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出願意匠「包装用袋」拒絶審決取消請求事件:東京高裁平成13(行ケ)282号平成13年11月8日6民判 決(棄却)

〔キーワード〕 
公知・周知の意匠、意匠の特徴、類否判断の主体(取引者・需要者)、類否判断の手法

〔事  実〕

 T社は、「包装用袋」について意匠登録の出願をしたが、周知意匠に類似するとして拒絶査定を受け、さらに請求不成立の審決を受けたので、審決取消の訴訟を請求した。しかし、東京高裁は請求棄却の判決をした。

 

〔判  断〕

 

1 共通点の認定及び差異点の評価の誤りについて
(1) 原告は、審決が本願意匠引用意匠の共通点(5)として、「上 辺中央部の持ち手は、その各左右の付け根を、正背面の上辺寄りのステッチ部際として、上方に向かって突設する点」を挙げたのに対し、本願意匠においては、上辺中央部の持ち手が上辺を越えないように縫合されているとして、審決の上記認定が誤っていると主張する。しかし、上記共通点(5)の認定は、 上辺側の持ち手の付け根の 取付け位置及び取付け方向に関するものであって、持ち手の上端が上辺を越えているか否かにつ いて認定したものでない。このことは、共通点(5)の認定の記載自体と、審決が、原告主張のこの点を、 差異点(ロ)として認定していることから明らかである。したがって、審決の共通点(5)の認定に誤りはない。
(2) 原告は、審決が本願意匠と引用意匠の共通点(6)として、「底 辺中央部の持ち手は、その左右の付け根を、折り返し片の上端際とし、下方に向けて垂下し、先端が袋本体部下辺より僅かに下方側に突出する点」を挙げたのに対し、引用意匠では底辺側の持ち手は、先端が袋本体部下辺よりも大きく突出しているから、「僅かに突出する」とするのは誤りであると主張する。
 しかし、別紙第一、第二によれば、両意匠の底辺側の持ち手は、手の差込口の広さに違いはあるもの、袋全体の縦横の長さ、比率や面積と比較して全体的に観察するならば、その下辺からの突出の程度には、ほとんど違いがなく、いずれも突出の程度は少ないと表現することが可能である。審決が、この点につき、「僅かに突出する」点で共通するとして、類否判断の際に差異点として考慮しなかったことに誤りがあるということはできない。
(3) 原告は、審決が、本願意匠と引用意匠の差異点(ロ)として、「上辺の各持ち手の取り付け態様につき、本願意匠は、その上端が袋本体の上辺より僅か下方に納まる態様で取り付けられているのに対して、引用意匠は、上端が袋本体の上辺より僅かに突出する点」を挙げたのに対し、本願意匠については、「僅か下方」という特定は不要であり、むしろ「袋本体の上辺から突出せずに納まる態様」と特定するのが適切であり、引用意匠については、「僅かに突出」しているのではなく「明確に十分突出」していると認定すべきである旨主張する。
 しかし、別紙第一によれば、本願意匠における上辺の各持ち手の上端は、袋本体の上辺に近接した下方にあることは明らかであるから、審決が、これを「僅か下方」と特定したことは、何ら不適切とはいえない。
 また、別紙第二によれば、袋を全体的に観察するならば、引用意匠の上辺の各持ち手が、袋本体の上辺から突出する部分は小さい、と表現することが可能であるから、審決が、これを「僅かに突出」していると認定したことが誤りであるということはできない。
2 類否の判断の誤りについて
(1) 原告は、本願意匠の意匠的価値は、上辺側の持ち手を上辺から突出しない態様にして、外形だけを見ると下辺側だけが突出して片持ち手のように見えるようにしつつ、平面的に見れば上辺側の持ち手が明確に視認されて両持ち手となるようにしたところにこそ、存する、本願意匠は、上辺側の持ち手を上辺から全く突出させないことにより、持ちやすさという機能的な効果を犠牲にし、あえて意匠的美感を重視したものである、として、類否判断に当たっては、このような上辺側の持ち手の取付け態様を評価するべきであるのに、審決は、この点を全く評価せず、そのため類否判断を誤ったと主張する。
 原告は、上記主張の根拠となるべき事由として、本願意匠の意匠登録出願時における公知意匠中には、上辺から全く突出していない取付け態様の持ち手を採用したものはないことを挙げ、このことを裏付けるものとして、上辺から突出した取付け態様の持ち手を採用した公知意匠を提出している。
 しかしながら、乙第2ないし第7号証によれば、本願意匠の登録出願前に公開された公知資料中には、本願意匠に係る物品である、コンバインに取り付けられ、穀粒の包装及び運搬に供される、片側を開口した包装用袋について、開口部をコンバインのダクトに挿入する際に、開口部の両側に取り付けられた持ち手が、コンバインのダクトの口端に触れたり、引っ掛かったりして、籾が袋外に散乱し、生籾の収納効率を低下させるという課題を克服する目的等から、開口部(本願意匠の上辺側に相当する。)の持ち手を袋本体の上辺の縁から露出しないように、外周縁よりも内側に位置させたことを特徴とする穀粒の包装用袋が複数開示されていること(実開昭59−49637号公報、実開昭54−81808号公報、実開昭54−7913号公報、実登3012124号公報(平成7年6月13日発行)、特開平7−329989号公報、実登3015412公報(平成7年9月5日発行))、このうち乙第5ないし第7号証に開示されたものは、原告が本願意匠の意匠的価値の存する特徴であると主張する「外形だけを見ると下辺側だけが突出して片持ち手のようにみえるようにしつつ、平面的に見れば上辺側の持ち手が明確に視認されて両持ち手とした」特徴を備えているものであることが認められる。
 上記認定によれば、本願意匠の登録出願前において、上辺側の持ち手を袋本体の上辺よりも内方に位置させた包装用袋は、周知であったということができる。
 したがって、本願意匠の上辺側の持ち手の取付け態様が公知ないし周知でなかったことを前提とする原告の主張は、失当である。
 原告は、本願意匠の類否判断の主体である取引者・需要者は、包装用袋の製造者又は日常的にこの種の包装用袋を取り扱う農業従事者など専門知識を有する者であることを、類否判断に当たっては考慮すべきであると主張する。
 本願意匠の類否判断の主体である取引者・需要者が、原告主張のような専門的知識を有する者であることは、当事者間に争いがない。しかし、これらの取引者・需要者は、当然に上記上辺側の持ち手の取付け態様に関する周知事実を知っているものということができるから、類否判断の主体が原告主張の者であることを前提としても、類否判断に当たっては上記周知事実が考慮されるべきであることに変わりはない。
(2) 上記の上辺側の持ち手の取付け態様に関する周知事実を前提とするならば、本願意匠と引用意匠の類否判断において、本願意匠の上辺側の持ち手の取付け態様を、他の部分に比べ、特に重視するべきであるとする根拠はないということができる。そして、前記のとおり、引用意匠において、上辺側の持ち手の上辺からの突出の程度はわずかであり、本願意匠の上辺側の持ち手の取付け態様との間の差異は微弱なものであることからすれば、この差異は、両意匠の大部分を占め、その基本的な構成を形成する共通点(1)ないし(6)に比して、両意匠の類否の判断に影響するところは、はるかに小さく、これを左右するものではないというべきである。
(3) 原告は、上記周知事実に基づく判断は、進歩性の判断手法としてはともかく、類否判断の手法としては誤っている旨主張する。しかし、本願意匠の特徴と主張される部分がありふれたものであると評価されるか否かが類否判断に影響を及ぼすことは明らかであるから、上記周知事実に基づく判断が類否判断の手法として誤りであるということはできない。原告の主張を採用することはできない。
(4) 以上述べたところによれば、両意匠が類似するとした審決の判断に誤りがあるとは認められない。
3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき理由は見当たらない。

〔研  究〕

 裁判所は、本願意匠の類否判断の主体である当業界の取引者,需要者は、当該物品については専門的知識を有していることを認定し、乙号証として挙げられた多くの刊行物公知(周知)の意匠から、これを周知事実と認定し、本願意匠はこれらの刊行物公知(周知)の意匠と類似すると判断したが、周知の意匠と単なる公知の意匠との違いを原告から指摘されている。しかし、周知意匠とて広く公知意匠に含まれる色の濃いものにすぎないから、原告の指摘は失当である。
 本件のごとき事案は、法律規定の適用解釈に誤りが認められないのであるから、事実認定の違いを争うにしては小さすぎる問題である。

[牛木理一]