第1−21

“経産省のパブリックコメント”
不正競争防止法の改正問題に対する意見書

牛  木  理  一

T 著名な商品等表示の冒用に対する刑事罰の導入
(1) 検討の方向性について
 現行不競法において、刑事罰は14条に規定されているところ、2条1項1号のほかに、同条項2号の規定に該当する不正競争行為についても刑事罰の対象とする方向性を提示していることには賛成である。この場合、立法上最大の注意を要する点は、憲法の罪刑法定主義の原則を遵守するためには、まず犯罪行為の構成要件を明確に規定しておかねばならないことである。

(2) 主な論点について
(a) 対象行為の限定の視点
 報告書は、刑事罰を導入するには、1号類型の場合にならい、主観的要件を限定した@案を基本とすべきとするが、「不正の目的」をもった故意犯が行う行為であるから、原則として賛成である。立法当初から、2号類型がなぜ刑事罰対象から外されていたのか理解できなかった。
(b) 主観的要件の限定
 2号の不正競争行為は、他人の商品等表示が著名であることの客観的な事実が明らかな場合であるから、「著名性」が立証されるならば、「著名な商品等表示に係る信用若しくは名声を害し、又はその信用若しくは名声を利用して不正の利益を得る目的」などの主観的要件は全く無用である。このような主観的要件を刑事罰の前提として要求するのであれば、2号規定もそのように改正しなければならないが、反対である。
 ここは、1号規定にならって、単純に「不正の目的をもって」とすればよい。
(c) 商品等表示の明確化
 そのためには、1号・2号にいう「他人の商品等表示」について、カッコ書きで記載するのではなく、独立した定義規定を置くべきである。(定義規定の例については、著作権法2条を参照)
 有名人の「肖像」についても保護対象として明記すべきかが問題とされているが、1号については「人の業務に係る肖像」となり、2号については「他人の著名な肖像」となろう。
 これについて報告書は、有名人の肖像については「その他の表示」に該当する概念と解し、2号の適用の対象となり得るとする。
 しかし、「他人の商品等表示」の定義は、「人の業務に係る氏名」までであって、「人の肖像」自体は業務に係るものでない以上、「その他の表示」に属するものと解することはできない。
 したがって、報告書もすでに指摘しているように、有名人の肖像については氏名とともに、他人が有するプライバシーの権利(人格権)の一側面にあるパブリシティの権利(財産権)として、裁判例上も一般不法行為法によって保護されているのだから、不競法は他人の肖像にまで介入すべきではない。他人の氏名のほかに肖像を持ち出せば、サインや声などにも介入しなければならなくなる1)。
 換言すれば、他人の氏名、肖像等のパブリシティ権の保護に対して不競法はアンタッチャブルであるべきである。そうしないと、後記の3号規定が、立法以来、意匠法との間でねじれ現象を起していることの二の舞となろう。

U 商品形態模倣行為に対する刑事罰の導入、及び民事規定の明確化
(1) 検討の方向性
 3号規定は、新法施行の過渡期であったことから、刑事罰の対象とすることは見送られたとしても、もはや10年以上経過している今日では、不正競争行為に対する多大な阻止効果を挙げていることを考えれば、刑事罰は必要である。

(2) 主な論点
(a) 規定の明確化
 3号規定は二重のカッコ書きとなっているから、読みにくいのはやむを得ないし、外国法ではカンマで表現することが多いから、規定の仕方はこのままでよいとしても、そこで使用されている概念、「同種の商品」・「通常有する形態」・「模倣」については、明確な定義規定を置くべきである。(前記「他人の商品等表示」を参照)
@「通常有する形態」について
 この中に「ありふれた形態」や「既存の形態」を含むとすれば、最初販売日前に「公知・周知の形態」を意味するから、被告はそれらの形態(意匠)を立証すれば免責となる。しかし、不競法は意匠法とは保護利益が違うから、このような考え方でよいのか疑問である。
 意匠権侵害事件において、登録意匠の有する創作体(意匠の要部)がどこにあるかを把握するためには、まず登録意匠は次のような形態の結合構造体から成立しているものであることを理解しなければならないし、裁判ではその構造体の解析から始めることになる2)。

「(A)物品の基本的形態+(B)周知的形態+(C)公知的形態+(D)創作的形態」

すると、不競法が3号規定で使用している「通常有する形態」とは「A」部分に属する形態であると客観的に解されることになる。物品の基本的形態とは、当該物品をして物品たらしめている属性部分から成り立っているものと抽象的に言わざるを得ないから、基本的形態から成り立っている物品とは、われわれにとっては新種物品の場合にしか実際に目にすることはできないかも知れない。
したがって、本法において「通常有する形態」とはきわめて意味不明かつ定義不能な概念であるから、削除すべきであり、専ら裁判所の判断に委ねるのが妥当である。そうすれば、裁判所は、意匠権侵害事件における意匠の実質的同一性を把握するに際し、最初販売日を基準に公知・周知の形態の立証を待って模倣といえるかどうかを判断することになる。
報告書によれば、「既存の形態」について、3年間の保護期間経過後の形態を挙げているが、これはそんなに狭い範囲のものではなく、前述した最初販売日前の公知・周知の形態を全部含むものである。したがって、もし「通常有する形態」という概念を他語に変えるならば「既存の形態」という概念しか、ここでは通用しない。「ありふれた形態」なるものは、周知の形態としてここに含まれる。
報告書は、「当該商品の機能を確保するために不可欠の形態」を挙げているが、これは、意匠法5条3号が不登録意匠として規定する「物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなる意匠」にならったものであろう。
しかし、そのような形態であることを当該商品(物品)に見い出すことは至難な業であるし、新種商品に対してはそのような評価をすることはできないというべきであるから、実質的には有名無実な概念となる。
報告書はこの点について、商品形態の模倣の判断において原告商品と被告商品とを比較する際に、「そのように言える部分については、比較検討の際に重視するべきでなく、特徴的な部分をこそ重視して比べるべきである。」と説明する。
しかし、これは、意匠の類否判断に対する手法と同じであるから、これは登録意匠の要部ないし特徴を、従来意匠との比較によって把握する手法である。そして、まず保護を求めている商品形態については、従来形態と比較して新規性(客観的創作性)が規定できる形態であることを把握した上で、イ号形態と対比して同一性の有無を判断すれば明確であるといえるし、説得力がある。
A「模倣」の意義について
 報告書は、「同一又は実質的同一の範囲として限定的に解されるとは限らない」と、裁判例の解釈を超える説明をする。そうだとすれば、「同一又は類似」という、意匠法で使用されている概念を使用することが妥当である。
 かくすれば、他人の商品形態の常習者にとっては、同一ではない類似のものを作出することはきわめて容易なことであるから、保護をより確実にすることになる。
B保護期間の開始時期について
 報告書は、「現行規定では、保護の終期の起算点のみを記載する」とするが、3号規定には保護の始期の起算点は「最初に販売された日から起算して」と規定しているのだから、おかしい。もし意匠法29条に規定する先使用による通常実施権が認められる要件を考慮しているとすれば、英国CDPA(1988)213条1項(a)に規定するような「デザイン文書に最初に記載された年から15年間」という非登録デザイン権の保護期間の場合を参考に考えているのだろうか3)。
C保護期間の経期の起算点について
 経験上、保護期間の3年などはすぐに経過してしまうから、模倣常習者にとってはありがたい。
 したがって、最初の「答申書」にあったように、今日では5年間保護に移行してもよいと考える。これは、模倣常習者に模倣を断念させるに足る保護期間であり、彼らをして模倣から創作への発想の転換を奨励するパワーになるだろう。
D保護期間の伸張について
 報告書は、EUデザイン法の「非登録デザイン権」を引用しているが、英国CDPAでもそうであるように、これはあくまでもデザイン法(意匠法)の中での規定であり、2つのスキームを同法で導入している。
 ということは、不競法2条1項3号の規定は本来、わが国においても意匠法に導入すべきスキームであったのを、通産省と特許庁との力関係で現状のようになったことは、周知の事実であり、ねじれ現象が続いているのである。
 したがって、意匠法を改正して、審査登録制度と無審査登録制度の2つのスキームを樹立し、後者にも別の意匠権を認めることである4)。

(b) 刑事罰の対象行為の限定
 @案は、1号・2号の各規定と整合して、「不正の目的」を要件とすることが妥当である。
 模倣禁止は、民事のみでは不完全な保護となり、刑事罰によってはじめて完全な保護が与えられることになる。


1) 不競法によって、人の「肖像」を保護することまで考えようとしたことは唐突のようであるが、これは同省の商務情報政策局文化情報関連産業課が平成16年3月に発表した「研究会報告書」からの導入であろうと思われる。この問題については、拙著『キャラクター戦略と商品化権』379頁以下(発明協会2000)。
2) 拙著『意匠権侵害』25頁(経済産業調査会2003),拙著『商品形態の保護と不正競争防止法』38頁(経済産業調査会2004)。
3) 拙著『意匠法の研究〈四訂版〉』350頁(発明協会1994)。
4) 拙著「意匠保護の未来学」弁理士会編『インテレクチュアル・プロパティ』153頁(発明協会1995)。

 


〔牛木理一〕