はないと主張するが,上記のとおり,原告商品と被告商品とが市場において競合する点があること等に照らして,被告の同主張は採用できない。
 他方,@被告商品は,ワックスがけ等の作業を回避しつつ自動車の塗装面の光沢を維持したいと考える消費者の需要を開拓したという側面があること(弁論の全趣旨),A被告商品は,テフロン被膜を形成することによって塗装面の保護を図るという点で,原告商品等の自動車用ワックスとは,商品の性質に相違点が存すること,B被告商品には,テフロン被膜の形成という点に特徴があるが,この点に関する限り,品質及び内容を誤認させる表示はなく,本件不正競争行為に係る表示が,被告商品の広告や取引書類に使用されている表現全体に占める割合は,それほど高くはないこと,C原告の売上高は,経年的にそれほど大きな変動がなく推移していること(乙23,24,52)等の事実が認められ,これらの事実経緯を総合すると,本件不正競争行為による被告商品の販売数量の増加と原告商品等自動車用ワックスの販売数量の低下との間には,さほど大きな相関関係が成り立つと解することはできない。
 そうすると,本件不正競争行為によって原告が受けた損害額の算定に当たっては,被告の利益の額を基礎として,これに原告商品の自動車用ワックス全体の販売額に対する占有率を乗じ,さらに,前記諸事情を総合考慮して,2パーセントの割合を乗じた金額とするのが相当である。
(2) 損害額の算定
ア 営業上の損害額
 被告商品の売上本数はおおむね年間20万本,1本当たりの販売利益が2000円であり(弁論の全趣旨),原告が主張する本訴提起前3年間及び本訴提起後1年6か月間(平成16年1月23日まで)の合計4年6か月の利益は,以下の計算式のとおりとなり,おおむね18億円となる。
    2000円×20万本×4.5年=18億円
 そして,原告商品の自動車用ワックス全体の販売額に対する占有率25パーセント(弁論の全趣旨)及び前記2パーセントを乗ずると,その金額はおおむね900万円となるので,同額をもって損害額と認められる。
イ 弁護士費用
 本件の弁護士費用としては,事案の複雑さや損害額などに照らし,100万円を相当因果関係にある損害と解するのが相当である。
ウ 以上のとおり,原告の受けた損害額は前記の合計1000万円となる。
(3) 過失の有無
 被告は,被告商品を輸入し,販売する業者として,被告商品の品質や内容を示す広告等の表示について,その内容に十分注意を払うべき義務がある。しかるに,本件不正競争行為に係る本件表示は,被告商品の品質及び内容を誤認させるものであるから,被告が,上記表示をしたことに少なくとも過失があると認められる。

3 争点(4)について(被告商品の譲渡等の差止の可否)
 不正競争防止法3条2項は,営業上の利益を侵害する行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含む。)の廃棄,侵害の行為に供した設備の除去その他の侵害の停止又は予防に必要な行為を請求することができる旨規定している。
 本件不正競争行為は,被告商品の広告等において被告商品の品質や内容を誤認させるおそれがある表示をしていることであるから,廃棄等の対象となるのは,その表示行為を組成するパンフレットやカタログ,あるいは,ウェブページ上の記載であり,本件各表示のいずれも付されていない被告商品自体は,その対象とならない。
 この点について,原告は,被告商品の譲渡等は,本件各表示が記載された広告等と一体不可分として品質誤認惹起行為を構成すると主張するが,これを肯定すべき事情は認められず,原告の主張を採用することはできない。
 したがって,被告商品の譲渡等の差止めは認められない。
4 争点
(5)について(謝罪広告の必要性)
 本件不正競争行為によって,原告の信用が棄損されたことを認めるに足りる証拠はなく,謝罪広告を求める原告の請求は認められない。
 以上のとおり,原告の各請求中,以下の範囲で理由があるから,その限度で認容し,その余は理由がないので棄却する。
(1) 被告商品の広告に,本件各表示のうち表示目録Aの3,4及び7の各表示並びに表示目録B記載2,4ないし6,8及び9の各表示を使用することの差止め
(2) 被告のウェブページから表示目録B記載5の表示の削除(表示目録B記載2,4,6,8及び9の各表示は,現在のウェブページに存在しないので,削除は認められない。同様に,表示目録A記載3,4及び7の各表示は現在のカタログに記載されておらず,従前のカタログ等は廃棄されている(乙48,49の1ないし49の4)ので,カタログ等の廃棄も認められない。
(3) 1000万円及びこれに対する不法行為以降の日である平成14年8月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金の支払

 

〔知財高裁の判断〕

1 本件各表示は,被告商品の品質及び内容について,「新車購入時の施工により,自動車の塗装面にテフロン被膜が形成され,その後5年間,新車時の塗装の輝きが維持されるものであること」を示した表示であると理解されるところ,被控訴人は,@被告商品の施工により,テフロン被膜が形成されることはない,A新車時の塗装の輝きが5年間持続することはあり得ないとして,本件各表示は,被告商品の品質及び内容を誤認させる表示であると主張する。
 しかしながら,被控訴人の上記@の主張事実は,これを認めることができず,「自動車の塗装面にテフロン被膜が形成される」との表示は,被告商品の品質及び内容を誤認させるものとはいえない。その理由は,原判決の「第3 争点に対する判断」の1の
(2)(10頁4行目から15頁18行目)と同一であるから,これを引用する。
 そこで,被控訴人の上記Aの主張,すなわち「施工後5年間,新車時の塗装の輝きが維持される」との表示が被告商品の品質及び内容を誤認させるものであるかどうかについて検討する。
2 被控訴人が,原審及び当審において,被告商品に新車時の塗装の輝きが5年間持続する効果がないことの根拠として援用する光沢度に関する実験結果は,次のとおりである。
(1) 甲102等試験
 甲102ないし107によれば,東京都立産業技術研究所は,平成15年5月,被控訴人の依頼を受けて,アミノアルキド樹脂エナメル塗装の白色板を用い,ブランクの試験片と,被告商品の施工の態様を変えて作成した4種の試験片について,JIS−K2396規格に準拠したキセノンアーク灯式による1050時間耐候性試験を行い,150時間ごとに光沢度の測定をしたこと,その結果,1050時間経過後の光沢度は,ブランク試験片で当初の「93」から「27」に,被告商品の前処理剤のみを施工した試験片で当初の「93」から「31」に,前処理剤とメンテナンスクリーナーを施工した試験片で当初の「93」から「34」に,前処理剤と被告商品を施工した試験片で当初の「91」から「43」に,前処理剤・被告商品・メンテナンスクリーナーを施工した試験片で当初の「94」から「40」になり,それぞれ当初の光沢度の数値の2分の1以下に低下し,いずれの試験片でも光沢保持率が50%を下回ったこと,この試験では,光源として「キセノンアーク灯 7.5kw 水冷式」が用いられ,放射照度を「100w/u(調整波長300〜400ナノメーター)」と設定して行われたことが認められ
る。
(2) 甲126等試験
 甲126ないし129によれば,財団法人日本塗料検査協会東支部は,平成15年2月,被控訴人の依頼を受けて,被控訴人から提出されたブランク試験片と被告商品を施工するなどした3種の試験片について,ASTM−G53規格による1000時間耐候性試験を行い,100時間ごとに光沢度の測定をしたこと,その結果,各試験片の1000時間経過後の光沢度は,ブランク試験片で当初の「94」から「38」(洗浄後「37」)に,被告商品を施工した(10日屋内放置)試験片で当初の「94」から「37」(洗浄後「38」)に,メンテナンスクリーナーのみを施工した試験片で当初の「95」から「37」(洗浄後「35」)に,被告商品を施工し,10日屋内放置後メンテナンスクリーナーを施工した試験片で当初の「95」から「39」(洗浄後「40」)になり,いずれの試験片でもほとんど差異がなく,当初の光沢度の数値が2分の1以下に低下していることが認められる。なお,この試験で用いられた試験片は,いずれも被控訴人から提出されたものであり,甲117に「CPCペイントシーラントに関しては,製品裏面および,パンフレットに記載の使用方法に準拠して施工し,試験片とした。」と記載されているものの,その具体的な試験片の作成手順,方法は明らかにされておらず,また,乙61,70及び弁論の全趣旨によれば,その試験片には,我が国で1980年代前半以降は自動車上塗塗料として使用されていないアミノアルキド樹脂塗料の塗板が用いられていることが認められる。
(3) 甲168等試験及び甲170試験
ア 甲168,169によれば,財団法人日本塗料検査協会東支部は,平成17年1月,被控訴人の依頼を受け,アミノアルキド樹脂塗板と熱硬化ポリエステル塗板(トヨタ040スーパーホワイトU)を用いて,それぞれJIS−K2396規格によるサンシャインカーボンアーク灯式に準拠した1050時間耐候性試験を行い,150時間ごとに光沢度を測定したこと(甲168等試験),その結果,1050時間経過後の光沢度の平均値は,アミノアルキド樹脂塗板の場合において,ブランク試験片で当初の「98」から「65」(光沢保持率66.3%)に,被告商品を施工した試験片で当初の「96」から「70」(光沢保持率72.9%)になり,また,熱硬化ポリエステル塗板の場合において,ブランク試験片で当初の「96」から「52」(光沢保持率54.1%)に,被告商品を施工した試験片で当初の「94」から「43」(光沢保持率45.7%)になったこと,この試験で用いられた被告商品を施工した試験片は,試験板に前処理剤3gを塗布し,よく拭きあげて乾燥させた上,被告商品を塗布して拭きあげた後,室温で10日間放置し,その後メンテナンスクリーナーを1g塗布し,拭きあげるという方法によって作成されたものであることが認められる。
イ 甲170によれば,財団法人日本塗料検査協会東支部は,平成17年1月,被控訴人の依頼を受け,熱硬化ポリエステル塗板(トヨタ040スーパーホワイトU)を用いて,ASTM−G53規格に準拠した1000時間耐候性試験を行い,100時間ごとに光沢度を測定したこと(甲170試験),その結果,1000時間経過後の光沢度の平均値は,ブランク試験片で当初の「95」から「46」(水洗い無しの場合「45」)に,被告商品を施工した試験片(アと同じ方法で作成されたもの)で当初の「94」から「48」(水洗い無しの場合「46」)になったことが認められる。上記試験の結果によると,光沢保持率は,ブランク試験片で48.4%(水洗い有り),被告商品施工試験片で51.0%(水洗い有り)と計算される。
3 他方,控訴人が提出する被告商品の光沢度に関する実験結果等は,次のとおりである。
(1) 乙8試験及び乙9試験
 乙8,12によれば,乙8試験は,UST社が,昭和55年6月,3種の自動車用ペイントシーラントについて,ASTM−G53規格に従った促進耐候性等の比較検査を行ったものであり,その結果,1000時間後の光沢度が,ブランクのもので当初の「97」から「76」(洗浄前は「47」)に,R−2000ペイントシーラント(当時の被告商品の米国における商品名(乙14及び弁論の全趣旨))を施工したもので当初の「94」から「89」(洗浄前は「68」)になったことが報告されていること,上記試験について,検査200時間は大西洋岸中部地域気候の外気に1年間さらされたのと同等であり,検査1000時間は同気候において約5年の露出であると説明されていることが認められる。上記試験の結果によると,R−2000ペイントシーラントを施工したものの光沢保持率は94.6%と計算される。もっとも,この試験では,「シーラントはパネルにピストルグリップのポンプ式噴霧器で振り掛け,柔らかい布でならし,塗布後1,2分で,乾いたフランネル布で磨きバッフィング」(乙8)したものが用いられたとされており,被告商品の使用手順に従って作成されたものといえるか疑問があり,また,光沢度の測定も,試験前と800時間及び1000時間経過後のものが記載されているだけで,その実験経過は全く明らかにされていない。
 また,乙9によれば,SGS
U.S.Testing Company Inc.が,2002年(平成14年)10月に,ASTM−G53基準に基づいて紫外線抵抗値のテスト(乙9試験)を行った結果がCPC Corporation宛に報告されていることが認められるが,その記載だけからは,いかなる試料について,いかなる条件でなされたテストであるのか判然とせず,乙13によっても,試験片の作成方法や具体的な実験条件などが明らかとなっていない。
(2) 乙148試験
 乙148,150,151によれば,ツツナカテクノ株式会社は,平成17年2月,控訴人の依頼を受け,自動車用鋼板に新車用塗料(トヨタスーパーホワイト2−040)による塗装を施した試験板を用いて,ASTM−G53規格に準拠した蛍光紫外線ランプ法による1000時間耐候性試験を行い,200時間ごとの光沢度を測定したこと,その結果,1000時間経過後の光沢度の平均値は,ブランク試験片で当初の「94.8」から「55.8」に,被告商品を施工した試験片で当初の「96.4」から「88.6」になり,その光沢保持率の平均値は,前者において58.9%であるのに対し,後者では91.9%であったこと,この試験で用いられた被告商品を施工した試験片は,控訴人において,前処理剤をネルクロスで表面全体に塗りつけ,即座に拭き取った上で,被告商品を指定のコーティングスポンジにつけ,均一に塗り込み,乾燥するまで15分間放置した後,ユニチカ製施工用拭き取りクロス(ポリエステル100%)を用いて拭き取り,その後48時間室温にて放置して作成したものであること,また,この試験においては,被告商品を施工した試験片について,照射200時間ごとにメンテナンスクリーナーを塗布し,試験片を水洗いして洗浄部分の光沢度を測定したものであることが認められる。
(3) 乙127等報告
 乙127によれば,控訴人は,平成17年2月から3月にかけ,被告商品の施工カーディーラーに依頼して全国各地から選定された,被告商品の施工後3年から7年10ヶ月経過した車両19台について,測定前に水洗いをし,その後水分を拭き取った上で,ルーフ,ボンネット,左右ドアなど数カ所の光沢度を測定した結果,各車平均して90%以上の数値を示し,19台全部の光沢度の平均値は92.9%であったこと,そのうち5年以上経過した車両10台の光沢度は90.2%〜96.4%であり,その平均は93.7%であったこと,一方,納車前整備済車,ディーラー店頭展示車など被告商品を施工していない新車9台について,同様に光沢度を測定したところ,その光沢度の平均値は93.0%であったことが認められる。
 また,乙176によれば,控訴人は,さらに平成17年4月から5月にかけ,上記測定において選定されなかった地域を中心に選定された,被告商品の施工後3年4ヶ月から8年6ヶ月経過した車両21台と,大阪トヨタ自動車株式会社が下取りするなどした被告商品未施工の2年2ヶ月から5年5ヶ月経過した車両8台について,それぞれ前回と同様の方法により光沢度を測定した結果,被告商品施工済車21台の光沢度の平均値は96.0%であったこと,そのうち5年以上経過した車両13台の光沢度は90.9%〜106.5%であり,その平均は96.1%であったこと,これに対し,被告商品未施工の車両8台の光沢度の平均値は83.2%であったことが認められる。
4 そこで,被控訴人の援用する上記実験結果について検討する。
(1) 甲102等試験について
 甲93によれば,JIS−K2396規格は,自動車用つや出しコーティング剤としての種類,品質及び試験方法を規格化したものであり,同規格によるキセノンアーク灯式耐候性試験においては,試料面平均放射照度は48w/u(調整波長300〜400ナノメーター)で行うこととされているところ,甲102等試験では,前記のとおり,放射照度が100w/u(調整波長300〜400ナノメーター)に設定されており,JIS−K2396試験の規格に該当しない試験方法で実施されているから,同試験は,少なくともこの点で適切な方法による試験ということができない。
 被控訴人は,上記試験では,ブランク試験片及びワックス施工試験片を被告商品施工試験片と比較対照して試験しているから,放射照度が高めであったとしても,被告商品の優位性の有無を判断するに十分であると主張するが,放射照度は熱劣化と関係するものであり,放射照度が規格の2倍以上であることによる熱劣化の影響の可能性を否定することはできないから(甲93),他の試験片も同一の条件下で行われたとしても,そもそもそのような規格外による条件下での試験は,JIS−K2396規格による耐候性試験として適切な方法によるものといえず,その試験結果をもって被告商品の効果について適切な評価を下す根拠とすることには無理があるといわざるを得ない。
(2) 甲126等試験について
 前記のとおり,当該試験においては,試験片として,我が国で1980年代前半以降自動車上塗塗料として使用されていないアミノアルキド樹脂塗料の塗板が用いられている。しかし,乙61及び弁論の全趣旨によれば,アミノアルキド樹脂塗料は,その後使用されるようになった熱硬化ポリエステルや熱硬化アクリル等に比して劣化しやすいものであることが認められるから,自動車塗装板の上に施工される被告商品の効果を検査するに当たって,そのような現在の自動車に用いられていない劣化しやすい塗料を使用した試験片を用いて実験を行うことは必ずしも適切とはいえない。
 被控訴人は,被告商品の性能を試験するためには,本来,塗板の品質が高性能なものである必要はなく,アミノアルキド樹脂塗料塗板を使用することに不合理な点はないなどと主張するが,被告商品がテフロン化合物により塗装面を保護し,塗装面自体の光沢度の劣化を抑えるものであるとされていることからすると,被告商品の効果を検証する以上,通常用いられている自動車上塗塗料を前提として試験が行われるべきであり,1980年代前半以降,我が国において自動車上塗塗料として使用されていないアミノアルキド樹脂塗料の塗板を用いて試験することは,試験方法として適切さを欠くものといわざるを得ない。
 上記塗料の点に加え,甲126等試験においては,前記のとおり,被告商品を施工した試験片の具体的な作成手順,方法が明らかでないことを併せ考えると,同試験の結果から被告商品の効果を的確に認定することは困難であるというべきである。
(3) 甲168等試験・甲170試験について
 甲168等試験及び甲170試験は,上記のような点を考慮して,被控訴人が新たに財団法人日本塗料検査協会東支部に依頼して行った試験であるが,これらによると,JIS−K2396規格による耐候性試験,ASTM−G53規格による耐候性試験のいずれにおいても,被告商品を施工したものと,施工していないブランクのものとの間で,1050時間又は1000時間経過後の光沢度においてほとんど差異がなく,被告商品を施工したものの光沢保持率も,アミノアルキド樹脂塗板を用いた甲168等試験で72.9%を示したほかは,いずれも50%前後となっており,これらの試験結果の示す数値から見る限りは,被告商品には塗装面の光沢度の劣化を防止する効果すらないということになる。
 しかしながら,甲168等試験の結果によると,1050時間経過後の平均光沢度において,ブランク試験片及び被告商品施工試験片ともに,熱硬化ポリエステル塗板の方がアミノアルキド樹脂塗板より劣るという結果が出ており,特に被告商品施工試験片について,アミノアルキド樹脂塗板の場合は,平均値「70」(光沢保持率72.9%)であるのに対し,熱硬化ポリエステル塗板の場合は「43」(光沢保持率45.7%)と光沢度が著しく劣る結果が示されているが,前記のとおり,1980年代前半以降,自動車上塗塗料として使用されなくなり,熱硬化ポリエステル塗板等よりも劣化しやすいとされているアミノアルキド樹脂塗板の方が光沢度保持率の点でかなり優位にあるというのは通常考えにくいことであり,この点についての合理的な説明も見当たらない。
 また,甲168等試験及び甲170試験のいずれにおいても,前記のとおり,ブランク試験片の光沢度の平均値が,「98」から「65」(JIS試験のアミノアルキド樹脂塗板の場合),「96」から「52」(JIS試験の熱硬化ポリエステル塗板の場合),「95」から「46(水洗い無しの場合「45」)」(ASTM試験の場合)に,その光沢度が経時的に大きく下落している結果が示されているが,その一方で,被控訴人が行った実車光沢度測定報告(甲177)によると,被控訴人が,被告商品を施工していない4年9ヶ月から10年6ヶ月経過した車両10台について光沢度を測定した結果,その洗車後の平均光沢度は「91.8」であったというのであり,上記各試験の結果は,被控訴人自身が提出する,実際の自然条件の下で一定年数を経過した車両について測定された光沢度の値と著しく異なったものとなっている。このように,被控訴人の提出する証拠自体において,相互に整合しない結果が現れており,その点についての合理的な説明も見当たらない。
 上記の点からすると,耐候性試験は,「自然界で起こる変化を実験室において短時間で再現する事を目的としており」(乙61),「屋外暴露と促進耐候性で相関性があると断定するまでに至っておらず」(甲93),その結果は試験方法,試験条件,試験片の調整などの諸要素に依存するところが大きいものであって,耐候性試験の結果が必ずしも自然条件下における実際の状況の変化と常に一致するとは限らないことが窺われる。
(4) さらに,控訴人の提出する実験結果との対比において検討するに,前記のとおり,乙8試験及び乙9試験は試験片の作成方法や実験経過などが明らかでないが,乙148試験の結果によると,ASTM−G53規格による耐候性試験において,ブランク試験片の1000時間経過後の光沢度が「55.8」であるのに対し,被告商品を施工したもののそれは「88.6」,その光沢保持率は91.9%であって,被告商品を施工したものの光沢度に関して,同じASTM−G53規格に準拠して行われた甲170試験の結果と著しく相違する結果が現れており,被告商品を施工したものに比較的高い光沢維持効果があることが示されている(なお,乙130,131によれば,光沢度が80%程度以上の場合において,10%程度の光沢度の差は,一般的には目視によって正確に判別することは困難であることが窺われる。)。
 もっとも,乙148試験においては,照射200時間ごとにメンテナンスクリーナーを塗布している点で,甲170試験の試験条件とは異なっており,被控訴人は,そのような乙148試験の条件設定が不合理である旨主張する。 しかし,甲2,3,乙43,44,57,58によれば,被告商品にはメンテナンスクリーナーが付属品として付いており,被告商品の従前の販促用カタログ等においては,「水洗いをしていて落ちない汚れが目立ってきたら早めにボディー全体にご使用下さい。」,「ピッチ,タール,油汚れ等,水洗いで落ちない汚れに部分的にご使用下さい。」(甲3)などと,また,改訂後のパンフレット等には,「水洗いで落ちない部分の汚れに・・・」,「ご使用の頻度は年に2〜3回ボディ全体に・・・」(乙43)などと記載して,被告商品施工後におけるメンテナンスクリーナーの使用を推奨しており,もともと被告商品は,付属しているメンテナンスクリーナーとの併用を前提とすることを表示しているといえるから,上記試験において,200時間ごとという程度の頻度によるメンテナンスクリーナーの使用それ自体は,被告商品の効果を試験する方法,条件として必ずしも不合理,不適切なものであるということはできない。
 また,被控訴人は,耐候性試験で光沢度が大幅に下落したブランク等の塗装板でも,メンテナンスクリーナーをかけることにより,光沢度が90%以上に復元するから,乙148試験の結果はメンテナンスクリーナーの使用による効果である旨主張し,甲189ないし191によると,甲168等試験及び甲170試験の終了後の光沢度が低下した9種のブランク試験片等について,メンテナンスクリーナーを1g塗布してよく拭きあげると,その光沢度の数値が,塗布前と比べて「27」〜「55」上昇し,いずれも「90」以上となったことが示されている。
 しかし,@被控訴人が行った被告商品未施工の中古自動車の塗装板にメンテナンスクリーナーをかけた後の光沢度の測定試験(甲177)では,測定対象車両10台の平均光沢増加度が「4.6」であったこと,A被控訴人が行った9年10ヶ月経過した被告商品未施工の車両1台にメンテナンスクリーナーをかけた後の光沢度の測定試験(甲196)では,平均光沢増加度が「8.1」〜「9.3」であったこと,B控訴人の依頼により,ツツナカテクノ株式会社が,乙148試験終了後のブランク試験片2個にメンテナンスクリーナーを塗布して光沢度を測定した結果,塗布前と比べ,光沢度の数値が「7」あるいは「7.3」上昇したこと(乙168),C控訴人において,13年経過した被告商品未施工の車両(トヨタ045)にメンテナンスクリーナーを塗布した後,光沢度を測定した結果,塗布前と比べ,光沢度の数値が「0.9」あるいは「6.2」上昇したこと(乙177)との各試験結果に照らすと,光沢度が劣化した塗装面にメンテナンスクリーナーを塗布することにより,ある程度は光沢度が上昇するといえるものの,甲189ないし191に見られるような「27」〜「55」もの数値のレベルで光沢度が大幅に増加するというのは,不自然であり,何らかの他の要因による影響の可能性があるものと考えざるを得ない。そうすると,乙148試験においては,200時間ごとにメンテナンスクリーナーを塗布することにより,そうでない場合に比べれば,光沢度の上昇に一定程度の影響を与えていることは否定できないが,乙148試験と甲170試験とでは,被告商品を施工した試験片の1000時間経過後の光沢度において実に「40」もの相違があるのであって,その光沢度の相違がメンテナンスクリーナーの定期的な使用の有無によるとばかりはいえないものがあり,乙148試験において被告商品施工試験片に見られる高い光沢度が専らメンテナンスクリーナーの使用による効果であるとすることはできない。
 このように乙148試験と甲170試験とでは,ASTM−G53という同じ規格に従った耐候性試験でありながら,著しく異なる結果が現れているのであり,このことは,メンテナンスクリーナーの使用の有無の違いのみならず,それぞれの試験における具体的な手法,条件,試験片の調整等の微妙な違いなどに大きく影響されていることによるものであることを窺わせるものといえる。
(5) また,前記のとおり,乙127等報告では,控訴人が全国各地の実車を用いて行った光沢度の測定結果において,被告商品を施工した車両が,5年以上経過しても平均値で93.7%(乙127)と96.1%(乙176)となっており,同じように測定された被告商品を施工していない中古車両よりも高い光沢度を示しているのであって,被告商品を施工した実際の車両について,その光沢度の維持に関し,被控訴人の援用する実験結果とは著しく異なる結果が現れている。
 被控訴人は,乙127等報告は測定対象車両について測定前までにいかなる作業が施されたかなどが不明であり,被告商品の効能・効果の証明とすることはできないとか,仮に光沢度を保持しているとしても,それはメンテナンスクリーナーによる効果であると主張する。しかし,それらの測定対象車両について定期的にメンテナンスクリーナーの施工がされていたとしても,被告商品がメンテナンスクリーナーの併用を前提としているものであることは前記のとおりであるから,そのことは被告商品の効果についての評価を妨げるものとはいえないし,また,走行距離や保管方法などが明らかでないとしても,被告製品を施工後実際に5年以上経過した車両において,上記のような高い光沢度を維持しているとの結果が現れている以上,このことを被告商品の効果を評価する上で無視することができないことは明らかである。
 また,被控訴人は,被告商品が施工されていない5年以上経過した中古車でも,90%前後の高い光沢度が測定された甲177を援用し,最近の自動車の塗装板はもともと光沢の劣化が遅いと主張しているが,前記のとおり,控訴人の行った測定結果では,被告商品を施工していない中古車両の光沢度は施工しているものと比較して低かったことが示されているのであり,乙127等報告における5年経過後車両の光沢度が被告商品の効果によるものでないと決めつけることもできない。
(6) 以上検討したところからすると,耐候性試験は,試験方法,試験条件,試験片の調整などによる影響を受けやすいものであり,まして,本件においては,一方において,被告商品を施工したものの光沢度保持率が91.9%であることを示す乙148試験の結果があり,また,実際に被告商品を施工した5年経過後の複数の車両の平均光沢度が,93.7%,96.1%という高い数値を維持していることを示す測定結果(乙127等報告)もあることなどに照らすと,被控訴人が援用する前記の各耐候性試験の結果に依拠して,被告商品には新車時の塗装面の光沢度を5年間持続する効果がないとまで的確に認定することはできないといわざるを得ない。そして,本件各表示における「新車の輝き」が持続しているかどうかということ自体が,多分に見る者の主観によるところが大きく,ある程度の幅を持つものであることをも考え併せると,本件全証拠をもってしても,未だ本件各表示における「新車時の塗装の輝きが5年間維持される」との表示が虚偽であり,その表示が需要者等に被告商品の品質及び内容を誤認させるものであると認めることはできない。
5 以上によれば,被控訴人の本件各表示の使用差止め及び損害賠償請求は,その余の点について検討するまでもなく理由がないから,棄却されるべきである。
 よって,原判決中,上記請求の一部を認容した部分は相当でないからこれを取り消して,被

控訴人の請求を棄却し,本件附帯控訴は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条,61条を適用して,主文のとおり判決する
〔論  説〕

1.本件は、自動車用塗装保護材の「CPCペイントシートライト」をめぐり、不競法2条1項13号が規定する商品やその広告等に商品の品質等について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡等する行為が不正競争となるか否かが争われた事案で、第1審では肯認され、第2審では否認されるという正反対の結論が出たのである。 まず、東京地裁では次の点が認定されていた。
 原告が指摘した被告商品は常温下の通常の施工でもテフロン被膜の形成は証拠上可能であるから、不可能を根拠に被告商品の品質・内容を誤認させる表示を使用したという原告の主張は否認された。
 しかし、被告は、関係業者に対し、新車購入時の施工により、被告商品について、自動車塗装面のテフロン被膜は5年間、その輝度を維持できる旨を示した表示であることを宣伝したことは、証拠によって、その効果は認められないと認定された。
 また、原告は、不競法3条2項に基き、不競行為を組成した物の廃棄等の行為を請求すると主張したが、地裁判決は、廃棄等の対象となる表示行為を組成したパンフレット、カタログ、ウエブページの記載だけであり、本件表示が付されていない被告商品自体は、その対象とならないと認定した。

2.ところが、知財高裁では、被告商品に新車時の塗装の輝きが施工後5年間維持されるという被告の表示は、原告,被告が提出した多くの試験結果を示した証拠によって、虚偽ではないことが証明されたとして、被告商品についての被告の表示は品質等を誤認させるような表示に当たらないと認定された。

3.この事件は、現在、上告中であるところ、この判決いかんによっては、市場に与える影響は大きいと産経新聞(平成17年9月24日27頁)は報じている。「5年間ノーワックス」が誇大広告に当たり、不競法2条1項13号の規定にいう不正競争行為に該当するとの判決が出ると、同種の商品を販売している他社にとっても、顧客からのクレームがこわいという。
 この自動車の塗装保護材は、ディーラーや整備工場に売られる溶剤で、ユーザーには直接販売されず、ユーザーは加工サービスを受けるという販売形式をとっている。
 整備工場で行うセールスサービスとして、エンジンオイルについての適性オイルの表示も行われているが、これには特許問題がからむものもある。

 

〔牛木理一〕