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出願意匠「金網」拒絶審決取消請求事件:東京高裁平成13年(行ケ)187号平成14年3月28日判決<棄却>

〔キーワード〕 
四つ目編み、広く知られた形態(広知/周知)、創作容易性

〔事  実〕

(審決理由の要点)
 本願意匠は、縦横それぞれ6本の細幅な相対する帯板を平行に、それぞれ平行する帯板をほぼ等間隔に編組みしていわゆる「四つ目編み」とし、各交差部は、編組みしたときに上側を構成する部位を、帯板の厚さを高さとして扁平なほぼ倒「コ」の字状に折り曲げて、正面側が四角形状を呈する隆起部分とし、各隆起部分の内側に下側の帯板を嵌合し、背面全体を平担な態様とした織金網である。
これに対し、審査において「本願意匠は、複数本の帯状体を縦、横に組んだ周知の四つ目編み(例えば、書籍「木竹工芸の事典」第491頁にもみられる。)にし、その重合部(交叉部)の一方を単に凹状にしたとするまでのものにすぎないから、出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであり、意匠法第3条第2項の規定に該当する。」として平成11年4月15日拒絶の理由を通知し、その後平成11年8月20日拒絶の査定がなされた。
 原告(審判請求人)は、審判請求の理由として、本願意匠は、通常使用する丸鋼線を、帯板状の鋼材に置き換えた点、帯鋼材を単に四つ目編み状に編み込むだけでなく、各帯鋼材を嵌め合い構造にして、交差部に四つの四角い隆起部を形成した点において創作性の高い二段階の変形が成されており、周知の四つ目編みの単なる商業的変形ではなく、容易に意匠の創作をすることができたものではないから、意匠法第3条第2項の規定には該当しない旨主張した。
 そこで、本願意匠を意匠全体として考察すると、まず、金網の素材について、この種物品分野においては、本件出願前より、金網の素材として線材ばかりでなく、板材のものも使用することが広く知られていることは、例えば、昭和59年11月5日特許庁総合情報館受入れの理工学社1984年4月25日発行の「建築用語図解辞典」の「かなあみ(金網)」に「針金又は薄板鉄を加工した網」の記述があることからも、また、昭和63年1月9日特許庁発行の公開実用新案公報、実用新案出願公開昭和63年2531号、考案の名称「平角線による金網」の第1図及び第3図に帯状板を使用して金網を製造する考案が記載されていることからも明らかである。
 さらに、板様のものを使用して、四つ目編みに編組みをすることも、この種物品分野に限らず、例えば、笊、篭等の各種竹製品にみられる幅の広いいわゆる「へね竹」を素材として亀甲編み、四つ目編み等の編組みをすることが広く知られているところである。
 したがって、金網の素材として帯板を使用して、四つ目編みに編組みしたことを、本願意匠のみの特徴とすることができず、この点に意匠の創作があったものと認められない。
 次に、金網の交差部分について、本願意匠は、隆起部分が四角形に表された点については、該部分の折曲げを垂直としたことによるものであって、この種物品に限らず隆起部分を形成するに当たり、素材や太さ等を勘案して折曲げ部分を垂直に形成することもしないことも、ごく普通に行われていることであり、また、各隆起部分内側に、該下側の帯板が嵌合して、背面全体を平担とすることも、この種物品分野に限らず、一方の凹部に他方の素材を嵌め込むという普通に見られる周知の態様であつて、当業者であれば容易に想到できる程度の方法にすぎないから、この点についても格別の創作があったものとは認められない。
 そうすると、本願意匠について、前記創作性に係わる原告のいずれの主張も採用することができず、本願意匠は、織金網の素材として細幅な帯板を使用し、これを広く知られた四つ目編みに編組みしたものといわざるを得ない。
 以上のとおりであるから、本願意匠は、出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであると認められる。
 したがって、本願意匠は意匠法第3条第2項に規定する意匠に該当し、意匠登録を受けることができない。

 

〔判  断〕

 

1 原告が取消事由として主張するところは、要するに、本願意匠は以下の点において、従来の金網にはない斬新な、装飾性の極めて高い、新しい金網であり、意匠法第3条第2項に該当しないとするものである。
@「四つ目編み」ではない。
A曲線が存在しない。代わって直線だけで構成してある。
B一定間隔で素材の幅に変化が見られる。
C特異な隆起部が一定間隔で存在する。
D表面と裏面の形状が相違する。
2 上記@の点について判断するに、乙第2号証(「竹編組デザイン資料」(通商産業省工業技術院産業工芸試験所 工芸連合部会編組研究会。昭和42年5月26日特許庁意匠課資料係受入)の第13頁に表された「四つ目」の図、乙第3号証(「建築大辞典第2版」(株)彰国社1993年発行)の第1708頁の「よつめあみ(四つ目編み)」の項の記載、及び乙第1号証(審決引用の「木竹工芸の事典」((株)朝倉書店1985年発行)第491頁によれば、四つ目編みとは、縦横の複数本の編竹を平行に相対し、その間隔を等しくして編んだものをいい、竹製品の基本的な編み方の一つとされるものであることが認められる。
このように、四つ目編みの形状あるいは模様は、従来から様々な分野において、応用することが広く知られていることが明らかであり、乙第4号証(実開昭56-87235号)の第1図ないし第5図、及び乙第5号証(実開昭59-109827号)の第1図ないし第4図並びにこれに関連する記載によれば、金網や鋼材等の物品分野においても、四つ目編みの形状あるいは模様を応用することが、ごく普通に行われているものと認めることができる。
本願意匠は、意匠に係る物品を「金網」とするものであり、その形態から素材として金属製の帯板を用いていることが明らかであるが、この種物品の属する分野においては、使用の目的に応じて素材を適宜変更することが、従来よりごく普通に行われているところであることは、審決で示されているように、「建築用語図解辞典」の241頁(甲第1号証の3)の「かなあみ(金網)」の項の記載(針金又は薄鉄板を加工した網)及び実開昭63-2531号(甲第1号証の4)の第1図と第3図及びこれに関連する記載(帯板を使用して金網を製造する考案が記載されている。)によって、認めることができる。したがって、金網の素材として金属製の帯板を用いたことに、本願意匠の格別の特異性があるとはいうことはできない。
そうすると、本願意匠は、縦横の複数本の帯板を平行に相対し、その間隔を等しくして編んだものであって、金網とするために、ありふれた手法により、帯板を素材に用いて周知の四つ目編みに基づいた編み目を形成した程度のものということができ、その全体の構成、その編まれた態様をみれば、周知の四つ目編みに基づいたものと認識するのが自然であって、本願意匠は四つ目編みではないとする原告の主張は、理由がない。
3 前記1のAの曲線か直線かの点について判断するに、本願意匠は、素材の厚みは薄く、縦横材が密着して交差している態様のものであり、交差部は、形態全体から観ると、その部分を特に注視してみた場合にようやく気付く程度であって、格別目立つものとは認め難い。そして、本願意匠の交差部はより直線的な態様のものであるということができるが、乙第6号証(実開昭55-23751号)の第2図ないし第4図及びこれに関連する記載、並びに乙第7号証(実開昭55-60234号)の第2図ないし第5図及びこれに関連する記載によれば、曲線的な態様のものも直線的な態様のものも既に知られていることが認められるのであり、本願意匠の交差部の態様は、ごく普通に知られた範囲内の一態様の範囲内のものであると認めることができ、この態様において、本願意匠が顕著な特徴を有するものということはできない。
4 前記1のB及びCの素材の幅及び隆起部の点について判断するに、本願意匠の正面図において、縦材と横材が交差する部分ごとに素材の幅に変化が見られるが、これは、作図上における線の表現であり、縦横材の幅そのものに変化はないことが、本願意匠の「分解した状態の参考図」から明らかである。したがって、本願意匠のその態様は、顕著な特徴を有するとはいい難く、格別創作を必要とするほどの特異性はない。
 原告は、本願意匠の交差部に別の鋼板を取り付けたような印象を与え、また、卍模様あるいは風車のような模様を表出させて格子模様+卍模様の印象を与えるなどとし、交差部に特異な隆起部が観られるとも主張するが、この主張は、上記のような交差部を別の視点から述べたものにすぎず、本願意匠に格別創作を必要とするほどの特異性がないとの上記判断を左右するものではない。
 原告は、本願意匠について、素材間の間隔が素材より広い旨主張するが、これは、金網の目の大きさに関するものであり、証拠によれば、これを大きくしたり小さくしたりすることは使用の状況に応じて適宜行われるところであるものと認められる。本願意匠の金網の目の大きさが、この適宜行われるところを凌駕して顕著な特徴のある大きさともいうことは到底できず、この点において格別創作を必要とするほどの特異性はない。
5 前記1のDの表面と裏面の形状の点について判断するに、原告は、本願意匠について、表面と裏面の形状が相違する旨主張するが、本願意匠のように、交差部の一方側を隆起状に他方側を平担状とすることは、金網の物品の属する分野において、格別創作を必要とするほどの特異性はないものと認められる(ちなみに、証拠に、表面が隆起状で裏面が平坦状である態様が表されていることが認められる。)。
6 その他、本願意匠には、周知形状から容易に創作することができたものでないとすべき形態上の特異性は認めることはできず、その出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであり、意匠法第3条第2項に規定する意匠に該当し、意匠登録を受けることができないものというべきであり、これと同旨の審決の判断に誤りはない。

〔研  究〕

1.意匠法3条2項が規定する創作力の成立要件は、平成10年1月1日施行の改正によって、「日本国内において広く知られた形状、・・・」から、「日本国内又は外国において公然知られた形状、・・・」と変更されたことから、創作力欠如の要件が緩くなったと評されている。それは、「広知(周知)」から「公知」への要件概念の変更に見られるところである。
 ところが、ここに「公知」とはいっても、その直前の3条1項に規定する公知は、2つの公知の場合を予想して規定していることをよく考えなければならない。即ち、1号は「公然知られた意匠」という既に事実上公知の意匠の場合を規定し、2号では「頒布刊行物に記載された意匠」という刊行物上公知の意匠の場合を規定しているから、この二つの公知の概念は、内容が別異のものであることを、われわれはまず承知していなければならない。
 すると、特許庁発行の特許公報や実用新案公報などに掲載されている図面は、2号の刊行物公知に属するものといわれるべきであるが、事典や教科書のような一般的な内容を記述しているような刊行物にあっては、前記公報とは違って特殊な文献ではないから、1号の事実上公知に属するものと解することは容易にできるだろう。しかし、3条2項の規定の解釈には、いまだ法理論的に解明した裁判例はないから、今後の蓄積に待つことになろう。

2.ところで、本件意匠は、いわゆる四つ目編み模様から成る金網であったが、同様の模様の構成は木竹工芸事典などにも広く紹介されていることから、意匠法3条2項の創作力として拒絶査定されたことは、やむを得ないといえるだろう。素材は両意匠にあっては異なるものの、具体的な製品についての意匠ではなく、基礎材料として見られる物品の模様であってみれば、審決も判決もその判断に誤りはないといえよう。
 しかし、具体的な製品間の関係となると、同様の考え方が通用するとは限らないから、ケースバイケースで考えて判断することになる。
 したがって、特許庁においては、1項1号と2号との公知の意味の違いがよくわかって審査や審判をしているのか疑義のある事案が見受けられるから、こんご意匠法3条2項の適用の可否をめぐる審決取消訴訟事件は増加するだろう。
 なお、この問題を考えることは、意匠の類似とは何かを考えることが改めて問われていることを、われわれは知らなければならないのである。

[牛木理一]