第1−20

再び弁理士の「クレーム力」の評価を

牛  木  理  一


 私は、「特許ニュース」の2003年12月22日号に、「職務発明の対価問題について思う」と題した論説を発表した。
 この内容は、東京地裁の判決言渡の約1か月前であったが、私がアピールしたかったことは、企業が大きな経済的利益を取得するのは、実は、発明者の「発明力」ではなく、代理人である弁理士が作成した「クレーム力」であり、「クレーム力」が発揮されている特許権が評価されたからであることを、関係者は気付いてもらいたいというのであった。
 今回の主役となった「404特許」の出願から特許登録までの経過は、第三者の推測の及ばないことだろうが、東京高裁が和解に臨んで発表した「見解」を読むと、一つの特許権の確立やライセンス契約によって得られる経済的利益は、1人の偉大な発明者だけの貢績ではなく、多くの人々が関係していることを知ってほしいと言明していることがにじみ出ている。その中に、弁理士の貢献度についての言葉はなかったが、考慮におくべきことを暗示していたようにも感じられる。
 もちろん、企業側には発明者の発明内容を全部まとめたリエゾンがいるし、これと弁理士との協議が何回も持たれただろうから、リエゾンの存在も大きい。
 この事実は、職務発明者に対する対価報酬の支払いだけではないことを、1月24日に行われた「中小企業における知的財産戦略シンポジウム2005」で(株)ナベルの南部社長が言明されていた。今後、次第にこのような理解度が企業側でも拡がって行くだろうが、この後は、代理人弁理士への報酬のあり方を考えることになってほしいものである。
 弁理士は、真に当該特許権の確立のために最初から最後まで関与し、企業がこの特許権の「クレーム力」によって大きな経済的利益をあげることができたことが事実であれば、その「クレーム」に対する評価に見合った報酬を弁理士は、特許後でも請求することができる立場にあると、私は考える。そして、このような考え方に同調する弁理士仲間がいればありがたいことである。
 今回の中村修二対日亜化学工業事件では、その基礎となった特許権の「クレーム」を作成した弁理士は、発明者および特許権者に対し、その特許権の経済的評価が客観的に明らかになったことへの弁理士の寄与度に対する報酬を請求できないとするならば、いかにも不公平である。職務発明に関する限り、特許権の確立はそれに至るまでの関係者の総合的知恵の結集であり、弁理士の作成した「特許請求の範囲」は経済的利益を生む金の卵であるから、発明者の1人勝ちはあり得ないのである。
 したがって、勝訴又は和解による発明者(原告)の代理人弁護士への報酬の支払いは当然であるとしても、その特許権の「範囲」を生んでくれた代理人弁理士への報酬はゼロであってよいはずはない。弁理士の「特許請求の範囲」への評価は、弁理士への特許庁手続に対する手数料等とは別の、発明者に与えられる相当の対価と同様に、特許権発生後の成功報酬として実現されるべきではないだろうか。
 この特許権の「クレーム力」に対する評価は、発明者の「発明力」に対する評価と同様に、司法裁判所によって決定されて然るべきであろう。この弁理士の報酬請求権は、発明者の場合と同様に、特許権者に対して行使されることになろうが、これは弁護士の報酬請求権が依頼者の発明者に対して行使されることと同様の立場である。
 皆さんのご意見を伺いたいところである。

東京高裁の考え(要旨)

【和解勧告の趣旨】
 中村修二氏は日亜化学工業に在職中の1990年に本件特許発明をし、その後、いくつかの重要な特許発明をした。日亜はこれらの職務発明に関する特許を受ける権利を取得し、ノウハウを保持している。しかし、訴訟には多数の職務発明に関する相当の対価の請求は含まれてない。
 当裁判所は、これらすべての職務発明の特許を受ける権利の譲渡の相当の対価について、和解による全面的な解決を図ることが双方にとって極めて重要な意義があると考える。将来の紛争も含めた全面的な解決をするため和解を勧告する。
【相当の対価】
 特許法35条の「相当の対価」は「発明により使用者等が受けるべき利益」と「発明がされるについて使用者等が貢献した程度」を考慮して算定されるが、その金額は「発明を奨励し」「産業の発達に寄与する」との特許法1条の目的に沿ったものであるべきだ。
 つまり、職務発明の特許を受ける権利の譲渡の相当の対価は、発明のインセンティブとなるのに十分であると同時に、企業が厳しい経済情勢や国際的な競争の中で、これに打ち勝ち発展していくことを可能とすべきで、さまざまなリスクを負担する企業の共同事業者が好況時に受ける利益の額とはおのずから性質が異なる。
 当裁判所は、この趣旨に照らし、中村氏の在職中のすべての職務発明で使用者等が受けるべき利益と貢献度を推認した。すべての職務発明の特許を受ける権利の譲渡の「相当の対価」の和解金は計6億857万円を基本とすべきだ。
 これまでの裁判例で、職務発明の特許を受ける権利の譲渡の相当の対価が1億円を超えたのは2例(東京高裁の日立製作所事件判決と東京地裁の味の素事件判決)で、数多い職務発明の中でも極めて貢献度の高い例外的なものなのは明らかだ。
 中村氏が受ける相当の対価は、この2例の金額をさらに大きく超えるもので、貢献度の大きさをこれまでに前例のない極めて例外的なものとして高く評価するものだ。同時にそれでもなお、その「相当の対価」は特許法35条の趣旨と2つの裁判例に照らして、算定すべきだと判断した。
【計算方法】
 日亜と同業他社がクロスライセンス契約を締結した2002年までは@売上金額の約2分の1を中村氏のすべての職務発明の特許権等の禁止権とノウハウによるものとし、実施料は1996年までを10%、97年以降は技術の進歩を考慮して7%と算定、A「使用者等が貢献した程度」は95%を相当とした。
 2002年より後は、算定は極めて困難なため、中村氏の重要特許の平均残存期間9年と、調整率7割を積算した。
                    <徳島新聞2005年1月12日から>

 


〔牛木理一〕