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登録意匠「建築構造材用継手」無効審決取消請求事件:東京高裁平成14年(行ケ)381号平成15年1月16日判決(認容・審決取消)<6民>

〔キーワード〕 
意匠の類似、印象、全体観察

 

〔事  実〕

 

 被告(積水樹脂株式会社・タキロン株式会社)は、「建築構造材用継手」に係る意匠を平成9年11月26日に出願し、平成11年11月29日に設定登録を受けた意匠登録第1062965号の意匠権(本件意匠)に係る意匠権者であるところ、原告(矢崎化工業株式会社)は、出願前に原告が頒布したカタログに商品番号「J−16」として示された意匠(引用意匠)と類似すると主張して、登録無効審判を請求した。しかし、審決は両意匠には共通点はあるが、これは相違点を埋没させるほど強力な印象をもたらするものでないから、両意匠は類似しないと判断し、無効としなかったのである。

 

〔判  断〕

 

1 本件意匠及び甲号意匠の共通部分の評価のあり方について
(1) 本件意匠にと甲号意匠に係る物品は,いずれも,いわゆるDIY製品とし て,パイプとともに用いられ,構造体(物置・棚・台等)を組み立てるのに用いられるものである。
 両者とも,平行状態に配設された2本の断面円形パイプを連結させるために用いられるものであり,そのうちの1本のパイプにC型割管を嵌着し,他方のパイプを短円管ソケットに挿着して,例えばC型割管にパイプを嵌め込む際,接着剤を用いて接着固定して,ヒンジとしての用途及び機能を果たさせるものである。
 この用途及び機能を達成する必要上,ヒンジとなる断面円形パイプを回動自在に接合するための断面円形の短円筒状ソケットと,他方の断面円形パイプに外嵌して接着固定できるように断面円形の短円筒の一部を切り欠いたC型割管状のソケットを,平行状態に接合することとし,そのために,これら二つの管の底部を接線方向に,管厚と同厚の2枚の平板により接合している。
 両意匠は,審決において認定されたとおり,
ア 本件基本的構成態様,すなわち,全体が,正面視左方に,上方が開口した略Cの字状の管(C型管)を配し,その右方に,短円筒状の管(円形管)を,やや間隔を開けて平行に配し,その二つの管の底部を接線方向に,管壁と同厚の平板により接合し,また,C型管の正面視右側の切断面から円形管の接線方向に,管壁と同厚の平板により接合している点,
イ 本件具体的態様,すなわち,@C型管と円形管の長さを同長とし,その長さが,外径の略2倍のものである点,A平面視において,その縦横比が,略2:3のやや横長長方形状のものである点,BC型管と円形管について,その内径及び外径,また,管壁の厚さがほぼ等しい点
で共通し,
ウ @C型管の開口部について,本件意匠は,左右の切断面の高さが同じであり,開口部が真上に向いているのに対して,甲号意匠は,左側の切断面の高さが右側の切断面より高く,開口部が,正面視やや右向き(内向き)に配置されている点,A本件意匠は,C型管の左側面,また,円形管の平面及び右側面に,その全長にわたって,管外径の略1/4幅の帯状平面部を形成しているのに対し,甲号意匠は,そのような平面部が形成されていない点
 で相違している。
 原告は,甲号意匠を採用したジョイントを,遅くとも昭和54年ころから販売しており,甲号意匠は,遅くとも本件出願時までに,周知となっていたものと認められる。
(2) ある意匠において,周知ないし公知であり,ありふれたものとなっている部分が,当該意匠の要部,すなわち,看者の注意を最も強く引く部分となることはいくらでもあり得る。ありふれた部分を含む意匠を全体的に観察する際,ありふれた部分も,何らの美感をも与えないというわけではなく,よくあるものであるとの印象(これも一つの美感である。)を看者に与えることは当然であり,当該意匠中の他の部分に,ありふれた部分が与えるこの印象(美感)を超える美感を生じさせるだけの力がない場合には,結局,ありふれた部分が,最も強く看者の注意を引く部分,すなわち,当該意匠の要部ということになるのは,当然である。ありふれた部分であるからといって,当然に,看者に与える印象が微弱であって,要部に該当しないということはできない。誇張していえば,むしろ,現実に世にある多くの意匠の大半は,このようなものであるということも許されるであろう。
(3) 本件意匠ないし甲号意匠を採用する物品(ジョイント)は,前記のとおり,いわゆるDIY製品であり,その需要者は,それを用いて種々の構造物を作るための部品としてみるのであるから,まず,本件基本的構成態様及び本件具体的態様に着目し,これに基づいて物品の取捨選択をすると考えられる。そうである以上,それがありふれた,周知のものであるからといって,そのことだけで,看者に与える印象が微弱なものであるということはできない。
  もっとも,両意匠の上記共通点(本件基本的構成態様及び本件具体的態様)が看者に与える印象が微弱なものであるとはいえないとしても,本件意匠と甲号意匠との相違点に係る部分,とりわけ審決の強調する「帯状平面部」の有無が,意匠の全体的観察において,看者に強烈な印象を与えるなどして,最も看者の注意を引くものとなり,全体として甲号意匠とは異別の印象を与えるだけの力のあるものであれば,両者は類似しないことになる。
 結局,両意匠の類否は,それぞれを,その各部の看者に与える印象の強さを総合考慮して全体的に観察して決すべき事柄であるという以外にない。しかし,その際,ありふれたものである本件基本的構成態様及び本件具体的態様が看者に与える印象は微弱なものである,との前提に立って判断することは,正しくないというべきである。
2 本件意匠と甲号意匠との類否判断について
(1) 本件意匠には,審決認定のとおり,それぞれその長手方向に沿って,短円形管部に2か所,C型管部に1か所「帯状平面部」が設けられている。しかし,これは,各外周の一部をごく薄く削り取って形成したようなものにすぎず,設けられた個数も3か所しかないこと,丸棒や円管の表面を必要に応じ適宜削除することは,種々の分野において古くから行われてきた,ありふれた手法であること(弁論の全趣旨)からすれば,そもそもこれ自体,立体物である現実のプラスチック製ジョイントにおいて,看者の注意を引く力がそれほど強いものと認めることはできない。また,この帯状平面部は,DIY製品の機能・用途には,基本的に無関係なものと認められる(甲第1号証の1,第2号証)。
  そうすると,前記のとおり,この種DIY製品において,需要者が,まず部品としての機能・用途により製品の取捨選択を決めることからは,本件基本的構成態様及び本件具体的態様がまず注目されると考えるのが合理的であり,これらを差し置いて,この帯状平面部が最も強く看者の注意を引く部分であると認めることはできず,同部分の与える印象は,むしろ,周知の,ありふれた本件基本的構成態様及び本件具体的態様の与える印象に埋没してしまうものとすら認められるのである。
  いわゆるDIY製品であるプラスチック製ジョイントにおいて,円筒状の部材の外周の一部を削ったようにして形成された帯状平面部が,最も看者の注意を引く部分となることが,およそあり得ないというわけではない。しかし,前記のような,本件意匠における帯状平面部の個数,形状,丸棒や円管の表面を必要に応じて適宜削除することはありふれた手法であるとの事実,本件意匠が用いられる商品の性質,用途,一般的な需要者の製品選択のあり方などを総合考慮すると,それが,最も看者の注意を引く部分,すなわち要部であると認めることはできないという以外にない。
(2) 被告らは,本件基本的構成態様及び本件具体的態様は,機能上必然的に決まる形態であるから,意匠法における類否判断をするに当たり考慮するのは相当でない,と主張する。
  仮に,本件基本的構成態様及び本件具体的態様が機能上必然的に決まる形態であるとしても,意匠法における類否判断をするに当たり,これを考慮の対象から外すことに,何らの合理性も認めることはできない。意匠法において,二つの意匠の類否は,それぞれの意匠が全体として与える美感の対比により決定されるべき事柄であり,そうである以上,各意匠を構成する態様は,すべて,それが何に由来するものであろうと,考慮に入れられなければならないことになるのは,当然のことであるからである。
  なお,本件で,原告は,甲号意匠につき意匠法上の権利保護を求めているものではなく,むしろ,被告らが本件意匠につき意匠法による保護を得ることの妥当性を問題にしているのであることに留意すべきである。本件意匠の登録を無効としたからといって,原告が,何らの意匠法上の権利も取得するものではないことは,論ずるまでもないことである。
  被告らの主張は,失当である。
  付言するに,本件基本的構成態様及び本件具体的態様を採用する意匠の中でも,様々なバリエーション(変形物)が考えられる。本件に即していえば,C型管の開口部の向きや,帯状平面部の形状(面積)・個数には,多数のパターン(型・種類)が考えられ,ものによっては,甲号意匠とは類似しないと判断される場合もあり得ると認められる。
3 以上のとおりであるから,両意匠の類否についての審決の認定判断は,共通点である本件基本的構成態様及び本件具体的態様の与える美感を不当に軽視し,相違点に係る帯状平面部の与える美感を不当に重視したものというべきであり,この誤りが,その結論に影響することは,明らかである。
4 結論
 以上のとおりであるから,原告の主張の取消事由には理由がある。

〔研  究〕

1.本件登録意匠(別紙第一)と、甲号意匠(別紙第二)中の特定意匠(J−16)とを対比して見て、その全体の形態は同一性のある構成態様から形成されていることを直感するから、類似と判断されてもやむを得ない。したがって、審判で非類似と判断したことが不思議である。

2.この判決の注目すべき点は、当該意匠を構成する態様において、それが周知のものというだけでは、看者に与える印象が微弱になるということはないと説示していることである。そして、意匠の類否は、その各部の看者に与える印象の強さを総合考慮して全体的に観察して決すべき問題であるという。
 このような見解は、古い裁判例にはなくはなかったが、近年では珍らしい。
 しかし、意匠法は創作を保護する法律と考える立場からすると、意匠の類否を判断するときに、周知公知の意匠を参酌する必要はないとする見解に通ずるものであるから、到底納得することができない。
 意匠は創作である以上、どこに創作性があるのかをまず把握することが、類否判断をする看者に課せられた義務であり、その把握度合によって当該意匠の要部を認定し、両意匠を対比するというのが通常の類否判断の手法であるから、この判決の理由には多くの批判が寄せられることであろう。

[牛木理一]