第1-6


 
中古ゲームソフトの販売は適法

牛  木  理  一


 

1. メーカーが販売したテレビゲームソフトの中古品を何人も自由に販売することを、メーカーが禁止することができるかどうかをめぐり、メーカー側と中古ソフト販売業者が争っている2つの訴訟の控訴審で、東京高裁と大阪高裁はともに、メーカー側には中古品の販売を禁止する権利はない、との判決を言い渡した。しかし、その理由は異なっている。
 東西の2つの訴訟における争点は、次の4点であった。
1) テレビゲームソフトは、著作権法 に規定された「映画の著作物」に該 当するか。
2) 広く映画の著作物に該当するとし ても、「頒布権」はあるか。
3) 頒布権はあっても、それは「複製 物」と認められるものの頒布か。
4) 頒布権があるとしても、消尽する か。
2. 東京地裁では、A社(原告)がX社(被告)に対し、著作権侵害差止請求権の不存在の確認を請求する訴訟を起したが、同地裁は、平成11年5月27 日、「プレイヤーの操作によって、ストーリーや影像が現われる順序が変わるテレビゲームソフトは、著作権法が規定した映画の著作物には該当しないから、メーカーに頒布権はなく、中古品の販売は禁止できない」ことを確認し、メーカー側敗訴の判決をした。
 大阪地裁では、B社、C社、D社、E社、F社及びG社(以上,原告)がY社及びZ社(以上,被告)に対し、著作権侵害行為の差止めを請求する訴訟を起したところ、平成11年10月7日 、「著作権法の規定による限り、テレビゲームソフトは映画の著作物に該当し、メーカーには消尽しない頒布権があるから、中古品の販売を禁止できる」と、東京地裁とは正反対のメーカー側勝訴の判決をした。
 そして、いずれの事件の判決に対しても、敗訴側が控訴していた。
3. 東京高裁は、今年3月27日、次の ような理由の判決をした。
1) 立法当時は、フィルムに固定され、映画館などで一般公開されることを目的として製作される劇場用映画を念頭において規定されたのであろう。
 しかし、1.ゲームソフトにあっても、眼の残像現象を利用して動きのある画像として見せるという映画の効果に類似する視覚的効果を生じさせる方法によって、人物・背景等を動画として視覚的に表現し、かつこの視覚的効果に音声・効果音・背景音楽を同期させて視聴覚的効果を生じさせている、2.本件各ゲームソフトの影像は、いずれも、ゲームソフトの著作者によって、カメラワーク、視点や場面の切替え、照明演出等が行われ、ある状況において次にどのような影像を画面に表示させて一つの場面を構成するか等、細部にわたるまで視覚的又は視聴覚的効果が創作・演出されている、3.本件各ゲームソフトは、いずれも、著作者により創作された一つの作品として、CD-ROMという媒体にデータとして再現可能な形で記憶されており、プログラムに基づいて抽出された影像についてのデータが、ディスプレイ上の指定された位置に順次表示されることによって、全体として連続した影像となって表現されるものであるから、プレイヤーが操作するテレビゲームソフトも、著作権法2条3項にいう「映画の著作物」に該当する。
2) 映画の著作物に該当すると認められる以上、メーカー側は「頒布権」をもつことになる。
3) しかし、著作権法が頒布権を認めている映画の著作物の「複製物」とは、複製物についても頒布権という強力な権利を映画の著作権のみに認めた著作権法26条1項の立法趣旨に照らすと 、配給制度により流通の形態が採られている映画の著作物の複製物のように、少数しか製造されることが予定されている場合のものである。したがって、テレビゲームソフトのように、大量の複製物が製造され、その一つ一つは少数の者しか視聴しないものは含まれない、と限定して解すべきである。これについては、規定の文言ではなく、規定の中に実質的根拠が認められると解釈した。
 その結果、控訴人のメーカーは被控訴人が中古品を販売するについて、差止請求権を有しないことの確認請求を認容した原判決は結論として妥当であるとし、メーカー側の控訴を棄却した。
4. 一方、大阪高裁は、今年3月29日 、次のような理由の判決をした。
1) 本件各ゲームソフトは、アニメーション映画におけるのと同様、ショットの構成やタイミング、カメラワークを含む作品成立にかかわるすべての表現要素をまとめた編集行為が、絵コンテ段階で行われ、プレイヤーの操作・選択による変化をも織り込んで、著作者の意図を創作的に表現する編集行為が存在しているのであり、プレイヤーによる操作を前提としつつ、これを想定した上で著作者がいかに見せるかという観点から視聴覚的効果を創作的に表現しているというべきで、本件各 ゲームソフトは、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的方法で表現され、かつ創作性があって著作物性を有し、右表現がプログラム化されてCD-ROMに収録されて固定されているから、映画の著作物に該当する。
2) 映画の著作物に該当すると認められる以上、メーカー側は「頒布権」をもつことになる。
 法26条は、劇場用映画の配給制度という取引実態を踏まえて、映画の著作物について頒布権という特別の支分権を認めて作られた規定であるから、本件各ゲームソフトの流通、取引形態は、右劇場用映画の配給制度とは全く異なるものということができる。
 しかし、そのことから、直ちに、本件各ゲームソフトが頒布権を有しない映画の著作物に該当するとすることはできない。なぜならば、本件各ゲームソフトが映画の著作物に該当する以上、法26条が適用されることになるのは当然であり、明文によって認められている権利を否定するにはそれだけ十分な理由付けが必要であるが、右事由は、未だ本件各ゲームソフトについて頒布権を否定するに足りるだけの理由に至っていないというべきだ。
3) しかし、著作権法の領域においても、商品取引の自由という公共の利益と著作者の利益との調整として、頒布権に「消尽」の原則が適用される。即ち、著作権法26条の頒布権には、本来、権利消尽の原則が働くが、配給制度による映画の流通におかれる取引形態は、例外的に頒布権に消尽の原則が適用されないが、ゲームソフトの複製物は大量に生産され、大衆に大量に販売され、一次卸店を通じて、卸店及び小売店を経由して最終ユーザーに譲渡されたのだから、一ど市場に適法に拡布された以上、権利消尽の原則という一般的原則によって、最終ユーザーに譲渡された後は、メーカー側に後の譲渡について頒布を禁止する権利はなく、消尽する。
 その結果、大阪地裁の判決を取り消し、メーカー側の控訴を棄却した。
5. 両高裁の判決とも、ゲームソフトが映画の著作物に該当することは認め、一ど適法に頒布された後の中古品の再販売を、ともに「適法」とするとの結論を出した。
 しかし、その理由は異なっている。即ち、いずれの判決とも、映画の著作物といわれるものの複製物には、頒布権のあるものとないものとがあること、または頒布権が消尽するものと消尽しないものとがあること、とそれぞれ独自の解釈に基く理由をつけて適法の判断をしている。
 いずれの高裁の見解も、著作権法に明記されていない問題について踏み込んだ解釈である。
6. 以上の2つの控訴審判決に対して、敗訴したメーカー側はいずれも上告した。最高裁においては、どちらの控訴審判決の理由づけが妥当として採用されるかが注目される。
 即ち、ゲームソフトは映画の著作物に該当することを認めた上で、適法に頒布された後の中古品の販売を適法とするにせよ、ゲームソフトのように量産品である映画効果類似の著作物の複製物については、頒布権を認められないと考えるか、または頒布権は認められるとした上で、一般の商品並みに最初の販売によって頒布権は消尽すると考えるかである。
 筆者としては、後者の考え方が妥当のように思えてならない。
 


〔牛木理一〕