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出願意匠「包装用びん」拒絶審決取消請求事件:東京高裁平成14年(行ケ)221号平成14年11月14日判決(棄却)<6民>

〔キーワード〕 
Gマーク受賞デザイン、拒絶先願意匠、意匠の類似、類否判断の主体

〔事  実〕

1. 特許庁における手続の経緯
 原告(東洋ガラス株式会社、生活クラブ生協連合会)らは、平成10年10月16日に、意匠に係る物品を「包装用びん」として、別紙審決書写しの別紙第一の意匠(以下「本願意匠」という。)の意匠登録出願をしたところ、平成12年5月26日に拒絶査定を受けたので、同年6月23日、これに対する不服の審判を請求した。特許庁は、これを不服2000−9458号として審理し、その結果、平成14年3月5日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同年4月10日にその謄本を原告らに送達した。
2. 審決の理由
 審決は、本願意匠は、先願に係る意願昭44−8748号の意匠(昭和44年3月27日に、意匠に係る物品を「包装用びん」として出願、その後拒絶査定が確定したもの。以下「引用意匠」という。)に類似するもので、意匠法9条1項の規定によって、意匠登録を受けることができないと判断した。
3. 原告らの主張の要点
 原告は、審決取消理由の一つを次のように主張した。
 本願意匠は、包装業界で名高い木下賞や、2000日本パッケージングコンテスト、ワールドスター賞、2000年のグッドデザイン賞及びその特別賞であるユニバーサルデザイン賞などの数々の賞を受賞している。この中でも、グッドデザイン賞の受賞は、本願意匠の優れたデザイン性及び創作性が、インダストリアルデザインに精通した専門家により客観的に評価されたものである。グッドデザイン賞の審査基準によれば、この賞の審査は、「良いデザインであるか」、「優れたデザインであるか」、「未来を拓くデザインであるか」の3項目を中心に審査されているもので、本願意匠については、特に「独創的である」、「デザインの総合的な完成度に優れている」といった点に高い評価がされている。

 

〔判  断〕

 

1 差異点イ(細口、太口)について
 原告らは、審決の差異点イ(細口、太口)についての判断に対し、本願意匠は、その幅広く緩やかに傾斜する肩部が、どっしりとした太身のびんであることを印象づけており、これに比べ、引用意匠は、首状部がやや広がった程度の印象しか与えない肩部が、ほっそりとした細身のびんであることを印象づけている。本願意匠と引用意匠とは、この差異点イ(細口、太口)により、口部及び首状部から上胴部にかけて、肩部のラインが異なり、この点が形態全体に与える影響はかなり大きく、これだけでも、両意匠の全体形状は著しく相違する、と主張する。
 確かに、本願意匠と引用意匠とは、差異点イ(細口、太口)に係るそれぞれの部分が首状部の下方の拡径する部分に影響を与え、これと差異点ロ(括れ部の位置・深浅)及び差異点ハ(下胴部・垂直面状)に係る部分とも関連して、審決も認定したとおり、本願意匠が引用意匠よりも、「稍太身でどっしりした印象」を与えていることは、否定できないところである。
 しかし、包装用びんにおいては、収容する内容物の容量に応じて、適宜の大きさのものを取りそろえ、販売に供することはよくあることであり、容量を大きくする場合には、びんの基本的形状を変えることなく、口部の径に対して胴部の径を大きくすることは、特段珍しいことではない(乙第1号証ないし乙第4号証)。したがって、包装用びんにおいては、口部の径に対する胴部の径の大小により、その形態全体として、太身か細身かの相対的な差が生じることになるものの、胴部の径に対する口部の径の比率差が、包装用びんの容量の変更に合わせて普通に変更される範囲のものであれば、その比率の差を、意匠の類否判断においてそれほど大きく評価することはできない、というべきである。
 これを両意匠についてみると、上胴部の最大径に対する口部及び首状部の径の比率は、確かに、差異点イ(細口、太口)の認定のとおり、本願意匠については1/2よりやや小さく、引用意匠については1/2よりやや大きいものではあるものの、その比率自体は、両意匠ともに、従来より包装用びんにおいて普通にみられるものであり、いずれも格別特徴的なものではない。他方、両意匠は、口部、首状部から上胴部にかけての態様として、上胴部の最大径の部分を上方に緩やかな突曲面状に窄(すぼ)めて、その上部を反転するように上向きに立ち上がらせ、上端に短筒状の口部を設けた態様、すなわち、共通点2(口部・凸条付短円筒形)及び共通点3(上胴部・下膨らみ状)の認定のとおりの態様を採用しており、この点において共通している。両意匠は、窄まりの度合い、及び、胴部の径に対する口部及び首状部の径の比率に差がありはするものの、これらは、容量の変更に伴い、普通にみられる程度のものにすぎないということができ、したがって、両意匠の類否判断に与える影響は大きくはない、ということができる。
 このように、本願意匠が、差異点イ(細口、太口)により、引用意匠より肩幅が広く、全体が「稍太身でどっしりした印象」を与えるものとなっているのは事実であるものの、その差は、包装用びんの容量の変更に伴い、普通にみられる程度の「太身」か「細身」かの域を出るものではない以上、この差異は、両意匠の1ないし5の共通点によってもたらされる全体としての類似性の範囲内における微差にすぎないものというべきである。
 審決は、1ないし5の共通点が、両意匠の全体の基調を形成していることから、差異点イ(細口、太口)を、口部から上胴部にかけての構成態様の共通性の中でみられる口部及び首状部の窄まりの度合いの差と認め、この程度の差異であれば、両意匠が別々のものであるとの印象を与えるまでの差異とすることができないと判断したものであり、審決のこの判断に誤りはない。
2 差異点ロ(括れ部の位置・深浅)について
 原告らは、審決の差異点ロ(括れ部の位置・深浅)についての判断に対し、審決は、共通点5(括れ部・凹湾面状)を過大評価する一方で、差異点ロ(括れ部の位置・深浅)をほとんど評価しない、との誤りを犯している。差異点ロ(括れ部の位置)は、差異点イ(細口、太口)とあいまって、本願意匠が稍太身でどっしりとした印象を与えるのに対し、引用意匠は腰高でスマートな印象を与える、と主張する。
 しかし、共通点5(括れ部・凹湾面状)は、両意匠の特徴をよく表す部分であり、両意匠の全体の基調を形成する重要な要素である。すなわち、びんの中間部をシンプルで緩やかな凹湾面状とした点は、共通点3(上胴部・下膨らみ状)及び共通点4(下胴部・中膨らみ状)と一体となって、両意匠を強く特徴付けているものであり、その形状の共通性は、両意匠の類否判断において、重要なものとして評価せざるを得ない。
 両意匠においては、びんの中間部の括れの位置及び括れの深浅に若干の差が認められるものの、それは、両意匠を、その高さをそろえて、横に並べて子細に観察したときに認識することができる程度のものであるというべきであり、両意匠の括れ部の位置及び括れの深浅の差異が、両意匠の類否判断に及ぼす影響は、微弱なものという以外にない。
 原告らは、共通点5(括れ部・凹湾面状)は公知の形状であるとし、審決は、それのみでは類否判断を左右することのない小さな共通点を過大評価した、と主張する。しかし、仮に共通点5(括れ部・凹湾面状)が公知の形状であるとしても、公知の形状であるということは、意匠の特徴を示す要素となり得ないことに何ら結び付くものではない。両意匠は、共通点5に係る形状、すなわち、上胴部の膨らみと、下胴部の膨らみとを、瓶の中間辺りで、上下に二分するように緩やかな凹湾面状に表した点が、共通点3(上胴部・下膨らみ状)及び共通点4(下胴部・中膨らみ状)の形状と関連付けられ、一体となって両意匠の全体の特徴をよく表すところとなっているのであるから、審決が、共通点5(括れ部・凹湾面状)の形状を類否判断において大きく評価した点に誤りはないのである。
3 差異点ハ(下胴部・垂直面状)について
 原告らは、審決の差異点ハ(下胴部・垂直面状)についての前記判断に対し、審決は、共通点4(下胴部・中膨らみ状)を過大評価して、差異点ハ(下胴部・垂直面状)をほとんど評価しない誤りを犯している。本願意匠は、下胴部が垂直面状で構成されていることから、全体的にどっしりと安定感のある印象を与えるもので、この下胴部が曲面状で構成されている引用意匠とは明らかに相違している、と主張する。
 しかし、共通点4(下胴部・中膨らみ状)は、両意匠の下胴部の形態を、全体との関連の中で端的にとらえたもので、前記のとおり、他の共通点と一体化して両意匠の全体の基調を形成するものであり、両意匠の類否判断において大きく評価せざるを得ないものである。
 しかも、本願意匠の下胴部は、その中間の部分が、それのみを取り出してみれば、垂直面状であるとはいえ、下胴部全体の中でとらえれば、下胴部全体が中膨らみである印象が強いものであり、両意匠間に、原告らが主張するように、本願意匠は、下胴部が垂直面状で構成されている、とか、引用意匠が、曲面状で構成されている、とかいうほどの明りょうな印象差は生じていない。審決の上記判断に誤りはない。
 原告らは、包装用びんは、市場に出回るときには必ず印刷やフィルムを施されるものであり、印刷等がなされる下胴部の形状が曲面状であるか垂直面状であるかによって、印刷等の印象がかなり異なったものとなる。また、印刷等により下胴部の形状が明確になり、びん全体の印象も大きく異なってくるのである。包装用びんの類否判断の主体が、ボトラー及び一般消費者であることからすれば、ボトラーの場合は、印刷等が施されて市場に出回る状態を当然想定して吟味しており、また、一般消費者の場合は、市場に出た状態で商品として目にするのであるから、市場に出回る状態でより顕著になる曲面状か垂直面状かという相違は、審決が評価するような「垂直面状がさほど目立たず」という程度のものではない、と主張する。
 しかし、包装びんにおいて、印刷やフィルムが施されることがしばしばみられるとしても、それらの施される部位、あるいは施される態様には様々なものがあり得るのであるから、両意匠の形状自体から、直ちにその印刷の態様やフィルムの態様を推認し、特定することは困難であり、そうである以上、これらを前提として、両意匠の類否判断をすることは相当でない。原告らの主張は、採用することができない。
4 意匠全体について
(1) 本願意匠と引用意匠とは、前記のとおり、共通点1(基本的構成態様)、 共通点2(口部・凸条付短円筒形)、共通点3(上胴部・下膨らみ状)、共通点4(下胴部・中膨らみ状)及び共通点5(括れ部・凹湾面状)を共通の構成とするものである。この共通点1(基本的構成態様)が両意匠全体の基本的な構成態様を表すものであり、共通点3(上胴部・下膨らみ状)、共通点4(下胴部・中膨らみ状)及び共通点5(括れ部・凹湾面状)が、瓶体の上胴部から下胴部に至る周面全体の膨らみ及び窄まりの態様を表すものであり、これに共通点2(口部・凸条付短円筒形)の構成を加えると、両意匠とも、これにより、その全体の形状の基調が形成されているものと認められる(甲第2、第3号証)。このことからすれば、本願意匠と引用意匠とが、その1なし5の共通点の構成を共通にしていることは、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものというべきである。したがって、「両意匠を全体として検討するに、共通点につき、(1)の点は形態全体の骨格的な態様を表すところであって、この態様に、瓶体の上端首状部から下胴部の下端に至る周面全体の膨らみ、及び窄まりの態様を具体的に表す(3)ないし(5)の点が相俟ったところは、両意匠の全体の特徴をよく表すところであって、これら(1)及び(3)ないし(5)の共通点に(2)の点も相関連した全体のまとまりは、両意匠の全体の基調を形成しており、これら共通点は両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものと認められる。」(審決書2頁第3段落)とした審決の判断に誤りはない。
(2) 原告らは、本願意匠は、全体の形状が太身で、全体的にどっしりと安定感のある印象を受けるものであるのに対し、引用意匠は、全体の形状が細身で、全体的にか細く、華奢な印象を受けるものである、と主張する。
 しかし、本願意匠が、差異点イ(細口、太口)により、引用意匠より肩幅が広く、全体が「稍太身でどっしりした印象」を与えるものとなっているとはいっても、その差は、包装用びんの容量の変更に伴い、普通にみられる程度の「太身」か「細身」かの域を出るものではなく、両意匠の1ないし5の共通点によってもたらされる全体としての類似性の範囲内における微差にすぎないものというべきであり、両意匠がそれぞれ別異なものであるとの印象を与えるほどのものではない、とみるべきことは既に述べたとおりである。
 原告らは、本願意匠が「牛乳びん」の範疇に入り、引用意匠が「ラムネびん」又は「瓢箪をイメージした清酒びん」の範疇に入る、とか、女性の体型に例えれば、本願意匠が「母」を想わせ、引用意匠が「若い女性」を連想させる、とかと主張する。しかし、本願意匠から「牛乳びん」を連想することができるとしても、引用意匠から、原告ら主張の範疇の意匠を連想することができるかどうかについては明らかとはいえず、「母」か「若い女性」かについては、本願意匠が稍太身でどっしりとした印象を与え、引用意匠が稍細身の印象を与え、若干の印象差があることを別な言葉で述べたものにすぎない。両意匠の差異についての評価は、上記のとおりであり、原告らの主張は、上記判断を左右するものということはできない。
(3) 原告らは、包装用びんのデザイナーは、包装用びん特有のもろもろの制約の中で創作活動を行わなければならないのであって、突飛なデザインを考案するよりも、微妙なラインの組合せによって、少しでも独創性のある意匠を創作するべく努力をしている。また、包装用びんの類否判断は、物品の第1次的な需要者であり、包装用びんについて優れた鑑識眼を持つボトラー、すなわち、酒類製造、清涼飲料製造、医療品製造、化学薬品製造等の業界人が基準となるべきである。このような観察者が、両意匠の差異点イ(細口、太口)ないし差異点ハ(下胴部・垂直面状)により、両意匠を混同することは全く考えられない、と主張する。
 確かに、包装用びんの第1次的な需要者は、上記のようなボトラーであり、このような者は、包装用びんの意匠について優れた鑑識眼を持つと考えられるから、本願意匠と引用意匠のイないしハの差異点を直ちに認識するとみることはできるであろう。しかし、この種の包装用びんは、通常は、包装用びんに商品を入れた後、商品とともに一般消費者へ販売され、一般消費者も、購入する際に、あるいは、購入後に、これを手に取り、日常的にこれを使用するものであるから、このような一般消費者もまた、類否判断の基準となるべき需要者というべきであり、類否判断に当たっては、一般消費者の眼で両意匠の美感を判断することも必要となるのである。したがって、優れた鑑識眼を持ち、両意匠の具体的な差異を直ちに認識することができるボトラーが両意匠を混同するか否かの基準のみによって両意匠の類否を判断することはできず、一般消費者をも基準として、両意匠において観察者の注意を引きつける意匠的特徴を考慮してその類否を判断すべきことになるのである。
 原告らは、本願意匠と引用意匠とを離隔的に観察すると、観察者は、1ないし5の共通点を認識することができるけれども、これらの共通点は、いずれもこの種の物品によくある特徴であり、両意匠がこれらの共通点を共有するからといって、それだけで両意匠を混同することはあり得ないことである、と主張する。しかし、1なし5の共通点を構成する部分に公知な形状や周知な形状が含まれているとしても、公知であること、周知であることは、意匠の特徴を示す要素とはなり得ないことに何ら結び付くものではなく、上記各共通点があいまってなす全体の基調が、意匠全体の類否に大きな影響を及ぼすことを否定すべき理由となると考えるべき根拠はない。審決の「これら(1)及び(3)ないし(5)の共通点に(2)の点も相関連した全体のまとまりは、両意匠の全体の基調を形成しており、これら共通点は両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものと認められる」(審決書2頁第3段落)との判断に誤りはない。
(4) 原告らは、本願意匠はグッドデザイン賞等の数々の賞を受賞しており、専門家によっても、独創的で、高い創作性を有する、優れたデザインとして評価されたものである、と主張する。
 本願意匠に係る牛乳びんは、そのデザイン性が優れたものであると評価され、グッドデザイン賞等を受賞しているものである(甲第20号証)。しかし、その受賞理由は、例えば、「福祉的な視点に配慮し広範な使用者に対応したものとして特に優れている」(ユニバーサルデザイン賞)、「滑り落ちないように改良を加えた点が評価できる。流通、ユニバーサル、エコロジカルに有効な商品である。」(グッドデザイン賞評価シート・審査会コメント)、「@…超軽量瓶、A優れたリターナブル適正、Bユニバーサルデザイン(共用品)…」(2000年10月17日付け日刊食品通信)、「子供や高齢者も「持ちやすく、注ぎやすい」と高く評価している。」(2000年10月27日付け週刊酒類・食品ニュース&解説)(甲第20ないし第24号証(各枝番を含む。))というものであり、意匠を「物品…の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの」(意匠法2条1項)と規定する意匠法における意匠の登録要件としての判断と、これら各賞受賞に際して、本願意匠に係る牛乳びんが得た評価を同列に論じることはできない。すなわち、これら各賞の受賞については、上記のとおり、例えば、超軽量等の素材の選択改良、あるいは、リターナブル等の機能も含めた、広義のデザインといえる観点から、牛乳びんという具体的な商品に対しての評価がなされたものと考えられるのである。本件においては、先願である引用意匠と本願意匠との類似性が、意匠法9条1項の登録要件との関係で問題となっているのであり、上記の受賞理由を、引用意匠と本願意匠の類似性についての上記判断を左右すべきものということはできない。
第6 結論
 以上に検討したところによれば、原告らの主張する取消事由は理由がなく、その他、審決には、これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。  

〔研  究〕

1.この意匠登録出願は、改正意匠法(平成11年1月1日施行)前の平成10年10月16日になされたから、引用された先願意匠はすでに拒絶査定が確定した意匠であった。しかし、拒絶確定の先願意匠の地位を認めないことにした9条3項の改正規定はまだ施行されていなかったから、拒絶確定の先願意匠であっても、類似する意匠の場合には9条1項の規定が適用されたのである。本願意匠は、不幸にもその出願がやや早かったといえる。

2.本願意匠は拒絶確定の先願意匠(第三者には調査不能)と類似するとされたが、これが注目される理由は、本願意匠が2000年のGマークデザインの対象であったり、その他種々の賞を2000年代に受けたにもかかわらず、拒絶されたことによるからだろう。Gマークデザインの選考時には、特許庁に事前調査を依頼することはないが、たとえあったとしても、特許庁の立場としては、拒絶先願意匠を開示するわけにはいかなかった。
 しかし、この先願意匠を拒絶した理由がもし公知意匠であったならば、それを本願意匠に対して引用してもよかっただろうが、結局、Gマークデザイン対象である本願意匠と類似するような公知意匠は存在しなかったものといえる。

3.ところで、別紙第一の本願意匠と別紙第二の引用意匠とを対比したとき、すべての看者はこの両者を殆んど同一に近いほど酷似した意匠であると感知するだろう。それほど、本件は審決取消訴訟を請求するような事案ではなかったと思う。けだし、看者にとっては、そして出願人代理人にとっても、両意匠に係る形態の構成態様の違いを見い出して説明するのは、きわめて困難事である。
 にもかかわらず、出願人があえて審判を請求し、さらに審決取消訴訟を請求した理由は、本願意匠がGマークデザインその他の受賞作品であったという面子にかけたものとしかいえない。
 しかし、Gマークデザインなどの受賞は、判決がいうような、種々な理由によるものであるが、もし先願意匠が出願のみならず、公然知られた状態にあったものであるならば、それは審査員の面前に紹介されていただろうが、その事実はなかったから、特許庁としては、秘密状態にある拒絶確定の先願意匠を公けに提出することはできなかったのである。
 そのような背景についての知識のない出願人は、各賞の発表日は不明であるが、本件意匠について意匠権を取得しようとして、特許庁に出願したところ、死の渕に横たわっていた死骸が目を覚まして待ったをかけたのである。かくして、本件意匠は先輩の死骸の住む死の渕に引きずり降ろされようとしたが、出願人はそうはさせじと、審判のみならず審決取消訴訟まで請求して争ったのである。しかし、本願意匠は死の渕からこの世に甦ることはなかったのである。

4.そこで、本件に限っていえば、Gマークデザインその他の賞を受賞したデザインであったのだから、たとえ出願していても、拒絶査定を受けた以上、それ以後の救済手続はとらず、秘密の状態にしておいた方が適切であったと思う。けだし、審決や判決は、その結果がすべて公開されるから、前記各賞の受賞者の名誉に傷がつくことをおそれるからである。
 なお、現行法による出願にあっては、拒絶査定の確定した先願意匠は、その先願の地位を確保されないから、後願意匠に対して引用されることはなく、本件のような事態が起こるリスクはない。

[牛木理一]