B1-18

 

出願意匠「BBSホイール」拒絶審決取消請求事件:東京高裁平15(行ケ)280平成15年12月18日判(棄)

〔キーワード〕 
類否判断の基準、需要者、変形、印象

 

〔事  実〕

 

 原告(BBS)は、意匠に係る物品「自動車用ホイール」を1999年(平11)6月23日にドイツ国で特許出願に基づく優先権を主張して平成11年12月24日に意匠登録出願をしたところ、拒絶査定を受けたので、不服の審判請求(不服2002−6520)をした。しかし、特許庁は平成15年3月11日に請求不成立の審決をした。
 審決の理由は、WIPO発行に係る国際意匠登録公報1995年7月31日号2720頁所載の意匠と類似するとのことであった。
〔判  断〕
  1 原告の主張1(差異点の認定の誤り)について
 審決は、本願意匠引用意匠の差異点の一つとして「(3)透孔について、本願意匠は、各透孔の幅を略等しいものとしているのに対し、引用意匠は、U字状の透孔よりV字状の透孔の幅を稍広くしている」(審決書2頁16行〜18行)と認定し、これに基づき「(3)の透孔については、引用意匠がU字状の透孔よりV字状の透孔の幅を稍広くしているとしても、各透孔の幅を略等しいものとしている本願意匠に比して、その幅の差はそれ程大きなものでなく、・・・(3)の本願意匠の態様は、格別看者の注意を引くものとはいい難い」(審決書2頁35行〜39行)と判断した。
 原告は、引用意匠はU字状の透孔のリム部開口縁の幅を、V字状の透孔に比べ略半分にして、大幅に小さくしているから、審決の上記引用意匠の認定及びこれに基づく差異点の認定は誤りである、と主張する。
 引用意匠における透孔について、リム部開口縁の幅だけをみるならば、U字状の透孔のそれは、V字状の透孔のそれの略半分であると認められることは、原告の主張するとおりである(審決書添付別紙1、2及び判決別紙A参照)。しかし、審決中には、透孔の幅が何を意味するかについての格別の記載はない。そうである以上、リム部開口縁の幅に上記のような差異があるとしても、透孔についての審決の上記認定を誤りとすることはできない。むしろ、審決は、透孔の全体について幅を比較した場合の印象、あるいは、それぞれの透孔の最大幅同士を比較した結果を述べたものとみるべきである。引用意匠において、U字状の透孔の幅とV字状の透孔の幅とを上記のように比較した場合、V字状の透孔の幅はU字状の透孔の幅よりやや広いと評価することができる。これと同旨の審決の引用例の認定及びこれに基づく差異点の認定に誤りはない。
 原告の主張は、採用することができない。
2 原告の主張2(差異点の看過)について
 原告は、審決が差異点@ないしDを看過したと主張する。
しかし、以下に述べるとおり、原告の指摘する差異点は、本願意匠と引用意匠との差異点として具体的に取り上げてそれについての評価を説示するまでもないものであると評価することができるから、審決がこれらを差異点として認定しなかったことを、誤りとすることはできない。
(1) 差異点@(U字状の透孔の形状)について
 原告は、U字状の透孔の形状について、本願意匠は、U字状の透孔の開口幅をリム部側において最も広くし、U字の相対向する2辺に相当する2本のスポークがリム部との接続部付近で略平行になるようにするとともに、その幅がハブ部に向かうにつれて次第に狭くなるように形成しているのに対し、引用意匠は、リム部側の開口幅を狭くし、リム部側からハブ部側へ向かう途中部で最大幅となるように中膨れ形状を形成している、との差異点を指摘し、審決は、この差異点を看過した、と主張する。
 本願意匠と引用意匠との間には、原告の主張するとおりの差異があることが認められる。しかし、U字状の透孔の形状についての両意匠の差異点は、物理的にみれば、本願意匠がU字状の透孔のリム部側の部分の広さを、引用意匠に比べてやや拡げた程度のことにすぎないと認められる。このようにU字状の透孔のリム部側の部分の広さを多少変形することは、本願優先日前において、ごく普通に知られた範囲内の変形にすぎないものと認められる。このような差異により美感に一定以上に大きい相違が生じると認めさせる資料も見いだせないから、上記差異点は、類否判断に影響を及ぼすことのない、ささいな差異にすぎないと評価するほかない。
(2) 差異点A(Y字状スポークの形状)について
 原告は、本願意匠は、Y字状スポークの根元部を太く形成しているのに対し、引用意匠はY字状スポークの根元部を両側からえぐるように細く形成している、との差異点を指摘し、審決は、この差異点を看過した、と主張する。
 本願意匠と引用意匠との間には、原告の主張するとおりの差異があることが認められる。しかし、Y字状スポークの根元部の太さについての両意匠の差異点は、物理的には、本願意匠が引用意匠に比してやや太いという程度のことにすぎないと認められる。このようにスポークの根元部を多少太くすることも細くすることも、本願優先日前において、ごく普通に知られた範囲内の変形にすぎないものと認められる。この程度の差異が美感上一定以上に大きい相違をもたらすと考えさせる資料も見いだせないから、上記差異点は、類否判断に影響を及ぼすことのない、ささいな差異にすぎないと評価するほかない。
(3) 差異点B(隣り合うY字状スポークの根元部と根元部との間の形状)について
 原告は、本願意匠は、隣り合うY字状スポークの根元部と根元部の間(U字状の透孔のハブ部寄り周縁)を曲線的(曲面的)に形成しているのに対し、引用意匠では、直線的(平面的)な部分を残している、との差異点を指摘し、審決は、この差異点を看過した、と主張する。
 本願意匠と引用意匠との間には、原告の主張するとおりの差異があることが認められる。しかしながら、引用意匠におけるY字状スポークの根元部と根元部の間の直線的な部分はごくわずかにすぎず、しかも、その直線部は、その周囲の曲線部と滑らかに接続していることから、全体としてはU字状透孔のハブ部寄り周縁は曲線的な印象を与えるものであることが認められる。すなわち、本願意匠も引用意匠も、全体的にみてハブ部寄り周縁を曲線的に形成しているという印象を看者に与える点において共通しているということができる。このような状況の下で、上記差異点により美感上一定以上に大きい相違が生じると認めさせる資料も見いだせない。この差異点は、類否判断に影響を及ぼすことのない、ささいな差異にすぎないと評価するほかない。
(4) 差異点C(スポークとリム部との接続部の形状等)について
 原告は、本願意匠は、全体的に曲線を多用するとともに、各スポークとリム部との接続部を肉厚状に形成して両者を滑らかに接続させているのに対し、引用意匠では、各スポークを根元部からリム部に向けて真っ直ぐ形成し、両者の接続を鋭角的に行っている、との差異点を指摘し、審決は、この差異点を看過した、と主張する。
 本願意匠と引用意匠との間には、原告の主張するとおりの差異があることは認められる。上記の差異は、スポークの先端部が前方から見てリム部と弧状に接続しているか否かの差異である(スポーク部の先端部がリム部の前面と略面一であるか否かの差異については、審決が差異点として認定し、判断している。)。しかし、両意匠のいずれにおいても、物理的にみて、スポークとリム部との接続部が意匠全体の中に占める割合はごくわずかにすぎず、当該部分が注目される度合いは、一般的にいえば、低いというべきである。しかも、このようにスポークとリム部との接続部を弧状にすることも、しないことも、本願優先日前において、ごく普通に知られた範囲内の変形にすぎないものと認められる。この程度の差異が一定以上に大きい美感上の相違をもたらすと認めさせる資料も見いだせない。原告主張の上記差異点は、類否判断に影響を及ぼすことのない細部のささいな差異にすぎないと評価するほかない。
(5) 差異点D(盤体状のディスク部の形状)について
 原告は、盤体状のディスク部の形状について、本願意匠は中央部の凹部が明瞭で中央部自体も大きいのに対し、引用意匠は中央部の凹部が明瞭でなく、中央部自体も小さい、との差異点を指摘し、審決は、この差異点を看過した、と主張する。本願意匠と引用意匠との間には、原告の主張するとおりの差異があることが認められる。しかしながら、中央部の大きさ及び中央部の凹部の差異は、ごくわずかなものであり、しかも、このようにディスク部の中央部の凹部を明瞭とすることもしないことも、本願優先日前において、ごく普通に知られた範囲内の変形にすぎないものと認められる。この程度の差異により美感上大きな相違が生じると認めさせる資料も見いだせない。原告主張の上記差異点は、類否判断に影響を及ぼすことのない細部のささいな差異にすぎないと評価するほかない。
 以上のとおりであるから、審決が差異点@ないしDを取り上げなかったことに誤りはない。
原告の主張は、いずれも採用することができない。
3 原告の主張3(類否判断の誤り)について
(1) 自動車用ホイールの形態は、一般に、大きく、@ディッシュ(皿形状)タイプ、Aスポーク(支柱状)タイプ、Bメッシュ(網目状)タイプ、Cスパイラル(渦巻状)タイプ、Dワイヤータイプに分かれ、本願意匠及び引用意匠の形態は、いずれも、メッシュタイプに属するものである。
 原告は、審決が認定する本願意匠と引用意匠の共通点(基本的構成態様における共通点及び具体的態様における共通点(1)、(2))は、いわゆるメッシュタイプ(クロススポークタイプ)として広く知られた自動車用ホイールの一般的態様を述べたものにすぎず、この種物品ではごく普通のありふれた周知の形態であることから、類否判断を左右する支配的要素とはなり得ない、と主張する。
 しかし、いわゆるメッシュタイプの自動車用ホイールに多種多様なものがあることは、弁論の全趣旨で明らかであり(原告準備書面(第2回)添付の参考資料参照)、審決が認定した両意匠の共通点は、決して、メッシュタイプの自動車用ホイールの一般的態様ではない。審決が認定した共通点は、両意匠の具体的比較により抽出された相当に具体的な形のものである。また、意匠に係る物品において、ごく普通のありふれた形態であるからといって、その形態がおよそ意匠の類否判断を左右する支配的要素となることはない、などということができないことは明らかである。類否判断の対象となる意匠間の共通点が類否判断を左右する支配的要素となるか否かは、意匠間の差異点との相対的な関係において決せられるべきものである。差異点がほとんど問題にならない程度のごくわずかなものであれば、共通点とされる形態がごく普通のありふれた形態であったとしても、その形態は類否判断を左右するものとなり得るというべきである。
 原告は、本願意匠の自動車用ホイールの需要者は、自動車メーカーなどの取引者や車愛好家など、この種物品の形態に広く通じているため、メッシュタイプとしてありふれた形態を特に目を引く部分として認識することはなく、細部におけるわずかな形態の差異にも十分な注意を払って商品選択を行う、需要者は、メッシュタイプとして類型化された意匠に更にどのような工夫がなされているか、という点に着目して自動車用ホイールを選択購入するのである、などとして、審決は、このような物品の特性及び需要者の特性を考慮しないまま、ありふれた形態に重きを置いて意匠の類否判断を行ったものであって、誤っている、と主張する。
 しかし、本件における類否判断の基準となる自動車用ホイールの需要者をこの種物品の形態に広く通じている者に限定すべき根拠は、本件全資料を検討しても見いだすことができない。必ずしもこの種物品の形態に詳しくない需要者を含む一般需要者を類否判断の基準とすべきである(一般需要者中には、細部におけるわずかな形態の差異にも十分な注意を払って商品選択を行う専門的な需要者も含まれる。しかし、仮に、このような者を基準としたとしても、形態の差異がありさえすれば、それがわずかなものであっても常に意匠としての類似性が否定される、ということになるわけのものではないことは明らかである。意匠間の形態の差異が類否判断に影響を及ぼすかどうかは、あくまで、具体的な意匠を比較し共通点と差異点を抽出したうえで、個別具体的に検討すべきである。ありふれた形態であっても、具体的事情によって類否判断を左右するものとなり得ることは上述のとおりである。)。
原告の主張は、採用することができない。
(2) 原告は、審決が、本願意匠と引用意匠との差異点の一つ(差異点(1))として認定した略Y字状のスポークの数について、「本願意匠の出願前、この種物品の属する分野において、略Y字状のスポークの数を7本とすることも8本とすることも、適宜選択される範囲内の変更にすぎ」ないと判断した(審決書2頁31行〜33行)のは、差異点を過小評価したものであって誤りである、と主張する。
 しかし、本願意匠及び引用意匠に接した一般需要者において、両意匠間の略Y字状のスポークの数の違いを一目で認識することは困難であり、かつ、スポークの数に違いがあっても両意匠から受ける印象は、さほど異ならないということができる。
 また、本願優先日当時、メッシュタイプの自動車用ホイールにおいて、略Y字状のスポークの数を7本とすることも、8本とすることも、この種物品の属する分野においてごく普通に知られていることであると認められる。このため、細部における形態の差異に注意を払う専門的な需要者等において、スポークの数の違いに気付いたとしても、それによって両意匠についてさほど異なる印象を受けることはないというべきである。
原告の主張は、採用することができない。
(3) 原告は、審決が本願意匠と引用意匠との差異点の一つ(差異点(2))として認定したボルト孔の位置について、「ボルト孔をハブ部の内側に設けることも、ハブ部とスポーク部の境界上に設けることも、従来より、極普通になされる範囲内の改変にすぎ」ないと判断した(審決書2頁33行〜35行)のは、差異点を過小評価したものであって、誤りである、と主張する。
 しかし、両意匠を比較するならば、上記のボルト孔の位置の違いは微細なものであって、看者にさほど異なる印象を与えるものでないことは明らかである。
 原告は、本願意匠は、引用意匠に比べディスク部の中央部が大きく、中心部付近を比較的深く凹陥させて明瞭にハブ部を形成していることから、本願意匠では、ハブ部からリブ部へ向かって大きく広がったディスク部の中央部によってボルト孔がすっぽり包み込まれたような印象を与えるのに対し、引用意匠では、明瞭でないハブ部とスポーク部の境界上に大きさの異なるボルト孔と極小孔とを設けているため、平板でこぢんまりした印象を与える、と主張する。
 原告が本願意匠においてディスク部の中央部が大きいといっているのは、本願意匠においては、引用意匠に比べ、スポークの根元部分の幅が広いため、ディスク部の中央部が大きく見えるということである。しかし、スポークの根元部を多少太くすることも、細くすることも、本願優先日前において、ごく普通に知られた範囲内の変形にすぎないものと認められることは、前記2(2)で説示したとおりである。また、ディスク部の中央部の凹部を明瞭とすることも、しないことも、本願優先日前において、ごく普通に知られた範囲内の変形にすぎないものと認められることは、前記2(5)で説示したとおりである。
 本願優先日当時、自動車用ホイールにおいて、ボルトの位置を両意匠のような位置にそれぞれ設けることは、いずれも、この種物品の属する分野においてごく普通に知られていることであると認められる。このため、前記専門的な需要者等において、ボルトの位置の違いに気付いたとしても、それによって両意匠についてさほど異なる印象を受けるとはいえないものというべきである。
 原告の主張は採用することができない。
(4) 原告は、審決が本願意匠と引用意匠との差異点の一つ(差異点(4))として認定したハブ部周縁について、「引用意匠が極小孔を設けているとしても、その極小孔は顕著な特徴を有するとはいえないから、その極小孔の有無はほとんど評価でき」ないと判断した(審決書3頁3行〜5行)のは、差異点を過小評価したものであって、誤りである、と主張する。
 しかし、両意匠を比較するならば、上記の極小孔の有無による違いは、軽微なものであって、看者にさほど異なる印象を与えるものでないことは明らかである。
 ハブ部あるいはその周縁に極小孔を設けることも、設けないことも、本願優先日前において、ごく普通に知られた範囲内の変形にすぎないものと認められる。
 前記専門的な需要者等において、極小孔の有無の違いに気付いたとしても、その差異点が軽微なものであるため、両意匠についてさほど異なる印象を受けるとはいえないものというべきである。
 原告の主張は採用することができない。
(5) 原告は、審決が本願意匠と引用意匠との差異点の一つ(差異点(5))として認定したスポークの先端部について、「引用意匠がリム部の前面より稍奥まっているとしても、リム部の前面と略面一にしている本願意匠に比して、その奥行きはそれ程大きなものではなく、・・・本願意匠の態様は、格別目立つものとはいい難いものであって、その差異は、形態全体から観れば、前記の両意匠に包含される部分的な差異にすぎず、類否判断に及ぼす影響は微弱というほかない」(審決書3頁5行〜10行)と判断したのは、差異点を過小評価したものであって、誤りである、と主張する。
 しかし、両意匠を比較するならば、上記のスポークの先端部の形状の違いは軽微なものであって、看者にさほど異なる印象を与えるものでないことが明らかである。
 スポーク部とリム部との接続部に段差を設けることも、設けないことも、本願優先日前において、ごく普通に知られた範囲内の変形にすぎないものと認められる。
 前記専門的な需要者等において、スポーク部の先端部の形状の違いに気付いたとしても、その差異点が軽微なものであるため、両意匠についてさほど異なる印象を受けるとはいえないものというべきである。
原告の主張は採用することができない。
(6) 審決認定の各差異点(差異点(1)ないし(5))及び原告主張の差異点(差異点@ないしD)を総合しても、前記共通点を凌駕して類否判断を左右すると認めることはできない。これと同旨の審決の認定判断に誤りはない。
〔論  説〕
1.BBS製の自動車用ホイールに係る意匠については、意匠権侵害でも審決取消でも、これまでに多くの訴訟事件が起きている。筆者もかって、このホイールをめぐる鑑定書を何件か作成した経緯をもっているが、今回紹介するホイールの意匠は、ホイールを知っている関係者から見れば、引用意匠とは一見して異なる印象を直観する。にもかかわらず、東京高裁は特許庁審決にならって、出願意匠は引用意匠(これはBBSによる国際登録意匠)と類似すると判断した。この判決には、以下指摘するように、いくつかの疑問点がある。

2.差異点の認定・看過について
(1) 透孔のリム部開口縁の巾が、引用意匠では上閉じのU字形状と底辺が長い正三角形状との組み合わせから成るのに対し、本願意匠は上開きのU字形状と底辺が短い三角形状との組み合わせから成るという差異が、肉眼で明確に認められるにもかかわらず、判決は、審決には透孔の巾が何を意味するかについての格別の記載がない以上、透孔についての審決の認定を誤りとすることはできないと判示する。しかし、これでは審決における判断の欠落を鵜呑みにするだけで、原告の指摘に答えていないことになる。
 この点について判決は、審決は透孔全体についての巾を比較した印象や透孔の最大巾どおしを比較した結果を述べたものと弁護しているが、同時に両意匠の透孔巾の広狭の違いは評価しているのに、審決の認定を誤りとしなかったことはおかしい。そして、全体を観察しての印象では、この点の差異はきわめて大きいというべきであり、意匠の類否判断を左右する要素となり得るものである。
(2) 判決は、両意匠ともU字状の透孔の形状と認定し、この形状の差異について、「物理的にみれば、本願意匠がU字状の透孔のリム部側の部分の広さを、引用意匠に比べてやや拡げた程度のことにすぎない」と認定し、このような広さの多少の変形は出願日前から「ごく普通に知られた範囲内」にすぎないものという。そして、「美感に一定以上に大きい相違が生じると認めさせる資料も」ないから、これは「ささいない差異にすぎないと評価する」という。
 しかし、ここで本願意匠の透孔のV字形状は、いつのまにか引用意匠のU字形状に吸収されてしまい、その中で考えられているという奇妙な現象になっているのは不可解なことである。
 また、一定以上の美感の相違を認定するための資料とは一体何のことをいうのか、明示されていない。
 したがって、このような説示では説得力はなく理由になっていない。
(3) 判決は、両意匠ともY字状のスポーク形状の差異について、「物理的には、本願意匠が引用意匠に比してやや太いという程度のことにすぎない」と説示する。したがって、この点についても判決は前記(2)と同様の説示をしているから、やはり同様の批判をせざるを得ない。
(4) また、メッシュ型ホイールの中心部の広さは、引用意匠よりも本願意匠の方が広面積に成るから、引用意匠の上閉じのU字形状の透孔はやや細長く見えるのに対し、本願意匠の上開きのU字形状の透孔は短く見えるのである。

3.類否判断について
 原告は、ホイールの需要者は、自動車メーカー等の取引者や愛好家など、当該物品の形態に精通している者であるから、メッシュタイプの形態の細部の差異にも十分注意を払って商品選択をし、メッシュタイプとして類型化された意匠にどのような工夫がなされているか、などの点に着目してホイールを選択購入するのに、審決はこのような物品の特性や需要者の特性を考慮せず、ありふれた形態に重きをおいて意匠の類否判断をしたもの、と原告は主張した。
 これに対し判決は、ホイールの意匠の類否判断をする者を、「この種物品の形態に広く通じている者に限定すべき根拠は、本件全資料を検討しても見いだすことができない」し、必ずしも詳しくない需要者を含む一般需要者を基準とすべきであると説示した。そして、意匠間の形態の差異が類否判断に影響を及ぼすか否かは、具体的な意匠を比較し共通点と差異点を抽出した上で、個別的具体的に検討すべきであるという。
 しかし、本件意匠の類否判断を行う主体を、ホイールに詳しい者ではなく、一般需要者という曖昧な者とすべきとする考え方は誤りである。ここに一般需要者とは、自動車の購入者以外の者をいうとすれば、ナンセンスな話である。購入者は自分の目でよく見たり、他人や雑誌などから知識を得たり、ディラーから詳細な説明を聞くだろうから、自動車の運転をしない者まで類似判断の主体に含ませることはない。それとも、裁判所の真意は、判決にいう一般需要者とは、自動車やホイールの知識のない「裁判官」を基準とするということであろうか。

4.その他
 ここに添付する引用意匠の写真は、ヘーグ協定に基く国際登録公報1995年5月号2715〜2728頁に掲載されているDM/033112(国際登録日07.07.1994)からの抜すいであるが、長年WIPOから購入していた意匠公報群の中に、この意匠公報はわが事務所にある。したがって、特許庁審決が引用意匠公報を1995年7月31日号に記載したのは誤りである。

[牛木理一]