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出願意匠「建築用板材」拒絶審決取消請求事件: 東京高裁平成10(行ケ)394号平成11年6月8日判決(審決取消・認容)〔6民部〕

〔キーワード〕 
建築用外壁材、実はぎ、設計者・施工業者、施工後の外壁の美感

 

〔判示・認定事項〕 

  1. 建築用板材の取引者、需要者は建築を専門とする設計者あるいは施工業者であるから、本願意匠及び引用意匠は、それによってどのような実はぎが得られるかという観点から注意深く観察され、相当微細な差異であっても有意の差異として認識されるものと解すべきである。
  2. 雄連結部の形状と雌連結部の形状の対応の程度は、建築工事の難易及び板材の連結強度に影響を及ぼし、工事施工後に2枚の板材の間に凹部(目地)が現われるか否かは、建築物の外壁の美観に強い影響を及ぼすことが明らかであるから、上記差異点は本願意匠と引用意匠との類似性を否定するものとして、取引者,需要者である設計者あるいは施工業者によって決して看過されることはない。 

 

〔事  実〕

 

 原告(C社)は、別紙第一表示の「建築用板材」について、平成7年11月20日に出願したが、別紙第二表示の実開平1-73237号公報中の図面が引用されて平成9年6月13日に拒絶査定を受けたので、同年8月1日に査定不服の審判(審判平9−13140号)を請求した。しかし、平成10年11月9日に不成立の審決を受けたので出訴した。

 

〔理  由〕

 

 そこで、原告主張の審決取消事由の当否について検討する。
1 乙第1号証の2(登録願書添付の「使用状態参考図」)及び第2号証(実開平1-73237号公報の第4図)によれば、建築用板材(建築用パネル)は建築物の外壁として使用される部材であって、本願意匠及び引用意匠は、いずれも、板材の上部背面に薄く設けられている部分を下地に釘止めし、同板材の上の木口に設けた凸部(審決にいう「雄連結部」)に、他の板材の下の木口に設けた凹部(審決にいう「雌連結部」)を嵌合することによって2枚の板材を連結する、いわゆる「実はぎ」用の部材の意匠であると認められる。
 したがって、建築用板材の取引者,需要者は建築を専門とする設計者あるいは施工業者であるから、本願意匠及び引用意匠は、それによってどのような実はぎが得られるかという観点から注意深く観察され、相当微細な差異であっても有意の差異として認識
されるものと解すべきである。
2 このような観点から本願意匠及び引用意匠を検討すると、前掲乙第1号証の2の「使用状態参考図」によれば、本願意匠においては雄連結部の形状と雌連結部の形状がほぼ全面的に対応しており、かつ、下側板材の表面上端と上側板材の表面下端とが完全に密着して工事施工後の表面には凹部(目地)が現れない態様であることが認められる。
 これに対して、乙第2号証公報の第7図(i)によれば、引用意匠においては雄連結部形状と雌連結部の形状は部分的にしか対応しておらず、かつ、工事施工後は2枚の板材の間に、板材の厚さのほぼ1/2ないし1/3の幅の凹部(目地)が現れる態様であることが認められる。
 そして、雄連結部の形状と雌連結部の形状の対応の程度は、建築工事の難易及び板材の連結の強度に影響を及ぼすものと考えられる。また、工事施工後に2枚の板材の間に凹部(目地)が現れるか否かは、建築物の外壁の美観に強い影響を及ぼすことが明らかである。
 したがって、上記の差異点は、本願意匠と引用意匠との類似性を否定するものとして、取引者,需要者である設計者あるいは施工業者によって決して看過されることのないものというべきである。
3 以上のとおりであるから、雄連結部の形状と雌連結部の形状の対応の程度を両意匠の差異点として認定判断せず、かつ、工事施工後の表面に目地が現れるか否かは両意匠の類否判断に影響を与えるほどのものではないとして、本願意匠は引用意匠に類似するとした審決の結論は、維持することができない。

〔研  究〕

1. 2つの意匠自体の構成態様を対比して見ると、両者は一見酷似している板材としか見えない。そして、これまでの多くの鑑定人は、そのような見方と判断しかしてこなかったのではないかと思う。
 ところが、この高裁判決に接し、その理由を読むと、なるほどと思わせる説得力をもっている。
 それは、現場を知っている者の立場からの見方であり、当該板材が使用され施工された外壁面の仕上り状態や美観を熟慮した思考法をとっている。
 即ち、本願意匠はその使用状態参考図によれば、上下段に隣接する板材間には間隙がなく嵌合状態は密接になるのに対し、引用意匠では両板材の嵌合状態の図示はないけれども、左右の結合部分の態様によって目地(凹部)が外面に形成されることを重視し、これを微細な差異であっても「有意の差異」と解し、しがたって意匠として非類似と判断したのである。
 しかし、果たしてこのような観察法と思考法が妥当であるかどうかは、再考の余地があるだろう。
2. 物品は異なるが、取付け施工状態が問題となる別件B1-2(タイル事件)を参照されたい。

[牛木理一]