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出願意匠「濾過機液槽内装着用濾過板」拒絶審決取消請求事件:東京高裁平成14年(行ケ)389号平成14年11月28日判決(民6)<棄却>

〔キーワード〕 
意匠法3条2項、公然知られた形態、創作容易性
〔事  実〕
 原告(小松由太郎)は、「濾過機液槽内装着用濾過板」に係る本願意匠について、平成11年2月26日に出願したところ、拒絶査定を受けたので審判請求したが、不成立の審決を受けた。その理由は、意匠法3条2項に規定する創作力の要件を具備しない意匠であったからである。
 審決は、拒絶査定と同様に、周知の長方形状から成る平板の隅角部を切り取り、その部分を目印とすることは常套手段であるから、当業者は容易に想到する形態と認定したが、付加的にWIPO国際事務局が発行したヘーグ協定の寄託登録公報中の意匠を引用したことから、問題がややこじれたのである。

 

〔判  断〕

 

1 取消事由1(3条2項公知意匠の認定の誤り)について
(1) 意匠法3条2項は、「意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたときは、その意匠・・・については・・・意匠登録を受けることができない。」と規定している。ここでいう「日本国内又は外国において公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」とは、文字どおり、日本国内又は外国において公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合のことであり、したがって、意匠法3条1項の判断の資料となる意匠とは異なり、出願意匠に係る物品とかかわりのない形状等であっても、これに含まれると解すべきである(出願意匠に係る物品とかかわりのない形状等である場合、例えば、出願意匠に係る物品とは別の物品の形状等である場合に、そのことが、出願意匠の創作容易性の判断において、出願人に有利に働くことはあり得る。)。単なる「長方形状」及び「直角二等辺三角形状」が物品を離れて広く一般に知られた形状であることは明らかであるから、これらを3条2項公知意匠と認定した審決の判断に誤りはない。
 審決は、その上で、本願意匠の属する分野における当業者が、日本国内又は外国において、広く知られた形状である「長方形状」及び「直角二等辺三角形状」に基づいて、長方形状の平板及びその一つの隅角部を直角二等辺三角形状に切り欠いた本願意匠の形状を容易に創作することができるものである、と判断したものである。この審決の判断に何ら誤りはない。
(2) 原告は、3条2項公知意匠とは、それぞれの技術分野における物品の意匠として公然と知られているものでなければならない、として、審決の上記認定判断は、本願意匠の技術分野を全く無視して、何らの証拠を示すこともなく、本願意匠についての3条2項公知意匠を誤って認定したものであり、これに基づいて、当業者が容易に本願意匠の創作をすることができたものであると誤って判断した、と主張する。しかし、3条2項公知意匠は、出願意匠の分野に属する物品等の意匠に限定されるものではないことは前示のとおりである。また、本願意匠における「長方形状」及び「直角二等辺三角形状」が日本国内において広く知られている形状であることは明らかであるから、これについて証拠を示す必要はない。したがって、原告の上記主張は、いずれも採用することができない。
(3) 原告は、本件公知意匠に係る物品は、「プール用ろ過機」であり、本願意匠に係る物品は、「濾過機液槽内装着用濾過板」であるから、両者は、物品として明らかに異なる、と主張する。しかし、審決は、プール用濾過機に装着された濾過板を本件公知意匠と認定しているのであり、本件公知意匠と本願意匠に係る物品とは、異なるものではない。なお、原告は、本願意匠の濾過板の技術分野は、食用油の濾過である、とも主張する。しかし、本願意匠の意匠に係る物品は、濾過機液槽内装着用濾過板である。原告の上記各主張は、そもそもその前提において誤っており、主張自体として失当である。
 原告は、本件公知意匠は、外箱の形状を示しており、外箱に格納されている内容物の形状は不明である、また、その外箱の形状から内容物の形状を推定するとしても、外箱の形状は正方形に近い、とも主張する。しかし、審決は、請求人が、審判請求書において、「当時の濾過機業界における意匠の実施状況からして、濾過板の本体形状を長方形としたこと自体、極めて画期的なものである。」との主張をしたため、そのような請求人の主張が理由がないことを示すために、念のため本件公知意匠を一例として示したものである。したがって、本件公知意匠に示されるプール用濾過機の濾過板が、原告が主張するように、縦幅と横幅の比が本願意匠のものとは異なるとしても、請求人である原告の上記反論に理由がないことを示すには十分なものである。また、本件公知意匠に示されるプール用濾過板の下部の形状が、外箱からは明瞭ではないとしても、外箱の形状により、これを四角形と推定することは十分に合理的であり、審決が、本件公知意匠を1例として示して、原告の主張を排斥したことについて、誤りはない。

2 取消事由2(本件公知意匠についての手続違背)について
?本件出願を担当した審査官(合議体)は、意匠法19条で準用する特許法50条に基づき、平成12年3月8日に、出願人(原告)に対し、「本願の意匠は、周知形状である長方形をした板状体の任意の一角に切り欠きを設けたまでのものですので、この程度では特段の創作があるものとは認められません。」との拒絶理由通知書を発送した(乙第4号証)。審決の理由も、前記のとおり、これと同一である。そうである以上、審判体が、新たな拒絶理由通知を発送しないままで審決をしたことには、何らの手続的な違背もあり得ない。審決は、請求人(原告)が、審判請求書において、「当時の濾過機業界における意匠の実施状況からして、濾過板の本体形状を長方形としたこと自体、極めて画期的なものである。」との主張をしたため、そのような請求人の主張が理由がないことを示すために、補助的な資料として、本件公知意匠を示したにすぎないのであり、このような補助的な資料は、新たな拒絶の理由を構成するものではないのであるから、これについて新たな拒絶理由通知を発送しなかったとしても、審決には何ら手続違背はないのである(意匠法50条3項、52条、特許法158条)。原告の主張は採用することができない。
〔研  究〕
 審決が判示した点は2点あった。
 第1点は、特に立証するまでもなく、本願意匠の形状が、長方形状の平板とその一隅角部を直角二等辺三角形状に切欠いたものであるから、当業者が容易に創作することができたと判断したこと。
 第2点は、審決が引用した例示としての刊行物公知(事実上公知ではない)は「プール用ろ過機」であるから、本願意匠の物品とは違うと原告が主張したことに対し、これは、請求人(原告)が、濾過板の本体形状を長方形にしたこと自体、きわめて画期的なものと主張したことに対して、判断したこと。
 したがって、第2点に言及したことは、審決も判決も駄足であり、第1点のみによって本願意匠は創作力のないもの、創作容易な意匠と判示することができたといえる。本願意匠に対する請求棄却の判決が、意匠法3条2項を適用したこと自体は問題ないといえる。

[牛木理一]