B1-3

 

 

出願意匠「蛍光ランプ」拒絶審決取消請求事件: 東京高裁平成10(行ケ)339号平成11年5月27日判決(審決取消・認容)〔18民部〕

〔キーワード〕 
基本的形状の差異、看者の注意・印象、離隔的判断

 

〔判示・認定事項〕 

  1. 引用意匠は、グローブ部と口金ケース部の表面が連続して形成され、口金ケース部の形状がグローブ部の上端部と同一曲率の円弧の回転面からなる球状面に形成され、上下対称形に構成されているのに対し、本願意匠は、漏斗状の口金ケース部の上に、上端部を半円球状とし胴部を円筒状とするグローブ部を設けた態様のもので、グローブ部と口金ケース部とが上下対称形に形成されたものではないから、この基本的形状の差異は、取引時、使用時に看者の注意を惹き、両意匠の類否判断に大きな影響を有する。
  2. 電球の使用状態には様々なものがあり、口金のみをソケットにさし込んで電球を水平方向や上向きに設置して、口金ケース部の筒部が看者の注意を惹く状態で使用される場合もあり、口金ケース部の形状が蛍光ランプの意匠としての印象に与える影響は相当あるから、口金ケース部の形状の差異が離隔的な判断において影響が少ないものであると認めることはできない。

 

〔事  実〕

 

 原告(M社)は、意匠に係る物品「蛍光ランプ」について、平成5年4月8日に別紙第一に係る意匠の意匠登録出願をしたところ、別紙第二に係る意匠登録第600087号の意匠に類似するとして意匠法第3条1項3号によって拒絶査定を受けたので、不服の審判を請求(審 判平6-19648号)したが、請求不成立の審決を受けた。

 

〔理  由〕

 

2 共通点、差異点の認定について
(1)共通点(1)、(2)について
1. 引用意匠のグローブ部の高さ、口金ケース部の高さ及び外径の長さがほぼ1対1対1の比率で、それぞれが口金の径のほぼ3倍であることは、当事者間に争いがない。
 そして、前記当事者間に争いのない引用意匠の形態(審決書別紙第二参照)によれば、引用意匠は、グローブ部と口金ケース部の表面が連続して形成され、口金ケース部の形状がグローブ部の上端部と同一曲率の円弧の回転面からなる球状面に形成され、上
下対称形に構成されているものと認められる。
2. これに対し、前記当事者間に争いのない本願意匠の形態(審決書別紙第一参照)によれば、本願意匠のグローブ部の高さ、口金ケース部の高さ及び外径の長さはほぼ1対0.86対1の比率で、グローブ部の高さや外径の長さは口金の径のほぼ3倍であると認められる(一部は当事者間に争いがない。)。
 そして、前記当事者間に争いのない本願意匠の形態によれば、本願意匠のグローブ部と口金ケース部との係合部にはわずかに溝状凹陥部があり、口金ケース部については、グローブ部との係合部である口金ケース部の最上端部に極細幅で帯状の区画(環状面)を形成し、その下方の口金ケース部の上方部はふくらみを少なくして傾斜面状に形成される凸曲面とし、その下方のケースの中間部は反円弧状の曲面で形成される凹曲面として、上方部の凸曲面に連続した反曲面に形成し、さらにその下方に逆円錐台状の筒体を延設した態様のもので、口金ケース部の全体が漏斗状をなすものと認められる。
 そうすると、本願意匠は、漏斗状の口金ケース部の上に、上端部を半円球状とし胴部を円筒状とするグローブ部を設けた態様のもので、グローブ部と口金ケース部とが上下対称形に形成されたものではない。
3. 以上によれば、引用意匠は、グローブ部と口金ケース部の表面が連続して形成され、口金ケース部の形状がグローブ部の上端部と同一曲率の円弧の回転面からなる球状面に形成され、上下対称形に構成されているのに対し、本願意匠は、漏斗状の口金ケース部の上に、上端部を半円球状とし胴部を円筒状とするグローブ部を設けた態様のもので、グローブ部と口金ケース部とが上下対称形に形成されたものではない点で、基本的形状を異にするものであり、審決の共通点(1)の認定、及び共通点(2)の認定のうち口金ケース部の高さの比率の認定は誤りであるといわねばならない。

(2)差異点(ア)について
 差異点(ア)の認定は、当事者間に争いがない。

(3)差異点(イ)について
 差異点(イ)は、前記(1)に説示のとおり、本願意匠と引用意匠
との基本的形状の差異の一部と扱われるべきものと認められる。

3 類否の判断について
(1) 基本的形状の差異
前記2(1)に説示のとおり、引用意匠は、グローブ部と口金ケース部の表面が連続して形成され、口金ケース部の形状がグローブ部の上端部と同一曲率の円弧の回転面からなる球状面に形成され、上下対称形に構成されているのに対し、本願意匠は、漏斗状の口金ケース部の上に、上端部を半円球状とし胴部を円筒状とするグローブ部を設けた態様のもので、グローブ部と口金ケース部とが上下対称形に形成されたものではない。
 この基本的形状の差異は、取引時、使用時に看者の注意を惹き、両意匠の類否の判断において大きな影響を有するものと認められる。
(2) 差異点(ア)について
 そして、グローブ部と口金ケース部との係合部につき、本願意匠がわずかに溝状凹陥部を有している点は、口金ケース部最上端部の極細幅の区画(環状面)とともに、本願意匠が漏斗状の口金ケース部の上に上端部を半円球状とし胴部を円筒状とするグローブ部を設けた態様のものであることを強調するものと認められ、引用意匠が溝状凹陥部や極細幅の区画を有しない点は、引用意匠が上下対称形に構成されていることを強調するものと認められる。
 被告は、溝状凹陥部の点の差異は、図面表現上の誤差程度のものにすぎないものである旨主張するが、審決書別紙二の「内部機構の概略を示す正面図中央縦断面図」によれば、引用意匠においては、グローブ部と口金ケース部の表面を面一状に連続して形成することを意図した構造を採用しており、前記のような上下対称形の全体的構成と相まって、シンプルな印象を与えるものとなっていることが認められ、この事実によれば、溝状凹陥部の点の差異が図面表現上の誤差程度のものと認めることはできず、被告の上記主張は採用することができない。
(3) 以上のとおり、本願意匠と引用意匠との間には、基本的形状の差異及び具体的な態様における差異点があるから、両意匠が円筒形状の胴部の上端部をほぼ半円球状としたグローブ部の形状が共通していることを考慮しても、両意匠が看者に与える印象は異なっており、本願意匠を引用意匠に類似する意匠と認めることはできない。
(4)被告の主張に対する判断
 被告は、電球について意匠法上の認定の観点は、その電球の取引時、使用時において通常目にする複数の角度から見た立体形状として観察することを要し、異なる時、異なる場所において視覚を通して脳裏に映えるその美的な姿を比較するべきである旨、さらに、電球の一般的な使用状態である天井又は壁面等に設置したソケットにねじ込んだ態様において、首部は、グローブ部及び口金ケース部の凸曲面とした部分の後方に隠れて見えなくなることが多く、さらに、点灯時においては、両意匠の共通する形状をなすグローブ部のみが光ることにより、首部はもとより口金ケース部全体が更に目に付きにくくなるものである点を考慮すべきである旨主張する。
 確かに、蛍光ランプを含む電球の一般的な使用状態である天井や壁面などに設置したソケットにねじ込んだ態様においては、首部は口金ケース部の凸曲面等の後方に隠れて見えにくくなり、さらに、点灯時においてはグローブ部が光るため口金ケース部全体が更に目に付きにくくなるものと認められる。
 しかしながら、電球が流通過程に置かれ取引の対象とされるときには、首部を含む口金ケース部も取引者、需要者の注意を惹く部分であると認められる。さらに、使用時についても、電球の使用状態には様々なものがあり、口金のみをソケットにさし込んで電球を水平方向や上向きに設置して使用するため、口金ケース部の首部も看者の注意を惹く状態で使用される場合も少なくないと認められる。
 そうすると、口金ケース部の形状も蛍光ランプの意匠としての印象に与える影響は相当あるというべきであり、口金ケース部の形状の差異が隔離的な判断において影響が少ないものであると認めることはできないから、被告の上記主張は採用することができない。

4 結 論
 以上によれば、本願意匠は引用意匠に類似するものといわざるを得ない旨の審決の判断は誤りであり、審決は取消しを免れない。

〔研  究〕

11. 本願意匠も引用意匠も、ともに「蛍光ランプ」に係る意匠であるが、通常の取引者・需要者が両意匠を対比して見ても、一見してまず同一のような印象を受けると思う。
 しかし、よく見ると、そして判決が述べるような部分についての相違を聞くと、なるほどと思うが、繰返し対比して見ると、そのような相違が認められるとしても、その程度の相違は、形態全体としては創作性を共通にするものではないかと思う。
 判決は、形態全体の構成態様のうち、口金ケース部の違いを強調し、これをもって全体の基本的形状が違うと判断したことは、その部分に引用意匠とは違う創作性を認めたのだろうが、疑問である。
2. このような認定を妥当とするか不当とするかは、評価の分れるところであるが、この評価の基準となるものは、引用の登録意匠がその出願前の公知意匠との関係においてどの程度の創作性をもっているかによるであろう。
 原告は、そのような主張や立証をしていなかったようであるから、原告の非類似の主張には説得力に欠けるうらみがあったといえる。それを救ったのが判決の考え方であった。
 しかし、拒絶査定系の審判及び裁判事件であっても、出願人(原告)は、引用意匠が出願前の登録意匠であった場合、その登録意匠の出願前に存した公知意匠の存在を明らかにし、登録意匠のもつ創作性の程度による類似範囲の狭さを立証し、そのような内容の引用意匠と出願意匠との対比による類否判断の必要性を主張すべきであろう。けだし、このような考え方は意匠権侵害事件にのみ通用するのではなく、査定系の審決取消訴訟事件においても妥当とするといえるからである。

[牛木理一]

 別紙第一
 別紙第二