C1-18

 

 

「携帯電話機用アンテナ」商品形態・損害賠償請求事件:東京地裁平成10年(ワ)15228号平成13年9月20日判決民46部(認容)

〔キーワード〕 
商品の開発経過、商品形態の模倣、同種商品が通常有する形態、損害額(利益の算定)

 

〔事  実〕

 

 本件は、「携帯電話機用のアンテナ」を製造販売する原告S社が、被告F社の製造販売する携帯電話機用のアンテナは、原告の製造販売に係るアンテナの形態を模倣した商品であると主張して、被告に対し、不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為又は一般不 法行為(選択的併合)を理由として損害賠償を求めた事案である。
 原告は、別紙原告商品形態図記載の携帯電話機用のアンテナ(以下「原告商品」という。)を製造し、販売している。
 被告は、別紙物件目録記載の携帯電話機用のアンテナ(以下「被告商品」という。)を製造し、平成9年11月26日ころから販売して いる。

〔争  点〕

(1) 原告商品の形態は、原告が最初に商品として開発したものか。
(2) 対象となる被告商品の範囲
(3) 被告商品の形態は、原告商品の形態を模倣したものか。
(4) 原告商品の形態は、同種の商品が通常有する形態か。
(5) 原告の損害額

 

〔判  断〕

 

1 争点(1) (原告商品の開発経過)について
(1) 証拠によれば、原告商品の開発経過に関して、次の事実が認められる。
ア) 我が国では、平成7,8年ころから携帯電話が急速に普及するようになり、それとともにカバー,ストラップ等の付属品の需要も拡大した。その当時、付属品の中で、携帯電話機に付属するアンテナは感度が悪く、ユーザーや販売業者の間ではもっと感度のよいアンテナが求められていた。平成8年ころには、平たいアンテナを携帯 電話機に貼り付けた「シールアンテナ」というアンテナも発売されたが、実際にはそれほど感度が上がらず、それほど普及しなかった。
イ) 原告会社では携帯電話機の販売を行っていたことから、原告代表者Sは、感度のよくなるアンテナの開発を検討していたが、平成9年1月ころから、伸縮可能なロッド式アンテナを使用すれば感度を上げることができるが、付属アンテナのように携帯電話機の中に収納することができず携帯に不便であることから、この欠点をいかに解決するかという問題に直面していた。
 その中で、Sはアンテナを2段折れにするという発想に至り、原告商品の基本的な構想ができあがった。
ウ) Sは、上記アンテナの試作品を製作して、実験をし、大丈夫であるとの確信を得たので、従来からの取引先である台湾のハオチャン社に製造を委託することにした。そこで、Sは、平成9年6月ころに、原告商品の仕様を記載した手書きの図面をハオチャン社にファクシミリで送信したところ、その承認図が同年7月8日にハオチャン社からファクシミリで返送された。Sは、この図面をみて、これでサンプルを作ってほしいと連絡したところ、ハオチャン社から同月中旬ころ、承認図に基づいたサンプルが送られてきた。
エ) Sは、上記サンプルにつき、当時市販されていたすべての携帯電話機に装着可能かどうかテストをしたところ、サンプルの取付部分のネジが富士通の製品にだけ合わず、装着できないことが判明した。
 そこで、Sは、直ちに仕様変更の設計をし、ハオチャン社に対してこれに基づく仕様変更を依頼した。それから約1週間後に、仕様を変更した図面とそのサンプルが原告会社に送られてきたため、Sは再度テストをしたところ問題がなかったので、ハオチャン社に対して、正式に製造の発注をした。最初の発注は、3000本(納期は平成9年9月中旬)であったが、Sは、そのうち200本については、で きるだけ早く納品するようにハオチャン社に依頼した。
オ) ハオチャン社は、これを受けて原告商品の製造を本格的に始め、平成9年8月末ころ、最初の製品200本を原告に納品した。そこで 、Sは、同年8月末から9月上旬にかけて、本格的な販売開始に先立ち、その200本を無償サンプルとして、自ら又は卸先のC社を通じ て、取引先、携帯電話機の販売店の担当者に交付して、実際に使用してもらった。その結果、地下の入口や建物の内部など従来の付属アンテナでは感度が悪化したり、圏外の表示が出るような場所でも、原告商品を用いれば感度が維持され、問題なく通話できることが確認された。Sは、この結果に満足したが、感度が上がることの理論的な根拠を確認したいと考え、知り合いの無線機器の専門家であるOに尋ねたところ、原告商品は従来の付属アンテナと比べ長さは同じでも太さが太いので必ず感度は上がるという回答を得た。さらに、Sは、Oのアドバイスを受けてハオチャン社に実験のデータを要求したところ、同年9月12日付けでハオチャン社の技術者作成の グラフが送られてきた。
カ) 前記無償サンプルは配布先において好評を博し、マルイ,ヨドバシカメラ,ビックカメラ,カメラのさくらや,キムラヤ,ノジマなどの大手販売店をはじめ、秋葉原の電気街を中心とするその他の販売店との間で次々に商談がまとまり、同年9月中旬以降、原告商 品の販売先は拡大していった。特に、同年12月上旬ころ、雑誌 「TOKYO1週間」において「超高感度スーパーアンテナ」という名称で原告商品が紹介されたときは、原告会社に問い合わせの電話が入るなど大きな反響がみられた。
 原告会社は、平成9年10月以降もハオチャン社に原告商品を発注 し、納品を受けていたが、同10年1月以降は発注量が増加し、ハオ チャン社だけでは製造が追いつかなくなった。Sは原告商品のOEM契約による供給先であるシーバースに相談したところ、シーバースは知り合いのインターマートから製造元として台湾のインハオ金属工業を紹介された。そこで、原告はインハオ金属工業に原告商品の製造を委託し、インターマート,シーバースを介して、これを購入することとした。当初は、インハオ金属工業がインターマートに輸出し、シーバースがインターマートから購入するという形の取引であったが、途中から、シーバースがインハオ金属工業から直接輸入する形の取引となり、信用状(LC)もシーバースの名義で作成された。そして、シーバースはインハオ金属工業に対して支払った代金をその都度原告に請求していた。
キ) 原告商品が本格的に販売されるようになった平成9年10月中旬 から末ころ、アンテナ製作会社であるK製作所の代表者のKは、以前からお互いに面識のあったSに電話をかけ「あんたのところの商品を見て、ウチでも同じ物を作るよ。ウチでは同じ物を400円で出 すからね。」と一方的に述べた。Sは、その時はKが何のためにわざわざ電話をしてきたのかよくわからなかったが、被告が被告商品の販売を開始したのを知り、Kは原告商品の価格が高いことに対する皮肉からか、自分の方が安く作れるということを知らせてきたものと理解した。
(2) 法2条1項3号の趣旨につき考察するに、他人が資金・労力を投 下して開発・商品化した商品の形態につき、他に選択肢があるにもかかわらず、ことさらこれを模倣して自らの商品として市場に置くことは、先行者の築いた開発成果にいわばただ乗りする行為であって、競争上不公正な行為と評価されるべきものであり、また、このような行為により模倣者が商品形態開発のための費用・労力を要することなく、先行者と市場において競合することを許容するときは、新商品の開発に対する社会的意欲を減殺することとなる。
 このような観点から、模倣者の右のような行為を不正競争として規制することによって、先行者の開発利益を模倣者から保護することとしたのが、同規定の趣旨と解するのが相当である。これによれば、法2条1項3号所定の不正競争行為につき、差止めないし損害賠 償を請求することができる者は、形態模倣の対象とされた商品を、自ら開発・商品化して市場に置いた者に限られるというべきである。
 本件においては、前記認定のとおり、原告代表者のSが原告商品の特徴である2段折れ収納形状であるアンテナを構想し、台湾のハオチャン社とのやり取りを重ねて製品化し、日本で販売を開始したというのである。
 したがって、原告は自ら原告商品を開発し、商品化して市場に置いた者ということができるから、原告商品に関して、法2条1項3号 所定の不正競争行為につき、損害賠償を請求し得るものである。
(3) この点に関して、被告は、台湾のインハオ金属工業は平成5年 ころから原告商品に類似する携帯電話機用のアンテナを販売していた旨主張し、これを立証するためとしてカタログ、図面等を証拠として提出するが、いずれも上記事実を立証するには足らないというべきである。すなわち、カタログには原告商品と同一又は類似する2段折れ収納形状の携帯電話機用のアンテナが掲載されているが、このカタログ自体には発行日の記載がなく(乙5については作成者すら不明である。)、他にこれらが平成9年8月以前に頒布されていたことを証明するに足りる証拠はない。次に、インハオ金属工業作成の図面には、2段折れ形状のアンテナが記載され、かつDATE(日付)の欄には「FEB.2.92」と記載されているが、証拠によれば、このアンテナは6インチブラウン管カラーテレビ用のアンテナであることが認められるから、被告の主張を裏付けるものではない。また、2段折れ形状のアンテナの図面については、DATE(日付)の欄にそれぞれ「JUN.10.97」「97.4/3」と記載されているが、この記載が仮に正しいとしてもその日付(平成9年6月10日,同年4月3日)に図面が作成されたということを意味するにすぎず、この図面に記載されたアンテナを商品として販売した事実があるかは不明である。なお、各号証は、被告代表者及びアンテナメーカーの代表者作成の陳述書などであり、客観的な証拠とはいえない。
 また、被告は、原告が自らインハオ金属工業から原告商品を輸入していないことを指摘して、原告商品の開発経過に関する原告の主張が虚偽であることの一つの根拠とするが、原告がインターマートの仲介でインハオ金属工業から製品を輸入するようになったこと、その際、シーバースの名義でLCの口座を開設したことは、前記(1)カ)認定のとおりであるから、原告との間で直接の取引がない旨のインハオ金属工業作成の証明書とは何ら矛盾することはなく、他に前記認定の事実を覆すに足りる証拠はない。
2 争点(2) (被告商品の範囲)について
(1) 民事訴訟においては、訴訟の対象は専ら原告の申立てにより決せられるものであり(民訴法246条参照)、法2条1項3号所定の不正競争行為を理由とする請求においても、被告の販売する製品のうち、どの範囲の物を模倣品として差止請求ないし損害賠償請求の対象とするかは、原告の選択に任されているところであって、原告による申立ての内容が明瞭でない場合に、訴状・準備書面の記載、口頭弁論期日における原告の陳述等の訴訟行為の内容から、裁判所が原告の合理的意思を解釈して、申立ての対象の範囲を判断することがあるとはいえ、訴訟の対象は、一義的には、原告の訴訟行為により確定されるべきものである。
(2) これを本件についてみると、原告は、訴状陳述の段階では、被告商品の形態につき別紙物件目録のとおりであると特定しつつ、その商品名は「アンテナ君ナイン」であると主張したが、平成11年 2月4日付け訴え変更申立書において、本件で原告が対象とする被告の製造販売等に係る商品とは、「アンテナ君ナイン」という標章が付されているか否かを問わず、別紙物件目録記載の携帯電話機用アンテナと同一の形態を有するアンテナをすべて包含する趣旨であると明確に主張していることが、認められる。
 そうすると、原告としては、別紙物件目録記載のアンテナと同一の形態のアンテナであれば、そのすべての製品について被告がこれを販売する行為について損害賠償を請求したものであって、対象製品を商品名により限定する趣旨でないことは明らかである。また、別紙物件目録をみても、同目録は図面によって被告商品の形状を特定したものであり、説明部分の記載からも商品の色彩による限定を加えたものとは解されない。したがって、原告が本件訴訟において対象とする被告商品には、ゴールド(金色)以外の色のアンテナも 含まれるというべきである。
3 争点(3) (被告商品は原告商品の形態を模倣した商品かどうか)について
(1) 法2条1項3号は、他人が資金・労力を投下して開発・商品化し た商品の形態を模倣して、その成果にただ乗りする行為を不正競争行為と位置付けることにより、先行者の開発利益を模倣者から保護することとした規定である。この趣旨からすれば、同号にいう「模倣」には、当該商品の形態と実質的に同一のもの、すなわち、他人の商品の形態に創作性の乏しい微細な改変を加えただけの、いわゆる隷属的模倣も含まれる。そして、実質的同一性の範囲を判断するに当たっては、当該商品分野において当該商品が既存の商品と比較して商品形態において差別化の認められる特徴を確定することを通じてこれを判断するのが相当というべきである。
(2) これを本件についてみると、前記1(1)で認定したとおり、原 告は、2段折り収納形状の携帯電話機用アンテナである原告商品を他者に先駆けて開発し、市場に置いたものと認められる。すなわち、証拠によれば、原告商品が販売されるまでは携帯電話機の付属アンテナが一般的に用いられていたのであって、この点からすれば、原告商品において、当該商品分野における既存商品と区別される形態的特徴は、2段折れ収納形状にあるものというべきである。
 そこで、原告商品の形態と被告商品のそれを比較すると次のとおりである。すなわち、原告商品の形態は別紙原告商品形態図のとおりであり、被告商品のうち「アンテナ君ナイン」という商品名の商品の形態は、別紙物件目録のとおりである(当事者間に争いがない。)。そして、証拠及び弁論の全趣旨によれば、各商品の形態の具体的な特徴は次のとおりであると認められる。
ア) 原告商品
1. 全体の構成は、携帯電話機に接続する支持部と電波を送受信するアンテナ部とそれらを結合する接続部からなっている。
2. 支持部はネジ部とネジ固定腰部(被告主張の「アンテナ基部」)からなり、ネジ固定腰部は太くなっており黒色に着色されている。
3. 接続部は2つのヒンジからなり、接続部全体で2段に折れ曲がるようになっている。
4. アンテナ部は5つの段に分かれ、伸縮可能になっている。アンテナ部の先端にはアンテナの軸よりも太くなった頭部が付いている。
5. アンテナを最大に伸ばしたときの長さは、約11.2cmである。
6. アンテナ部で最も太い部分の直径は、約5mmである。
7. 全体の色彩は金色である。
イ) 被告商品
1. 全体の構成は、携帯電話機に接続する支持部と電波を送受信するアンテナ部とそれらを結合する接続部からなっている。
2. 支持部はネジ部とネジ固定腰部からなり、ネジ固定腰部は太くなっている。
3. 接続部は2つのヒンジからなり、接続部全体で2段に折れ曲がるようになっている。ヒンジのネジ部材は黒色に着色されている。
4. アンテナ部は6つの段に分かれ、伸縮可能になっている。アンテナ部の先端にはアンテナの軸よりも太くなった頭部が付いている。なお、「アンテナ君ナイン頭なし」の商品は、「アンテナ君ナイン」の頭部を切り落とし、ネジ切りを設けるという加工を施したものである。
5. アンテナを最大に伸ばしたときの長さは、約16.5cmである。
6. アンテナ部で最も太い部分の直径は、約6mmある。
7. 全体の色彩は金色のほか、銀色や黒色その他の色のものもある。
(3) 前記(2)の事実によれば、原告商品と被告商品は、全体の構成 並びに支持部及び接続部の形態を共通にし、特に従来の製品にはなかった2つのヒンジを連結させた2段折れの形状を備える点においても共通する。
 他方で、両者の形態を対比すると、1.原告商品は、アンテナ部が5段式になっているのに対し、被告商品は6段式であること、2.原告商品は、伸長時の全長が約11.2cmであるのに対し、被告商品は約16.5cmであること、3.原告商品は、アンテナの最大直径が約5mmで あるのに対し、被告商品では約6mmであること、4.原告商品では、 全体の色が金色であるのに、被告商品では金色のほか、銀色や黒色など他の色のものもあること、5.その他、ネジ固定腰部及びヒンジのネジ部材の色が異なる、といった相違点があることが認められる。
 上記認定の原告商品と被告商品の全体の形態の共通点、特に2段折れの形状を備える点は、両製品の主要部分にかかわるものである。これに対し、上記認定の相違点のうち、1.から3.までについては、アンテナを長くすれば感度がよくなること、原告は原告商品の発売後すぐにアンテナ部を6段式にした製品の開発に着手し、平成10年1月から販売を開始したことからすれば、わずかな改変であって 容易に着想可能であるといえる。5.の色彩の違いについては、些細なものであり、商品全体の形態からすれば有意な差異とはいえない。さらに、4.の色の違いについては、原告商品と被告商品では全体の形態が共通していることからすると、同一性の判断に影響するとはいえない。
 被告は、「アンテナ君ナイン頭なし」の製品については、原告商品とアンテナの先端部の形状を異にするから実質的に同一ではないと主張するが、この点については商品全体の形態からすれば些細な改変であって、同一性の判断には影響を及ぼさないというべきである。
以上によれば、原告商品の形態と被告商品の形態は酷似しており、実質的に同一であるということができる。
(4) 被告商品は、原告商品の販売開始から約3か月後に販売が開始されたものであること、その間に原告商品は注目を浴び、人気商品として雑誌にも取り上げられるほどであったこと、前記(1)ないし (3)のとおり原告商品と被告商品は酷似していること、原告商品の パッケージの商品説明書と被告商品のパッケージの商品説明書を比べると、表現や言葉遣いを含めてほとんど同じであることからすると、被告商品は原告商品に依拠して作られたものであると認められる。
 被告は、原告商品の形態を知らずに、平成9年8月ころから被告商品の開発に着手していた旨主張するが、前記1(1) 認定の事実経過に照らし、この主張は採用することができない。
(5) 以上によれば、被告商品は原告商品の形態を模倣した商品と認められる。
4 争点(4) (同種の商品が通常有する形態)について
(1) 不正競争防止法2条1項3号は、他人の商品の形態を模倣した商 品の譲渡等を不正競争行為とするものであるが、他方で、当該他人の商品と同種の商品が通常有する形態を保護の対象から除外している。前述のとおり、同規定は、模倣者の行為を不正競争として規制することによって、先行者の開発利益を保護することとしたものであるが、他方、先行者において特段の資金・労力を要さずに容易に作り出せるような、特段の特徴もない同種の商品に共通するごくありふれた形態は、前記のような観点からの保護に値せず、また、同種の商品の機能・効用を発揮するため不可避的に採らざるを得ないような形態については、商品の形態を超えて同一の機能・効用を有する同種の商品そのものの独占を招来することとなり、複数の商品の市場における競合を前提として、その競争のあり方を規制する不正競争防止法の趣旨そのものにも反することとなるので、これらの形態を同法の保護の対象から除外したものである。
(2) 本件においては、前記認定のとおり、原告は、2段折り収納形状の携帯電話機用アンテナである原告商品を他者に先駆けて開発し、市場に置いたものである。携帯電話機用アンテナとしては、従来、電話機の付属アンテナが一般的に用いられていたことからしても、2段折り収納形状がアンテナとしての機能を発揮するための不可避的な形態ということはできないし、また、携帯電話機用アンテナの分野において、既存の製品に2段折り収納形状の物が存在しなかったのであるから、同形状が同種の商品の形態としてありふれたものであるということもできない。したがって、原告商品の形態をもって、「同種の商品が通常有する形態」ということはできない。
 この点について、被告は原告商品に類似する2段折れ収納形状のアンテナが存在していたことの証拠として、雑誌「ラジオライフ・1996年7月号」を提出するが、そこに掲載されているアンテナはト ランシーバー用のものであるから、原告商品の属する携帯電話機用のアンテナとは商品分野を異にするものであって、本件に適切でない。
5 争点(5) (原告の損害額)について
(1) 原告は、被告の不正競争行為によって被った損害として、被告がこれによって得た利益に相当する金額の賠償を求めているので、被告の得た利益額について、以下検討する。
ア) 証拠によれば、被告は、平成10年3月から同11年9月までの間、被告商品のうち「アンテナ君ナイン頭なし」の商品を合計12万9575本(返品分を除く。)販売し、その売上げは合計で6071万8950円であることがそれぞれ認められる。
イ) 次に、被告商品の製造原価については、証拠(甲125)及び弁 論の全趣旨によれば、被告商品のうち「アンテナ君ナイン」の製造原価としては以下に掲げる項目があり、それぞれの金額は次のとおりであることが認められる。
1. アンテナ本体の購入価格 428円
2. パッケージ代       23円
3. 組立代          30円
4. 検査代          10円
 したがって、「アンテナ君ナイン」の商品1本当たりの製造原価は上記金額を合計した491円である。
 また、証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告商品のうち「アンテナ君ナイン頭なし」の商品については、「FP−38G」「FP−38S」「FP−38P」という3種類の商品番号の商品があること、うち前二者の商品の販売数量の合計は12万2295本であり、「FP−38P」の商品の販売数量は7280本であること、これらの商品の製造原価としては以下に掲げる項目があり、それぞれの金額は次のとおりであることが認められる。
(ア)FP−38G及びP−38Sについて
1. アンテナ本体の購入価格 350円
2. 検査代          10円
(イ)FP−38Pについて
1. アンテナ本体の購入価格 400円
2. 検査代          10円
 したがって、「アンテナ君ナイン頭なし」の商品1本当たりの製造原価は、FP−38G及びP−38Sの商品については360円、 FP−38Pについては410円である。
ウ) 証拠によれば、被告の平成9年度(平成9年4月1日から同10年3 月31日まで)の損益計算書では、売上高1億8264万6543円に対する 販売費及び一般管理費が1億0382万2800円であること(割合は56.パーセント)、平成10年度(平成10年4月1日から同11年3月31日まで )の損益計算書では、売上高2億9424万8409円に対する販売費及び 一般管理費が1億0996万1079円であること(割合は37.4パーセント )がそれぞれ認められる。
 法5条1項は、不正競争行為を行った者が当該行為により利益を受けているときは、その利益の額をもって、当該侵害行為による被害者の損害額と推定することを規定しているが、ここにいう「利益」とは、純利益を意味するものではなく、当該侵害品の販売価額から材料・工賃等の原価及び製品の販売数量に応じて変動する運搬費・広告費・保管費等の変動費用のうち侵害品の販売に対応する額を控除した金額を意味するものと解するのが相当である。
 本件においては、被告においては、上記のとおりの販売費及び一般管理費を支出していることが認められるが、被告商品は原告商品を模倣したものであって開発費等は不要であったこと、被告は被告商品の他に「アンテナ君」「アンテナ君セブン」「アンテナ君テン」「クリップ君」「ジャンプアップアンテナ」といった多数の携帯電話機用商品を扱っていること、被告会社は従業員5名という小規模な企業にしては販売費及び一般管理費の内訳において役員報酬及び給料手当の占める割合が高いことなどの事情に、被告商品の商品分野、単価、販売数量、販売期間等の諸般の事情を総合すれば、被告商品の販売価額から原価と共に変動経費として控除すべき額としては、販売価額の15パーセントを相当と認める。
 この点につき、原告は一般管理費を控除するべきでないと主張するが、たとえ他人の商品の形態を模倣した商品であっても、当該商品の販売に対応して支出した変動経費であれば、これを控除するのが相当である。なお、被告作成の原価表には、原価として運賃代20円、管理費20円との記載があるが、この各費目は上記の変動経費に含まれるものとして考慮すれば足り、さらに製造原価として控除するべきではない。
エ) 以上によれば、被告が被告商品のうち「アンテナ君ナイン」について得た利益の額は、売上高から製造原価及び変動経費を控除した4706万0072円と認められる。
106,033,102−(491×87,715)−(106,033,102×0.15)
=47,060,072
 また、被告が「アンテナ君ナイン頭なし」の商品について得た利益の額は、売上高から製造原価と変動経費を控除した460万0108円 と認められる。
60,718,950−{(122,295×360)+(7,280×410)}
−(60,718,950×0.15)=4,600,108
 そうすると、被告は上記金額を合計した5166万0180円の利益を得たことになるが、特段の反証のない本件では、法5条1項により、この金額が被告の不正競争行為によって原告が被った損害の額と推定される。
オ) なお、一般不法行為を理由とする請求については、本件全証拠によっても、被告の行為と原告の主張する得べかりし利益の喪失との間の因果関係を認めることができないから、理由のないことが明らかである。
6 まとめ
 以上によれば、原告の損害賠償請求は、被告に対し、法2条1項3 号所定の不正競争行為(形態模倣)を理由として5166万0180円及びうち1000万円に対する平成11年2月3日(同年2月4日付け訴え変更申立書の送達の日の翌日)から、うち4166万0180円に対する平成12年3月23日(同年2月25日付け訴え変更申立書の送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

〔研  究〕

1. この事件は、不競法2条1項3号の適用の可否が一つの争点とな っていたが、商品形態自体は酷似していたことから、実質的に同一であることが認められ、結局、被告商品は原告商品に「依拠」して製造されたものであると認定された。
 また、同種の商品において通常有する形態については保護から除外することになっているが、携帯電話機用アンテナの分野では、2段折り収納形状タイプのものは存在しなかったことが証明され、「同種の商品が通常有する形態」ということはできないと認定された。
 これに対し、被告は、トランシーバー用アンテナに2段折れ収納形状のものがあることを立証したが、商品分野が違うことを理由に不適切と認定された。しかし、広く電機製品として秋葉原の電気街では同一の小売店で販売されていることを考えれば、必ずしも商品分野を異にするとはいえないし、受信用アンテナとしては商品の類似性は認めることができるのではないかという考え方もできるかも知れない。
 しかし、本件は、意匠権侵害事件ではなく、不競法2条1項3号事 件であるから、商品やその形態の類似性については問題にならないことを考えれば、妥当な判決であろう。
2. ところで、侵害裁判所は、被告の不正競争行為によって得られた被告の利益とは、純利益ではなく、粗利益をもって妥当とすると説示するが、模倣商品であっても、当該商品の販売に対応して支出した変動経費を控除するのが相当であると説示した。即ち、利益額=売上高−製造原価・反動経費によって算定されると認定したが、妥当であろう。
3. なお、一方の当事者は異なるが、「携帯電話機用アンテナ」をめぐり、平成13年8月30日判決に係る不正競争防止法その他の複雑 な事件があった。

[牛木理一]