第1−12



漫画キャラクターの著作権保護 
−キャラクター権の確立への模索− 
Copyright Protection for Comic and Cartoon Characters − A Study to Establish Character Right 
 

牛  木  理  一


 

目 次 
1. は じ め に     
2. 漫画とキャラクターの関係 
3. 漫画キャラクターの著作権保護
 3.1 美術の著作物について
 3.2 応用美術について
 3.3 創作の目的
 3.4 著作物の特定
 3.5 複製・翻案について
 3.6 複製・翻案の範囲外のもの
4. 漫画キャラクターの著作物の独立性
 4.1 漫画の著作物とキャラクターの絵
 4.2 漫画の著作物の性質
 4.3 キャラクターの名前
 4.4 キャラクター権の確立
5. む す び 

1. は じ め に
 漫画のキャラクターをめぐる著作権法上の法的保護の問題を論ずるときには、次の各題について考えなければならない。
 第1に、漫画のキャラクターとは何か。
 第2に、キャラクター自体は著作物か。
 第3に、キャラクターの何を著作権は保護するのか。
 これらの問題の一部については、筆者はかって、「著作権法におけるキャラクターと商品化権」と題する論文(半田正夫教授還暦記念論集.法学書院575頁1993)において論じたが、その後、キャラクタ ーをめぐる著作権問題は、「ポパイ」著作権第1事件の最高裁平成9年7月17日判決などの判例もあり、数を増してきている。
 筆者は前記論文において、明確には「キャラクター権」の成立を前提とした理論を展開したわけではない(1)。しかし、キャラクターの著作権の発生とその保護期間の起算については、漫画作品からキャ ラクター自体の独立性を、旧著「商品化権」92頁(1980)において強調していたことから、外部からは、筆者が「キャラクター権」という概念を提唱しているかに見えたかも知れない。
 そこで、今回は、前記論文の発表以後、蓄積されてきたわが国の裁判例を含めて、「キャラクター権」という権利の確立を確実に意識し、この議論をさらに展開してみたいと考えたのである。

2. 漫画とキャラクターの関係
 通常、「キャラクター/Character」とわれわれが呼ぶとき、何かに登場する人物のことを考えてい る。したがって、筆者が1980年5月に上梓した旧著「商品化権」の冒頭に紹介したキャラクターの種類 の中の、1.ファンシフル・キャラクター、2.フィクショナル・キャラクター、3.実在人物、これ以外の4.動物,建築物,自動車,航空機,雑誌の表紙,人形,商品それ自体など,現実の物体で表現されているもの、5.商標,サービスマーク,シンボルマーク,ネーミング,ワードなど,図形や文字や記号で表現されているもの、6.企業・団体などの名前や略称などで,文字だけで表現されているもの、7.その他以上の分類に属さないすべてのもの、は、あくまでも筆者の独創による分類であり、この分類は新著「キャラクター戦略と商品化権」(以下,牛木「キャラ商品化権」と略称する)5頁においても引き継が れている(2)。
 今年4月、研究社発行の「じてん・英米のキャラクター」(船戸英夫・中野記緯1998)を手にした時 、その「はしがき」で、“character”の語源がギリシャ語であることを知り、この語は本来、他と区 別するためにつける「印(しるし)」を意味し、現代英語でいえば「マーク」が一番近く、原意は今にしっかり残っていると編著者は語り、現行の掌中版英英辞典の「キャラクター」の項から、キャラクターを分類すると、おのずから次の4つになると述べられている。
(1) 演劇・映画・詩歌・小説・マンガなどの登場人物
(2) 伝説・民話・おとぎ話・マザーグースなどに出てくる人物・妖精・怪物
(3) 聖書・ギリシャ・ローマ神話を形成する神とその世界に登場する人物
(4) 有名なキャラクターを生み出した作家を中心とする歴史上実在の人物
 このうち、分類(1)に、漫画のキャラクターが、小説その他のキャラクターと同類に区分されている ことは、筆者がそれを特に「ファンシフル・キャラクター」として別分類においたのも、これはもともとは広く「フィクショナル・キャラクター」の種類に属するものであることを考えれば、問題はない。商品化権の問題を考えるときには、視覚的かつ具象的な漫画のキャラクターが主役となるものであるから、この概念がわかり易いのである。
 前記キャラクターの分類を見ても明らかなように、漫画の歴史は小説や物語のそれよりはるか後であるけれども、独立した作品として社会的に認知されるようになったのは、シリーズ漫画やストーリー漫画やアニメーション(動画)が登場した20世紀に入ってからであろう。しかも、この漫画のキャラクターが、他人の商品やサービスの“商業的目的”のために使用され始めたのは、20世紀も30年位経ってからではなかろうか。そして、わが国においては、第一次世界大戦後からではなかろうか。
 ところで、漫画のキャラクターは、単に一枚の紙に描かれた絵という静止的なものではなく、それ自体生命をもっている活動的な存在である。したがって、一回の一コマだけの登場ではなく連続的に登場するのである。こういう生命をもって連続的に活動するキャラクターはまた、ただの一個ではなく多くの、かついろいろな仲間(ファミリーということもできる)をもっているから、その間に当然、言葉(文字)による会話が交わされる。したがって、前記のような発表の場に登場するキャラクターたちの作者は、絵という美術作品ばかりでなく、言葉や文字による言語作品の作者でもある。しかし、われわれが漫画キャラクターの商品化権問題を考えるときは、そのキャラクターの絵(姿態)と名前だけが重要なのであり、会話という言語は原則として対象外である。
 作品が言葉の表現によるのではなく、漫画その他図画的表現によるものである場合には、キャラクターは保護され易い。この場合、二つのキャラクターの姿態が完全に一致していなくても、視覚の中にキャラクター固有の特徴が共通に現われていると認められるときは、原告のキャラクターの名前と被告のキャラクターの名前とがたとえ異なっていても、著作権侵害が成立する証拠になる。
 そこで、本稿では、キャラクターの種類を問わず、その商品利用が問題となった次に挙げる著作権侵害訴訟事件におけるわが国裁判所の判決を念頭において、キャラクターと著作権との関係がどのように考えられているかを見る。
(1) 「サザエさん」事件〈認容〉
(東京地昭46(ワ)151号昭51年5月26日判.無体裁集8巻1号219頁、牛木「キャラ商品化権」99頁)→キャラクターの利用(複製)
(2) 「たいやきくん」事件〈認容〉
(東京地昭51(ワ)3895号昭52年3月30日判.著関判集1巻713頁、牛木「キャラ商品化権」121頁)→キャ ラクターの変形(翻案)
(3) 「ライダーマン」事件〈認容〉
(東京地昭49(ワ)5415号昭52年11月14日判.無体裁集9巻2号717頁、牛木「キャラ商品化権」128頁)→ キャラクターの利用(複製)
(4) 「スヌーピー」事件〈認容〉
(東京地昭56(ワ)7672号昭58年6月3日判. 判タ499号203頁)→意匠権侵害
(5) 「パックマン」事件〈認容〉
(東京地昭56(ワ)8371号昭59年9月28日判.無体裁集16巻3号676頁)→キャラクターの複製
(6) 「コーポレーションペンギン」事件〈棄却〉
(東京地昭60(ワ)8776号昭62年7月17日判.特管別冊判例集昭621.182頁.不競法も請求)
(7) 「ポパイ」著作権第1事件
(東京地昭59(ワ)10103号平2年2月19日判〈認容〉.無体裁集22巻1号34頁、東京高平2(ネ)734号平4年5月14日判〈棄却〉.判時1431号62頁、最高平4(オ)1443号平9年7月17日判〈原判決破棄〉、牛木「キャラ商品化権」154頁)→キャラクターの複製
(8) 「ポパイ」商標権第3事件
(大阪地昭58(ワ)27号昭59年2月25日判.無体裁集16巻1号138頁〈一部認容〉、大阪高昭59(ネ)1803号昭60年9月26日判〈棄却〉.無体裁集17巻3号411頁、最高昭60(オ)1576号平2年7月20日判〈原判決破棄〉. 民集44巻5号876頁、牛木「キャラ商品化権」270頁)→商標権行使は権利の濫用
(9) 「キャンディ・キャンディ」第1事件〈認容〉
(東京地平9(ワ)19444号平11年2月25日判.判時1726号162頁、東京高平11(ネ)1602号平12年3月30日判、 最高平12(受)798号平13年10月25日一小判、牛木「キャラ商品化権」170頁)→キャラクターの翻案
(10) 「キューピー」第1事件〈棄却〉
(東京地平10(ワ)13236号平11年11月17日判.判時1704号134頁、東京高平11(ネ)6345号平13年5月30日判 、上告中、牛木「キャラ商品化権」194頁)→キャラクターの翻案・複製
 なお、漫画のキャラクターの商品化問題は、漫画という美術作品の物品(商品)への利用(実施)であるから、著作権法のみならず、意匠法、商標法、不正競争防止法にわたる諸問題にも発展するが、本稿では著作権法以外の法分野には論及しない。

3. 漫画キャラクターの著作権保護
3.1 美術の著作物について
3.1.1 わが国の著作権法は、「著作物」を、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(著2条1項1号)と定義し、1. 思想又は感情を表現したもの、2. 創作的に表現したもの、3. 文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの、を成立要件とする。
 「思想又は感情」とは人間の精神活動全般を指し、「創作的に表現したもの」とは厳密な意味での独創性が要求されるわけではなく、その思想又は感情の外的表現に著作者の個性が何らかの形で現われていれば足り、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する」とは知的・文化的精神活動の所産全般を指す、と解するのが相当である。(「選挙当落予想表」事件.東京高昭62年2月19日判、無体裁集19巻1号30頁)
3.1.2 わが国の著作権法が「著作物」について保護する「著作者の権利」とは何かといえば、同法第3 節第1款第17条で規定する「著作者人格権」(著18〜20)と「著作権(財産権)」(著21〜28)とであ る。
 また、著作権法が保護する「著作物」とは具体的に何をいうのかといえば、同法10条1項は、「おお むね次のとおりである」として9つのものを例示規定する。この中には、「4. 美術の著作物」、「5. 建築の著作物」、「6. 図形の著作物」、「9. プログラムの著作物」がある。
 そこで、漫画作品に登場する人物や動物などのキャラクターと呼ばれるものは、その絵から「美術の著作物」に属するものと考えるのが普通であるから、まず「美術の著作物」とは何かについて考察しよう。
 わが国の著作権法において、「美術の著作物」の概念はどこまでの作品を含んでいるのかといえば、広く、純粋美術作品といわれる絵画、彫刻、版画、書のみならず、純粋美術作品に対立する応用美術作品といわれるものも含まれるが、建築物については「建築の著作物」として独立の規定(著10条1項5号)をおく。
 では、国際的には、「美術の著作物(Artistic Work)」の概念をどのように定義しているかといえ ば、WIPO発行の“GLOSSARY”(1980,1986)によれば、次のように定義する。
 英語:An artistic work (or a work of art) is a creation intended to appeal to the aesthetic sense of the person perceiving it. The category of artistic works comprises paintings, drawings, sculptures, engravings, and in several copyright laws also works of architecture and photographic works. Although in some countries musical works are considered to be a special category of protected works, in many copyright laws the notion of artistic works comprises musical works too. Works of applied art are in most legislations likewise included in this category.
 日語:美術的著作物(又は美術の著作物)は、それを知覚する者の審美的感覚に訴えることを意図された創作物である。美術的著作物は、絵画、素描、彫刻及び版画を含み、また、多くの著作権法においては、建築の著作物及び写真の著作物をも含む。若干の諸国においては、音楽の著作物は、特別の種類の保護著作物とみなされるが、多くの著作権法においては、美術的著作物の概念が音楽の著作物をも包含する。応用美術の著作物も、多くの国内法においてこの種類に含まれる。
 また、「応用美術(Applied Art)」の概念にはいくつかの解釈が可能であるところ、やはり前記“GLOSSARY”によれば、次のように定義する。
 英語:An artistic work applied to objects for practical use, whether handicraft or works produced on an industrial scale. Copyright laws may determine the extent to which they apply to works of this kind.
日語:手工芸の著作物であると工業的に製作された著作物であるとを問わず、実用目的の物品に応用される美術的著作物。著作権法は、この種類の著作物への著作権法の適用範囲を定めることができる。
3.2 応用美術について
3.2.1 「応用美術」とは何かについて考えると、大きく二つの方法による作品の誕生があるように考えられる。一は純粋美術の技術を量産物品に応用して物品に純粋美術性を表現する場合、他は純粋美術作品を量産物品に利用して量産する場合である。わが国では、前者の応用美術作品については、純粋美術作品に準ずる「美術工芸品」として著作権法2条2項によって保護することについて明文規定はあるが、後者の応用美術作品については、著作権法による保護があるか否かは説の分かれるところである。
 後者の応用美術作品は、結果である作品を中心に見れば、意匠法が保護対象とする「意匠」(意2条1項)と同じであるし、原因である作品を中心に見れば、「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製する」(著2条1項15号柱書)複製物となる。すると問題は、「有形的に再製する」の解釈にかかることになろう。
 ここに「有形的に再製する」とは、「録音」や「録画」のようにテープやディスクという有形の固定物に再製することをいうのであって、演奏や演技のような実演そのものは無形であるから、それを再演することは複製ではないという意味に解すべきである(3)。したがって、印刷も写真も、絵画の著作物 を平面的態様のままで再製する場合をいい、絵画の著作物を立体的態様に「変形」することは通常の再製ではなく、著作物の翻訳、編曲などと同様に「翻案」の一種と解され(著27条)、原著作物に対して二次的著作物(著2条1項11号)となるが、「変形」には何らかの創作性が付加されていなければならない。したがって、創作性の付加が認められないような作品にあっては、たとえ立体的態様に変形していたとしても、原著作物の「複製」ということになる。
3.2.2 ところで、美術の著作物でありながら同時に意匠でもあるものは「応用美術」作品と呼ばれるが、その法的保護の問題を考えることは、現行著作権法の制定時の重要事項の一つであった。この問題について、著作権制度審議会は昭和41年4月20日に、次のような答申書を文部大臣に提出している。
 第1案として応用美術について、著作権法による保護を図るとともに現行の意匠法など工業所有権制度の調整措置を積極的に講ずる方法としては、次のように措置することが適当と考えられる。
(1) 保護の対象
 1. 実用品自体である作品については、美術工芸品に限定する。
 2. 図案その他量産品のひな形または実用品の模様として用いられることを目的とするものについては、それ自体が美術の著作物であり得るものを対象とする。
(2) 意匠法、商標法との間の調整措置
  図案などの産業上の利用を目的として創作された美術の著作物は、いったんそれが権利者によりまたは権利者の許諾を得て産業上利用されたときは、それ以後の産業上の利用の関係は、もっぱら意匠法などによって規制されるものとする。
 第2案として上記の調整措置を円滑に講ずることが困難な場合には、今回の著作権制度の改正においては以下によることとし、著作権制度および工業所有権制度を通じての図案などのより効果的な保護の措置を、将来の課題として考慮すべきものと考える。
 1) 美術工芸品を保護することを明らかにする。
 2) 図案その他量産品のひな形または実用品の模様として用いられることを目的とするものについては、著作権法においては特段の措置を講ぜず、原則として意匠法など工業所有権制度による保護に委ねるものとする。ただし、それが純粋美術としての性質をも有するものであるときは、美術の著作物として取り扱われるものとする。
 3) ポスターなどとして作成され、またはポスターなどに利用された絵画、写真などについては、著作物あるいは著作物の複製として取り扱うこととする。
 この結果、第1案は意匠権等との関係で総合的な検討を要することから実現困難となり、第2案が採用されたのである。なお、第1案の基礎となった立法例は、
英国1956年著作権法第10条である。この規定は、後記する「ポパイ」事件の貴族院判決(1941年)が起爆剤となって制定されたものである(4)。
 第2案のうち、特に重要なのは(2)項であり、実用品の模様として用いられることを目的として創作 されたものでも、それが純粋美術としての性質をも有するものであれば、たとえ意匠法の保護対象となる意匠であるとしても、同時に、美術の著作物として著作権法で保護することができるとした。
3.2.3 わが国では「応用美術」作品といわれるものは、具体的には次のようなものと考えられている。(昭和41年7月「著作権制度審議会答申説明書」から)
 1) 実用に供され、あるいは、産業上利用される美的な創作物である。
 2) 1.美術工芸品、装身具など実用品自体であるもの
   2.家具に施された彫刻など実用品と結合されたもの
   3.文鎮のひな形など量産される実用品のひな形として用いられることを目的とするもの
   4.染織図案など実用品の模様として利用されることを目的とするもの
 これらはいずれも量産される実用品に関係しているものであるが、一品製作で専ら床の間に飾っておくような「美術工芸品」の類いは、純粋美術作品であって、応用美術の範疇に属するものではない。
 前記応用美術作品と呼ばれるものの中で、もっとも問題になるのは、4.の実用品の模様として用いられることを目的に創作されるもので、これには最初からネクタイやハンカチやエプロンの模様として用いられることを目的に創作した画家の絵も含まれる。ある有名画家によるMデパートの包装紙の模様とて、ここにいう応用美術作品となる。
 中には、最初は普通の絵として創作され、後に実用品の模様として利用されるものもあるが、このような実用品に利用された絵は、物品も含めて応用美術作品と呼ばれる。
 実用品への利用が最初または途中からであるにもかかわらず、その絵自体(図案といってもよい)はすべて美術の著作物といわれ、その質を問わないとするのが、ヨーロッパ諸国のほぼ一致した思想である。例えば、英国CDPA1988の4条1項には、美術の著作物(artistic work)とは次のものを意味すると 規定する。
 (a) 美術の質に関わりなく、グラフィックワーク、写真、彫刻、コラージュ
 (b) 建築上の作品。建造物であるか、その模型であるかを問わない
 (c) 美術的工芸品(a work of artistic craftsmanship)
 ところが、わが国の侵害裁判所にあっては、少なくとも今日までの状況は、「博多人形」事件(長崎地佐世保支昭48年2月7日決、牛木「キャラ商品化権」199頁)でいう「美術性」、「デザイン書体」事 件(東京地昭和54年3月9日判、牛木理一「意匠法の研究」〈四訂版〉366頁433頁)や「カリフォルニアTシャツ」事件(東京地昭56年4月20日判、牛木前掲「研究」368頁)でいう「専ら美の表現のみを目的とするもの」が要求されており、これは正に質の基準である。そして、この基準は、換言すれば、その作品が純粋美術作品と同一視することができるか否かにかかっている。
 しかし、物品に表現された絵が、客観的に見て純粋に美の表現を追求したもの、といえるかどうかの判断を裁判所がすることは、容易なことではないだろう。
 わが国の裁判所は概して、美術の著作物に対する著作権法の保護対象についてほぼ共通の法解釈をとり、実用目的で制作された図案等であっても、専ら美の表現を追求して制作されたものと認められれば、応用美術に属するものでもなお純粋美術に準じて、美術の著作物として現行著作権法上の保護があると考えている。言い換えれば、これらの裁判例は、応用美術といわれるものの中でも、純粋美術に準ずる作品だけを保護し、それ以外の作品の保護は認めないことを宣言しているといえる。
 しかし、それだけでは、「デザイン書体」事件の判決に見られるように、立法者の意思を再確認したにすぎないという評価しか与えられない(5)。また、美術の著作物の基準を純粋性と鑑賞性という観点 に求めようとするならば、「漫画」は果たして純粋美術作品といえるか、という疑問が出てくる。
3.3 創作の目的
 著作権法が保護対象とする著作物とは、同法2条1項1号に規定する三つの成立要件に該当するものを いい、それ以外の要件は要求されていない。即ち、美術の著作物に該当する作品の創作の目的や意図は問われない。したがって、量産される実用品に利用する目的で創作した漫画的なキャラクター(オリジナル・キャラクター)の絵であっても、それは美術の著作物と認定され、実用品への利用は、著作権法上の著作物の複製として保護の対象となる。
 現行著作権法の立法者は、「美術工芸品」(著2条2項)とは一品制作の美術的な工芸品と考えていたから、創作の最初の段階から量産することを目的に制作する「博多人形」や「仏壇彫刻」のようなものに対し、前記条項に該当する著作物と認めるべきか否かについては消極的であった(6)。
 しかし、法施行後、侵害裁判所においては、前記規定を限定的ではなく、「美術工芸品を含む」とする規定に、例示的ないし注意的なものと解釈される余地があることから、拡張して美術の著作物としての成立を認める傾向にある。
 これを明確にしたものに、「ビデオゲーム・パックマン」事件(東京地昭59年9月28日判)の判決が ある。この事件において、判決は次のように説示している。
 「著作物」の内容の要件は、1.思想または感情を創作的に表現したものであること、2.文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものであること、に分けられる。1.の要件のうち、「思想または感情」は厳格な意味で用いられているのではなく、およそ思想も感情も皆無であるものは除くといった程度の意味で用いられているものであり、人間の精神活動全般を意味するものと解するのが相当であり、また「創作性」とは、いわゆる完全なる無から有を生じさせるといった厳格な意味での独創性とは異なり、著作物の外部的表現形式に著作者の個性が現われていれば十分であると考えられる。2.の要件の「文芸、学術、美術または音楽」とは、厳格に区分けして用いられているのではなく、知的、文化的精神活動の所産全般を指すものであると解するのが相当で、その著作物がどの分野に属するのかを確定する実益はない。また、知的、文化的精神活動の所産といいうるか否かは、創作されたものが社会的にどのように利用されるかとは、必ずしも関係がない。すなわち、創作されたものが、芸術作品として鑑賞されようと、学術目的で利用されようと、全くの娯楽目的で利用されようと、実用目的で利用されようと、また本件に即していえば、遊戯目的で利用されようと、そのことは、著作物性に影響を与えるものではないと解するのが相当である。
 「パックマン」判決のこの考え方は、量産されるキャラクターの絵を著作物と認定するのに有力な理論付けを与えているといえる。例えば、人形のような子供の愛玩具についてはどのように判断すべきかといえば、人形という三次元物に翻案するに当たり、原画という二次元物が存在していようといまいと、人形の形態には作者の感情の創作的表現(個性と言ってもよい)が認められるならば、美術工芸的な美術性も備わっていると考えられるし、また人形には、子供の感情を刺激する美術性の発揮を認めることができるから、子供の視点からすれば、人形自体の美術的著作物性は容易に認定できるものである。したがって、最近の事例である「ファービー」人形に対する山形地裁平13年9月26日及び10月10日の刑 事判決(無罪)は疑問であり、仙台高裁による控訴審判決が注目される(7)。
3.4 著作物の特定
 被告の製作した人形その他の漫画キャラクターが原告の著作権に係る美術の著作物を複製又は翻案したものであると認定するためには、まず原告の専有するどの著作物(絵)を複製したものであるかを特定することから始めなければならないのは、事理の当然である。
 この「特定」の問題を考えるのに好適なのが、英国における「ポパイ」事件において貴族院が言い渡した1941年の判決である。
 そこで、筆者は、貴族院における5人の判事がこの問題についてどのように述べているかを紹介する(8)。
3.4.1 英国の「ポパイ」事件
 この事件の主役は“Pop-eye”として知られている漫画のキャラクターであり、その図画(drawings )についての著作権侵害が争われた事件である。
 “Popeye the Sailer”として知られている「船乗りポパイ」のキャラクターが最初に世界に登場し たのは、1929年1月17日付 New York Evening Journal という新聞の5連一組の連載漫画“THE THIMBLE THEATER”の中であった。同紙の各号はニューヨークでの発行と同時にカナダでも発売された。(カナダにおける漫画の発行は、同時にイギリスにおける著作権を取得した。)作者は、エリジー・クライスラー・シーガー(Elizie Chrisler Segar)である。
 この著名な漫画のかたち(feature)は、工業的手段により量産することを意図され、かつ特許デザ イン法によってデザインとして登録されることができる立体モデルのかたち(form)に、著作権者の許諾を得て複製(reproduce)されたのである。
 類似の立体モデルのかたちが、被告によって無許諾で製造、輸入、販売された。
 このようなモデルに著作権の効力は及ぶか。
 (第一審)原告勝訴。(第二審)被告勝訴。(第三審)原告勝訴。
 この事件の原告は、「船乗りポパイ Popeye the Sailor」として知られている漫画のキャラクターを描いた多数の図画(drawings)の著作権者であり、被告はポパイの絵を形取ったブローチと人形を製造、輸入、販売した会社である。原告は、すでに第三者に対して、ポパイの像(figure)をブローチ、石膏又は粘土製の人形、機械玩具に、それぞれ50個以上を生産する意図で複製する許諾を与えた。しかし、このデザインは、1907年及び1919年の特許デザイン法に基く登録はなされていなかった。保護を求められた侵害物は図画(drawings)についてであり、依拠する法律は1911年著作権法であった。この訴訟で、原告は1929年1月17日から1937年1月16日までに発表された何千という漫画の中から、55連の漫画を選び、もしこの図画の中から著作権侵害を証明することができる図画がなければ、侵害は成立しないことに同意した。
3.4.2 事件の争点
 被告側は、頭初からブローチも人形も問題の図画の具体的な複製ではないから侵害にはならないと主張していた。これに対して第一審では、ブローチと人形の両方について原告に救済を与えた。第二審は、ブローチについては図画の複製でないと判断し、また人形については図画のうちの特定の1枚の複製とはいえても、この著作権は1911年著作権法第22条が適用される結果として失われていると多数決で判決した。
 このように、この「ポパイ」事件においては争点が2つあった。第1に被告が輸入販売したブローチ、人形及び機械玩具が、選ばれた55枚の漫画中のポパイの絵のどれを具体的なかたちに複製(reproduce)したものか、第2に1911年著作権法第22条の規定が原告の著作権の行使に対して不利になるのか、 であった。
 事実問題である第1の「ポパイ」のどの絵を複製したかについて、各判事の意見は次のとおりである。
 キローウェンのラッセル議員は、最初に発表された漫画の第3番図について、その重要部分がブローチに複製されていると考えることを述べるだけで十分である、ブローチの像には第3番図にあるポパイの著しい特徴、すなわち船員帽、鼻、顎、口、ふくれた腕、だぶだぶのズボン、長い足が複製されており、これが第3番図の重要部分の複製にあたる、と述べ、さらに、問題の図画とブローチとを比較してみると、ブローチの像はこの図画から直接又は間接にコピーしたものであると強く推測できると述べた。
 モーム議員は、やはり第3番図の侵害になると判断した第一審と同じ結論に到達した。その理由として、問題のブローチのポパイ像が、前記図画の重要部分を複製しているかどうかという事実問題において、この事件のように複製したものが模倣であるが同一ではない場合には、裁判所がその類似度を検討しなければならないとして、West 対 Francis(1822,5 B & Ald. 737; ID & R. 400)事件でベーリー判事が「模作とは、原作に非常によく似ているので誰でもそれを見ると原作によって創り出された着想(idea)を思い出すもののことである」と述べていること、および同事件でシャンド議員が「申立のあった侵害品は、原作の本質的特徴と実質(essential features and substance)を採っている模作(copy)又は複製(reproduction)であるといえるほどの類似」があると述べていることを引用した。これは1911年著作権法下の判例ではないけれども、この事件における両者の判断はポパイ事件にも適用することができるとした。
 ライト議員は、問題のブローチが図画の第3番図からの複製であるかどうかを決めるテストは、全く視覚的なものであって、図画とブローチとの比較を目によって信ずるほかはない(oculis subjecta fidelibus)。被告が「ポパイ」のアイディアを盗んでいるとか、その像によって得られる人気を商業利 益の獲得に利用しているということはこの際重要でない。原告の著作権は、アイディアにあるのではなく、図画そのものにあるから。被告が、図画を直接的または間接的にコピーせずに、類似の像を独自に創作したのであれば侵害にならない。したがって、問題は図画そのもののコピー行為があったどうかである。そこでこの場合、直接的であれ間接的であれ、コピー行為の唯一の証拠は、著作権作品と侵害物品間の、図画の重要部分である像についての類似性である。ただし、実質的な類似性(substantial similarity)があれば、その類似性はコピー行為の一応の証拠(prima facie evidence)であるが、被告側はこの類似性があっても、コピー行為ではなく独自の創作であることを立証することができる。この事件では、ブローチと図面を注意深く比較してみると、ブローチと図画(第3番図)との間に、コピー行為が実際にあったという一応の証拠のある事件と認められる十分な重要な類似性が見出されるところ、被告はこれに対して反証をあげていない。したがって、人形および玩具と同様にブローチについてもコピー行為が証明されていると判断した第一審判決に賛成した。
 ロウマー議員はこの問題について、著作権法第22条の効力の問題に比しては多くを述べていない。しかし、原告の被許諾者が造ったブローチ(被告のブローチはまさにそのままのコピーであるが)と図画とを比較してみて、このブローチをデザインする際にこの被許諾者は図画の主要な特徴をコピーしたということができると思うとして、第一審の判決に賛成し控訴院の判決に反対した。
 最後に、ポーター議員はこの問題についてロウマー議員とは逆に多くを述べている。
 まず、第一審判決においてシモンズ判事が「これは主要図画のコピーであるか」と問わずに、これは“ポパイ”の主要素の新しい具体的「形式として認められるだろうか」と自問したことに対して投げかけている被告の疑問について、その見解を示した。
 被告がここで投げた疑問とは、絵(picture)や図画(drawing)によって創り出された着想(idea) は、著作権法により保護されるものかという問題であった。この問題についてポーター議員は、2つの判例を紹介している。
 一つは、West 対 Francis(1822)事件で、ベーリー判事は、“copy”とは「原作と非常に似ている ので誰がみても原作によって創り出された着想(idea)を思い出すもの」と定義した。
 二つは、Hanfstaengl 対 Baines(1895),A. C. 20, p.27 事件で、ここで第一の判例はワットソ ン議員によって批判された。この判決で同議員は、絵や図画によって創り出されたアイディアは、必ずしも著作権によって保護される作品又はデザインの主要素とはならない、と指摘している。著作権のある作品に示されているのと同じアイディアが、どうみてもコピーであったり借用したものであるとしかいえないような絵や図画に表現される場合もあろう、とポーター議員は付言している。
 そこで、ポーター議員は被告の疑問に答えて次のように述べている。
 シモンズ判事は「ポパイ」のアイディアがコピーされたと考えたから侵害の結論を出したのではなく、ブローチに表わされている漫画の像が事実上特徴が全く同一であり、十分類似していると考えたのであろう。したがって、「私の意見では、この侵害問題は、すべて一つのカテゴリーに入れられ、すべては図面からコピーされたものであり、決定されるべき問題は、この複製(reproduction)が1911年法によって保護されるかどうか、ということである。」
3.4.3 以上のように、貴族院の5人の判事の一致した考え方は、多くの連載漫画の中から「ポパイ」の キャラクターを特定できる図画を見い出すことが困難であったとしても、いずれも実質的に同一性のあるキャラクターであることを認識できるものであれば、漫画シリーズの中の最初に登場したキャラクターをもって著作物と認定し、それに著作権の発生を認めることができると考えたといえる。そうであってみれば、キャラクター自体に著作物性を認め、他人による複製又は翻案の行為をキャラクターの著作権侵害と認定することは容易といえるのである。その意味で、キャラクター自体に著作物性を認める特段の意義は認められ、著作物性を肯定する実益は存するのである(9)。
 したがって、著作権侵害を主張立証するにあたって、一つの具体的なキャラクターの絵を特定することは不能又は不要であったとしても、それらはすべて実質的に同一性のある絵である以上、その絵によって表現されているキャラクターの創作体が侵害されており、その侵害行為はキャラクターという著作物が有する著作権の侵害となると認定することは容易にできるのである。
3.5 複製・翻案について
3.5.1 わが国において漫画キャラクターの著作権侵害事件が最初に起ったのは、漫画家(原告)の四齣連続漫画「サザエさん」のキャラクターであるサザエ、カツオ、ワカメの三姉弟の似顔絵が、観光バスの車体の両側面に無断で使用された「サザエさん」事件であり、キャラクターの商品化権事件のわが国のリーディングケースである。
 この事件において東京地裁昭51年5月26日判は、「キャラクター」について次のように判示している 。
 1) 被告会社が「サザエさん」の名称と3人のキャラクターの頭部画を使い始めた時点では、すでに 原告の漫画「サザエさん」の存在と内容は、「現に当裁判所に顕著な事実」であった。
 その内容とは、漫画「サザエさん」には、その主役としてサザエさん、その弟のカツオ、妹のワカメ、夫のマスオ、父の波平、母のお舟等が登場し、サザエさんは平凡なサラリーマンの妻として、家事、育児あるいは近所付合いなどにおいて明るい性格を展開するものとして描かれており、またその他の登場人物にしてもその役割、容ぼう、姿態などからして各登場人物自体の性格が一貫した恒久的なものとして表現されている。
 2) 特定の4コマの漫画には、特定の話題や筋というものはあるが、たとえ原告自身が作成した漫画 でありその話題や筋が特定の4コマの漫画「サザエさん」の話題や筋と同一であっても、そこに登場す る人物がもしサザエ、カツオ、ワカメであると認められなければ、その漫画は漫画「サザエさん」であるとはいえない。
3) 話題や筋がどのようなものであっても、そこに登場する人物がサザエ、カツオ、ワカメであると認められれば(その漫画は原告自身が作成したものであれば)、漫画「サザエさん」である。また、他人が作成した漫画であっても、そこに登場する人物が原告の作成する漫画「サザエさん」に登場するサザエ、カツオ、ワカメと同一または類似していれば、その他人の漫画は、漫画「サザエさん」と誤認される場合があるだろう。
 4) 「サザエさん」のように、長期間にわたって連載される漫画の登場人物は、話題や筋の単なる説明者というよりも、むしろ話題や筋の方が登場人物にふさわしいものとして選択され表現されることの方が多いだろう。これは、漫画の登場人物自体の役割、容貌、姿態のような恒久的なものとして与えられた表現(物)は、言葉で表現される話題や筋や、特定の人物の表情、頭部の向き、体の動きなどを超えたものであると解される。
 5) キャラクターという言葉は、「サザエさん」のような連載漫画に例をとれば、そこに登場する人物の容貌、姿態、性格などを表現するものとしてとらえることができる。
 6) 被告の行為は、観光バスの営業に供されるバスであることを表示したものであるとしても、3人 の頭部画は、誰れがこれを見ても、そこに「サザエさん」の登場人物であるサザエ、カツオ、ワカメが描かれていると感得されるようなものである。そこには「サザエさん」の登場人物のキャラクターが表現されているものということができる。本件頭部画と同一または類似のものは、「サザエさん」の特定のコマの中にあるいは見い出し得るかも知れないが、そのような対比をするまでもなく、被告の行為は、原告が著作権を有する漫画「サザエさん」が長年月にわたって新聞紙上に掲載されて構成された前説明のキャラクターを利用するものであって、結局のところ、原告の著作権を侵害するものというべきである。
 以上で明らかなように、東京地裁は「キャラクター」を、「漫画の登場人物自体の役割,容ぼう,姿態など恒久的なものとして与えられた表現」と、とらえている。その結果、本件頭部画と同一又は類似のものは、漫画の特定の齣の中に見い出して対比するまでもなく、被告の行為は前記説明のキャラクターを「利用」するものだから、結局、原告の著作権を侵害すると認定した。
 この判決は、前記のような判示からすると、原著作物である漫画「サザエさん」の諸場面の中から前記3人のキャラクターの外的表現形式である人物絵を特定できなくても、各キャラクターの内的表現形式(イメージ)は何人にも理解できるから、キャラクター自体の無断利用が認定されるならば著作権の侵害に当たると考えたことになる(10)。
このように、「サザエさん」事件の東京地裁判決では、被告が無断使用したキャラクターの絵を連載 漫画の中から特定する必要はないと考えたことは、観光バスの車体に描かれた似顔絵が、「サザエさん」漫画に登場する人物絵の複製物であるとの認定を拒否したことになる。そして、漫画キャラクター自体が有する内的表現形式であるイメージに著作物性を認め、これを被告が利用した行為を著作権侵害と判断したことになったといえる。しかし、その認定にも判断にも、複製権に代わる翻案権の侵害は考えられていない。
3.5.2 著作物の特定問題については、最高裁平9年7月17日一小判が「ポパイ」著作権第1事件において、「一話完結形式の連載漫画においては、著作権の侵害は各完結した漫画それぞれについて成立し得るものであり、著作権の侵害があるというためには連載漫画中のどの回の漫画についていえるのかを検討しなければならない。」と説示している。
 にもかかわらず、同判決はかかる説示の直後に、連載漫画の後続漫画は、先行する漫画と基本的な発想や設定のほか、「主人公を始めとする主要な登場人物の容貌、性格等の特徴と同じくし、・・・・このような場合には、後続の漫画は、先行する漫画を翻案したものということができるから、先行する漫画を原著作物とする二次的著作物と解される。」と説示する。
 これで明らかなように、同判決は、漫画キャラクターの「ポパイ」についての著作権侵害の成立要件として、侵害物件は被侵害作品の「複製」であると認定するためには、まず被侵害物件を特定することが不可欠であると説示してみたものの、これを特定することは困難であると考えたことから、「複製」より曖昧な「翻案」の論理を持ち出したものといえる。この最高裁の考え方は、下級審判決がいずれも、連載漫画に登場したキャラクター「ポパイ」の、どの絵を再製したのかと特定できなくても、複製したものと認定できると解したことに対する批判ということもできる。
 即ち、原告は、キャラクター「ポパイ」の原著作物は1929年1月17日に発表された連載漫画“THE THIMBLE THEATRE”の3齣目の絵であると特定したことから、最高裁は、この絵を翻案して使用した被告の侵害物件は、原告の原著作物の二次的著作物に当たると解し、翻案権の侵害となるという論理構成をとったのである。したがって、この最高裁判決は、複製権の侵害よりも翻案権の侵害と解したところに特徴があるといえる。
 しかし、「複製」について、最高昭和53年9月7日一小判は「ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー」事件(民集32巻6号1145頁)において、「既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を知覚させ るに足りるものを再製することをいうと解すべきである」と判示していることから、原著作物を特定する必要があるとは考えていない思想は、その前に出された「サザエさん」事件の東京地裁判決と通ずるものがあるともいえる。
 しかし、「サザエさん」事件において東京地裁は、端的に著作物であるキャラクターの絵を被告が「複製」したとは認定せず、「利用」したとだけ認定していることは、著作権法上は複製又は翻案のいずれにも属さず、定義すらない広い概念を適用したことになる(11)。
3.5.3 「ポパイ」商標権第3事件において、最高平2年7月20日二小判は、「POPEYE」のロゴ文字から成る乙標章は、当該登録商標に係る標章「図形+POPEYE+
ポパイ」の中の“名前”と類似するから、商標権の効力が及ぶとする原告の主張に対して、次のように説示している。
 1) 本件商標登録出願当時既に、連載漫画の主人公「ポパイ」は、一貫した性格を持つ架空の人物像として、広く大衆の人気を得て世界に知られており、「ポパイ」の人物像は、日本国内を含む全世界に定着していたものということができるから、漫画の主人公「ポパイ」が想像上の人物であって、「POPEYE」ないし「ポパイ」なる語は、右主人公以外の何ものをも意味しない点を併せ考えると、「ポパイ」の名称は、漫画に描かれた主人公として想起される人物像と「不可分一体」のものとして世人に親しまれてきた。したがって、乙標章がそれのみで成り立っている「POPEYE」の文字からは「ポパイ」の人物像を直ちに連想するというのが、現在においてはもちろん、本件商標登録出願当時においても一般の理解であったのであり、本件商標も、「ポパイ」の漫画の主人公の人物像の概念、称呼を生じさせる以外の何ものでもないといわなければならない。
 2) 本件商標は右人物像の著名性を無償で「利用」しているものに外ならないというべきであり、客観的に公正な競業秩序を維持することが商標法の法目的の一つとなっていることに照らすと、被上告人が、「ポパイ」の漫画の著作権者の許諾を得て乙標章を付した商品を販売している者に対して本件商標権の侵害を主張するのは、客観的に公正な競業秩序を乱すものとして、権利濫用となる。
 このように、最高裁は、キャラクターの名前は、絵として描かれた人物像とは「不可分一体」のものとして世の中に存在している事実を認定したが、その名前自体に著作権が発生していると認定しているものではない。しかし、キャラクターは、その名前と人物像とが常に不可分一体のものとして観念できるものであることは認定されたといえる。
 この事件の場合は、商標法29条の規定が背後にあったといえるが、商標登録された前記標章が、「ポパイ」漫画のキャラクターに係る著作物を複製したものかどかについては、明らかにされていない。
3.5.4 保護対象となる著作物の「特定」の問題は、「キャンディ・キャンディ」第1事件においても争われている。これについて、東京地平11年2月25日判は、次のように認定した。
 1)本件表紙絵(目録二)が、本件連載漫画の連載期間中に被告が作成し、「なかよし」の表紙に掲 載された絵であり、本件連載漫画の主人公を描いたものであることは当事者間に争いがない。すると、本件表紙絵は、本件連載漫画のどの場面の絵に対応するものであるかを特定するまでもなく、本件連載漫画のキャンディの絵の複製に当たる。
 2) 本件原画(目録三)が、本件連載漫画の主人公を描いたものであることは当事者間に争いがない。(本件原画は、これを本件連載漫画中のキャンディの絵と対比しても、容貌や髪型などの特徴に照らし、本件連載漫画におけるキャンディを描いたものであることは明らか。)すると、本件表紙絵の場合と同様に、本件原画も本件連載漫画のキャンディの絵の複製にあたる。
 このうち、特に“本件原画”とは、被告が商品化のために描いた絵ではあったが、連載漫画に登場した主人公の絵のどれと特定せずとも、人は見れば、それが連載漫画に登場するキャラクターの「キャンディ」であることがわかるからと解されて、複製物と判断された。
 ところで、この「キャンディ・キャンディ」第1事件においては、まず、原作原稿と漫画との関係は、原著作物(言語)と二次的著作物(絵)の関係になるかが争われ、まず次のように判示された後に、複製か否かが争われて判示されているのである。
  「これらの事情を総合すると、本件連載漫画は、連載の各回毎に、原告の創作に係る小説形式の原作原稿という言語の著作物(証拠多数)の存在を前提とし、これに依拠して、そこに表現された思想・感情の基本的部分を維持しつつ、表現の形式を言語から漫画に変えることによって、新たな著作物として成立したものといえるから、本件連載漫画は原告の創作に係る原作原稿という著作物を翻案することによって創作された二次的著作物に当たる。」
 判決は、被告の漫画が原告の原作原稿の翻案と解した後、著作権法28条を適用して、次のように判示した。
  「本件連載漫画が原告作成の原作との関係において、その二次的著作物であると認められる以上、原告は、絵という要素も含めた不可分一体の著作物である本件連載漫画について、原著作物の著作者として、本件連載漫画の著作者である被告と同様の権利を有することになり、他方、本件原画のような本件連載漫画の登場人物を描いた絵は、本件連載漫画における当該登場人物の複製と認められるから、これを作成、複製又は配布する被告らの行為が、原告の有する複製権を侵害することになるのは当然である。」
 ところが、この東京地裁判決に対する東京高平12年3月30日判では、「複製」と「翻案」とを区別せ ず対等におき、次のように説示している。
 1) 本件表紙絵及び本件原画は、本件連載漫画を複製(あるいは翻案)したものと評価されなければならないことは当然であり、このことは、控訴人主張のラフスケッチあるいは新連載予告用の絵をキャンディのキャラクター原画とみることができるとしても、それにより変わるところはない。それらは、本件連載漫画の主人公であるキャンディを描いたものである限り、本件連載漫画の複製(あるいは翻案)としての性質を失うことはあり得ない。仮に、本件表紙絵及び本件原画がキャンディ原画の複製(あるいは翻案)であることが許されるとしても、そのことは、それらが本件連載漫画の複製(あるいは翻案)であることを排斥し得ないものであり、本件表紙絵及び本件原画が本件連載漫画を複製(あるいは翻案)したものではないというためには、それらが本件連載漫画の主人公であるキャンディを描いたものではないという必要がある。控訴人の主張は、結局のところ、仮に、控訴人主張のいきさつで控訴人主張のラフスケッチあるいは新連載予告用の絵が創作されたにせよ、現実には、その後に、絵画とストーリーとが不可分一体となった一つの著作物としての本件連載漫画が成立し、これが広く公表されているにもかかわらず、他の者との関係においてではなく、本件連載漫画の物語作者との関係において、この事実を全く無視しようとするものであるから、著作権法28条の解釈として、これを合理的なものとすることはできない。
 2) 同一の絵画作者が描く複数のキャラクター絵画が類似することは容易に考えられるところであるが、あるキャラクター絵画が、他の物語作者の作成に係るストーリーの二次的著作物と評価されるに至った以上、絵画作者は、新たなキャラクター絵画を描くに当たっては、右二次的著作物の翻案にならないように創作的工夫をするのが当然であり、それが不可能であるとする理由を見出すことはできない(例えば、二次的著作物の登場人物と目鼻立ちや髪型などがほとんど同じでも、別の人物という設定で描くことは可能であり、その時には、右人物の絵の翻案とはならないであろう)。 
 この東京高裁判決がカッコ内で述べていることは、キャラクターの絵は同じでも、別の名前とストーリーで登場する人物とするならば、原告の有する原著作権や二次的著作権の侵害とはならないということであるが、そのような解釈でよいだろうか。
 「サザエさん」事件で前記東京地裁判決は、話題や筋がどのようなものであっても、そこに登場する人物がサザエ、カツオ、ワカメであると認められれば漫画「サザエさん」である、と説示していることと整合しない。
 控訴審判決に対する最高裁平13年10月25日判は、次の理由によって上告を棄却した。
  「原審の適法に確定したところによれば、本件連載漫画は、被上告人が各回ごとの具体的なストーリーを創作し、これを400字詰め原稿用紙30枚から50枚程度の小説形式の原稿にし、上告人において、 漫画化に当たって使用できないと思われる部分を除き、おおむねその原稿に依拠して漫画を作成するという手順を繰り返すことにより制作されたというのである。この事実関係によれば、本件連載漫画は被上告人作成の原稿を原著作物とする二次的著作物であるということができるから、被上告人は、本件連載漫画について原著作者の権利を有するものというべきである。そして、二次的著作物である本件連載漫画の利用に関し、原著作物の著作者である被上告人は本件連載漫画の著作者である上告人が有するものと同一の種類の権利を専有し、上告人の権利と被上告人の権利とが並存することになるのであるから、上告人の権利は上告人と被上告人の合意によらなければ行使することができないと解される。したがって、被上告人は、上告人が本件連載漫画の主人公キャンディを描いた本件原画を合意によることなく作成し、複製し又は配布することの差止めを求めることができるというべきである。
 以上によれば、被上告人が本件連載漫画の一部である本件コマ絵及び本件連載漫画の主人公キャンディの絵の複製である本件表紙絵につき原著作者の権利を有することの確認と、本件原画を作成し、複製し又は配布することの差止めを求める被上告人の請求を認容すべきものとした原審の判断は、正当として是認することができる。上記判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。」
 しかし、言語(文字)の著作物と美術(絵)の著作物とから成立する連載漫画の著作物において、前者の原作原稿にはストーリーのアウトラインだけは記述されているとしても、後者の絵の展開については何も記述されていない。連載漫画においてキャラクターがバルーンで喋るセリフは、漫画を描いた者が書くのが普通である。原作原稿にはそのようなセリフまでは書かれていない。そう考えると、編集担当者を間に挟んで展開されるストーリーの抽象的な原作原稿しか書かない者が、具体的な漫画を描く者の作品をも支配する著作権を専有することは、果して妥当といえるだろうか。単なる原作原稿という抽象的なストーリーを作成する行為と、そのストーリーを漫画という絵によって具象的に表現する行為とは、観念的には共通していても、現実的には全く独立した別異の行為をしていることになる。
 このような両者の各行為は、例えば、乗用車についての新しいコンセプトを言葉で表現した企画書に基いて、自動車のモデル図が的確に表現できるかといえば、それは不可能であり、10人のデザイナーはそれぞれ別異のモデル図を提出することだろう。
 「キャンディ・キャンディ」の場合は、漫画作家は1人しかいなかったが、もし複数の作家に依頼していれば、キャラクターの絵も情景の絵もそれぞれ類似するものは提出されなかっただろう。
 著作権法27条で規定する「翻案」とは、著作物を「翻訳,編曲,変形,脚色,映画化」する場合を予想しているが、「キャンディ」の場合はこのいずれにも該当するものではない。すると、「その他」に該当することになろうが、立法当時はもちろん、法論理的に解釈しても、本件のような場合に拡張して適用することにはなお無理があるというべきであろう。
3.5.5 ところで、「複製」と「翻案」とは、その表現形式が実質的に異なるものである。前者は原著作物を任意の方法によって有形的に再製することをいうのに対し、後者は原著作物を・・・・変形し、・・・・その他翻案することによって創作したものを二次的著作物というから、前者の作品がそのままの再製物であるのに対し、後者の作品には創作性の具備が要求されている(著2条1項11号)。
 ここに「創作性」の存否のみならず、それをどの程度のものと考えるのかといえば、著作物が「思想又は感情を創作的に表現したもの」とあることと同程度のものと考えればよいだろう。しかし、その創作的表現形式は、原著作物に依拠しかつその内容を知覚させるものであるから、翻案の範囲における創作的表現には自から限界がある。平面物から立体物に単に変形しても、創作性があると解する裁判例もあるが、単純には同意できない(12)。
 したがって、複製と翻案との適用の区別は困難な場合もあろうが、原著作物との関係であれば、有形的な再製物に対し、特に創作活動ありと認められるか否かによって、この両概念の適用は区別されるべきであろう。そして、翻案物の著作権の効力は、翻案において「新たに付与された創作的部分のみについて生じ、原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じない」(最高平9年7月17日判「ポパイ」著作権第1事件)と解することになる。
3.5.6 とはいっても、原著作物と翻案著作物との間に境界線を引くことは、漫画のキャラクターの場合、その本質的特徴部分を再製していることが容易に確認できるのに対し、絵画や写真の場合にあっては翻案か複製改変かを区別することが困難な場合もあるだろう。
 例えば、写真の複製改変となった「パロディ」事件において、最高裁は第1次上告審判決(最高昭55年3月28日三小判.判時967号45頁)において、次のように認定判示している。
 「自己の著作物を創作するにあたり、他人の著作物を素材として利用することは勿論許されないことではないが、右他人の許諾なくして利用をすることが許されるのは、他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴をそれ自体として直接感得させないような態様においてこれを利用する場合に限られるのであり、したがって、原告の同意がない限り、本件モンタージュ写真の作成にあたりなされた本件写真の前記改変利用をもって正当とすることはできないし、また・・・・本件モンタージュ写真を一個の著作物であるとみることができるとしても、・・・・本件モンタージュ写真は本件写真をその表現形式に改変を加えて利用するものであって、本件写真の同一性を害するものであるとするに妨げない。」
 この結果は、被告(控訴人・被上告人)の行為は、原告(被控訴人・上告人)の写真における表現形式上の本質的な特徴は、被告写真によってもこれを感得することができるものであるから、原告写真についての同一性保持権を侵害する改変であると認定された。
 この最高裁判決は、著作者人格権である同一性保持権の侵害と判断したが、その前に当然のこととして、著作財産権である複製権又は翻案権の侵害も認定していたといえる。
3.5.7 ところで、裁判例によっては、被告物件に対し原告著作物の複製か翻案かを詮索することなく、「又は」として同列に論ずるものがある。
 前記「キャンディ・キャンディ」事件の東京高裁判決がそうであったし、また東京地昭62年7月17日 判の「コーポレーション・ペンギン」事件(特管別判集1.昭62.182頁,牛木「キャラ商品化権」329頁 )において、判決は、「コーポレーションペンギン及び原告人形と本件人形とは、いずれも類似すると認めるに足りず、したがって本件人形が本件絵画又は原告人形の複製物又は翻案物に該当」するものとは認められないと認定した。
 また、京都地平7年10月19日判の「行灯」事件(判時1559号132頁)において判決は、「著作権ないし著作者人格権に対する侵害の有無は、原作品における表現形式上の本質的な特徴自体を直接感得することができるか否かにより認められなければならない」と判示した。
 これらの裁判例は、著作権侵害訴訟においては、著作権(財産権)の侵害となるか否かが重要なのであって、著作権法の21条の適用事案か27条の適用事案かを区別する実益はないと考える著作権侵害の一元的基準を採る立場の事例と解される(13)。
 この実益論について橋本英史判事は、原告は複製権侵害の判断が困難でない事例で複製権侵害を主張立証する場合は、「その判断は外面的なもので足りる」のに対し、翻案権侵害を主張立証する場合には、「その判断は外面的なものから、内面的、本質的なものにまで及ぶものとなる」から、両者には「具体的な請求原因事実が異なる場合も多く、両者のそれぞれの判断基準を検討して、これらを定立する実益は実務上否定することができない(14)」と述べられる。
3.5.8 「複製」とは、第三者が他人の作品と同一又は類似の範囲にあるものをそのまま表現することである。したがって、第三者の作品には新たな創作性を感知できる表現形式は見られないことから、その表現形式は他人の作品の表現形式が有する“創作体”に属するものと解されることになる(15)。
 これに対し、「翻案」とは、第三者が他人の作品と同一又は類似の範囲にあるものを表現することではなく、その作品に別の表現形式を付加することによってその作品の範囲を超えて、全体として新たな創作性が感知できる表現形式をいうが、その表現形式は基本的には他人の作品が有する“創作体”を利用しているものである。第三者による他人の作品の利用には、変形という行為が関与することが普通であるが、たとえ変形によって他人の作品が改作されたとしても、基本的には他人の作品が有する“創作体”が改作されることはない。
3.5.9 前記「ポパイ」著作権第1事件において、東京高裁は、「ポパイ」のキャラクターなるものは個々の具体的なポパイ漫画それ自体ではなく、主人公ポパイに作者が付与しようとした特定の観念であるから、具体的な漫画とは別個の創作性を有する外面的表現形式として存在するものではないと判示したが、そのとおりである。しかし、この事実と著作権の保護対象は何かを考えることとは別問題である。
 前記「キャンディ・キャンディ」第1事件において、
判決が、「本件漫画は、・・・・原作原稿・・・・に依拠して、そこに表現された思想・感情の基本的部分を維持しつつ」と説示していることは、正に原作原稿に表現されている小説家の思想・感情のアイディア部分を理解した漫画家が、漫画という表現形式にそのアイディア部分を具体的に実現したものといえるから、原作のアイディアの理解なしには漫画を表現することはできない。それが翻案というものであり、翻案とはアイディアの一表現形式であるといえる。前記の橋本判事も、翻案権侵害を主張立証する場合には、「その判断は外面的なものから、内面的、本質的なものにまで及ぶ(16)」といわれている。
 したがって、漫画のキャラクターについて、著作権法が保護対象とする実体は何かを考えることは、ともすれば見失いがちな著作権の本質を考えることになるから実益がある(17)。
3.6 複製・翻案の範囲外のもの
3.6.1 漫画好きのアマチュアが集り、自分で描いた漫画を印刷した同人誌を仲間たちで売買するコミックマーケット(通称「コミケット」)がある。
 この同人誌の中には、他人が発表した著作物である有名な漫画の登場人物の顔や名前を使って、自分なりの四コマ漫画を作ったり、ストーリー漫画を作っている者がいる。人物の顔はそっくりのものもあるが、かなりデフォルメされているものもある。仲間うちではこれを「パロディ」と呼んでいるが、別に深い思想があるわけではない。かれらにとっては、キャラクターは自分の漫画遊びを展開するために借りた対象にすぎない。
 キャラクターは、そのようなストーリー漫画にとってはどういう意味をもつかという作品内部の存在意義と、作品から離れたときの存在意義とに分けられるが、後者の場合であったとしても、著作物としてのキャラクターにとっては、第三者が勝手に他人の創作したキャラクターを使って自分自身の創作した漫画作品に登場させることは、複製・翻案の範疇の問題として処理されることになろう。
 ところが、例えば長谷川町子の「サザエさん」漫画に登場する波平とカツオのキャラクターのイメージと名前だけを借り、作者独自の創作した顔姿に変身させて独自のストーリー漫画に登場させている同人誌上の漫画(「さざえさんのほんメモリアルGREEN」2000年8月11日初版限定発行)を見ている と、それはもはや原作品に登場するキャラクターの複製や翻案の範囲外にある新しいキャラクターの登場とも考えられそうである。
 この「さざえさん」パロディ漫画の場合、他人の著作物であるキャラクターの絵を利用していると認められる場合と、もはや利用しているとは認められない場合とに分れるだろう。前者の場合にはキャラクターが登場するストーリー漫画作品を考えるし、後者の場合にはストーリー漫画作品に登場するキャラクターを考えることになる。即ち、前者の場合は、原作者の長谷川町子が創作した四コマ漫画ではなく、他人が創作したストーリー漫画に同一のキャラクターを登場させるのに対し、後者の場合は、登場するキャラクターのイメージや名前は同じでも、その姿態や行動は全く独創的なもので、独自のストーリーを展開させる場合である。そして、前者の場合、キャラクターについては複製ありといえるのに対し、後者の場合、キャラクターについて複製ではないが改変ありとなるのか又は翻案といえるのか、いずれにもならないのか、考えは分れるところである。
 しかし、著作権法20条の趣旨からすれば、他人は、原著作者の意に反して、著作物であるキャラクターの絵と名前を変更その他改変することは許されないと解すべきだろう。したがって、前記のような「さざえさん」のパロディ漫画は、波平やカツオのキャラクターの絵を改変しているといえるから、同一性保持権の侵害となるだろう。わが国はまだ、フランス著作権法第122の5条第4号に見られるようなパ ロディを原則として是認する社会的状況にはなっていない。
3.6.2 似た問題に、漫画作品の「引用」の場合がある。漫画批評の場合は対象となる具体的な漫画の「引用」なくしては批評にならないが、著32条や48条の引用に関する規定に注意して引用するのであれば、自分の思想・感情を創作的に表現することは自由である。その好例は、「ゴーマニズム宣言」事件(東京地平9(ワ)27869号平成11年8月31日判.知財管理判例集付録99年判決47-99-026、東京高平11(ネ)4783号平成12年4月25日判)である。地裁・高裁とも原告の漫画作品中からのカットの引用は適法と認めた が、高裁判決はあるカットの引用についてそのカットの配置に改変があったと指摘している。しかし、問題のカットの配置は、「正当な範囲内」で行われたものといえるのではなかろうか。
3.6.3 漫画キャラクターをめぐる複製又は翻案の事件ではないが、著作物の複製も翻案もしていないと判示された判決例がある。
 「造形美術品」事件(東京地平7(ワ)24693号・25924号平11年3月29日民29判.判時1689号138頁、東京高平11(ネ)2937号・4828号平12年9月19日6民判.判時1745号128頁)においては、東京地裁は、被告の行 為は本件著作物に依拠せず、独自の創作的表現を発揮して制作したから複製したものではないと請求棄却の判決をしたのに対し、東京高裁もその点についての控訴請求は棄却した。その理由として、東京高裁は次のように説示しているが、この判決は、複製か翻案かの区別をすることよりも、2つの必要かつ十分な条件を被告の行為が満しているか否かが重要であるとの視点から、複製権・翻案権のいずれの侵害にも当たらないと判示した点に特色がある。
 1) 著作権法によって保護されるものは、直接には、「表現したもの」(「表現されたもの」といっても同じ)自体であり、思想又は感情自体に保護が及ぶことがあり得ないのはもちろん、思想又は感情を創作的に表現するに当たって採用された手法や表現を生み出す本(もと)になったアイディア(着想)も、それ自体としては保護の対象とはなり得ない。
 2) 著作権者に専有権の与えられている「複製」・「翻案」とは具体的にどういうものかといえば、既存の著作物に依拠してこれと同一のものあるいは類似性のあるものを作製することであり、ここに類似性のあるものとは、「既存の著作物の、著作者の思想又は感情を創作的に表現したものとしての独自の創作性の認められる部分」についての表現が共通し、この結果として、当該作品から既存の著作物を直接感得できる程度に類似したものである。
 3) 複製・翻案の判断基準の一つとしての類似性の要件である「直接感得性」は、類似性を認めるための“必要条件”であっても、“十分条件”ではない。即ち、直接感得性は、表現されたものどおしを比較したときの共通性以外の要素によっても大いに左右される場合があるから、必ずしも常に類似性の判断基準として有効に機能することにはならない。
 4) 公益あるいは第三者の利益との調整の観点から、おのずと著作権の保護範囲は限定されたものと ならざるを得ないからである。
 このような表現の共通性や直接感得性があったとしても、それだけでは著作権侵害の成立を認めるには不十分であり、公益性や第三者利益との調整を重視する立場からは、著作権法による保護は「それにふさわしいものに対してそれにふさわしい範囲においてのみ認められるべきことになる」からこそ、「表現したもの」のみを保護することにしたものと解すべきであるとした。そして、この条件をクリアすることが、前記した十分条件を果たしたことになるという。
 しかし、高裁判決は、著作権侵害が成立する“十分条件”として、原著作権者(原告)の著作物の保護を被告物件にまで及ぼさないことが「それにふさわしい範囲においてのみ認められる」かどうかを挙げているが、そのような抽象的・感情的な要素を原著作物と被告物件とに要求していることは、著作権侵害の成立要件を裁判所はあえて厳しくしているだけではないかと批判されよう。このような条件を侵害裁判所が課すことは、実体の見えない公益性や第三者利益の観点から、著作権侵害の解決をますます難しいものにすることにしているように思えてならない。

4. 漫画キャラクターの著作物の独立性
 そこで、以上、わが国における漫画のキャラクターその他の著作権をめぐる裁判例の内容を検討した今、われわれは、漫画作品に絵と名前をもって登場するキャラクターそれ自体は、独立して著作物性を有し、それ自体は著作権の保護対象となるかどうかについて考えることにする。
 空想的でかつ視覚的な漫画作品に登場するキャラクターの創作者に与えられる著作権法による保護は、まずその「絵」について、次にその「名前」についてである。
 ところが、絵や名前によって表現されるキャラクターにおいて、連載漫画やアニメなどに登場する「シリーズ・キャラクター」と呼ばれるキャラクターには、具体的な絵を離れて、そのキャラクターの人物像という観念的なものが含まれていることは、多くの侵害裁判所によって明らかにされていることを、われわれは承知している。そのような解釈は、原告(著作権者)側の主張によるものではあろうが、侵害裁判所によっては、その解釈を否定したり肯定したりしている状況を見ると、「キャラクター」という日本語の意味をめぐり、わが国裁判所においても混乱が起きていることを知ることになる。
4.1 漫画の著作物とキャラクターの絵
 漫画のキャラクターは、彼らが登場する漫画作品において、まず「絵」によって表現されている。
 この場合、その絵は「原画」と呼ばれる。この原画を商品化する場合には、利用される物品や表現する物品の基本的形態などに左右されることから、それらにそれぞれ適合する絵(「図柄」と呼ばれることもある)をいくつか制作することになる。しかし、これらの絵は同一の創作性を有するキャラクターから発生するバリエーションであるから、その絵の実体には変わりはなく、いずれのバリエーションでも原画の複製といえるだろう。それを裁判例によっては、類似といったり同一性といったりする。
 漫画キャラクターの絵は、それが漫画作品の一構成要素であるとしても、それ自体は広く「美術の著作物」として、著作権法の保護対象になると考えることには異論ないだろう。
 しかし、「美術の著作物」を、いわゆる「純粋美術作品」と「応用美術作品」とに区分した場合、漫画の絵やそこに登場するキャラクターが前者に属するものと考えることには異論があろう。けだし、純粋美術作品といわれるためには、その作品が鑑賞に耐え得る高度な美術性のあるものでなければならないと解されている(18)から、漫画作品やこれに登場するキャラクター自体は、鑑賞の対象になり得る高度な美術性のある作品といえるかという疑問が当然起るからである。しかし、いわゆる一品制作の美術工芸品とは違うから、著作権法が保護する「美術工芸品」(著2条2項)といわれるような応用美術作品でもない。
 とすると、漫画作品は純粋美術作品と応用美術作品の区分のいずれにも属さない第三の美術作品群と考えるのが妥当であろう(19)。
 そこで、筆者は、漫画作品は、第三の美術の著作物であり、「漫画の著作物」と呼ばれる新しい類型に区分されるべきものであると提言したい。
 しかし、漫画作品中の絵は広く美術の著作物に属するものと解する以上、それは著作権法によって保護されることになる。同時に、漫画作品に登場するキャラクター自体もまた、創作された美術の著作物として、漫画作品やストーリー漫画から独立して著作権法によって保護されることになると考える。
 漫画キャラクターについて独立した著作物性を考えるといっても、「ポパイ」著作権第1事件において最高裁が考えたような「漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念」におけるキャラクターを考えているのではなく、あくまでも思想又は感情を創作的かつ具体的に表現したものとして存在するキャラクターを、筆者は考えている。そして、そのキャラクターの実体は、具体的表現物である絵を通して、その絵の有する人物像の創作体を把握することによって確認することができるのである。
 したがって、著作物とは「表現したもの」(著2条1項1号)に限られることから、漫画キャラクター を抽象的な人物像を表現したものとして保護されることはない、と考えるようなことは正答とはいえない。
 また、このようにして確認できた漫画キャラクターの存在は、その最初の公表日から著作権の存続期間は起算されることから、後日、後続作品中のキャラクターの絵に表現上の変化があったとしても、キャラクターの同一性に変化がなければ、それを他人が模倣して別のストーリー漫画を創作したとしてもキャラクターは複製であるから、著作権侵害となる。
 筆者のこの考え方は、「サザエさん」事件において東京地裁が説示した「『サザエさん』のような連載漫画に例をとれば、そこに登場する人物の容貌、姿態、性格などを表現するものとしてとらえることができる。
・・・・そのような対比をするまでもなく、被告の行為は、
原告が著作権を有する漫画『サザエさん』が長年月にわたって新聞紙上に掲載されて構成された前説明のキャラクターを利用するものであって」との考え方に近いといえる。
4.2 漫画の著作物の性質
4.2.1 著作物は無体のものであり、何らかの表現形式をともなわなければ、他人に認識し得ない性質のものであるから、表現形式によって分類することができる。しかし、漫画作品の場合は、その長短は別として、一つの何らかのストーリーやプロットをもっているから、シリーズ・キャラクターが登場する場面では、言葉をもってキャラクターに語らせたり、状況説明のために文章となったりするから、ストーリー漫画やシリーズ漫画といわれる作品は、漫画(絵)と言語という二つの異質の表現形式から成る「結合著作物」ということになる(20)。
 シリーズ漫画に登場するようなキャラクターの絵は、純粋美術作品といえるほどの高度の美術性を有するものではないし、言語がからむものであることを考慮すると、既成の著作物のカテゴリーから外れる別異の著作物と分類すべきであるから、前記したとおり、「漫画の著作物」という新しい独立した著作物として著作権法10条1項に例示追加されてよいだろう。この考え方は、建築の著作物が美術の著作 物から独立して規定されている(著10条1項5号)ことと同じである。
4.2.2 ところで、漫画のキャラクターの場合、作者は主人公の絵(原画)を創作的に描き、それに名前をつける。換言すれば、「絵+名前」によってキャラクターのイメージを表現するから、これをもって「キャラクターの著作物」ということができる。主人公となるキャラクターが創作されると、主人公を囲む多くの仲間や家族についての絵(原画)を描き、それらに名前をつけて増巾した後、ある作者はキャラクターを展開するストーリー漫画を作り、ある作者は四コマ漫画を作る。
 これと同じことが、デザイン(意匠)についてもいえる。デザインは、特定の物品に表現する形態であるが、形態には物品の形状だけの場合もあるし、形状に模様や色彩を施して完成させる場合もある。そして、このようなデザインは、「デザインの著作物」ということもできる。
 違いがあるとすれば、キャラクターの場合は、「絵+名前」によって成立するのに対し、デザインの場合は「絵」だけであって名前はない。しかし、キャラクターにおける名前は著作物性を考えるときには捨象してもよい。
 デザインにも各種の著作物があるところ、前記した建築のデザインと美術工芸品(著2条2項)はすでに現行法においてそれぞれ「著作物」と認められているが、デザイン(意匠)の著作物については明らかでない。しかし、斉藤教授は「デザインの著作物」の成立を肯定される(21)。「著作物」という用語を使うから著作権法の規定や立法者の意思にとらわれるが、「デザイン作品」といえば抵抗はなく、美術作品と同列に置いて考えることができるだろう。
 同様に、前記漫画キャラクターもまず絵によって表現されているから、その絵(原画)を「キャラクター作品」と呼ぶことは可能である。
4.3 キャラクターの名前
 次に、漫画のキャラクターの「名前」が著作権法上の保護対象となるか否かについては、創作的表現が認められないことを理由に消極に解する説が一般的である(22)。そして、必要な場合は商標法によって登録する著作権者もいる(23)。
 しかし、前記「ポパイ」商標権第3事件において、最高裁は次のように判示した。この事件で、著作権者と全く無関係の他人であった原告は、登録商標第536992号(昭和33年6月26日出願,昭和34年6月12日設定登録)に係る標章「図形+POPEYE+ポパイ」の商標権者であったが、「ポパイ」の名前自体はその漫画キャラクターから独立した著作物性がないとする通説から、原告は前記商標権に基き被告に対して権利行使をした。一審・二審とも商標権侵害の成立を認めたのに対し、最高裁は、原告は他人の著名 な人物像(キャラクター)を無償で利用していながら権利行使をすることは、公正な競業秩序を乱す権利の濫用に当たると認定し、被告の敗訴部分を破棄したのである。
 しかし、最高裁判決が判示するところは、「ポパイ」と称呼する漫画キャラクターの名前が明確な人物像を表現していることから、その名前はそのキャラクターと不可分一体の関係にある存在として著作物の一部と認知したとも解される。したがって、最高裁は、著作権の保護対象として、「ポパイ」の名前と一体であるそのキャラクターの絵を常に念頭においていたものとも解される(24)。そして、この考え方は、前記した「サザエさん」事件において東京地裁が説示しているところと通ずるものがある。
4.4 キャラクター権の確立
4.4.1 「キャラクター」についてのわが国侵害裁判所の基本的理解は、「漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念」(最高平9年7月17日判「ポパイ」著作権第1事件)ということである。そして、著作権の保護対象となるものは、創作性のある人物の特徴ある具体的表現そのものということである。これを被告物件について見ると、原告の原著作物が有する本質的特徴を感得することができるものを利用しているから、著作権の侵害となるということになる。
 しかし、筆者はすでに述べたように、「キャラクター」を前記のような抽象的な概念とは考えていない。かれらは漫画という絵によって表現されたものであるのみならず、特定の名前を有するものであり、その人物の姿態と名前とを総合したものが「キャラクター」といわれる存在であるから、これはきわめて具体的な概念といえる。したがって、この二つのものは当該キャラクターを構成する要素であり範囲となるから、それらは著作権によって保護される対象と考える。人は、名前を聞けばそのキャラクターの姿態を確実に想起することができ、姿態を見ればそのキャラクターの名前を確実に呼ぶことができる。そして、われわれは、その姿態と名前を通じて、その人物を本質的に特徴づけている表現形式の由って来たるキャラクターの“創作体”をよく把握することができるのである。
 すると、著作権が保護対象とするキャラクターとは、絵として表現されている登場人物の姿態と名前が有するその人物の創作体以外の何ものでもないといえるから、そのような創作体から成るキャラクターに与えられる権利名を「キャラクター権」と称し、実質的に著作権と同等の権利(「キャラクターの著作権」と称してもよい)が発生していることを認めてよい、と筆者は考える。
 「キャラクター権」の確立のためには、まず解釈論として従来の裁判例の進化による変更が必要であろう。しかる後に、立法論となるであろう。そのためには、すでに述べたように、著作権が保護すべき対象は何であるかという著作物の本質を問うことから考え直してみる必要があるだろう。
4.4.2 筆者が、漫画キャラクターの独立性を考え、それに著作物性を与え、それ自体に著作権の成立を考えた動機は、著作権法学者が同一キャラクター(フィクショナル・キャラクター)を使用しての連作・続篇への登場の法律問題を考える(25)こととは違い、それが商品利用されたことに対する法律問題を考えたことにある。そして、キャラクターの絵を利用する商品化権問題は、実は著作権法と意匠法との衝突という重大な法律問題を引き起こしているのであり(26)、また交錯する法律問題の中間に存在する「応用美術」の保護問題に発展していくのである。
 そこで、漫画キャラクターを、他社の商品販促の一翼を担うための商品化対象物として契約する商品化権問題から、キャラクターの存在意義を最後に見てみよう。
 すると、商品化契約の対象となるキャラクターは、それ自体、種々のメディアを通じて一般大衆に周知であるから、顧客吸引力を内容とするパブリシティ・バリュウを有するのが普通である。それは「シリーズ・キャラクター」と呼ばれるものについてであり、商品化のためだけに特に創作された「オリジナル・キャラクター」とは区別される。そして、パブリシティ・バリュウを有する「シリーズ・キャラクター」は、使用対価が高くても多数のメーカー又はサービスから申込みがあるのに対し、「オリジナル・キャラクター」は単なる絵であるから、使用対価は安い。この隔差は、一方には顧客吸引力という経済的効果が含まれているのに対し、他方にはそれが含まれていないことに原因がある。
 ということは、漫画のキャラクターにも、実在人物の場合と同様に、パブリシティの権利という財産権が現実に発生していることを認めなければならないことになる。すると、パブリシティの権利の中味であるパブリシティ・バリュウの経済的効果には差こそあれ、漫画のキャラクターの場合は、「絵及び名前に関する著作権」プラス「パブリシティ権」という二つの権利要素が含まれた「キャラクター権」となるのだろう(27)。

5. む す び
 本稿は、漫画のキャラクター自体に著作権の保護対象となる著作物性を確認し、それによって漫画作品の著作権から独立した「キャラクター権」という概念を付与するにふさわしいキャラクターの著作権論を確立することができれば幸いと考え、議論を展開してきたけれども、まだまわりをかためるための説得力の不足を痛感している。したがって、今後もなおこのテーマについての模索を続けていきたいと思う。大方のご批判をいただければ幸甚である。
 なお、本稿は、ほぼ同時進行で書き上げて先に発表した「著作権の成立と保護範囲」(知財管理2001年10月号2頁)と関係しているので、併せてお読みいただきたい。この論稿において筆者は、著作権の 保護範囲は、外面的表現形式から入って内面的表現形式に及ぶが、さらに着想(アイディア)には及ばないと考えるのが通説で、これに対して特許権や意匠権の保護範囲は着想に及ぶから、この点が同じ知的財産権にあっても違うところだと解する著作権法関係者の考え方に対し、工業所有権法関係者から見ると、特許権にはクレームがあり、均等論はあってもその適用には限界があるし、意匠権には類似の範囲はあってもそれ以上の保護はないことと比較すれば、創作的表現を保護する両法の目的の間には、知的財産権の保護範囲の考え方に本質的な違いは認められないと考え、著作物の三つの成立要件とそれによる保護範囲について論じたものである。したがって、この論稿は、漫画のキャラクターの著作権保護問題を考えるのに参考になると思う。前稿が著作権一般について考える総論であるとすれば、本稿は各論の中の一章といえるものである。(28)



(1) 判時1520号130頁には、「ポパイ」著作権第3事件の東京地平成6年10月17日判が紹介されているが、この記事の冒頭で評釈者は、筆者の「著作権法におけるキャラクターと商品化権」(半田正夫教授還暦記念論集.法学書院1993)中の見解を指摘され、「論争1」について、「連載漫画の登場人物につい ての著作権(絵画)の保護期間は、最初の漫画についての保護期間と運命を共にすべきではないかという考えもあり(ただしキャラクター権の成立を前提とする。)」と述べ、さらに、「ポパイ漫画のポパイの主人公の特徴が一般的に問題にされており、この立論によれば、キャラクター権を認めたのとさほどの差があるのかとも思われ、そうすると、キャラクター権が成立すると考えられる時、即ち、当初の公表時から保護期間を起算すべきであるとする見解も無視し得ないのではなかろうか」と評価される。
(2) 「商品化権(Character Merchandising)」の問題は、“AIPPI Q.129”として1995年6月のモント リオール総会の議題となったが、これに関する報告はAIPPI日本部会月報Vol.40 No.4 p.30 及び Vol.40 No.9 (1993)に詳述されている。AIPPIの報告書でも、前記種類は、キャラクターの分類として認められている。
(3) 斉藤博教授は、「著作物の一部分を再製するにすぎない場合でも、著作物の本質的な部分の再製であれば、これまた複製となる。」(「著作権法」157頁有斐閣2000)と述べられる。
(4) 満田重昭教授は「審議会答申の立場はイギリス法に影響されているのではないかと思われる節があるが、イギリス法においては特異な判例が現れ、それに対応するために特異な立法が行われるという事情があったのであって、その特殊な背景を考慮せずにイギリス法上の議論を参考にすべきではない。」(「裁判実務大系」27、95頁青林書院1997)と述べられるが、この事件はけっして特殊なものではない。英国の「ポパイ」事件は、美術の著作物の一態様である漫画キャラクターを商品化(意匠化)した場合に、著作権の効力が商品化物にまで及ぶか否かに関し、1911年著作権法第22条の解釈が争われた事案であったから、著作権法と意匠法との境界が議論された本質的な問題であり、1952年に発表されたグレゴリー・レポートは旧第22条の廃止と著作権の効力の制限を勧告しており、その結果、1956年著作権法第10条が制定された。筆者は、1956年著作権法第10条の規定に賛成していた(「美術的著作権の限界」著作権研究2号131頁1969)。意匠法を著作権法の特別法と解する英国法の土壌からすれば、商品化物に著作権の効力を及ぼすことは、意匠法の存在意義を否定する結果となるから、両法の境界線は明確にしておこうというのが英国の法論理であったのであり、英国ほどこの問題について真正面から取り組んで考えてきた国はない。英国の「美術の著作物(artistic work)」をめぐる保護の歴史については、牛 木理一「意匠法の研究〈四訂版〉」309頁以下に詳しい。
(5) 満田教授は「確かに、法文の趣旨を理解する上で、起草の前提となった審議会答申は最も有力な解釈資料ではある。しかし、国会は法案の文言に現れていない審議会の意向あるいは起草者の解釈まで含めて法案を議決するわけではない。国会の議決は、多様な対立する利益と思想の妥協として成立するのであって、その妥協点は法案の文言に凝集する。玉虫色の法文の趣旨は、単純に起草者の意図に還元されてはならない。」(満田前掲94頁)と述べられる。
(6) 第61回国会における安達政府委員の答弁(昭44年8月発行「著作権法案等審議経過」60頁)。木村 豊「応用美術の保護」(半田正夫還暦記念論集580頁.法学書院1993)には、法制定の経緯が詳しい。
(7) 朝日新聞2001年9月27日34頁、同(夕刊)2001年10月10日15頁、同2001年10月23日34頁
(8) 英国の「ポパイ」事件については、牛木理一「ポパイ事件の著作権法学的考察(1)」パテントVol.30 No.3 24頁(1977)に詳しく紹介している。
(9) 龍村全「裁判実務大系」27、165頁は、この見解とは反対の考え方をとる。
(10) このような東京地裁の考え方に対して、半田正夫教授は「キャラクター自体は、漫画や小説など の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現ではないことから、思想または感情を創作的に表現したものとみることはできない。」(「著作権法概説〈第9版〉 」95頁一粒社1999)と批判される。
(11) 著作権の「利用」には、著作物の複製ばかりではなく、著作権法第3款(21〜28条)に規定する行為が全部含まれる。すなわち、上演権及び演奏権(22条)放送権・有線放送権等(23条)、口述権(24条)、展示権(25条)、上映権及び頒布権(26条)、翻訳権・翻案権等(27条)、二次的著作物の利用に関する原著作権者の権利(28条)がある。バスの車体に表わした頭部画は、「サザエさん」漫画にそれまで登場した3人のキャラクターの多くのコマの中に描かれている絵と正確に同一のものであり、どの絵の「有形的再製」物であるかについては、被告が指摘したように立証されなかった。原告は、「本件漫画中の特定の一個の頭部画の複製であるということがいえないとしても、一般普通人によって、当該漫画中の登場人物の頭部を描出したものであるということ、すなわち、その同一性が認識されれば十分であると解すべきである」としか答えられなかった。
 しかし、これでは被告側の問題指摘に対して真に答えているとはいえない。問題は、本件被告の観光バスの車体に描かれた3人の似顔絵が、「サザエさん」漫画の各登場人物と同一の複製物でない場合に、どの程度まで類似していれば、複製又は利用ということができるのかについて考えることであり、そして、なぜ類似している絵に対しても原告の絵の著作権侵害になるのかを考えることである。
(12) 「たいやきくん」事件(東京地昭53年3月30日判)において、判決は、本件ぬいぐるみは原画からの変形(翻案)物であると解したが、そこに特に創作性が存したとは述べていない。実質的に創作性が存するとは認められない立体物にあっては、原画(原著作物)の複製ということになる。「キューピー」事件(東京地平11年11月17日判)でも判決は、本件人形を原画からの変形(翻案)物と解したが、新たに付加された創作的要素は些細だから、両者は類似すると認定したにもかかわらず、原画の複製とは認定していない。
(13) 橋本英史「著作権(複製権、翻案権)侵害の判断について」(上)33頁。判時1595号33頁。橋本 氏は、「複製権侵害と翻案権侵害とで訴訟物を異にするか否かという訴訟物の特定という観点からは、右の考え方を否定することはできないと解される」と述べられ、その(注14)において、不法行為類型の侵害訴訟における訴訟物を構成する被侵害利益としては、原告の著作物を特定した上で、広義の著作権のうちの著作者人格権と著作財産権とに二分して特定すれば足りると説明される。そして、東京地昭54年4月23日判の「日本の名著シリーズ三浦梅園」事件(判タ536号440頁)、東京地平4年12月16日判の「中国塩政史研究論文」事件(判時1472号130頁)の裁判例も、訴訟物の特定には複製権と翻案権の区別 は不要であることを前提としていると指摘される。
(14) 橋本前掲(上)33頁
(15) “創作体”の意義については、牛木理一「著作権の成立と保護範囲」知財管理Vol.51 No.10 p.1556(2001)参照。なお、意匠の創作体については、例えば牛木理一「判例意匠権侵害」4頁(発明協会1993)に詳論している。
(16) 橋本前掲(上)30頁
(17)牛木前掲論文1555頁
(18) 準純粋美術作品としての応用美術作品の保護については、牛木前掲「研究」388頁参照
(19) 牛木前掲「著作権法におけるキャラクターと商品化権」551頁。筆者は、ここで明確に「第三美術著作物」論を説いた。尾中普子別冊ジュリスト著作権判例百選〈第三版〉123頁
(20) 「結合著作物」とは、音楽にあっては楽曲と歌詞のように、分離して利用できるものであるから 、分離利用できない「共同著作物」とは違う。東京地平9年3月31日判(判時1606号118頁)の「在宅介 護アドバイス」事件では、イラストと説明文との関係を結合著作物と認定した。斉藤前掲104頁。「キ ャンディ・キャンディ」事件では、東京高裁はストーリー原作と漫画展開との関係を共同著作物と認定したが、疑問である。むしろ、結合著作物と解した方が妥当である。
(21) 斉藤前掲81頁
(22) 菊池武別冊ジュリスト著作権判例百選〈第二版〉39頁
(23) 例えば、漫画「サザエさん」に関係するキャラクターの顔と名前については、「ナミ平」が商標 登録第1566793号(商公昭57-18720号)、「オフネ」が商標登録第1566798号(商公昭57-18721号)として、それぞれ昭和54年6月5日に出願され、昭和58年2月25日に設定登録されていた。
(24) Popeye/p*p*i/ポパイ:‘I'm Popeye the Sailor Man’の歌を‘I yam what I yam, and that's all that I yam’という水夫言葉の台詞で庶民の英雄となった船乗り.パイプをくわえて片目をつぶっ たポーズがきまっている.E. C. Segar の“Thimble Teater”という漫画に初登場(1929).その4年後に Betty Boop のアニメ映画の中にお目見えし、人気を拡大することになった.ホウレン草を食べると怪力が出る.彼のガールフレンドでやがて妻となるのは細身の Olive Oyl. 敵役は Bluto. Popeye (1980)という題名で映画化された.(以上の解説は、舟戸・中野「じてん・英米のキャラクター」593頁からの引用)
(25) この問題は、「フィクショナル・キャラクター」の保護についても考えることになるが、このキ ャラクターについては牛木「キャラ商品化権」363頁以下参照。
(26) この問題については、注(4)及び(8)で紹介する各文献に詳しいから、参照されたい。
(27) 非人物(もの)のパブリシティ権の問題については、牛木「キャラ商品化権」495頁以下参照。最近の裁判例として、「競走馬の名称」をめぐる名古屋地平10(ワ)527号平12年1月19日判(認容)、名古 屋高平12(ネ)144号平13年3月8日判(控訴棄却、一部変更)、東京地平10(ワ)23824号平13年8月27日判( 棄却)があり、名古屋側と東京側とでは、「パブリシティの権利」についての基本的な考え方が対立している。前者は上告、後者は控訴されている。
(28) 脱稿後に、作品の創作体や着想の同一性にまで及んで保護範囲と考えているような注目すべき2 つの下級審の裁判例が存することがわかった。一は「スイカの写真」をめぐる東京高裁平12(ネ)750号平成13年6月21日判であり、他は「チーズ対バター」の書籍をめぐる東京地裁平13(ヨ)221003号平成13年12月19日決である。
 前者判決は、原審では東京地裁平11(ワ)8996号平成11年12月15日判により、請求棄却されたのに対し 、控訴審では原判決を一部変更し、損害賠償の支払いと写真カタログの発行・頒布の禁止を命令した。その根本的な理由は、被告写真は原告写真に依拠しないかぎり、到底、被告写真を撮影することができなかったと依拠性を認定したことにある。また、作風のいかんにまで及んでいる。その結果、被告写真は、本件写真に表現されたものの範囲内で、これをいわば粗雑に再製又は改変したにすぎないから、再製又は改変は著作権法上許されず、違法なものであると判示した。(上告、判時1765号96頁)
 後者決定は、仮処分申立てに対するものであり、言語の著作物の範疇にある先発の「チーズ」本を、後発の「バター」本が批判した内容は、パロディ化したものであったことから、裁判所は翻案権の侵害と判断した。しかし、同じページ長さと文体の2つの本を読み較べても、バター本がチーズ本を改変翻案したという感じはしない。「チーズ対バター」事件では、不正競争防止法に基く差止め等も起されたが、この方は却下の決定となった。
 なお、日本著作権法学会の2001年春季総会における「著作物の創作性」をテーマとしたシンポジウムは、中山信弘教授の司会で、小泉直樹教授他のパネラーからの報告があったが、著作物の成立とその保護範囲についての考え方に、従来の定説を破ろうとするかのような勢いがあったことに対し、フロアーからはいろいろな質問と発言があった。このシンポジウムの内容は、今年5月発刊の「著作権研究」第28号に発表される予定。
 


〔牛木理一〕