C1-25

 

「女性衣料」商品形態・損害賠償請求事件:東京地裁平16(ワ)5830平成16年9月29日判(一部認容)

〔キーワード〕 
商品形態の模倣、通常有する形態、必須の技術的形態

〔事  実〕

 本件は,衣料品の製造,販売等を行う原告が,自己の商品の形態を模倣した商品が被告らによって製造,販売されたものであり,被告らの行為は,不正競争防止法2条1項3号に基づく不正競争行為に該当するとして,損害賠償を請求した事案である。
 原告(株式会社ヴェント・インターナショナル)は,衣料品の販売を主たる目的とする株式会社であり,「LIZ LISA」等のブランドで,10代の女性を主たる顧客層にオリジナルデザインの衣服やアクセサリーを販売している。
 被告ヤングファッション研究所は,婦人服の製造・企画・卸・販売等を主たる業務とする株式会社であり,被告プレポワは,紳士,婦人,子供服の製造,販売等を主たる業務とする株式会社である。
 原告は,原告代表者がデザインし,企画した別紙1原告商品目録記載の衣服(以下「原告商品」という。)を平成15年10月14日ころにサンプルアップし,同月末ころには,1枚当たり3900円で全国で販売を開始した。
被告プレポワは,「one*way」というブランドで,平成15年12月ころから,別紙2被告商品目録記載の衣服(以下「被告商品」という。)を製造し,1枚当たり2900円で販売した。
 争点は次のとおり。
(1) 被告商品は,原告商品の形態を模倣した商品か。
(2) 原告商品の形態は同種の商品が通常有する形態か。
(3) 被告ヤングファッション研究所は,不正競争行為を行ったか。
(4) 不正競争行為による原告の損害はいくらか。  

 

〔判  断〕

 

1 争点(1)(被告商品は,原告商品の形態を模倣した商品であるか)について
(1) 原告商品及び被告商品の形態
 争いのない事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 原告商品の形態
 原告商品の形態は,以下のとおりである。
A 襟ぐりを前後ともやや丸みを帯びたV字カットとし,
B そのV字上の正面中央に生地と同色染の小さいリボンを付し,
C その中央リボンの位置から両脇にかけて切替えを入れ,
D その両胸の切替えの中央に複数のタックを入れ,
E 両肩部分を渡すように3本の銀色のチェーンが付けられており,
F そのうち2本がパールチェーンになっていて,チェーンは3本まとめて両肩部分で取り外し可能になっている,
G ノースリーブ形のややモヘヤ様の生地からなるカットソー
イ 被告商品の形態
 被告商品の形態は,以下のとおりである。
A'襟ぐりを前後ともやや丸みを帯びたV字カットとし,
B'そのV字上の正面中央に生地と同色染の小さいリボンを付し,
C'その中央リボンの位置から両脇にかけて切替えを入れ,
D'その両胸の切替えの中央に複数のギャザーが施され,
E'両肩部分を渡すように3本の銀色のチェーンが付けられており,
F'そのうち2本がパールチェーンになっていて,チェーンは3本まとめて両肩部分で取り外し可能になっている,
G'ノースリーブ形のややモヘヤ様の生地からなるカットソー
(2) 原告商品と被告商品の形態の同一性の有無
 原告商品及び被告商品は,いずれも,@ノースリーブ形のカットソーである点,A襟ぐりが前後ともV字カットである点,BV字上の正面中央に生地と同色染の小さいリボンを付している点,Cそのリボンの位置から両脇にかけて切替えを入れている点,D両肩を渡すように3本の銀色のチェーンが付けられている点,Eチェーンのうち2本がパールチェーンになっている点,Fチェーンは3本まとめて両肩部分で取り外し可能になっている点,Gややモヘヤ様の生地で作られている点において共通している。
 原告商品と被告商品は,個々の特徴的形状の多くが共通し,全体の形状もほとんど同一であるので,両者の形態は実質的に同一であるというべきである。
 確かに,原告商品は,襟ぐりがやや丸みを帯びたV字形状であり,両胸の切替えの中央部分に複数のタックが入っているのに対して,被告商品は,襟ぐりが直線的なV字形状で,両胸の切替えの中央部分にギャザーが施されている点で,若干の相違がある。しかし,襟ぐりのV字形状の相違は,ごくわずかなものであるし,タックとギャザーの相違も,柔らかい生地が使用されているため,外観の相違に影響を与えているほどのものとはいえない。したがって,上記の相違点は,両商品の形態が,実質的に同一であるとの判断に消長を来すものではない。
(3) 模倣の有無
 以下の点に鑑みると,被告商品は,原告商品の形態を模倣した商品であると認められる。すなわち,@原告商品と被告商品の形態が,細部の特徴まで酷似していること(特に,チェーンのうち2本がパールチェーンから構成されていること),A原告商品が平成15年10月から販売されたのに対し,被告商品は同年12月から販売され,被告商品は,原告商品の販売が開始された極めて近接した時期に販売されていること,B被告商品について製造の発注がされたのは,同商品が市場に出される直前の平成15年12月5日であること(乙12),C原告商品,被告商品ともに10代の女性を主たる顧客層として,市場が近接していることなどの事情を総合すると,被告商品は,原告商品を模倣して製造・販売されたものであると認められる。
 この点について,被告らは,被告ヤングファッション研究所あるいは被告プレポワにおいて,原告商品の個々の形態と同様の形態を有する商品を製造,販売しており,それらの商品を参考にして被告商品のデザインを決定したこと,原告商品の販売開始前である同年9月に被告商品の企画を行っていることから,原告商品の形態を模倣したものではない旨主張する。
 しかし,被告プレポワが主張する被告らの先行商品(検乙1ないし6)は,いずれも,部分的には原告商品及び被告商品の形態と類似するところがあるものの,その類似の程度,全体の印象を見ると,原告商品や被告商品とはかなり異なるのであって,被告らの先行商品の存在から,前記の認定判断が覆されるとはいえない。また,被告商品の企画時期についても,被告プレポワの企画部長作成の報告書(乙11)には,平成15年9月ころにパールチェーン付の商品の企画を決定した旨記載されているが,被告商品が実際に発注されたのは12月5日(乙12)であることに照らすと,被告商品のデザインを確定した時期が同年9月ころであると認定することは到底できない。
2 争点(2)(原告商品の形態は同種の商品が通常有する形態か)について
 被告らは,原告商品の7つの形状のうち,A,C,D,Gの各形状は,@タンクトップという商品に必要不可欠の形状である,AC及びDの各形状は,衣服を着用した際の胸の張りや圧迫感を取り除くための機能あるいは効用を奏するために必要な技術的形態である,Bその他の形状もありふれた没個性的形態にすぎない,C7つ形状を組み合せた形態をみても,他の商品と比較して特徴的なものとはいえないとして,原告商品の形態は同種の商品が通常有する形態であると主張する。
 しかし,1で認定した原告商品の形態については,ノースリーブ形のカットソーあるいはタンクトップであることから必然的に導かれる形態であるとはいえないし,両胸部分の切替えとその部分にタックを施すことも,身体の形状に合わせて衣服を立体的にするという意味では,必要な構成ではあるものの,その手段や形状には多様なものがあるのであって,原告商品の上記形状が一定の効果を奏するための必須の技術的形態であるということはできない。
 確かに,原告商品における個々の形状に着目すれば,他の商品においても同一あるいは類似の形状が存在し,原告商品のみが有する形状であるということはできない。しかし,同種の商品が通常有する形態であるかどうかは,商品の形態を全体的に観察して判断すべきところ,原告商品の形態は,AからGまでの各形状の組合せで構成され,原告商品と同様の組合せを採用した他の同種商品が存在しないこと,原告商品の形状E,Fなどは特徴的な形状であるといえること等に照らすならば,原告商品の形態が,個性を有しない形態であるとはいえない。
 よって,原告商品の形態は,同種の商品が通常有する形態であるとは認められない。
3 争点(3)(被告ヤングファッション研究所の行為)について
 原告は,被告ヤングファッション研究所が,インターネット上で,「one*way」のサイトを立ち上げていること,「YFL」との名称が印刷されている用紙を被告商品の加工指示書として使用していることから,同被告は,被告商品について企画,宣伝行為を実施しているとして,同被告のこれらの一連の行為は,不正競争行為に該当する行為と評価されるべきであると主張する。
 しかし,本件全証拠によるも,被告ヤングファッション研究所が,被告商品の販売をした事実を認めることはできないし,また,原告の主張する,被告ヤングファッション研究所の各行為から,同被告が,被告プレポアと共同で被告商品の販売を行ったと認定又は評価することもできない。
 したがって,被告ヤングファッション研究所には,不正競争防止法上の責任はない。
4 争点(4)(不正競争行為による原告の損害はいくらか)について
(1) 被告プレポワの被告商品の販売は,前記認定のとおり,不正競争行為を構成するところ,1で認定した事情に照らせば,被告プレポワにおいて当該不正競争行為について故意又は過失があったと認められるから,被告プレポワは,原告の損害を賠償する責任がある。
(2) 法5条1項の損害額
ア 被告プレポワは,被告商品を340枚仕入れ,そのうち95枚を販売し,残り245枚のうち227枚は福袋に他の商品とともに袋詰めして販売し,残り18枚は廃棄した。
 原告は,原告商品を,1枚当たり,1430円で仕入れ,3900円で販売しており,販売金額から仕入金額を控除した金額は,1枚当たり2470円である。
イ 原告商品を販売することによって得た原告の利益の額の算定に当たっては,販売金額から,仕入金額のほかに,販売費(変動費相当分)等の経費を控除するのが相当であると考えられるところ,その割合は,本件に現れた事情を総合すると,販売金額の15パーセントとすることが相当であり,1枚当たりの当該経費は,585円となる。
ウ そうすると,1枚当たりの原告利益額1885円(2470円−585円)に,被告商品の販売数量322枚(95枚+227枚)を乗じた金額は,60万6970円となる。不正競争防止法5条1項により,原告が,本件における不正競争行為により受けた損害(逸失利益)は,この算定結果を考慮して60万円とするのが相当である。
 なお,法5条2項,3項に沿って算定する額も,上記金額を超えるものではない。
(3) 弁護士費用
 本件における一切の事情を考慮すると,被告プレポワの不正競争行為と相当因果関係のある弁護士費用としては,10万円が相当である。
(4) 合計
 原告の損害額の合計は,70万円となる。
第4 結論
 以上のとおり,原告の請求は,被告プレポワに対する70万円及びこれに対する平成16年3月26日から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

〔論  説〕

  1.本件おいて裁判所は、被告2人にいずれも不正競争防止法上の責任があるか否かの事実関係を精査したところ、被告ヤングファッション研究所には全証拠によっても、被告プレポワが製造,販売した「one*way」ブランドの被告商品を販売した事実は認められないと認定したことは、証拠主義の原則から当然といえる。

2.裁判所は、原告商品と被告商品の各形態が実質的に同一であると判断したが、妥当であろう。けだし、写真に見られるようなごく僅かな違いは、同一性に近い違いにすぎないからである。
  すると、被告による原告商品の形態模倣は、客観的に見ても明らかであるというべきである。
  被告は、原告商品の形態は同種商品が通常有する形態であると主張したが、被告指摘の部分の形状については多様なものがあることを予想すれば、原告商品の形状が一定の効果を奏するための必須の技術的形態であるとはいえないと認定したことは妥当である。不正競争事件では、被告が不競法2条1項3号に規定する「他人の商品と同種の商品が通常有する形態」といえるか否かの議論をすることが多いが、殆ど成功していない。そのような商品形態とは、当該物品の用途・機能上、必須不可欠な固有の形態をいうが、そのような形態だけで商品化されることはあり得ないことを考えるならば、被告にとってそのような主張はまず成功しないだろう。

3.原告が蒙った損害額について、裁判所は本件では原告の逸失利益を計算して60万円としたが、妥当といえるだろう。しかし、弁護士費用については、被告プレポワの不正競争行為との相当因果関係から10万円を妥当としたが、いかにも少ないといえる。

[牛木理一]