C1-1

 

 

「フォーミュラー・テーブル」商品形態・損害賠償請求事件: 大阪地裁平成6(ワ)2845号.平成7年 7月11日判決(棄却)

〔キーワード〕 
商品の形態、商品の機能、一定期間独占的に販売、強力に宣伝・広告、出所表示機能、周知性、F1とF3で使用するタイヤ、カーレースマニア、自他商品の混同

 

〔判示・認定事項〕 

  1. 商品の形態は、商品の機能を効率的に発揮させる等の目的のために選択されるものであり、本来的に商品の出所を表示することを目的とするものではないが、商品の形態が特異なものであるとか、その商品が一定期間独占的に販売されてきたとか、商品の形態について強力に宣伝広告がされてきたこと等の事情により、特定の主体の製造販売する商品であるとの出所表示機能を取得し、この商品表示性を取得した商品の形態が周知性を獲得するに至ることがある。
  2. 被告商品が発売された時点では、原告商品の形態はまだ商品表示性も周知性も得ているとは認められないと認定した。
  3. 英国で製造販売されており、被告商品はその輸入品であったとしても、これが原告商品の販売前に日本国内において販売されたという証拠はないから、原告商品の形態の商品表示性や周知性の取得が消極に働くものではない、と判示した。
  4. F1とF3で使用するタイヤは全然違うから、使用済みのタイヤを使ったテーブルを、需要者であるカーレースマニアが自他商品の混同を生ずるとは考えられないと認定した。 

 

〔事  実〕

 

原告(A社)は、平成4年1月20日以降、別紙第1物件目録記載の商品名「フォーミュラー・テーブル」を製造販売している。
被告(F社)は、平成 4年10月頃から平成5年3月2日までの間、 別紙第2物件目録記載の商品名「F1タイヤテーブル」をテレビ広告により2回通信販売した。
これに対し原告は、原告の前記テーブルの形態は、平成4年夏頃 には、不正競争防止法2条1項1号にいう商品表示として、需要者間 に周知になっていたが、被告商品の形態は原告商品の形態に類似し、原告商品との間に混同を生じさせたとして、被告に対し原告が被った損害金2,340万円の支払を請求した。

〔争  点〕

1.原告商品の形態は、平成4年10月の時点において、商品表示性 を取得し、周知性を獲得していたか。
2.被告商品の形態は、原告商品の形態に類似し、原告商品との間に混同を生じさせたか。
3.被告が損害賠償責任を負う場合に、被告が原告に賠償すべき損害額。

 

〔判  断〕

 

一.争点1.に対して

1.商品の形態は、商品の機能を効率的に発揮させる等の目的のために選択されるものであり、本来的に商品の出所を表示することを目的とするものではないが、商品の形態が特異なものであるとか、その商品が一定期間独占的に販売されてきたとか、商品の形態について強力に宣伝広告がされてきたこと等の事情により、特定の主体の製造販売する商品であるとの出所表示機能を取得し、この商品表示性を取得した商品の形態が周知性を獲得するに至ることがあるので、原告主張の原告商品の形態について、以下検討する。

2.(一) 〈証拠〉及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1)原告商品の開発の経緯について
 原告代表者は、ガラステーブルについては、ガラス板は天板で形態の開発の余地が少ないので、フレームの形態につきアルファベットの24文字の形を念頭に置いて開発することとし、昭和51年頃、アルファベットのOの形に対応するものとしてタイヤをフレームとして利用するテーブルを考え付いたが、タイヤは揮発性が強く、臭いが出るおそれがあるのでテーブルに利用するのには向かないと考え、直ちに商品化することはしなかった。
 しかし、原告代表者は、平成2年頃、従業員から、レースに使 用済みのタイヤなら揮発性の臭いは飛んでいるであろうし、多少臭いが残っていた方がマニアは喜ぶのではないかと指摘され、商品化に踏み切ることにした。
 このように、原告商品は、カーレースマニアを購買層と予定して開発したものであった。
(2)原告商品の形態
 原告商品の形態は、F3レースで使用済みのブリヂストン社製のタイヤをテーブルフレームとして使用し、円形の強化ガラスをテーブル面として使用したテーブルである。タイヤは、上面に白字で「BRIDGESTONE 」「G'GRID」(又は、V'GRID)と書かれており、表面は平滑であり、高さ(幅)約27センチメートル、直径約57センチメートルである。
(3)原告商品の販売実績
 原告は、平成3年中に原告商品を開発し、平成4年1月20日、西武ロフト梅田店においてテスト販売したところ、好評であったため、その後、現在に至るまで、別紙売上表(一)記載のとおり、店頭販売で600個(主として首都圏と関西圏で店舗数25店)、通信販売で738個の合計1338個を販売した。
 このうち、被告が被告商品の一回目の通信販売をした平成4年 10月20日までの売上実績は、別紙売上表(二)記載のとおりであって店頭販売個数254個(店舗数18店)、通信販売個数248個の合計502個である。
(4)原告商品についての宣伝広告等
 原告は、平成4年4月16日発行の商品情報誌「モノマガジン」の「情報号」(「一冊全部が新製品情報」と表紙に記載されている。)に、原告商品を新商品として提供した。同誌52頁に、他の12の商品とともに原告商品の写真(斜め上方から撮影したもの)が掲載され、「鈴鹿サーキットで使われたF3用タイヤにガラス板を乗せたテーブル。15,000円西武百貨店池袋店池袋ロフト」と説明文が付されている。
 原告はまた、丸井発行の商品情報誌「Voi」1992年秋冬号に、原告商品を新商品として提供した。同誌126頁に、他の9の商品とともに原告商品の写真(斜め上方から撮影したもの)が掲載され、「フォーミュラーテーブル(限定30台)15,000円 F3レースで使用済みのタイヤです。表面のキズもレースの迫力を感じさせてくれます。」等の説明文が付されている。
(5)社団法人日本家具デザインセンターの「公開広報」
 原告は、平成4年1月6日、社団法人日本家具デザインセンターに対し原告商品の「デザイン保全登録」を申請し、同年4月1日、同センターにより「デザイン保全公開広報」に掲載された。
 同センターは、家具類のデザイン資料の収集、整備及び提供、家具類のデザインの保全登録及び記録、保全登録に係る紛争の調・査及び調停等を事業内容とする家具業者、家具金物業者の自主規・制団体であり、その会員数は平成4年7月31日現在で賛助会員、特・別会員を含め207名である。
 この「公開広報」の内容は、家具製造業者、取引業者の業界紙「ホームワールド」「ニューファニチャー」等に掲載される。

2.(二) 一方、〈証拠〉及び弁論の全趣旨によれば、イギリスでは、原告商品が開発される以前である1970年(昭和45年)代初頭から、F1レースで使用されるタイヤを製造しているグッドイヤー社が F1レースで使用済みのタイヤを回収し、同社から供給を受けた業者がこれに丸い強化ガラスをおいて、コーヒーテーブルの名称で販売していること(被告商品はこれを輸入したものである。)、株式会社徳間書店発行の雑誌「グッズプレス」平成3年10月号には、 F1レースマニアが、個人的に入手したF1レースで使用済みのタイヤの上にガラスを置いてテーブルとして使用していることが紹介されていることが認められる。
 また、〈証拠〉及び弁論の全趣旨によれば、A社が、平成6年5月頃、F1レースで使用済みのタイヤをテーブルフレームとして使用し、円形の強化ガラスをテーブル面として使用したテーブルを販売したこと、これについて原告が前記社団法人日本家具デザインセンターに調停を申し立て、A社が右商品の販売について被告に対し売上の 1パーセントのロイヤリティを支払うことで合意が成立したことが認められる。

3.右認定事実に基づき、原告商品の形態が商品表示性、周知性を取得したか否かについて検討するに、そもそも、原告商品は、F3レースで使用済みのブリヂストン社製のタイヤをテーブルフ レームとして使用し、円形の強化ガラスをテーブル面として使用するものであって、テーブルとしての使い易さ、機能性よりは、実際のF3レースで使用済みのタイヤを使用しているという面白さにより消費者を引き付けることを狙ったいわばアイデア商品というべきものであって、その形態には相当の特異性は認められる。
 しかし、原告が原告商品の販売を開始した平成4年1月20日から被告が被告商品の一回目の通信販売をした同年10月20日まではわずか9か月に過ぎず、その間の原告商品の販売個数は、店頭販売で 254個(店舗数18店)、通信販売個数248個の合計502個であって、 原告商品が殊更カーレースで使用済みのタイヤを使用したものであることからその購入者はカーレースマニアに限られるにしても、多数とはいえず、原告商品の宣伝広告も、前記2.(一)(4)認定の平成4年 4月16日発行の商品情報誌「モノマガジン」の「情報号」及び丸 井発行の商品情報誌「Voi」1992年秋冬号への商品提供、掲載にとどまる(しかも、その掲載された頁において、13又は10の新商品の一つとして紹介されたものに過ぎず、原告商品の写真が占めるペースも小さい。)ものであるから、未だ原告商品の形態が原告の商品であることを示すものとして商品表示性を取得したとも、これが周知性を獲得したとも認められないというべきである(この関係で、原告商品が前記2.(一)(5)認定のとおり社団法人日本家具デザインセン ターの「公開広報」によって公開され、その「公開広報」の内容が家具製造業者、取引業者の業界紙「ホームワールド」「ニューファニチャー」に掲載されたことは、原告商品の需要者がこれらの業界紙を購読するとは考えられないから、原告商品の形態の商品表示性、周知性の取得に積極に働くものではないといわなければならない。なお、前記2.(二)認定の、イギリスにおいて1970年(昭和45年)代初頭からF1レースで使用済みのタイヤの上に丸い強化ガラスを置いたテーブルがコーヒーテーブルの名称で販売されていたこと、株式会社徳間書店発行の雑誌「グッズプレス」平成3年10月号に、 F1レースマニアが、個人的に入手したF1レースで使用済みのタイヤの上にガラスをおいてテーブルとして使用していることが紹介されていることは、いずれも原告商品の販売前に日本国内においてこれらが商品として販売されていたことを示すものではないから、右商品表示性、周知性の取得に消極に働くものではない。)。
 したがって、原告の商品形態が平成 4年10月の時点において商品表示性、周知性を取得していたことを前提とする原告の請求は、この点で既に理由がないことになる。

二.争点2.に対して

のみならず、仮に原告商品の形態が商品表示性、周知性を取得していたとすれば、原告商品の購入者はカーレースマニア等に限られること、前記2.(一)(4)認定の原告商品の宣伝広告においても、 F3レースで使用済みのタイヤを使用していることを売り物にしていることに照らし、その原告商品の形態の商品表示性は、テーブルフレームについては、単に「実際のカーレース」で使用済みのタイヤを使用しているという純粋な意味での形状ではなく、「F3レース」で使用済みのタイヤを使用している(上面に「BRIDGESTONE」 「G'GRID」(又は「V'GRID」)と白字で書かれている。)という点にあるというべきである(原告は、商品表示として周知性を獲得した原告商品の形態として、テーブルフレームについては、実際の F3レースで使用済みのタイヤを使用している点において形態上の特徴を有していると主張する一方、実際のカーレースで使用済みのタイヤを使用しているという形態が、その製造、販売者は原告であるという出所表示機能を取得したものであるとも、使用タイヤが F3レースで使用済みのものであるかF1レースで使用済みのものであるかは、タイヤの希少価値の程度から価格に影響を及ぼすだけであって、商品としての特徴はあくまで実際のカーレースに使用済みのタイヤを使用していることにあるとも主張するが、カーレースの種類を捨象した「実際のカーレース」で使用済みのタイヤというのではなく、あくまで「F3レース」で使用済みのタイヤを使用しているという点に商品表示性が認められることは右説示のとおりである。)。
 そして、右のように「F3レース」で使用済みのタイヤをテーブルフレームとして使用し、円形の強化ガラスをテーブル面として使用するという原告商品の形態が仮に商品表示性、周知性を取得していたとしても、以下のとおり、被告商品と原告商品との間で混同を生じたものとは認められない。

1. 原告商品の形態は前記一.2.(一)(2)認定のとおりであり、その価格は15,000円である。
〈証拠〉及び弁論の全趣旨によれば、被告商品の形態は、F1レースで使用済みのグッドイヤー社製のタイヤをテーブルフレームとして使用し、円形強化ガラスをテーブル面として使用したテーブルというものであり、その価格は78,000円であること、タイヤは、上面に白字で「EAGLE 」「F1」「GOODYEAR」と書かれ、表面が平滑なもの(ドライタイヤ)と溝が設けられているもの(レインタイヤ)があり、高さ(幅)18インチすなわち約45.7センチメートル、直径約62センチメートルであることが認められる。

2. 〈証拠〉及び弁論の全趣旨によれば、以下の(一)ないし(六)の事実が認められる。
(一)F1レースは、フォーミュラー・カーレースの最高峰といわれ、世界各地を転戦して一年間に16回開催されるもので、費用も一年間に数十億円かかる。F1レースのドライバーは、一年間に数億円の費用を賄うためのスポンサーがつくような、他のレースで実績を積んだ者に限られ、世界で約20数名しかいない。F1レースは世界数十か国でテレビ中継されており、そのテレビ・中継を見る者は世界で一年間に約40億人に、スポーツニュースによる等、何らかの形でF1レースを見る者は世界で一年間に約170億人に達するとされる。
(二)日本では、フジテレビが独占放送権に基づきF1レースを独占・的に中継しており、商品化権や商標権も取得し、被告を含む関連会社において活発な宣伝活動を行っている。
このように、世界的に著名であることとフジテレビや関連会社による宣伝広告活動が相俟って、F1レースは日本でも人気が高い。
 日本でも、その16回のうちの1回が毎年10月又は11月に三重県 の鈴鹿サーキットにおいて、金曜日から日曜日の三日間にわたって「日本グランプリ」の名で開催されるが、平成 6年度において・、その観戦希望者は60万人ないし70万人に、そのうち抽選に当たって実際に観戦したのは約14万人に及ぶとされる。
(三)F1チームのロゴを配したトレーナー、F1レースのレーサーのヘルメットのレプリカ等、F1レース関連の商品も人気があるため、この種の商品を扱う店舗も全国に多数存在し、F1レースはそれ自体一つのビジネスの対象となっている。
(四)F1レースの車両に使用されるタイヤは、イギリスのグッドイヤー社が独占的に供給している。右タイヤは、時速300キロという高速に耐える安全性が要求されるため、幅(厚さ)が、被告商品の販売された平成4年で18インチ(なお、平成6年は15インチ)と大きいのが特徴である。グッドイヤー社はF1レース終了後、タイヤをすべて回収するので、F1レースで使用されたタイヤを入手するのは困難である。なお、グッドイヤー社の日本法人である日本グッドイヤー株式会社は、日本で通常の車両用のタイヤを販売しているが、F1レースに使用されるタイヤはグッドイヤー社のもののみであることを宣伝広告している。
(五)F3レースは、日本国内で行われるカーレースの一つである。日本国内で行われるレースの最高はF3000であり、F3000は、日本国内の各種カーレースで一定の実績を上げたレーサーが参加するもので、その参加車両については、エンジン、シャーシー等を一個一個規格に従って造ることが要求される。F3はこれよりも格が下のもので、一定以上のドライバーライセンスがあれば誰でも参加することができ、参加車両についてもF3000のような規格はない。
 したがって、F3レースは、F1レースに比べ数段格下ではるかに知名度が低く、F3レース関連の商品を対象とするビジネス・は存在しない。
(六)被告商品の通信販売が行われたのは、フジテレビの深夜の二時間番組「出たMONO勝負」であるが、同番組は、世界中の面白い物、珍しい物を紹介する情報番組であり、その中にF1コーナーがある。同番組の被告の担当者は、前記一.2.(二)認定の雑誌 「グッズプレス」の記事を見て、F1レースで使用済みのタイヤをテーブルに利用した物を販売することを思いついたものの、前・記のとおり右タイヤの入手は困難であると考えてあきらめていたところ、輸入業者から、イギリスではF1レースで使用済みのタイヤの上に強化ガラスを置いたコーヒーテーブルが販売されてお・り、これが輸入できるとの売込みがあったので、右コーヒーテーブルを輸入して同番組で通信販売することとした。
 平成4年10月20日深夜(正確には同月21日午前)に放映された 同番組では、「F1スペシャル」「F1グッズ総めくり」と銘打ち、被告商品はF1レースで使用されたタイヤを使用していること、F1で使用されたタイヤはレース後回収されるため入手が困・難であること、F1に使用されるタイヤは次の期から幅が3インチ小さくなること等が説明され、字幕で輸入元がイギリスである旨表示された。

3. 右1.、2.認定の事実に基づき検討する。
(一)被告商品は、原告商品に比べ、タイヤの幅が18.7センチメートルも大きい
(二)また、被告商品は、テーブルとしての使い易さ、機能性よりは実際のカーレースで、使用済みのタイヤを使用しているという面白さに価値を見出して購入されるものであるから、これらの商品の需要者は、カーレースマニアなどカーレースに特に関心のある者に限られると考えられる。したがって、これらの需要者は、当然カーレースの種類について詳しい知識を有しており、タイヤがいかなるレースにおいて使用されたものであるかは重大な関心事であるはずであるから、世界のフォーミュラーカーレースの最・高峰とされ日本国内でも知名度の高いF1レースと、日本国内でも格の低いカーレースに過ぎないF3レースを混同することは考えられず、価格も、このカーレースとしての格の違いを反映して、F1レースで使用済みのタイヤを使用した被告商品の価格はF3レースで使用済みのタイヤを使用した原告商品の5倍以上であるから、両商品を混同することは想定し難い。特に、被告商品は原告商品に比べタイヤの幅が大きく、また、タイヤの上面には「GOODYEAR」と書かれているが、F1レースで使用されるタイヤは、イギリスのグッドイヤー社の製造にかかるもののみであり、レースの特質上幅が大きいものであるとの認識は、カーレースマニア等の間では浸透していると推認されることを考慮すると、なおさらである。
(三) (一)にみた被告商品と原告商品の形態上の差異、(二)にみた被告商品や原告商品の需要者の特質に加え、被告は、被告商品を通信販・売するに際し、2.(六)認定のとおり、被告商品はF1レースで使用されたタイヤを使用していること等を強調していること、さらに、日本ではフジテレビが独占放送権に基づきF1レースを独占的に中継しており、商品化権や商標権も取得し、被告を含む関連会社において活発な宣伝活動を行っていることから、カーレースマ・ニア等の間では、F1関連商品については、フジテレビないしその関連会社を出所として販売されているとの認識が広まっているものと推認されることに照らし、被告商品と原告商品との間に混同を生じたものとは認められない。
 原告は、消費者としても、実際のカーレースでの使用済みタイヤを使用していることが売り文句になっている以上、使用タイヤがF3レースで使用済みのものであるかF1レースで使用済みのものであるかによって、売手が異なるなどという認識はなく、タイヤ・テーブルの種類としてしか認識していないはずであるから、F1レースの周知性は本件における混同の問題と無関係であると主張するが、F1レースとF3レースのカーレースとしての格の違いにより、被告商品や原告商品の需要者であるカーレースマニア等にとって、F3レースで使用済みのタイヤを使用している原告商品とF1レースで使用済みのタイヤを使用している被告商・品とでは決定的な差があるというべきであり、また、原告商品の形態は(商品表示性、周知性が認められるとすれば)原告の扱う商品であることを示すものとして商品表示性、周知性を取得したものであるのに対し、被告商品はフジテレビないしその関連会社を出所として販売されているものと認識されていたから、被告商品の売手が原告商品の売手と同じであるとの混同を生じたものとは考えられない。

〔研  究〕

1.商品の形態が不競法によって保護されるためには、他人がそれを模倣した場合以外は、かなり重い条件を法律は課している。
即ち、商品の形態とは、意匠法が保護する物品の形態である意匠より広い概念であると解されるが、その形態自体は本来、商品の出所を表示することを目的として創作されるものではない。
 しかし、その形態自体が特異性をもつことから自他商品の識別性を発揮する場合があるが、不競法は単に特異性だけではなく、これが需要者間に広く認識されたという周知性の取得を要求し、さらに加えて結果として混同を生ずることを要求する。
 「商品形態の保護=出所表示性(識別性)+周知性+混同性」 が、不競法による保護の三条件である。そして、多くの事件において、「周知性」がもっとも認定が困難な条件であり、この条件をクリアできないで敗北する事案が多い。
2.本事件にあっては、原告提出の証拠では、原告商品の形態が、原告商品であることの出所を示す「商品表示性」を取得したことも、また「周知性」を獲得したことも認められなかった。(第1の争点)
 しかし、裁判所は、これらの要件を取得したことを仮定して、さらに「混同性」の有無について考えた。その結果、F1とF3で使用するタイヤは全然違うから、需要者はこの2種類のタイヤをフ レームに使ったテーブルを混同することはないと判断した。(第 2の争点)
 裁判所として、あえて第2の争点にまで及んで判断したことは、第1の争点については肯定的に考えていたのかも知れない。
3.本事件において、判決は、原告商品の形態はアイディア商品からくる特異性は認められるとしながら、商品表示性と周知性は認められないとした。これは、原告から提出された証拠が不十分であったからであろうが、商品発売から9か月間に502個を売り上げたし、結審時までには1,338個の売上を認めたのだから、需要者はカーマ ニアであることを考慮すると、この特異な商品の形態は、商品表示性とともに周知性も獲得するに至っていたと認めてよかったのではないか。しかも、原告商品の形態の周知性の時期は、被告商品の販売開始時ではなく、事実審の口頭弁論終結時であるとする最高裁の判決が「アースベルト」事件において明示されている。
 この判決は、商品表示性も周知性も否定したのだから、もはや次の争点について考えなくてもよかったのに、それらを取得したと仮定して、第2の争点を考えた。そうであれば、第1の争点で原告の主張を認めてもよく、しかし、F1とF3のタイヤでは全然違うものであるから、需要者がF1タイヤとF3タイヤをフレームとした各テーブルを混同するとは考えられないと判断したのであれば、説得力があったのではなかろうか。
4.なお、周知性を不正競争行為の成立要件とすることはパリ条約違反であるとする説(紋谷暢男教授)があるが、それほどに商品形態が商品の出所表示性(識別性)を取得していたとしても、さらに周知性を獲得したことを立証することは困難な場合が多い。立法論としては再考すべきであろう。(パリ条約10条の2参照)

[牛木理一]