C1-13

 

 

 

「キーホルダー(ドラゴンソード)」商品形態・差止等請求事件:東京地裁平成7年(ワ)11102号平成8年12月25日判決(認容)[民29部]、東京高裁平成8年(ネ)6162号平成10年2月26日判決(原判決取消、請求棄却)〔民18部〕〔日経デザイン1997年3月号98頁〕

〔キーワード〕 
不競法2条1項3号、商品形態の模倣、酷似、類似、改変

 

〔東京高裁の判示・認定事項〕 

  1. 不正競争防止法2条1項3号にいう「模倣」とは、既に存在する他人の商品の形態をまねてこれと同一または実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいい、客観的には、他人の商品と作り出された商品を対比して観察した場合に、形態が同一であるか実質的に同一といえる程度に酷似していることを要し、主観的には、当該他人の商品形態を知り、これを形態が同一であるか実質的に同一といえる程に酷似した形態の商品と客観的に評価される形態の商品を作り出すことを認識していることを要するものである。
  2. 作り出された商品の形態が既に存在する他人の商品の形態と相違するところがあっても、その相違が僅かな改変に基づくものであって、酷似しているものと評価できるような場合には、実質的に同一の形態であるというべきであるが、当該改変の着想の難易、改変の内容・程度、改変による形態的効果等を総合的に判断して、当該改変によって相応の形態上の特徴がもたらされ、既に存在する他人の商品形態と酷似しているものと評価できないような場合には、実質的に同一の形態とはいえないものというべきである。
  3. 原告商品は頭部が1個の通常の竜であるのに対し、被告商品は胴体の両端に頭部のある双頭の竜であるという相違点が存するところ、被告商品の製造、販売時において、双頭の竜を表したキーホルダーが存在したことを認め得る的確な証拠はなく、また双頭あるいは複数の頭を有する竜のデザイン自体がよく知られたものであることを認め得る証拠もないこと、商品としての形態上、竜の具体的形態が占める比重は極めて高く、被告商品において洋剣の柄部分側と刃先側に表された竜の頭部が向き合っている形態は、需要者に強く印象づけられるものと推認されることからすると、被告商品の形態が原告商品の形態に酷似しているとまでは認め難く、実質的に同一であるとは認められない。

 

〔争  点〕

 

1 原告商品は、その形態が、原告の商品を表示するものとして需需要者の間に広く認識されているか。また、被告商品は、原告商品と類似し、原告商品と、混同を生じさせているか。
2 原告商品は、原告商品の形態を模倣したものであるか。
3 損害額

 

〔事実と地裁の判決理由について〕

 

1.はじめに
 旧不正競争防止法が抜本的に改正され現行不正競争防止法が施行されたのは、平成6年5月1日である。その現行法による訴訟事件の判決も最近いくつか出ている中で、いまだなかった商品形態の模倣を禁止した不競法2条1項3号の規定が初めて適用された判決が、昨年12月25日に東京地裁から出た。
 原告(M社)と被告(G社)は、ともにキーホルダーなどの土産物の製造,販売を業とする会社であるところ、原告は「原告商品」のキーホルダーを平成6年1月12日から製造、販売しており、平成6年2月9日までの販売総数は279,900個であった。これに対し、被告は、「被告商品」のキーホルダーを平成6年8月末頃から製造、販売した。
 原告は、被告が製造、販売するキーホルダーは、第1に、原告が製造、販売し原告商品であることを表示するものとして広く知られている「ドラゴン・ソード」と称するキーホルダーとその形態が類似し、原告商品と混同を生じさせていると主張し、第2に、原告商品の形態を模倣した商品であると主張した。そして、第1の点では不競法2条1項1号に該当し、第2の点では同条項3号に該当する不正競争行為であるとして、差止め請求と損害賠償請求をするとともに、被告製品とその製造に供した金型の廃棄についても請求した。
 これに対し、裁判所は各争点について次のように事実関係を認定した。
2.周知性は認められない 
 裁判所は、まず原告商品を検討し、この形態と酷似する形態から成る先行商品が今までにあったと認めるに足りる証拠はなく、リング部と連結部の形態はキーホルダー一般に共通の形態であるのに対し、洋剣と竜をデザインした本体部はありふれた形態ではなく、特色のある形態であることを一応認めた。
 しかし、その販売数量からは、当業者間において売れている商品だという認識を越えて、原告商品の形態がその商品出所を表示するものとして広く知られるに至ったとは認められないとした。その結果、不競法2条1項1号に規定する不正競争行為は成立しなかったのである。
3.模倣は認められた 
 原告商品と被告商品とは、キーホルダーとして通常の形態であるリング部と連結部の形態を共通にしていたが、本体部の形態もまた次の点で共通にしていた。
1. 全体が金属製の扁平で、柄及び刃体と鍔部とが交差して縦長の概略十字形で、表面側の十字の中心部に宝石状にカットされた円形のガラス玉がはめ込まれている双刃の洋剣に、竜が、洋剣の刃先部から、刃体、鍔部、柄部と上方に向けて左巻きにほぼ二巻き螺旋状に巻きついた状態に表側、裏側ともに浮彫りされている。
2. 柄上端部の竜の頭部は右上方から左斜め下方に向けて、同方向をにらみながら、口を開けて牙を見せており、鍔部の左端に右前足を、柄部と鍔部の交差部の右側に左前足をかけ、胴体が洋剣の中程の手前側を左上から右下へS字状にうねり、刃体の裏側を回っている洋剣に巻きつく竜のかたち。
3. 金属的光沢を有する黒みを帯びた銀色の色彩。
 他方、両商品の各本体部の形態は、次の点で異なっていた。
1. 原告商品では、洋剣に巻きついているのが頭部が一個の通常の竜で、表側から見て洋剣の刃先の左方に尾の先が表われているのに対し、被告商品では、胴体の両端に頭部のある双頭の竜で、表側から見て洋剣の刃先の左方にもう一つの頭部がある点。
2. 原告商品は縦約6.8cm、横最大幅は2.7cmであるのに対し、被告商品では縦約8cm、横最大幅は約4cmである点。
3. 鍔部にかけた竜の足の鍔部のつかみ方、竜の顔、背鰭、鱗の形状の詳細及び彫りの深さ、ガラス玉の色の点。
 その結果、裁判所は、原告商品と被告商品の1.ないし3.のような本体部の形態の同一点は、両商品の形態の主要部分にかかわるのに対し、原告商品と被告商品との本体部の相違点のうち、1.は竜の形態にかかわるものの、本体部の全体の形態の中では、印象が弱いこと、2.の大きさの違いもわずかなものであること、3.は共通部分の細部の相違点であることを考慮すれば、被告商品は、原告商品を直接原型として型どりをした金型から製造されたものとはいえないとしても、両者の形態は酷似し、「実質的に同一である」と認定した。
 さらに裁判所は、次のように認定て、被告商品は原告商品の「模倣」であることを認めた。
 被告商品が、原告商品の販売開始後8カ月以上経過して販売が開始されたもので、その間に原告商品は約28万個販売され、被告商品のデザインが被告に納品される以前の平成6年5月までに限っても97,000個余りが販売されたこと、原告と取引のある卸問屋ではヒット商品と認識していたこと、土産物店には同業者が軒を並べて立地し、他店の取扱商品中顧客に人気があり売れ行きの良い商品を認識し易く、卸問屋、製造業者も売れ行きの良い商品についての情報を得やすいものと推認され、原告商品と被告商品とは酷似し、その程度は原告商品を見ないで製造した被告商品が偶然に原告商品に似たものとは到底考えられない程である。
 他方、原告商品自体第三者の商品あるいはデザインを模倣したものであったり、被告商品もその第三者の商品あるいはデザインを模倣したものであったり、原告商品を模倣した第三者の商品を模倣して被告商品が作られた場合にも、原告商品の形態と被告商品の形態が高度に類似する可能性はあるが、そのような第三者の商品、デザインの存在をうかがわせるに足りる証拠はないから、被告商品は原告商品に依拠して作られたものであることが十分推認できる。
 被告は、竜と剣との組み合せから成るキーホルダーは、すでに複数の会社が販売していたと主張したが、証拠として提出されたキーホルダーの形態は全体として類似性は見出し難いものと認定され、被告商品が原告商品を模倣したという結論に影響を与えなかった。
4.商品販売の禁止期間 
 不競法が他人の商品形態のデッドコピーを禁止する期間は、あくまでも最初に販売した者が販売した日から起算して3年間であり、それ以降は自由にコピーして製造、販売することができる。
したがって、本件の場合、原告の販売開始時期は平成6年1月12日であったことから、その禁止期間は平成9年1月11日で終りとなり、その旨は判決の主文でも明記された。
 また、被告製品の製造金型については、販売の禁止期間の残余が僅かであったことから、裁判所は金型や被告商品の廃棄請求の必要性は認めなかった。
5.損害賠償額について 
 本事件におけるもう1つの争点は損害賠償額についてであった。判決が、被告に740万円の損害賠償額を認めた根拠は次の理由からであった。
 被告は平成6年9月30日から平成7年6月8日までに被告商品を1個100円で少なくとも20万個販売し、その利益率は少なくとも37%であるから、被告は少なくとも740万円の利益を受けたと主張し、被告はこれを自認したこと、被告は裁判所の提出命令決定にもかかわらず、被告商品の製造、販売に関する各会計帳簿、伝票、受領書、確定申告書控、販売実績表などの書類を提出しなかったからである。前記利益率は粗利益であろう。
6.むすび 
 以上紹介したこのキーホルダー事件の判決で注目すべき点は、他人の商品形態の「模倣」の認定には、丸ごとそっくりそのまま盗用するデッドコピーでなく、部分的に改変していたとしても、一見して実質的に同一といえる程に酷似した形態から成る商品であれば、不正競争行為に該当するとした点である。

 しかし、この酷似に見えた形態が、実はそうではなく、意匠の類似程度のものであったことを明白にしたのが、次の東京高裁の判決であり、原審判決は不競法2条1項3号の解釈と適用を誤まったと指摘され、取消されたのである。

〔高裁の判断〕
一 争点1について
 原判決14頁11行ないし19頁7行を引用する。
二 争点2について
1 原判決別紙原告商品物件目録、同被告商品物件目録、及び、検甲第1号証、検甲第2号証によれば、原告商品、被告商品の各形態は次のとおりであると認められる。
(一)原告商品
(1)本体部分は、全体が金属製で偏平であり、柄及び刃体と鍔部とが交差して縦長の概略十字形をなす双刃の洋剣の刃先を下方に向けたものに、竜が、下方の洋剣の刃先部分から、刃体、鍔部、柄部と上方に向けて左巻きにほぼ二巻き螺旋状に巻きついた状態に浮彫りされている。本体部分の上端の孔に連結部の一端の環が挿通され、連結部の他端の
環に鍵を保持する大きな円形のリングが挿通されている。
(2)本体部分の表面から見ると、竜は、鍔部の左端に右前足を、柄部と鍔部の交差部分の右側に左前足をかけ、頭部を柄上端部分に右上方から左斜め下方に向けており、同方向をにらみながら、威嚇するように口を開け、牙を見せている。竜の胴体は洋剣の刃体の中程の手前側を左上から右下へS字状にうねり、刃体の裏側を回って尾の先が刃先の左
方向に表れている。
(3)本体部分の大きさは、縦約6.8センチメートル、横最大幅約2.7センチメートルである。
(4)本体部分の表面側の略十字形の洋剣の十字の中心部分には、宝石状にカットされた円い形状の紅色のガラス玉がはめ込まれている。
(5)本体部分の表面部分は、右(1)、(2)の状態の裏側を見るように、下から上に竜が洋剣に巻きつく形状に浮彫りされている。
(6)全体の色彩は、金属的光沢を有する黒味を帯びた銀色である。
(7)竜の顔、鱗などの彫りは幾分浅く、鋸刃状の背鰭は大きめである。
(二)被告商品
(1)本体部分は、全体が金属製で偏平であり、柄及び刃体と鍔部とが交差して縦長の概略十字形をなす双刃の洋剣の刃先を下方に向けたものに、竜が、下方の洋剣の刃先部分から、刃体、鍔部、柄部と上方に向けて左巻きにほぼ二巻き螺旋状に巻きついた状態に浮彫りされている。本体部分の上端の孔に連結部の一端の環が挿通され、連結部の他端の環に鍵を保持する大きな円形のリングが挿通されている。
(2)竜は胴体の両端に頭部のある双頭の竜であり、本体部分の表面から見ると、柄部分側の頭を前と考えて、鍔部の左端に右前足を、柄部と鍔部の交差部分よりやや右側に左前足をかけ、前の頭部を柄上端部分に右上方から左斜め下方に向けており、同方向をにらみながら、威嚇するように口を開け、牙を見せている。竜の胴体は洋剣の刃体の中程の手前側を左上から右下へS字状にうねり、刃体の裏側を回って刃先の左方のもう一方の頭部(後側の頭部)となっている。竜は、両後足(後側の頭部から見ると両前足)で刃体下方の最も幅の広い部分を両側からつかみ、後側の頭部は、左下から右斜上方に向いており、柄部分側の頭部と向き合って、にらみながら威嚇するように口を開け、牙を見せている。
(3)本体部分の大きさは、縦約8センチメートル、横最大幅約4センチメートルである。
(4)本体部分の表面側の略十字形の洋剣の十字の中心部分には、宝石状にカットされた円い形状の薄紫色のガラス玉がはめ込まれている。
(5)本体部分の裏面部分は、右(1)、(2)の状態の裏側を見るように、下から上に竜が洋剣に巻きつく形状に浮彫りされている。
(6)全体の色彩は、金属的光沢を有する黒みを帯びた銀色である。
(7)竜の顔、鱗などの彫りは深く、鋸刃状の背鰭は小さめである。
2 ところで、不正競争防止法2条1項3号にいう「模倣」とは、既に存在する他人の商品の形態をまねてこれと同一または実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいい、客観的には、他人の商品と作り出された商品を対比して観察した場合に、形態が同一であるか実質的に同一といえる程度に酷似していることを要し、主観的には、当該他人の商品形態を知り、これを形態が同一であるか実質的に同一といえる程に酷似した形態の商品と客観的に評価される形態の商品を作り出すことを認識していることを要するものである。
 ここで、作り出された商品の形態が既に存在する他人の商品の形態と相違するところがあっても、その相違が僅かな改変に基づくものであって、酷似しているものと評価できるような場合には、実質的に同一の形態であるというべきであるが、当該改変の着想の難易、改変の内容・程度、改変による形態的効果等を総合的に判断して、当該改変によって相応の形態上の特徴がもたらされ、既に存在する他人の商品形態と酷似しているものと評価できないような場合には、実質的に同一の形態とはいえないものというべきである。
3 これを本件についてみると、前記1の認定事実によれば、原告商品と被告商品とは、本体部分において、全体が金属製で偏平であり、柄及び刃体と鍔部とが交差して縦長の概略十字形をなし、表面側の十字の中心部分に、宝石状にカットされた円い形状のガラス玉がはめ込まれている双刃の洋剣の刃先を下方に向けたものに、竜が、下方の洋剣の刃先部分から、刃体、鍔部、柄部と上方に向けて左巻きにほぼ二巻き螺旋状に巻きついた状態に表側、裏側共に浮彫りされており、本体部分の上端の孔に連結部の一端の環が挿通され、連結部の他端の環に鍵を保持する大きなリングが挿通されている点、本体部分の表面から見ると、柄上端部分にその頭部を表す竜は、鍔部の左把持に右前足を、柄部と鍔部の交差部分の右側に左前足をかけ、頭部を柄上端部分に右上方から左斜め下方に向けて、同方向をにらみながら、威嚇するように口を開け、牙を見せており、胴体が洋剣の刃体の中程の手前側を左上から右下へS字状にうねり、刃体の裏側を回って洋剣に巻きついている点、全体の色彩が、金属的光沢を有する黒みを帯びた銀色である点で共通していることが認められるが、他方、原告商品では、洋剣に巻きついている竜は頭部が一個の通常の竜であり、表面側から見て、洋剣の刃先の左方に尾の先が表れているのに対し、被告商品では、洋剣に巻きついている竜は胴体の両端に頭部のある双頭の竜であり、表面側から見て、洋剣の刃先の左方にも頭部が表れており、左下から右斜め上方に向いて柄部分側の頭部と向かってにらみながら威嚇するように口を開け、牙を見せている点、本体部分の大きさが、原告商品では、縦約6.8センチメートル、横最大幅は約2.7センチメートルであるのに対し、被告商品では、縦約8センチメートル、横最大幅は約4センチメートルである点、竜の顔、鱗などの彫りの深さ、背鰭の形状の詳細、ガラス玉の色の点で異なっていることが認められる。
 右のとおり、原告商品は頭部が1個の通常の竜であるのに対し、被告商品は胴体の両端に頭部のある双頭の竜であるという相違点が存するところ、被告商品の製造、販売時において、双頭の竜を表したキーホルダーが存在したことを認め得る的確な証拠はなく(証人Mは、右のようなキーホルダーを見たことがある旨供述しているが、たやすく措信できない。)、また、双頭あるいは複数の頭を有する竜のデザイン自体がよく知られたものであることを認め得る証拠もないこと、原告商品、被告商品とも、基本的には、洋剣と竜のデザインを組み合わせたものであって、商品としての形態上、竜の具体的形態が占める比重は極めて高く、被告商品において洋剣の柄部分側と刃先側に表された竜の頭部が向き合っている形態は、需要者に強く印象づけられるものと推認されることからすると、被告商品における竜の具体的形態は、被告商品の全体的な形態の中にあって独自の形態的な特徴をもたらしているものと認められること、本体部分の大きさの違いもわずかであるとはいえず、表面部分の面積を対比しても、ほぼ1(原告商品)対2(被告商品)程度の違いがあり、量感的にも相当の違いがあること(検甲第1、第2号証)からすると、原告商品の形態と被告商品の形態との間に前記のとおりの共通点が存すること、及び、原告商品の製造、販売当時(平成6年1月)において、原告商品の基本的構成である、本体部分において、全体が金属製で偏平であり、柄及び刃体と鍔部とが交差して縦長の概略十字形で表面側の十字の中心部分に宝石状にカットされた円い形状のガラス玉がはめ込まれている双刃の洋剣に、竜が、洋剣の刃先部分から、刃体、鍔部、柄部と上方に向けて左巻きにほぼ二巻き螺旋状に巻きついた状態に表側、裏側共に浮彫りされている形態、あるいはこれに類似する形態を有するキーホルダーが存在していたことを認めるに足りる証拠がないことを考慮しても、被告商品の形態が原告商品の形態に酷似しているとまでは認め難く、実質的に同
一であるとは認められない。
 したがって、その余の点について検討するまでもなく、被告商品は、原告商品の形態を模倣したものとは認められない。
 ちなみに、証人M(被控訴人の前代表者)は、控訴人代理人が検甲第2号証(被告商品)を示して、「これは竜の頭が2つありますよね。」という尋問を行ったのに対して、「この商品は改造なさったんじゃないですか。」と証言しているが、このことは、同証人自身、被告商品の形態が原告商品の形態に酷似しているとは認識していなかったことを窺わせるものである。
三 結 論
 以上のとおりであって、被控訴人の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく失当として棄却すべきである。
 よって、右と結論を異にする原判決を取り消し、被控訴人の本訴請求を棄却する。

〔研  究〕

1.本件事案のキーホルダーの形態は、アイディアとしては共通性をもったものであることは一見して明らかであるが、形態全体の具体的構成態様を見ると、竜の細部の態様に違いがあることがわかる。この違いは、実質的同一性を意味する酷似というよりは、その範疇を超えた意匠法でいう類似といわれるべきものであろう。
 不競法2条1項3号(デッド・コピーの禁止)は、意匠法とは違い、同一又は実質的に同一といわれる範疇の商品形態にしか適用が認められないから、類似の商品形態は保護の対象外とするのが立法の趣旨であった。しかし、立法論としては、その保護期間の問題とともに再考すべき問題であろう。
2.東京地裁判決は、現行不競法2条1項3号の最初の適用事案として注目されたが、部分的改変について、地裁では酷似と考え、高裁では類似と考えた。したがって、地裁の判断は過剰保護であったといえよう。しかし、地裁における前記判断は、わが国最初の不競法3号事件としてはやむを得ない解釈に基づくものであったといえよう。
 この事案に類似するのが、コンピュータケース等の形態が争われたiMac対e-One不競法仮処分事件(東京地裁平成11年(ヨ)22125号平成11年9月20日決定/抗告中)[C1−14参照]である。しかし、この事案は、不競法2条1項1号の適用を受けた事件であり、商品形態の類似性が争われたが、債権者はiMacデザインの周知商品表示性と混同性を疎明したことから、裁判所は保証金1億円の供託を条件に債務者に製造販売等を禁止する仮処分の決定をした。(それにしても、1億円の保証金は異例である。なぜそんなに高額にしたのだろうか。いろいろな理由が想像される。)
 しかし、この両デザインが類似するといえるか否かの判断は非常に微妙であるが、結局、色彩、素材を含む商品形態についての創作上の視点から、そこに表現されているアイディアの共通性が決め手となったといえよう。
3.この「キーホルダー」事件以後、不競法2条1項3号の規定を適用した事案は多くなり、現行法上、もっとも活用されている規定であるといえる。
 同規定(1号の場合も同様であるが)は、当該商品形態(デザイン)が意匠登録出願をされて登録になるまでの繋ぎの役割を果たしているといわれているが、それは差止請求の場合であり、損害賠償請求の場合は、意匠権が発生する登録前であっても、不競法4条の規定によって不正競争行為の時点からの損害賠償額が計算されることから、不競法の利用価値は高いのである。

[牛木理一]