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出願意匠「花壇用ブロック」拒絶審決取消請求事件:東京高裁平成16(行ケ)491平成17年3月30日判

 

キーワード〕 

意匠法3条2項、創作容易性、事実上公知、刊行物公知

 

 

事  実

 

 原告は、平成11年1月14日に、意匠に係る物品を「花壇用ブロック」として出願したが、拒絶査定を受けたので、不服の審判を請求したところ、不成立の審決を受けた。その理由は、要するに,本願の意匠は,その意匠登録出願前に,その意匠の属する分野における通常の知識を有する者が,日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められ,意匠法3条2項の規定に該当し,意匠登録を受けることができない,というものである。

 本件意匠に対し、審決が引用した刊行物公知の形態とは、@実開昭52−128302号の第2図、A実開平1−125042号の第2図・第4図、B実開昭6089331号の第1図〜第7図である。

 

判  断

 

1「本願の意匠の認定の誤り」について
 甲第2号証によれば,審決が認定するとおり,本願の意匠は,レンガ積み模様を呈するように細溝を形成しており,そのため,上部に2個,下部に3個の直方体状のレンガを積み重ねたような形状を有するものであって,全体の形状として正面視横長凸字状にみえるということができるから,この点の審決の認定そのものに誤りはない。
 もっとも,審決の上記認定には,原告の主張する本願の意匠の形状,すなわち三次元的配列ができるように(なお,本願の意匠の意匠登録願(甲2)には,原告が主張する配列のうち,上下方向のものを示す図はない。),凸字状の右上部及び左上部の切欠空間と,左下部及び右下部の突出部分を等しい大きさのものとし,切欠空間と概念的に同じ大きさの立方体を上部に4個,下部に6個結合させた形状であることは含まれていない。
 しかし,審決は,原告の意見書(甲9)の主張を受けて,請求人の主張として「(ア)本願に係る「花壇用ブロック」は,・・・上下左右に屈曲配列することができるのに対して,・・・」(審決書2頁)と摘示した上で,「請求人主張の(ア)の点については,本願の意匠のように上下左右に屈曲配列することができるのは,複数個の立方体を結合して構成されている必要があるが,上部に1個,下部に3個の立方体を結合して全体形状を凸状としたブロックが,本願の出願前に,広く知られていることから(例えば,公開実用新案公報所載の実用新案出願公開平3−21403号(判決注・甲6)第4図に従来例として示されている「組み合せブロック」,公開特許公報所載の特開平9−78723号(判決注・甲7)第1図〜第8図の「凸型コンクリートブロック」。)」(同3頁)として,続けて前記第3の2の冒頭後段において引用されたとおりの説示をしている。すなわち,審決は,本願の意匠が,原告が主張する三次元的配列を可能にするためのものであることと,そのために立方体を組み合せた形状からなる特定の構成比を持つ必要があることを前提に,その創作容易性の判断をしているのである。したがって,原告の主張するとおりに本願の意匠の認定をしていないことは,それ自体としては創作容易性の判断の誤りをもたらすものとはいえないから,原告の主張は採用できない。
2「意匠法3条2項(創作容易性)の判断の誤り」について
(1) 甲3の意匠は,土留構造物についての実用新案に係るものであり,甲4は縁石ブロックに係る公開実用新案公報(この公報には「この考案は,花壇まわりをかこう,1段積の連結する土留用縁石ブロックに関するものである。」(1頁)との記載がある。),甲5は煉瓦インテリヤブロツクに係る公開実用新案公報(この公報には「本考案は・・・花壇等の周り縁を素人でも容易に構築し得ることを特徴とするものである。」(2頁)との記載がある。)である。
 甲3ないし5は,いずれも,土留めに用いるブロックに関するものであるという点で,製品の分野が共通するといえる。したがって,各公報で想定されている用途が多少異なるとしても,土留めブロックの意匠を創作しようとする当業者が,これらのものを相互に参酌するのは自然なことである。審決が,甲3に,甲4及び5の手法を適用する形で創作容易性の検討をしたことは,適切さに欠けるものではない。
 そして,甲第3号証の意匠に係る物品の用途を花壇用ブロックとしつつ,それに,美感を高める見地から甲4及び5に係るレンガ積み模様を付与することは,容易に創作できることといえる。
(2) 本願の意匠の構成比を備えさせることの創作容易性について検討する。
ア 本願の意匠に係る製品分野に限らず,横長凸字状という形状そのものは,ありふれたものである。また,凸字状の形態のものを,複数個を積み重ね,あるいは並べて用いる場合に,原告のいう三次元的配列(上下を交互に逆さまにして組み合わせて直線状に配置する,前後方向に屈曲配置する,あるいは上下方向に屈曲配置する,という3種類の配列)をするということは,当業者はもちろんのこと,そうでない一般の人でも,極めて容易に思いつく,公知の事実ともいえると認められる(現に,甲7の図5には,上記直線状の配列や前後方向への屈曲配列の例が開示されている。)。そして,この公知の三次元的配列を,凸字状の土留めブロックに適用することに,何ら阻害事由はない。
イ 原告のいう三次元的配列のように,凸字状のブロックを積み重ね,並べる場合に,正確に直線上に延ばせず,あるいは前後方向ないし上下方向に90度屈曲させられず,また突出した部分やへこんだ部分があると,美感を損ねることがあるから,そのようなことがないように各部の寸法を調整することは,当業者が当然なすことであるといえる。そして,凸字状の物体(ブロック)を上記のとおり三次元的に配列するに際し,接合させるのは凸字状の右上ないし左上の切欠空間と,左下及び右下の突出部であるから,これらを同一の大きさの立方体とすれば,切欠空間にぴったり突出部が収まることになって,出っ張りやへこみもなく,接合の方向次第で,きちんと直線状に延ばせ,あるいは前後方向ないし上下方向に正確に90度屈曲させられるということは,当業者であれば容易に思いつくことであると認められる。実際に,甲7には,凸字状のブロックでそのような切欠空間及び突出部を持つものが開示されている(甲7は凸型コンクリートブロツクに係る公開特許公報であり,同公報には「本発明はコンクリートブロックで構築する塀,防火構築物の外壁の耐震性を高め,壁面に凹凸を設け草花による緑化を可能にするコンクリートブロックに関するものである。」(1頁左欄),「その他本発明の凸型コンクリートブロック(1)を一列に並べるだけで露地花壇の縁枠ができ,平面に敷き詰めることにより街の歩道を簡単に構築することができる効果がある。」(4頁右欄)との記載がある。甲7の物品は,甲3ないし5の物品と製品分野が共通するものであり,甲3の意匠の改変に際し参酌できることは明らかである。)。
 そして,横長凸字状のブロックの上の部分の長さを切欠空間4個分,下の長さを6個分とすることは,一つのブロックの長さをどの程度のものにするかという観点から,当業者が適宜設定し得ることに過ぎない(その長さがどのようなものであっても,上記切欠空間及び突出部が,等しい大きさの立方体であれば,原告のいう三次元的配列は可能である。)。
以上のとおりであるから,甲3の意匠に,本願の意匠の構成比を備えさせる創作は容易である,と認められる。
ウ 原告は,甲3及び7の実際の形状及び意図された形状をもとに,本願の意匠の三次元的配列や構成比が,それらから出てこない旨主張する。
しかし,三次元的配列が極めて容易に思いつくものであること,その発想に基づく構成比も容易に創作できることは,上記のとおりである。
甲3の意匠それ自体が,本願の意匠の構成比を備えていないとしても,そのことは問題とならない。本件で問題となるのは,それに当該構成比を備えさせる創作の容易性だからである。
 甲7のブロックが,使用態様上その高さ方向の長さが不問とされるものであったとしても,そのことは,現に同号証に立方体を結合させたと認められる凸字状のブロックが図示されている以上,問題となるものではない。また,それが,レンガ積み模様を呈することができないものであるとしても,立方体を結合させたものであると認識することの支障となるものではない。
(3) 以上述べたとおり,本願の意匠は,甲3の意匠を出発点として,これに美感の見地から周知のレンガ積み模様を付与することとし,次に,公知ともいえる発想である凸字状ブロックの三次元的配列を可能にするために,切欠空間及び突出部の寸法を変更し,当業者が適宜なす長さの設定をしたというものであるから,当業者が容易に創作できたものであるといえる。
 審決も,その説示によれば,単に公知の形態を個別に引用しただけではなく,上記のとおり,ブロックにおける凸字状の形態の周知性,レンガ積み模様の周知性とその適用を検討し,これを肯定した上で,原告の主張する三次元的配列を可能にするための形状の周知性を認定し,それに基づき本願の意匠の構成比となるよう変更することは容易である,としているものであり,三次元的配列を思いつくことの容易性については明言していないものの,それは引用例に言及するまでもないありふれた手法であるとして,当然の前提としていると思われるから,その本願の意匠の創作容易性の論理構成は,本判決のものと同趣旨と理解できる。そして,これは,本願の意匠を当業者がありふれた手法により創作できたとするための具体的な事実に十分該当するものといえる。
 なお,審決は,土留め用の凸字状ブロックを基にして,これに,細溝によりレンガ積み模様を呈する土留めブロックの引例と,構成比の微調整をするための立方体を結合させた形態のブロックの2種類の実例を挙げているに過ぎず(なお,この2種類の実例は,後記のとおり,周知の形状を示すものとして例示されているに過ぎない。),これをもって,際限なく公知の引例を用いているとはいえない。これらの物品が異なる分野のものでないことは,既に述べたところから明らかである。
 したがって,意匠法3条2項の判断の誤りをいう原告の主張も,採用できない。
(4) なお,原告が挙げる甲19及び20の花壇用土留めブロックは,レンガ積み模様を呈する部分が,単なる細溝部ではなく,八角錐台様の形状をしており,また,そのレンガ積み模様を呈し凸字状に見える面が正面になるようにした場合の,奥行き方向の寸法と,幅や高さ方向との寸法の比が,本願の意匠のそれと比較してずっと大きい(奥行き方向の寸法が長い)ものである。本願の意匠とは形状が大きく異なるから,それらが登録されたことは,本件の判断の参考になるものではない。
3「意匠法52条・特許法153条2項違反」について
 1で引用した審決の説示からは,甲6及び7は,凸字状のブロックの縦・横・奥行きの構成比を,本願の意匠のような複数の配列ができるようにするために変更する創作の容易性を補強する資料の一つ,すなわち三次元的配列を可能とする形状(立方体の結合)が本件出願前から広く知られており,ありふれたものであることを示すものとして例示されているに過ぎないと認められるのであって,このことをもって,審判体が,当事者の申し立てない理由について審理したことになるといえないことは明らかであり,意匠法52条において準用する特許法153条2項の手続違反をいう原告の主張は採用できない。なお,原告の主張が意匠法52条において準用する特許法150条5項の手続違反の主張をも含む趣旨であるとしても,上記のように,審決の周知の形状であることを示すものとして文献を引用したことをとらえて,職権で証拠調べをしたことに当たるとすることもできないから,同条項の手続違反があるということもできない。
4 結論
 以上のとおりであるから,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,その他,審決を取り消すべき事由は認められない。

 

〔論  説〕

1.この事例は、出願意匠に対し、意匠法3条2項が適用された場合であるが、審査及び審判において拒絶引用した公知例が公開実用新案公報であった。本件において原告(出願人)は刊行物公知の引用の不当性を争ったわけではないが、3条1項においては、事実上公知(1号)の意匠と刊行物公知(2号)の意匠とを区別して規定していることを考慮すれば、3条2項が適用するものは事実上公知の形態であるべきと解することが自然である。

 ところが、判決は刊行物公知の形態を引用した審決の立場を肯認したから、意匠法の規定の解釈を誤っていると批判されることになる。

2.意匠法は、工業上利用することができる意匠を創作した者が出願し、新規性があると認められても、さらにその意匠が創作力を具備していることを要求する。(意3条2項)。

 「創作力」のある意匠とは、次の要件に該当しない意匠をいう。

()その意匠の属する分野における通常の知識を有する者(当業者)が、

()日本国内又は外国において公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて、

()容易に意匠の創作をすることができたとき。

 「新規性」は、意匠の創作者自身の主観的創作を客観的に評価して認定した客観的創作性のことであるから、これと区別するために3条2項は「創作力」とか「創作非容易性」といわれているが、いずれも同義である。この意匠の登録要件は、特許法29条2項及び実用新案法3条2項の規定する「進歩性」に相当する。

3.創作力の有無を認定する主体は当業者であって一般需要者ではない。(新規性のある意匠の類否を判断する主体については当業者か需要者かの対立があるが、商標法とは異なり意匠法は創作保護法であることに鑑みれば、当業者と解するのが妥当である。)

4.「公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて」とは、意匠法3条1項1号の規定とほぼ同じである。すなわち、同条項1号の規定に基づくとは、事実上公知公用のものであることが前提であり、刊行物公知は除かれており、さらに物品の類否を超えた形態のみを基準としている。もっとも、刊行物公知と同時に事実上公知となった形態であれば適用の対象となり得るが、3条1項1号の規定の趣旨を3条2項の規定が引き継いでいることを考慮すると、刊行物公知にまで拡張して適用することは違法である。

 領布された刊行物自体が公然知られた状態にあればよいと解する説があるが、3条1項1号と同条項2号との立法趣旨の違いを考慮すれば同意することはできない。すなわち、公然知られた形態か否かの問題は、その形態が刊行物に掲載される以前に事実として存在したことに対する認定であるから、厳格に解すべきである。平成10年改正法の立法までの経過を見ると、最初の改正法案には、事実公知のみならず、刊行物公知の形態についても含まれていたが、最終法案で刊行物公知は削除されている。

5.容易に創作することができる意匠と認められる例としては、次のような意匠の場合が挙げられる。

()当業者にとってありふれた手法により、意匠の形態を構成する要素を、他の公然知られた形態の構成要素に置き換えた場合。

()当業者にとってありふれた手法により、公然知られた複数の形態を寄せ集めた場合。

()当業者にとってありふれた手法により、意匠の形態を構成する要素の配置を変更した場合。

()構成比率の変更又は連続する単位の数の増減による場合。

()公然知られた形態をほとんどそのまま表現した場合。(自然物、公知の著作物、建造物)
(6)商慣行上の転用による場合。(実物から玩具へ)

 これらの場合に該当するか否かを認定するとき、当業者にとってありふれた手法とは、事実を的確に把握した上で、どういう理由があるから容易である

ということができるのかを考えなければならず、審査官・審判官の立場で容易にできるというのでは理由にならない。

 したがって、意匠法3条2項の規定の適用は慎重でなければならないし、これと3条1項3号(意匠の類似)の規定との差異を明確に理解して適用しなければならない。〔以上は、丸善刊「知的財産権事典」250ページから。〕

6.本件意匠に係る「花壇用ブロック」にあっては、従来、現場打ちで構築していたブロックの一単位体を、工場で製産して商品化したという手法のものであるから、前記5の5つの場合のうち、(2)又は()に属するものといえる。

 したがって、判決における拒絶の理由づけは失当ではあっても、その結論は妥当といえるだろう。

 それにしても、出願意匠に対して最初に審査をする特許庁の審査官・審判官の不勉強を痛感する事案である。

 なお、同一原告と別出願意匠については、東京高裁平成16(行ケ)491(平成7年3月30日判・棄)事件もあることを付言する。

 

[牛木理一]