第1−23

特許法改正報告書案に対する意見書

牛  木  理  一


 今回の審議会小委員会のテーマは、第19回〜第22回を通じて相変わらず「特許制度の在り方について」であるのに、報告書案の内容では現行特許法の個別的各論に対する改正であることがわかりました。特許制度の在り方を論ずることは、わが国の特許法のあるべき理念をまず考えるという哲学があるはずなのに、報告書案にはそのようなものは存在していないから、「在り方」とは言葉だけの遊びで使われたように見えます。立法者(行政府)の立場としては、その矛盾に本当に気付いているのでしょうか。
 そのような批判は別として、報告書案に記載されている「制度改正の具体的方向」の章項の順序にしたがって、下記のとおり意見書を提出します。
 われわれ弁理士は常に国民の代理人という意識で仕事をしていますところ、それは公僕である公務員とて変わりありません。

                      

第1 分割出願制度・補正制度の見直し
 T.分割出願制度の見直し

 T−1 分割時期の緩和
 この問題の所在において、「特許請求の範囲に発明の内容を的確に表現できなかったために、特許を取得することができずに拒絶査定となってしまう場合がある。」といわれていることの裏の事実を言えば、代理人弁理士の腕が悪かったことをほぼ意味するから、後日これを改善し、「発明力」と「クレーム力」に生かすためには、分割時期の緩和は必要事である。そして、この時期は、特許査定又は拒絶査定後の30日以内とすることに賛成である。
 U.一部継続出願制度
 米国におけるこの制度は、出願人の大小にかかわらず、追加した新規の発明部分を継続出願とすることの効果は大きいから、中小企業では無理だという見解はおかしい。国内優先権主張の出願と費用的には変わりないし、かえって中小企業を救うことになる。
第2 特許権侵害への対応の強化
 T.権利侵害行為への「輸出」の追加

 (1)特許法2条3項に「実施」の定義中、「譲渡」に輸出を含むか否か不明なれば、「輸入」と並んで「輸出」の文言を追加することは必要である。
 (2)特許法101条1号・2号に「輸出」を規定するかどうかの問題も、前記「実施」の場合と同様に考えればよい。
 W.侵害訴訟における立証負担の軽減
 今回は問題とされていないが、前回の法改正時に加わった特104条の3の規定には、権利侵害訴訟において特許権の有効性を争うための特許庁への特許無効審判請求を確実に条件づけていないから、それを条件とすることを規定すべきではないか。
 このことは、審査によって特許権を確立したのは行政府(特許庁)なのだから、特許庁の存在意義を無視させないためにも必要な事ではないか。
 当該特許権に係る発明が新規性や進歩性等の特許要件を具備していないことを民事裁判所が認定することは、民事判決の相対性を考えるならば、裁判所が特許無効の蓋然性があるから当然無効だと判断すること自体、越権行為である。
 対世的効力のある特許権やその効力を否定できるのは侵害裁判所ではなく特許庁であるべきだから、裁判所としては特許法168条2項の規定を尊重すべきである。
 今日の侵害裁判所が基本判例として引用するキルビー特許事件の最高三小判平成12年4月11日は、実務家から見れば、何人が見ても当然無効といえる特許権の場合であり、例外的な事例に対する判決であったから、根拠とする判例としてはきわめて弱体なものである。
第4 特許制度の利便性の向上
 ここに紹介されている問題はいずれも法律改正の対象となるべき問題ではなく、特許庁の運用上の問題であるから、行政ベースで改善して政令で規定すればよいものである。
第5 特許庁の判定制度とADR機関との適切な役割分担
 (1)現行法上の判定制度は、公的鑑定だといわれていながら、判決結果に対する不服の途が閉ざされている以上、百害あって一利なしの制度である。したがって、廃止するか、又は大正10年法時の権利範囲確認審判制度を復活すべきである。
 小委員会では、「判定結果と訴訟の判断結果がほぼ一致すること」を理由に存続の意見が複数あったというが、このような考え方を真っ向から否定して判定結果を採用しなかった裁判例がある。それは、意匠権侵害「自動車用ホイール」事件の東京高判平成6年11月30日(前審・横浜地判平成4年12月24日)である(拙著「意匠権侵害−理論と実際」492頁 経済産業調査会 2003)。この中で東京高裁は、特許庁判定とは類否判断の手法が違うことを判示している。
 また、侵害裁判所から特許法71条の2に基づく特許庁への鑑定嘱託の依頼は、活用されているとは思われない空文である。
(2)判定制度が現在活用しているとすれば、関税定率法による規定があるからだが、この中でもっとも活用されている手段は弁理士の鑑定書である。私は意匠の鑑定書ならば10日以内に作成して提出している。このような場合は、緊急性が必要であることを関係者は認識すべきである。
 また、ADR機関の仲裁等は、当事者自身の不馴れさから、その主張や証拠は不十分であるし、代理人についても熱意に欠ける場合が多い。
 したがって、個人も法人も事件の解決をADR機関にこんご期待することは、少なくとも特許権や意匠権の侵害事件では期待できないだろう。
第6 その他
 政令で改善する問題であるが、明細書の詳細な説明の項の書き方については改善すべき問題がある。明細書は論文の作成と同様に、「起承転結」の原則を明細書においても遵守することである。以前は「発明の目的/技術の背景」・「構成/実施例」・「作用」・「効果」の順序(起承転結)で論理的に記載するようになっていたのに、現在の明細書はごちゃごちゃな書き方をするようになっているから、作者にとっては書きにくいし、第三者が読んでも理解しにくい書面となっている。したがって、庁内において再検討していただきたい問題である。

 


〔牛木理一〕