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出願意匠「プーリー」拒絶審決取消請求事件: 東京高裁平成10(行ケ)341号平成11年9月29日判決(棄却)〔13民部〕

〔キーワード〕 
意匠の類似、面積比、引用意匠のありふれた部分、引用意匠以外の公知意匠

 

〔判示・認定事項〕 

  1. 登録出願に係る意匠と引用された公知意匠との共通点が、ありふれた意匠に係るもであるからといって、直ちに、諸共通点に係る態様を、その共通点部分の全体に対する面積比よりも小さく評価すべきことにならないことは、登録出願に係る意匠のうちの残余の差異点に係る部分が、引用された公知意匠とは共通しないものの、他の公知意匠との関係において、諸共通点と同程度以上にありふれたものである場合を想定すれば明白である。
  2. プーリの用途及び使用態様に鑑みれば、需要者は、外周壁に関しては、直接ベルト等を掛ける外周部分に注目する度合が高いと考えるのが自然であり、これと比較すれば、その内周部分が目立たない部位であることは明らかであるし、また、本願意匠の内側凹溝はごく浅く表面的に施された格別の特徴のない態様であるから、これと引用意匠の軸方向と直交する数条の凹溝との差異が、視覚的に両意匠の類否に与える影響をさほど大きいものと評価することはできない。
  3. 他の複数の意匠公報には、短筒状部の径の外周部の径に対する径比率が概ね本願意匠と同程度のプーリが掲載され、本願意匠の該比率はきわめてありふれたものと認められるから、両意匠間の短筒状部の径と外周部の径に対する径比率の差異は、両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものと評価することができない。

 

〔事  実〕

 

 原告(Y社,M社)らは、別紙第一表示の「プーリー」について、平成3年10月23日に出願したが、別紙第二表示の意匠登録第786474 号意匠公報が引用されて平成7年6月30日に拒絶査定を受けたので、同年8月9日に査定不服の審判(審判平7−17224号)を請求した。
しかし、平成10年9月7日に不成立の審決を受けたので出訴した。

 

〔判  断〕

 

1 取消事由1(共通点の認定判断の誤り)について(1) 原告らは、引用意匠の平坦面が、外周から内周に向かって外側に傾斜しており、外周面に対し垂直ではないと主張するところ、引用意匠に係る意匠登録願書(甲第14号証)添付の図面中、「A-A断面図」との表示のある図によれば、引用意匠において、外周面の斜め外側に向けて形成された一方の側端部が折り返して内方(プーリの内周方向)に向かって、外周面に対し垂直な面(平坦面)を一旦形成した後、短筒状部に移行するため弧状に屈曲する手前で、該平坦面が外側に向けて極めて僅かの膨らみを形成した後、屈曲していることが窺われないでもない。しかし、該膨らみは、原告ら主張のように平坦面自体が外周から内周に向かって外側に傾斜しているものとは認められないのみならず、前示図「A-A断面図」を注視し、各部を子細に検討した場合に、初めてその存在が窺われる程度のものであって、観察者において、前示平坦面が外周面に対し垂直で、かつ、平坦な面を維持したまま、短筒状部に至るべく弧状に屈曲しているものと認識することを妨げる程度のものではないというべきであるから、本願意匠と引用意匠との類否判断に当たり、該膨らみを引用意匠の形状の認定から省いても、類否判断に影響を及ぼすものとは考えられず、したがって、審決が、本願意匠と引用意匠との共通点(1)として、「一定幅の外周面を有し、一方の外周側端より内方に向けて平坦面(垂直)を形成した後、中心にベアリングおよび軸部を受ける短筒状部を内設した薄肉で一体的に形成される環状立体とするもの」と認定したことに原告ら主張の誤りがあるとはいえない。
(2) 原告らは、本願意匠と引用意匠の共通点(1)、(2)が、同(3) と相俟って、両意匠の強い共通感を醸成し、両意匠の類否を左右しているとの審決の判断を誤りであると主張し、その根拠として、審決が認定した本願意匠と引用意匠との共通点(1)〜(3)に係る形状が、この種のプーリでは非常にありふれたものであるところ、意匠の類否判断に際して、ありふれた意匠に係る共通点の評価に当たっては、全体に占める共通部分の面積比にこだわるべきでなく、本願意匠の新規部分を含む差異点を、その面積比よりも比較的大きく評価するべきであると主張する。しかしながら、本願に係る意匠登録願書(甲第2号証)添付の各図面と、引用意匠に係る意匠登録願書(甲第14号証)添付の各図面とに基づき、前示共通点(1)並びに当事者間に争いのない同(2)及び同(3)を対比すると、審決の判断のとおり、「(1)の共通点は、環状立体の全体構成にわたるところを形成して意匠全体の基調を形成し、(2)V溝の共通点は、外周面という視覚的に目立つところの殆どを占めており、これら(1)及 び(2)の共通点は、(3)の共通点とも相俟って、両意匠の強い共通感を醸成している」(審決書4頁4〜10行)ことが認められ、そうであれば、そのことが両意匠の類否判断に大きく影響することは極めて明白なことであるから、「両意匠の類否を左右している」(同4頁10行)との審決の判断にも誤りはない。 ところで、一般に、登録出願に係る意匠の、引用された公知意匠との差異点に係る部分が新規性を有する態様であるときに、該差異点に係る態様を、その部分の全体に対する面積比よりも大きく評価すべき場合があることは、原告ら主張のとおりであり、かかる場合には、その反射的な影響として、相対的結果的に、共通点に係る態様の評価が、共通点の部分の全体に対する面積比よりも小さくなるとしても、登録出願に係る意匠と引用された公知意匠との共通点が、ありふれた意匠に係るものであるからといって、直ちに、該共通点に係る態様を、その共通点の部分の全体に対する面積比よりも小さく評価すべきことにならないことは、登録出願に係る意匠のうちの残余の差異点に係る部分が、引用された公知意匠とは共通しないものの、他の公知意匠との関係において、該共通点と同程度以上にありふれたものである場合を想定すれば明白である。したがって、原告らが、本願意匠と引用意匠の共通点についての審決の前示判断が誤りであるとする主張の根拠として、意匠の類否判断に際し、ありふれた意匠に係る共通点の評価に当たっては、全体に占める共通部分の面積比にこだわるべきでないことをいう部分はそれ自体失当であり、また、本願意匠の新規部分を含む差異点を、その面積比よりも比較的大きく評価するべきであるとする部分は、各差異点についての審決の判断に対し、主張の新規部分の故に該差異点をその面積比以上に大きく評価すべき旨の主張としてなすべきであって、いずれにせよ、審決の前示判断を左右するものとなり得ず、その判断に原告ら主張の誤りはない。
2 取消事由2(共通点1.〜4.についての判断の誤り)について
(1)ア 「内設された前記短筒状部について、本願の意匠は、緩い湾曲面を経て形成されているのに対し、引用の意匠は、当該部を段状に形成している点」(審決書3頁10〜13行)は、審 決が差異点1.として認定するところであるが、原告らは、引用意匠につき、さらに、平坦面側段部が開口部側に向かって若干テーパ状に拡がっており、平坦面は、外周から内周に向かって外側に傾斜しているとしたうえで、上面側から観察した場合、本願意匠は、平坦で、かつ、全体として非常に滑らかな形状であるとの印象を受けるのに対し、引用意匠は、立体的で、全体として曲面の多い複雑な形状であるとの印象を受け、さらに、本願意匠は、平坦面から短筒状部に移行する弧状部分を除き、面と面との交差部分が丸みを帯びないように形成されているので、全体が丸みを帯びた引用意匠の場合と比較して、上記平坦面から短筒状部に移行する弧状部分が、観察者の注意を惹くとも主張する。しかしながら、原告らが、引用意匠において平坦面が外周から内周に向かって外側に傾斜していると主張する点については、平坦面が、短筒状部に移行するため弧状に屈曲する手前で、外側に向けて極めて僅かの膨らみを形成した後、屈曲していることが窺われないでもないが、該膨らみを引用意匠の形状の認定から省いても類否判断に影響を及ぼすものとは考えられない程度のものであることは、前示1の(1)のとおりである。また、引用意匠に係る意匠登録願書(甲第14号証)添付の各図面、特に「A-A断面図」との表示のある図によっても、その短筒状部の段状部分より平坦面側が、平坦面への移行部において弧状に屈曲した緩やかな移行曲線を描いていること(本願に係る意匠登録願書(甲第2号証)添付の各図面によれば、その点は本願意匠においても共通している。)を別にすれば、短筒状部の平坦面側が開口部側(すなわち、平坦面側)に向かってテーパ状に拡がっていると事実を認めることはできない。そして、差異点1.のとおり、引用意匠が短筒状部を段状に形成しているとしても、前示意匠登録願書(甲第14号証)添付の各図面、特に「A-A断面図」との表示のある図によれば 、その段差は肉厚程度で、かつ、滑らかに移行形成されていて、上面側から見たときに、さほど目を惹くようなものではないのに対し、上面側から見た場合には、本願意匠と引用意匠とが、共通点(3)のとおり、外周両側端部をV溝山部よりやや高く、斜め外周に向け形成するも、内方に向けて平坦面を形成するため折り返して、やや肉厚状とする点において、また、共通点(1)のとおり、外周側端より内方に向けて平坦面を形成した後、短筒状部を内設する点において共通し、さらに、前示のとおり、平坦面と短筒状部との移行部において弧状に屈曲した緩やかな移行曲線を描いている点で共通していることが観察されるから、これらの共通点により、両意匠が共通するとの強い印象を受けるものと認められ、差異点1.に係る前示のような差異が、かかる共通するとの強い印象を左右するものとは認め得ない。 したがって、上面側から観察した場合、本願意匠と引用意匠とが明瞭に異なったものであるとの印象を受けるかのような原告らの主張は誤りといわざるを得ない。なお、原告らは、本願意匠において、平坦面から短筒状部に移行する弧状部分が、引用意匠の場合と比較して、観察者の注意を惹くとも主張するが、該部分は、前示のとおり、本願意匠においても、引用意匠においても、ともに、弧状に屈曲した緩やかな移行曲線を描いている点で共通しており、本願意匠において、特に観察者の注意を惹く要素が強いとは認め得ない。イ 本願に係る意匠登録願書(甲第2号証)添付の各図面及び 引用意匠に係る意匠登録願書(甲第14号証)添付の各図面によれば、短筒状部の長さ幅が、本願意匠においては、外周面の幅の略3分の2程度であるのに対し、引用意匠においては、外周面の幅とほぼ等しいことが認められるところ、原告らは、この差異により、下面側から観察した場合、本願意匠は、筒状端部が外周面で覆われる空間内に収容されているとの印象を受けるのに対し、引用意匠は、短筒状部と外周面とで環状の空間を形成しているとの強い印象を受けると主張する。 しかしながら、本願意匠と引用意匠のそれぞれの短筒状部の長さ幅に前示の程度の差があるからといって、下面側から観察したときに、その差異に基づいて顕著な印象の差が生じるものとは認め得ないのみならず、本願出願前に頒布された刊行物である意匠登録第593632号に係る意匠公報(乙第1号 
証)及びその類似意匠に係る意匠公報(乙第2号証)には、長さ幅が外周面の幅と等しい短筒状部を有するプーリが、また、本願出願前に頒布された刊行物である意匠登録第 621415号に係る意匠公報(乙第3号証)及びその類似意匠に係る意匠公報(乙第4〜第16号証)には、長さ幅が外周面の幅の概ね3分の2程度である短筒状部を有するプーリが、それぞれ掲載されており、本願意匠のように短筒状部の長さ幅を外周面の幅の略3分の2程度とするものも、引用意匠のように短筒状部の長さ幅を外周面の幅と等しくするものも、本願出願当時、周知であったものと認められるから、該差異が観察者の注意を惹く程度も少ないものと認めるのが相当である。そうすると、該差異も両意匠の類否に与える影響の乏しいものといわざるを得ない。 なお、原告らは、本願意匠において、短筒状部が外周面の幅方向の略3分の2程度しか伸びていないことは、外周面の内
周部分に設けられた軸方向の細かい凹溝を識別しやすくする意義も有すると主張するが、仮にその主張のとおりであるとしても、そのこと自体は、短筒状部の長さ幅に係る差異が類否判断に与える影響として評価し得ないものである。ウ したがって、審決の差異点1.についての判断に原告ら主張の誤りはない。
(2) 原告らは、本願意匠と引用意匠との差異点2.に係る凹溝の差異につき、本願意匠が、軸方向の極めて細い凹溝を多数設けているのは、プーリの強度を強化するためでであり、さらに、プーリの回転の有無を視覚的に判断できるようにするためであるとしたうえ、ある程度の技術的知識を有するものが観察した場合に、本願意匠のプーリが引用意匠のそれに比べて強度が高いという印象を受けるものであり、技術的知識を持たない者が観察した場合でも、本番意匠の凹溝部分が引用意匠のものとは全く異なる美感を生じさせると主張する。しかしながら、プーリが動力伝達のために外周面にベルト等を掛けて用いる物品であることに照らせば、その用途及び使用態様に鑑みて、需要者は、外周壁に関しては、直接ベルト等を掛けるその外周部分に注目する度合が高いものと考えるのが自然であり、これと比較すれば、その内周部分が目立たない部位であることは明らかであるところ、これに加え、本願に係る意匠登録願書(甲第2号証)添付の各図面によれば、本願意匠の凹溝は、軸方向に施されたというほかは、ごく浅く表面的に施
された格別の特徴のない態様であることが認められ、そうであれば、たとえ、本願意匠の軸方向の凹溝が原告ら主張のような機能を備えるものであるとしても、これと引用意匠の軸方向と直交する数条の凹溝との差異が、視覚的に両意匠の類否に与える影響をさほど大きいものと評価することはできない。したがって、審決の差異点2.についての判断に原告ら主張の誤りがあるということはできない。
(3) 原告らは、審決の本願意匠と引用意匠との差異点3.についての判断に対し、V溝の数に応じて外周面の幅寸法が変化し、その内周部分の凹溝の面積が増減することを理由として、該判断が誤りであると主張するが、凹溝が施された外周面の内周部分の面積の増減自体を取り上げ、これを、差異点3.に係る外周面のV溝の数の差異と同視して、その類否判断に与える影響を評価することができないことは明白である。なお、外周面の内周部分の凹溝の態様に係る差異点2.が、本願意匠と引用意匠との類否に与える影響を大きいものと評価し得ないことは前示のとおりである。 したがって、原告らの前示主張は失当といわざるを得ない。
(4) 原告らは、審決の本願意匠と引用意匠との差異点4.についての判断に対し、この種のプーリの意匠については、外周部、短
筒状部、平坦部を全体的に観察する必要があり、特に短筒状部の意匠は、本願意匠及び引用意匠の要部の1つを構成する重要部分であり、この部分の寸法の他の部分の寸法に対する比率を無視することはできないとして、該判断が誤りであると主張する。
 しかしながら、本願意匠及び引用意匠に関し、外周部、短筒状部、平坦部を全体的に観察する必要があること、特に短筒状部の意匠が要部の1つを構成する重要部分であること自体は、そのとおりであるとしても、それ故に本願意匠と引用意匠との間の、短筒状部の径の外周部の径に対する径比率の差異が、当然に両意匠の類否判断に大きな影響を与えるとはいえず、特に、本願意匠の該径比率がありふれたものであるときは、観察者の注意を惹くものとはなり得ないというべきところ、前示意匠登録第593632号に係る意匠公報(乙第1号証)及びその類似意 匠に係る意匠公報(乙第2号証)並びに意匠登録第621415号に 係る意匠公報(乙第3号証)及びその類似意匠に係る意匠公報 (乙第4〜第16号証)には、短筒状部の径の外周部の径に対する径比率が概ね本願意匠と同程度のプーリが掲載されており、本願意匠の該径比率は極めてありふれたものであるものと認められるから、結局、差異点4.に係る差異が本願意匠と引用意匠との類否に与える影響をさほど大きいものと評価することはできない。したがって、審決の差異点4.についての判断に原告ら主張の誤りがあるということはできない。
3 以上のとおり、原告ら主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

〔研  究〕

1. この判決は、原告が、本願意匠に対して引用された登録意匠について、登録意匠自体が含む公知ないし周知の意匠部分は小さく評価すべきであると主張したのに対し、この引用意匠には見られない本願意匠の残余部分についても、他の公知意匠において開示されていることもあるから、本願意匠に対して最初に引用された登録意匠との類似性をもって、意匠法3条1項3号の適用は十分だとするものである。
 しかし、もしそういうことであれば、審査又は審判の段階において、その他の公知意匠も引用開示しておくことは出願人に対して親切というものであり、そうすることによって審査の客観性が保証されるのであり、出願人の納得を得ることができるであろう。
2. ところで、出願意匠に対して類似するとして引用された公知意匠については、そこに100%の開示状態が示されていることから、公知意匠自体の新規性(客観的創作性)の度合を詮索する必要はないというが、登録意匠の場合はどうであろうか。拒絶引用された意匠が他人の登録意匠の場合にあっては、意匠権者による権利行使に直結することもあり得るから、登録意匠のもつ新規性の度合を詮索する必要はあると考えることもできるが、しかし、それは侵害訴訟の時に証拠をもって主張すればよい問題であると考えるべきであろう。 なお、裁判所は、意匠公報に掲載されている意匠については公知ではなく周知と考えているようであるが、両者の意義の違いを意識して使用しているように思われない。刊行物の段階では、刊行物公知といわれるように、その意匠はいまだ周知には至っているものではないのである。

[牛木理一]