C1-21

 

 

「トリートメントブラシ」商品形態・差止等請求事件:大阪地裁平15(ワ)1105号平成15年8月28日判(一認)〔特ニ11144号〕

〔キーワード〕 
商品形態の模倣、微細な差異、実質的同一、弁護士費用

 

〔事   実〕

 

 1. 原告(サンファミリー株式会社)は、カタログによる日用品雑貨の卸売及び小売などを業とする会社である。
被告(株式会社永光)は、家庭用電化製品や雑貨等の輸入,卸売及び小売などを業とする会社である。
2.請求の原因
(1) 原告商品の開発等
ア 原告商品
別紙1の原告商品目録記載の商品(以下「原告商品」という。)は、トリートメントブラシであり、ブラシからマイナスイオンを放出させ、プラス電荷に帯電している毛髪がマイナスイオンにより電気的に中和されることにより、髪をとかしたときにさらさら感が得られるとともに、細胞組織の新陳代謝が活発化して、痛んだ毛髪をよみがえらせるケアーブラシとして使用されるものである。
イ 原告商品の開発等
(ア) 原告は、平成13年5月ごろから原告商品の開発の検討を開始し、同年7月13日、イージーデザインことAと協議の上、開発を正式に決定し、同月24日、Aから提出されたデザイン3種類のうちから1種類を選択し、同年8月23日、基本設計図面が作成され、同年9月12日、基本仕様が確定され、9月16日、第1回目のモデルの修正が行われ、同年10月16日、マークのデザインが行われ、その後、金型の修正などを経て、平成14年4月4日、パッケージの仕様を決定し、4月5日、中国の工場で初回分の生産に着手し、4月22日、初回に生産された原告商品約5900個が我が国に輸入され、4月23日、そのうち2016個が初めて出荷された。
(イ) 原告商品は、本体部と、取り外し可能なアタッチブラシから成るところ、原告は、平成14年4月16日、原告商品全体についての意匠登録出願(意願2002−10194号)及び本体部についての部分意匠の意匠登録出願(意願2002−10198号)をした。
(ウ) 当初の原告商品は、マイナスイオンの発生量が、約1500個/ccであったが、イオン効果を高めるため、マイナスイオンの発生量を約4万個/ccとする改良を行い、平成14年7月3日から、改良した原告商品を販売している。改良後の原告商品の形態は、当初の原告商品とほとんど変わらず、包装箱の表面の上部中央付近に掲載された、折り畳んだ状態の原告商品の写真の背景色について、当初紫色であったのを黄色に変更しただけである。
(エ) 原告商品の包装箱の裏面には、発売元として株式会社ニーズの商号が記載されている。同社は、原告代表者が過半数の株式を有し、代表者となっている原告の関連会社であり、同社が発売元として責任を負う代わりに売上げに応じたマージンを取得することとされており、原告商品の輸入、販売は、原告が行っている。
(オ) このように、原告商品の企画、設計、生産、販売は、すべて原告が行った。
ウ 原告商品の宣伝等
(ア) 原告は、次のように、原告商品について、通信販売のカタログ、新聞の折込広告及びテレビショッピング番組に掲載するなどの宣伝広告を行った。
@ 平成14年5月15日 同日付の全国雑貨流通新聞に、原告が新商品として原告商品を販売していることが掲載された。
A 同年6月7日ころ 通信販売のカタログ「アイデア雑貨バザール」に原告商品が掲載された。
B 同年7月5日ころ 日用品店MYCAL SATYのちらしに原告商品が掲載された。
C 7月8日ころ 通信販売のカタログ「アイデア生活」に原告商品が掲載された。
D 7月15日ころ 通信販売のカタログ「メルシー」に原告商品が掲載された。
E 同年8月15日 同日から、株式会社オークローンの行っているテレビショッピングで、原告商品の通信販売が開始された。
(イ) 原告商品は、次のように、トレンド商品として雑誌、テレビで紹介された。
@ 平成14年8月20日 同日号の雑誌「TOKYO1週間」に掲載された。
A 8月26日 フジテレビ系列の番組「めざましテレビ」で紹介された。
エ 原告商品の販売数
(ア) 原告商品の販売数は、平成14年4月23日の販売開始後、同日から同年5月20日まで8614個(出荷8628個うち返品14個)、5月21日から同年6月20日まで1万6551個(出荷1万7574個うち返品1023個)、同月21日から同年7月20日まで7万0624個(出荷7万0721個うち返品97個)というように順調に増加し、同年4月23日から同年7月20日までの販売数の合計は9万5789個(出荷数から返品数を除く)であった。
(イ) 平成14年7月以降、原告商品の販売数は減少し、同月21日から同年8月20日までの原告商品の販売数は、1万6166個(出荷1万6275個うち返品109個)であり、同年6月21日から同年7月20日までの販売数の4分の1以下であった。原告商品の販売数は、同年8月21日から同年9月20日まで4663個(出荷5098個うち返品435個)、同月21日から同年10月20日まで3283個(出荷3647個うち返品364個)、同月21日から同年11月20日まで2594個(出荷2771個うち返品177個)であった。
 被告は別紙3の被告商品を販売した。
 

〔主  文〕

1. 被告は、別紙被告商品目録記載の商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入してはならない。
2. 被告は、原告に対し、金50万3276円及びこれに対する平成15年2月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3. 原告のその余の請求を棄却する。
4. 訴訟費用は、これを2分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
5. この判決は、第1、第2項に限り、仮に執行することができる。
 

〔理  由〕

{請求原因(1)(2)の事実については、甲号証によって認められるとした。}
(3) 請求原因(3)(被告商品の販売等)の事実のうち、被告が、平成14年9月3日、被告商品を3000個仕入れ、同月4日、株式会社イトウに2040個販売し、同日又は同月5日に他1社に960個販売したことは、当事者間に争いがない。
 乙号証及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成14年8月28日ごろ大阪港に到着した船便により、被告商品を中国から3000個輸入し、それを上記のように販売したことが認められる。被告がそれ以上に被告商品を輸入又は販売したことを認めるに足りる証拠はない。
(4)ア 甲号証によれば、請求原因(4)(原告商品の形態と被告商品の形態)ア(原告商品の形態)(ア)ないし(キ)の事実が認められる。
イ 甲号証によれば、請求原因(4)イ(被告商品の形態)(ア)ないし(キ)の事実が認められる。
ウ 請求原因(4)ウ(原告商品の形態と被告商品の形態の比較)について検討する。
 上記ア、イの認定事実によれば、原告商品と被告商品の形態は、基本的構成及び各構成要素の配置位置において、細部に至るまでほぼ共通であることが認められる。
 上記ア、イの認定事実によれば、原告商品と被告商品の形態の相違点は、駆動表示ランプの色が、原告商品は緑色であるのに対し被告商品は白色である点、ブラシ取付部の彎曲面部の面内に開設された小さな楕円形状の空気孔の数が、原告商品が四つであるのに対し被告商品は五つである点、本体の長さ、本体中のブラシ取付部の長さが、原告商品は230mm、110mmであるのに対し、被告商品は234mm、114mmである点、アタッチブラシの長さが、原告商品は98mmであるのに対し、被告商品は103mmである点にあることが認められる。また、甲第1、第2号証及び第4号証の各1、5、6、8、第3号証の1、5、検甲第1ないし第3号証によれば、原告商品の本体のブラシ取付部表面の基端付近には、「ion bh」のロゴが記載されているのに対し、被告商品には、そのようなロゴの記載はないことが認められる。しかし、これらの相違点は、いずれも微細な差異にとどまり、原告商品と被告商品の形態が、基本的構成及び各構成要素の配置位置において細部に至るまでほぼ共通であることに照らせば、原告商品と被告商品の形態は、これらの相違点を考慮したとしても、全体として、実質的に同一であるというべきである。
(5) 請求原因(5)(模倣)について検討する。
前記(4)ウに判示したとおり、原告商品と被告商品の形態は、実質的に同一である。
 甲号証によれば、被告商品のパッケージは、当初の原告商品のパッケージの表面のモデルの写真を変え、表面及び裏面の「ion bh」のロゴを削除し、裏面の「発売元株式会社ニーズ」の表示を削除したのみで、その他は当初の原告商品のパッケージとほぼ同一である。
 検甲号証及び弁論の全趣旨によれば、被告商品の取扱説明書は、当初の原告商品の取扱説明書とほぼ同一であることが認められ、被告商品は、前記(4)ウの認定のとおり、駆動表示ランプの色が白色である点、本体の長さが234mmである点で原告商品と異なるにもかかわらず、被告商品の取扱説明書には、原告商品の取扱説明書と同様に、表示方式として「ONで緑点灯」、本体の大きさとして「約230×39×32mm(使用時)」と記載されていることが認められる。
 前記(2)イ(ア)の認定のとおり、原告商品は、平成14年4月23日、初めて出荷され(請求原因(2)イ(ア))、被告商品は、その後、前記(3)の認定のとおり、同年8月末ごろ輸入されたものであって、原告商品の販売が開始されてから被告商品が輸入されるまでは、約4か月であり、原告商品の模倣品を製造するのに足りる期間があったものと認められる。
 このように、被告商品は、その形態はもとより、パッケージや取扱説明書に至るまで当初の原告商品とほぼ同一であり、輸入時期も原告商品の模倣品を製造するのに足りる期間の経過後であったことからすると、被告商品は、原告商品を模倣したものと認めるのが相当である。
(6) 請求原因(6)(不正競争)、抗弁(1)(通常有する形態)、(2)(無重過失)について検討する。
ア 被告は、原告商品の形態が、同種の商品が通常有する形態である旨主張するが(抗弁(1))、同主張に係る事実を認めるに足りる証拠はないから、同主張は、採用することができない。
イ 被告は、被告商品の譲渡を受けた時に、被告商品が原告商品の形態を模倣した商品であることを知らず、かつ、知らなかったことにつき重大な過失がない旨主張する(抗弁(2))。
 しかし、前記(2)ウ(ア)の認定のとおり、原告は、原告商品について、平成14年5月以降、通信販売のカタログ、新聞の折込広告及びテレビショッピング番組へ掲載するなどの宣伝広告を行い(請求原因(2)ウ(ア))、前記(2)ウ(イ)の認定のとおり、原告商品は、トレンド商品として雑誌、テレビで紹介され(請求原因(2)ウ(イ))、また、前記(2)エ(ア)、(イ)の認定のとおり、原告商品は、平成14年4月の発売後、相当数が販売されていたものである(請求原因(2)エ(ア)、(イ))。そして、前記(1)イの認定のとおり、被告は、家庭用電化製品や雑貨等の輸入、卸売及び小売などを業としている(請求原因(1)イ)。そうすると、これらの事実に鑑みれば、被告は、遅くとも平成14年8月末までには、原告商品が販売されていることを知っていたものと推認され、したがって、被告商品が原告商品の形態を模倣した商品であることを知っており、仮に知らなかったとしても、知らなかったことにつき重大な過失があったものと推認される。
ウ したがって、被告が被告商品を輸入、販売することは、不正競争防止法2条1項3号の不正競争に該当するというべきである。
(7) 請求原因(7)(営業上の利益の侵害)について検討する。
 前記(6)ウに判示したとおり、被告が被告商品を輸入、販売することは、不正競争防止法2条1項3号の不正競争に該当するから、それにより、原告は営業上の利益を侵害されたものと認められる。
 被告は、前記(1)イの認定のとおり、家庭用電化製品や雑貨等の輸入、卸売及び小売などを業としており(請求原因(1)イ)、前記(3)の認定のとおり、被告商品を中国から輸入し販売したものであり、被告が本訴において被告商品の輸入、販売が不正競争防止法2条1項3号の不正競争に該当することを争っていることに鑑みると、被告は、被告商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入するおそれがあり、それによって原告の営業上の利益が侵害されるおそれがあるものと認められる。
(8)ア 請求原因(8)(損害)ア(逸失利益)について検討する。
 平成14年4月23日から同年10月20日まで、被告商品が販売されたことにより、原告が原告商品3000個を販売することができなくなったことを認めるに足りる証拠はないから、請求原因(8)ア(ア)の損害は、認めることができない。
また、原告が、平成14年10月21日から同年11月20日まで、原告商品1個当たり171.69円の逸失利益相当の損害を被ったことを認めるに足りる証拠はないから、請求原因(8)ア(イ)の損害も、認めることができない。
 したがって、請求原因(8)ア(ウ)の損害も、認めることができない。
イ 請求原因(8)イ(被告の利益)のうち、被告が被告商品を3000個販売したこと、被告商品1個当たりの販売価格が530円、仕入価格が2.95ドルであることは、当事者間に争いがない。なお、弁論の全趣旨によれば、本件においては、1ドルを124.8円に換算するのが相当と認められる。
乙第4号証の1ないし3によれば、被告が、被告商品3000個を輸入するために、関税6万9300円、地方消費税1万1200円、消費税4万4800円の合計12万5300円の税金を支払ったことが認められる。
 また、乙第5号証によれば、被告は、被告商品3000個を輸入するために、通関業者に対し、通関料、取扱料金、搬出料、運送料など合計5万6944円の通関手数料を支払ったことが認められる。
被告は、被告が被告商品の販売によって得た利益を算出するに当たり販売額から差し引かれる経費として、上記のほかに、送金手数料1万円、商品発送手数料3万円を主張するが、これらの金額の経費がかかったことを認めるに足りる証拠はない。
 以上によれば、被告が被告商品を3000個販売したことにより得た利益を算出するために販売価格から差し引かれる経費は、仕入価格110万4480円(124.8円×2.95ドル×3000個=110万4480円)、税金12万5300円、通関手数料5万6944円の合計128万6724円であるものと認められ、これを販売価格159万円(530円×3000個=159万円)から差し引いた30万3276円(159万円−128万6724円=30万3276円)が、被告の受けた利益の額と認められ、不正競争防止法5条1項により、この額が、原告の受けた損害の額と推定され、この推定を覆すに足りる証拠はない。
ウ 請求原因(8)ウ(弁護士費用)について検討する。
 本件の事案の性質、審理の経緯等に鑑みると、被告の不正競争と相当因果関係にある弁護士費用相当の損害は、20万円と認めるのが相当である。
エ 以上によれば、原告が受けた損害の合計は50万3276円(30万3276円+20万円=50万3276円)であると認められる。
(9) よって、原告の請求は、不正競争防止法2条1項3号、3条1項に基づき、被告商品の譲渡、貸渡し、譲渡若しくは貸渡しのための展示、輸出、若しくは輸入の差止めを求め、同法4条、5条1項に基づき、損害賠償として50万3276円及びこれに対する不正競争の後である平成15年2月20日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、64条本文を、仮執行宣言につき同法259条1項を適用して、主文のとおり判決する。

【論  説】

1.この事件は、不競法2条1項3号の適用の可否をめぐる事案である。
 第1に、商品形態の同一性について判決は、両形態の相違点の存在は認めても、その相違は微差なものであると説示する。
 即ち、駆動表示ランプの色、小さな楕円形状の空気孔の数、本体の長さとブラシ取付部(2)、ブラシの取付部に相違点はあると認めたが、これらの相違点はいずれも微細な差異にとどまるばかりでなく、両商品形態の各構成要素の細部に至るまでほぼ共通であることに照らすと、全体として実質的に同一であると認定した。
 第2に、模倣について判決は、被告商品はその形態のみならず、パッケージや取扱説明書に至るまで当初の原告商品とほぼ同一であり、輸入時期は原告商品の模倣品を製造するに至る期間の経過後であることから、被告商品は原告商品を模倣したものであると認定した。
 第3に、諸般の事実から、被告はおそくとも平成14年8月末までには原告商品が販売されていることを知っていたものと推認できるから、被告商品は原告商品の形態を模倣した商品であることを知っており、仮に知らなかったとしても、知らなかったことに重大な過失があったものと推認した。
 その結果、不競法2条1項3号の規定の適用要件は満たされたのである。
2.損害賠償額については、不競法5条1項に基いて算定しているが、通関業者に対する通関手数料、税金などが差引かれている。また、被告の不正競争と相当因果関係にある弁護士費用相当額も控除することになった。それにしても20万円の弁護士費用とはいかにも少なすぎるが、わが国の裁判所としては現在まで全部認めるところまでは来ていない。

[牛木理一]