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出願意匠「装身用玉」拒絶審決取消請求事件:東京高裁平成13年(行ケ)555号平成14年10月29日判決(6民)〈棄却〉

〔キーワード〕 
意匠図面、玉石のカット面、カット模様、線による表現
〔事  実〕
 米国人K.G.(原告)は、平成8年12月12日、「装身用玉」に係る意匠の出願(本願意匠)をしたが、刊行物公知の意匠と類似するとして意匠法3条1項3号による拒絶査定を受けたので、不服の審判請求をした。しかし、不成立の審決を受けたので、審決取消訴訟を請求した。
 審決が引用した意匠は、平成7年4月7日に工業所有権総合情報館が受入れ所蔵していたベネルックスデザイン公報(平成6年12月21日発行)中の装身用玉の意匠であり、これに類似するというものである。 

 

〔判  断〕

 

1 取消事由1(引用意匠の認定の誤りによる共通点・差異点の認定の誤り)について
(1) 原告は、引用意匠について、@略逆四角錐状の周側面が本願意匠のように隆起して おらず平坦面であること、A底面視において「四つ足星形様」の放射線模様の中央に十字線を有しないことから、引用意匠の周側面上の模様は、カット模様ではなく線状に描かれた模様であると認められるべきものである、として、これを前提に、審決が引用意匠の周側面上の模様をカット模様と認定したことは誤りであり、審決は、本願意匠と引用意匠との周側面上の模様に関し、差異点(本願意匠ではカット模様であるのに対し、引用意匠では線状に描かれた模様である。)であるものを共通点(両意匠のいずれにおいてもカット模様である。)であると誤認した、と主張する。
本願意匠及び引用意匠は、いずれも、底面視において、逆四角錐状の四隅から下方の頂点に向け放射状の模様を表し、それが下方の頂点付近で合流し、その放射状の模様全体がいわゆる略「四つ足星形様」に表れている点において共通することは当事者間に争いがない。両意匠の上記放射状の模様が、いずれも線で描かれていることは、別紙第一記載の底面図及び別紙第二記載の左上の図(底面図であると認められる。)から明らかである。
甲第2号証の1ないし6及び弁論の全趣旨によれば、本願意匠及び引用意匠に係る物品である装身用玉(宝石など)の分野においては、これを図示する場合に、カット模様を線で描くことがあることが認められる。
別紙第一の底面図において、本願意匠の線で描かれた放射状の模様がカット模様であることは当事者間に争いがない。
引用意匠の放射状の模様は、線状に描かれている点において、本願意匠と同じであることは上記のとおりであるから、その限りでは、本願意匠の放射状の模様と区別することができない。したがって、引用意匠の放射状の模様は、そのように解することを妨げる特段の事情が認められない限り、少なくともカット模様である場合を含む、と解するのが相当である。
原告は、引用意匠の放射状の模様がカット模様ではなく、線状に描かれた模様であると解すべき特段の事情として、@略逆四角錐状の周側面が本願意匠のように隆起しておらず平坦面であること、A底面視において「四つ足星形様」の放射線模様の中央に十字線を有しないこと、を挙げる。
 しかしながら、甲第2号証の1ないし6によれば、本願意匠及び引用意匠に係る物品である装身用玉(宝石など)の分野においては、底面視において周側面が平坦面のように図示されている場合であっても、そのことは、必ずしも、その面が平坦面であることを意味しないことが認められる。例えば、登録第726704号意匠公報(甲第2号証の1)においては、別紙図面1記載のとおり、底面図記載の四つ足星形の四つ足の先端から中心にかけては、線が引かれておらず、同部分は、平坦面のように図示されている。しかし、同図面記載の正面図によれば、上記底面図において平坦面のように図示された部分は、中央(別紙図面2の底面図の点線部分)が隆起していることが明らかである。そうすると、引用意匠の略逆四角錐状の周側面が平坦面のように図示されていることから、直ちに、実際にも平坦面であって、カット面が形成される余地がなく、そこに記載された模様はカット模様ではあり得ない、との結論を導くことはできないというべきである。
原告は、引用意匠は、底面視において「四つ足星型様」の放射線模様の中央に十字線を有しないことから、そこにおける放射線模様はカット模様ではありえない、と主張する。しかしながら、原告の主張が成り立つためには、本願意匠及び引用意匠に係る物品である装身用玉(宝石など)の分野においては、四つ足星形様の放射線模様をカット模様として図示する場合には必ず、放射線模様の中央に十字線が描かれており、図面上で省略されることはない、ということが認められなければならない。原告が提出した登録第726704号、第726714号、第726714号の類似1、第1011711号、第1011712号、1110529号の各意匠公報(甲第2号証の1ないし6)には、いずれも四つ足星形様の放射線模様の中央に十字線が描かれていることが認められるものの、これら6件の意匠公報の記載だけでは、上記の点を認めるには足りないというべきであり、他にこれを認めるに足りる主張、立証はない。
原告の主張は、採用することができない。
(2) 以上述べたところによれば、引用意匠には少なくとも周側面上の放射線模様がカット模様のものが含まれると解することができる。この意味において、審決が引用意匠の周側面上の模様をカット模様であると認定したことに誤りはない。
原告の主張は、採用することができない。
2 取消事由2(類否の判断の誤り)について
(1) 原告は、本願意匠及び引用意匠に係る物品である装身用玉においては、カットは光を複雑に反射させるため、周側面側のごくわずかなカットの違いであっても、意匠全体の美感に与える影響が大きく、全く異なる印象を与えるものであるのに、審決は、この点についての差異点を過小に評価し、共通点を過大に評価した結果、両意匠の類否の判断を誤った、と主張する。
しかしながら、装身用玉において、周側面側のカットの違いによって、光の屈折や反射が異なるとしても、光の屈折等による効果は、光が自然光であるか人工光であるか、どのような角度から見るかなどによって異なり得るものであることは自明のことである。本件全資料を検討しても、カットの違いによる光の屈折等の効果の違いをどのような条件のもとで把握し、比較するかについての基準があることを示す証拠は見当たらない。このような事情の下では、カットの違いによる効果の違いを類否判断に当たって、重視することはできないというべきである。原告の主張が、比較の対象となる両意匠の間にわずかでもカットの違いがあれば、原則として類似性を否定すべきであるとの主張であるとするならば、採用することができない。
上に述べたところによれば、両意匠のカットの違いが類否判断にどのような影響を及ぼすかは、意匠登録出願の願書に添付した図面ないし意匠公報に記載された図面に記載されたところを基準に判断するほかないというべきである。
このような観点からみるならば、審決が、本願意匠と引用意匠との差異点の一つ(差異点(イ))として挙げた「本願意匠は、略逆四角錐状の周側面につき、各々扁平な略変形三角錐状に隆起させ、その頂点側(下方側)の両側面に、放射状のカット模様を表しているのに対し、引用意匠は、略逆四角錐状の周側面を全て平坦面とし、その頂点側(下方側)に、正面視「V」の字状のカット模様を3本表している点」(審決書2頁13行〜17行)につき、「両意匠に共通する、特に、「正面視略弓形状の『太鼓橋様』の膨出面を形成し、また、底面視において、その放射状のカット模様全体が、いわゆる略『四つ足星形様』に表われた態様」に包摂される程度の僅かな差異といえ、その類否判断に及ぼす影響は、微弱なものといわざるを得ない。」(審決書3頁3行〜7行)と判断したことに誤りはない、というべきである。
(2) 原告は、審決は、本願意匠と引用意匠との差異点の一つ(差異点(ロ))である、「本願意匠は、正面図及び右側面図において、放射状のカット模様の合流部に垂線が表れ、それが底面視において、「四つ足星形様」のカット模様の中央に十字線として表れているのに対し、引用意匠には、そのような十字線は表れていない点」(審決書2頁17行〜20行)について、本願意匠は、上記十字線を有することから、明らかにカット模様であるのに対し、このような十字線が表われていない引用意匠は、線状に描かれた模様を表しているものであるから、この差異点を微弱なものとすることはできない、と主張する。
しかしながら、十字線の有無にかかわらず、引用意匠における放射状の模様をカット模様と解することができることは、前記1で説示したとおりである。
原告の主張を採用することはできない。
(3) 審決は、本願意匠と引用意匠との差異点の一つ(差異点(ハ))である「膨出面について、本願意匠は、平面視縦方向に8分割した縦線模様が表われているのに対し、引用意匠は、この点が不明である点」(審決書2頁20行〜22行)について、装身用玉の美感を左右する上面部(膨出面)の形状につき、引用意匠のそれが不明なため、本願意匠のそれとの比較ができないにもかかわらず、引用意匠の上面部の表面形状を単なる推察により本願意匠とほぼ同様の模様が表されているものとした上で、両意匠の類否判断をした、と主張する。
しかしながら、審決は、引用意匠には、膨出面の模様が明示されていないものの、本願意匠におけるような膨出面の線模様は、本願意匠登録出願前に公知のものである上、引用意匠の図面全体を総合すると、本願意匠とほぼ同様の模様が表されていると推認した上で、本願意匠との類否判断を行ったものであって、引用意匠の膨出面の模様が全く不明なまま根拠のない単なる推測に基づいて判断したものでないことは明らかである。そして、審決の行った上記推認が引用意匠の認定として正当なものであることは、乙第1ないし第4号証により明らかである。原告の主張は、審決の正しい理解に基づかずになされたものであるというべきであるから、採用することができない。
(4) 上述のとおりであるから、両意匠が類似するとした審決の判断に誤りがあるとは認められない。
3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき理由は見当たらない。
〔研  究〕
1. 宝石類のカット面を表現するための図面の作成に、その宝石が透明のものにあっては、カット面を形成する周囲の稜線に墨入れした線を引かなければ、そのカット面のかたちを看者は把握することができないことは言うまでもない。したがって、意匠の出願に際して出願人は、多角面体から成る宝石のカット面の周囲に黒い線引きをせざるを得ない。しかし、もし誤解されるおそれがあるというのであれば、写真又は現物見本で提出しなければならない。
 ところが、本件意匠の出願人は、引用意匠の周面上の模様を表わした線はカット模様を表わしたものではなく、線状に描かれた模様であるとあえて決めつけ、これとカット模様を表わした本願意匠とは別異のものであると主張した。そして、出願人は、この違いを前提に、本願意匠は登録すべきであるとする主張に終始した。
2. このような図面による意匠の表現法がからんだ類否論議は珍しい事案であるから、裁判所も苦労しただろうが、やはり常識的な論理によって常識的な判断をしたといえる。
 なお、図面の不一致問題で、意匠がまだ完成していないとか、非類似とかが争われた事案はあるが、この問題は専ら意匠登録後における権利行使時に起る。しかし、裁判所は図面の不一致について、必ずしも原告有利に善解してくれるとは限らないから、図面は最初から正確に表現したいものである。そして、権利行使に支障のないようにすべきである。

[牛木理一]