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登録意匠「フェンス」無効審決取消請求事件:知財高裁4部平成17(行ケ)10392号平成17825日判決(棄)

 

〔キーワード〕

 

意匠の創作性,周知の手法,物品本来の目的,創作非容易性(意匠法32項)

 

〔事  実〕

 原告(鰹ャ財スチール・潟宴O)は、平成12年12月8日に出願し、平成15年8月15日に設定登録された意匠登録第1186560号(本件登録意匠)に係る「道路用防獣さく」の意匠権者であった。
 被告(朝日スチール工業梶jは、平成15年11月14日に特許庁に意匠法3条2項を理由として登録無効の審判請求をした(無効2003−35470)ところ、平成17年2月17日に登録無効の審決がなされたので、原告は審決の取消訴訟を請求した。

〔審決の理由〕

(1) 審決は,本件登録意匠の概略を次のとおり認定した。
「本件登録意匠
の概略は,()縦線材と横線材を竪繁格子状に形成し,全体の縦辺対横辺の長さを略4:5とした横長のフェンスであって,()多数の縦線材を幅狭かつ等間隔で垂直に配列し,横線材は,縦線材と同間隔で2本1組としたものを,縦線材の配列の上端より下端近くまで等間隔で水平に4段配列し,()最下段の2本1組の横線材の下方に2本の横線材を等間隔に配設し,()縦線材の上下端を横線材よりわずかに突出させ,横線材の左右端を縦線材と揃えた態様のものである。」
(2) 審決は,本件登録意匠の態様(イ)()()につき,次のとおり判断した。
 「
()の態様に見るべき創作性は認められない。…()…この態様に格別の創作性を認めることはできない。…()…この態様にも特別の創意は認められない。」
(3) 審決は,本件登録意匠の態様()につき,次のとおり判断した。
 「
()の最下段の2本1組の横線材の下方に2本の横線材を等間隔に配設した態様については,線格子フェンスの下端部に横線材を適宜増設する等のことは,甲3(判決注:本訴甲3の1ないし3)に示されるように周知の手法であるのみならず,フェンス下方からの小動物の侵入を防ぐという防獣さくの本来の目的から当然考えつくことでもあるから,この点に格別の創作性を認めることはできない。」
(4) 審決は,本件登録意匠の創作非容易性につき,次のように判断した。
 「結局,
…()()の態様はいずれも格別評価すべき創作性ある態様とは認められず,また,それらはいずれも本件登録意匠と同一の分野に属する公知の態様であるから,これらを組み合わせて本件登録意匠の態様とすることも当業者であれば容易になし得ることであると認められる。」
(5) 審決は,次のとおり結論付けた。
 「本件登録意匠は,意匠法3条2項に該当し,意匠登録を受けることができない」

 

〔判  断〕

1 原告らは,審決が認定した本件登録意匠の形態につき,()ないし()のように認定したこと(前記第2,2(1)に記載のとおり),審決が()()()の各態様に格別の創作性が認められないとしたこと(同(2)に記載のとおり)については,いずれも認めている。その上で,原告らは,本件登録意匠の形態のうち,()「最下段の2本1組の横線材の下方に2本の横線材を等間隔に配設し,」との点に格別の創作性を認められないとした審決の判断(同(3)に記載のとおり)を争うものである(なお,原告らは,同(4)に記載の判断をも争うとしているが,上記のとおり,()()()の各態様に格別の創作性が認められないことは争わないのであるから,()ないし()の各態様の組合せによる本件登録意匠全体の創作非容易性に関する判断の結論を争う趣旨と解される。)。
2 そこで,本件登録意匠の上記態様
()の点に関する審決の判断を検討するに,「()の最下段の2本1組の横線材の下方に2本の横線材を等間隔に配設した態様については,線格子フェンスの下端部に横線材を適宜増設する等のことは,甲3(判決注:本訴甲3の1ないし3)に示されるように周知の手法であるのみならず,フェンス下方からの小動物の侵入を防ぐという防獣さくの本来の目的から当然考えつくことでもあるから,この点に格別の創作性を認めることはできない。」とした審決の判断は,証拠(甲1,3の1ないし3)及びその説示に照らし,是認し得るものである。
 そうである以上,本件登録意匠全体について,「
()()の態様はいずれも格別評価すべき創作性ある態様とは認められず,また,それらはいずれも本件登録意匠と同一の分野に属する公知の態様であるから,これらを組み合わせて本件登録意匠の態様とすることも当業者であれば容易になし得ることであると認められる。」とした審決の判断も是認することができるものである。
 したがって,本件登録意匠の登録を無効とした審決の結論は正当であって,原告らが主張するような審決を取り消すべき事由があるとはいえない。
3 上記のように判断した理由につき,原告らが審決取消事由として主張する点に沿って,補足説明をしておく。
(1) 原告らは,前記第3,2(1)の前提の下に同(2)のように主張し,審決が「線格子フェンスの下端部に横線材を適宜増設する等のことは甲3に示されるように周知の手法である。」と説示した点を非難する。
 検討するに,甲1の図3(審決書「別紙第2の甲第1号証意匠」【図3】)には,多数の縦線材を幅狭かつ等間隔で垂直に配列し,横線材は,縦線材と同間隔で2本1組としたものを,縦線材の配列の上端より下端近くまで等間隔で水平に4段配列し,その最下段の2本1組の横線材から更に下方に縦線材が突出した自由端が設けられた態様が示されている。そして,甲3の1ないし3(審決書「別紙第3」ないし「別紙第5」)によれば,線格子フェンスの下端部に横線材を適宜増設することは周知の手法であると認められる。そうすると,甲1の図3のようにフェンスの縦線材が突出した自由端に2本の横線材を等間隔に配設することには,意匠として格別の創作性は認められないというべきであり(突出自由端の長さの点については,次の
(2)に説示するとおりである。),原告らの主張は,採用することができない。
(2) 原告らは,前記第3,2(1)の前提の下に同(3)(a)ないし(c)のように主張し,審決が「フェンス下方からの小動物の侵入を防ぐという防獣さくの本来の目的から当然考えつくものである」と説示した点を非難する。
 検討するに,前記甲1の図3に示されたフェンスの形態が本件登録意匠の出願前において公知であったことは,原告らも認めている。その形状は,上記
(1)に記載のとおりである。これと同様の形態の防獣フェンス(甲11の図2)が本件登録意匠の出願前において存在したこともまた原告らが認めるところである。そうすると,本件登録意匠の属する分野における通常の知識を有する者(当業者)は,本件登録意匠の出願時において,甲1の図3や甲11の図2のフェンスの形態を見るならば,突出した自由端部分が地中に埋設されるものであり,これによって地面を掘ることのできる動物がフェンス内へ侵入できないようにしてあるものと理解することができるものというべきである(なお,甲1(公開特許公報)の発明の詳細な説明欄には,「下部突出部13が設けられており,下方に所要の長さ突出している」(段落【0020】),「下部突出部13を地中に埋設して施工してあり,これにより地面を掘ることのできる動物であってもフェンス内へ侵入できないようにしてある」(段落【0025】)と記載されており,甲11(登録実用新案公報)にも同旨の記載がされていることなどからしても,当業者は,上記のように理解するのが通常であると認められる。)。
 そうすると,当業者にとっては,地面を掘ることのできる動物の種類や習性等を考慮して,そのフェンス内への侵入をより確実に阻止するために,自由端部分の長さを適宜延長した形態とし,その場合に,補強や保形の必要性や,小禽獣の侵入防止目的により横線材の間隔を詰めることなども考慮して,下方突出部(突出した自由端部分)に横線材を適宜増設して,本件登録意匠のようにすることは,当然に考えつくことであると認められる。
 したがって,審決の上記説示は是認し得るものであって,原告らの非難は当たらない。
(3) 原告らは,前記第3,2(3)において(d)(e)のようにも主張する。
 しかし,本件登録意匠と同日に出願され,同一の創作者による甲6の1,4に記載の意匠などが登録されたからといって,無効審判において争われた本件登録意匠が直ちに創作非容易であって,無効とすることができないということにはならない。むしろ,前判示のとおり,本件登録意匠は創作容易であると認められるというべきである。その余の点についても,既に判示したところに照らし,採用の限りではない。
(4) 以上に加え,念のため,本訴口頭弁論終結後に提出された主張や証拠を検討しても,原告らの主張する審決取消事由に理由があるものと判断することはできない。
4 結論
 以上のとおり,原告ら主張の審決取消事由は理由がないので,原告らの請求は棄却されるべきである。


〔論  説〕
 結論からいえば、無効審決を妥当と判断した本判決は妥当であろう。
 このようなきわめて簡単な構成態様から成る意匠にあっては、あえて事実上の公知意匠を引用しなくても、専ら論理的な理由の展開で,意匠法3条2項を適用することは間違っていないといえる。
 筆者は、同条項の適用の場合については、厳格な考え方をとる立場にある。即ち、同条項にいう「公然知られた形状・・・」とは、3条1項1号の規定と同一文言から成ることから、審査においては、刊行物公知である3条1項2号に該当するものを適用してはならないと解する立場をとる。そうでなければ、法律が使用する用語概念の統一性がとれないことになる。
 しかし、本件の場合にあっては、本件意匠の願書に「本物品は、例えば山あいに建設された高速自動車道路や幹線鉄道線路などに、小動物が「さく」の下の土を掘ったり、「さく」をよじ登って侵入しないように、「さく」の網目を、左右幅は40〜50mm程度、上下幅は上半側を300〜350mm程度にするが、下端側は上半側よりも狭く形成し、かつ、「さく」の下端部の櫛の歯状部分は地中に突き差して前記道路や線路に沿って設置するようにしたものである。」と物品の説明をされていることは、本件意匠が専ら当該物品の用途,機能を目的とした創作であったということになる。したがって、当業者であれば、刊行物引用はなくてもその創作容易性、即ち創作力の欠如を理解することができるであろう。
 なお、本判決は、審決の説示に対する原告の主張について、「非難」という言葉を使っているが、この言葉の使用は適切でないから避けるべきである。この言葉には感情が混っているから、「批判」と混同しているようである。ここは、原告の「指摘」という言葉で十分であり、せめて「論難」というべきであろう。

 

[牛木理一]