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登録意匠「戸車レール」無効審決取消請求事件: 東京高裁平成10(行ケ)260号平成11年6月17日判決(棄却)〔6民部〕

〔キーワード〕 
意匠の類似、美感、看者の注意、創作容易性、2つの形状の組み合わせによるまとまりのある意匠の創作

 

〔判示・認定事項〕 

  1. 上面両側の鍔部の有無が両意匠の美感に顕著な差異をもたらし、看者の注意を強く引く。
  2. 側面視がほぼ「M」字状を呈する形状及び上面両側に鍔部を設ける形状が、いずれも本件意匠の登録出願前に広く知られていたとしても、この2つの形状を組み合わせてまとまりのある意匠を創作することが直ちに容易であったということはできない。 

 

〔事  実〕

 

 被告(K社)は、意匠に係る物品「戸車用レール」について、昭和60年6月12日に出願した、別紙第一に係る意匠登録第775528号の意匠の意匠権者である。
 原告(Y)は、平成9年10月17日、別紙第二に示した2つの公知意匠を引用し、本件意匠の登録を無効とする審判を請求したが、審判請求は不成立の審決となった。
 原告は、本件意匠が登録要件を具備していない理由として、意匠法3条1項3号と3条2項の2つを挙げていた。

 

〔理  由〕

 

 そこで、原告主張の審決取消事由の当否に付いて検討する。
1 無効事由に1について
 原告は、戸車用レールの上面両側に鍔部を設けることは本件意匠の登録出願前から普通に行われており、特に目新しい態様ではないから、上面両側の鍔部の有無は意匠の類否を左右する要素ではない旨主張する。
 しかしながら、本件意匠と引用意匠を対比すれば、上面両側の鍔部の有無が両意匠の美感に顕著な差異をもたらしていることは明らかであって、この点が看者の注意を強く引くことは審決説示のとおりである。
 この点について、原告は、戸車用レールの意匠において上面両側あるいは片側に鍔部があるか否かのみの点で相違する2つの意匠が本意匠とその類似意匠として登録されている例があることを指摘する。
 しかしながら、甲第27ないし第34号証によれば、これらの意匠は上面両側あるいは片側の鍔部以外の形状が極めて特徴的であることが認められるから、これを証拠として、本件意匠と引用意匠との対比において、上面両側の鍔部の有無は意匠の類否を左右する要素ではないとすることはできない。
 したがって、本件意匠は引用意匠に類似しないとした審決の判断に誤りはない。
2 無効事由に2について
 原告は、戸車用レールの上面両側に鍔部を設けることは本件意匠の登録出願前から普通に行われていたから、本件意匠は当業者が広く知られていた意匠に基づいて容易に創作することができたとはいえないとした審決の判断は誤りである旨主張する。
 しかしながら、戸車用レールの意匠において、側面視がほぼ「M」字状を呈する形状及び上面両側に鍔部を設ける形状がいずれも本件意匠の登録出願前に広く知られていたとしても、この2つの形状を組み合わせてまとまりのある意匠を創作することが直ちに容易であったということはできない。特に、甲第21号証(意匠公報)の「使用状態を示す参考図」によれば、本件意匠の上面両側に設けられている鍔部は、床から突き出し床面がフラットにならない形状のものと認められるところ、このような鍔部の形状が本件意匠の登録出願前に広く知られていたことを認めるに足りる証拠は存在しない。
 したがって、本件意匠は容易に創作をすることができたとすることはできないとした審決の判断にも誤りはない。

〔研  究〕

 原告が提出した証拠の中に、上面左右両側に鍔部を突設した形状の公知意匠があったとしても、それは判決に添付されていないから不明であるが、少なくともその鍔部の形状自体は本件登録意匠に見られる形状のものとは違うようである。しかも、本体のM形状部分と組み合わせた全体の形態は、前者部分に公知の形態(別紙第二)が存したとしても、一つのまとまりのある意匠の創作となっていると認められた。
 したがって、類似のみならず、創作容易性も認められないと判断されたが、意匠の類否判断を全体観察で行い、そこから感受する美感の異同をもって類否を決めるとする基本的原則からすると、妥当であろう。この場合、意匠の類否だけが問題とされるべきであって、観点の異質の創作容易性の問題を考えることは論外である。

[牛木理一]

 別紙第一
 別紙第二