第1-10



著作物でないと判断された電子ペット

牛  木  理  一


 

 電子玩具「ファービー」は、最初はわけのかわらないファービー語を喋り、馴れてくると次第に英語、または日本語を喋るという人形である。この人形は米国で誕生し、1998年10月に米国著作権局で著作権登録されたタイガー・エレクトロニクス社の著作物であり、わが国ではトミーが輸入して独占的に販売していた。平成11年7月頃、A社(大阪市平野区)の役員Xが、商品名「ポーピィ」という名前で「ファービー」の容貌姿態などを模した人形をB社に2400個を山形県内で販売し代金360万円を受け取ったが、この行為はタイガー・エレクトロニクス社の著作権著作権を侵害したとして、山形地検が山形地裁に起訴した。山形地裁における最大の争点は、「ファービー」人形に著作物性が認められるか否かにあった。
 検察官は「ファービー」は使用者がこれを鑑賞することにより、ペットを飼っているかのような楽しみを感じさせることを意図して制作された玩具で、その容貌姿態は使用者の感情に訴えかけるという制作者の思想を具体的に表現したものであるから、「ファービー」のデザイン形態に著作物性は認められると主張した。
 これに対し被告人らの弁護人は「ファービー」のデザインは電子玩具としての産業上の利用を目的に制作されたもので、玩具としての機能を離れて美的鑑賞の対象となるものではない上、顔部に玩具としての仕掛けがあり、技術的要請に基づく制約があるから、専ら美の表現を追求したものとはいえず、著作物性はないと反論した。

1.工業製品は著作権法の保護対象ではない
 前記争点に対し、裁判所は「ファービー」人形について、まず次のように認定した。
(1)「ファービー」の外観は、電子回路やモーター等を内蔵したプラスチック製の本体を、毛の縫いぐるみで覆った動物型の玩具。「ファービー」の顔部は、本体と一体となっているプラスチック製の目やくちばしが縫いぐるみから露出しているほか、底部も縫いぐるみで覆われていない。
(2)「ファービー」は、体内に合計7個の各種センサーを内蔵し、これらが光や音、圧力、傾斜等外部からの刺激を感得すると、刺激の種類に応じて耳やまぶた、くちばし及び足が動き、内蔵のロムチップに記憶された音声を発する。
(3)「ファービー」は、使用当初はファービー語と称する言語に擬した音声を発するが、使用を継続して上記刺激が繰り返されるにつれて、単語(わが国で販売されたものについては日本語ないし英語)を発するようになり、最終的には単語を組み合わせた熟語を発する。
(4)「ファービー」は、使用者にあたかも成長するペットを飼っているかのような感情を抱かせる育成型の電子ペットというべき玩具。
 山形地裁は「ファービー」をこう認定した上で、タイガー社は「ファービー」のデザイン形態について米国法上の著作権を取得していたが、わが国及び米国が加盟しているベルヌ条約の規定により、日本国内において著作物として保護されるか否かについては、結局わが国著作権法の解釈によることとなると説示し、本件「ファービー」のデザイン形態が、わが国の著作権法上の著作物に該当するか否かを検討した。
 わが国の著作権法において、美術は個々に製作された絵画など、専らそれ自体の鑑賞を目的とし実用性を有しない純粋美術と、実用品に美術の感覚技法を応用した応用美術とに分けられる。純粋美術は思想、感情の創作的表現として美術の著作物に該当するが、応用美術のうち、美術工芸品は美術の感覚や技法を手工的な一品製作に応用した美術の著作物に該当することは明らかだが、応用美術のうち「ファービー」のような工業的に量産される実用品に美術の感覚や技法を応用したものが、美術の著作物に該当するかどうかは条文上必ずしも明らかでないとした。
 しかし、工業的に量産される実用品のデザイン形態は、本来意匠法による保護の対象となるべきものであると山形地裁は判断した。また、現行著作権法の制定過程において意匠法との交錯範囲について検討されたが、その際に意匠法により保護される応用美術は、広く美術の著作物として著作権法でも保護するという見解は採用されなかったとし、さらに応用美術全般について著作権法による保護が及ぶとすると、両者の保護程度の差異(意匠法による保護は、著作権法の場合と異なり設定登録を要するし、保護期間も15年間で、著作権法の50年間と比較して短い。)から、意匠制度の存在意義を著しく減殺するから、工業的に量産される実用品のデザイン形態には、原則として著作権法の保護は及ばないと解するのが相当と判示した。

2.「ファービー」に美的特性なし
 もっとも、このような実用品のデザイン形態であっても、客観的に見て、実用面及び機能面を離れ独立して美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているものは、純粋美術としての性質を併有しているといえるから、美術の著作物として著作権法の保護が及ぶと解されると判示した。
 そこで裁判所は、これを本件「ファービー」についてみると、使用者にあたかも成長するペットを飼っているかのような感情を抱かせる玩具であり、その容貌姿態が愛玩性を高める要素となっていることは否定できないが、全身を覆う毛の縫いぐるみから、動物とは明らかに質感の異なるプラスチック製の目や嘴等が露出しているなど、玩具としての実用性及び機能性を離れ独立して美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているとは認め難いと判断した。本件「ファービー」のデザイン形態がわが国著作権法の保護対象たる美術の著作物ということはできないと認定した。
 一方検察官は、本件のような事案においては、広く著作権の成立を認め、これを保護するのが社会的要請であり、また国際的要請でもあると主張した。
 これについて裁判所は、検察官の主張するように、他人の創造的所産である商品を模倣することにより利益を横取りしようとする行為が社会的に不当であることは論を待たない。しかし、本判決と同様の立場をとる従来の裁判例がベルヌ条約の趣旨に反するとして国際的な批判を受けているといった事情は認められないから、本件のような事案において、広く著作権の成立を認めてこれを保護するのが国際的要請であると断じることもできないと判断した。
 したがって、わが国の著作権法上、本件「ファービー」のデザイン形態については著作権が成立せず、本件公訴事実については罪とならないものというべきであると判断した。
 その結果、平成13年9月26日、被告人A社と役員Xに対していずれも無罪の判決が言い渡された。
 また、別に行われた同様の事件の被告人B社と役員Yに対しても、平成13年10月10日、いずれも無罪の判決が言い渡された。

3. 問題は同一性を有するか否か
 人形自体が電子的機能を発揮させるためのメカニズムを内蔵した実用目的のものであるとしても、人形の外観形態は、特に子供にとっては美的鑑賞の対象となる愛玩具であるといえる。その意味で本件「ファービー」は美術の範囲に属する著作物性を有するものといえるのではないか。
 また、本件「ファービー」人形にあっても、最初から人形が製作されたというよりは、最初は作者によるイメージの結集であるイラストが創作されたはずであり、このイラストに基いて製作された人形は、平面物から立体物に変形した2次的著作物であるし、他人が無断でこの人形を複製することは、2次的著作権の侵害ということになる。
 テレビゲームの「パックマン」事件の東京地裁の判決(昭59.9.28)においては、創作された対象が「芸術作品として鑑賞されようと、娯楽目的で利用されようと、実用目的で利用されようと」著作物性の認定は左右されないと判示されており、著作物の創作の目的はわが国著作権法では問われないことはすでに言明されたといえる。
 また人形は、意匠法の保護対象として意匠登録が可能であるからといっても、もともと意匠と美術の著作物との境界線は微妙だ。両者の保護は認めることができると解すべきであると判示した「博多人形」事件における長崎地裁佐世保支部の決定(昭48.2.7)の考え方が、今日ではもっとも妥当というべきだろう。要は被告人人形が、原著作物である「ファービー」人形に依拠してその本質的特徴を直接感得することができるほどに実質的同一性を有するか否かにある。
 いずれの判決に対しても検察側は控訴した。

《平成13年9月26日山形地裁判決、平成13年10月10日山形地裁判決》
 


〔牛木理一〕