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「家具調仏壇」商品形態・差止等請求事件:大阪地裁平成13年(ワ)11198平成14年11月28日判決・棄却

〔キーワード〕 
模倣禁止期間(3年間)、常習的模倣行為、一般不法行為

 

〔事   実〕

 

 原告(八木研)は、別紙原告製品目録一記載の仏壇(原告製品一)を、平成6年12月頃から「ネプチューン」の商品名で製造販売した。
 被告(カリタ)は、平成10年1月以降、別紙被告製品目録1記載の仏壇(被告製品1)を製造し、被告(三善堂)はこれを販売している。
 そこで、原告は、請求原因として被告の次の3つの行為を主張した。
まず原告は、(1)不正競争(2条1項1号)を主張し、原告製品一の@周知商品表示性、A被告製品1の同一又は類似の商品表示の使用、B混同、をその成立要件として挙げた。その結果、原告は被告の故意又は過失によって、営業上の利益の侵害が与えられたと主張した。
 次に、(2)一般不法行為として、原告は原告製品の開発経過を説明し、平成9年度のGマーク商品に選定されたものであることを主張し、過去にも被告に対し不競法2条1項3号に基く不正競争行為に対する差止め請求訴訟を起して一部認容の判決を受け(大阪地裁平成8(ヨ)1178平成8年7月30日決/大阪地裁平成8(ワ)4693平成10年8月27日判)、控訴審でも控訴棄却の判決(大阪高裁平成10(ネ)2867平成11年2月16日判)を受け、確定した。
 また原告は、(3)不当利得として、不競法2条1項3号の3年の保護期間経過後も、これを無断で模倣することは違法であるから、使用料相当額として被告(三善堂)の最終販売価格の5%か、使用料の支払いを免れている不当利得であると主張した。
 

〔理  由〕

1  請求原因(1)ア(ア)aのうち、原告が、原告製品一を、平成6年12月ごろから、「ネプチューン」の商品名で製造販売していること、請求原因(1)ア(イ)のうち、被告カリタが、平成10年1月以降、被告製品1を製造し、被告三善堂がこれを販売していること、請求原因(1)ア(ウ)のうち、被告製品1が被告三善堂の店舗で販売されていること、請求原因(2)ア(イ)、(ウ)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。
2(1) 上記1の当事者間に争いのない事実と<証拠>及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
ア 家具調仏壇の発売経緯等
(ア) 仏壇には、従前から、和家具の伝統を継ぐ茶棚付仏壇(関東仏壇)が北関東を中心とする地域で販売され、家具に近い仏壇は存在したが、仏壇全体の中ではごく少数にとどまり、特段注目を引くことはなかった。しかし、昭和58年ごろから、現代のマンション等の洋間に調和し、家具と違和感のない外観を有する家具調仏壇が積極的に販売されるようになり、具体的には、京都家具調仏壇株式会社が、昭和58年、家具調仏壇を発売し、原告が、昭和59年、「自由仏壇」の名で家具調仏壇を発売し、生活様式の変化に対応した家具調仏壇を積極的に販売する方針を表明した。
(イ) 原告は、その後、家具調仏壇として、昭和60年には「アーバンメモリー」シリーズ、昭和61年には「メモリアル21」シリーズ、昭和62年には「マイメモリー」シリーズ、昭和63年には「はなかまど」シリーズ、平成元年には「自然」シリーズ、平成3年には「光」シリーズ及び「匠」シリーズ(原告製品二ないし四は、「匠」シリーズ中の商品である。)、平成5年には「コスモス」シリーズ(原告製品一は、「コスモス」シリーズ中の商品である。)、平成7年には「花」シリーズ、平成10年には「アール・ヌーボー」シリーズ、「クラフトメモリー」シリーズ、「イタリア」シリーズの各商品を発売してきた。なお、シリーズの名称は、遅くとも平成7年には、「花」シリーズ、「光」シリーズ、「匠」シリーズ、「メモリー」シリーズ、「コスモス」シリーズに整理統合され、平成10年、これに、上記の「アール・ヌーボー」シリーズ、「クラフトメモリー」シリーズ、「イタリア」シリーズが加えられた。これらは、「現代仏壇」シリーズと総称されている。
(ウ) 原告は、「現代仏壇」シリーズの開発に当たり、原告社内のデザイナーだけでなく、社外の複数のデザイナーにも商品の基本的なデザインを委託し、原告の社内で検討の上、社内外の専門技術者に委託して商品を試作させ、更に検討を加えて商品形態を決定し、製造、販売を行ってきた。
(エ) 原告製品一(「ネプチューン」)は、「コスモス」シリーズの一商品として平成6年12月ごろ発売され、原告製品二(「ハバネラ」)及び原告製品三(「ソナチネ」)は、「匠」シリーズの一商品として平成3年11月ごろに発売され、原告製品四(「ワルツ」)は、「匠」シリーズの一商品として平成5年6月ごろに発売された。
(オ) これらの「現代仏壇」のうち、原告製品二(「ハバネラ」。「匠」シリーズ)、「ジュピター」(「コスモス」シリーズ)及び「ニューファンタジア」(「光」シリーズ)は、平成8年10月、財団法人大阪デザインセンターによりグッドデザイン商品に選定され、「シクラメン」(「花」シリーズ)及び「テノン」(「クラフトメモリー」シリーズ)は、平成9年10月、通商産業大臣によりグッドデザイン商品に選定された。
 また、原告の「現代仏壇」は、伝統的な仏壇とは異なるユニークな家具調のデザインを採用し、首都圏等の都会のマンション暮らしの若い人たちにも迎えられているなどとして、新聞や雑誌にもしばしば取り上げられた。もっとも、これらの記事の中では、個々の商品については、明るく華やかなイメージの商品名が付けられているとしていくつかの商品名が紹介されることがある程度であり、原告製品一ないし四が特に取り上げられたわけではない。
イ 原告製品一の特徴等
(ア) 平成7年の時点において、原告は、5シリーズ(「花」シリーズ、「光」シリーズ、「匠」シリーズ、「コスモス」シリーズ、「メモリー」シリーズ)、約30種類の家具調仏壇を「現代仏壇」の名称の下に販売しており、平成10年1月の時点において、原告は、8シリーズ(上記5シリーズに、「アール・ヌーボー」シリーズ、「クラフトメモリー」シリーズ、「イタリア」シリーズが加えられた。)、約50種類の家具調仏壇を「現代仏壇」の名称の下に販売していた。
(イ) 各シリーズは、統一したイメージの下にデザインされたものとされており、「花」シリーズは、心に潤いを与える明るく優しい花のイメージ、「光」シリーズは、優しさや暖かさを感じさせる光のイメージ、「匠」シリーズは、人のぬくもりや優しさを感じさせる伝統の技、匠の心のイメージ、「コスモス」シリーズは、都会的で開放的なイメージ、「メモリー」シリーズは、モダンなイメージ、「アール・ヌーボー」シリーズは、19世紀末から20世紀初頭にかけて波及したデザイン思潮である「アール・ヌーボー」が目指したような優美なイメージ、「クラフトメモリー」シリーズは、木のぬくもりと手作りの技を生かしたコンパクトであたたかみのあるイメージ、「イタリア」シリーズは、象眼や曲線を生かしたイタリアの伝統工芸のイメージ等を有するものとされていた。そして、それぞれのシリーズの中で、大きさ、材質、形状、塗色等を異にする複数の商品が設定され、販売されており、各製品ごとに、他の製品にはない特徴を備えていた。
(ウ) 原告製品一の形態は、平成7年当時原告によって販売されていた「現代仏壇」の中では、前面が中央から両端に向けて後方に緩やかな湾曲をなしている点、上段の両開き扉がガラス製である点に特徴があった。原告製品一は、ガラスを用いた点に特徴を有する「コスモス」シリーズに属しており、「コスモス」シリーズに属する商品には、平成10年の時点では、原告製品一の外、ガラスと木を組み合わせた飾り台の形態を採る「クリスタルステージ」、原告製品一と外観の形態が同一で塗色が異なる「ヴィーナス」、前面が中央から両端に向けて後方に緩やかな湾曲をなしており、全高が原告製品一の約半分で、前面の上部約4分の3がガラス製扉、下部約4分の1が木製引出しにより構成される「ジュピター」があった。
ウ 原告の宣伝広告
(ア) カタログ、パンフレット
 原告は、その「現代仏壇」を始めとする仏壇仏具等の商品を宣伝するため、平成7年3月から、別表一(「カタログ関係発行一覧」)のとおり、毎年、カタログ、パンフレットを作成し、これを全国の仏壇仏具商に配布してその店頭に常備し、一般顧客の閲覧に供してきた。
これらのカタログ、パンフレットは、原告製品一を含め、原告の販売する仏壇仏具のほぼすべてがカラー写真で掲載されているものであり、表紙や使用例等に特定の商品の写真が掲載されている箇所が若干あったが、そのような箇所は、全体の中ではわずかであり、特定のシリーズや商品を特に強く意識させるものではなく、また、原告製品一の写真が単独で表紙や使用例等に掲載されていることはなかった。
(イ) ちらし
 原告は、「現代仏壇」を宣伝するため、ちらしを、別表二(「1999年〜2001年チラシリスト」)のとおり印刷、頒布した。
これらのちらしは、原告製品一を含め、原告の販売する「現代仏壇」の相当数がカラー写真で掲載されているものであり、使用例中に原告製品一やその他の特定の商品の写真が掲載されていたが、それらの使用例等の写真は、特定の商品を強調するよりは、「現代仏壇」が部屋の中に設置された場合のイメージを伝え、「現代仏壇」が洋間等に違和感なく配置されることを伝えるものであり、特定の商品のみを強く意識させるものではなかった。
(ウ) 新聞、雑誌への広告掲載
 原告は、「現代仏壇」について、別表三のとおり、新聞、雑誌に広告を掲載した。
(エ) テレビコマーシャル
 原告は、別表四のとおり、テレビコマーシャルを放映した。
(オ) その他
 以上のほか、原告は、東京、大阪及び神戸にショールームを設けて「現代仏壇」シリーズの商品を展示し、大阪や神戸のほか首都圏でも地下鉄等の車内広告や駅の看板広告を出すなどの広告宣伝を行った。
エ 被告製品の製造販売 
 被告カリタは、被告製品1ないし4を製造し、被告三善堂は、それらを販売している。
 被告らは、平成7年8月ごろ、原告製品一を模倣した被告製品1と、原告が「ガーベラ」という商品名で販売していた仏壇の形態を模倣した製品の製造販売を開始した。その後、後記オのとおり、これらの製造販売等の差止めを認容する仮処分決定がされたため、これらの製造販売は中止された。被告らは、原告製品一につき不競法2条1項3号の3年の保護期間が経過した後の平成10年1月ごろ、再び、被告製品1の製造販売を開始した。
被告らは、平成7年9月ごろ、被告製品2ないし4の製造販売を開始した。
オ 従前の紛争及び前訴等の経緯
 前記エのとおり、被告らが、平成7年8月ごろ、原告製品一を模倣した被告製品1と、原告が「ガーベラ」という商品名で販売していた仏壇の形態を模倣した製品の製造販売を開始したため、原告は、平成8年5月、当庁に、被告らに対し、不正競争防止法2条1項3号、3条に基づいて上記各製品の製造販売等の差止めを求める仮処分(当庁平成8年(ヨ)第1178号)の申立てを行い、同年7月30日、上記各製品の製造販売等の差止めを認容する仮処分決定がされた。その後、原告が、被告らに対し、上記各製品の製造販売等につき、不正競争防止法2条1項3号、4条に基づいて損害賠償を求めて訴訟(当庁平成8年(ワ)第4693号)を提起し平成10年8月27日、原告の請求を一部認容する判決が言い渡された。被告らは、大阪高等裁判所に控訴したが(同高等裁判所平成10年(ネ)第2867号)、平成11年2月16日、控訴棄却の判決が言い渡された。
 被告らが、平成7年9月ごろ、被告製品2ないし4の販売を開始したため、原告は、平成8年11月28日、当庁に、被告らに対し、不正競争防止法2条1項1号、3条、4条に基づいて被告製品2ないし4の譲渡等の差止め、廃棄、損害賠償を求める前訴(当庁平成8年(ワ)第12141号)を提起し(損害賠償の対象とした被告らの販売期間は、平成5年11月28日から平成8年11月27日までである。)、平成11年8月26日、原告の請求をいずれも棄却する旨の判決が言い渡された。原告は、大阪高等裁判所に控訴し(同高等裁判所平成11年(ネ)第3070号)、形態模倣につき一般不法行為に基づく損害賠償請求を追加したが、平成12年9月29日、同裁判所において、控訴をいずれも棄却するとともに、控訴人の控訴審における予備的請求については、原告が請求原因(2)ア(ウ)で主張するような判示がされたものの、損害の発生の立証がないとされて、いずれも棄却する旨の判決が言い渡され、同判決は確定した。
  以上の事実が認められる。
(2) なお、前記(1)ウ(ウ)の新聞、雑誌の広告の内容を直接に示す証拠はないが、原告が新聞、雑誌に掲載した「現代仏壇」に関する広告のうち、本件においてその内容が証拠上明らかになっている平成8年までのもの(証拠)のほとんどが、原告製品一ないし四(原告製品一は、平成6年12月ごろから製造販売されたから、それ以前の広告に掲載される余地はない。)の写真を掲載しないもの又は原告製品二ないし四のいずれかと共に他の複数の原告製の仏壇を掲載したものであり、原告製品二ないし四に特に重点を置いた広告としては、原告製品二の写真のみを掲載した平成4年7月15日付け宗教工芸新聞(証拠)があるのみである。そして、前記(1)ウ(ア)の認定のとおり、平成7年以後のカタログ、パンフレット、ちらし等においても、原告製品一ないし四のみを特に強く意識させるものがないことを合わせ考えると、前記(1)ウ(ウ)の別表三の広告も、原告製品一ないし四のみに重点を置いたものでないと推認される。同様に、前記(1)ウ(エ)の別表四のテレビコマーシャルについても、その内容を直接に示す証拠はないが、原告製品一ないし四のみに重点を置いたものではないと推認される。
  以下では、上記(1)、(2)の認定事実に基づき判断することとするが、被告らは、被告製品2ないし4が原告製品二ないし四の模倣に当たることを理由とする一般不法行為に基づく損害賠償請求は、前訴の確定判決の既判力に抵触する旨主張するので、この点について検討しておくと、前記認定のとおり、前訴において控訴審での訴えの変更により追加された一般不法行為に基づく損害賠償請求は、平成5年11月28日から平成8年11月27日までの被告製品2ないし4の販売行為を対象とするものであるところ、本訴において原告が被告製品2ないし4の販売に関し一般不法行為に基づく損害賠償請求の対象としているのは、平成8年12月から平成13年10月14日までの期間についてであるから、前訴と同様の法律構成により同一の物件の販売行為を対象としているとはいえ、対象とする期間が異なっており、訴訟物としては異なるものといわざるを得ない。そうすると、本訴における原告の上記請求が前訴の確定判決の既判力に抵触することはないから、被告らの主張は理由がない(なお、他方で、大阪高等裁判所が前訴判決中で、被告らによる被告製品1ないし4の製造販売行為が違法な行為との評価を免れず不法行為を構成するものとした判示は、判決理由中の判断であるから、本件訴訟おいて拘束力を持つものではない。)。
3(1) 請求原因(1)(不正競争)ア(不競法2条1項1号)(ア)(周知商品表示)について、検討する。
ア 商品の形態は、通常、主として、その商品の機能を発揮させ、又は美感を高めるためなどの目的から適宜選択されるものであり、必ずしも商品の出所を表示することを目的として選択されるものではない。しかし、商品の形態が他の商品と識別し得る独特の特徴を有し、かつ、商品の形態が、長期間継続的かつ独占的に使用されるか、又は、短期間であっても商品形態について強力な宣伝広告等が行われ、大量に販売されて使用されたような場合には、商品の形態が特定の者の商品であることを示す商品等表示として需要者の間で広く認識されることがあり得、そのような場合には、商品の形態が不競法2条1項1号の商品等表示として保護されることがあると解される。
イ 原告製品一の特徴等は、前記2(1)イ(ウ)のとおりであり、全体としてシンプルであるが洗練されたデザインということができる。
 しかし、前記2(1)イ(ア)、(イ)のとおり、平成7年の時点において、原告は、5シリーズ、約30種類の家具調仏壇を販売し、平成10年1月の時点において、8シリーズ、約50種類の家具調仏壇を販売しており、それぞれのシリーズが独自の特徴を有し、その中で、大きさ、材質、形状、塗色等を異にする複数の商品が設定され、販売されており、各製品ごとに、他の製品にはない特徴を備えていた。原告製品一の属する「コスモス」シリーズの中にも、前記2(1)イ(ウ)のとおり、平成7年の時点において、原告製品一と外観の形態が同一で塗色が異なる「ヴィーナス」、原告製品一と大きさが異なるものの、前面が中央から両端に向けて後方に緩やかな湾曲をなし、前面がガラス製扉の「ジュピター」があった。このように、原告の製造販売する家具調仏壇に多種多様なものがあったことなどの事情に鑑みると、原告製品一の形態が独自の特徴を備えていることは否定し得ないものの、それと同じ程度の特徴は、原告の他の家具調仏壇も備えており、原告製品一のみが他を凌ぐ顕著な特徴を備えていたとは認められない。
 また、前記2(1)ウ(ア)ないし(エ)のとおり、原告の家具調仏壇については宣伝広告がされたが(平成7年8月又は平成10年1月の時点での周知性の裏付けとしては、別表一ないし四のうち、その時点までの宣伝広告のみを考慮すべきこととなる。)、それらは、原告製品一ないし四のみに重点を置いたものではなかった。原告の「現代仏壇」が新聞や雑誌にしばしば取り上げられたことがあったことは、前記認定のとおりであるが、これも、原告製品一が特に取り上げられたわけではなかった。
このような事情によれば、原告製品一の商品形態は、平成7年8月の時点においても、また、平成10年1月の時点においても、原告の商品表示として識別性を有していたとはいえず、全国の仏壇需要者、仏壇取引業者の間で原告の商品表示として広く認識されていたとは認められない。他に、この点に関する原告の主張を認めるに足りる証拠はない。
(2) したがって、原告の不正競争防止法2条1項1号に基づく請求は、理由がない。
4 請求原因(2)(一般不法行為)について検討する。
(1) 原告は、被告らが被告製品1ないし4を製造販売することは、それぞれの模倣の対象となる原告製品一ないし四が最初に販売された日から不正競争防止法2条1項3号の保護期間である3年を経過した後であっても、一般不法行為を構成する旨主張する。そこで、形態模倣について、不正競争防止法2条1項3号の3年の保護期間経過後に一般不法行為が成立するかについて検討する。
(2) 不正競争防止法2条1項3号の趣旨についてみるに、現行の不正競争防止法(平成5年法律第47号)の制定に至る過程で出された通産省産業構造審議会知的財産政策部会の平成14年12月14日付中間答申「不正競争防止法の見直しの方向」(証拠)では、次のとおり述べられている。
 「先行者の成果を学び、その上に新たな成果を築くことは社会の健全かつ持続的な発展に資することであり、あらゆる模倣を一般的に禁止することは、自由な競争を阻害し、かかる発展を妨げることになる。他方、全ての模倣を放任することは、先行者の開発へのインセンティブを阻害することになり、妥当でない。どのような模倣を禁止し、社会の健全かつ持続的な発展の確保と先行者へのインセンティブの付与とのバランスをとるかは、経済の発達状況、社会意識の状況などに応じ、判断されることとなる。このような観点から、個別の知的財産権法においては、客体の創作性に着目し、客体に対し権利を付与するという形で、模倣に対する一定の制限が加えられているところである。他方、不正競争防止法は、行為の不正性に着目し行為規制の観点から、不正な競争行為に対し民事的な規制(差止請求、損害賠償請求)を行うことにより、公正な競争秩序の維持を図るものである。特に、近年の複製技術の発達、商品ライフサイクルの短縮化、流通機構の発達等により、他人が市場において商品化するために資金、労力を投下した成果の模倣が極めて容易に行い得る場合も生じており、模倣者は商品化のためのコストやリスクを大幅に軽減することができる一方で、先行者の市場先行のメリットは著しく減少し、模倣者と先行者の間には競争上著しい不公正が生じ、個性的な商品開発、市場開拓への意欲が阻害されることになる。このような状況を放置すれば、公正な競業秩序を崩壊させることにもなりかねない。このような状況を踏まえれば、個別の知的財産権の有無にかかわらず、他人が商品化のために資金、労力を投下した成果を他に選択肢があるにもかかわらずことさら完全に模倣して、何らの改変を加えることなく自らの商品として市場に提供し、その他人と競争する行為(デッドコピー)は、競争上、不正な行為として位置付ける必要があるのではないかと考えられる。」
(3) 不正競争防止法2条1項3号は、前記のような趣旨に基づいて、他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為を不正競争と規定したものと解されるところ、このような趣旨に鑑みれば、商品の形態模倣を不正競争と位置付けて規制するに当たって、模倣に対する保護を与えるべき期間は、先行者がその商品開発や創作に対して投じた費用の回収を終えるまでの期間とするのが相当であると考えられる。しかし、その期間を個別に認定するとしたのでは、期間の認定に困難を生じ、迅速な保護に欠ける可能性もあるし、後続者の予見可能性を害し、自由な競争を萎縮させる可能もある。そこで、不正競争防止法は、その保護期間を一律に規定することとしたものと解される。
 保護期間を定めるに当たっては、先行者が投じた費用を回収し得るに足りる期間とする必要があるが、他方、自由な競争を害しないように、先行者と後続者の利益衡量を図る必要がある。また、形態模倣などを要件とする場合の保護期間は、新規性、進歩性や登録を権利設定や権利行使の要件とする意匠、特許、実用新案といった工業所有権制度を没却することのないよう、工業所有権の存続期間、特にその中で最も短い実用新案の存続期間(6年)との関係を考慮する必要がある。意匠その他の工業所有権制度による登録等を出願後取得するのに要する期間との関係も考慮する必要があり、3年という期間は、登録等を取得するに足りる期間であるといえる。さらに、実際、商品のモデルチェンジのサイクルを設定するときは、おおむね3年以内とするものが多いといわれる。このような諸点を踏まえ、国際的なハーモナイゼーションも考慮されて、不正競争防止法2条1項3号は、保護期間を3年と規定したものと解される(ちなみに、前記中間答申では、「デッドコピー規制の期間は、先行開発者が投下した費用、労力を回収し、通常期待し得る利益を得る期間を確保する趣旨で3年〜5年間とするのが適当である。」としている。)。このように、不正競争防止法2条1項3号の保護期間が3年とされたのは、同号による保護の要件として、保護対象商品の創作性や周知性を要求せず、商品形態の模倣という容易に充足され得るものとしていることを前提として、競争の自由や工業所有権制度との調和等をも考慮した上で規定されたものと解される。
(4) 不正競争防止法2条1項3号の前記のような趣旨に鑑みると、同号が明定する「最初に販売された日から起算して3年」という保護期間を経過した後は、前述(3(1)ア)のように商品形態が商品等表示として周知性を獲得することにより同項1号の規定で保護される場合があることは別として、原則として形態模倣行為は不法行為を構成しないものと解すべきである。たとえ、個々の商品について、開発のために投じた費用を回収するのに3年では短か過ぎるというような事情があったとしても、この理は変わらないものというべきである。そうでないと、同法2条1項3号が保護期間を一律に3年と定めた趣旨が損なわれ、法的安定性が害されることになる。もっとも、先行商品の販売開始から3年を経過した後にする形態模倣商品の販売等の行為も、もとより積極的に容認される行為というわけではないし、当該行為の態様が公正な競争秩序を破壊する著しく不公正な方法で行われ、行為者に害意が存在するような場合には、違法な行為と評価されて民法上の不法行為を構成する場合もあり得ると考えられる。
(5) 本件について不法行為が成立するか否かを検討するに、原告は、@「現代仏壇」は、デザイン、試作などの開発に1年ないし3年余りの期間と労力を要すること、Aそれにもかかわらず、仏壇は、需要者によって日常繰り返し購入、消費される商品ではないため、その投下資本の回収に長期間の歳月を要すること、B被告らは、シリーズ商品である原告の製品を順次模倣することにより、原告が獲得した原告製品一ないし四を始めとする「現代仏壇」の名声や評価にただ乗りをして商業的成功を収めようとしていることなどから、原告製品一ないし四を模倣した被告製品1ないし4の製造販売を行うことは、3年の保護期間を経過した後も、原告が多大の時間と費用をかけて獲得した成果にただ乗りするものであり、競争者間の公正かつ自由な競争の範囲を逸脱した違法行為である旨主張する。
 なるほど、原告が「現代仏壇」シリーズの開発、販売に当たって、社内外のデザイナーを起用してデザインを工夫し、宣伝広告に費用をかけてきたものであること、「現代仏壇」のデザイン、試作などの開発に1年ないし3年余りの期間を要していることは、前記認定のとおりである。そして、被告製品1ないし4は、別紙原告製品目録一ないし四と被告製品目録1ないし4とをそれぞれ対比すれば容易に看取できるように、原告製品一ないし四と同一の商品形態といって差し支えない程度に酷似し、明らかに模倣したものであるといえる。また、仏壇は、高額な商品であり、その性質上、一般の需要者が繰り返し購入するような性質の商品ではなく、商品のライフサイクルも一般の商品に比べて長いものである。
 しかし、これらの事情は、前記の不正競争防止法2条1項3号の趣旨に照らすと、それだけでは、同号所定の保護期間経過後の被告らの形態模倣行為が不法行為を構成するほどの違法性を備えていることの根拠とするには足りないというべきである。
 また、被告らがシリーズ商品である原告の製品を順次模倣しているという点についても、シリーズ商品を構成する個々の商品について、それぞれ販売開始から3年間は形態模倣行為が規制されるのであるから、シリーズ商品を順次模倣するというような行為があるからといって、ただちに保護期間経過後の各商品の形態模倣行為を違法とみることは相当でない。
なお、仏壇の商品形態は、不正競争防止法2条1項3号によって保護されるほか、それが新規な意匠の創作である場合には、意匠法による保護の対象ともなり得るものであるから、発売開始から3年を超えた保護を受けるためには、意匠登録出願をして意匠登録を受けるのが本筋であるといえる。
(6) 原告は、本件における一般不法行為の成立に関して、被告製品1ないし4は、原告製品一ないし四より品質が劣っているにもかかわらず、その形態が原告製品一ないし四と酷似しているため、需要者が被告製品1ないし4と原告製品一ないし四を混同し、原告製品一ないし四の品質が被告製品1ないし4の品質と同じであると誤解するおそれがあることを主張し、<証拠>には、それに沿う陳述もある。
 しかし、<証拠>によれば、原告製品一ないし四は、定価30万円ないし65万円で販売されていることが認められるから、比較的高額な商品ということができ、需要者によって頻繁に買い換えられるものではない。そして、弁論の全趣旨によれば、被告製品1ないし4も、同様に比較的高額な商品であることが認められ、家具調仏壇を含めた仏壇について、需要者は、購入に際し、仏壇仏具店において現物を見た上で、予算や設置場所を考慮し商品を吟味して購入するのが一般的であると考えられる。したがって、原告製品一ないし四と被告製品1ないし4とで形態が似ていることによって、両者の品質が同じであると誤解されるおそれがあるとはいえない。
(7) したがって、本件において、原告が指摘する諸点をもってしては、不正競争防止法2条1項3号の3年の保護期間経過後に、原告製品一ないし四の商品形態を模倣した被告らの行為を、違法と評価するには足りないものというべきであり、他にこのことを肯定するに足りる事情が存在するとも認められないから、被告らの行為につき民法上の一般不法行為が成立するとする原告の主張は、採用することができない。
5 請求原因(3)(不当利得)について検討する。
 原告の不当利得に基づく主張は、原告製品一ないし四の形態を模倣することが、不正競争防止法2条1項3号の3年の保護期間経過後も違法であることを前提とする。しかし、前記4(7)のとおり、不正競争防止法2条1項3号の3年の保護期間経過後は、原告製品一ないし四の模倣は、違法とはいえないから、原告の不当利得に基づく主張は、その前提を欠き、理由がない。
6 よって、本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これを棄却する。

 

〔論  説〕

 

 この判決は、不競法2条1項3号に規定する3年間の模倣禁止期間の経過を待って再び模倣を始めた常習犯を救済する結果となったが、一般不法行為(民709)に該当する違法性があるとまでは評価されなかった。
 それにしても3年間という期間は短すぎる。現行不競法の立法時の審議会の答申には「3年〜5年」の禁止期間の提案があったが、当時の通産省は最短期間の方を選んだのである。しかし、今日、意匠法の改正問題とともに再検討する必要があるだろう。
 2条1項3号に規定する商品形態の模倣に対する保護は、英国CDPA1988やEUデザイン法2002に規定する「非登録デザイン権(Unregistered Design Right)に相当するものであるから、不競法から意匠法に配置変えすることも十分視野に入れて考えなければならない。

[牛木理一]