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「カルティエ腕時計」商品形態・差止等請求事件:東京地裁平15(ワ)29376平成16年7月28日判決(認容)

〔キーワード〕 
カルティエ、商品形態、周知性、著名性、類似、出所の混同

〔事  実〕

 原告ら(カルティエ・インターナショナル・BV/リシュモンジャパン株式会社)は,被告ら(ケントレーディング有限会社/ケントレーディングブレイン株式会社)に対して,@原告らの製造又は販売する腕時計の形態が,原告らの商品等表示として需要者の間に広く認識されているものであり,被告らの製品である腕時計の形態はこれと類似し,原告らの製品との混同のおそれがある,A原告らの製品の形態が,原告らの商品等表示として著名であり,被告らの製品の形態がこれと類似している,又は,B被告らの製品は,原告カルティエが有する商標権に係る登録商標と類似する標章が付されている,と主張して,不正競争防止法2条1項1号,2号,3条に基づき(原告カルティエにおいては,選択的に商標法25条,37条1号,36条に基づき),被告らの製品の製造,販売等の差止及び廃棄を求めた。 

 

〔判  断〕

 

1 争点(1)(原告各製品の形態は周知又は著名な商品等表示といえるか。)について
 商品の形態は,必ずしも商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが,商品の形態が他の商品と識別し得る独特の特徴を有し,かつ,商品の形態が長期間継続的かつ独占的に使用され,又は,その使用が短期間であっても商品形態について強力な宣伝等が伴う場合には,商品の形態が,商品自体の機能や美観等の観点から選択されたという意味を超えて,自他識別機能又は出所表示機能を有するに至り,需要者の間で広く認識されることがあり得る。そこで,以下,これらの観点から,原告各製品の形態が,商品等表示に該当するか否か等につき判断する。
(1) 事実認定
 前記前提となる事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
 ア 原告各製品の各部分の形状(甲3の1〜3の470,8の1)
 (ア) 原告各製品の各部分の形状は,第2,3,(1)(原告らの主張)アの(ア)ないし(ク)記載のとおりである。特に,原告各製品においては,以下の形態上の特徴を有している。すなわち,
  a リューズプロテクターの形状について,ケース側面に,リューズを覆うように,リューズプロテクターが取り付けられている点,リューズプロテクターは,半円形の弦の中央部を長方形にくり抜いたブリッジ形であり,長方形にくり抜かれた部分にリューズがはめ込まれるような形で配置されている点,リューズプロテクターの弧の部分には,リューズのロック及びその解除のためのL字形のレバーが収められている点,レバーが閉じられた状態でも,リューズプロテクターを正面から見た場合に,レバーの先端部がリューズプロテクターの弧の部分からやや突き出している点に形態上の特徴がある。
  b ケース及びベゼルの形状について,やや膨らみのある四角いケースに丸いベゼルを組み合わせた,クッション型の形状である点,ベゼルよりケースの方が大きく,原告各製品を正面から見ると,ケースの上にベゼルが乗っているような形状を示し,側面から見ると,ケースの上にベゼルが盛り上がり,さらに厚いカバーガラスが上部にはめられた形状を示し,原告各製品はかなりの厚みを有しているという点,ケースの大きさがいずれも40ミリメートル以上である点において,形態的な特徴がある。
 (イ) この点,リューズプロテクターの形状については,リューズプロテクターを付した時計は,他にも製造販売された例があり(甲9,乙16),このうちの2種については,平成11年8月ころまでに販売されていた(乙16)。しかし,これらの製品のリューズプロテクターの形状は,原告各製品のものと,一見して明らかに異なる形状であること,原告各製品のリューズプロテクターの形状と比較的似た形状のリューズプロテクター(甲9の番号2及び7に記載されている時計並びに乙16のハミルトンというブランドの時計のリューズプロテクター)についても,半月形の弧の部分及びケースと接する部分の各形状が大きく異なること,リューズを押さえるレバーが付されていない点や,付されていてもその先端部が見えないという点で,原告各製品のリューズプロテクターとは,形態上の相違があること等に照らすならば,原告各製品の上記部分に形態上の特徴があるということができる。
 イ 販売状況等
 (ア) 原告らは,平成10年から日本国内でのパネライ製品の販売を開始した。平成10年9月以降の,リューズプロテクター付きパネライ製品の販売数量及び金額は以下のとおりである(甲7)。原告各製品は,原告製品1を除き,被告らが被告各製品の製造及び販売を開始する平成14年までに,既に販売されていた(原告製品1は,平成14年以降に販売が開始された。甲3の382,3の470)。
   平成10年9月〜平成11年3月
      298本    7080万円
   平成11年4月〜平成12年3月
      552本  1億4137万2000円
   平成12年4月〜平成13年3月
     1260本  3億0604万2000円
   平成13年4月〜平成14年3月
     2295本  5億8308万3000円
   平成14年4月〜平成15年3月
     3067本  9億0939万6000円
   平成15年4月〜平成16年2月
     3627本 11億4200万4500円
合計 1万1099本 31億5269万7500円
 (イ) スイス時計協会及び時計美術宝飾新聞社が共同で行う,全国の時計販売店に対するアンケート調査(毎年1月から6月までの上期と通年の2回行われる)では,パネライ製品は,@平成11年1月から6月までの間に,取り扱う時計販売店が増加したこと(甲4の1,5頁),A平成12年中に人気の高まりが見られたこと(甲4の3,6頁),B平成13年1月から6月までの間に著しく販売が増加し,注目を浴びて人気が高まっていること(甲4の4,7頁),C平成13年中では,めざましく販売が増えた製品の一つであること(甲4の5,6頁),D平成14年1月から6月までの間にも,時計専門店や百貨店でよく売れている,又はめざましく販売が増えている製品の一つであること(甲4の6,3頁)が報告されている。
 ウ 雑誌での紹介
 平成10年には,6月以降,パネライ製品が雑誌に22回取り上げられ,国内での販売が開始された新しいブランドであること,ケース,文字盤の大きさやリューズプロテクターに特徴があることなどが紹介された(甲3の1〜3の22)。
 平成11年には,雑誌に42回掲載され,厚みや大きさ,リューズプロテクターの特徴,パネライのバックグラウンドなどを詳しく紹介する特集記事が組まれることもあった(甲3の23〜3の64)。
 平成12年には,パネライ製品の雑誌掲載回数は66回となった。時計専門誌だけでなく,男性ファッション誌や男性情報誌に掲載される回数も増え,女性ファッション誌にも紹介されるようになった(甲3の65〜3の130)。
 平成13年には,雑誌において107回掲載され,情報誌,女性誌に紹介される回数が増えた(甲3の131〜237)。
 雑誌掲載回数は,平成14年は141回(甲3の238〜3の378),平成15年は91回となり(甲3の379〜3の469),ビジネス誌(甲3の305,3の339,3の364,3の374,3の437),ウェディング雑誌(甲3の421,436)などにも紹介されるようになった。
 これらの雑誌の記事や広告においては,説明とともに,パネライ製品を正面あるいは側面から写した写真が掲載され,リューズプロテクターの部分を拡大した写真が掲載されることもあった(甲3の1〜3の470)。
 (2) 判断
 以上認定した事実を基礎として判断する。
 ア 原告各製品の商品等表示性について
 (ア) 原告各製品は,前記のとおり,@リューズプロテクターの形状,Aケース及びベゼルの形状とケースが大型であることにおいて形態上の特徴があり,これらを組み合わせたことにより,原告各製品の形態として独自の特徴を有するに至っていると考えられる。このような独創性,原告各製品の販売状況及び雑誌等での紹介の実情等に照らすと,上記2つの特徴的な形態を組み合わせた点は,原告各製品が原告の製造販売に係るものであることを示す,商品等表示に該当するということができる。
 原告らは,原告各製品の形態のうち,他の形状(ホーンの形状,文字盤のレイアウト,文字盤上の数字等の形状,長針,短針及び秒針の形状,バックルの形状)についても,原告の出所を示す商品等表示に当たると主張する。
 しかし,@文字盤のレイアウト,文字盤上の数字等の形状,バックルの形状については,原告各製品のいずれもが共有する形状とはいえないこと,A文字盤のレイアウト,文字盤上の数字等の形状,長針等の形状については,他社製品にも多く見られる,ありふれた形状であること,Bホーンの形状については,腕時計の機能から通常選択される,ありふれた形状であることなどから,商品等表示に当たると解することはできない。
 (イ) これに対して,被告らは,リューズプロテクターの形態は,リューズを外部的接触から保護すべく覆うという目的と,手を傷つけることを防止する目的のために選択されたもので,通常採用される,ありふれた形態である旨主張する。しかし,他社製品のリューズプロテクターの形状は,原告各製品と大きく異なっていることに照らすならば,原告各製品におけるリューズプロテクターの形状が,機能面から必然的に選択される形状であると解することはできない。
 また,被告らは,クッション形のケースや40ミリメートル以上のケースを具備する製品が多数存在するので,これらの形態上の特徴は,原告の出所を示す商品等表示にならない旨主張し,これに沿った証拠がある(甲3の15,3の19,乙2〜15)。しかし,他社製品において,クッション形のケースで,40ミリメートル以上の大きさのものは,それほど見られないことからすれば,原告各製品の上記の特徴的形態をもって,原告の出所を示す商品等表示であると解することの妨げにならない。
 さらに,被告らは,原告各製品の背部に配された透明の裏蓋の部分こそが,原告各製品の形態の特徴的な部分である旨主張する。しかし,需要者は,通常,文字盤のある表側に関心を示すと解されること,透明な裏蓋については,他社の製品においても見られることなどの点に照らすならば,原告各製品の特徴的な形態として,透明性のある裏蓋の形状を必須の要素に加えるべきであると解するのは相当でない。
 以上のとおり,被告らの主張は,いずれも採用できない。
 イ 周知性又は著名性について
 原告各製品を含む,リューズプロテクターが付されたパネライ製品については,@販売数量及び販売金額が,日本国内での販売開始後3年間は売上が前年比2倍のペースで増加し,その後も増加していること,A時計販売店に対する業界アンケート調査結果において,販売数量の伸びが著しい製品として報告されていること,B雑誌での紹介記事あるいは広告の掲載回数も販売後年々増加し,平成13年には,時計専門誌だけではなく,男性情報誌,男性ファッション誌,女性ファッション誌にも数多く掲載されたこと,C雑誌に掲載される際には,該当するパネライ製品の写真が掲載され,本件形態が看取できていたこと,Dパネライ製品の大部分が本件形態を有するものであること(甲3の1〜470,8の1)に照らすならば,原告各製品の上記の形態的な特徴は,平成14年ころまでには,需要者の間で広く認識され,周知の商品等表示となったことが認められる(なお,原告各製品のうち,原告製品1は,被告製品2の販売後に販売が開始されたものである(甲3の382,3の470)が,原告製品1を除く原告各製品も本件形態を有するから,この点は前記判断を左右するものではない。)。
 他方,本件形態が原告の商品等表示として著名となっていたとまでは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
2 争点(2)(原告各製品の商品等表示と被告各製品の形態とは類似するか。)について
 (1) 前記のとおり,原告各製品の形態上の特徴は,前記のリューズプロテクターの形状,ケース及びベゼルの形状及び大型のケースであるという特徴を組み合わせた点である。そして,被告各製品は,原告各製品の形態上の特徴を具備するものであるから,被告各製品と原告各商品とは類似する。
 すなわち,被告各製品は,@リューズプロテクターが,半円形の弦の中央部を長方形にくり抜いたブリッジ形状を示しており,長方形にくり抜かれた部分にリューズがはめ込まれるような形で配置され,半円形の弧の部分には,L字形のレバーが収められ,レバーが閉じられた状態でも,リューズプロテクターを正面から見た場合に,レバーの先端部がリューズプロテクターの弧の部分からやや突き出している形状であること,Aケース及びベゼルが,やや膨らみのある四角いケースに丸いベゼルを組み合わせた,クッション型の形状であり,ベゼルよりケースの方が大きく,正面から見ると,ケースの上にベゼルが乗っているような形状であること,Bケースの大きさは,直径40ミリメートル以上であることが認められ(甲5,12の1〜12の4,乙1の3,1の4),原告各製品の形態上の特徴を具備し,類似している。
 (2) 被告らは,被告各製品と原告各製品とは,リューズプロテクターの具体的な形状においてわずかな相違があること,被告各製品には,商品名等が表示されていること,裏蓋の素材が異なること等を挙げて,被告各製品は,原告各製品とは,類似しない旨主張する。しかし,被告各製品が,原告各製品の形態上の特徴を具備し,相互に類似性が認められる以上,これらの事実をもって,前記の判断を左右するものとはいえない(なお,被告各製品の名称である「MARINA MILITARE」(甲5,12の1〜12の4,乙1の4)は,原告製品9の名称とは同一であり,原告製品3から5までの名称である「LUMINOR MARINA」と一部共通し,この点からも,類似性が否定されるとはいえない。)。
3 争点(3)(原告各製品との混同を生じるおそれがあるか。)について
 前記2において認定したとおり,被告各製品は,原告各製品の形態上の特徴を具備し,相互に類似していることからすれば,需要者において,原告各製品と被告各製品とについて,出所の混同を生じるおそれがあると認められる。
 また,被告各製品は,「MARINA MILITARE」との名称を付しているところ(甲5,12の1〜12の4,乙1の4),この名称は,原告製品9の名称とは同一であり,原告製品3から5までの名称である「LUMINOR MARINA」と一部共通し,需要者における混同のおそれを助長する事情が存在すると認められる。
 被告らは,原告各製品と被告各製品の価格差,販売形態の相違,営業表示をもって,原告各製品と被告各製品とでは需要者が異なり,誤認混同が生ずるおそれがない旨主張するが,前記の各事情に照らせば,これらの点をもって,前記の認定を左右することはできない。
4 まとめ
 そうすると,原告らの請求は,その余の点を判断するまでもなく,いずれも理由がある。なお,被告製品2については,現在製造及び販売をしていないことが認められるが,販売等の差止及び廃棄の必要性は存在すると解される。

〔論  説〕

   本件は、原告は有名な会社であり、それが製造販売している腕時計の形態を被告が模造したことに対し、不競法2条1項1号,2号に基づいて、または商標法25条に基づいて、差止め請求をした事案である。
 不競法事件では商品形態の周知性は認定されたが、ここでもまず必要な案件は各製品の形態が独創性を有するものであることである。それが、原告製品の特徴となり、周知性を取得するに至った。しかし、著名性が認められる根拠はないとされた。
 被告製品の形態は、原告製品の形態上の特徴を具備する類似のものと認定されたことから、商品出所の混同を生ずるおそれがあるとされ、不競法2条1項1号及び3条によって差止請求が認容されたのである。

[牛木理一]