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登録意匠「包装用容器」無効審決取消請求事件:東京高裁平成14年(行ケ)307号平成14年11月27日判決(13民)〈棄却〉

〔キーワード〕 
意匠法3条2項、公然知られた形態、創作容易性

 

〔事  実〕

 

 原告(加茂守)は、「包装用容器」について、平成12年4月5日出願、平成12年12月22日登録に係る意匠登録第1101864号の意匠権の意匠権者であるところ、被告(赤松化成工業株式会社)から、意匠登録第1101864号の本件登録意匠は意匠法3条2項に該当する創作容易な意匠であるとして登録無効審判を請求された。特許庁はこの請求を認容し、意匠登録の無効審決を出した。
 審決の理由は、請求人(被告)が、本件登録意匠の出願前に公然知られる意匠にしたトマト用容器の意匠(証拠多数)に基いて、容易に意匠の創作をすることができたものとしたことにある。

 

〔判  断〕

 

1 取消事由(創作容易性の判断の誤り)について
(1) 原告は、本件意匠は、全体として見たときシンプルで清潔感を備えた意匠として感知することができるのに対し、公知意匠は、全体として複雑でずんぐりした重々しい感じを看者に与えるとして、両意匠の美感の違いを主張するところ、そのような違いは、蓋体及び容器体の四方の壁面に配された断面波状の斜めのリブ並びに蓋体上面四隅の浅い凹凸の有無という審決の認定する差異点に由来することは明らかである。しかし、当該差異点に係る構成態様に関しては、このようなリブや凹凸を消去して平坦面状、無模様状とすることが、本件出願前に本件意匠と同様の包装用容器においてごく普通に見られるものにすぎないことは審決の認定(審決謄本5頁第1段落)するとおりである。
 そうすると、上記の差異点は、このような常とう的な形態処理の範囲内にとどまる違いでしかないというべきであるから、公知意匠の上記リブや凹凸を消去して平坦面状、無模様状とすることに格別の創作的な困難性を見いだすことはできず、これと同旨をいう審決の判断に誤りはない。
(2) 原告は、「MTパック2」(乙11−3)は、容器本体と蓋体とが連結部で連結されている点及び容器部の四周下端部に複数個の凹凸の突起(リブ)が形成されている点で、本件意匠や公知意匠とは異なる意匠である旨主張する。しかし、審決は、公知意匠における蓋体及び容器体の四方の壁面に配された断面波状の斜めのリブ並びに蓋体上面四隅の浅い凹凸を消去する点、公知意匠にはない形態である、蓋体及び容器体の嵌合縁の下端の一角に三角状のタブを横水平に突出させる点が、いずれも常とう的な形態処理にすぎないことの例示として上記「MTパック2」を引用(審決謄本5頁第1、第2段落)していることが明らかであるところ、上記の各形態処理は、蓋体と本体部とが連結部で連結されているか否か、容器部の四周下端部に複数個の凹凸の突起(リブ)が形成されているか否かとは、何らの意匠上の有機的な関連性も認められない。したがって、本件意匠や公知意匠と上記「MTパック2」の形態との間に原告の主張するような差異があるとしても、審決の上記判断に何ら消長を来すものではないというべきである。
 また、原告は、上記三角状のタブの意匠上の重要性を主張するが、そもそも本件意匠自体を観察した場合に、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様等に照らし、意匠全体の構成の中で当該タブが看者の注意を惹くような要部をなすものといえない上、本件意匠におけるタブと同様のものが本件出願前に知られていた包装用容器において常とう的に用いられていたことは審決の認定(審決謄本5頁第2段落)するとおりであるから、上記主張は理由がない。
(3) その他原告の主張するところは、上記の認定判断に照らして採用することができず、本件意匠について公知意匠に基づく創作容易性を肯定した審決の判断に誤りはない。

〔研  究〕

1.平成11年施行の平成10年改正法は、3条2項の規定を、昭和34年法の同条項が、「広く知られた形態」から「公然知られた形態」に改正したことから、審査官が拒絶し易くなったかというと、その逆になったといえる。
 旧法時には、あえて広知(周知)の事実を立証しなくても、日本人ならば何人も知っている形態を挙げるだけで十分であったのに、改正法では、3条1項1号の要件と、物品の類否を除けば同一レベルの要件となったから、事実上公知の事実を立証しなければ、適用することができなくなったのである。3条2項の規定が、3条1項2号の要件である刊行物公知を含む規定となっていれば問題はないが、そうではなく、刊行物公知を理由に3条2項を適用することは違法となる。
 本件は、そのような事案ではないので、ここでは問題にならないが。

2.この登録無効審判事件も審決取消訴訟事件も、意匠法3条2項の適用について、請求人(被告)も特許庁も裁判所も、同条項の要件を正確に理解して審理しているから、妥当である。けだし、「公然知られた形態」についての事実証拠を多数挙げて主張しているからである。代理人は、きちんと刊行物公知との違いを理解し、事実上公知を立証したのである。
 したがって、特許庁の審査においても審判においても、意匠法3条2項については、このように事実公知が立証された場合にのみ適用してもらいたいのである。そして、刊行物公知による適用は、違法であると心得るべきである。

3.本件登録意匠と引用意匠との全体を対比したとき、前者はほぼ無模様の形態に成るのに対し、後者には斜め波状のリブなどが表われているにしても、前者の全体の形状自体は後者のそれとほぼ同じであることを見れば、当業者がこれから容易に創作することができるものと判断したことは妥当である。創作力の有無とは、このような場合においてこそ考えられるべきことになる。

[牛木理一]