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登録意匠「運搬車キャスター」無効審決取消請求事件:知財高裁平成17(行ケ)10620平成18年2月2日判決(棄却)

〔キーワード〕
意匠の類似,意匠の創作力,推測,看者の注意

〔事  実〕
1.被告(株式会社内村製作所)は、意匠に係る物品「運搬用キャスター」について、昭和61年8月29日に出願し、平成7年11月24日に設定登録した意匠登録第946347号の意匠の意匠権者である。
 これに対し原告(株式会社ユーエイキャスター)は、本件登録意匠の登録無効の審判請求をしたところ、平成17年6月29日に不成立の審決を受けたので、本件審決取消請求に至った次第である。
2.審決の理由は、要するに,@本件登録意匠は,昭和56(1981)年に発行されたFaultless Division,Bliss & Laughlin Industriesのカタログ「FAULTLESS CATALOG 81」(甲1の1(審判甲1の1)添付の別紙1ないし5,以下「本件カタログ」という。)の42頁(同別紙4)の中央左に所載の,LOW PROFILE CASTERSと記載された「キャスター」の意匠であって,形態は,本件カタログ42頁の写真版(以下「本件斜視図」という。)により現されたとおりのもの(本件審決における甲号意匠(別紙審決書写し添付の別紙第二参照),以下「引用意匠」という。)に類似する意匠とはいえず,意匠法3条1項3号に規定する意匠に該当しない,A本件登録意匠は,別紙審決書写し添付の別紙第三の各意匠(引用意匠,甲3(審判甲12),甲6(審判甲13の20),甲7(審判甲10),甲8(審判甲8)及び甲9(審判甲11)の各意匠)が有する周知の形態に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものとはいえず,意匠法3条2項に規定する意匠に該当しない ,というものである。
3.本件審決が,上記@の判断の前提として認定した本件登録意匠と引用意匠の共通点及び差異点は,次のとおりである。
[共通点]
(1)全体が,水平な略平板状の取付板と,その取付板の下部に,ベアリング部を介して回動自在に設けた本体と,本体下端寄りに水平に設けた車軸ボルトによって支持した車輪とからなる,基本的な構成態様のものである点
各部の具体的な態様において,
(2)取付板は,略矩形状であって,中央に本体取付用主軸の頭部が略円形に現れ,その周囲にベアリング受け溝を略円環状に設けたものである点
(3)本体は,取付板の一辺より短い横幅であって,正面側を上端寄りに余地を残して切り欠いて,本体の側面が,略円筒形状に形成された部分と,平坦面状に形成された軸受部からなる点
(4)車輪は,略倒円柱形である点
(5)軸受部に設けられた車軸ボルトを本体の中心軸よりやや正面側に偏心して設けている点
(6)本体上部と取付板との間のベアリング部周囲に,本体とほぼ同幅で薄い略円柱形状部材を設けている点
(以下,順に「共通点(1)」などという。)
[差異点]
(イ)車輪の大きさ及び見え方について,本件登録意匠は,車輪の直径が本体の高さよりも短く,車輪の大部分が本体に覆い隠されているのに対して,引用意匠は,車輪の直径が本体の高さよりも長く,車輪の約3/4が本体から露出している点
(ロ)本体の背面側形状について,本件登録意匠は,上端寄りに余地を残して切り欠いて,下広がりに開放する略等脚台形状であるのに対して,引用意匠は,背面方向の形状が不明である点
(ハ)軸受部の形状について,本件登録意匠は,正面側端部をほぼ垂直状とし,円筒形状に形成された部分との上方及び側方の境界線をほぼ直線状として,軸受部を略矩形状としているのに対して,引用意匠は,正面側端部を下方を前方に突出させて傾斜状とし,円筒形状に形成された部分との境界線を上方が前方に傾いた傾斜線状として,軸受部を略三角形状とした点
(ニ)本体の正面側切欠部の形状について,本件登録意匠は,下方に開放した略コ字形状であるのに対して,引用意匠の正面側切欠部の形状は,正面方向の形状が定かではなく,本件登録意匠と同様の略コ字形状であるかが不明である点
(ホ)取付板の態様について,本件登録意匠は,四隅を小円弧状に隅切りした略隅丸正方形状であって,四隅寄りに取付ボルト用の小円孔を設けているのに対して,引用意匠は,平面方向の形状が定かではなく,四隅の形状や,小円孔の存在について,本件登録意匠と同様であるかが不明である点
(へ)車輪の幅について,本件登録意匠は,車輪の直径よりも短いのに対して,引用意匠は,正面方向の形状が定かではなく,長短が不明である点

〔判  断〕
1 意匠法3条1項3号について
(1)共通点の看過及び差異点認定の誤りについて
ア 本体の形状について
 原告は,本件審決が,本体の大部分が略円筒形状をしている点を本件登録意匠と引用意匠に共通する基本的構成態様として認定せず,共通点を看過した誤りがある旨主張する。
 まず,本件審決は,本体の側面視形状について,共通点(3)において,略円筒形状に形成された部分と,平坦面状に形成された軸受部からなる点を共通点として認定しており,本件登録意匠と引用意匠を対比すれば,この認定自体には何ら誤りはない。
 一方,本件審決は,本体の背面側形状について,差異点(ロ)において,引用意匠の背面視形状が不明であるから対比できないと認定したものであり,この認定に誤りがないことは,後記イのとおりである。
 そうすると,引用意匠の基本的構成態様として,その本体の大部分が略円筒形状をしているとにわかに断定することはできないというべきであり,本件審決が原告主張の共通点を看過したということはできない。
イ 背面方向の形状について
 原告は,本件審決が,差異点(ロ)を認定し,また,共通点(3)において,両意匠に共通する点が正面側が切り欠かれていることのみであるかのように認定したのは,本体の切欠部の「背面側が下広がりに開放する略等脚台形状である」という共通点を看過した誤りがある旨主張する。
 ところで,本件審判において引用意匠とされた,本件出願前に日本国内又は外国において公然知られ,又は頒布された刊行物に記載された意匠は,本件カタログ42頁の中央左に所載の,LOW PROFILE CASTERSと記載された「キャスター」の意匠であって,形態は,本件斜視図により現されたとおりのもの(別紙審決書写し7頁6行〜12行,同添付の別紙第二参照。)であり(なお,原告は,本件審決における,引用意匠についての上記認定を争っていない。),キャスターの現物そのものによって現される意匠(甲11参照)ではない。
 そして,本件カタログの記載を参酌しても,本件斜視図に現された引用意匠の背面方向の形状を確定することはできないし,かように不明である引用意匠の背面側の形態を含めて本件登録意匠と対比することはできないから,本件審決の認定に誤りがあるとはいえず,本件審決に原告主張の共通点を看過した誤りはない。
 この点について,原告は,重荷重用キャスターの製造上の必要性及び甲3〜5などの公知意匠に見られる形状の共通性に鑑みれば,引用意匠の背面側形状も,公知意匠と同様に下広がりに開放する略等脚台形状に切り欠かれていると解するべきである旨主張する。しかし,甲3〜5の各意匠において背面側形状が等脚台形状ということはできないし,そもそも引用意匠自体の形状が特定できないときにこれを他の公知意匠の形態から推測することは相当でなく,原告の主張は採用することができない。
ウ 正面側切欠部の形状について
 原告は,本件審決が,差異点(ニ)を認定したのは誤りであり,本体の切欠部の「正面側が下方に開放した略コ字形状」であるという共通点を看過したものである旨主張する。 しかし,本件斜視図それ自体からは,奥手側(右側面側の脚部の形状)を明確に把握することができないことが明らかである。
 なるほど,本件斜視図に現れているナットの存在は,原告が指摘するとおり,他方にも脚部が存在することを推測させるものであり,また,引用意匠のような重荷重用キャスターには,使用時に大きな荷重がかかることが予想されないではない。しかしながら,だからといって直ちに,引用意匠において脚部に挟まれて形成される正面側切欠部の「形状」が必ず左右対称であるとまで,にわかに断定することはできないというべきであり,本件斜視図により現されたものを引用意匠とする以上,明確に把握することができない奥手側(右側面側の脚部の形状)を推測によって特定して,本件登録意匠と対比することは相当でない。
 したがって,本件審決が,引用意匠における本体の正面側切欠部の形状について,差異点(ニ)において「本件登録意匠と同様のコ字状であるかが不明である点」との認定をしたことに誤りはなく,本件審決に原告主張の共通点を看過した誤りがあるとはいえない。エ 軸受部について
 原告は,本件審決が,本件登録意匠と引用意匠とは,軸受部が脚部の正面寄り略半分を内側に窪まされることにより形成されているという共通点を看過したと主張する。
 しかし,上記ウのとおり,引用意匠を現している本件斜視図においては,奥手側(右側面側の脚部の形状)を明確に把握することができず,また,引用意匠において脚部に挟まれて形成される正面側切欠部の形状が左右対称であるとにわかに断定することはできないのであるから,左側面側についてはともかく,引用意匠の右側面側について,軸受部が脚部の正面寄り略半分を内側に窪まされると断定することはできない。
 したがって,本件登録意匠と引用意匠の対比において,軸受部について共通して認めることができる車軸ボルトの位置関係のみを共通点として認定した本件審決の認定は相当であり,本件審決に原告主張の共通点を看過した誤りはない。
オ 取付板について
 原告は,本件審決が差異点(ホ)を認定したのは誤りであり,取付板は,「四隅を小円弧状に隅切りした略隅丸矩形状であって,四隅寄りに取付ボルト用の小円孔を設けて」いるという共通点を看過したものである旨主張する。
 前記のとおり,引用意匠は,本件カタログによって特定されるものであるから,その認定に当たっては,本件斜視図のみでなく,本件カタログに記載された文章等による表現をも参酌することができるものというべきである。
 そして,本件斜視図からは,やや不鮮明ながら,取付板の四隅が丸く形成され,四隅に円孔が存在することがうかがわれるところ,甲1の1によれば,本件カタログ42頁には,本件斜視図のほかに,車輪径,取付高,取付寸法などの数値(取付寸法:2-3/8″×3-3/8″(round hole)/取付座:3-5/16″×4-5/16″)の記載があることが認められる。このことからすれば,引用意匠の取付板は,本件登録意匠の取付板と同様に,四隅が丸く形成され,四隅寄りに取付ボルト用の小円孔を設けているものということができる。
 したがって,本件審決が,引用意匠における取付板の態様について,差異点(ホ)として「本件登録意匠と同様であるか不明である点」と認定したことは誤りであり,取付板の態様について,両意匠は,四隅を小円弧状に隅切りした略隅丸正方形状であって,四隅寄りに取付ボルト用の小円孔を設けているという点において,共通するものというべきであるから,本件審決はこの共通点を看過したものといわなければならない。
カ 車輪の幅と直径の関係について
 原告は,本件審決の差異点(ヘ)の認定は誤りであり,車輪の幅(厚さ)が直径よりも短いという共通点を看過した旨主張する。
 まず,本件斜視図からは,側面方向と正面方向の正確な縮尺が明らかでないため,引用意匠における車輪の幅と車輪の直径の正確な大小関係を確定することは困難である。 しかしながら,甲1の1によれば,本件カタログ42頁,74頁には,車輪径3インチ,車幅1-13/16インチの記載があることが認められ,引用意匠における車輪の幅が本件登録意匠と同程度に「車輪の直径よりも短い」ということができる。
 したがって,本件登録意匠と引用意匠は,いずれもその車輪の幅(厚さ)が直径よりも短い点において,共通していると認められ,本件審決が,差異点(ヘ)として,引用意匠における車輪の幅について「長短が不明である点」と認定したことは誤りであり,原告指摘の共通点を看過したものというべきである。
キ 以上のとおり,引用意匠の背面方向の形状及び正面側切欠部の形状を不明とした本件審決の認定に誤りはなく,また,本件審決が,軸受部が脚部の正面寄り略半分を内側に窪まされることにより形成されているという点を共通点として認定しなかったことにも誤りはないが,本件登録意匠と引用意匠は,いずれもその車輪の幅(厚さ)が直径よりも短い点(以下「共通点@」という。),及び,取付板が四隅を小円弧状に隅切りした略隅丸正方形状であって,四隅寄りに取付ボルト用の小円孔を設けているという点(以下「共通点A」という。)においても,共通するものというべきであり,本件審決はこれらの点を看過するとともに,差異点(ヘ)及び(ホ)を誤って認定したものというべきである。
 そこで,上記の誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすものであるか否かについて,さらに検討する。
(2)類否判断(共通点及び差異点の評価)の誤りについて
ア 共通点について
(ア) 上記(1)で説示したとおり,本件登録意匠と引用意匠は,本件審決が認定した共通点に加え,共通点@及びAにおいても,共通するものというべきである。
 しかしながら,両意匠を全体として観察した場合において,共通点@の点は,引用意匠についてはともかく,少なくとも車輪の大部分が本体に覆い隠されている本件登録意匠においては,視覚的に目立たないところであり,共通点Aは,この種の重荷重用キャスターにおいて特徴的形態とはいえないし,視覚的に目立つ部分でもないから,共通点@及びAのいずれの点も,格別看者の注意を惹くものとはいい難く,類否判断に及ぼす影響は微弱に過ぎない。
 そして,両意匠を全体として観察すると,両意匠の基本的な構成態様である共通点(1)はもとより,具体的な態様に係る共通点(2)ないし(6)は,いずれもこの種物品の用途,使用態様などに伴い一般に見受けられる態様であって(甲6,甲7など),特に看者の注意を惹く特徴ある部分とはいい難く,また,これらと上記の共通点@及びAを纏めても,特段際立った特徴を奏するとはいい難いものである。そうすると,共通点@及びAの存在を加味して考えても,両意匠の共通点が類否判断に及ぼす影響は微弱なものにとどまるというべきである。
(イ) 原告は,原告主張の共通点(A)〜(G)の存在を前提として,それらは両意匠の強い類似性を示しており,類否判断に支配的な影響を与えることは明らかである旨主張するが,本件登録意匠と引用意匠との共通点は,前記のとおり,本件審決が認定した共通点(1)ないし(6)に加え,共通点@及びAの限度で認められるにとどまり,原告が主張するその余の共通点は認められないから,原告の上記主張は,その前提において失当といわざるを得ない。
 なお,原告は,両意匠が原告主張の共通点(A)〜(G)において共通することは,別件判決において認められているところであると主張するが,原告が引用する別件判決の説示は,引用意匠等の多数の公知意匠が上記(A)〜(G)の構成態様を備えていることを挙げてなされた,「ありふれた形態であるから,その共通性を理由に類否判断するのは誤りである」旨の主張に対して,「既にありふれたものとなっていたとしても」,対比すべき両意匠において,「意匠全体における支配的部分を占め,意匠的まとまりを形成し,看者の注意を強く惹くものであるときは,これを両意匠に共通して見られる特徴として類否判断を行うのは,当然というべきである」との判断を示す上で,引用意匠に言及したに過ぎないものであって,本件登録意匠と引用意匠との類否を厳密に検討して判示したものでないことは,その説示に照らして明らかであり,本件登録意匠と引用意匠との類否が争われている本訴において,原告主張の共通点(A)〜(G)を認定する根拠となるものではない。また,原告が引用する別件判決の説示のうち,「これらの組み合わせが,・・・意匠全体における支配的部分を占め,意匠的まとまりを形成し,看者の注意を強く惹くものである」との点は,別件判決の判断の対象となった登録意匠(原告が保有する登録第1192386号意匠)と引用意匠(本件登録意匠)の対比に関する説示であり,本訴における本件登録意匠と引用意匠の対比についてのものではない。
イ 差異点について
(ア) 差異点(イ)について
 原告は,本件審決が認定した差異点(イ)の存在を前提とした上で,車輪の直径が本体の高さよりも短く,車輪の大部分が本体に覆い隠されている態様は,甲9に見られるように,既に公知の態様であり,特段看者の目を惹くものではないから,車輪の大きさ及び見え方の差異が類否判断に影響を及ぼすとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。 しかし,車輪の大部分が本体に覆い隠されている態様は,引用意匠はもとより,甲9にも現れておらず,原告の主張はその前提において誤りである。そして,本件審決が指摘したとおり,車輪の大きさ及び見え方については,本体と車輪の関係という視覚的に目立つ部位の構成態様であるから,看者の注意を最も強く惹く構成態様というべきである。そうすると,差異点(イ)は,類否判断に大きな影響を及ぼすものというべきである。
 したがって,差異点(イ)についての本件審決の判断に原告主張の誤りはない。
(イ) 差異点(ロ)について
 原告は,本件審決が認定した差異点(ロ)の存在を争う一方,その存在を前提としたとしても,本件登録意匠の背面側切り欠きの形状は,他の公知意匠とほぼ同じ形状であるから,看者の目を惹くと評価できるものではなく,類否判断にほとんど影響を及ぼさない旨主張する。
 しかし,本件審決における差異点(ロ)の認定に誤りがないことは,前記(1)イのとおりであるから,引用意匠の背面方向の形状が不明であり,上端寄りに余地を残して切り欠いて,下広がりに開放する略等脚台形状である本件登録意匠の背面側形状との対比はできないとする本件審決の判断は正当であり,また,この種物品の属する分野において,背面側の形状特徴がおよそ重要でないとまではいえないから(なお,原告が同じ形状の公知意匠として引用する甲3〜5の各意匠は,いずれもその背面側形状が本件登録意匠のような等脚台形状のものとはいえない。),背面側形状の差異が類否判断に影響を及ぼすものといえるとした差異点(ロ)についての本件審決の判断に誤りはない。
(ウ) 差異点(ハ)について
 原告は,本件審決が認定した差異点(ハ)の存在を前提とした上で,軸受部の側面視形状の差異は,看者の目を惹きにくいものであり,両意匠が,本体略下半分の正面寄りに平坦部を形成して軸受部としている共通性に対して,部分的で微弱な差異に止まり,形態全体の基調に影響を与えるほどの要素でもないから,類否判断に与える影響は微弱であるというべきで,差異点(ハ)の評価についての本件審決の判断は誤りである旨主張する。
 しかし,本件登録意匠においては,軸受部(車軸ボルト)の上方と側方に明瞭に円筒形状部分が存在し,軸受部(車軸ボルト)が円筒形状部に囲まれているという視覚的印象を看者に与える。これに対して,引用意匠においては,軸受部が上下方向に相対的に細長い印象を看者に強く与え,軸受部(車軸ボルト)の上方と側方に円筒形状が明瞭に存在せず,軸受部(車軸ボルト)が円筒形状部に囲まれているという視覚的印象を与えない。このように,両意匠は,差異点(ハ)に係る軸受部の形状の差異に伴って,看者に異なった視覚的印象を与え,異なる美感を醸し出しているものということができるのであり,類否判断に与える影響が微弱であるとはいえない。
 したがって,差異点(ハ)は類否判断に影響を及ぼすとの本件審決の判断に原告主張の誤りはない。
(エ) 差異点(ニ)について
 前記(1)ウにおいて説示したとおり,本件審決が差異点(ニ)を認定したことに誤りはなく,当該認定が誤りであることを前提とする原告の主張は失当であって,差異点(ニ)が類否判断に影響を及ぼすものといえるとした本件審決の判断に誤りはない。
(オ) 差異点(ホ)及び(ヘ)について
 前記(1)オ及びカにおいて説示したとおり,本件審決が差異点(ホ)及び(ヘ)を認定したことは誤りであるから,これらの差異が類否判断に影響を及ぼすものとした本件審決の判断も誤りである。
ウ 類否判断についてのまとめ
 以上によれば,本件審決の差異点(イ)ないし(ニ)についての意匠的判断は正当であるが,差異点(ホ)及び(ヘ)の存在を前提とした意匠的判断は誤りである。
 しかしながら,差異点(イ)ないし(ニ),特に差異点(イ)及び(ハ)は,本件登録意匠と引用意匠に共通するとした態様を覆す程の印象を看者に与えるものであって,両意匠の醸し出す形態全体の印象を異にする程の差異感を奏するものというべきであり,差異点(ロ)及び(ニ)と相まって,両意匠の全体的な意匠的美感を異ならせるものということができる。そうすると,差異点(イ)ないし(ニ)は,両意匠の共通点を凌駕して類比判断に支配的な影響を与えるものというべきであり,本件登録意匠は引用意匠に類似する意匠とはいえないとした本件審決の判断は,その結論において相当であるということができるから,本件審決が,前記のとおり,共通点@及びAを看過して差異点(ホ)及び(ヘ)を認定したことの誤りは,本件審決の結論に影響を及ぼすものではないというべきである。
2 意匠法3条2項について
(1)本件態様@について
 原告が,本件態様@についての公知意匠であると主張する甲9は,前記1(2)イ(ア)のとおり,車輪の大部分が本体に覆い隠されている構成態様を有するものではない(なお,原告が,本件態様@の周知例と主張する甲12〜17は,一見して本件登録意匠とはかなり異なる印象を与えるものである。)。
 したがって,原告が創作容易との主張の根拠とする引用意匠,甲3,甲6〜9の各意匠のいずれにも本件態様@が存在しないとした本件審決の認定に,原告主張の誤りがあるとはいうことはできない。
(2)本件態様Aについて
 原告は,本件態様Aについて,軸受部とする平坦部を,あらゆる意匠においてごく普通に使用される,極めてありふれた略正方形状に形成したというだけのものであり,当業者ならば誰でも極めて容易になしうる形状であると主張するが,原告が創作容易との主張の根拠とする引用意匠,甲3,甲6〜9の各意匠のいずれにも,正面側端部をほぼ垂直状とし,円筒形状に形成された部分との上方及び側方の境界線をほぼ直線状として,軸受部を略矩形状としている構成態様が存在しないことは明らかであるから,本件審決の認定に,原告主張の誤りがあるとはいうことはできない。
(3)まとめ
 そうすると,本件登録意匠に対し,引用意匠,甲3,6〜9の各意匠を比較した場合において,それらの意匠のいずれにも,本件登録意匠に見られる,車輪の大部分が本体に覆い隠されている構成態様,及び,正面側端部をほぼ垂直状とし,円筒形状に形成された部分との上方及び側方の境界線をほぼ直線状として,軸受部を略矩形状としている構成態様が存在しないので,本件登録意匠が,上記意匠が有する周知の形態に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものとはいえない旨判断した本件審決に,原告主張の誤りがあるとはいえないというべきである。
3 結論
 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,その他,本件審決に,これを取り消すべき誤りは認められない。

〔論  説〕
1.審決では、本件意匠と登録無効用の引用意匠とを対比し、共通点と差異点とを記述しているが、この審決の認定は一部変更はしているものの判断には影響しないとしてそのまま採用され、請求棄却の判決となったが、妥当というべきだろう。
2.原告(審判請求人)は、本件意匠に対し新規性と創作力の有無の両方から攻め込んだのだが、結局は立証ができなかった。
(1)新規性の問題とは、換言すれば「類似」の問題であり、類似とは、美感の共通性をいうと解する思想と、創作性の同一性をいうと解する思想との対立がある。
(2)創作力の問題とは、当業者間において当該意匠を容易に創作することができるとした場合をいうとすることに対立はない。
 前記(1)の場合、意匠創作保護法であることをよく承知している者であれば、当然後者の思想をとるが、改正意匠法では前者の思想をとってしまった。しかし、この考え方をとってしまった第24条2項の規定はいずれ実務上、破綻することになるだろう。
3.いずれにせよ、引用意匠とは非類似として、登録無効の不成立の審決の認定判断を妥当として認容した判決といえる。

 

 

〔牛木理一〕