C1-11

 

 

「プリーツ・プリーズ」商品形態・差止等請求事件:東京地裁平成7年(ワ)13557号平成11年6月29日判決(認容)〔日経デザイン1999年10月号88頁〕

〔キーワード〕 
商品形態、商品の出所表示機能、独自の形態(特徴)、需要者間の周知性、商品の混同、著作物性

 

〔判示・認定事項〕 

  1. 特定の商品形態が同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し、かつ、右商品形態が、長期間継続的かつ独占的に使用されるか、又は短期間でも強力な宣伝等が伴って使用されたような場合には、結果として、商品の形態が商品の出所表示の機能を有するに至り、かつ、商品表示としての形態が需要者の間で周知になることがあり得るというべきである。このような場合には、右商品形態が、当該商品の技術的機能に由来する必然的、不可避的なものでない限り、不正競争防止法2条1項1号に規定する「他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているもの」に該当するものといえる。
  2. 原告商品の形態的特徴は、右ランダムプリーツを、布地を裁断、縫製して衣服を成形した後に施すという加工法をとることによって、衣服の肩線、袖口、裾などの縫い目部分の上にも他の部分と同様に形成し、その結果、衣服全体に厚みがなく一枚の布のような平面的な意匠を構成するという点に強く看者の注意をひく特徴があるというべきところ、右のような形態的特徴をもたらすプリーツ加工の方法は、訴外三宅が発明し、原告がこれを実施する権利を専有するとされるものであること、現に前掲各証拠により示される昭和50年代半ばころから平成6年までの多数の他業者のプリーツ製品の形態をみても、右と同様のプリーツ加工の方法を採用し、その結果、原告商品と同様の特徴を有すると認められるものが見当たらないこと、原告商品は、その商品の性質上外形的なデザインの美しさや新しさが需要者から特に重視される婦人服の分野において、発売後短期間のうちにヒット商品として定着したものであることなどの事情に照らせば、原告商品の前記のような形態は、平成6年4月ころの時点において、他の業者の同種商品には見られない独自の形態であったということができる。
  3. 原告商品は、平成6年4月当時、同種の商品と識別し得る独自の特徴を有していたものということができ、平成5年2月の発売直後から平成6年4月ころまでの間に、数多くの全国的なファッション雑誌や新聞に頻繁に取り上げられてその形態が写真付きで紹介されるとともに、その販売地域や販売額も拡大するなどして、全国的にヒット商品としての評価が定着したということができるものであって、加えて、原告商品が著名な服飾デザイナーである訴外三宅のブランドとして広く知られた「イッセイ・ミヤケ」の商品シリーズであり、右「イッセイ・ミヤケ」ブランドに属する商品シリーズとして、販売、宣伝広告、雑誌・新聞での紹介がされてきたことをも考慮すると、原告商品の形態は、遅くとも平成6年4月ころまでに、全国の服飾関係業者及び一般消費者の間において、服飾ブランド「イッセイ・ミヤケ」を運営する営業主体の商品であることを示す商品表示としての機能を有するに至るとともに、右商品表示として周知性になったものと認めるのが相当である。
  4. 原告商品の形態は、「滑らかなポリエステルの生地からなる婦人用衣服において、縦方向の細かい直線状のランダムプリーツが、肩線、袖口、裾などの縫い目部分も含めて全体に一様に施されており、その結果、衣服全体に厚みがなく1枚の布のような平面的な意匠を構成している。」という点に、特に看者の注意をひく独自の特徴があり、かかる特徴的形態が同種商品と識別される周知な商品表示となったものと認められるところ、被告商品1ないし5を原告商品におけるこれらに対応したアイテムである原告商品1ないし5とそれぞれ対比しつつ観察すれば、被告商品1ないし5が、いずれも右と共通する形態の特徴を有することは明らかというべきである。したがって、被告商品1ないし5の形態は、原告の周知な商品表示となった原告商品の形態に類似するものと認められる。被告商品1ないし5は、取引者ないし需要者において原告商品との混同を生じるおそれがあるものと認められる。
  5. 本件においては、これに加えて、(1)被告商品と原告商品の販売、陳列方法が、1.いずれも百貨店における専用の売場での販売が行われている点、2.右売場において、原告商品の場合には「PLEATS PLEASE」なる大文字のアルファベットのロゴが掲示されているところ、被告商品においても「THE PLEATS」なる大文字のアルファベットのロゴが掲示されている点、3.いずれも商品の一部を筒状に巻いて陳列するという方法を採用している点において類似していること、(2)販売価格についても、被告商品1ないし5が8000円から1万5000円であるところ、これに対応する原告商品1ないし5は1万2000円から2万円であり、両者の価格帯がほぼ共通することなど、需要者たる一般消費者の混同を助長する事情の存在することが認められるのであって、これらの事情に照らしても、被告商品1ないし5につき需要者において原告商品との混同を生じるおそれがあることは明らかというべきである。 
  6. 被告らが、平成6年4月13日から同年6月ころまでの間に、被告商品1ないし5を販売することによって、それぞれ10万円を下らない利益を得たことは、被告商品1ないし5の販売価格や被告商品の販売規模・販売状況に照らして明らかというべきである。そして、被告商品1ないし5の販売によって被告らがそれぞれ得た利益10万円は、不正競争防止法5条1項により、被告らの不正競争行為によって原告が受けた損害の額と推定される。
  7. 本件において、被告らによる被告商品の販売によって、原告が主張するような原告の営業上の信用の低下が現実に生じたことを認めるに足りる証拠はない。仮に、原告に何らかの営業上の信用の低下が生じていたとしても、被告らによる被告商品の販売が、名古屋市内の名鉄百貨店本店のみにおける地域的に限られたものである上、その販売期間も2ケ月程度 と比較的短期間にすぎないことなどを考慮すれば、前記のとおり原告の被告らに対する損害賠償請求を原告の請求額全額につき認容する本件において、さらに被告らに対し、信用回復措置として謝罪広告まで命ずる必要があるとまでは認められない。

 

〔事  実〕

 

1 原告(株式会社三宅デザイン事務所)は、著名な服飾デザイナーの三宅一生を中心とする所属デザイナーによって衣類・服飾雑貨等のデザインを考案することを業とする会社で、訴外株式会社イッセイ・ミヤケにこれらのデザインを利用した衣類等を製造・販売することを許諾し、訴外会社からロイヤリティを得ている。 原告と訴外会社は、親子会社の関係にあるのみならず、ともに三宅の実質的経営に係る企業グループを構成し、右企業グループとして服飾ブランド「イッセイ・ミヤケ」を運営している。
 被告(株式会社名鉄百貨店)は百貨店を営む会社であり、被告株式会社ルルドは婦人服の製造・販売等を目的とする株式会社である。
2 不正競争防止法2条1項1号の不正競争 
(一) 原告の周知な商品表示
1. 原告は、 別紙物件目録(二)1ないし5記載の商品(以下「原告商品1ないし5」という。)を含む「プリーツ・プリーズ」というブランド名の一連の婦人服(以下「原告商品」という。)のデザインを考案し、訴外会社は、平成5年2月から、原告の許諾を受けて原告商品を製造・販売している。
2. 原告商品の形態の特徴
原告商品は、次のような、各アイテム(品目)に共通した形態の特徴を有し、これらの特徴が相まって、需要者である女性の感覚に訴える独自の意匠的特徴を構成している。
1. ポリエステル100パーセントの裏地用の生地に縦方向の細かいランダムプリーツ(ひだの幅が一定しないプリーツ)が施されていること。これによって、従来のプリーツ製品が有する重量感が解消されるとともに、独自の光沢と紙と錯覚するような質感が得
られている。
2. 布の端の縫い目の部分全てに他の部分と同様の細かいランダムプリーツが施されていること。布地を縫製してからプリーツ加工を施すという製法により、あらゆる布の端に、殊に肩線の縫い合わせ部分にも前身頃と後身頃がぴったりと重なり合ったプリーツが施されており、これによって、平置きしたときにあたかも一枚のプリーツ加工した布を切り抜いたかのような平面的な印象を与えている。
3. 直線裁断による幾何学的なラインを有していること一部の上着のアイテムの襟ぐりや袖ぐりを除き、立体裁断を使用せず、全て直線で裁断されている。また、身につけたときのシルエットを美しくするために通常施される縫製上の技術を用いた補正を一切行わず、紙を二枚切り取って縫い合わせたかのような直線的、幾何学的な仕上がりとなっている。4. 身頃から袖に切り替わる部分が独特の形態を呈していること。
袖のある上着のアイテムに関しては、布地を縫製して折り畳んだ状態でプリーツ加工を施すという製法により、身頃部分と袖部分の間に継ぎ目がなく、紙を折ったようにすっきりと自然に切り替わるとともに、身頃と袖の間に独特の三角形の部分が生じている。
3. 原告商品の形態の周知商品表示性
原告商品は、平成5年2月の発売以来アパレル業界の注目を大いに集め、その売上は短期間のうちに驚異的な伸びを示し、1年後の平成6年2月には販売地域も首都圏から近畿地方に広がっていた。また、原告商品は、発売と同時に業界紙や服飾関係雑誌等に並外れた関心の高さをもって頻繁に取り上げられ、原告商品の特集を組む雑誌がいくつも現われるに至った。このようにして、原告商品は、遅くとも発売から1年後の平成6年2月ころには、全国において、その取引者である服飾関係者及びその需要者である一般女性に広く認識されるところとなり、その結果、原告商品に共通する前記のような特徴的形態は、そのころまでに原告の商品であることを示す商品表示として全国的に周知となったから、被告らの行為は不正競争となったと主張した。
3 不正競争防止法2条1項3号の不正競争 
(一) 被告名鉄は、平成6年6月下旬、訴外青木さつきに対し、物件目録(一)の被告商品5を一点販売した。右被告商品5は、被告ルルドが製造し、被告名鉄に納入したものである。
(二) 被告商品5の形態は、原告商品5の形態と実質的に同一であり、また、被告商品5は原告商品5に依拠して製造されたものであるから、被告商品5は原告商品5の形態を模倣した商品である。
(三) したがって、被告らによる右被告商品5の販売は、不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に当たる。
4 著作権の侵害
(一) 原告商品の著作物性
1. 原告商品は、ポリエステルの生地を使用し、ランダムプリーツを施すことにより独特の光沢とハリを持たせ、直線断ちを基本とするなど、かつて存在したプリーツ製品にはみられない独自性を有し、高度の芸術性を有するから、客観的にみて美術的鑑賞の対象となり得るものである。したがって、原告商品の一点一点が著作物性を有すると主張した。
2. 仮に、大量生産された原告商品の一点一点に著作物性が認められないとしても、コレクション及び買付けのための展示会で使用するために最初に製造された原告商品(以下「原作品」という。)には著作物性がある、と主張した。
(二) 原告の著作権
 原告商品及び原作品は、訴外三宅ら原告の役員及び従業員が職務上共同で創作し、原告の名義の下で公表したものであるから、その著作権は原告に帰属する。
(三) 複製権侵害
1. 被告商品は、原告商品に依拠して作成されたものであり、原告商品の内容及び形式を覚知させるに足りるものといえるから、原告商品を複製したものである。
2. 仮に、原作品のみが著作物と評価されるとしても、被告商品は、その適法な複製物である原告商品に依拠して作成されたものであり、原作品の内容及び形式を覚知させるに足りるものといえるから、原作品を複製したものである。
3. したがって、被告商品1ないし5を製造・販売した被告らの行為は、原告の原告商品又は原作品についての複製権を侵害する。
(四) 翻案権侵害
1. 仮に、被告商品が原告商品又は原作品の複製に当たらないとしても、被告商品は、原告商品又は原作品の内面的表現形式を冒用して作成されたものであるから、原告商品又は原作品を翻案したものである。
2. したがって、被告商品1ないし5を製造・販売した被告らの行為は、原告の原告商品又は原作品についての翻案権を侵害する。
5 損害賠償請求 
(五) 被告らは、被告商品1ないし5を製造・販売する行為が不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為若しくは著作権侵害行為であることを知り、又は過失によりこれを知らないで、平成6年4月13日から同年6月ころまで右行為を継続し、これによってそれぞれ少なくとも10万円の利益を得た。
 そして、右利益は、不正競争防止法5条1項又は著作権法114条1項により、被告らの右行為によって原告が受けた損害の額と推定される。
(六) 被告らは、被告商品5を販売する行為が不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為であることを知り、又は過失によりこれを知らないで、右行為を行い、これによってそれぞれ少なくとも10万円の利益を得た。
 そして、右利益は、不正競争防止法5条1項により、被告らの右行為によって原告が受けた損害の額と推定される。
(七) よって、原告は、被告らそれぞれに対し、1.不正競争防止法4条、2条1項1号、2.同法4条、2条1項3号、又は、3.著作権侵害に基づき、10万円の損害賠償とこれに対する遅延損害金の支払を求める(1.ないし3.の請求は選択的併合)。
6 信用回復措置請求
(一) 被告商品は、原告商品に比較して品質が劣るものであり、これが原告商品と誤認されることにより、原告商品に対する信頼と原告の信用が著しく損なわれた。また、被告商品のような粗悪品の流通は、プリーツ製品一般に対する消費者のイメージの低下をもたらし、ひいては原告に営業上の損害を与えた。これらによって、原告は、金銭に換算することのできない無形の損害を受け、これを回復するためには謝罪広告を求めるよりほかに方法がない。
(二) よって、原告は、被告らに対し、1.不正競争防止法7条、2
条1項1号、又は、2.同法7条、2条1項3号に基づき、信用回復措置としての謝罪広告を求める(1.、2.の請求は選択的併合)。

 

〔理  由〕

 

第二 請求原因2(不正競争防止法2条1項1号の不正競争)について
一 請求原因2(一)(原告の周知な商品表示)について
1 甲第1号証、第2号証、第136号証及び弁論の全趣旨によると、請求原因2(一)(1)の事実が認められる。
2 原告商品の形態の特徴について
 甲第1号証、第2号証、第136号証、検甲第1号証ないし第5号証及び弁論の全趣旨によると、原告商品は、平成6年2月当時において、原告商品1ないし5(タンクトップ、ポロシャツ、ロングパンツ、カーディガン)など17種のアイテムにつき13色の単色の色彩を備えた婦人服のシリーズ商品であったところ、これらシリーズ商品の形態を、各アイテムの性質上必然的に備えるべき基本的形態(例えば、上衣のアイテムであれば、袖ぐりや襟ぐりが存在することなど)を捨象して観察すれば、「滑らかなポリエステルの生地からなる婦人用衣服において、縦方向の細かい直線状のランダムプリーツ(幅が一定しないひだ)が、肩線、袖口、裾などの縫い目部分も含めて全体に一様に施されており、その結果、衣服全体に厚みがなく一枚の布のような平面的な意匠を構成する」という共通した特徴があることが認められる。
3 原告商品の形態の周知商品表示性について
 商品の形態は、本来的には商品の機能・効用の発揮や美観の向上等のために選択されるものであり、商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが、特定の商品形態が同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し、かつ、右商品形態が、長間継続的かつ独占的に使用されるか、又は短期間でも強力な宣伝等が伴って使用されたような場合には、結果として、商品の形態が商品の出所表示の機能を有するに至り、かつ、商品表示としての形態が需要者の間で周知になることがあり得るというべきである。そして、このような場合には、右商品形態が、当該商品の技術的機能に由来する必然的、不可避的なものでない限り、不正競争防止法2条1項1号に規定する「他人の商品等表示として需要 
者の間に広く認識されているもの」に該当するものといえる。そこで、前記2記載のような原告商品の特徴となる形態が、右のような周知な商品表示としての機能を、遅くとも被告商品の販売が開始された平成6年4月ころまでに獲得したか否かについて検討する。
(一) 原告商品の形態の独自性について
 甲第125号証、第126号証、第129号証、第136号証、乙第6号証ないし第8号証、第11号証ないし第37号証及び弁論の全趣旨を総合すると、前記2記載のような原告商品の形態の特徴を構成する要素のうち、婦人服に縦方向の細かい直線状のランダムプリーツを施すことが原告商品の発売以前から一般的に行われている技法であること、右ランダムプリーツをポリエステルの生地に施した婦人服も原告商品の発売以前から存在したことが認められる。
 しかしながら、原告商品の形態的特徴は、単にポリエステル生地に右のようなランダムプリーツを施したことに尽きるものではなく、右ランダムプリーツを、布地を裁断、縫製して衣服を成形した後に施すという加工法をとることによって、衣服の肩線、袖口、裾などの縫い目部分の上にも他の部分と同様に形成し、その結果、衣服全体に厚みがなく一枚の布のような平面的な意匠を構成するという点に強く看者の注意をひく特徴があるというべきところ、右のような形態的特徴をもたらすプリーツ加工の方法は、訴外三宅が発明し、原告が平成元年4月7日に特許出願して、同6年6月1日に出願公告された特許に係る方法であり(甲第135号証)、したがって、右プリーツ加工の方法は、特許庁によって右出願当時において新規な加工方法であったと判断され、かつ、右出願公告以降は、原告がこれを実施する権利を専有するとされるものであること(平成6年法律第116号による改正前の特許法52条)、そして、現に前掲各証拠により示される昭和50年代半ばころから平成6年までの多数の他業者のプリーツ製品の形態をみても、右と同様のプリーツ加工の方法を採用し、その結果、原告商品と同様の特徴を有すると認められるものが見当たらないこと、加えて、(二)で後述するとおり、原告商品は、その商品の性質上外形的なデザインの美しさや新しさが需要者から特に重視される婦人服の分野において、発売後短期間のうちにヒット商品として定着したものであることなどの事情に照らせば、原告商品の前記のような形態は、平成6年4月ころの時点において、他の業者の同種商品には見られない独自の形態であったということができる。
(二) 原告商品の形態の周知性について
 甲第6号証ないし第11号証、第16号証の1ないし3、第17号証ないし第97号証、第113号証、第114号証、第115号証の1、2、第116号証、第129号証、第130号証、第136号証及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。
(1) 原告商品の発表・販売の経過
訴外三宅は、昭和63年10月に開催された「イッセイミヤケ1989春夏コレクション」において、ポリエステル生地の衣服の全体にプリーツ加工を施した作品を初めて発表し、以後毎年2回開催される自らのコレクションにおいて、プリーツを用いた様々なデザインの衣服を作品として発表して、内外のファッション関係者からの高い評価を得てきた。
 原告商品は、訴外三宅のこれらプリーツ作品を基に原告において企画・考案し、平成4年11月に開催された業者向けの買付用展示会で初めて発表された後、平成5年2月から、訴外会社によって、東京都内の同社の直営店など数店の服飾専門店で販売されるようになった。
 その後、原告商品は、伊勢丹、三越、大丸といった主要百貨店でも販売されるようになり、販売地域も首都圏から近畿地方へと拡大し、平成6年2月には、訴外会社の直営店3店、百貨店11店のほか多数のファッション専門店において販売されるようになった。また、同年3月2日からは、名古屋市内の三越名古屋店においても、原告商品の販売が開始された。そして、右のような販売の拡大によって、訴外会社による原告商品の売上額は、小売店への卸売総額として、平成5年夏ころには月平均4000万円ないし5000万円であったものが、同6年5月には月約1億5000万円に達するものとなった。
 さらに、原告商品は、平成5年10月にパリで、同年11月に東京で開催された「イッセイミヤケ1994年春夏コレクション」において、訴外三宅の作品として発表され、好評を博した。
(2) 原告商品の雑誌・新聞への掲載
 原告商品は、平成5年2月の発売当初から同6年4月ころまでの間、服飾ブランド「イッセイ・ミヤケ」に属する商品シリーズとして、業界新聞のほか、全国的に広く発行されている婦人向けファッション雑誌や一般新聞において、紹介記事や広告が頻繁に掲載されてきた。そして、これらの多くにおいては、原告商品を平置きにした状態あるいはモデルに着用させた状態の写真が掲載されている。
 また、右記事の中には、例えば以下のとおり、原告商品を注目商品あるいはヒット商品として紹介するものが数多く含まれている。
1. 雑誌「ELLE JAPON」平成5年4月5日号では、原告商品がイッセイ・ミヤケの新ブランドとして紹介され、「この春、注目のブランド」とされている(甲第6号証)。
2. 平成5年9月3日付け毎日新聞では、第11回毎日ファッション大賞を受賞した訴外三宅に関する記事が掲載され、その中で、訴外三宅が開発したプリーツがいまや爆発的な人気であることが紹介されている(甲第33号証)。
3. 雑誌「ハイファッション」平成5年12月号では、訴外三宅のプリーツが世界的な成功をおさめた服として紹介されている(甲第10号証)。
4. 平成5年12月21日付け毎日新聞夕刊には、原告商品を含む多くのプリーツを用いた作品が発表された訴外三宅の「1994年春夏コレクション」の特集記事が掲載されているが
、同記事においては、訴外三宅のプリーツについて、「日本人が世界に発信したデザインとして、世界の服飾史に残るに違いない」と論評されている(甲第40号証)。
5. 雑誌「SPUR」平成6年2月号には、原告商品に関する特集記事が掲載され、その中で原告商品は、「最近、働く女性達の間で評判の服」として紹介されている(甲第9号証)。
6. 雑誌「NON−NO」平成6年3月5日号では、原告商品が 、「最近女の子から大人の女性までが注目している服」として、紹介されている(甲第88号証)。
7. 平成6年4月6日付け毎日新聞には、原告商品に関し、「この春、都内の百貨店にいくつものプリーツショップが誕生、プリーツ状のカラフルな服が目をひいています。各店とも予想を超える売上げ、ただいま品切れ続出の商品です。」との紹介記事が掲載されている(甲第44号証)。
(3) さらに、原告商品が、婦人服の分野において、全国的なヒット商品として一般に認識されていたことを示す事情として、以下のような事実がある。
1. 百貨店バイヤーからの評価によって選考される百貨店バイヤーズ賞のレディス部門において、原告商品は、一定の売上げ規模があり、しかも独創性が評価されるブランド(商品企画)に送られるクリエーティブ賞を、平成5年度、平成6年度と続けて受賞した(甲第22号証)。
2. 平成6年12月22日付け日経流通新聞が発表した「平成6年ヒット商品番付」において、原告商品は、「最先端の技術と価格抑制で幅広い女性が支持した」との理由で、東の前頭にランクされた(甲第26号証)。
3. 平成6年6月30日までのクリエーションワークを対象とする東京クリエーション大賞(社団法人東京ファッション協会主催)において、「イッセイ・プリーツ」が大賞を受賞した(甲第115号証の1、2)。
(三) 右(一)及び(二)を総合すると、原告商品は、平成6年4月当時、前記2記載のような形態において、同種の商品と識別し得る独自の特徴を有していたものということができ、かつ、平成5年2月の発売直後から平成6年4月ころまでの間に、数多くの全国的なファッション雑誌や新聞に頻繁に取り上げられてその形態が写真付きで紹介されるとともに、その販売地域や販売額も拡大するなどして、全国的にヒット商品としての評価が定着したということができるものであって、加えて、原告商品が著名な服飾デザイナーである訴外三宅のブランドとして広く知られた「イッセイ・ミヤケ」の商品シリーズであり、右「イッセイ・ミヤケ」ブランドに属する商品シリーズとして、販売、宣伝広告、雑誌・新聞での紹介がされてきたことをも考慮すると、原告商品の形態は、遅くとも平成6年4月ころまでに、全国の服飾関係業者及び一般消費者の間において、服飾ブランド「イッセイ・ミヤケ」を運営する営業主体の商品であることを示す商品表示としての機能を有するに至るとともに、右商品表示として周知性になったものと認めるのが相当である。
 そして、前記第一、一で認定したとおり、右「イッセイ・ミヤケ」ブランドは、原告と訴外会社によって構成される企業グループによって運営されているのであるから、原告商品の形態は、右企業グループの商品表示として周知になったものと認められ、したがって、右グループを構成する会社の一つである原告に関しても、周知な商品表示であったということができる。
(四) 被告らは、原告商品の前記のような形態は、女性用衣類に要求される軽さ、しわになりにくいこと、型くずれしないこと、洗濯のしやすさ、汗を吸いやすいこと、汚れにくいこと、といった機能をよりよく発揮するために、衣類全体にプリーツを施すという加工方法を選択した結果生じた形態であり、右技術的機能に由来する必然的な形態であるから、商品表示とはなり得ない旨を主張する。
 なるほど、原告商品の形態が被告らが主張するような衣類としての機能の発揮に資するものであり、このような機能を発揮することが原告商品の形態の選択に当たって一つの考慮要素となったことは否定できない(甲第135号証、第136号証)。
 しかしながら、右のような機能を達成するための形態は、原告商品のようなものに限られないのであり、原告商品では、右のような機能面のみならず、衣服としての美しさの観点から、一つのデザインとして前記のような形態を選択したものであることは、外形的なデザインが需要者から最も重視される婦人服という商品の性質上明らかというべきであるから、原告商品の形態は、その技術的機能に由来する必然的な形態とはいえないのであり、被告らの前記主張は理由がない。
二 請求原因2(二)の事実は当事者間に争いがない。
三 請求原因2(三)(原告商品と被告商品の形態の類似性及び混同のおそれ)について
1 前記のとおり、原告商品の形態は、「滑らかなポリエステルの生地からなる婦人用衣服において、縦方向の細かい直線状のランダムプリーツが、肩線、袖口、裾などの縫い目部分も含めて全体に一様に施されており、その結果、衣服全体に厚みがなく1枚の布のような平面的な意匠を構成している。」という点に、特に看者の注意をひく独自の特徴があり、かかる特徴的形態が同種商品と識別される周知な商品表示となったものと認められるところ、被告商品1ないし5(検甲第6号証ないし第10号証)を原告商品におけるこれらに対応したアイテムである原告商品1ないし5(検甲第1号証ないし第5号証)とそれぞれ対比しつつ観察すれば、被告商品1ないし5が、いずれも右と共通する形態の特徴を有することは明らかというべきである。他方、原告商品1ないし5と被告商品1ないし5との間に、被告らが主張するような相違点(「請求原因に対する認否及び被告らの主張」2(三)(3))のあることが認められるが、いずれも個別のアイテムにおける細部の相違にすぎず、これらをすべて考慮しても、前記のような共通した特徴的形態からもたらされる看者の印象の共通性が否定されるものではない。
 したがって、被告商品1ないし5の形態は、原告の周知な商品表示となった原告商品の形態に類似するものと認められる。
2 右のとおり被告商品1ないし5の形態が原告商品の形態と類似することからすれば、被告商品1ないし5は、取引者ないし需要者において原告商品との混同を生じるおそれがあるものと認められる。
 なお、本件においては、これに加えて、(1)被告商品と原告商品の販売、陳列方法が、1.いずれも百貨店における専用の売場での販売が行われている点、2.右売場において、原告商品の場合には「PLEATS PLEASE」なる大文字のアルファベットのロゴが掲示されているところ、被告商品においても「THE PLEATS」なる大文字のアルファベットのロゴが掲示されている点、3.いずれも商品の一部を筒状に巻いて陳列するという方法を採用している点(右1.ないし3.の事実は当事者間に争いがない。)において類似していること、(2)販売価格についても、被告商品1ないし5が8000円から1万5000円であるところ(検甲第6号証ないし第10号証)、これに対応する原告商品1ないし5は1万2000円から2万円であり(検甲第1号証ないし第5号証)、両者の価格帯がほぼ共通することなど、需要者たる一般消費者の混同を助長する事情の存在することが認められるのであって、これらの事情に照らしても、被告商品1ないし5につき需要者において原告商品との混同を生じるおそれがあることは明らかというべきである。
四 以上によると、被告商品1ないし5を販売した被告らの行為は、不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当する。
第三 請求原因5(損害賠償請求)について
一 被告らは、被告商品1ないし5を販売するにつき、右行為が前前記のとおり不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当することを知り、又は少なくともこれを知らないことにつき過失があったものと認められるから、右不正競争行為によって原告が受けた損害を賠償する責任がある。
二 被告らが、平成6年4月13日から同年6月ころまでの間に、被告商品1ないし5を販売することによって、それぞれ10万円を下らない利益を得たことは、被告商品1ないし5の販売価格(検甲第六号証ないし第10号証)や甲第5号証の1ないし4からうかがわれる被告商品の販売規模・販売状況に照らして明らかというべきである。そして、被告商品1ないし5の販売によって被告らがそれぞれ得た利益10万円は、不正競争防止法5条1項により、被告らの不正競争行為によって原告が受けた損害の額と推定される。
三 したがって、被告らそれぞれに対し、不正競争防止法4条、2条1項1号に基づいて、10万円の損害賠償及びこれに対する不正競争行為の後である請求の趣旨記載の日(訴状送達日の翌日)から支払い済みまでの遅延損害金の支払を求める原告の請求は理由がある。
第四 請求原因6(信用回復措置請求)について
 原告は、被告商品が原告商品に付して品質の劣る粗悪品であり、これが原告商品と混同されることによって、原告商品に対する信頼が損なわれるとともに、このような粗悪品の流通がプリーツ製品一般に対する消費者のイメージの低下をもたらし、ひいては原告に営業上の損害を与えた旨を主張する。
 しかしながら、本件において、被告らによる被告商品の販売によって、原告が主張するような原告の営業上の信用の低下が現実に生じたことを認めるに足りる証拠はない。また、仮に、原告に何らかの営業上の信用の低下が生じていたとしても、被告らによる被告商品の販売が、名古屋市内の名鉄百貨店本店のみにおける地域的に限られたものである上、その販売期間も2ケ月程度と比較的短期間にすぎないことなどを考慮すれば、前記のとおり原告の被告らに対する損害賠償請求を原告の請求額全額につき認容する本件において、さらに被告らに対し、信用回復措置として謝罪広告まで命ずる必要があるとまでは認められない。
 したがって、被告らに対し、不正競争防止法7条、2条1項1号に基づいて、信用回復措置としての謝罪広告を求める原告の請求は、理由がない(仮に、請求原因3の不正競争防止法2条1項3号の 不正競争が認められるとしても、これを理由とする謝罪広告の請求は、右と同様の理由により、認められない)。


 別紙物件目録(一)
写真5

 別紙物件目録(二)
写真5

〔追  記〕

 「プリーツ・プリーズ」の製法については特許権も発生していた。しかし、この特許権に対して、前記ルルドが特許無効の審判を請求したところ、特許庁はその請求を認め特許無効の審決がなされた。そこで、特許権者は東京高裁に審決取消訴訟を提起したが、やはり無効事由があるとして請求棄却となり、特許無効の審決は確定したのである。以下、判決の内容を紹介する。
プリーツ・プリーズ事件:東京高裁平成7年(行ケ)202号審決取 
消請求事件平成10年3月12日判決(棄却) 
1 原告(株三宅デザイン事務所)は、平成1年4月7日出願に係る「プリーツ製品の加工方法」について、平成6年9月6日に特許第1869964号として設定登録を受けた特許権者であった。
 これに対し、被告(株ルルド)は、前記特許権に対し、特許庁に平成6年12月27日に特許無効の審判を請求したところ、特許庁は平成7年7月12日に、特許無効の審決をした。
 この特許発明(以下、本件発明という。)の技術的範囲は、次のとおりのものであった。
「布地をパーツに裁断し、パーツを縫製して所望の外形に形成した後、パーツを折り込んだままプリーツ加工を全体的に施してなるプリーツ製品の加工方法。」
 審決理由の要点は、次のとおりである。
 甲第3号証に係る特公昭56-9561号の特許公報には、その特許請求の範囲に、「生地から袖と身頃を一体に裁断してブラウスを縫製し、このブラウスの袖を身頃の中に折込み、これにプリーツ加工を行って袖と身頃にそれぞれ異方向のプリーツを施すことを特徴とするブラウスのプリーツ加工方法」が記載されており、明細書中には、この発明は、「プリーツを施した衣料品の改良された製造方法に係るもので、生地を所定の形と寸法に裁断して縫製し、この縫製品を折り曲げてこれにプリーツ加工を行ったのち、前記折曲げ部分を開くことを特徴とする」ものであることが記載され、また、特許請求の範囲に記載されたブラウスのほかにスカートについても、「スカートの仕上がり寸法を想定して生地を裁断し、・・・縫製して・・・さらに折りたたんで・・・プリーツ加工し」のように例示し、半袖ブラウス、スカートについての製造のフローシートであるとする図面に折りたたんだブラウス、スカートに全体的にプリーツ加工を施すことをも示したうえで、「以上述べた半袖ブラウス、スカートのほか、長袖ブラウス、半袖および長袖ワンピース、ポロシャツなどの各種衣料品にもこの発明を適用することができる」旨開示し、
 この発明によれば、「裁断の省力化、プリーツ加工の品質と能率の向上、縫製の省力化及びファッション化に寄与する」ことができるとしている。
 本件発明と甲第3号証に記載された発明とを対比すると、甲第3号証に記載された「生地」が本件発明の「布地」に相当することは前記広辞苑の記載を参照するまでもなく明らかであり、甲第3号証に記載された「袖を身頃の中に折り込み」は、本件発明の「パーツを折り込んだまま」に相当するものと認められ、さらに、甲第3号証にはプリーツ加工を施す製品としてブラウスのみならずスカート、ポロシャツなどの各種衣料品が示されていることから、甲第3号証には本件発明と同じ「プリーツ製品の加工法」に係る発明が記載されているものと認めることができる。
 そこで、再び本件発明と甲第3号証に記載された発明との対比、検討に戻ると、
 本件発明と甲第3号証に記載された発明とは、裁断された布地を縫製して所望の外形に成形した後、パーツを折込んだままプリーツ加工を全体的に施してなるプリーツ製品の加工方法である点で一致しており、
 本件発明が布地をパーツに裁断し、パーツを縫製して所望の外形に成形するのに対し、甲第3号証に記載された発明は袖と身頃を一体に裁断して、脇、衿口、袖口、裾等を縫製している点で一応の相違がある。
 さらに、上記相違点について検討すると、本件発明において「パーツに裁断し」とは、たとえばTシャツの場合、「前身頃と後身頃の2つ」に裁断することであり、ブラウスの場合、「左右の袖、左右の前身頃、左右の後身頃」に裁断することであり、スカートの場合、「扇形に裁断した1枚のパーツ」とすることであることからすれば、プリーツ製品を得るための布地を所定の形状に裁断することを意味しているものと解されるので、甲第3号証に記載された袖と身頃を一体に裁断することもまた本件発明でいう「パーツに裁断し」の概念に含まれるものとするのが相当であり、これを縫製により所望の外形に成形している点で両者に実質的な差異はないことになる。
 したがって、本件発明は甲第3号証に記載された発明と同一で あって、特許法29条1項3号の規定に違反して特許されたものであるから、同法123条1項1号の規定に該当し、これを無効とすべきものである。
2 東京高裁は、審決の以上の認定判断に誤りはないとし、原告の主張を認めず、請求を棄却した。これによって、本件特許の無効は確定した。

[牛木理一]