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出願意匠「おろし器」拒絶審決取消請求」事件: 東京高裁平成12(行ケ)331号平成12年11月28日6民判 決(棄却)〔判時1748号159頁

〔キーワード〕 

新規性喪失の例外、意匠登録を受ける者の行為に起因(意4条2項)、国際意匠公報、刊行物発表(特30条1項)

〔事  実〕

 原告M社(スイス国)は、「おろし器」に関する第一表示の意匠(本願意匠という。)について、平成5年(1993)11月5日にわが国特許庁に出願したが、拒絶査定を受けたので不服審判を請求した。しかし、審判請求は不成立の審決を受けたので、審決取消訴訟を請求した。
 審査及び審判で引用された意匠とは、ヘーグ協定に基いてWIPOが1993(平成5年)6月30日に発行した“International Designs Bulletin”No.4/1993(以下、外国公報という。)に掲載された寄託番号DM/025792の意匠(第二表示の意匠、引用意匠)であり、本願意匠はその出願前に頒布された外国の意匠公報に記載された意匠(原告創作の意匠)と類似するから、意匠法3条1項3号に該当すると 判断し、本願意匠の外国公報への掲載は意匠法4条2項による救済原因には当たらないと認定した。

 

〔判  断〕

 

1. 当事者間に争いのない事実及び〈証拠〉によれば、原告は、工業的意匠の国際寄託に関するヘーグ協定に基づき、引用意匠を、1993年4月7日に、寄託番号DM/025792号として国際事務局に寄託したこと、同事務局は、寄託にかかる引用意匠を、同年6月30日に発行 した本件外国公報に掲載したこと、原告は、同年11月5日に国内で 本願意匠の意匠登録出願をしたこと、本願意匠は、引用意匠と同一の意匠であることが認められる。
 被告は、本願意匠と引用意匠が同一ではなく、類似するにとどまる旨主張する。しかし、本願意匠の意匠登録願に添付された本願意匠の図面と、本件外国公報に掲載された引用意匠の写真版1.1ないし1.4及び製図法によって作成された図1.5ないし1.7とを対比するならば、本願意匠と引用意匠とが同一の意匠であることは明らかであり、被告の主張は失当である。したがって、審決が本願意匠が引用意匠に類似するとして意匠法3条1項3号に該当すると した判断は誤りである。しかし、審決は、予備的に、両意匠が同一であると仮定したうえで、意匠法4条2項の適用の有無を検討しているものと認められ、同条項の適用がなければ、結局、本願意匠は、意匠登録を受けられないことになるから、上記判断の誤りは、直ちに審決の結論に影響を及ぼすものではない。
2. そこで、本願意匠が、引用意匠の本件外国公報への掲載により、意匠法4条2項の「意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して第3条第1項・・・2号に該当するに至った意匠」に当たるとして、新規性を喪失しないと認められるか否かについて検討する。
 確かに、内外国特許公報等への掲載は発明者等の出願行為等に基づくものであるから、このような場合も意匠法4条2項の「意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因する」場合に当たるとの解釈も、文言上は考え得るところである。
 しかし、意匠法4条2項は、新規性の判断を、出願時を基準に、厳格に運用すると、出願人に酷な場合が生じる場合があるため、これを救済するために設けられた例外規定であるから、その適用範囲は立法趣旨に従って限定的に解釈されるべきである。〈証拠〉によれば、同条項が「意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因する」場合を新規性喪失の例外事由としたのは、意匠を考案した者は、常に意匠登録の出願をするわけではなく、実際には、ひとまず、販売、展示、見本の頒布等により売行きを打診してみて、一般の需要の有無を確かめた後に、需要があるものについて意匠登録を出願するのが通常であるのに、このような販売、展示、見本の頒布等の行為によって新規性を喪失すると取り扱うことは、意匠の実情に合わず、意匠の考案者に酷であるので、このような場合に、新規性を失わないものとするためであると認められる。
 これに対し、内外国において意匠の登録出願をした結果、意匠公報等に掲載されたということは、その出願の時点で既に出願の準備が完了していたということであるから、このような場合に新規性を失うものと取り扱っても、意匠の考案者に酷とはいえず、意匠法4 条2項により、これを救済する実質的な必要性は認められない。さ らに、外国における出願の場合には、パリ条約4条A(1)、B、C(1)、(2)が適用され、出願の日から6か月間は、当該意匠の公表に基づく不利益扱いが禁止されているのであるから、この期間を徒過した者に、さらに意匠法4条2項を適用して、その後も一定期間、新規性を喪失しないとして、同様の保護を与えることは、パリ条約の趣旨に反し、権利者に過分の利益を与えることになり、ひいては、上記期間が徒過したと信じて行動した第三者に不測の損害をもたらすことがありうるので、許されないというべきである。原告は、意匠法4 条2項の適用を受けた意匠登録出願にはパリ条約4条Bに規定する効 果がないので、過重な保護を与えることにはならない旨主張する。しかし、原告の解釈は、上記のとおり、当該意匠の公表に基づく不利益扱いの禁止に関する限り、実質的にパリ条約4条Bの定める期間を延長するのと同様の効果を生じさせるものであるから、その限度で保護が過重になることは、明らかである。
 このようにみてくると、内外国特許公報等への掲載は、意匠法4 条2項の「意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因する」場 合には当たらないと解するのが相当であり、原告の主張は失当である。
 なお、新規性喪失事由の例外を定めた特許法30条についても、同様の理由から、国内外の特許公報への掲載は、同条の「刊行物に発表」することに含まれないと解釈されている(最高裁第二小法廷平成元年11月10日判決・民集43巻10号1116頁参照)。意匠法の解釈についても、特許法と同様に解釈すべきことは前記説示したところから明らかであり、規定の文言の違いをとらえて、意匠法においては異なった解釈をするべきであるとの原告の主張は採用することができない。
3. 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき理由は見当たらない。

〔研  究〕

 原告は、パリ条約に基づき、ヘーグ協定による国際寄託をした日(登録日も同じ。)の1993年4月7日から6か月以内(1993年10月7日まで)に優先権を主張してわが国に意匠登録出願をすることができたのに、それから遅れること約1か月後の1993年11月5日に漸く出 願した時には、すでに1993年6月30日に前記国際寄託を掲載した国 際意匠公報がWIPOから発行されていたから、たとえ自分が創作した意匠と同一の意匠であったとしても、意匠法3条1項2号の規定に該 当する公知意匠であると認定されても、全くおかしくなかった。これは、出願人が自ら招いた結果である。
 意匠法4条2項の適用を受けるためには、「意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して」刊行物(例えばカタログ類、広告類)に掲載したことが必要であり、自ら主体的に行為したことが必要であるが、同様に特許法30条1項にいう「刊行物に発表」すること もまた、特許を受ける権利を有する者の行為に起因した主体性のある行為をいうと解することについては、前記最高裁平成1年11月10 日判決がある(判時1337号117頁)。新規性喪失の救済規定の解釈 について、特許法と意匠法と違うことはあり得ず、高裁の考え方は妥当である。

[牛木理一]