第1−19

新不正競争防止法と意匠の保護 −意匠法への挑戦
  <パテント19936 月号>

牛  木  理  一


1 はじめに
 大正9年に制定された現行不正競争防止法(以下、現行法という。)が、全面的に改正されるとともに平仮名書きの法文となり、名実ともに一新された法律が平成5年5月1日に成立し、平成6年1月1日から施行されることになった。
 今回の改正でもっとも注目すべき点は、保護対象を拡大し、「意匠」(法文上は、「商品の形態」という概念を使っている。)について、非登録保護を与えることになったことである。即ち、新不正競争防止法の(以下、新法という。)2条1項は、次の3つの行為を「不正競争」行為と定義して保護対象としている中で、第3の類型を創設したことによって、実質的に意匠法の改正を断行したことになったのである。
 これは、新規創作保護法である特許法及び実用新案法と同様に工業所有権の一翼を担っている意匠法に大きな衝撃を与えるものである。
(1) 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示をし、又はその商品等表示を使用した商品の譲渡等をして、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為。(以下、1号型という。)
(2) 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品の譲渡等をする行為。(以下、2号型という。)
(3) 他人の商品(最初に販売された日から起算して3年を経過したものを除く。)の形態(当該他人の商品と同種の商品(同種の商品がない場合にあっては、当該他人の商品とその機能及び効用が同一又は類似の商品)が通常有する形態を除く。)を模倣した商品の譲渡等をする行為。(以下、3号型という。)
 このうち、1号型及び2号型の不正競争行為は、現行法下においてもその行為の差止めが認容されてきたことは、多くの裁判の示すところである。
 しかし、3号型の不正競争行為は新法によって創設された行為類型である。

2 3類型の保護要件
(1)1号型
 この行為類型に属する意匠は、次の要件を充足するならば保護される。
@ 商品の容器,包装その他の商品を表示するもの。
A 同一又は類似の商品表示であること。
B 周知であること。
C 他人の商品と混同すること。
(2)2号型
 この行為類型に属する意匠は、次の要件を充足するならば保護される。
@ 商品の容器,包装その他の商品を表示するもの。
A 同一又は類似の商品表示であること。
B 著名であること。
(3)3号型
 この行為類型に属する意匠は、次の要件を充足するならば保護される。
@ 商品の形態の模倣であること。
A 最初の販売日から3年以内の商品であること。
B 同種の商品が通常有しない形態であること。
C 同種の商品がない(筆者注・新種商品)場合は、その機能及び効用が同一又は類似の商品でないこと。

3 1号型への疑問点
(1)1号型は、現行法1条1項1号の規定通りの類型である。したがって、「その他の商品を表示するもの」の中に、商品の形態も自他商品の識別機能を果たすものとして含まれることは、通説判例である(1)。
(2)この類型による不正競争行為が成立するためには、その商品形態が「周知」であること及び結果として商品の「混同」を生じさせるものであることが必要である。
(3)商品の識別機能を有する形態が同一の場合のみならず、類似する場合も保護することにしている。しかし、何をもって「類似」というのかの定義はない。
 類似とは混同を意味するとすれば(多くの裁判例は、意匠の類似を自他物品の混同と解しているという(2)。)、結果としての「他人の商品又は営業と混同を生じさせる」のフレーズはあえて不要である。
 ちなみに、2号型にはこのフレーズはないが、著名な意匠であれば需要者が商品の混同を起こすのは当然であるからである。そうであれば、周知の意匠もまたその結果として需要者が商品の混同を起こすのも当然ではなかろうか。
(4)後記する3号型では、商品形態の周知性や商品の混同を要求していないのだから、この一般類型において、現行法どおりに、この2つの条件を要求しているのは意外である。
 期間の長短にかかわらず、売れ筋の商品であるからこそ他人は模倣するのであり、他人が模倣するような商品形態はすでに市場において成功し周知となっているものである。また、そのような形態は結果として需要者に混同を生じさせるものである。したがって、あえて周知性や混同についての立証責任を原告に負担させる必要はないと考える。

4 2号型への疑問点
 2号型は一見新類型であるけれども、現行法では1号型に属していた保護対象といえる。ただ商品形態が「著名」な場合に、特別に保護しようという規定である。これには、周知性や商品の混同は不要で、著名でありさえすれば保護されるのである。
 しかし、「著名」とは何かについての定義はない。
 「著名」を「裁判所において顕著な事実」と解すれば、前記周知との相違が出て来るから、原告において著名性を立証する必要のない商品形態といえる。
 著名性については、国の内外を問わないと解する。しかし、日本国内では全く無名でも、ある外国において著名な商品形態であれば、第1条の法の精神から考えて、保護が予定されている対象であると解する。この場合は、わが国裁判所において顕著な事実とはいえないから原告側は外国における著名性を立証しなければならないことになる。
 2号型もまた、商品形態と同一又は「類似」のものを保護対象とする。“copy”ではなく“similar”な商品は、やはり排除されることになる。
 ただ「類似」の意味は法律上明らかでないから、類否判断が争点となるだろうが、1号型における類似と同様に、結果的に商品の混同を生じさせるものと解すればよいだろう。
 「著名な」商品形態をこのように簡単な規定によって保護するのであれば、1号型の「周知の」商品形態についても同様に簡単な規定、即ち「他人の商品と混同を生じさせる」の要件は不要とすべきであると考える。

5 3号型への疑問点(意匠法への挑戦)
(1) 3号型は全く新類型であり、流通を始めた商品形態が「模倣」された場合に、特別に保護しようという規定である。これには、周知性,著名性及び商品の混同は不要である。単純に模倣されさえすれば保護されるのである。
 この3号型こそ、意匠法との関係において注目すべき重大な行為類型である。
 何をもって「模倣」をいうのか定義されていないが、あらゆる模倣を一般的に禁止することは自由な競争を阻害することになるけれども、全ての模倣を放任することは先行者の開発へのインセンティブを阻害することになるから、行為の不正性に着目し行為規制の観点から、公正な競争秩序の維持を図る必要があることを問題の所在とすると説明されている。
 そして、意匠権の有無にかかわらず、他人が商品化のために資金,労力を投下した成果を、他に選択肢があるのに、他人の許諾を得ることなくまた何らの改変を加えることなく、他人の商品形態を完全に模倣して市場に提供し、その他人と競争するような行為は断じて禁止されねばならないと考えられたのである。
 他人の成果のそのままの利用を「模倣」と考える場合に、2つの模倣の態様があるという。
 その一は、他人の成果に自らの創作を加える「隷属的模倣(slavish imitation )」であり、その二は、他人の成果を機械的な複製方法によって、自らの創作を加えることなく、自らの成果として利用する「直接的模倣(dead copy)」であるという。新法は、明らかな不正行為である後者の模倣をターゲットにしている。(前者についても一部含まれるように解される(3)。)
 先行者の成果の完全なる模倣が不正行為といえるのは、先行者が資金や労力を投下して商品化し市場に提供した成果を、模倣者は自ら資金や労力を投下することなくコピーして市場に提供するからである。このような不正行為は、商品形態にあっては顕著である。
(2) ところが、そのような商品形態を保護するのは、最初の販売日から3年間に限られている。なぜ3年間なのかについて、「先行開発者が投下した費用,労力の回収を終了し、通常期待し得る利益をあげた後は、デッドコピーによって競争上の不公正が生じることはないから、デッドコピー規制の効果を及ぼすのは適当ではない。」と説明されている。
 投資の回収期間は一律に決めることはできないとしながらも、社団法人日本デザイン保護協会が実施した商品のライフサイクルに関するアンケートの結果によれば、ほぼ全分野の商品につきモデルチェンジのサイクル設定が3年以内とするものが多かったことを挙げている(4)。
 また、特許法等創作法の権利期間とのバランスを考慮して規制期間を定めることが適当といいながら、わが国の意匠権や外国の意匠との比較ではなく、ECの共同体意匠法案における、それも非登録意匠権(流通後3年間)だけを引用して比較している。
 さらに、外国の不競法のうち、ドイツでは法規制はないが、判例上、投資の回収期間に限られた保護であること、スイスでも規定はないが解釈上、期間の制限がなされるべきであることが説明されている。
 そして、デッドコピー規制の期間は、先行開発者が投下した費用と労力を回収し、通常期待し得る利益を得る期間を確保するために、3年〜5年が適当と報告されている。
 しかし、わが国の意匠権の存続期間は設定登録日から15年間、独国は出願日から最高20年間、英国の登録意匠権は出願日から最高25年間、非登録意匠権(Design Right)は、最初に流通におかれた年の終りから10年間の保護(非登録意匠権は意匠創作についての所有権であり、“original”であることが要求されている。)である(5)。
 思うに、不競法が産業上の知的財産を不正な侵害行為から保護し、公正な競争秩序を維持することを目的に制定されている法律であるならば、単に新デザインの研究開発に投下した費用の回収やライフサイクルの短さが、他人の成果の模倣禁止期間を算定する基準になってはならない。
 立法者は、3年後は、デッドコピーによって競争上の不公正が生じることはないと説明するが、何を根拠にそう断定するのか。他人の成果の模倣を3年間じっと我慢して待っている者にとっては、そのような期間の定めは誠にありがたいことである。模倣者の中には常習者が多いことを立法者は知らないようである。自分で、新しいデザインの開発のために多くの資金を投下し、人材を採用したりするよりも、3年間待つ方がどんなにか安上がりであることか。3年などはすぐ来るのである。
 デ保協会の調査の時期は、バブル経済時代であってみれば、その後の現在の状況とでは、モノのライフサイクルの長さは全然違っている。自動車や電気製品が売れない時代では、メーカー主導でデザインチェンジを行っても、消費者はついて来ないのである。
 技術革新に追われかつ競争の激しいメーカー主導のデザイン開発では、消費者のニーズに応えてなどというキャッチフレーズは宣伝文句でしかない。ライフサイクルを短くしているのは、消費者のニーズではなく、メーカー間の開発競争である。デザインの流行を作るのは消費者ではなく、実はメーカーであったのである。A社が丸味を帯びたスタイルの自動車を創作し発表すると、B社もC社もD社もこれに追随して皆同じような丸味を帯びた自動車を製造販売する。一社位、ヨーロッパ車に見られるような自分のデザインポリシーを頑固に守って、直線型のスタイルに固執したメーカーがあっても良いと思うし、そのようなスタイルをニードする消費者も多勢いるにもかかわらず、無視される。
 メーカーは、消費者の多様なニーズに合わせて物品を供給するのが今日のメーカーとしてのあり方だなどと叫ぶ。しかし、売れそうな他社のデザインと似ている物品をコストを下げて提供し、同業者との競争に勝とうというのが現実のメーカーのセールス・ポリシーであってみれば、個性的なデザインの物品を多種類製造販売することは一メーカーの立場ではもともと不可能なことである。
 のみならず、今日では、安全性や自然環境との調和性の面からの要求も、デザインの創作に課せられている。
 今や、通産省はデザイン奨励審議会のデザイン奨励部会に、今後10年のデザイン政策づくりについて諮問を出しているほどである。(朝日新聞平成4年12月11日)
 また、ECの「未登録共同体意匠(Unregistered Community Design)」と英国の「非登録意匠(Unregistered Design)」とは、法律上似て非なる保護制度である。
 前者は、所有権として暫定的に3年間の保護期間を与えはするが、意匠の公表後12か月以内に意匠登録出願をすれば、「登録共同体意匠(Unregistered Community Design)」権として保護される道が開かれているのに対し(6)、後者は、最初に流通においた年の終りから10年間は非登録意匠権という名の所有権として保護するが、非登録意匠権から登録デザイン権へ移行する道は開かれていないが、登録意匠権の保護を求める場合は、同時に登録出願をすればよく、二重保護となる。
 さらに、外国のこれらの立法例は、不正競争防止法におけるものではなく、意匠法(英国ではCopyright, Designs & Patents Act 1988)におけるものである。営業上の利益を侵害する不法行為に対しこれを不正な競争行為として禁止する不正競争防止法と、開発創作した新規な意匠を所有権として独占排他的に保護するという意匠法とでは、同じ意匠を保護する法律であっても、その法の目的,法益が異なるのだから、これを同一視して考えるべきではない(7)。
 新不競法が、商品形態の模倣を禁止する期間を3年間に限定し、その後は自由とすると規定したことは、不競法の本質から外れた考え方である。他の不正競争行為の類型には期間の定めはない。他人の商品形態の模倣は模倣である以上、それが肯定されてならないことは先進国の常識であり、モラルである。
 したがって、この期間規定は、国際的な批判の的になるおそれがある(8)。
(3) 3年を経過した後でも、その意匠がさらに1号型又は2号型に該当する場合は、無期限に保護されることになる道は開かれている。したがって、企業はその道への努力を続けるようにするであろうし、すべきであろう。しかし、3年とはいかにも短かすぎる。
(4) この規定において、「模倣」とは、完全に同一形態のほかに、実質的に同一性を失わない程度の改変も含まれると説明されているが、当然である。そうすると、「模倣」とは、前記した直接的利用の場合のみならず隷属的利用(改変的模倣)も含まれると解される。
 ということは、同一の形態及び類似の形態をも含むといえる。そうであれば、なぜ「他人の商品の形態と同一又は類似のものを模倣した商品」としなかったのだろうか。(不競法において、商品形態の類似とは、結果として商品の混同を起こすものをいう。)
 類似の形態とは、いわゆるデッドコピーではないけれども、他人の売れている商品の形態に一見して似ている形態をいうから、その範囲まで模倣の範疇としなかったのは、意匠法への遠慮からであろうか。
(5) 3号型は、その適用除外例として、同種の商品(物品と考える方が正確であろう。)がその機能と効用を果たすために属性的に有する形態の模倣を挙げる。しかし、そのような形態は、本来、模倣の対象ではない。
 この適用除外は、同種の商品のない場合は、機能と効用が類似の商品に及ぶ。
(6) 立法者は、3号型の規定を創設するときに、意匠の出願から登録までの審査期間の長さを想定していたであろう。現在のところ、平均して出願日から1年7か月と意匠課は説明しているが、3年以上経ってもまだ一回も応答のない出願は数多くある。
 そこで、実務家として考えることは、製造販売した意匠をまず不競法2条1項3号によって最長3年間、保護することである。製造販売の前又は後6か月以内に意匠登録の出願をしておけば、3年後には意匠権を取得しているかも知れないから、後は意匠権を行使していける。
 ということは、わが国おいては、非登録意匠権は意匠法ではなく不競法によって暫定的に保護されることになるのである。
(7) さらに、意匠権の存続期間の満了時に登録意匠を周知又は著名にしておけば、前記した1号型又は2号型に該当する商品形態となり得るから、さらに長期的(無期限)に保護することができることになる。
(8) 新規性も創作力もない意匠、出願すれば必ず拒絶されるであろう意匠でも、他人が模倣すると、たとえ周知や著名なものでなくても、不競法によって保護されることができる。それは何故だろうか。
 流行は繰返すというが、十数年前に公知になっていた意匠を、再び製造販売した著者は、それを模倣した業者に対し不正競争行為と主張できるだろうか。被告は自由意匠の抗弁を主張できないのだろうか。
 3号型の原則から考えれば、創作の有無や公知の有無は無関係であるから、自由意匠の抗弁は無視されることになる。
 しかし、そのような場合に自由意匠の抗弁又は公知意匠の立証が通じないとすると、著しく法的安定性と衝平性を欠くことになる。
 3号型の保護は、意匠法が保護対象とする意匠の一部が意匠法を離れたところで保護されることになる。ここに、工業所有権法体系ないし知的財産権法体系、引いては私法秩序全体の崩れが見えてならないのである(9)。

6 結びに代えて
(1) 非登録意匠の模倣からの保護は、本来ならば不正競争防止の観点からではなく、創作保護の観点から意匠法の改正によって行うべきものであった。それは、すでに英国1988年法に見られ、米国も著作権法典に付加する特別法の制定を長年模索し続けている。
 しかし、新不競法による日本的な非登録意匠の模倣からの保護の実現によって、現行意匠法のガス抜きがとりあえずできたことから、将来行われるかも知れない意匠法の改正は抜本的なものではなくなったといえる。その意味で、今回の新不競法の成立は、必要性が叫ばれてきたにもかかわらずいつまでも立ち上らなかった意匠法の改正問題への挑戦であったと評価したい(10)。
(2) しかし、意匠権の効力を設定登録を停止条件として出願日から起算する制度にするならば、意匠の模倣退治は、中長期的には殆んど実現するであろう。そして、このような制度にすることは、英国をはじめEC諸国の意匠制度と調和することになるのみならず、わが国が1989年を「デザインイヤー」としてデザイン振興を鼓舞したことを真に保証するためにも必要なのである。
 いずれにせよ、新不競法が、今後のわが国産業界の健全な法秩序の維持とデザイン振興の守り役の役割を果すことを期待したい。



(注)
(1) わが国の裁判例については、牛木理一「不正競争防止法と物品形態の保護」『意匠法の研究』383頁以下参照。
(2) 舟本信光「意匠の識別機能について」。
(3) 『奥崎光衛先生追悼論文集』437頁。
(4) 竹田稔『知的財産権侵害要論』261頁。完全的模倣である「木目化粧紙事件」(東京高判平3年12月17日)、隷属的(改変的)模倣である「袋帯事件」(京都地判平成1年6月15日)において、裁判所はいずれも不法行為(民709条)の成立を認めた。しかし、前者においては、単にデッドコピー商品を製造販売したという行為に対してではなく、「これを控訴人の販売地域と競合する地域において廉価で販売することによって原告製品の販売価格の維持を困難ならしめる行為をした」という結果を加味した不正競争行為型のものであった。新不競法の3号型では、このような結果は全く不要である。また、後者においては、被告製品は細部を見ると個々の図柄は原告製品と同一ではないが類似点が多く、全体として両者は類似するから、模倣品であると認定したが、これに「問屋から被告が本件袋帯甲に類似した品質の劣る袋帯を安価で別途に販売しているように誤解されて多数の苦情を受け、本件袋帯甲に関する営業活動及び原告の営業上の信用を侵害された」という結果を加味して不法行為の成立が認められた。一方、「写植用書体事件」(大阪地判平1年3月8日)では、「一見、被告書体が、本件書体に似ていることは否定できないとしても、だからといって、直ちにこれをそっくりそのまま流用したものであるとまで断じることはできない。」として、改変的模倣であっても不法行為の成立を否認した。同判決はその前段で、「著作物性の認められない書体であっても、真に創作性のある書体が、他人によって、そっくりそのまま無断で使用されているような場合には、これについて不法行為の法理を適用して保護する余地はある」と判示している。前記「木目化粧紙」の場合は、「全く創作性のない完全な模倣,すなわちデッドコピーの製作販売行為を営業活動の侵害と構成した点が注目される。」(竹田稔「商品表示と営業表示の保護5.模倣」発明90巻40号106頁)。
(5) この調査報告書は、残念ながら公表されていない。
(6) 英国法については、例えば牛木理一「意匠法と著作権法の間」『意匠法の研究』261頁以下参照。英国1988年法については、牛木理一・パテント42巻4〜6号、ジュリスト944号参照)。EC意匠法案が考えている12か月という期間は、意匠登録のための出願ができる救済期間(grace period)に相当する。産業界の中には、短期間で莫大な数のデザインを開発する部門がある。開発されたデザインのうち、商業的に利用されるのは、ごく一部である。しかし、現状では、一般にデザインの商業的価値を、デザインの新規性を失わずに、市場でテストすることはできない。デザインを登録によって保護される前にテストすれば、そのデザインは保護されない。EC委員会は、暫定的にこの保護の期間は、デザインの発表から3年にすることを提案している。デザイン公表後の登録は、公表の日から12か月の猶予期間内であれば許されることが提案されている。この猶予期間内は、デザインが公表されたという事実によって、デザインの特徴は失われることはなく、この期間内に登録出願することができる。
  「未登録共同体デザイン」は、独占権がデザインのコピーからの保護に限定されることを除けば、「登録共同体デザイン」と同一の権利を所有権者に与える。しかし、模倣せずに開発された同一又は実質的に類似するデザインは、未登録デザイン権を侵害せず、それぞれの権利として保護される。(牛木理一「ECにおけるデザインの法的保護に関する報告書」AIPPI31巻11号6頁)。
  わが国の意匠法では、新規性喪失の救済期間は公知日から6か月であるが、AIPPI東京総会のQ.108作業委員会案では12か月であった。
(7) 中山教授は、「不正競争防止法も含め、知的財産法とは、原則として模倣を禁止する法制度であるといえる。」(「不競法改正の方向と今後の議題」ジュリスト1018号8頁)といわれる。特許法,意匠法,著作権法等は、一定期間有効に独占排他的に存続している権利に対し侵害行為があった場合の救済方法を考えているのに対し、不競法は、その全体が不正競争行為とそれに対する救済方法について立法しているものである。即ち、前者のうち意匠権についていえば、一定の登録要件を具備した知的創作(意匠)に対し設定登録によって所有権を形成し、このような意匠を業として同一又は類似の範囲まで独占排他的に実施できる準物権的性質の所有権を実効あらしめるために、救済方法として意匠権侵害に対する差止請求権,損害賠償請求権,刑事罰を用意しているのに対し、後者は単に模倣行為に対する救済方法を用意するだけである。したがって、意匠権に対して被告は登録意匠の新規性や創作力の欠如による有効性を争うことができるのに対して、不競法による商品形態に対して被告はその有効性を争うことはできない。
  このように考えると、一般論として知的財産権法の全部が「原則として」模倣を禁止する法制度だという考え方はうなずけない。
(8) 報告書によれば、「WIPOにおいて検討が進められつつあるモデル法に盛り込まれるべき内容をも念頭に置き」とあるが、WIPOにおける作業はまだ始まったばかりであり、その内容は流動的であってみれば、「べき内容」としてわが国だけが早まることは得策ではない。
(9) 竹田・発明前掲109頁は、「その規定の要否,要件の設定等は私法秩序全体の整合性の上に立って慎重に検討すべき事柄である。」といわれる。
(10) しかし、わが国の意匠法に今後残された抜本的改正があるとすれば、意匠権の効力を設定登録を停止条件とした出願日からの発生と、新実用新案法のように無審査登録主義を採用することであろう。
  なお、意匠法の抜本的かつ具体的提言としては、牛木理一「意匠審査制度の弊害と解決法」特許管理37巻11号1315頁及び「意匠保護の未来学」40巻2号26頁がある。

 


〔牛木理一〕