C1-10

 

 

「小熊タオルセット」商品形態・損害賠償請求事件:大阪地裁平成7年(ワ)10247号平成10年9月 10日判決(認容)

〔キーワード〕 
商品形態の模倣、商品形態の実質的同一性、原告による他人商標権の侵害、原告の損害発生と損害額

 

〔判示・認定事項〕 

  1. 原告及び被告の商品は、いずれも包装箱又は籐カゴに収納された状態で展示され、購入されるものであるから、その商品形態は、収納状態のものを中心にとらえるのが相当である。
  2. 原告商品一ないし六と、被告旧商品一ないし六及び被告新商品一ないし六とは、全体としてそれぞれ実質的に同一の形態であると認めるのが相当である。
  3. 原告商品の販売開始は、被告商品の販売開始の約11か月前であり、被告が被告商品を製造するに当たっては既に販売されていた原告商品を参考としたこと、小熊をモチーフとするタオルセットの形態には、他に選択する余地があり得るにもかかわらず、形態も取り合わせも実質的に同一の商品を販売したことからすると、被告は、被告商品を製作するに当たり、原告商品を主観的に模倣したものと推認される。
  4. 不正競争行為の被害者に他人の商標権を侵害する点があったとしても、それだけでは直ちに当該被害者が不正競争行為者に対して不正競争防止法上の権利を主張する妨げとはならないと解すべきである。けだし、不正競争防止法は事業者間の公正な競争を確保するために、一定の行為類型を不正競争行為とし、それを規制したものであって、この趣旨を実現するためには右のように解することが必要で、また、右被害者自身の商標権侵害行為は不正競争行為とは別個の法律関係であって、商標権者と右被害者との間において別途規律されることが可能で、それで足りるからである。
  5. 不正競争防止法の趣旨からすれば、不正競争行為の被害者による商標権侵害行為自体が、単に第三者との間での別途の規律に委ねるだけでは足りず、被害にかかる不正競争行為を事実上容認することとなっても、なおかつ規制する必要があると考えられる程度の強い違法性を有する場合には、当該被害者が不正競争防止法上の権利の主張をすることが許されない場合もあると解される。
  6. 原告の商標権侵害の点は、本件とは別途に原告と商標権者との間で規律されるべきもので、現に両者間では和解契約によって解決が図られ、和解金も支払われているから、原告は被告との関係では、なお賠償されるべき逸失利益があるというべきである。
  7. 不正競争防止法5条1項は、不正競争行為を行った者が当該行為により受けた利益の額をもって、営業上の利益を侵害された者の損害の額と推定する旨規定しているところ、この推定は、被害者と競争関係にある不正競争行為者が、不正競争行為によって現実に利益を得ている場合には、被害者も、不正競争行為がなかったならば、同程度の利益を得ることができた蓋然性があるとの社会認識に基づくものと解されるから、ここにいう不正競争行為者が得た利益の額は、右社会認識に照らして、その額が被害者の損害の額(換言すれば逸失利益の額)と推定される性質のものであることを要し、不正競争行為者の得た利益の額を算定するためにその売上額から控除すべき費用も、不正競争行為によって販売されたのと同量の商品を被害者が販売した場合の被害者の逸失利益の額を算定するに当たって、どのような費用を控除すべきであるかを考慮に入れた上で判断することが相当であると解される。
     被害者の逸失利益の額を算定する場合にあっても、その売上を得るためには、仕入原価の他、相応の販売費及び一般管理費も必要となるのが通常であると考えられるから、特段の主張立証がない限り、不正競争行為者が受けた利益の額を算定するに当たっても、その売上額から右費用を控除するのが相当である。

 

〔事  実〕

 

 原告(MP社)は、平成6年6月頃から、「BEAR'S CLUB」と題する別紙原告商品目録記載の一ないし六のタオルセット(以下、「原告商品一」ないし「原告商品六」という。)を販売している。
 被告(S社)は、平成7年5月頃から同年8月頃までの間、「DECOTBEAR'S COLLECTION」と題する別紙被告商品目録一記載の一ないし六のタオルセット(以下、「被告旧商品一」ないし「被告旧商品六」という。)を販売した。
 また、被告は、平成7年8月頃から平成8年1月頃までの間、被告旧商品に代えて、別紙被告商品目録二記載の一ないし六のタオルセット(以下、「被告新商品一」ないし「被告新商品六」という。)を販売した。
 これに対し原告は、被告が販売した被告旧商品一ないし六及び被告新商品一ないし六は、それぞれ原告が販売する原告商品一ないし六を模倣したものであるから、被告商品の販売行為は、不競法2条1項3号の不正競争行為(形態模倣行為)に該当するとして、同法4条に基づいて、原告の被った損害の賠償を求めた。

〔争  点〕

1. 被告商品は原告商品を模倣したものか。
2.原告商品の形態は、第三者の商標権を侵害するものか。また、その場合でも、原告商品の形態は本号により保護されるか。
3. 原告に損害は生じているか。
4.原告が被告に対して請求し得る損害の額。

 

〔判  断〕

 

一 争点1(被告商品は原告商品を模倣したものか。)について
(一) 〈証拠〉及び弁論の全趣旨によれば、原告商品と被告商品の具体的形態は、包装箱又は籐カゴに収納された状態において別紙原被告商品比較表二のとおりであると認められる。なお、これらの商品は、いずれも包装箱又は籐カゴに収納された状態で展示さ
れ、購入されるのであるから(証拠)、その形態は、右収納状態のものを中心にとらえるのが相当である。
(二) 右認定にかかる原告商品と被告商品の形態上の同一性については、次のように考えられる。
(1) 包装箱に収納された状態の原告商品を正面から見た場合に、形態上の最も大きな特徴として看取されるのは、小熊の人形と小熊の絵が描かれたタオルがそれぞれ大きなブロックを形成し、それらが組み合わされて全体としての商品を構成しているという点である。
ア このうち、小熊の人形については、原告商品及び被告商品は、その大きさ、色及び表情についてほぼ同一のものであり、加えて、左耳の上にい白ポンポンのついた赤色の三角錐状の帽子をかぶせている点、胸部分に丸い輪のタオルハンガーが取り付けられている点も同一であり、これらは小熊の人形を特徴づけており、見る者の注意を惹くところでもあるから、全体としてほぼ同一の形態であるということができる。
 被告は、小熊が持っているアクセサリーの相違、タオルハンガーの色の相違を指摘する。しかし、まずアクセサリーについては、原告商品では杖状であり、被告商品では袋状であるといった違いがあるものの、いずれも小熊が両手で持つように配置されている上に、いずれも色彩が赤色と白から成っているものであって、前記のような小熊の人形自体の全体的な同一性に照らすと、些細な相違にとどまるというべきである。また、タオルハンガーについても、色彩において原告商品では赤茶色、被告商品では茶色がかった黄色といった差異があるものの、その形状、大きさ及び取付場所はほぼ同一であり、さらに前記の
ような小熊の人形自体の全体的な同一性に照らすと、やはり些細な相違にとどまるというべきである。
イ 次に小熊の絵が描かれたタオルについては、原告商品と被告商品のいずれにおいても、白地のタオルに数頭のかわいい小熊の絵が描かれている点、小熊の色が茶色である点、その服と帽子の色が赤、青、緑及び黄の組合せから成っている点、熊の絵の間には「BEAR」を中心とするロゴが記されている点が共通しており、これらの点は、タオルの柄を構成する基本的部分であって、形態上の印象の強い部分というべきである。
 もっとも、原告商品と被告商品とでは、被告指摘のとおり、描かれた小熊の絵、色、姿勢、服装及び小熊の数並びにロゴの文字に異なる点がある。しかし、これらの相違点は、前記の基本的部分の共通点やアで指摘した小熊の人形の同一性に照らせ
ば、小さな相違にとどまっているものというべきである。
 したがって、タオル自体についても、類似性の強い形態であるというべきである。
ウ 小熊の人形及びタオルの組合せについても、原告商品1ないし6はそれぞれ被告旧商品1ないし6と商品の構成が全く同一であり、大きさもほぼ同一である。もっとも、原告商品と被告商品とでは、タオルと小熊の人形の配置が左右逆となっているが、形態がほぼ同一の小熊の人形とタオルが同じ取り合わせで包装箱の中に収納されていることを考えれば、左右が逆になっていることは、形態上の大きな相違とはならない。
 また、被告新商品1ないし6は、原告商品と比べて、ピンク地に赤白のハートの模様が多数散りばめられたキッチンクロスが小熊の人形の下部に配されている点が異なる。このキッチンクロスは、その余の部分と明らかに色彩や模様が異なり、その占める面積も比較的大きなことから、その相違を軽視することはできないように考えられなくもない。しかし、原告商品も被告商品も、かわいい小熊をモチーフとするタオルセットであって、ほぼ同一の形態の小熊の人形を包装箱の左右又は中央に配置し、その横に類似性の強い形態のタオルを配置している状況においては、小熊とは形態上の関係がないキッチンクロスの比重は相対的に低くなるというべきであり、その存在を考慮しても、なお商品全体の形態上の同一性を失うまでには至らないと判断される。
 その他、商品の外装として、原告商品と被告商品とでは、包装箱の色彩がいずれも赤、白及び青の三色から成る点も共通しており(ただし模様は若干異なる。)、籐カゴのついている商品については、包装箱の上面と前面が切り抜かれて、透明のプラスチックが貼られている点も共通している。
(2) 被告は、主として小熊の人形が持っているアクセサリーの色、タオルの柄及びキッチンクロスの存否の相違から、原告商品では全体として活発な男の子の印象を与えるのに対し、被告商品では全体としてかわいい女の子の印象を与えると主張する。たしかに、子細に観察すれば、タオルにおける小熊の絵の相違からそのような印象の差が生じることは理解できる。しかし、原告商品も被告商品もその第一印象は、小熊をモチーフとしたかわいらしいタオルセットというものであって、被告が指摘する印象の差は、両者を子細に見比べた上でようやく理解できることである。したがって、この点を重視することはできない。
(3) 以上を総合すれば、原告商品1ないし6と、被告旧商品1ないし6及び被告新商品1ないし6とは、全体としてそれぞれ実質的に同一の形態であると認めるのが相当である。(三) また、原告商品の販売の開始は、被告商品の販売開始の約 11か月前であり、被告が被告商品を製造するに当たっては既に販売されていた商品を参考としたこと(証人S)、小熊をモチーフとするタオルセットの形態には、他に選択する余地があり得るに
もかかわらず形態も取り合わせも実質的に同一の商品を販売したことからすると、被告は、被告商品を製作するに当たり、原告商品を主観的に模倣したものと推認される。
(四) 以上により、被告商品は、原告商品の形態を模倣したものと 認められる。
2 争点2(原告商品の形態は第三者の商標権を侵害するものか。また、その場合でも、原告商品の形態は本号より保護されるか。)について
(一) 後掲各証拠によれば、次の事実が認められる。
(1) 原告商品中のタオルには、「BEAR'S CLUB」とのロゴが包装箱 に収納された状態で外から見えるように記されており、それが商品名となっている(証拠)。
(2) MI社は、別紙商標目録記載の商標権を有している(証拠)。
(3) MI社は、本件訴訟が提起(平成7年10月11日)された直後に出た本件訴訟に関する新聞記事により原告商品の存在を知り、原告に対して、原告商品の販売が自己の商標権を侵害する旨のクレームをつけた(原告代表者本人)。そこで、原告は、平成7年12月11日、MI社との間で和解し、原告商品の製造販売がMI社の商標権を侵害したことを認めるとともに、当該商品の製造を中止することを約し、併せて和解金として販売価格(合計1億5295万3200円)の3パーセントに当たる458万8596円を支払った(証拠)。
(4) 原告は、右和解後、原告商品の商品名及びタオルのロゴを、「BEAR'S TRIO」と変更した。(証拠、弁論の全趣旨)。
(二) 右認定によれば、「BEAR'S CLUB」の商品名を付した原告商品を販売することはMI社の商標権を侵害するものであったといわざるを得ないところ、被告は、本件において原告が不正競争防止法による保護を主張している原告商品の形態中には、MI社の商標権を侵害する部分が含まれていたことを根拠に、自ら商標権侵害によって取引秩序を乱した原告に、当該侵害商品の形態の保護を求める資格はないと主張する。
 しかしながら、不正競争行為の被害者に他人の商標権を侵害する点があったとしても、それだけでは直ちに当該被害者が不正競争行為者に対して不正競争防止法上の権利を主張する妨げとはならないものと解すべきである。けだし、不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を確保するために、一定の行為類型を不正競争行為とし、それを規制したものであって、この趣旨を実現するためには、右のように解することが必要であり、また、右被害者自身の商標権侵害行為は、不正競争行為とは別個の法律関係であって、商標権者と右被害者との間において別途規律されることが可能であり、それで足りるからである。もっとも、不正競争防止法の前記趣旨からすれば、不正競争行為の被害者による商標権侵害行為自体が、単に第三者との間で別途の規律に委ねるだけでは足りず、被害にかかる不正競争行為を事実上容認することとなっても、なおかつ規制する必要があると考えられる程度の強い違法性を有する場合には、当該被害者が不正競争防止法上の権利の主張をすることが許されない場合もあるものと解される。
 先に認定した事実によれば、本件でMI社の商標権を侵害したのは原告商品の形態のうち「BEAR'S CLUB」のロゴの部分であり、原告商品の形態全体からすれば枝葉に属する部分であるにすぎず、また原告は、本訴提起後にMI社からクレームが寄せられると、約2か月後には和解契約を締結し、商品名及びロゴを変更するとともに和解金を支払っているのであって、これらの事実からすれば、本件で原告が不正競争防止法に基づき原告商品の形態の保護を求めることは、なお妨げられないというべきである。
(三) 以上により、争点2に関する被告の主張は理由がない。
3 争点3(原告に損害は生じているか。)について
 〈証拠〉及び原告代表者本人の供述によれば、原告商品と被告商品とは市場において現実に競合しているものと認められるから、原告には、被告の不正競争行為によって損害が生じていると認められる。
 被告は、原告商品がMI社の商標権を侵害するものであり、その販売によって得た利益はMI社への損害賠償債務として消えるべきものであるから、原告には賠償されるべき逸失利益がないと主張する。しかし、先に2で述べたとおり、原告の商標権侵害の点は、本件とは別途に原告とMI社との間で規律されるべきものであり、現に両者の間では和解契約によって解決が図られ、和解金も支払われているのであるから、原告は、被告との関係では、なお賠償されるべき逸失利益があるというべきである。
4 争点4(原告が被告に対して請求し得る損害額)について
(一) 本件で原告は、不正競争防止法5条1項による損害額の推定を主張しているところ、被告が、平成7年5月から平成8年1月の間に、被告商品を販売して合計6918万4000円の売上げを得た点は、当事者間に争いがない。
(二) 不正競争防止法5条1項は、不正競争行為を行った者が当該行為により受けた利益の額をもって、営業上の利益を侵害された者の損害の額と推定する旨規定しているところ、この推定は、被害者と競争関係にある不正競争行為者が、不正競争行為によって現実に利益を得ている場合には、被害者も、不正競争行為がなかったならば、同程度の利益を得ることができた蓋然性があるとの社会認識に基づくものと解される。したがって、ここにいう不正競争行為者が得た利益の額は、右社会認識に照らして、その額が被害者の損害の額(換言すれば逸失利益の額)と推定される性質のものであることを要し、不正競争行為者の得た利益の額を算定するためにその売上額から控除すべき費用も、不正競争行為によって販売されたのと同量の商品を被害者が販売した場合の被害者の逸失利益の額を算定するに当たって、どのような費用を控除すべきであるかを考慮に入れた上で判断することが相当であると解される。もっとも、被害者の逸失利益の額を算定する場合にあっても、その売上を得るためには、仕入原価の他、相応の販売費及び一般管理費(以下「販管費」という。)も必要となるのが通常であると考えられるから、特段の主張立証がない限り、不正競争行為者が受けた利益の額を算定するに当たっても、その売上額から右費用を控除するのが相当である。
 原告は、販売された被告商品と同数の原告商品を原告が製造販売したとしても、人件費、製造管理費及び一般管理費が原告が実際に支出したよりも更に増額する必要はなかったとして、被告が得た利益の額を算定するに当たっては、その売上額から仕入額の
みを控除すべきであると主張する。
 〈証拠〉、原告代表者本人及び証人Sの供述並びに弁論の全趣旨によれば、被告が被告商品の製造販売を開始した平成7年5月の時点においては、原告商品のプリント型や包装用外箱のデザインは完了していたこと、原告商品のほとんどは贈答用品の問屋及び小売店を通じて販売され、カタログ販売による販売も多少はなされていたこと、原告においては、タオル等の製造は下請業者に委ね、小熊の人形は中国から輸入し、それを自社内で商品として完成させ、自社の物流センターから全国の問屋等に発送していたこと、原告商品の売上数の推移は、別紙「原告商品及び被告商品の売上推移表」中の「原告商品」欄のとおりであり、被告商品の売上数の推移は、同別紙中の「被告商品」欄のとおりであることが
認められる証拠中、被告商品の売上数について右認定に反する部分は採用しない。
 右認定によれば、被告商品の販売が開始される以前の時点での原告商品の最大出荷量は、平成7年3月の月間2万4834個であり、この限度までは下請業者の生産能力の範囲内といってよいが、仮に原告が被告商品と同量の原告商品を販売したとした場合には、月間売上量は、最高で3万1372個に達していた(平成7年9月、全記別紙中の「合計」欄参照。)のであるから、右によって証明された下請業者の製造能力を大きく上回ることとなり、それに伴って、諸費用を必要とすることになったと考えられる。また、右認定によれば、原告においては、タオルや小熊の人形の製造は外部に発注していたものの、商品の完成は自社内で行っており、また、完成した商品の販売は問屋や小売店を経由するのが大多数であり、それらへは原告の流通センターから発送していたのであるから、被告商品の販売量を前提にすると、それだけの売上数が増加すれば、それに伴って製造諸経費や販売諸経費、人件費等の諸経費が追加的に必要となったであろうことはほぼ明らかというべきである。
 したがって、本件において被告が受けた利益の額を算定するに当たって、被告商品の売上額から仕入額のみを控除すべきであるとする原告の主張は採用できない。
 しかるところ、被告が、被告商品を仕入れるために仕入代金として合計5826万6000円を支払った点は、当事者間に争いがない。
 また、〈証拠〉及び証人Sの証言によれば、被告が前記売上を得るに際しては、仕入費用のほかに、カタログ作成費、宣伝広告費、人件費等の相応額の販管費を要したものと認められるところ、その額を明確に示す資料はないが、〈証拠〉によれば、被告が被告商品を販売していた期間を含む平成7年4月1日から平成8年3月31日の間における、純売上高に対する販管費の比率は、13.409%であったと認められることから、被告が被告商品を販売するに当たっても、同程度の比率の販管費を要したものと推認するのが相当であり、この推認を覆すに足りる証拠はない。したがって、被告が被告商品を販売するのに要した販管費は、前記売上額に右比率を乗じた927万6883円と認められる(69,184,000*0.13409=9,276,883)。
 そして、他に被告が被告商品を販売するに当たって費用を要したと認めるに足りる証拠はないから、被告が被告商品を販売することによって得た利益は164万1117円と認められる(69,184,000-58,266,000-9,276,883=1,641,117)。
(三) また、原告が本件訴訟を提起・追行するに当たり、弁護士を 代理人として選任したことは当裁判所に顕著であるところ、本件事案の性質、内容、審理の経過、訴訟の結果及びその他諸般の事情を総合考慮すると、被告の不正競争行為と相当因果関係のある
損害として認められる弁護士費用は、40万円とするのが相当である。
(四) 以上により、原告が被告に対して請求し得る損害額は、204万1117円と認められる。
第五 結論
 以上によれば、原告の被告に対する請求は、204万1117円及びこ れに対する平成8年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払いを求める限度で理由がある。

〔研  究〕

1. 判決は、原告及び被告の主張にもかかわらず、両者商品の具体的形態は、包装箱又は籐カゴに収納された状態で展示され、購入されるものであるから、収納状態のものを中心にとらえるのが相当であると考えた。また、両者商品の具体的形態についての「比較表一」は、当事者の主張に基いて作成されているが、裁判所は独自の認定判断に基いて「比較表二」を作成したのである。
 そして、包装箱に収納された状態の原告商品を正面から見たとき、形態上のもっとも大きな特徴として看取されるものは、小熊の人形と小熊の絵が描かれたタオルがそれぞれ大きなブロックを形成し、それらが組み合わされて全体としての商品を構成している点にあると認定し、原告商品1〜6に対応する被告の旧新商品各1〜6は、子細な点で相違するとしても、その第一印象は小熊をモチーフとしたかわいらしいタオルセットであるから、全体として実質的に同一の形態であると判断したのである。
 また、被告は原告商品を見て製造したと自白していることから、被告は原告商品の形態を模倣したことは明らかであると認定され、商品形態の模倣による不正競争行為は肯認された。
 しかし、原告と被告との各商品形態を対比した表を見ると、各部分において相違している点も認められるから、同判決は形態の「実質的同一性」とは、看者が「酷似」と見る範囲にあるものをいうと解しているといえる。その意味では、ドラゴンスウォード・デザインの「キーホルダー」事件における東京地裁平成8年12月25日判決による理由と共通する考え方をしているように見える。
 この「キーホルダー」事件の一審判決は、東京高裁の控訴審において原判決取り消しの逆転判決を受けた。つまり、いわゆる類似の範囲までは不正競争防止法2条1項3号の規定は及ばないことを、控訴審判決は判示したのである。
2. 本事件の審理中に、原告は、その販売商品に使用した商標が第三者の商標権を侵害をしていたことから、商標権者から警告を受けた。しかし、和解金を支払って和解し、その商標の使用を中止した事実を被告が明らかにした。
 これについて裁判所は、それは本事件とは関係のない問題であるとしたが、「規制する必要があると考えられる程度の強い違法性を有する場合」には、原告が不競法上の権利の主張をすることが許されない場合もあると判示した。これについて判決は、具体的にどのような場合をいうのかについては触れていないが、客観的にみて権利濫用に当たるといえるような権利行使の場合を予想しているのであろう。
3. ところで、判決は、この事件の商品形態とは、人形やタオルの個別商品について認定するものではなく、包装箱や籐カゴに収納した状態のものについて認定したが、この事案はタオルのみならず人形も一緒に収納した包装状態に対する保護といえるから、単に個別の商品形態の模倣の問題を離れた商品の販売形態の模倣にまで及んだ事例といえるだろう。
 しかし、それにしては「比較表二」を見ると、個別商品について子細な部分にわたって対比しているのは、矛盾することにならないか。しかも、収納した包装状態の態様について対比した記述はなされていないのはどうしたのだろうか。
4. もしタオルだけのセットの場合、包装箱又は籐かごに折畳まれた状態で収納されていたのを対比して見たとき、そこに小熊の絵の一部が見えたとしても、タオル全体を展開して見たときは小熊の描示態様が全然違っていることもあろう。この判決によれば、そのようなことは考えず、あくまでも収納状態における外観が商品形態の模倣の対象ということになるが、果してそのような考え方は妥当であろうか。
5. 損害賠償金額の算定は、弁護士費用の低さを除けば妥当であろう。

[牛木理一]