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ピーターラビット事件:東京地裁平成12年(ワ)14226号(甲事件)、平成14年(ワ)4485号(乙事件).平成14年12月27日判決(民47)〈甲事件認容〉、〈乙事件棄却〉
〔キーワード〕 
ピーターラビット、商品化事業、不正競争行為、契約・合意、商標権移転登録義務



〔主文〕

1 被告は、別紙被告表示目録記載の表示を付した商品を製造してはならない。
2 被告は、別紙被告表示目録記載の表示を付した被告製造に係る商品を譲渡し、譲渡のために展示し、並びにその包装及び広告に上記表示を使用してはならない。
3 被告は、別紙被告表示目録記載の表示を付した被告製造に係る商品を廃棄せよ。
4 被告は、原告に対し、金372万9376円及びこれに対する平成12年7月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
6 被告の請求をいずれも棄却する。
7 訴訟費用は、甲事件、乙事件を通じて、これを4分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

 
〔事案の概要〕

 
1.事実
(1) 原告及び原告商品化事業の経緯等
ア 原告フレデリック・ウォーン・アンド・カンパニー・リミテッド(Frederick Warne & Co.)は、ベアトリックス・ポター(以下「ポター」という。)が創作したピーターラビットという名のうさぎを登場人物とする「ピーターラビットのおはなし」を始めとする一連の絵本の出版を1902年(判決には1901年とあるが、原本では初版は1902年とある。)に開始し、1903年にはピーターラビットの人形について英国特許を取得してピーターラビットの商品化事業(以下原告によるピーターラビットに関する商品化事業を「原告商品化事業」という。)を開始した。(特許のことについては、〔研究〕で解説する。)
イ 原告は、その後1983年にペンギンブックス社の子会社となり、また1984年にはコピーライツ社を全世界における原告商品化事業に関する原告のエージェントとして、原告商品化事業の拡大を図ってきており、現在ではライセンシーは世界中で約350社を数え、1999年度の年間のロイヤルティ収入は年間1400万ドルに上っている。
ウ 原告は、日本において、昭和46年(1971年)に有限会社福音館書店(以下「福音館」という)を通じて「ピーターラビットのおはなし」の絵本の販売を開始し、昭和51年(1976年)には福音館を日本における原告商品化事業のエージェントとし、被告とライセンス契約を締結するなどして、日本における原告商品化事業を開始した。
(2) 被告及び被告表示の使用等
ア 被告は、乳幼児及び子供用品の製造加工販売等を業とする(株)ファミリアである。
イ 被告は、別紙被告表示目録記載の表示(以下、「被告表示(1)」等といい、これらをまとめて「被告表示」という。)のうち、被告表示(1)ないし(3)を付した子供用被服、文房具、日用雑貨品等の商品を製造販売していた。
 なお、平成13年12月7日被告表示(1)(2)(4)を付した被告製造に係る商品の譲渡等を禁止する仮処分命令(以下「本件仮処分命令」という。)が発せられ、その後被告は上記商品を販売していない。
ウ 被告は、別紙物件目録1及び2記載の衣類(以下「本件衣類」という。)を製造販売することを予定している。
(3) 原告と被告の契約関係
ア 原告と被告は、昭和51年(1976年)9月23日、原告商品化事業に関するライセ ンス契約(以下「第1ライセンス契約」という。)を締結した。
 第1ライセンス契約は、昭和62年(1987年)9月30日に新たなライセンス契約(以下「第2ライセンス契約」という。)に改定された。
 第2ライセンス契約は、平成11年(1999年)10月19日をもって終了し、その後現時点に至るまで、原告と被告との間に契約関係は存在しない。
イ また、原告、被告、福音館は、昭和62年(1987年)9月30日、同年4月13日付けの「レター オブ アグリーメント(Letter of Agreement)」(以下「本件合意」という)を締結した。
(4) 被告名義の商標権の存在
 被告は、別紙商標権目録記載(1)ないし(6)の商標権の登録名義人である(以下、別紙商標権目録記載の商標権を「本件商標権(1)」等といい、これらをまとめて「本件商標権」という。)。
 被告は、本件商標権(7)ないし(10)の登録名義人であった。本件商標権(8)及び同(10)については、存続期間が満了し、被告による更新手続はされていない。被告は、本件商標権(7)及び同(9)を放棄し、特許庁に対し、平成13年11月8日付けで「放棄による商標権抹消登録申請書」を提出した。
2 本件の請求
(1) 【甲事件】は、原告が被告に対し、@別紙原告表示目録記載の表示(以下「原告 表示」という。)は、原告及び原告商品化事業を行っているグループの商品表示又は営業表示として周知著名であるところ、被告は、これと同一である被告表示を使用している又は使用するおそれがあると主張して、不正競争防止法2条1項1号、2号及び3条1項に基づいて、被告表示を付した商品の製造、被告表示を付した被告製造に係る商品の譲渡及び譲渡のための展示並びにその包装及び広告に被告表示を使用することの差止めを求めると共に、同法4条に基づいて損害賠償を請求している事件とA本件合意に基づいて本件商標権(1)ないし(6)の移転登録手続を求めている事件である。〈不正競争行為差止等請求事件〉
(2) 【乙事件】は、被告が原告に対し、被告が本件衣類を販売及び販売のために展示する行為は不正競争行為に該当しないとして、同法に基づく差止請求権、損害賠償請求権及び廃棄請求権がそれぞれ存在しないことの確認を求めている事件である。〈不正競争行為差止請求権不存在確認等請求事件〉
3 本件の争点
【甲事件】
(1) 被告の被告表示使用行為が、不正競争防止法2条1項1号、2号の各要件に該 当するかどうか
(2)ア 本件商標権(1)ないし(6)に基づく適用除外の成否
イ 先使用による適用除外の成否
ウ 被告による本件商標権(1)(2)の時効取得の成否、同商標権に基づく適用除外の成否
エ 不正競争防止法2条1項2号の不正競争行為についての同法附則3条1号による適用除外の成否
(3) 被告は原告に対し本件合意に基づいて本件商標権(1)ないし(6)について移転登録義務を負うかどうか
(4) 原告が被った損害額
【乙事件】
(5)ア 訴えの適法性
イ 被告による本件衣類の販売等が、不正競争行為に該当するかどうか

 
〔判  断〕

 
1 争点(1)について
(1) 前記第2の1争いのない事実等並びに証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。
ア ポターが創作したピーターラビットという名のうさぎを登場人物とする「ピーターラビットのおはなし」を始めとする一連の絵本は、1901年に出版を開始して以来、英国を始めとする各国で多くの部数が出版され、ポターが創作したピーターラビットは、広く知られるようになった。
原告は、1903年にピーターラビットの人形について英国特許を取得して原告商品化事業を開始したのち、英国において、ボードゲーム、ハンカチ、ジグソーパズル、カーテン、敷物、室内履き、陶磁器等についてライセンス契約を締結した。陶磁器のライセンス契約は、1940年代に、ウェッジウッド社及びロイヤルドルトン社との間で締結されたもので、現在まで継続している。
原告は、1970年代には、アメリカ合衆国の会社との間でもライセンス契約を締結するようになり、おもちゃ、陶磁器、寝具、文具などについて、約20社との間でライセンス契約を締結した。
イ 昭和46年(1971年)11月、日本において、「ピーターラビットのおはなし」が福音館を通じて出版された。
 昭和51年(1976年)、福音館が原告の日本における原告商品化事業を行うためのエージェントとなり、被告との間でライセンス契約を締結するなど、日本における原告商品化事業が開始された。
ウ 原告は、ライセンシーとの間でライセンス契約を締結するに当たって、原告によるデザインの承認手続、知的財産権の管理、ライセンスの譲渡及びサブライセンスの禁止、ライセンス商品の販売方法の制約等に関する詳細な内容を記載した標準商品化契約書を作成し、また、原告商品化事業を行うに当たって、イメージの統一性を維持するための冊子(スタイルブック)を作成するなどの措置を講じている。
エ キューピー株式会社は、昭和56年(1981年)に原告のライセンシーとなり、その最主力商品であるマヨネーズのイメージキャラクターとしてピーターラビットを使用した。キューピー株式会社による広告宣伝活動は、平成4年から平成11年にかけて約7年間にわたり同社が提供するテレビ番組「三分間クッキング」の放送に際してポターが著作したピーターラビットの図柄を使用したテレビコマーシャルを行ったことを初め、全国の映画館での広告映画の上映や新聞雑誌における広告活動を含む大規模なものであった。
 三菱信託銀行株式会社は、昭和63年(1988年)に原告のライセンシーとなり、原告表示(1)(3)(4)及びポターが著作したピーターラビットの図柄を使用したCM放送や新聞広告を行うと共に、ポターが著作したピーターラビットの図柄を同行のキャッシュカード及び預金通帳に使用し、また、全国の店舗において原告表示(1)(3)(4)及びポターが著作したピーターラビットの図柄を掲載したパンフレットの配布やポスター及び看板の掲示を行っている。
 積水化学工業株式会社は、平成5年(1993年)に原告のライセンシーとなり、ポターが著作したピーターラビットの図柄を使用したプラスチック製品等の製造販売及び原告表示(1)(3)(4)を使用した広告宣伝資料の配布等の広告宣伝活動を行っている。積水化学工業株式会社のピーターラビット関連商品の売上げは、小売価格ベースで年間100億円を超えている。
 日本図書普及協会は図書券及び図書カードの発行を行っている会社であり、平成5年(1993年)に原告のライセンシーとなった。同社は、ポターが著作したピーターラビットの図柄を使用した図書カードを販売しており、その売上げは年間約50億円である。また、同社は原告表示(3)(4)及びポターが著作したピーターラビットの図柄を使用して、図書カードの広告宣伝活動をテレビコマーシャル、新聞、雑誌、車内吊広告等によって行っており、新聞広告については、読売新聞社主催の読売広告大賞・新聞広告部門「読者が選ぶ広告の部」で平成9年から平成11年まで3年間連続で入賞した。
 株式会社日食は、平成6年(1994年)に原告のライセンシーとなり、原告表示(3)及びポターが著作したピーターラビットの図柄を使用した紅茶、ジャム、はちみつ、ビスケット、クッキー等の食品の製造販売を行っている。また、これらの商品の販売促進のため、同社は定期的に日本経済流通新聞に広告を掲載し、また、数万部に及ぶ商品カタログ等の広告宣伝資料の配布を行っているが、それらには、原告表示(3)(4)が付されている。
 福音館は、昭和46年(1971年)以来ピーターラビットが登場する「ピーターラビットのおはなし」や「ベンジャミンバニーのおはなし」を始めとする一連の絵本の販売を行っており、その累計販売冊数は約600万冊に及んでいる(甲72)。
 昭和48年(1973年)から平成4年(1992年)までの間における「ピーターラビットのおはなし」の販売部数は、概ね以下のとおりである。
       昭和48年(1973年)   1万5931冊
       昭和49年(1974年)   1万8719冊
       昭和50年(1975年)   1万4988冊
       昭和51年(1976年)   1万3803冊
       昭和53年(1978年)   2万5381冊
       昭和54年(1979年)   7万5561冊
       昭和55年(1980年)   4万2262冊
       昭和56年(1981年)   3万3558冊
       昭和57年(1982年)   5万3185冊
       昭和58年(1983年)   4万9651冊
       昭和59年(1984年)   7万7326冊
       昭和60年(1985年)   7万5152冊
       昭和61年(1986年)   6万0660冊
       昭和62年(1987年)   6万9602冊
       昭和63年(1988年)  5万9166冊
       平成2年(1990年)    6万8046冊
       平成4年(1992年)     5万5602冊
オ 原告の日本における原告商品化事業に係るライセンス契約は、平成12年4月時点において61本(ライセンシーの数は、47)であり、同事業のロイヤルティ売上げの平成6年度から平成10年度までの年間の平均は約6億3000万円である(平成10年度の年間売上高は、約8億4000万円である。)。
カ ピーターラビットに関するマーケティングデータと題された報告書に記載されたキャラクター認知度調査によると、ピーターラビットのキャラクターはミッキーマウス、スヌーピー等世界的によく知られているキャラクターと同様に広く一般に知られているとの結果が出ている。
(2) 上記(1)で認定した事実に、後記2認定のとおり被告も原告とライセンス契約を締結し、後記(3)のとおり原告表示(1)(3)と同一の被告表示(1)(3)を使用していた事実を総合すると、原告表示(1)(3)(4)は、原告及び原告表示に係る商品化事業に関してライセンス契約を締結しているライセンシーで構成されるグループ(原告グループ)の商品を表示するものとして、需要者の間に広く認識された商品表示となっているものと認められる。しかし、原告表示(2)については、これが原告及び原告グループの表示として使用された事実を認めるに足りる証拠はないから、原告及び原告グループの周知著名な商品等表示であると認めることはできない。
 なお、被告は、原告が商品化事業を行うグループを形成しているということはない旨主張するが、上記(1)で認定した事実によると、原告は、多くのライセンシーとライセンス契約を締結し、それらのライセンシーは統一された表示(原告表示(1)(3)(4))を用いている上、商品イメージを統一するための管理等もされているから、原告表示に係る商品化事業に関してライセンス契約を締結しているライセンシーで構成されるグループ(原告グループ)が存するものと認められる。
(3) 原告表示(1)(3)(4)と被告表示を対比すると、被告表示(1)は原告表示(1)と、被告表示(3)は原告表示(3)と、被告表示(4)は原告表示(4)と、それぞれ同一であり、被告表示(2)は、原告表示(1)とは、アルファベットの大文字か小文字かの違いしかないから、原告表示(1)と類似するものと認められ、その類似性は高いものというべきである。
(4) そして、上記認定のとおり原告表示が広く知られていること、上記認定のとおり被告表示と原告表示は同一又は高い類似性を有すること及び後記2認定のとおり被告は原告からライセンスを受けて営業を行ってきたことからすると、被告表示(1)ないし(4)の使用は、被告が原告グループの一員であるとの誤信を生じさせるおそれがあるものと認められる。
 なお、被告は、被告の商品は、我が国において衣類では著名な表示である「familiar」の欧文字が明瞭に表示されており、著名な被告の店舗でのみ販売されている上、「familiar」の欧文字が表示されたハンガーにつるされ、「familiar」の欧文字が表示された紙袋に入れて販売されているから、被告表示が付された商品が具体的取引の実情下において原告の商品と誤認混同されるおそれはないと主張するが、上記認定の各事情からすると、衣類に付されている「familiar」の欧文字が著名な表示であり、著名な被告の店舗でのみ上記の原告主張のような態様で販売されているとしても、上記誤信を生じることは明らかであって、被告の主張は採用できない。
(5) 以上によると、被告が被告表示を付した商品を製造し、被告表示を付した被告製造に係る商品を譲渡し、譲渡のために展示し、その包装及び広告に被告表示を使用する行為は、不正競争防止法2条1項1号規定の要件をすべて具備していると認められる。
2 争点(2)について
(1) 争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
ア 第1ライセンス契約の締結交渉は、昭和50年(1975年)5月から開始され、昭和51年(1976年)9月23日に第1ライセンス契約が締結された。同契約中には、以下の条項がある。
「1.ライセンシーは一切のライセンス許諾物品について、領域の法律が規定する法的保護(商標登録、特許、著作権又は意匠登録)が得られるよう、ライセンシーの費用負担により文書又は申請書を作成し完成させることに同意する。したがって、ライセンシーはここに、当該登録の目的でライセンシーの署名が必要となるすべての書類に署名し、これを完成させること、及び登録又は登録出願に損害を及ぼすか、これらを失効させるような作為を控え、不作為を回避することに同意し、これを請け負う。
原告も福音館も、上記登録が交付されるかどうかについて保証せず、また、当該登録の拒絶はいかなる方法でも本契約に基づくライセンシーの義務に影響を及ぼさない。
 ライセンシーは、一切のライセンス許諾物品が、原告が要請、承認する合理的な著作権、商標、特許、その他の関連する表示を付していることを、原告及び福音館に保証する。
 ライセンス許諾期間中に、第三者が財産に関する権利を侵害するか、侵害を試みた場合、ライセンシーは、当該侵害又は侵害未遂について、直ちに福音館に連絡するものとする。
2.財産(「ピーターラビットのおはなし」等に出てくるポターのイラストレーション)及び当該財産に関連する登録意匠における全ての著作権及びその他すべての権利はここに、ライセンス許諾物品について明示的にライセンシーに許諾された権利及びライセンスに服することのみを条件として原告に留保する。これ以外に黙示的又はその他のいかなる権利も、財産又はライセンス許諾物品についてライセンシーに付与されるとはみなされない。」
イ(ア) 被告は、昭和51年4月30日、本件商標権(2)ないし(10)を出願し、これらの商標権は、被告を権利者として登録された。
(イ) 本件商標権(1)は、昭和47年4月11日に伊藤万株式会社によって出願され、昭和50年に登録されたもので、これらの出願、登録は、原告の承諾を得ることなく行われた。被告は、本件商標権(1)を伊藤万株式会社から1010万円で譲り受け、昭和61年(1986年)1月27日移転登録がされた。
(ウ) 本件商標権(1)ないし(6)の各商標は、「ピーターラビット」と「PETERRABBIT」を二段書きにしたもの、本件商標権(7)ないし(10)の各商標は、ピーターラビットのイラストレーションであり、そのうち、ピーターラビットのイラストレーションについては、原告が著作権を有している。
(エ) 本件商標権(2)、同(8)を除く商標権における商品区分は、いずれも第1ライセンス契約におけるライセンスの対象商品を含むものである。
(オ) 被告は、本件商標権の取得に当たって、原告に対しては、対価を支払っていない。
ウ 原告は、昭和58年(1983年)6月、被告に対して、英国ウェッジウッド社が被告の商標権を侵害することなくウェッジウッド社の全種類の製品を販売できることの確認を求めた。
 これに対して、被告は、同年7月4日、原告に対し、商標権を登録したのは、有名なピーターラビットを質の悪い商品や模造品から守るためである旨及び日本において十分確立されたポターの市場がかき乱されず、また、原告が許す限り、英国ウェッジウッド社が商標権を侵害することなくウェッジウッド社の全種類の製品を販売できることを確認する旨を記載した書面を送付した。
エ 原告と被告間では第1ライセンス契約の更新に向けての作業が継続して行われていた。その際、本件商標権の取扱いについて、原告と被告との間で協議が行われ、原告と被告は、昭和62年(1987年)9月30日、本件合意を締結した。
 本件合意の内容は、以下のとおりである。なお、訳文中の「前記契約」とは、第2ライセンス契約を指す。
「Warne recognises that Familiar is the owner of certain trademarks in Japan which Familiar registered in Familiar's name with the approval of Warne in order to prevent third parties from using Familiar's rights in Japan and that these trade marks are not the subject of the said Agreement.In the event that Familiar decides、 of it's own will、 not to manufacture the licensed product、 Familiar will then transfer and assign to Warne the said trade marks on such reasonable terms and conditions as are mutually agreed to between Warne and Familiar.」
(訳文)
「ウォーンは、第三者が日本においてファミリアの権利を使用することを防ぐためにファミリアがウォーンの承諾を得てファミリアの名義で登録した日本における商標について、ファミリアが所有者であること、並びに、かかる商標が前記契約の対象でないことを確認する。ファミリアが、その意思により、ライセンス商品の製造を行わないことを決めた場合、ファミリアはウォーンとファミリアの間で相互に合意する合理的な条項及び条件に従って前記商標をウォーンに移転しかつ譲渡する。」
オ 本件合意と同日に、原告と被告は第2ライセンス契約を締結した。第2ライセンス契約には、以下の条項が定められている。
「11A.
 ライセンシーは、原告の書面による別段の同意がない限り、許諾製品並びにそれに関連するすべての包装及び広告・広報資料のすべての単位には、本件契約の第1別表中に明記されたクレジット並びに著作権及び商標の表示又はシンボル、及び原告の書面による事前の承認を得て、ライセンシーが本件契約の第1別表中に明記される省略された著作権表示を組み込む、許諾製品中に含まれる極めて小さい品目について原告が随時にライセンシーに通知することがある追加の著作権及び商標表示が付けられることに同意する。
11C.
 ライセンシーは、本件財産(「ピーターラビットのおはなし」等)に関連する商標又は社章若しくはロゴについてのすべての権利が、本件契約中に明確に付与されるもの以外のそれらについての営業権を含み、原告のために保留されることを認める。ライセンシーは、本件財産中の商標又は営業権についての、種類の如何を問わず、いかなる追加の権利もライセンシーによるそれらの使用の結果として取得しないものとし、またライセンシーによる商標のすべての使用は、原告の利益のために効力を生じるものとする。
11D.
ライセンシーは、原告の費用負担で、商標の登録及び/又は当該商標の使用者若しくはそれに相当する者としての登録、又は本件財産に関連する意匠、実用新案もしくはその他の工業所有権の登録についての出願に際して、原告と協力することに同意し、かつ原告が必要又は望ましいとみなすことができるすべての出願のために要求されることがある、すべての行為を実行しまたは文書に署名するものとする。
11E.
ライセンシーは、ライセンシーが知るところとなる当該著作権及び商標権の侵害又は許諾製品の模造について直ちに原告に通知するものとし、かつ原告は、それらに関連して訴訟を提起するか否かを決定する権利を有するものとする。
11F.
ライセンシーは、本契約期間中およびその後においてもPropertyの全部又は一部についての著作権・商標権その他の権利につき自ら争い又は否認しあるいは第三者が争いまたは否認するのを援助しないことを確約し、更に著作権・商標権・その他の権利について、自己の権利を主張しないものとする。」  
カ(ア) 原告は、本件商標権(2)ないし(10)に係る商標登録の出願をしたのと同日の昭和51年4月30日に、商品区分旧第24類、指定商品おもちゃ等で、「ピーターラビット」と「PETERRABBIT」を二段書きにした商標の登録を出願し、登録を得ていたところ、自社でピーターラビットのぬいぐるみを製造しなくなったことから、平成3年(1991年)9月30日、原告に対し、同商標権を譲渡し、原告に対して移転登録手続をした。その際、原告は被告に対し、400万円を支払った。
(イ) 原告は、平成8年(1996年)12月24日、福音館から、同社が昭和59年8月8月に出願し登録を得ていた「ピーターラビット」の商標権(商標登録番号1905658)を200万円で譲り受けた。
(ウ) 昭和56年(1981年)、キューピー株式会社と原告はライセンス契約を締結した。
   キューピー株式会社は、昭和57年2月3日、昭和59年5月11日、平成3年11月9日にそれぞれピーターラビットに関する商標登録の出願をし、登録された。
  原告とキューピー株式会社は、上記登録された商標権について、上記ライセンス契約が終了した時点で、原告に返還する旨合意した。そして、平成11年(1999年)11月10日、上記ライセンス契約が終了した時点で、上記各商標権は、キューピー株式会社から原告に移転登録手続がされた。その際、原告は、キューピー株式会社に対し、登録出願、登録、更新出願、更新登録に要した費用及び雑費に相当する金員を支払った。
キ 原告との間でライセンス契約を締結していない第三者が原告の承諾を得ることなく原告表示を使用した商品を製造販売する事件が発生した際には、原告は、これらの第三者に対して、不正競争防止法違反及び著作権法違反を理由としてその使用等を止めるよう警告などを行っていた。
ク 原告商品化事業において、原告表示(1)(3)(4)は、ポターが著作したピーターラビットの図柄とともに使用されてきた(前記1(1)エは、その事例である。)。
ケ 原告と被告間のライセンス契約において、本件商標権の指定商品に関するライセンスとそれ以外の商品に関するライセンスとでは、ロイヤルティ料率が同一であった。
(2) 本件商標権に基づく適用除外について
ア 以上認定した事実によると、被告による本件商標権(2)ないし(10)についての商 標登録の出願は、第1ライセンス契約が締結されるより前にされているが、出願時には、すでに第1ライセンス契約の締結交渉がされており、出願の約5か月後には第1ライセンス契約が締結されていること、第1ライセンス契約では、被告は、ライセンス許諾物品について、商標登録し、商標を表示する義務を負担していると解されること、第1ライセンス契約では、被告は、財産(「ピーターラビットのおはなし」等に出てくるポターのイラストレーション)に関連するすべての権利が、契約によって被告に許諾されたものを除いて、原告に留保されることを認めていること、本件商標権(2)ないし(10)に係る商標は、「ピーターラビット」と「PETERRABBIT」を二段書きにしたもの又はピーターラビットのイラストレーションであり、そのうち、ピーターラビットのイラストレーションについては、原告が著作権を有していること、第1ライセンス契約も含まれる原告商品化事業において、原告表示(1)(3)(4)は、ポターが著作したピーターラビットの図柄とともに使用されてきたこと、本件合意において、原告と被告は、本件商標権が原告の承諾を得て被告名義で登録された旨の合意をしていること、以上の事実が認められる。これらの事実に上記(1)で認定したその余の事実を総合すると、本件商標権(2)ないし(10)は、被告が、原告との間で第1ライセンス契約を締結するに当たり、原告の承諾の下に、出願して登録を得たものと認められ、被告が、原告との間のライセンス契約とは関係なく、独自に取得したものとは認められない。
 なお、被告は、原告には、我が国においては、商標権の取得について関心がなかった旨主張する。しかるところ、上記(1)ア認定の第1ライセンス契約では、被告が商標権を取得する旨定められ、「原告も福音館も、上記登録が交付されるかどうかについて保証せず、また、当該登録の拒絶はいかなる方法でも本契約に基づくライセンシーの義務に影響を及ぼさない。」とされている。また、原告が、本件商標権(2)ないし(10)の登録維持について費用を支出したことを認める証拠はない。しかし、他方、上記認定のとおり、第1ライセンス契約では、原告は、被告に対して、商標登録の出願、商標表示の義務を課していると解されるのであり、上記「」内の条項も、商標が登録されるかどうかが契約締結の時点では不確定であることからそれがライセンス契約の効力に影響を及ぼさないことを注意的に規定したに過ぎないものと認められる。また、原告が商標権の登録維持に費用を支出していないとしても、被告に対して、商標登録の出願、商標表示の義務を課している以上、原告が、被告の費用で登録維持されるべきものと考えて費用を支出しなかったとしても不自然ではない。さらに、被告による商標権(1)の取得については、後記エのとおりであると認められる。したがって、原告は、我が国においては、商標権の取得について関心がなかったとは認められず、上記認定のとおり、本件商標権(2)ないし(10)は、被告が、原告との間のライセンス契約とは関係なく、独自に取得したものとは認められない。
イ また、前記1(1)認定の事実に上記(1)で認定した事実を総合すると、本件商標権(2)ないし(10)に係る商標登録の出願がされた当時、原告は、日本では原告商品化事業を始めたばかりであったが、外国においては、すでに多くのライセンシーとの間で契約を締結して、多くの商品について原告商品化事業を行っていたのであり、ピーターラビットそれ自体が絵本によって広く知られていたことと相まって、原告による原告商品化事業は、外国(特に英国)においては、広く知られていたものと認められる。そして、この事実に、被告が原告とライセンス契約を締結したライセンシーであったことを考え併せると、被告が、原告の承諾を得ることなく、本件商標権(2)ないし(10)に係る商標登録の出願をした場合には、商標法4条1項7号に該当する可能性が高いというべきである。
なお、被告は、本件商標権(2)ないし(10)に係る商標登録の出願がされた当時、我が国において、「ピーターラビット」や「PETERRABBIT」が知られていなかった旨主張するが、そうであるとしても、上記認定のとおり原告商品化事業が外国で広く知られていたこと等からすると、被告の上記主張は上記認定を左右するものではない。
ウ 以上述べたところからすると、被告が、本件商標権(2)ないし(10)を有しているとしても、それは、原告とライセンス契約を締結し、その承諾を得たことによるものであって、そうでなければ、これらの商標権を有することができなかった可能性が高いのであるから、第1ライセンス契約終了後に、原告からの不正競争防止法に基づく請求に対して、これらの商標権を有していることを抗弁として主張することは許されなかったというべきである。
エ 上記(1)で認定したとおり、本件商標権(1)は、昭和47年4月11日に伊藤万株式会社によって出願され、昭和50年に登録されたものであるが、これらの出願、登録は、原告の承諾を得ることなく行われたこと、被告は、本件商標権(1)を伊藤万株式会社から1010万円で譲り受け、昭和61年(1986年)1月27日移転登録がされたこと、以上のとおり認められる。本件商標権(1)は、本件商標権(2)ないし(6)の各商標と同じく、「ピーターラビット」と「PETERRABBIT」を二段書きにしたものであること、第1ライセンス契約では、被告は、ライセンス許諾物品について、商標登録し、商標を表示する義務を負担していると解されること、本件合意において、原告と被告は、本件商標権が原告の承諾を得て被告名義で登録された旨の合意をしているが、そこで本件商標権(1)は除外されていないこと、その他上記(1)で認定した事実を総合すると、本件商標権(1)についても、本件商標権(2)ないし(10)と同様に、被告は、原告との間で締結した第1ライセンス契約に関連して、原告の少なくとも事後的な承諾の下に、移転を受けたものと認められ、被告が、原告との間のライセンス契約とは関係なく、独自に取得したものとは認められない。また、上記認定のとおり、原告による原告商品化事業は、外国(特に英国)において、広く知られていたものであることからすると、本件商標権(1)についても、原告の承諾がない場合には、商標法4条1項7号に該当する可能性が高いということができる。
そうすると、被告が、本件商標権(1)を有しているとしても、それは、原告とライセンス契約を締結し、その承諾を得たことによるものであって、そうでなければ、この商標権を有することができなかった可能性が高いのであるから、原告は、本件商標権(2)ないし(10)と同様に、本件商標権(1)についても、第1ライセンス契約終了後に、原告からの不正競争防止法に基づく請求に対して、この商標権を有していることを抗弁として主張することは許されなかったというべきである。
オ 上記(1)で認定したとおり、原告と被告は、その後第2ライセンス契約及び本件合意を締結したのであるが、上記(1)で認定した事実からすると、第2ライセンス契約の下においても、被告が本件商標権(1)ないし(10)を有しているのは、原告とライセンス契約を締結し、その承諾を得たことによるものであって、そうでなければ、この商標権を有することができなかった可能性が高いものと認められる。
上記(1)で認定した事実によると、本件合意には、被告が本件商標権を有すること、本件商標権は、第2ライセンス契約の対象ではないこと、被告が、その意思により、ライセンス商品の製造を行わないことを決めた場合、被告は相互に合意する合理的な条項及び条件に従って本件商標権を原告に移転することが定められている。本件合意の趣旨については、本件合意の文言や本件合意に至る経緯に、上記アないしエで認定した被告が本件商標権を有するに至った経緯等を総合して、判断すべきであるが、後記3(1)認定の本件合意に至る経緯には、特に以下の認定を左右するような事情があるとは認められない。
 本件合意のうち、被告が本件商標権を有する旨の定めは、被告が本件商標登録を出願して、登録され、本件商標権を有していることを定めていると認められるが、上記アないしエで認定した被告が本件商標権を有するに至った経緯からすると、被告が、原告とは関係ない独立した立場で本件商標権を有していることまで定めているとは認められない。次に、本件商標権は、第2ライセンス契約の対象ではない旨の定めは、被告が本件商標権を有しているので、他の著作権などの権利のように、ライセンス契約において、その権利自体をライセンスの対象としているものではないことを定めていることが認められるが、上記アないしエで認定した被告が本件商標権を有するに至った経緯からすると、被告が、ライセンス契約とは無関係に、独立した立場で本件商標権を有していることまで定めているとは認められない。被告が、その意思により、ライセンス商品の製造を行わないことを決めた場合、被告は相互に合意する合理的な条項及び条件に従って本件商標権を原告に移転する旨の定めは、被告が、一定の場合に、本件商標権を原告に移転することを定めたことが認められるが、上記アないしエで認定した被告が本件商標権を有するに至った経緯からすると、被告が、その意思により、ライセンス商品の製造を行わないことを決めた場合以外には、ライセンス契約が終了しても、原告に対して権利を主張することができることまで定めたとは認められない(「被告が、その意思により、ライセンス商品の製造を行わないことを決めた場合」がどのような意味を有するかについては、後記認定のとおりであるが、以上述べたところは、上記文言の解釈いかんにかかわらないというべきである。)。
 そうすると、第2ライセンス契約及び本件合意が締結された後においても、第2ライセンス契約終了後に、被告が、原告からの不正競争防止法に基づく請求に対して、本件商標権を有していることを抗弁として主張することは許されないものというべきである。
(3) 先使用による適用除外について
ア 前記のとおり、被告は、原告及び原告グループを表示するものとして需要者の 間で広く認識されていた原告表示と同一又は類似の被告表示(1)ないし(3)を使用しているところ、第2ライセンス契約は既に終了し、その後現在に至るまで原告と被告との間で契約関係は存在しない。また、証拠及び弁論の全趣旨によると、被告は、第2ライセンス契約終了後は、ポターが著作したピーターラビットの図柄は使用しておらず、被告表示(1)ないし(3)のみを使用した商品を、他社が原告の許諾を得て製造したポターが著作したピーターラビットの図柄が付された商品とともに展示して、販売していたものと認められるが、このような販売方法は、原告グループの商品と被告の商品との出所が同じであるかのような誤解を消費者に与えるものであることは明らかである。これらのことからすると、被告は、被告表示(1)ないし(3)を不正の目的なく使用しているとは認められない。
イ また、被告表示(4)については、これを従前被告が使用していたことを認めるに足りる証拠はない。
ウ したがって、被告の先使用による適用除外の主張は、理由がない。
(4) 時効取得について
 被告が主張するように本件商標権(1)(2)を時効によって取得したとしても、既に認定した事実からすると、被告が本件商標権を有するような外形(商標登録、行使等)が生じたのは、原告とライセンス契約を締結し、その承諾を得ていたからであると認められる。そうすると、被告が本件商標権(1)(2)を時効によって取得したとしても、ライセンス契約終了後に、原告からの不正競争防止法に基づく請求に対して、本件商標権を有していることを抗弁として主張することは許されないものというべきである。
(5) 小括
 以上によると、原告は、被告に対して、不正競争防止法3条1項に基づく差止請求権及び同条2項に基づく廃棄請求権を有すると認められる。また、既に述べた事実からすると、被告は、不正競争行為について少なくとも過失があるものと認められるから、原告は、被告に対して、不正競争防止法4条に基づく損害賠償請求権を有すると認められる。
3 争点(3)について
(1) 証拠及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
ア(ア) 第1ライセンス契約の有効期間満了日である昭和62年(1987年)9月30日 が間近に迫ってきたことから、原告と被告は、更なる契約更新に関する交渉を開始した。
 被告は、契約更新に際して、本件商標権の取扱いを書面で明確にしておくことを考え、昭和61年(1986年)9月20日、原告に対し、商標権の取扱いに関するレター・オブ・アグリーメントのドラフト案(以下「被告第1ドラフト案」という。)を送付した。
  また、昭和62年(1987年)4月13日、被告は、原告に対し、被告第1ドラフト案を多少変更したドラフト案(以下「被告第2ドラフト案」という。)を提示したが、その内容は、本件合意と同一のものであった。
(イ) これに対し、原告は、昭和62年6月4日、被告に対し、商標権の取扱いに関するレター・オブ・アグリーメントについての原告の提案を送付した(以下「原告ドラフト案」という。)。
原告ドラフト案によると、商標権を移転する場合として、@ライセンス契約の期間が満了した場合、Aライセンス契約が解約された場合、B原告が保有する著作権の保護期間が期間満了により消滅した場合のいずれか最初に起こった時点であること、譲渡内容に関しては、原告と被告の間で相互に合意する合理的な条項及び条件に従って行うものとされていた。
(ウ) 昭和62年6月29日、被告は、原告に対し、原告ドラフト案を拒否すると共に、被告第2ドラフト案に署名するように求めた。
(エ) 昭和62年7月14日、当時原告の役員であったA(以下「A」という。)は、被告に対し、書簡を送った。その中で、Aは、@被告第2ドラフト案には署名できないこと、A被告が原告ドラフト案に署名することを躊躇することは理解できること、B原告は、第三者が日本において被告の権利を使用することを防ぐため、被告が原告の承諾を得て被告の名義で登録した日本における商標について、被告が所有者であることを確認すること、本件商標が著作権ライセンス契約の対象ではないことを確認することを述べた。
(オ) 昭和62年7月30日付けで、被告は原告に対し、被告第2ドラフト案を修正したドラフト案を提示した。同被告ドラフト案では、被告から原告に対する商標権の譲渡に関する条項がすべてなくなっていた。
  翌31日、被告の担当者であったB(以下「B」という。)は、福音館の担当者であるC(以下「C」という。)に対し、書簡を送付した。その中で、Bは、Cに対し、前日付けのドラフト案でサインをもらうことの仲介を依頼すると共に、被告としては、新しいライセンス契約と商標権の取扱いを関連づけたいこと、Aが気に入らない「In the event that Familiar decides、 of it's own will、 ・・・」の三行を削除し、上記(エ)のAからの手紙と同じことを三者同意として新しいライセンス契約に添付したいという被告の心情をAに伝えてもらいたいこと、被告は、新しいライセンス契約が一方的に原告の意思で解約された場合の商標権の取扱いを心配している旨述べた。
(カ) 原告は、Cに対し、昭和62年9月23日付けの書簡において、同年4月13日付けの被告第2ドラフト案に署名する用意がある旨を伝えた。
(キ) 昭和62年9月30日、原告と被告との間で被告第2ドラフト案の内容と同一の本件合意が成立した。
イ(ア) 第2ライセンス契約の更新時期(平成11年9月30日)が近づいてきたことから、原告と被告は、新たな契約更新に向けた交渉を開始した。
(イ) 原告と被告は、第2ライセンス契約の終了時期を延長して交渉を継続したが、合意するに至らず、原告は被告に対し、第2ライセンス契約を更新しない旨通知し、平成11年10月19日、第2ライセンス契約は終了した。
(2) 以上認定した事実からすると、本件合意は、ライセンス契約の更新に当たって本件商標権の取扱いを明確にするために被告の提案によって作成されたものであること、本件合意中の「In the event that Familiar decides、 of it's own will、」の部分について、原告は当初はこの部分を挿入することを拒み、上記(1)ア(エ)認定のような条項を提案していたこと、しかし、原告は、最終的には、契約の更新を優先させて、被告の提案したドラフト案を了承し、合意に至ったこと、以上の事実が認められ、これらの事実に「In the event that Familiar decides、 of it's own will、」という文言を総合すると、本件合意は、被告が、自らの意思に基づいて自発的にライセンス製品の製造を中止した場合には、本件商標権を原告に移転するという意味のものであると解するのが相当である。
(3) 上記認定した事実からすると、原告と被告は第2ライセンス契約の更新に向けて交渉を継続していたが、合意に至らず、原告は被告に対して第2ライセンス契約を更新しない旨通知し、同契約は、平成11年10月19日終了したことが認められる。この事実からすると、被告は、第2ライセンス契約の更新を望んで原告と交渉していたが、交渉が合意に至らず、同契約は期間満了により終了し、その結果、ライセンス製品を製造できなくなったものと認められるから、被告が、自らの意思に基づいて自発的にライセンス製品の製造を中止した場合に当たるとは認められない。
この点、原告は、第2ライセンス契約の改定交渉に当たり、原告は、合理的かつ建設的な提案を行い、被告の提案に対しても大幅な譲歩を繰り返したが、被告は、自らの意思に基づき第2ライセンス契約の改定に応じず、その結果、原告からのライセンスに基づく商品の製造を中止するに至ったと主張するが、本件全証拠によるも、同交渉に当たり、被告のみが自らの主張に固執して交渉の成立を妨げたというような事情は認められないのであって、双方の主張が一致しないために交渉が合意に至らなかったに過ぎないものということができるから、上記のとおり、被告が、自らの意思に基づいて自発的にライセンス製品の製造を中止した場合に当たるとは認められない。
また、原告は、そもそも期間の定めのあるライセンス契約を締結したこと自体、被告の意思に基づくものであり、ライセンス契約の期間満了とともにライセンスビジネスを中止することは、被告の意思に基づくものであると主張するが、本件合意が原告が主張するような趣旨のものであれば、ライセンス契約の期間満了によって本件商標権を移転する旨の合意をすれば十分であって、上記認定のような経過を経て本件合意のような約定をする必要がなかったことは明らかであるから、原告の主張は採用できない。
さらに、原告は、被告は、ポターが著作したピーターラビットの図柄を付した製品の製造を、自己の意思により中止しているから、自らの意思に基づきライセンス商品の製造を中止したといえると主張するが、ライセンス契約が終了した以上、ライセンス商品の製造を中止するのは当然のことであって、本件合意が原告が主張するような趣旨のものであれば、ライセンス契約の終了によって本件商標権を移転する旨の合意をすれば十分であって、上記認定のような経過を経て本件合意のような約定をする必要がなかったことは明らかであるから、原告の主張は採用できない。
(4) よって、原告の被告に対する本件商標権移転登録手続請求は、理由がない。
4 争点(4)等について
(1)ア 証拠(乙71)には、ライセンス契約に基づき被告が原告に対して支払っていたロイヤルティの金額は、平成9年度において1億4998万4544円、平成10年度において1億4626万8878円、平成11年度において1億3938万6516円であること、被告におけるピーターラビット商品の出荷高総額は、平成9年において37億4961万3600円、平成10年において36億5672万1950円、平成11年において34億8466万2900円、平成12年において1億8646万8800万円、平成13年において7794万4700円であること、平成12年1月以降、ピーターラビット商品の出荷高金額は、平成11年に比して、平成12年が5.4%、平成13年が2.2%であること、以上の記載があることが認められる。
 イ 以上の記載について、原告は、その元となる資料が提出されておらず、客観的な裏付けがないこと、被告の平成12年におけるピーターラビット商品の販売態様は、ライセンス契約存続中と変わらないにもかかわらず、被告の平成12年におけるピーターラビット商品の売上げが極端に減少しており、不自然であることから、信用できない旨主張する。
しかし、前記2(3)ア認定の事実及び弁論の全趣旨を総合すると、被告は、第2ライセンス契約終了前には、ポターが著作したピーターラビットの図柄が付された商品を製造販売していたが、第2ライセンス契約終了後は、自社の製造商品にはポターが著作したピーターラビットの図柄は使用しておらず、被告表示(1)ないし(3)のみを使用した商品を製造販売していたものと認められるところ、ポターが著作したピーターラビットの図柄は、顧客吸引力が大きいものと考えられるから、被告のピーターラビット商品の製造販売の態様は、ライセンス契約終了前と後では大きく異なっているものと認められる。また、証拠(甲24、25の各1、2)によると、原告は、平成12年2月から、被告に対して、「Peter Rabbit」のブランド名で子供服の製造販売を行うことは不正競争行為に当たる旨の警告を行っていたことが認められる。これらのことからすると、平成12年においては、平成11年に比して、ピーターラビット商品の売上げが大幅に減少しても不自然ではないのであるから、上記アの記載は、直ちに信用できないものではない。そして、上記アの記載が真実に反する旨の他の証拠はないから、平成12年1月20日以降の被告によるピーターラビット商品の売上高が、上記ア記載の金額を上回るとは認められない。
 ウ 上記ア認定のロイヤルティ金額の出荷高総額に対する比率は4パーセントであるので、原告と被告とのライセンス契約におけるライセンス料率は4パーセントであったと認められるから、ライセンス料率については、4パーセントを採用する。
エ 以上によると、原告の平成12年1月20日から同年7月27日までの間における損害額(ライセンス料相当損害金)は、372万9376円と認めるのが相当である。         
 1億8646万8800円(平成12年の総売上額)×0.04(ライセンス料率)×6/12
(6か月分)=372万9376円
(2) 前記第2争いのない事実等の1(2)イのとおり、本件仮処分命令まで、被告は、被告表示(1)ないし(3)を付した商品を製造販売していたものである。また、本件における被告の主張に照らすと、被告は、本件商標権(1)ないし(6)の登録商標に含まれている本件表示(4)を付した商品についても製造販売するおそれがあるものと認められる。したがって、原告が被告に対し、上記各商品の製造、譲渡等の差止めを求めると共に、その廃棄を求める請求は理由がある。
5 争点(5)について
(1) 乙事件の訴えの適法性等について
ア 乙事件の被告の請求は、本件衣類を販売及び販売のために展示することが不正競争行為に当たらないとして、原告に対して、原告が不正競争防止法に基づく差止請求権及び損害賠償請求権を有しないことを確認を求める請求であるところ、証拠及び弁論の全趣旨によると、被告は、本件衣類を製造販売することを具体的に予定しており、試作品も作っていること、 原告は、本件衣類を販売及び販売のために展示することは不正競争行為に当たると主張していること、以上の事実が認められる。また、本件衣類に付されている「Peter Rabbit」の表記は、字体が被告表示と異なる上、「familiar」の表示が一体として付されているなどしているから、被告表示と同一ではない。そうすると、本件衣類の販売及び販売のための展示について原告が被告に対して不正競争防止法に基づく差止請求権及び損害賠償請求権を有しないことの確認を求める乙事件の訴えは、甲事件とは二重起訴に当たらないのはもとより、原告と被告との紛争を抜本的に解決するために必要なものとして確認の利益を認めることができる。
イ また、原告は、乙事件提起に至るこれまでの経過からすると、乙事件における被告の訴えは、甲事件が不利に展開していることを認識した被告が、甲事件を長引かせるために提起したものであって、訴権の濫用というべきものであると主張するが、乙事件は、被告が甲事件を長引かせるために提起したものであるとは認められず、訴権の濫用であるとは認められない。
ウ なお、被告は、第3回口頭弁論期日で陳述された準備書面によって、乙事件の物件目録を変更したが、これについて、原告は訴え変更不許の申立てを行っている。この物件目録の変更は、物件目録として襟の織りネームの態様が多少異なるものを追加したにすぎないから、従前の請求と訴訟物が異なるということはできない。したがって、訴えの変更には当たらない。また、原告の上記主張を時機に後れた攻撃方法の却下の主張と解しても、上記物件目録の変更は、上記のようなもので訴訟の完結を遅延させるものではないから、却下されるべきものではない。
(2) 被告による本件衣類の販売等が、不正競争行為に該当するかどうかについて
ア 証拠(検乙2、4)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
(ア) 別紙物件目録1記載の子供服には、襟部分に「Peter Rabbit<R>/M/familiar」の織りネーム(黄色地に茶色文字)が縫いつけられ、吊り札に「familiar/ONE SMILE FITS ALL」(青色部分に白色の文字)及び「familiar」(白色部分に青色の文字)のタグが付されている。
(イ) 別紙物件目録2記載の子供服には、襟部分に「Peter Rabbit/familiar」の織りネーム(白地に青色文字)が縫いつけられ、吊り札に「familiar/ONE SMILE FITS ALL」(青色部分に白色の文字)及び「familiar」(白色部分に青色の文字)のタグが付されている。
イ 以上認定した事実からすると、本件衣類に縫い付けられた織りネームには、原告表示(1)(3)とは、字体が異なり、大文字小文字の違いがあるものの、「Peter Rabbit」と表記されているものと認められる。
 前記1において認定判断したとおり、原告表示(1)(3)は、原告及び原告グループの商品表示として広く知られており、また、本件衣類に縫い付けられた織りネームに付された「Peter Rabbit」の表記は、原告表示(1)(3)と類似しているものと認められ、その類似性は高いものというべきである。
 上記認定のとおり、原告表示が広く知られていること、本件衣類に付されている表示と原告表示は高い類似性を有すること及び前記2認定のとおり被告は原告からライセンスを受けて営業を行ってきた者であることからすると、被告が本件衣類を販売し販売のために展示する行為は、被告が原告グループの一員として行っているとの誤信を生じさせるおそれがあるものと認められる。
被告は、本件衣類は、我が国において衣類では著名な表示である「familiar」の欧文字が明瞭に表示されており、著名な被告の店舗でのみ販売される上、「familiar」の欧文字が表示されたハンガーに吊るされ、「familiar」の欧文字が表示された紙袋に入れて販売されるから、具体的取引の実情下において原告の商品と誤認混同されるおそれはないと主張するが、上記認定の各事情からすると、本件衣類に付されている「familiar」の欧文字が著名な表示であり、著名な被告の店舗でのみ上記被告主張のような態様で販売されるとしても、上記誤信を生じることは明らかであって、被告の主張は採用できない。
ウ 前記2で述べたとおり、被告が本件商標権(1)の登録商標権者であることは、原告からの不正競争防止法に基づく請求に対して、抗弁として主張することは許されない。
エ 以上のとおり、被告が本件衣類を販売し販売のために展示する行為は、不正競争防止法2条1項1号に該当するものと認められるから、乙事件の被告の請求は、いずれも理由がない。
6 結論
 以上の次第で、原告の請求は主文掲記の範囲で理由があり、被告の請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。

〔研  究〕
1. この事件は、不正競争防止法2条1項1号・2号をめぐる事案であったが、原告は著名な漫画キャラクター「ピーターラビット」を主人公にした絵本の出版を1902年にした会社で、同時に「ピーターラビット」の商品化事業を行っていて、莫大なロイヤリティ収入を得ている。このキャラクターを主人公とした絵本の題名は「ピーターラビットのおはなし(The Tale of Peter Rabbit)」で、著作者はビァトリクス・ポター(Beatrix Potter)である。
 裕福な上流階級の子女として学校へは通わず、家庭教師の手によって教育を受けるなど、孤独な少女時代を過ごしたポターは、27歳の1983年9月、かつて家庭教師であったアニー・ムーア(Annie Moore)夫人の息子ノエル(Noel)の病気見舞いにさし絵つきの手紙を書いた。これが『ピーターラビットのおはなし』(The Tale of Peter Rabbit)の原型となった。その後8年の間にクリスマス・カードに動物のさし絵を描いて収入を得るなど、徐々に絵と物語の才能に芽生えていったポターは、1901年私家版で『ピーターラビットのおはなし』を250部出版する。これが注目を集めるところとなり、翌年にフレデリック・ウォーン(Frederick Warne)社からほぼ今日のものに近い絵本が出版された。(定松正・本多英明「英米児童文学辞典」286頁(研究社/2001)からの説明)
 原告は、日本において昭和46年(1971)に福音館(出版社)を通じて絵本の販売を開始したが、昭和51年(1976)からは福音館を日本における原告商品事業のエージェントとして商品化事業を開始し、被告とライセンス契約を締結した。
 原告と被告との間には、昭和51年9月23日に締結した「第1ライセンス契約」と、昭和62年(1987)9月30日に締結した第2ライセンス契約とがあったが、第2ライセンス契約は平成11年(1999)10月19日をもって終了した。また、原告,被告,福音館とは、昭和62年9月30日及び同年4月13日付の「合意書」を締結した。
 ところが、被告は、キャラクターの「ピーターラビット/PETER RABBIT」の名前と絵とについて、多数の商標登録を特許庁にしている商標権者であった。そして、原告が被告に対して請求した【甲事件】は、第1に、原告が被告の行為は不競法2条1項1号・2号に該当する不正競争行為であると主張して、同法3条及び4条に基く差止請求と損害賠償請求をし、第2に、本件合意に基いて本件商標権(1)ないし(6)の移転登録手続を求めた事案である。
 また、被告が原告に対して請求した【乙事件】は、被告の当該商品の販売及び販売のための展示は不正競争行為に該当しないから、原告には同法に基く各請求権は存在しないことの確認を求めた事案である。

2. ところで、著作権者のポターは1866〜1943年の間生存したから、わが国における著作権の保護期間は、死後50年間に連合国民の著作権の特例法による戦後加算期間を加えると、ちょうど今年(2003年)中に消滅するようである。しかし、本件では、彼女の著作権は顔を出すことはなかったようで、かえって出版社が著作権者であるような記述があり、筆者には著作権問題は不明のままである。原告が保護を求めたのは不正競争防止法であり、契約期間満了後の被告によるキャラクターの名前と絵の使用は、同法2条1項1号及び2号に該当するか否かが争点となった。
 原告と被告との間の契約は、原告の有する著作権に係るキャラクターの絵と名前の使用に関するものと思われるが、この契約に基いて被告は、そのキャラクターの絵と名前についての商標登録をわが国特許庁においてしていたのである。しかし、被告が有していた10個の商標権は原告に対しては有効に機能することはなかった。ライセンス契約においては、第三者によるキャラクターの模倣行為があった場合、原告側において対処解決する旨の条項があったはずである。とすれば、このような事件が起った場合の原告が保護を主張できる権利は著作権であっただろう。
 判決の事実関係を記述した冒頭に、原告は1903年にピーターラビットの人形について英国特許を取得したとあるが、これは人形のデザインについての特許庁へのデザイン登録を意味するものと思われる。即ち、当時は、1883年に制定された工業デザインの著作権を発明特許権と一緒にした改正法が施行されていたから、人形のデザインについても特許庁で登録されたのである。1907年特許・デザイン法や1911年著作権法が施行されたのは、その後であった。

3. 原告は多くの商品についてのライセンス契約を締結したが、ライセンシーに対しては、統一された表示を用いるほか、商品イメージを統一するための管理をしているから、ライセンシーで構成されるグループ(原告グループ)の存在を判決は認定した。そして、原告表示が周知でありかつ被告は原告からライセンスを得て営業してきたことから、被告表示(1)〜(4)の使用は、被告が原告グループの一員であると「誤信」させるおそれがあると認定した。この事実は、被告商品(衣類)に“familiar”の欧文字が表示され、被告店舗でしか販売されていないとしても、需要者は前記誤信を生ずることは明らかであると認定し、争点(1)について、被告の行為は不競法2条1項1号の要件を全部満たすものと判断した。

4. 判決は、争点(2)について、原告被告間の契約と合意の内容を精査した。その結果、第1に、被告名義の本件商標権(2)〜(10)はもともと契約時に原告の承諾のもとで出願し登録していたが、その後、これらの商標権は被告から原告に譲渡された。本件商標権(1)は、他社が原告に無断で登録したものであるが、その後、この商標権は被告に譲渡された。
 すると、被告が、原告の不競法に基く請求に対し、商標権を有していることを抗弁として主張することは許されないと判示したことは妥当である。また、判決が、本件商標権(1)についても、原告の承諾がないのに登録したことは、商標法4条1項7号(公序良俗違反)に該当する可能性が高いと判示したことも妥当である。
 被告の有していた10件の商標権のうち、(7)〜(10)はピーターラビットのイラストであり、そのイラストについては原告が著作権者である旨、判決は認定しているが、その著作者ポターから著作(財産)権を確かに譲渡されたのか否かについて、判決は何も述べていない。もし著作権が個人から法人に移転したとしても、わが国において前記した保護期間が変更されることはないだろう(著51(2)、53(1))。

5. 当所で、本件商標権(1)〜(10)についての現況を、3件だけ抽出して特許庁における登録原簿で直接調査してみたところ、次の事実が判明した。

 @ 本件商標権(1):登録第1152746号(文字)
    昭和50年9月11日登録  伊藤萬(株)
    昭和60年11月14日登録 更新登録(1回目)
    昭和61年1月27日登録  (株)ファミリア
    平成8年2月28日登録   更新登録(2回目)
    平成12年5月30日登録  フレデリック・ウォーン社(債権者)のために一切の処分の禁止の仮処分

 A 本件商標権(3):登録第1406656号(文字)
    昭和55年2月29日登録  (株)ファミリア
 平成12年5月30日登録  フレデリック・ウォーン社(債権者)のために一切の処分の禁止の仮処分

 B 本件商標権(10):登録第1456051号(図形)
    昭和56年2月27日登録  (株)ファミリア
    平成13年10月31日登録 存続期間満了(抹消)   

6. 被告は、原告が主張した不競法2条1項1号・2号に基く不正競争行為の適用に対して、「不正の目的」のない先使用をしていたことを理由に、同法11条1項3号・4号に該当することにより適用除外となると主張したが、判決はそれを認めなかった。
 けだし、被告表示(1)〜(3)を使用した商品の販売方法は、原告グループの商品と被告の商品との出所が同じであるかのような誤解を消費者に与えることは明らかであるから、被告表示を「不正の目的」なく使用していると認めることはできない認定し、適用除外規定の適用を否定したことは妥当である。

7. 被告はまた「時効取得」を主張したが、判決は、被告が本件商標権を有するような外形(商標登録,行使等)が生じたのは、原告とライセンス契約を締結し、その承諾を得ていたからと認定し、ライセンス契約終了後に、原告からの不競法に基く請求に対し、本件商標権を有していたことを抗弁として主張することは許されないと判示したことは妥当である。

8. 判決は、争点(3)について、原告と被告は、第2ライセンス契約の更新に向けて交渉していたが、合意できなかったことから、原告は被告に対し更新しない旨を通知し、同契約は期間満了によって平成11年10月19日に終了した。したがって、被告は、その後はライセンス商品の製造を中止したのは当然であるから、ライセンス契約の終了によって本件商標権を移転する旨の合意をすれば十分であると認定した。これによって、被告は、本件商標権(1)〜(10)を原告に移転しなければならないのは当然である。

9. 判決は、争点(4)について、ライセンス料率4%を乙の出荷価額に乗じて損害額を算定したが、被告の場合は、専用の自己店舗でのみ販売をしていたことを考えると、この出荷価額は小売価格(上代)と変わらないことになるだろう。

10. なお、乙事件は、被告が原告に対して請求した不競法に基く原告の請求権の不存在確認の訴であるが、すべてに理由がないとして請求を棄却したが、本訴に対する裁判所の事実認定と判断にしたがえば、当然の結果である。

11. ところで、「ピーターラビットのおはなし」の作者の姓は“Potter”であるが、J.K. Rowlingのベストセラー作品の主人公の“Harry Potter”の姓が同じであることは偶然とは思われない。英国人にとってさほどポピュラーな姓ではないとすれば、ローリング女史は先輩の女流絵本作家ポターの姓を自分の小説の主人公のために頂戴したと考えても不思議ではない。
 “ハリー・ポッター”の日本語版の翻訳者である松岡祐子さんが、出版前に、ある事でわが事務所に相談に来られた時、主人公の名前を「ポッター」と訳すか「ポター」と訳すか迷っていたふしがあったのを思い出す。
 英文学者でもない筆者が勝手に想像していることは楽しいが、このような説の是非をローリング女史に尋ねてみたいものである。

[牛木理一]