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出願意匠「発光ダイオード」拒絶審決取消請求事件:東京高裁平成13年(行ケ)411号平成14年7月30日判決(18民)<棄却>

〔キーワード〕 
審決添付図面の過誤、意匠図面の要旨、実用新案の図面、図面記載の省略、物品の技術的必然形態
〔事  実〕
 原告(東芝)は、平成4年12月17日に出願した特許出願を分割した新たな特許出願を、さらに平成9年12月25日に意匠登録出願に変更したが、平成10年10月9日に拒絶査定を受けたので、不服の審判請求をした。しかし、平成13年7月25日に請求不成立の審決を受けたので、審決取消の審判を請求した。

 

〔判  断〕

 

1. 取消事由1(本願意匠の形態の認定の誤り)について
(1) 本願意匠の出願は、出願当初の願書の記載及び願書添付の図面に示すとおりにされ、その後に、平成10年2月9日付け手続補正書によって添付図面及び願書の記載について補正がされていることが認められる。
 原告は、審決が本願意匠の形態として添付した審決書添付別紙第1の図面 が、上記手続補正書提出前の図面であることから、審決の本願意匠の形態の認定は、この手続補正書を看過したもので、誤りである旨主張している。
 確かに、上記認定によれば、審決は、その審決書を作成するに当たり、上記手続補正書による補正後の図面ではなく、補正前の図面を誤って添付したことが認められる(このことは、被告も自認するところである。)。
 しかし、このように審決が本願意匠を現す図面として誤って補正前の出願当初の願書添付の図面を添付したとしても、上記手続補正書は、もともと出願当初の願書及び添付図面の要旨を変更するものとは認められず(このことは、当事者間に争いがない。)、本願意匠の構成態様を実質的に変更するものとは認められないから、審決書に補正後の図面ではなく、補正前のものを添付したという過誤のみでは、直ちに審決がした本願意匠の要旨の認定に実質的な影響を及ぼすものということはできず、審決が本願意匠と引用意匠のそれぞれの構成態様を認定、対比してする両意匠の一致点及び差異点の認定に誤りがない場合には、その過誤は、審決の結論に影響を及ぼす違法がないものとして、審決の取消事由にならないものと解すべきである。
(2) これを本件についてみると、審決が本願意匠と引用意匠の形態を対比して、それぞれの構成態様の一致点及び差異点として認定したところ(審決書1頁14行ないし2頁11行)には、何ら誤りはないものと認められるから(原告は、審決がした両意匠の一致点及び差異点の認定につき、引用意匠のリード線が審決認定のとおり延設されている点についてのみ争い、本願意匠の構成態様に関しては争わないものであり、また、審決がした引用意匠のリード線に係る認定に誤りがないことは、後記2に判示のとおりである。)、審決が審決書の作成に当たり上記の補正前の図面を誤って添付したことは、審決を取り消すべき事由には該当しないものと認められる。
(3) 以上のとおり、原告の取消事由1は、理由がない。
2. 取消事由2(引用意匠の形態の認定の誤り)について
(1) 原告は、審決が引用意匠とした引用公報(公開実用新案公報平成2年第52463号)記載の第2図、 第3図及び第5図の発光ダイオードには、いずれもリード線の記載がないにもかかわらず、審決が、図面上、同第1図に示されたリード線を省略したまでのものであるとして、引用意匠について第1図に示されたリード線を有するものとして認定したこと(審決書1頁9行ないし12行)は、誤りである、また、かかる図面を引用意匠とすることは、引用意匠としての適格性を欠くことになる旨主張している。
(2) しかしながら、一般に、実用新案公報は、意匠公報とは異なり、技術的思想内容を表した文献であり、そこに掲記される図面は、技術的思想、技術的事項を端的に表すのに十分な表現方法を採用するものであるから、例えば、複数の実施例を図示するに当たり、共通する構成部分については、一つの実施例の図面のみに記載して、他の実施例においてはその記載を適宜省略したり、物品の全体の構造を示す図面に現した構成部分の一部を適宜省略して、部分構造を図示するという手法は、慣用される表記方法であり(乙第13、第14号証参照)、その物品に係る当業者も、このことは当然のこととして認識していることは、明らかである。
 そして、甲第2号証によれば、引用公報には、考案に係る発光ダイオードについて、審決書添付の別紙第2の第1図のとおりの図面が、「第1図」として記載され、発光ダイオードの本体の他に、半導体チップ及びリード線が記載されており、その説明として、「第1図は本考案に係る発光ダイオードの一実施例を示す断面図」であると記載されていること、引用意匠に係る第5図については、「第5図は本考案の他の実施例を示す断面図」と記載されており、本体及び半導体チップは記載されているが、リード線の記載は省略されていることが認められる。この引用公報の記載内容と、本願意匠に係る発光ダイオードの物品において、リード線は必須の構成要素であることが顕著な事実であることを併せて考慮すると、引用公報に接する当業者は、引用意匠に係る引用公報の第2図、第3図及び第5図について、発光ダイオードのリード線の構成態様の記載が省略されていて、図示されていないものの、当然に、これを第1図に記載された態様のものとして補って把握するであろうことは、明らかである。
 したがって、審決が、引用意匠として、引用公報の第2図、第3図及び第5図の記載に第1図に示されたリード線を補って認定して、かかる形態を引用意匠としたことに何ら誤りはなく、また、審決の引用意匠の形態の認定に誤りはないものと認められる。
(3) 以上によれば、原告の取消事由2の主張も、理由がない。
3. 取消事由3(本願意匠と引用意匠との類否判断の誤り)について
(1) 原告は、審決が本願意匠と引用意匠の一致点及び差異点として、いずれも、引用意匠に引用公報の第1図のリード線が示されたものとして認定したことについて、明らかな誤りがある旨主張しているが、この原告の主張が採用し得ないことは、前記2に判示したとおりである。
(2) 全体的考察における類否判断について
ア. 原告は、仮に引用意匠のリード線について審決が認定するとおりに認められるとしても、審決が本願意匠と引用意匠とに共通するとした基本的構成態様は、本願意匠と引用意匠にのみ共通するものでなく、発光ダイオードの意匠において普通に認められるものであり、また、技術的必然形態からもたらされる当然の形態であり、看者により重視されないから、本願意匠と引用意匠との類否判断において格別重視すべき部分ではない旨、これに対して、両意匠間で認められる具体的構成態様の差異点は、それぞれの意匠の特徴を形成するものであって、類否判断において重視されるべき部分である旨、それぞれ主張している。
イ. しかしながら、審決が認定する本願意匠と引用意匠に共通する基本的構成態様(審決書1頁15行ないし2頁1行)についてみると、証拠によれば、本願出願前に、発光ダイオードの「本体」の形態として、本願意匠及び引用意匠のように「平面視長円形状で、上方先端部を正面視略半円弧状で側面視穏やかな円弧状とする凸曲面状に膨出させた略扁平長円柱体」とする構成態様とは異なる形状のものが、種々あることが認められ、その中でも、円柱体状又は角柱体状の形状のものが一般的であり、数多く見られることが認められる。
 上記認定事実によれば、本願意匠及び引用意匠に共通する基本的構成態様として審決が認定した「平面視長円形状で、上方先端部を正面視略半円弧状で側面視穏やかな円弧状とする凸曲面状に膨出させた略扁平長円柱体」とする「本体」の形状は、原告が主張するように、発光ダイオードにおける技術的必然形態とはいえないものであることが明らかであるばかりか、発光ダイオード物品の意匠において、主要な部分を占め、その特徴を基礎づける基本的な構成となり得るものであると認められるから、この共通点を凌駕するような特徴的な差異点が認められない限り、看者に両意匠について、強い共通感を与えるものであると認められる。
 また、本願意匠と引用意匠の「リード線」が、いずれも本体の「下面から2本の細いリード線を間隔を保持して垂直に延設した」ものであるという審決が認定した両意匠に共通する構成態様(審決書1頁末行、2頁1行)については、前掲各証拠によれば発光ダイオードの意匠において普通に見られるものではあるが、上記「本体」の基本的構成態様と併せて、発光ダイオードの物品の形態全体にかかるものとして意匠全体の基調を形成し、看者に両意匠の共通感を与えるものということができる。
ウ. 次に、本願意匠と引用意匠の差異点についてみると、両意匠に審決認定の差異点(1)ないし(3)(審決書2頁2行ないし11行)があること自体は、原告は争っていない(原告は、審決が認定した差異点(3)に関して、引用意匠におけるリード線の構成について前記2のとおり争うにすぎず、原告が本訴において主張する差異点(前記第3の3(3)ウ(イ)(本判決書7頁、8頁)の(a)ないし(c)の点)も、審決が差異点(1)ないし(3)として認定した点について、順序、表現等を変えて、別に整理し直したものであり、同様の趣旨のものということができる。)。
(ア) 原告は、審決が認定した差異点(1)「本体の平面視直円形状において、本願意匠は、やや細長い楕円形状であるのに対して、引用意匠は、両端部を円弧状とするやや細長い長円形状である点」(これは、原告主張の上記差異点の(b)、(c)に概ね相当する。)に関して、「本体」の周側面ないし上面の形態の相違について、類否判断における要部として評価されるべきである旨主張している。
 しかしながら、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本願意匠のように、「本体」を平面視やや細長い楕円形の構成態様とする発光ダイオードは、広く知られていたことが認められ、この周知の平面形状の本体の周側面の形状として、本願意匠のように、平面視やや細長い楕円形のものを、先端部にかけて、正面視略半円弧状で、側面視穏やかな円弧状として凸曲面状に膨出させて柱状とする構成態様のものは、当業者が通常採用する設計事項のものとして当然存在しており、広く知られていたことが推認されるから、この形状の構成態様は、本願意匠独自のものではなく、看者が殊更注視するものではないものと認められる。
 そして、本願意匠に係る「発光ダイオード」の物品は小さなものであり、その「本体」として種々の形状がある中で、本願意匠と引用意匠とは、上記イのとおり、平面視長円形状として、上方先端部を凸曲面状とするなどの基本的な構成態様が共通しており、看者に強い共通感を与え得るものであることを併せて考慮すると、本願意匠と引用意匠との上面ないし周側面における具体的な構成態様における差異は、それらの共通する範囲内での微差にすぎず、看者に与える印象は微弱なものであると認められる。
(イ) また、原告は、審決が認定した差異点(2)「本体の構成比において、まず、側面視横幅に対する高さの比率において、本願意匠の方が引用意匠よりその比率がやや小さい点、また、側面視横幅に対する平面横幅の比率(厚み)において、本願意匠の方が引用意匠よりその比率が小さい点」(これは、原告主張の上記差異点の(b)に概ね相当する。)に関して、本願意匠が「薄く低い」態様をしているのに対し、引用意匠は厚みがあり「ずんぐりむっくり」した形態を呈しており、看者は格別の注意を払いその差異に注目することとなり、この差異点は類否判断に極めて大きな影響を与える要部として評価されるべきであるとも主張している。
 しかしながら、被告が主張するとおり、この種物品において、本体の高さ、厚みは、技術的な観点等から多少異なるものが普通に見受けられ(乙第6号証参照)、本願意匠の本体の高さ、厚みも格別なものといえず、両意匠の差異は、通常の高さ、厚みの範囲内での差異にすぎないものと認められるから、看者がその差異に注目をするとはいえないものである。
(ウ) さらに、原告は、審決が認定した差異点(3)「本体から外方へ突出したリード線の態様において、本願意匠は、本体下面の短手方向から2本突出しているのに対して、引用意匠は、本体下面の長手方向から2本突出している点」(これは、原告主張の上記差異点の(a)に相当する。)に関して、リード線の延設される向きの相違が類否判断に与える影響は大きい旨主張している。
 しかしながら、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本願意匠のリード線のように、発光ダイオードの本体下面の短手方向から2本突出しているというリード線の構成態様は、本願意匠の出願前に広く知られていたことが認められ、本願意匠独自のものであるとは到底認めることができず、本願意匠を特徴づけるものとして看者の注意を惹くものとみることは困難なものであること、リード線は、小さな発光ダイオード物品の構成の中で、更に本体に比べて小さいものであることからすると、当該リード線の向きの構成態様は、本願意匠と引用意匠のリード線が、いずれも本体の「下面から2本の細いリード線を間隔を保持して垂直に延設した」ものであるという審決が認定した両意匠に共通する基本的構成態様(審決書1頁末行、2頁1行)に包摂される差異にすぎず、意匠全体に及ぼす影響は微弱なものであると認められる。
エ. 以上認定の本願意匠と引用意匠の共通する基本的構成態様と差異点である具体的構成態様を総合して検討すれば、審決が「共通する態様が類否判断を左右するところといわざるを得ない。」とし、差異点は「いずれも微弱なものであるから、類否判断に影響を及ぼすものとは認められない」(審決書2頁12行ないし20行)とした判断には、誤りがないものと認められる。
(3) 以上のとおり、審決がした本願意匠と引用意匠との類否判断について、原告が誤りであるとして主張する点は、いずれも採用することができず、審決が本願意匠について引用意匠と類似するとした判断に誤りはない。
 したがって、原告の取消事由3も、理由がない。
〔研  究〕
 当業者であれば、物品の機能上必然的に具備される構成要素を含む基本的形態は、意匠の創作の要部の把握から一応捨象して見られるように、引用図面がそれ自体、詳細にわたって完成された図面でなくても、他の図面から補ったり、通常の知識をもって見れば、独立した公知意匠として把握できるものと裁判所が認定したことは、「発光ダイオード」という物品に係る意匠の類否判断としては納得できるといえよう。 
 この場合でも、ダイオードの形状が類似するか否かの問題は別であり、引用意匠に対して出願意匠に客観的創作性(新規性)が認められるか否かが次に考えられることになるが、この程度の形状の違いでは、物品自体の大きさの点も考慮すれば、類似すると見られても仕方ないだろう。  
 しかし、こんご、同じような拒絶引用意匠のケースが起こった場合、当業者の立場から、その引用の妥当性については、ケースバイケースで考えてみるしかないだろう。
 

[牛木理一]