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出願意匠「植木鉢」拒絶審決取消請求事件: 東京高裁平成11(行ケ)237号平成12年4月18日6民判決(棄却)

〔キーワード〕 
意匠の類似、基本的構成態様、微差

〔事  実〕

 原告R社は、「植木鉢」に係る意匠を平成8年8月30日に出願したが、拒絶査定を受けたので、不服審判を請求した。しかし、不成立の審決を受けたので、審決取消訴訟を提起した。
 審決の理由は、本願意匠は平成1年11月29日に特許庁意匠課が受 け入れたYU社発行の商品カタログの193頁右上段掲載の意匠(引用意匠)と類似するものというのであった。

 

〔判  断〕

 

1 取消事由1について(本願意匠の認定の誤り)
(1) 原告は、取消事由1において、本願意匠の基本的構成態様を、周側面の下部のみを12角形状の多面体状に形成し、中央付近及び上部は曲面で形成しており、このため容体下部においてのみ多面体の各面の稜線が表れている点に求めるべきであると主張し、審決が、この点を引用意匠との基本的構成態様の共通点として認定しなかったのは誤りである旨主張する。
 しかし、審決は、(イ)の容体本体の外周面についての差異点について、「本願意匠は、稜線を、容体の下から略3/5まで表したものであり、両意匠は、容体の略中央部においては、共に稜線が表れているもので、さらに、容体上方の稜線の有無による差異は、それがフランジ状部の下方に位置していることからさほど看者の注意を惹くものでなく、両意匠の類否判断の要素として高く評価することができない。」と認定している。したがって、審決は、原告主張の本願意匠における上記の点をも念頭に置いて、審決の理由の要点の(2)において示された(1)の基本的構成態様を、本願意匠につ いても認定したものと理解すべきである。そして、(イ)の容体本体の外周面についての差異点について審決が認定した上記説示は、優に支持することができ、この点をも念頭に置いてした(1)における本願意匠の基本的構成態様の認定、すなわち、「全体が、上部にフランジ状の開口部を有する有底の略逆円錐台筒状の容体であって、そのフランジ状開口部を円形状とし、その周側面を多角形の多面体状に形成して、その各面の稜線を縦に等間隔に並列に表した基本的構成態様が共通する」との認定に誤りがあるものとは認められない。
(2) 原告は、本件出願時提出図面(別紙第三。A−A断面図、B−B断面図及びC−C断面図)によって、本願意匠の稜線が次第に薄くなって自然と消滅する態様が、明確に表現されていると主張する。しかし、本願意匠の稜線部分は、12角形状の多面体状として構成されているものと認められるところ、植木鉢は茶色や白などの単色のものが多いこと(当裁判所に顕著である。)も合わせてみると、原告主張の上記各図面を斟酌してみても、全体として本願意匠を観察した場合、審決がした本願意匠についての上記基本的構成態様の認定を誤りとすることはできず、原告主張の上記の点は、審決がしたように、引用意匠との間の差異点(イ)として、本願意匠と引用意匠との間の類否判断において斟酌すれば足りるものというべきである。
(3) したがって、審決には本願意匠の基本的構成態様の認定に誤りがあるとする取消事由1は理由がない。
2 取消事由2について(類否判断の手法における不一致)
 原告は、審決が基本的構成態様の共通点(1)として認定した点及び具体的態様の共通点(2)、すなわち、容体につき、上方のフランジ状開口部の外周径と高さの比を略3:2とし、容体本体につき、その径が上から下にわずかずつ徐々に縮径し、下方近くで弧面状に窄ませて水平な底面へ連続させたものである点は、本願意匠及び引用意匠の物品においてごく一般的なありふれた形態であって、独創性を有する形態ではなく、その機能上必須の構成要素として備えている形態であるから、本願意匠の(1)及び(2)における形態は、意匠の類否判断の支配的要素のすべてとはなり得ないと主張する。
 しかし、本願意匠に係る物品である植木鉢において、上記(1)及び(2)の形態は比較的多くみられるものの一つであるといえても、植木鉢の必須の形態が、上記(1)及び(2)の点にあるものと認めるべき証拠はなく、原告の上記主張は理由がない。したがって、この主張を前提とする取消事由2も理由がない。
3 取消事由3について(具体的態様の共通点(3)についての判断の誤り)
 原告は、審決が、具体的態様の共通点(3)として認定した点、すなわち、フランジ状部につき、容体本体の上方周縁をラッパ状に拡開し、その上縁を断面略逆「U」の字状に外側に屈曲し、外周縁に細幅帯状を形成した点は、本願意匠の物品(植木鉢)において、従来から一般的でありふれた形態であり、特に独創性を有する形態ではない、と主張するが、植木鉢の意匠において、フランジ状部の形態が上記のようなものでないものも、甲第3、第8号証、第13ないし第15号証、第18号証などの意匠公報にみられるように、多く存在することが明らかである。本願意匠及び引用意匠は、フランジ状部を審決が共通点(3)として認定した形態のものを採用していることにおいて、また、この部分が植木鉢の上部における形態であることから、看者の目を惹きつけやすい部分であると認められることにおいて、両意匠の共通感をより際だたせるものであるということができる。
 したがって、審決が、「(3)のフランジ状部につき、容体本体の上方周縁をラッパ状に拡開し、その上縁を断面略逆「U」の字状に外側に屈曲し、外周縁に細幅帯状を形成した点は、基本的構成態様の共通点と相俟って、両意匠の共通感をより一層際だたせるものとなっており、その類否判断に及ぼす影響は相当なものがあるというべきである。」と判断した点に誤りは認められず、取消事由3は理由がない。
4 取消事由4について(具体的態様の差異点(イ)についての判断の誤り)
(1) 取消事由4は、要するに、審決が認定した本願意匠と引用意匠の差異点(イ)、すなわち、容体本体の外周面について、本願意匠は、下方から略3/5を12角形状の多面体状とし、その面構成を上方に向け次第に弧面状に形成して、高さの略3/5の部位まで多面体状の稜線が表れているのに対して、引用意匠は、容体の外周全面を16角形状の多面体とし、下から上まで全域に多面体状の稜線が表れている差異点をもって、審決が、類否判断の要素として高く評価することができないとしたのは誤りである、とするものである。
 原告は、その主張の前提として、差異点(イ)は、(イ−1)と(イ−2)の二つの側面から分析して検討すべきであると主張する。
 しかし、差異点(イ)について、審決が、「外周面を12角形の多面体状としたか、16角形の多面体状としたかは、基本的構成態様の共通点に包摂されるところのわずかな差異といわざるを得ない。」として、本願意匠と引用意匠との共通点を踏まえ、差異点(イ)が、看者の目に惹かれる印象的な部分とはならないとした上で、「両意匠は、共に面数の多い極めて円に近い多面体状であり、原告がいうように略正12角形の角辺が直線から円弧状に連続的に変化するとしてもその態様がさほど目立つものでなく、また、本願意匠は、稜線を、容体の下から略3/5まで表したものであり、両意匠は、容体の略中央部においては、共に稜線が表れているもので、さらに、容体上方の稜線の有無による差異は、それがフランジ状部の下方に位置していることから、さほど看者の注意を惹くものでなく、両意匠の類否判断の要素として高く評価することができない。」と判断した点については、原告が取消事由4において述べるところを斟酌してみても、誤りであると認めることはできない。
(2) 原告が、本願意匠と引用意匠との間について強調したいのは、本願意匠が引用意匠に比して丸みを帯びているという差異点ではないかと思われるが、審決も再三説示しているように、引用意匠は、容体の外周全面を、本願意匠よりも多い16角形状の多面体としたものであって、上部のフランジ状の開口部が円形の断面を有するものであることも影響して、看者は、外周断面についても、ほとんど円形であるとの印象を持つものということができる。
(3) また、原告は、外周面が、高さ3/5の部位に至るに従い稜線が自然に消滅している点をもって、本願意匠の特徴的形態であると主張する。しかし、乙第2号証の2(平成1年11月29日に特許庁意 匠課が受け入れた横浜植木株式会社(外1名)発行のカタログ「CATALOG’89、ウエキ商品総合カタログ」の192頁右方下か ら二段目に記載されている長鉢の意匠にもみられるように、外周面の下方において多面体状とするのに対し、上方においては円形状に変化させる形態のものが一般に存していたことが認められるのであり、本願意匠の外周面の形態も、この形態の一つの応用であると認められる。したがって、原告が本願意匠の特徴的形態であると主張する部分をもって、引用意匠のとの対比において、特に印象的に観察される部分であると認めることはできない。
(4) したがって、取消事由4も理由がない。
5 取消事由5について(具体的態様の差異点(ロ)及び(ハ)についての判断の誤り)
 原告は、差異点(ロ)及び(ハ)についてした審決の判断は誤りであると主張する。
 しかし、例えば、乙第2号証の1ないし6(平成1年11月29日に 特許庁意匠課が受け入れた横浜植木株式会社(外1名)発行のカタログ「CATALOG’89、ウエキ商品総合カタログ」)に掲載されている植木鉢のカタログの写真に表れるように、容体底部の形態が、一般消費者に対する販売に際して、第一印象として観察されるものでないことは明らかである。
 そして、容体底部にメッシュ状の円形状隆起部やその周囲に板状リブを設ける点は従来からなされている一般的な形態であり、円形状隆起部の形態の差異はそれ自体で類否判断に与える影響が微差である点、及び、水排出孔の数の差異はそれ自体では微差である点については、原告も争っていないから、(ロ)及び(ハ)の差異点をもって、微差であるとし、あるいは本願意匠と引用意匠との類否判断に及ぼす影響は微弱なものであるとした審決の判断に誤りがあるということはできない。
 取消事由5も理由がない。

〔研  究〕

 特許庁が意匠審査で類否判断するために引用する公知の証拠文献の半数以上は、外部から収集した私企業発行の商品カタログである。その意味で、わが国特許庁の意匠資料はそれだけでもドキュメンテーションセンターが設立することができるだけの質量を所有しているといえる。
 物品別に分類されているそのような収集資料は、カタログ掲載の写真をさらに写真化しているものであるから、意匠形態の構成態様が鮮明かつ正確に表現されていないものも多く存在する。したがって、審査資料として出願意匠に対し引用されたときに、それが果して、図面によって正確かつ鮮明な線で表現されている出願意匠と類似しているか否かを、確実に判断するための引用物といえるか否かが争われることがある。
 本件の場合もそれに近い問題点を含んでいた。即ち、引用意匠に係る植木鉢の写真では、白色体に表現されている稜線の本数が何本かは必ずしも明確には視認できないのに対し、本願意匠にあっては12本と視認できるし、底面部形態の構成態様について、引用意匠は全く視認できず不明であるのに対し、本願意匠にあっては全部明確に視認することができる。
 したがって、本件に対する審決も判決も、引用意匠の形態が有する構成態様については、専ら植木鉢という物品の機能を加味したイメージを作っているにすぎないといえるのではないか。

[牛木理一]