C1-23

 

 

「刺しゅう糸」商品形態・差止等請求事件:名古屋地裁平15(ワ)828号平成15年7月24日判(棄)〔特ニ11128号〕

〔キーワード〕 
色番号の数字、商品表示、自他識別力(特別顕著性)

〔事  実〕

 本件は、刺しゅう糸を製造販売する原告(パールヨット株式会社)が、繊維製品の製造販売を業とする被告(丸糸株式会社)に対し、刺しゅう糸の色ごとに付された色番号が不正競争防止法2条1項1号の「商品表示」に当たると主張して、色番号の使用等の差止めと損害賠償を求めた事案である。
 別紙(1)は原告の色番号、別紙(2)は被告の色番号を示す。
 本件の争点は、次のとおり。
 本件色番号と同じ色番号を付して刺しゅう糸を販売する被告の行為は、法2条1項1号の商品主体混同行為に該当するか。具体的には、
(1) 本件色番号は、原告の商品表示に当たるか。
(2) 本件色番号は、原告の商品表示として周知性を有するか。
(3) 被告の色番号は、原告の商品との混同を生じさせるか。

 

〔判  断〕

 

1 本件色番号が商品表示に当たるかについて
(1) 法2条1項1号の定める「商品表示」とは、商品の出所を示す表示をいい、取引者若しくは需要者が商品に付されている表示により、特定人の製造・販売に係る商品であることが認識でき、これと他の第三者の商品とを区別するに足りる自他識別力を備え、あるいは、それが自己のものであることを表示する出所表示機能を備えているものをいう。
(2) しかして、前記当事者間に争いのない事実等に証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、長年、原糸の製造販売を業としているところ、かねてから多種類の色の刺しゅう糸を番号によって容易に特定、識別し得るように、色の種類ごとに4桁の数字から成る色番号(本件色番号)を付し、それを刺しゅう糸を巻いた紙管に表示し、さらに本件色番号を同系色が近い位置になるように配列した色見本帳を作成している事実が認められ、これによれば、原告の刺しゅう糸を購入しようとする需要者は、原告(若しくは原告の商品のみを取り扱う業者)に対して、ある色番号を示すことにより、必要な色の刺しゅう糸を特定、識別することが可能となっていると推認できる。
 しかし、他方、前掲各証拠等によれば、原告が用いている本件色番号は、原告が製造販売する刺しゅう糸の色の種類ごとに付された4桁の数字(700種類)であって、その前後に何らの表記がなく、その字体にも格別特色があるわけではなく、その配列等についても同系色についておおよそ近似した数字を付してあるにとどまり、その表示に独特の工夫をこらして案出されたものとはいえないことが認められる。そうすると、本件色番号は、つまるところ、単なる4桁の数字が色の種類に応じて付されているに止まるから、両者の対応関係には取引上の有用性が存在するものの、個々の色番号自体にいわゆる特別顕著性を認めることはできない。したがって、本件色番号について、他の第三者の商品とを区別するに足りる自他識別力(特別顕著性)ないし出所表示機能を有すると認めることはできない。
(3) この点について、原告は、長年の販売努力により、遅くとも平成13年春ころには、原告がそれぞれの色の刺しゅう糸に本件色番号を付していることが日本国内の取引業者に周知されるようになり、需要者の間では、単に本件色番号のみを指定して注文した場合でも、原告の製造販売する当該番号に対応する刺しゅう糸を指すものであることが認識されるに至った旨主張するところ、確かに、被告が、自分の刺しゅう糸に本件色番号と同じ数字を付していることは、一部の需要者に上記のような認識があることを推認させるといえないこともない。
 しかし、前掲各証拠等によれば、オゼキ株式会社や中村商事株式会社など、他にも4桁の数字で特定の色の糸を識別している同業者が存在すること、そもそも、本件色番号は700種類にも上ること、原告は、色見本帳を顧客に配布する以外に、4桁の数字で示され、それに対応する刺しゅう糸が原告の商品であることを強調するような宣伝は特に行っていないこと、以上の事実が認められる。そうすると、例えば、刺しゅう糸の取次業者としては、他の製造販売業者の刺しゅう糸との混同を避けるために、色番号に加えて注文先の製造業者を確認して注文を取り次いでいるものと推認することができる。
以上によれば、需要者の間に、原告主張のような認識が一般的に形成されているとは認め難い。
(4) そして、仮に、そのような数字自体をもって原告の商品表示たることを肯認すれば、刺しゅう糸という限定された商品分野であるにせよ、個々的には何ら特徴のない4桁の数字(少なくとも1000番台と2000番台の数字700種類)について原告以外の者は使用を禁じられることとなり、本来、誰でも利用できるはずの数字について特定人である原告の独占的・排他的使用を許すことになって、不当な結果を招くことが明らかである。
 この点に関連して、原告は、原告商品と同じ色の被告商品に原告と同じ色番号を使用してはならないと主張しているに止まるから、4桁の数字を独占することにならないとも主張する。その意味内容は明確ではないが、仮に、その趣旨が、ある4桁の数字が原告の定めた特定の色の糸を表示するものとして使用(具体的には、その色の糸が巻かれていた紙管ないし色見本帳に表示することにより使用)された場合には混同が生じる(から差止めを求める)が、それ以外の色の糸を表示するものとして使用された場合には混同の生じるおそれがないというものであるならば、4桁の数字から成る本件色番号自体では、商品の表示として機能していないことを自認するものにほかならないというべきである。
(5) したがって、本件色番号は、法2条1項1号の「商品表示」に当たらないと判断するのが相当である。

〔論  説〕

   本件は、不競法2条1項1号の不正競争類型に該当するか否かが争われた事案であるが、判決は、本件色番号は原告の商品表示に当たるか否かの争点(1)に対し、該当せずの判断をしたことから、進んでそれ以外の争点(2)(3)については判断しなかった。
 争点(2)は周知性の要件、争点(3)は混同性の要件であるが、いずれの点についても、原告はその事実を証明するだけの証拠は提出していない。
 多数存在する刺しゅう糸の色の種類別に4桁の数字を色番号として付するとしても、それらが自他商品の識別力や出所表示機能を発揮すると考えることは困難であるから、判決のような判断はやむを得ないであろう。

[牛木理一]