第1.1−4

改正意匠法案に対する質問事項

第1問

@ 意匠権の存続期間を延長する(登録日から15年→20年)

 

 

〔存続期間〕

第21条 意匠権(関連意匠の意匠権を除く。)の存続期間は、設定の登録の日から20年をもつて終了する。

関連意匠の意匠権の存続期間は、その本意匠の意匠権の設定の登録の日から20年をもつて終了する。

. 意匠権の存続期間を登録日から20年に引上げたのは結構だが、EUデザイン法やイギリス法やドイツ法などの先進国と同様に最長25年としなかったのはなぜか。

わが国の意匠権の中には、これまでも15年以上、フルに活用されていたものが非常に多いといわれているが、デザイン保護の強化のためにも、その存続期間は25年位あってもよいと考えるが、いかがか。

. 模倣し易い意匠の出願日から登録日までの間は、意匠法は何にも保護を与えていない。そこで、その間の保護のための解決策としては、設定登録を停止条件として意匠権の効力を出願日に遡及することを認める法律に改正すべきだと思うが、どうか。

不正競争防止法2条1項3号(商品形態の模倣禁止・最初販売から3年間)の規定があるというが、これは「実質的同一」の意匠だけの保護で、類似の意匠に保護は及ばないし、また証拠を収集するのに時間と手数がかかる。この点、意匠権の登録を条件とした遡及効を認めるならば、意匠権の成立は確定しているのだから、立証は簡単であり、権利者の保護に厚くなるが、いかがか。

意匠権の遡及的保護を認めるならば、出願中の差止請求権の行使は不可でも、損害賠償請求権の行使は可とすることで、第三者への抑止効果が働き、意匠権の強化の実現となるが、いかがか。審査国であるイギリスの登録デザイン法はそのように立法している。

無審査登録制度を導入しないのであれば、なおさら意匠の有効な保護政策になると思うが、いかがか。

. 改正意匠法の施行当時に有効に存続している意匠権や出願中の意匠についても、存続期間の20年延長を認める特別措置をとるべきだと思うが、いかがか。

→意匠権の保護の強化の一因となるのに、なぜ適用を認めないのか。

 

第2問

B 意匠の類似判断は需要者(消費者、取引業者)の視覚による美感に基づいて行うことを明確化する。

 

〔登録意匠の範囲等〕

第24条 登録意匠の範囲は、願書の記載及び願書に添附した図面に記載され又は願書に添附した写真、ひな形若しくは見本により現わされた意匠に基づいて定めなければならない。

 

登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起させる美感に基づいて行うものとする。

. 「それ以外」の「それ」とは何をいうか。「以外」とは何をいうか。

→「出願意匠」とそれ以外の意匠との類否判断については、含まれないのか。

→含まれるというのであれば、なぜ第24条のような登録意匠に関する場所に規定をおくのか。

→もっと適切な場所があるのではないか。

→例えば、第2条の「定義」規定におくとか、なぜしないのか。

. 今回、このような意匠の類否判断基準をあえて明文をもって実定法においた目的は何か。

このような規定をおくことによって、他の知的財産権法に与える影響が少なからずあるが、立法化のコンセプトは何か。

意匠の法的保護のコンセプトとしては、世界的に見て、コピーライト・アプローチ、パテント・アプローチ、そしてデザイン・アプローチという3つのコンセプトが存在するが、わが国の今回の改正法のコンセプトは、第4の道ともいうべきトレードマーク・アプローチというようなコンセプトである。
 そういうコンセプトとなると、商標の類否判断基準と全く同じになってしまうが、それでよいのか。

. 意匠の類否判断を明確化するためには、なぜ需要者の視覚から見た意匠の美感に基くことが妥当なのか。

. 「需要者」について、「消費者」と「取引業者」とを含ませているが、消費者と取引業者とは全く別々の主体であるし、その立場も全く違うのに、なぜそういう者を一緒に含めているのか。

「需要者」に対立する主体は誰れか。それは「供給者」ではないのか。とすれば、当該物品(製品)の供給者は、メーカー(製造者)でありデザイナー(創作者)であるのに、なぜこのような立場の者は意匠の類否判断の主体となれないと考えたのか。

「需要者」とは、物品がメーカーの手から離れ、商品として流通の場に入った時に登場する主体である。意匠法は商品や流通を直接の対象としていない法律である以上、商標法でいう商標の類否判断と同じような基準を意匠法に導入すべきではないと思うが、どうか。

意匠法と商標法の各第1条(目的規定)を読んでみよ。法の目的の違いは明らかである。また、意匠法と実用新案法の各第1条を比較せよ。意匠法は実用新案法と同じ目的をもっている。特許法とも同じである。これら創作保護法の三法の目的には「需要者」は全く出て来ないが、どう思うか。

〔意匠法第1条〕

 この法律は、意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。

〔商標法第1条〕

 この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。

〔実用新案法第1条〕

この法律は、物品の形状、構造又は組合せに係る考案の保護及び利用を図ることにより、その考案を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。

. 「需要者」とは、消費者と取引業者を含むものをいうとすれば、そのような人々は、性別,年齢,学歴,職業,経験,知識,性格,生活,環境などが千差万別であり、一般的・普遍的な需要者などという者は存在しないのに、なぜそのような者を類否判断のできる人的基準としているのか。

. そういう千差万別な需要者が行う「美感の類否」とは、一体どういう意味になるのか、説明されたい。「美感」というものは、人の聴覚(耳)を通じてとは異なり、視覚(肉眼)を通じて専ら右脳の感性に訴える印象であるが、感性だけで意匠の類否判断は終ってよいのか。

出願意匠の場合に、特許庁の審査・審判では、出願日前の公知意匠を引用して対比するのは何故だと思うか。侵害事件では、裁判所は登録意匠の出願日前の公知意匠を引用し、登録意匠の範囲を限縮して要部を認定したり、全部公知などと認定するのは何故だと思うか。審査官や裁判官は視覚に映る美感や印象を通じて意匠の実体の創作性を考えているのではないのか。

審査官や審判官や裁判官は、専門家である自分たちの目から見て右脳の感性から左脳の理性に移行して、公知意匠を参酌した後、出願意匠や登録意匠の創作体を論理的に思考して把握した上で、類否判断をするのではないのか。

そのようなことは、@出願査定系の審決や判決や、A侵害か否かを判断する判決を読めばすぐわかることではあるが。

. 「登録意匠とそれ以外の意匠」とは、どの範囲の意匠を意味するのか。

「登録意匠と類似する意匠」のことを意味すれば、意匠法23条の規定との関係で意匠権侵害の問題を予想しているから、裁判所を拘束する規定とはなろうが、出願意匠を審査する特許庁を拘束する規定とはならない。しかし、そんなことでよいのか。

もしも、登録意匠に対してのみならず、出願意匠に対しても適用を予定した規定であれば、第24条ではなく、第2条の「定義」条項として規定するのが筋であるが、どうか。

. 意匠の類否判断を明確化するテーマにあって、第1に、きわめて曖昧で千差万別の判断しか期待できない消費者や取引者を人的基準としたり、第2に、意匠の外観が発揮する美感というこれも曖昧な要素を物的基準として、意匠の類否判断をしようとすることは、意匠法は物品の創作を保護する法律であって、商品の識別出所を保護する法律ではないことを考えれば、間違いであるが、そういうことに気付いていないのか。

四法の第1条の目的規定を比較すればわかること。

. 審議会報告書によれば、最高裁の「可撓伸縮ホース事件」の判決を引用しているが、これでは、意匠の類否判断は需要者を人的基準としてはいるが、混同説はとらないと最高裁調査官(佐藤繁東京高裁判事)が解説している事実を見れば、結局は出願意匠の創作性いかんが問題となっているのだから、意匠の類否判断の物的基準は、現象としての意匠の外観上の美感の類否ではなく、その原因となった“創作”の類否であると解すべきだが、どうか。

これはあくまでも出願意匠に対する審決取消訴訟事件であって、登録意匠に対する権利侵害事件ではないのだから、この判例だけを根拠に、前記規定を意匠法24条2項に規定しようとすることは誤りであるが、どうか。

.10 意匠にあっては、出願意匠でも登録意匠でも、まずデザイナー(製造者)がいて、ある物品の形態(デザイン)を創作するのだから、「初めに創作ありき」で考えるべきである。そうすると、そのデザインの創作性が共通しているかどうかによって、意匠の類否が決まると考えるべきだと思うが、どうか。

そのデザインが発揮する美感というものは、肉眼で見たときの印象であって、専ら感性に訴えるだけであるが、そこで意匠の類否判断を中止するわけにはいかない。
 必ず当該意匠の出願日を基準とした公知意匠や周知意匠との関係をどう判断するかという問題が出てくる。けだし、意匠法は創作された意匠を保護する法律だから、当該意匠の創作性がどこにあるかを把握しなければならないからである。ということは、感性から理性に移って思考して判断することを意味するが、このような考え方をすることは正しいと思うが、どう思うか。下図を見て考えてほしい。

 

第3問

 無審査登録制度の不導入について

 今回、わが国が無審査登録制度を導入しなかった理由はどこにあるのか。有審査登録制度とのダブルトラックシステムにすれば、国民にとって意匠法の利用度が拡大することになると思うが。
 デザインには大別して、流行性のものと非流行性のものとがあることは認められるとしても、登録方法を出願人の選択に任せることは、特許庁として管理しにくいという。もしそうであるならば、せめてWTO協定の付属書の一つであるTRIPs協定の第25条2項で特に例示している織物(
textile)のデザインは、中でも最もファッション性の強い物品であり、その費用,審査,公表などの点について特別な配慮をうながされていることから、この物品分野からまず無審査登録制度の導入を開始するのがよいと思う。さすれば、ヘーグ協定の加盟国で無審査登録制度を採用するEUを中心とする多くの国々から、わが国は好意をもって見られることになるだろう。
 しかし、TRIPs協定は流行性のある物品例として織物を挙げたに過ぎないから、他にも装身具などの身廻品や家具なども流行性の強い製品であることから、これらのデザインに拡大する必要はあると思うが。

. 韓国ではすでに、流行性のある物品を政令で定め、それらのデザインについては、無審査登録する制度を導入しているが、わが国では同じような制度を導入する考えはなぜないのか。

. わが国が今回の意匠法改正でも、前記物品のデザインについて無審査登録制度を導入しないのであれば、TRIPs協定違反になるとの指摘もあるが、大丈夫か。

→著作権法による無条件の保護は可能なのか。

→美術的鑑賞性がないデザインでも著作権法で保護されるのか。

. わが国としては、デザインの国際登録のためのヘーグ協定(1999年ジューネブ・アクト締結)に、近い将来加盟する予定はないか。わが国特許庁としては第1回の専門家委員会から外交会議まで、代表を派遣していろいろと発言していたが、現在はまだ加盟の準備はしていないのか。

→現在、審査国の加盟状況はどうか。



 


〔牛木理一〕