第1−18

 
ウルトラマンの著作権の帰属と海外独占利用権

牛  木  理  一

はじめに

  「ウルトラマン」のアニメシリーズを生んだ円谷プロ(原告)は、わが国に住所を有しないタイ人A(被告)に対し、業務妨害をされたとして、不法行為(民709条)又は不正競争防止法2条1項14号,4条に基く損害賠償及びこれに関連する請求訴訟を、平成9年に東京地裁に起した。事の発端は、タイ人Aが、日本法人Xに前記「ウルトラマン」アニメの利用許諾をしたことにあった。
 一審の東京地裁と控訴審の東京高裁は、いずれも裁判管轄は日本にないことを理由に、訴えを却下した。しかし、上告審の最高裁は、不法行為についての客観的事実関係が証明されれば足りるとの考えをとり、事件を東京地裁に差し戻したのである。
 ここに紹介するものは、差戻し後の東京地裁判決および同旨の東京高裁判決である。

1.本訴請求事件では,一審原告が一審被告に対し,一審原告は本件著作物の著作権者であり,一審被告に対して著作権の譲渡又は利用許諾をしていない旨を主張し,@一審被告が代表者を務める会社が,本件著作物の著作権を有し又は利用許諾を受けているとして警告書を日本国内の会社に送付したことにより一審原告の業務が妨害されたことを理由に,不法行為又は不正競争防止法に基づく損害金1000万円及びこれに対する不法行為の後である平成10年4月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払い,A一審被告が日本において本件著作物についての著作権を有しないことの確認,B一審被告が日本以外の国において本件著作物についての著作権及び利用権を有しないことの確認,並びにC不正競争防止法に基づき,一審被告が,日本国内において,第三者に対し,「本件著作物につき1審被告が日本国外における著作権者又は独占的利用権者である旨を告げること」及び「本件著作物の著作権に関して日本国外において1審原告と取引をすることは1審被告の著作権又は独占的利用権を侵害することになる旨を告げること」の各差止めを求めた事案である。
  これに対しタイ人Aは、自分が社長をつとめるチャイヨ社が、円谷プロから日本を除く全外国において、期間の定めのない本件著作権の独占的配給権,制作権,複製権等の許諾を受けていた旨の1976年3月4日付「契約書」を証拠に争ったのである。Aは1996年7月に、この契約書に基づいて円谷プロに対し、Aが本件著作物の独占的利用権を有することを確認する旨の書翰を送付していた。
  円谷プロは、1997年に日本とタイでAを相手に訴訟を起したが、前記「契約書」はAが偽造したものなどと主張した。
2.反訴請求事件では、一審被告のAが一審原告の円谷プロに対し、本件著作物の著作権の譲渡又は独占的利用許諾を受けた旨主張し、同著作権又は独占的利用権を有することの確認を求めた事案である。
 
東京地裁の判決要旨と事実認定(平成15年2月28日判決)
1. 原判決は,(1)被告が日本において本件著作物についての著作権を有しないことを確認,(2)被告が日本以外の国において本件著作物についての著作権を有しないことを確認,並びに(3)被告が,日本国内において,第三者に対し,「本件著作物につき1審被告が日本国外における著作権者である旨を告げること」及び「本件著作物に関して日本国外において1審原告と取引をすることは一審被告の著作権を侵害することになる旨を告げること」の各差止めの限度において、原告の本訴請求を認容し,その余の請求をいずれも棄却した。
  即ち、東京地裁は、原告が主張した前記ABCは認めたが、@の損害金の支払いについては認めなかった。その理由は以下のとおり。
 ア 被告は,昭和37年ころに来日し,東宝の撮影所で2年間映画の特撮,現像等の勉強をし,そのころGと知り合い,以後,Gの子のBやその子のEとは,Eが被告の自宅に遊びに行ったり,被告がBの自宅に泊まったりする等の家族的で親しいつき合いをするようになった。
 イ Gは,昭和45年1月に死亡した。同人の事業は,子のBに承継され,Bが原告及び円谷エンタープライズの代表取締役になったが,これらの会社の経営は苦しかった。
 原告と被告が経営するタイ・ブリン社は,昭和48年11月26日,映画制作契約を締結し,同社は原告に被告制作映画(1)の制作を発注し,同社は原告に対し,制作費として少なくとも1万5,000米ドルを支払った。原告は,同映画を制作した。 
 ウ 原告と被告が経営するチャイヨ社は,昭和49年9月3日,映画制作契約を締結し,同社は原告に被告制作映画(2)の制作を発注し,同社は原告に対し,制作費として9万米ドルを支払った。原告は,同映画を制作した。
 エ Bは,同年10月14日,台湾の映画会社であるフー・ロン・フィルム・カンパニーとの間で,被告制作映画(1)をタイ及び日本以外の極東地域で独占的に販売する権利を無期限に与える旨の契約を締結し,同社から3万米ドルを受領した。タイ・ブリン社は,同契約の締結を事後的に承諾した。 
 オ Bは,チャイヨ社から権限を与えられ,昭和50年2月19日,香港の映画会社であるサザン・カンパニー・リミテッドに対し,タイ,台湾,日本等以外の極東及び中東の地域において被告制作映画Aを上映する独占的な権利を与える旨の契約を締結し,同社から12万米ドルを受領した。 
 カ 被告はその知人Hと共に昭和51年3月2日に来日し,Bに対して上記フィルムの売却代金の支払を求めた。これに対し,Bは,金員の返済は不可能だが,代わりに海外におけるウルトラマンの権利を被告に与えることを提案した。当時は,怪獣ブームが終わった上,景気が悪く,原告は,多額の負債を抱えていた。
 キ 本件契約書は,昭和51年3月4日付けのものであるが,同日はCの誕生日であった。
 ク 被告は,昭和59年ころ,原告から「ウルトラマンZOFFY」のフィルムの提供を受けて「ハヌマン・アンド・ザ・イレブン・ウルトラメン」を制作した。被告は,そのころ,上記フィルムの配給をポー・ウォー・フィルム・カンパニーに許諾するに当たり,同人に対して本件契約書を提示した。この時,C(当時13歳)も本件契約書を見ている。 
 ケ 被告とCは,平成2年にミラノ・マーケット(映画のフィルムを国際的に売買し合うマーケット)に行き,そこで,昭和51年まで円谷エンタープライズに勤めていたFと会った。
 コ 原告は,同年10月,Bが同年に米国において設立したウルトラコムとの間で,ウルトラマン作品のテレビ及び劇場映画のすべてについて日本以外の全世界での配給代理店契約を締結した。 
 
2.裁判管轄について
  本件契約は,日本において,日本法人である原告とタイ人である被告との間で締結されたものであるが,本件契約書には準拠法についての規定がないこと,本件契約の対象は日本以外の地域の本件著作物であり,タイのそれに限るものではないことからすると,上記当事者の意思が明らかとはいえないから,法例7条2項によって,本件契約の成立及び効力の準拠法は行為地法である日本法であると認められた。

3.契約書の筆跡について
  原告は,本件契約書にある「B」の欧文字の署名はB本人の筆跡と異なると主張し、筆跡鑑定を提出した。
  しかし,(1)鑑定資料はフォトコピーを使用し,筆順,筆圧等を含む筆跡の質的要素を必ずしも正確に検査することはできない,(2)対照資料相互間もそれぞれ外観上必ずしも一致するものではないし,それぞれの書写条件も不明である,(3)本件契約書の署名と外観上類似する契約書のBの署名が存するところ,この契約書は,被告制作映画の制作に関する契約書である,(4)証拠によると,欧文字のBの署名の上の漢字のBの署名は,同人がふざけて署名するときの署名のやり方であると認められるところ,このように特徴的な署名を偽造することは考え難いから,Bの署名であると認められるが,欧文字のBの署名は,本件契約書の署名と外観上類似し,他にも同様の署名が存する,(5)外観上鑑定資料と対照資料とは字体が異なる箇所が少なからず存するものの,類似するところも見られることからすると,上記鑑定書の鑑定結果のみで直ちに上記署名がBの筆跡ではないと断ずることはできない。

4.本件契約の内容について 
(1)本件契約書は,ライセンス付与契約書という表題の下に,1条で映画を特定した上,2条で「契約地域及び契約期間」として「日本を除くすべての国における無期限の独占権」と記載されており,3条で「ライセンスの範囲」として「配給権」「複製権」等が列挙されている。3条の権利が列挙されている中には,「配給権」等と並んで「著作権」が含まれているが,上記認定の事実からすると,本件契約書は,全体としては,1条で特定した映画についての独占的な利用権をライセンスするものであると認められ,著作権の譲渡契約であるとは解されないから,本件契約書によって,被告に本件著作物の日本国外における著作権まで移転したものと認めることはできない。
(2)被告は,本件契約締結の際に,原告が被告に対し,本件著作物のみならず,ウルトラマンシリーズの将来の作品の著作権ないし独占的利用権についても与えたと主張し,被告の陳述書には,本件契約書の「Article3.3」が新たなウルトラマン作品の制作権を指すとの記載があり,被告は,本人尋問において同旨の供述をした。しかし,これらの記載及び供述は,本件契約書が1条で映画を特定していることや「Article3.3」の「Reproduction Right(複製権)」という記載とは相容れないから,信用できない。他に上記被告の主張を認めるに足りる証拠はないから,上記被告の主張は認められない。

5.本件著作物の著作権及び利用権の帰属について
  本件著作物の著作権は原告が取得したものと認められ,その後,日本国外における著作権が被告に移転した事実は認められず,また本件書簡の内容からすると,本件書簡の意思表示によって日本国外における著作権が被告に移転したとの余地はなく,日本における著作権が被告に移転した事実も認められないから,被告は日本及び日本国外において本件著作物の著作権を有しない。
 しかし,本件契約書が真正に成立していることからすると,被告は,日本国外における本件著作物の独占的な利用権を有するものと認められる。 

6.虚偽事実の告知について 
(1)被告は日本及び日本国外において本件著作物の著作権を有しないのであるから,本件警告書のうちチャイヨ社が本件著作物の著作権を有する旨の記載に関する部分を日本において原告の取引先に送付する行為は,「虚偽の事実」を告知する行為に当たる。原告と被告が競争関係にあることから,上記「虚偽の事実」を告知する行為は,原告の営業上の信用を害するものと認められる。したがって,上記行為は不正競争防止法2条1項14号に当たるということができるところ,被告が本訴において本件著作物の著作権を有する旨の主張をしていることからすると,被告は,上記行為を行うおそれがあるものと認められる。よって,上記行為の差止請求は理由がある。 
(2)しかし,被告は日本国外において本件著作物の独占的な利用権を有するものと認められる。そして,被告はチャイヨ社の経営者であり,本件契約書には,「Article3.8」において,被告に付与された各権利を第三者に譲渡することができる旨規定されていることなどからすると,本件警告書中,チャイヨ社が独占的な利用権を有する旨の記載に関する部分は,「虚偽の事実」であるとまでは認められない。したがって,上記「虚偽の事実」であるとは認められない事実を告知する行為の差止請求は理由がない。 
(3)また,被告に故意又は過失があったとまでは認められないから、不正競争防止法4条に基づく損害賠償請求は理由がなく,不法行為を理由とする損害賠償請求についても理由がない。 
 
東京高裁の判決要旨(平成15年12月10日判決)
 控訴審判決は、@一審原告及び1審被告の各控訴をいずれも棄却し、A一審被告の主位的反訴請求を棄却したが、B一審被告が日本以外の国において、別紙目録記載の各著作物についての独占的利用権を有することは確認された。
 その結果、控訴費用は原告・被告それぞれ2分の1の負担とした。

む す び
 この結果、「ウルトラマン」をめぐるアニメ作品の著作権は、依然として円谷プロに帰属していることは確認されたが、日本以外の海外における作品の独占的利用権はタイ人Aが経営するチャイヨ社にあることが確認された。したがって、円谷プロは、海外におけるAの利用に対しては、一切口を出せないことになったのである。
  なお、「独占的利用権」(exclusive right)とは、特許権に対する専用実施権に相当するから、その範囲に関しては本権利者である著作権者の行為すらも排除を受けることになる。



 


〔牛木理一〕