C1-27

 

「マンホール用ステップ」商品形態・差止等請求事件:東京地裁平成15()27084平成17215日判(棄却) 〔特許ニュース平成17年6月30日号〕

 

〔キーワード〕 
不競法2条1項1号、商品等表示、商品形態、二次的意味、技術的形態、不可避的構成

〔事  実〕

 原告(三山工業株式会社)は、昭和46年1月18日に設立された、コンクリートマンホール及びそれに付随するコンクリート構造物の足場であるステップの販売を業とする会社である。被告(株式会社フレックスシステム)は、マンホール用ステップの販売等を業とする会社で、被告(株式会社ステークス)は、建築用金属製品製造を業とする会社である。

 原告は、昭和59年ころから、別紙原告商品目録記載の構成を備えたマンホール用ステップ(以下「原告商品」という。)を販売している。原告が救済を求めた原告商品は、「ノーブレン ハンド&ソール ステップ」と題するカタログに掲載された商品のうちの一部である。

 被告(フレックス)は、平成14年10月3日、別紙被告商品目録記載のマンホール用足掛具(以下「被告商品」という。)を販売した。これは、被告(ステークス)が寄託を受け、保管していた被告商品を、西濃運輸三条支店から、東京コンクリート工業株式会社藤岡工場(以下「東京コンクリート」という。)に対し、同被告が発送元となって発送したものである。

 本件は、原告が被告らに対し、別紙原告商品目録記載の構成が周知であり、これと類似する被告商品の販売等の行為は不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当すると主張し、同法3条に基づき、被告商品の販売等の差止め及び廃棄を請求するとともに、同法4条に基づき、損害賠償を請求する事案である。

 

〔争  点〕

() 原告商品の形態は、不正競争防止法2条1項1号所定の「商品等表示」に該当するか。

() 原告商品の形態と被告商品の形態は類似するか。

() 被告商品の販売により、原告商品は誤認混同を生じるか。

() 損害の発生及びその額

() 差止めの必要性

 

〔判  断〕

 

1 証拠によれば,以下の事実が認められる。
() 原告商品の構成について
ア 原告は,昭和59年ころから,別紙原告商品目録記載の構成を備えたマンホール用ステップ(原告商品)を販売し始めた(甲59,60の1ないし3)。原告商品は,平成4年5月及び平成11年1月に発行された「ノーブレン ハンド&ソール ステップ」と題する原告のカタログ(甲21の1及び2)に掲載された商品のうちの一部である。上記カタログには,原告が原告の商品等表示であると主張する前記第3の1〔原告の主張〕
()@ないしBの構成を有する商品が複数掲載されている。

イ 別紙原告商品目録には,足踏部及びその両側に位置する脚部を備え,平面視略コの字形のマンホール用ステップが記載されている。原告商品は,具体的構成態様において,以下のような共通の構成を有している。
A−1 足踏部の上面及び下面の両端部に赤色反射体が取り付けられていること。

A−2 赤色反射体の形状は円形であり,赤色反射体の周りにリング状の縁取りがされていること。

B−1 足踏部の上面及び下面に滑止め用凸部が順次連続して多数横方向に並んでいること。

B−2 滑止め用凸部の形状はX字形であること。

C−1 足踏部の内側側面に波形の握り部が形成されていること。

C−2 握り部の形状は左右対称に指掛け用の複数個の谷部と山部を交互に並設した波形であること。

 もっとも,上記目録では省略されているが,原告商品は,マンホール用ステップという商品としては,脚部の先にコンクリートに取り付ける埋込部を有している。原告商品は,さまざまな種類のシステムを有するものであるところ,それが有する機能に伴い,埋込部の形態は種々変化し,埋込部を含んだ商品の全体の形状すなわち基本的構成態様にはさまざまな形態のものがある。

ウ 原告商品の足踏部の長さも,長いものから短いものまでさまざまである。

 また,「ノーブレン ハンド&ソール ステップ」と題するカタログ(甲21の1及び2)に記載されている「ツーバイステップシステム」「ロングマイティーステップシステム」「ロングサイドポールステップシステム」等は,足踏部の内側側面の形状が波形ではあるものの,足踏部から埋込部にかけての形状が別紙原告商品目録に記載された略コの字形に直角に折れ曲がる形状とは異なり,足踏部から埋込部までが一本の直線であったり,二重に直角に折れ曲がっていたりする。同カタログ中の「ロングサイドポールステップシステム」「サイドポール&リヤガードシステム」は,赤色反射体付近に円形の穴が付加されている。「シグマステップシステム」「オメガステップシステム」は,足踏部が直線状ではなく弓形に反った形状であるし,「ホールアンカステップシステム」「ミニステップシステム」は,足踏部の凸部が−字形であり,X字形の原告商品のB−2の構成を有しない。
 このように,上記カタログには,上記AないしCの構成を備えた原告商品が複数掲載されているが,その全体の形状はさまざまであり,また,同カタログに掲載されたすべての商品が上記AないしCの構成を有するわけではない。

エ 原告は,平成8年ころから,「ノーブレン ハンド&ソール ロフティーステップ」と題するカタログ(甲21の3)に掲載された商品(ロフティーステップ)の販売を始めたが,ロフティーステップは,少数の例外を除きいずれも赤色反射体の形状が円形ではなく,足踏部から脚部にかけて,接合部の内側が四半円弧で外側が四半円弧とそれに続く直線部を有する部分全体に設けられており,原告商品のA−2の構成を有しない。

 また,原告は,平成12年7月から平成14年11月まで,東京コンクリートに対し,別紙写真()記載の商品(八角レンズステップ)を販売していたが(甲1ないし6,甲7の1ないし6,弁論の全趣旨),八角レンズステップは,赤色反射体の形状が八角形状で,内側に円形の線が挿入されており,その外周に八角形状の縁取りがあり,最外周部分は肉太の菱形線状の縁取りがされている。したがって,上記商品も,原告商品のA−2の構成を有しないものである。

 このように,原告が販売したマンホール用ステップの中にも,前記原告商品のAないしCの構成を有しない商品があった。

オ 「ノーブレン ハンド&ソール ステップ」と題するカタログ(甲21の1及び2)には,原告商品の前記AないしCの構成を含む各種のマンホール用ステップについて,埋込部を含む全体の形状が掲載されているが,その埋込部は,脚部から上に向けてほぼ直角に折れ曲がった形態のものが多い。

 環境公害新聞社が発行する業界紙「月刊下水道」平成3年6月号ないし平成12年3月号(甲16の1ないし5),社団法人日本下水道協会が発行する協会誌「下水道協会誌」平成11年3月号(甲17の5),日本水道新聞社が発行する週刊新聞紙「日本下水道新聞」平成11年6月22日号(甲19の1),財団法人建設物価調査会が発行する月刊誌「建設物価」昭和62年12月号ないし平成11年5月号(甲20の1ないし13),財団法人経済調査会が発行する月刊誌「積算資料」平成3年12月号ないし平成13年4月号(甲22の1ないし6)には,原告商品のAないしCの構成を備えたマンホール用ステップが掲載されている。そこでは,埋込部を含む全体の形状が掲載され,その埋込部は脚部から上に向けてほぼ直角に折れ曲がった形態である。(なお,「月刊下水道」平成13年9月号(甲16の6),平成12年3月号以降の「下水道協会誌」(甲17の6ないし8),平成12年以降の「日本下水道新聞」(甲19の2及び3),平成12年10月号以降の「建設物価」(甲20の14ないし17)には,原告商品とは赤色反射体の形状が異なるロフティーステップが掲載されている。)

 このように,原告商品は,埋込部を含むマンホール用ステップの全体の形状がカタログや業界紙に掲載されており,その多くが,埋込部が脚部から上に向けてほぼ直角に折れ曲がった形態のものである。

カ 原告は,「ノーブレン ハンド&ソール ステップ」の販売開始後,円形の赤色反射体を目に,直角に折れ曲がった埋込部を足に模したキャラクターの絵を使用して,マンホール用ステップを宣伝している(甲16の1ないし6,甲18の1ないし6,甲59)。

() 原告商品のAないしCの構成について

ア 原告商品のA−1の構成(足踏部の上面及び下面の両端部に赤色反射体が取り付けられていること)は,深く暗いマンホール内でわずかな光を受け止めて光ることにより,ステップの昇降を安全に誘導するために設けられたものである(甲21の1及び2,甲59)。

 原告は,昭和58年10月14日,足踏部の両端近傍に表面が突出しかつ前記足踏部の限界を表示する反射板を設け,該反射板の裏面にプリズム状の凸面を形成したことを特徴とするマンホール等用足掛具について,実用新案登録を出願した(乙18)。この考案の反射板は,足踏部の位置が正確に特定表示され,急いで昇降する場合等に足踏部以外の箇所を踏み身体のバランスを崩したりすることがなく,安全で汚れることの少ないものであり,足踏部の水平方向の取付位置の正確な確認ができるという作用効果を奏するものである。

 足踏部の両端部に赤色反射体を設けることは,株式会社オカグレート作成のパンフレット(乙3)に記載されているジェットトップマンホールステップ(甲49)にも採用されており,平成8年2月26日に意匠登録された岡島工業株式会社のマンホール用足場金具にも同様の反射体が設けられている(乙4)。ただし,これらの反射体は,円形ではない。

 足踏部の上面及び下面の両端部に円形の反射体が設けられた形状は,平成元年4月5日ないし同年7月13日に登録された石田鉄工株式会社の登録意匠に見られる(乙9ないし11,弁論の全趣旨)。また,上記原告の考案に係る実用新案公報(乙18)においては,実施例に係る図面に円形の反射体が示されているものの,円形であることは考案の特徴とはされていない。
イ 原告商品のB−1の構成(足踏部の上面及び下面に滑止め用凸部が順次連続して多数横方向に並んでいること)は,靴の滑りによる危険を抑えるために設けられたものであり,B−2の構成(滑止め用凸部の形状はX字形であること)は,最大の摩擦抵抗力を示し,どのような環境状況においても水や泥の滞留がなく,結氷のおそれもないようにするために設けられたものである(甲21の1及び2,甲59)。

 足踏部に滑止め用凸部を並べることは,株式会社オカグレート作成のパンフレット(乙3)に記載されているジェットトップマンホールステップ(甲49)にも採用されているが,その凸部は小さな丸い突起状である。また,平成8年2月26日に意匠登録された岡島工業株式会社のマンホール用足場金具にも同様の形態のものがある(乙4)。さらに,平成元年4月5日に登録された石田鉄工株式会社の意匠公報には,足踏部に凹凸を設けたマンホール用ステップが記載されているが,その凸部は「。/ °」を斜めにした模様が左右対称に現れる形状である(乙9ないし11)。なお,平成15年7月25日に公開された株式会社ハネックスの公開特許公報には,その説明図に足踏部にX字形の凸部を設けたマンホール用ステップが記載されている(乙7)。

ウ 原告商品のC−1の構成(足踏部の内側側面に波形の握り部が形成されていること)は,ステップに手を掛けたときに握りやすく,滑止めの機能を果たすために採用され,安全に昇降を行えるように,付加されたものである(甲21の1及び2,甲59)。

 原告は,昭和57年2月16日,把持部の指が掛かる部分に指の太さに近似させた凹部を複数個並設し,指掛部に凹凸を設けた昇降用足掛金具について,特許を出願し(乙13),同様に,昭和57年2月16日ないし昭和60年2月22日に,握り部を波形に形成することを特徴の一部とする昇降用足掛金具について,実用新案登録を出願した(乙14ないし17)。これらの発明ないし考案において握り部を波形に形成することは,手の横滑りを防ぎ,手許を確実にして,昇降時の体の安定を保持するため動作が確実性を増し,昇降を容易にして滑り落ちる等の事故の減少に寄与するという作用効果を奏する。

 握り部の内側側面を波形に形成することは,株式会社オカグレート作成のパンフレット(乙3)に記載されているジェットトップマンホールステップ(甲49)にも採用されており,平成8年2月26日に意匠登録された岡島工業株式会社のマンホール用足場金具にも同様の形態のものがある(乙4)。また,平成12年9月5日ないし平成15年9月19日に公開された公開特許公報には,その説明図に握り部の内側側面が波形のマンホール用ステップが記載されているものがある(乙5ないし8)。

() 原告商品の販売状況について

ア 原告商品は,ロフティーステップが販売されるようになった平成8年より前には,マンホール用ステップの中で一定の販売量を占めていたものと推認されるものの,これを裏付けるに足りる証拠はない。

イ 他方,原告商品と形態が異なるロフティーステップが販売されるようになった平成8年以降の原告における出荷数は,ロフティーステップが全体の半数を上回り,特に平成12年以降は,ロフティーステップの出荷割合が全体で約89%,工業会が工場で取り付けるケースでは約95%を占めるようになっている(甲48の1ないし3)。

 なお,原告が八角レンズステップを販売していたことや「ノーブレン ハンド&ソール ステップ」と題するカタログ(甲21の1及び2)に掲載されたすべての商品が上記AないしCの構成を有するわけではないことに照らせば,上記ロフティーステップの出荷割合を除いたものがすべて原告商品であるとはいえないし,甲50及び51の1ないし4において「旧タイプ丸レンズ」として集計されている中にも,原告商品の構成AないしCの構成を有しないものが含まれていると推認され,結局,原告商品の販売数量を認めるに足りる証拠はない。

() 意匠権の取得状況

 原告及び原告代表者であるAは,マンホール用ステップに関し,別紙公報一覧記載のとおり,意匠権を有しているが,そのうち,同番号1ないし22及び54の3ないし5(登録日昭和59年11月12日ないし平成7年8月24日)は,原告商品のAないしCの構成をその一部として有するマンホール用足場金具であり,その余は,いずれも赤色反射体の形状が異なるか,物品がマンホール用ステップとは異なる商品である。上記原告商品のAないしCの構成をその一部として有するマンホール用足場金具の登録意匠の埋込部の形状はさまざまであり,埋込部の形状が異なる意匠が独立して登録されている(甲15の1,2及び4,34の1,39の1ないし5,乙19の1ないし53)。

2 争点()(商品等表示)について

() 不正競争防止法2条1項1号は,他人の周知な商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用することをもって不正競争行為と定めたものであるところ,その趣旨は,周知な商品等表示の有する出所表示機能を保護するため,周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止することにより,事業者間の公正な競争を確保することにある。

 同号にいう「商品等表示」とは,「人の業務に係る氏名,商号,商標,標章,商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」をいう。商品の形態は,商標等と異なり,本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないが,商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。そして,このように商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し,不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するためには,@商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,Aその形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により(周知性),需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていることを要すると解するのが相当である。

 他方,不正競争防止法2条1項1号の趣旨は前記のとおりであり,商品の形態自体やそれによって達成される商品の機能を当該事業者に独占させることを目的とするものではないものの,商品の形態自体が上記「商品等表示」に該当し,当該商品の販売行為が同号に該当するとすると,その場合には,当該形態を有する商品の販売そのものが禁止されることになる。このような場合であっても,その商品の形態が商品の技術的な機能及び効用と関係がないか,又は商品の技術的な機能及び効用に由来はするが他の形態を選択する余地があるときには,商品の形態を変更することにより,同一の機能及び効用を奏する商品を販売することが可能となる。これに対し,商品の形態が商品の技術的な機能及び効用を実現するため他の形態を選択する余地のない不可避な構成に由来するときは,結果的に,特許権等工業所有権制度によることなく,永久にその形態によって実現されるのと同一の機能及び効用を奏する同種の商品の販売が禁じられ,第三者の市場への参入を阻害し,これを特定の事業者に独占させることになる。このような形態が商品等表示に該当するとすると,結果的に,周知な商品等表示の有する出所表示機能を保護するというにとどまらず,商品の技術的な機能及び効用を第三者が商品として利用することを許さず,当該商品についての事業者間の公正な競争を制約することとなる。

 したがって,商品の形態が商品の技術的な機能及び効用に由来する場合であっても,他の形態を選択する余地がある中から客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有する形態を採用し,その商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合には,商品の技術的な機能及び効用に由来することの一事をもって不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当しないということはできない。もっとも,商品の形態が商品の技術的な機能及び効用に由来する場合には,商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していることは稀であり,同種商品の中でありふれた形態であることが多いと思われ,このような場合には,結局,前記@の要件を欠き商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するには至らず,「商品等表示」に該当しないことに帰する。これに対し,当該形態が商品の技術的な機能及び効用を実現するため他の形態を選択する余地のない不可避な構成に由来する場合には,これを工業所有権制度によることなく永久に特定の事業者に独占させることは相当ではないから,上記「商品等表示」として保護することはできないと解するのが相当である。
() 本件についてこれをみるに,前記1()認定のとおり,原告商品のA−1の構成(足踏部の上面及び下面の両端部に赤色反射体が取り付けられていること)は,深く暗いマンホール内でわずかな光を受け止めて光ることにより,ステップの昇降を安全に誘導するために設けられたものであり,B−1の構成(足踏部の上面及び下面に滑止め用凸部が順次連続して多数横方向に並んでいること)は,靴の滑りによる危険を抑えるために設けられたものであり,C−1の構成(足踏部の内側側面に波形の握り部が形成されていること)は,ステップに手を掛けたときに握りやすく,滑止めの機能を果たすために採用されたものであり,いずれもマンホール用ステップという商品において,安全に昇降を行うという技術的な機能及び効用を実現するため他の形態を選択する余地のない不可避な構成に由来するものである。よって,原告商品の上記A−1の構成,B−1の構成及びC−1の構成は,いずれも技術的な機能及び効用を実現するため他の形態を選択する余地のない不可避な構成に由来するものであり,かつ,いずれも他社製品にも存在するありふれたものであることも前記1()認定のとおりであるから,これらの点をもって不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するということはできない。
 もっとも,このような技術的な機能及び効用を実現するための具体的構成である前記A−2の構成,B−2の構成及びC−2の構成は,他の形態を選択する余地がないとまではいえず,原告商品の上記具体的構成が不可避なものということはできない。
 原告商品のB−2の構成(滑止め用凸部の形状はX字形であること)は,商品の技術的機能及び効用に由来する形態ではあるが,滑止め用凸部の形状としてはさまざまな形態を選択する余地がある中でこれを選択したものということができ,被告商品の販売の時点では原告以外に使用した者がいることを認めるに足りる証拠はなく,客観的に他の同種商品とは異なる特徴を有する形態であったものということができる。
 他方,原告商品のA−2の構成(赤色反射体の形状は円形であり,赤色反射体の周りにリング状の縁取りがされていること)のうち,赤色反射体の形状が円形であることは,他社製品にも従来から存在するありふれたものであって,他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているとはいえない上,平成8年にロフティーステップの販売が開始されてからは,出荷割合の点でも業界紙への広告の点でも,原告商品のA−2の構成を有しないロフティーステップが主力商品となって,A−2の構成を有する商品が原告の出所を表示するものとまでは認め難い状況となった。また,原告商品のC−2の構成(握り部の形状は左右対称に指掛け用の複数個の谷部と山部を交互に並設した波形であること)は,他社製品にも従来から存在するありふれたものであって,他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているとはいえない。
 なお,商品の形態は,その全体が不可分な有機的結合として成り立つものであるところ,「ノーブレン ハンド&ソール ステップ」というシリーズのマンホール用ステップの一部に共通の形態として使用されている原告商品のAないしCの構成を有する商品は,各種のマンホール用ステップの埋込部の形状の相違により,埋込部を含んだ全体の形状はさまざまな形態のものがあり,カタログや業界紙への広告に掲載された原告商品は,埋込部が脚部から上に向けてほぼ直角に折れ曲がった形態のものが多い上,原告は,円形の赤色体を目に,直角に折れ曲がった埋込部を足に模したキャラクターの絵を使用して原告商品を宣伝しており,埋込部が異なる意匠が独立して登録されていることは,前記1
()()認定のとおりであるから,これらの事実によれば,本来,原告商品の形態の特徴としては,埋込部の形状を含んだ全体の形状を考慮した上で判断すべきものである。よって,埋込部の形状を度外視して,マンホール用ステップの一部の形状であるAないしCの構成のみを商品等表示と認めるのは相当でない。

 このように,原告商品のAないしCの構成は,B−2の構成を除き,いずれも商品の形態が商品の技術的な機能及び効用を実現するため他の形態を選択する余地のない不可避なものであり,又は商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているとはいえないから,そもそも,これをもって不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するということはできない。

 また,原告自身,原告商品のAないしCの構成を有しないマンホール用ステップを多数販売しており,平成8年にロフティーステップの販売が開始されてからは,出荷割合の点でも業界紙への広告の点でも,原告商品のA−2の構成を有しないロフティーステップが主力商品となり,被告商品が販売された平成14年には,原告商品のAないしCの構成を備えたマンホール用ステップの出荷割合はわずかとなっていることは,前記1()()認定のとおりである。

 なお,原告は,工業所有権を取得していることを周知商品等表示の根拠として主張するが,商品等表示が周知性を獲得するためには,実際に当該商品を販売等することが必要であり,工業所有権の保有のみの事実をもって周知商品等表示の根拠とすることはできない。
 以上の事実に,原告商品は,マンホールの中で使用される商品であって,その用途上,全体的に形態よりも材質や安全性等を重視して取引されるものであることに照らせば,被告商品が販売された平成14年当時,需要者において原告商品のAないしCの構成を有する商品が原告の出所を表示するものとして周知であったということはできない。

 

3 争点()(類似性)について

 被告商品は,足踏部及びその両側に位置する脚部を備え,平面視略コの字形のマンホール用ステップであり,原告商品のAないしCの構成に対応させると,次のとおりのものと認められる(甲12,13)。

−1 足踏部の上面及び下面の両端部に赤色反射体が取り付けられていること。

−2 赤色反射体の形状は円形であり,赤色円形反射体とその外周に八角形状の縁取りがあり,最外周部分は肉太の菱形線状の縁取り)がされていること。

−1 足踏部の上面及び下面に滑止め用凸部が順次連続して多数横方向に並んでいること。

−2 滑止め用凸部の形状は(「∧」の中に「・」がある文字)字形,(「∨」の中に「・」がある文字)字形であること。

−1 足踏部の内側側面に波形の握り部が形成されていること。

−2 握り部の形状は左右対称に指掛け用の複数個の谷部と山部を交互に並設した波形であること。

 原告商品と被告商品を対比すると,以下のとおりである。

ア 原告商品と被告商品は,いずれもA−1及びA−1(足踏部の上面及び下面の両端部に赤色反射体が取り付けられていること)において共通するが,A−2とA−2が相違する。すなわち,赤色反射体の形状は,原告商品が赤色円形反射体の周りにリング状の縁取りがあるものであるのに対し,被告商品は赤色円形反射体とその外周に八角形状の縁取りがあり,最外周部分は肉太の菱形線状の縁取りがあるものであって,その形状が異なる。

イ 原告商品と被告商品は,いずれもB−1及びB−1(足踏部の上面及び下面に滑止め用凸部が順次連続して多数横方向に並んでいること)において共通するが,B−2とB−2が相違する。すなわち,足踏部は,原告商品の構成が「略X字形」の滑止め用凸部であるのに対し,被告商品は,「(「∧」の中に「・」がある文字)字形,(「∨」の中に「・」がある文字)字形」の滑止め用凸部であり,その形状が異なり,両者は類似しない。なお,被告らは,「(「∧」の中に「・」がある文字)字形,(「∨」の中に「・」がある文字)字形」の滑止め用凸部を有するマンホール用ステップを意匠登録している(乙20)。

ウ 原告商品と被告商品は,C−1及びC−1(足踏部の内側側面に波形の握り部が形成されていること)並びにC−2及びC−2(握り部の形状は左右対称に指掛け用の複数個の谷部と山部を交互に並設した波形であること)がほぼ同一である。

エ 原告商品は,埋込部を含む全体の形状がカタログや業界紙の広告に掲載され,その多くが脚部から上に向けてほぼ直角に曲がったものであり,取引の際にも埋込部の形状が無視されることはないところ,被告商品の埋込部は,上記のような原告商品に多く見られる埋込部とは異なる。

 商品の形態の類否の判断に当たっては,商品等表示に該当する形態として客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有している部分を中心に全体を観察すべきであり,商品の形態が商品の技術的な機能及び効用を実現するため他の形態を選択する余地のない不可避な構成に由来する場合にはその部分が類似することをもって両商品が類似であるということはできないと解するのが相当である。

 本件についてこれをみるに,前記1()で認定したとおり,原告商品のA−1の構成(足踏部の上面及び下面の両端部に赤色反射体が取り付けられていること),B−1の構成(足踏部の上面及び下面に滑止め用凸部が順次連続して多数横方向に並んでいること)及びC−1の構成(足踏部の内側側面に波形の握り部が形成されていること)は,いずれも他社製品にも存在する特徴であり客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているとはいえないものである上,かつ技術的な機能及び効用を実現するため他の形態を選択する余地のない不可避な構成に由来するものであるから,この点について共通するところがあるとしても,それをもって被告商品が原告商品に類似しているということはできない。他方,具体的構成については,上記Bのとおり,原告商品と被告商品は,C−2及びC−2(握り部の形状は左右対称に指掛け用の複数個の谷部と山部を交互に並設した波形であること)がほぼ同一であるが,少なくともA−2とA−2(赤色反射体の形状)及びB−2とB−2(滑止め用凸部の形状)が異なるものである。そして,A−2とC−2の構成は他社製品にも見られるありふれた形態であって,B−2(滑止め用凸部の形状)のみが他の同種商品とは異なる特徴を有するものであることにかんがみると,この点において相違する原告商品と被告商品が類似するということはできない。加えて,埋込部を含む全体の形状を考慮すると,両商品が類似するということはできない。

4 結論

 以上の次第で,その余の点につき判断するまでもなく,被告らの行為は,不正競争防止法2条1項1号に該当しない。

 

〔論  説〕
 

1.裁判所の基本的考え方

 原告又は原告代表者は、マンホール用ステップについて、多数の登録意匠を有しているが、本件は意匠権侵害事件ではなく、不正競争防止法事件であり、法規定は2条1項1号であった。この規定の趣旨は、周知の商品等表示が有する出所表示機能を保護し、他人の営業上の信用を自分のものと誤認混同させて顧客を奪う行為を防止することにより、当事者間の公正な競争を確保しようとするにある。そこで、まず本件に対する裁判所の基本的な考え方をまとめてみると、次のようになる。

 広く商品等表示といえる商品の形態は、商標等と異なり、本来的には商品の出所を表示する目的をもつものではないが、それが特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。商品の形態が二次的意味を有するに至る場合とは、@商品形態自体が客観的に他とは異なる顕著な特徴を有していること、Aそれが特定の当事者の出所を表示するものとして周知となっていることをいう。

 また、商品の形態の中には、商品の技術的機能や効用とは関係ないが、あっても他の形態を選択する余地があるときは、商品の形態を変更することにより、同一の機能や効用を奏する商品を販売することが可能となるものがあるのに対し、商品の技術的な機能や効用を実現するため他の形態を選択する余地のない不可避的な構成に由来するものにあっては、永久に第三者の市場参入を阻害し、特定の当事者に独占させることになる。しかし、もしこのような形態も商品等表示に該当するとすると、結果的に、商品の技術的機能及び効用を第三者が商品として利用することを許さないことになるから、当事者間の公正な競争を制約する。したがって、そのような商品形態については、「商品等表示」として保護することはできないと解した。

 

2.原告商品の商品等表示性と周知性

 以上のような裁判所の基本的な考え方を前提に、判決は、原告商品に対し、次のように事実認定した。

 第1に、(A−1)足踏部の上面及び下面の両端部に赤色反射体が取付けられていること、第2に、(B−1)足踏部の上面及び下面に滑止め用凸部が順次連続して多数横方向に並んでいること、第3に、(C−1)足踏部の内側面に波形の握り部が形成されていることは、いずれも商品の安全な昇降を行う技術的機能や効用を実現するため、他の形態を選択する余地がない不可避な構成に由来するから、これらは原告商品の「商品等表示」に該当するものとはいえない。

 しかし、これら3部分の構成態様は、従来ありふれたものではあっても、代替性の余地のない当該商品の必然的なものとは思われない。

 他方、判決は、原告商品の具体的構成のうち、A−2、B−2及びC−2の各構成は、他の形態を選択する余地がない不可避なものとは認定しなかった。

 原告商品のB−2の構成は、滑止め用凸部の形状がX字形であり、技術的機能効用に由来する形態ではあっても、滑止め用凸部の形状としては様々な選択の余地があり、また被告商品の販売時点では原告以外に使用した者がいた証拠はないことから、客観的に他の同種商品とは異なる特徴を有する形態と認定した。

 ところが、A−2の構成である赤色反射体の形状が円形で、赤色反射体の周りにリング状の縁取りがあるものは、従来から他社製品にも存在するありふれたものと認定した。

 また、C−2の構成である握り部の形状は、左右対称に指掛け用の複数の谷部と山部を交互に並設した波形であるものは、他社製品にも従来からありふれたものと認定した。

 さらに、判決は、原告は原告商品(図1〜図4参照)を、埋込部の形状を無視し、マンホール用ステップの一部形状であるA〜Cの構成のみについて商品等表示と主張したが、これは誤りであると認定した。(写真(1)(2)参照)

 そこで、判決は、原告商品はB−2の構成以外はいずれも商品の技術的機能や効用を実現するために不可避なもので、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているものとはいえないとして、不競法2条1項1号にいう「商品等表示」には該当しないと認定した。

 その結果、判決は、原告商品は、マンホールの内部で使用される商品で、用途上、全体的に形態よりも材質や安全性等を重視して取引されるものであるから、被告商品が販売された平成14年当時、需要者によって原告商品のA〜Cの構成を有する商品自体が、原告の出所表示機能を有するものとして周知であったとはいえないと判断したが、妥当といえよう。

3.両商品形態の類似性

 判決はさらに、原告・被告両商品を構成するA〜Cの各部の態様を対比して商品全体の類否判断をした。

 裁判所は、商品形態の類否判断に当たっては、商品等表示に該当する形態として、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有している部分を中心に全体を観察し、商品形態が商品の技術的状態や効用を実現するため、他の形態を選択する余地のない不可避な構成に由来する場合は、その部分が類似することをもって、両商品の形態が類似するとはいえないとまず説示した。

 これを本件の場合に適用すると、前記A−1、B−1、C−1の各構成はいずれも他社製品にも存在し、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有するとはいえないと認定し、かつ技術的機能や効用を実現するために不可避な構成に由来するものだから、両者に共通部分があるとしても、これだけで両商品の形態を類似するとはいえないと認定した。

 また、判決は、具体的構成について、両商品の形態のうち、C−2とC’−2とは同一と認めたが、A−2とA−2’、B−2とB’−2とは異なるものと認定したばかりでなく、原告商品のB−2のみの構成が他の同種商品とは異なる特徴を有するが、被告商品のB’−2は原告商品のB−2とは異なるから、埋込部は商品全体の形状を見ると、類似するとはいえないと判断したが、妥当であろう。

 

4.原告の保護対象について

 原告は、本件において保護されるべき商品形態について、現実に販売している写真()()によって表現されたものではなく、図面(図1〜4)によって表現したものを対象として主張したが、この図面に表現されている形態は、商品全体ではなく、左右両取付部をカットした握り部についてのものであった。

 しかし、保護されるべき原告商品を、このような図面によって表現したことは誤りであることは、判決も指摘している。したがって、取付部(埋込部)の構成態様がたとえありふれたものであったとしても、創作の要部となる握り部の形態だけを図面表現して保護を求めたことは、不正競争防止法事件で部分意匠の保護を求めたようなものであった。

 ただいえることは、前記取付部の構成態様は技術的機能上、必ずしも唯一不可避なものではなく、単にありふれたものといえるだけであるから、原告としては、商品全体についての保護を求めるべきであったし、握り部の模様についての類似性を争うことに集中すべきであったであろう。

5.その後、「マンホール用ステップ」の商品形態をめぐる原告を同一とした不正競争防止法2条1項1号の事件としては、東京地裁平成15(ワ)17358号平成17年5月24日判決(棄却)がある。

 

[牛木理一]